●リプレイ本文
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「よくもせっかくのサーカスを! 絶対許さないんだから!」
普段とはまったく違った表情でお怒りのご様子のララ・スティレット(
gc6703)。そういいながらも地団駄を踏んでいるかのように思われるその口調は別人のようである。どうやら本人もこのサーカス自体を楽しみにしていたようなのでそのお怒りも特別、なのかも知れない。
「楽しいサーカスがこれではあんまりですの‥‥」
逆にショボンとしているのがクリスティン・ノール(
gc6632)。彼女もまたサーカスを楽しみにしていた組のようである。さっさとキメラを退治して無事に開幕してほしいものだと願う。
哀れキメラの餌食になったと思われる副団長。その身を案じわずかながらでも生存に望みをかけるのはシュナ・バルシュナ(
gc6590)。実のところサーカスは初めて。意外と危機感のないノンビリとした雰囲気なのだがそれはいつものことらしい。まあ危機感が今一つ表に出ないとでも言おうか‥‥。
「頑張ろうね、泉ちゃん」
声をかけた先には今日のパートナーとなるべく相手である泉(
gc4069)。先ほどから何やらしょいこんでいるのだが‥‥。
ところで。傭兵達にとってまさに憎むべき相手である当の『虎』キメラ。どうやって迷い込んだのかは知らないが、檻から飛び出し、訓練用のテントの中を徘徊中。で、よくみればそんなヤツらの足元にまるで肉の塊のように転がっている元は生きた人間だったようなモノ。そう。あわれ元『副団長』のなれの果ての姿。キメラに食いちぎられでもしたのか、無残に屍を晒し、すでに死臭すら漂い始めているその光景はある意味筆舌に尽くしがたいほど凄惨な殺戮現場のようであり、見るに堪えないもの。その時点ですでにシュナの一縷の望みは絶たれているわけであるが。見れば一回り大きい1頭のその口には生々しい血痕さえ残っているのであった。
急がなければ。すでにそうとは知らぬ多数の観客となるべき一般人が続々とこの公演会場に向かいつつある。そのことが特に気になるウィリ(
gc6720)。相手は4匹のトラ。のんびりとはしていられないのだ。
あらかじめ綿密な手順と作戦を申し合わせて現場へ向かう傭兵。果たして‥‥。
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「サーカス‥‥みんな楽しみに、してるよんに‥‥わるい、こ‥‥っ!」
すでにその手に閃光手榴弾を握りしめている泉。観客に気が付かれる前にキメラを退治したいのだ。その為の閃光手榴弾でもあるのだ。その背中には何故か白い猿の縫いぐるみ、手には二刀小太刀、である。およそ奇妙ないでたちといえばそうであるが。本番用のテントを横目でみやりつつキメラの潜むテントへと向かう。
すでに訓練用のテントの周囲は無人。他の団員はすべて避難が終わっているためだが、その結果テント内部の状況が事前に確認できない。誰か残っていれば内部の状況を確認したかった宇加美 煉(
gc6845)が願っていた通りにはならなかったようであるが、それでも慎重に訓練用のテントに接近する。キメラがテントから外へ飛び出していないことを願いつつ、である。その彼女。シュナに触発されにわかにやる気になったらしいのだが。
本人曰く、『ショック吸収剤』代わりにもなるらしいその上半身の主武装。果たしてその効果のほどはいかがなものか?
「これ以上人が傷つくのを見たくないなら、速攻でいこうよ」
トゥリム(
gc6022)のその思いは誰もがもつ思い。副団長が生きていることはほぼ絶望だと自らに言い聞かせる心境はいかばかりか?それもまた皆の心に響くのか?
そして訓練用テント入口にたどり着く傭兵達。幸いなことにまだキメラは外にでていないようだ。そんなテントに外からバイブレーションセンサーで内部のキメラの様子を確認しようと試みるのはウィリ。ビギナーである自分にとって、今回パートナーを組む黒雛(
gc6456)は頼もしい限りである。よろしく頼むよ、そんな気持ちを心の中で伝える。
すぐに訓練用テント内を落ち着きなくうろつきまわる4匹のキメラの位置を確認し仲間へ伝えるウィリ。それは同時に泉が動くタイミングでもある。‥‥持参した閃光手榴弾がいよいよその出番となる。
「ちょっと‥‥おとなしぃ、しとって、な‥‥?」
安全ピンを抜き、テントの幕を開けるとキメラがいるであろう方向へ向けそれを放り投げるモーション‥‥作動までの時間はわずかだが、その間に対閃光防御、すなわちサングラスなどでその眼を保護する仲間達。
「ウィリさん、おーきに‥‥」
そんな声と共にテントの幕の隙間から内部へ放り込まれる手榴弾。
コロコロコロ‥‥‥‥
それはいい具合にキメラの方向へ転がる。突如外部から転がり込んできた得体の知れないものに思わずビクっとでもしたのか、あるいは多少なりとも好奇心でも持ったのか、何事、という仕草で
注意をひきつけられるキメラ。すると
ドッカアアンンンンンン
まさに眼も眩まんばかりの強烈な閃光があたりを一瞬にして白光の支配する世界に変える。それはキメラの目から視界を奪うにも十分たるものであった。そしてその奪われた視界が少しずつ回復し、ついにははっきりとその視界が開けた時、キメラが目にしたものは‥‥
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閃光手榴弾の間隙を突き、テント内部に突入する傭兵達8名。目を保護している分だけ多少なりともキメラに比べれば視界は確保できている。侵入後直ちに檻の位置を確認、把握する宇加美。ペアを組みそれぞれテント内に突入する傭兵達。
「そういえばハーモナーさんだったのを忘れてましたぁ」
先行するウィリの後ろ姿を目で追いつつ呟く宇加美。その見た目はごついが立派なハーモナーであることを思い出したかのようである。彼女の今日のパートナーはララだが同じようにフォローしたい相手はシュナのようである。
テント内には4匹のキメラと8人の傭兵。新たな餌、でもノコノコやってきたとでも思ったのかキメラ。その牙をむき威嚇しながら舌舐めすりでもするかのように傭兵達をにらみつける。だが目の前のエサ、はキメラにとって少しばかり歯ごたえがありすぎたようだ。
「シュナさん‥‥後ろは、任せよん‥‥よろしゅうに」
背後をシュナに任せ泉が向かう1頭のキメラ。それは明らかに他のキメラより一回りは大きいもの。意図的に彼女が狙ったのだ。
「わるーい、とらさん‥‥ボクが、いーっぱい、遊んだる、さかいに‥‥な‥‥」
出身地は不明だがその口調はいわゆる関西系。二刀小太刀を構えキメラに接近する。そんな彼女を初めこそ威嚇していたキメラだが、覚醒した泉の気迫に気圧されたのかテントを食い破って外へ逃げ出そうとでもいうように背中を見せ飛び出そうとする気配。
「そない、かんたんに‥‥お外、出させやんて‥‥な」
行く手を阻むように回り込みテント内へ押し戻す。テントを壊されて外へだけは逃したくない。苦無で牽制しつつ常に自分たちに注意を向けさせるように動く泉。
「とらさんの、お相手は‥‥ボク、やで‥‥」
そんな彼女の背後から大声が‥‥。
「焼きトラちゃんになれ〜〜」
テント内部の状況から、すでに副団長の絶命を知ったのであろうシュナ。たぶん彼女の視界の先に、その結果が見えていたのかも知れない。‥‥そしてその結果に対する怒りがより激しい攻撃になってキメラに向けられるのだ。練成強化を与えた泉ともども自身は超機械でキメラの相手。テントや機材には注意しつつ、である。サーカス団の大事な財産である。
‥‥黒雛とウィリが向かったキメラは泉たちの相手より多少サイズが小さいキメラ。だが小さいとは言っても優に1.5mはありそうである。やはり単なる獲物、とでも思ったのか威嚇しつつとびかかってこようとする。
(こいつらか‥‥)
恐れるに足らない相手、とでも思ったのか黒雛。相手を逆に威圧するかの如く立ちはだり、相手の注意を引きつつ牽制攻撃。やはりテントの外に逃がさないためである。
「甘いな」
さらにその動きはキメラを翻弄するもの。その素早い動きにキメラの牙攻撃は幾度となく空を切る。
一方。先ほどの閃光手榴弾が炸裂するほんの一瞬前に、テント内に飛び込んだウィリ。その動きに注意をひきつけられたキメラが今まさに彼らの目の前にいるキメラである。
味方や敵の動きは常に注意深く確認。とくにキメラがテント外に出ていくことのないように、である。そればかりではない。このテント内にふいに外部から一般人が何も知らぬまま侵入してこないとも限らないのでそれにも注意をはらうウィリ。その手にしているのは盾と棍棒。銃は使わない。それはテントを破壊する危険もあるし、味方への誤射だってあるからだ。ここは開けた空間ではなく狭いテント内である。リスクは負いたくはないのだろう。
黒雛の作った死角を巧みに利用し、キメラに接近するウィリ。ハーモナーである彼のスキルは相手にある程度接近しなければ発動できないのでどのみちリスク覚悟で接近するのだ。そしてギリギリまで接近するや『呪歌』をキメラに向かって詠唱する。それはまるで不思議な呪文のようにキメラの行動力を奪いやがて麻痺させるのだ。盾と棍棒で相手を捌きつつなんとか接近に成功した結果である。
そんな彼らと左右対称になるかのように展開する残りの2組の傭兵達。そして彼らの目の前にはそれぞれ対峙する2頭のキメラがやはりそのどこからか湧き出てきた獲物を屠らんとばかりにしていたのであるが‥‥
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ペアを組むクリスティンと共にテント内に突入したトゥリム。今まさにキメラと渡り合っている最中である。すでに副団長の絶命を受け入れているかのようなトゥリム。キメラ退治が終わればそのまま副団長の遺品探しを始めるつもりである。
逃がさぬようにキメラを取り囲むように陣取る。トラキメラと対峙中もサーカスにいるであろう他の動物たちの事が少しばかり気になるのはクリスティン。無事に依頼が終わればその後は、と思う。‥‥その狙うはキメラの脚。それはその機動力を奪うため。トゥリムの援護を受けつつ側面から脚を狙いそしてそのまま胴を寸断すべく。相方のトゥリムはといえばクリスティンの背後から援護射撃をしながらキメラを追いつめる。もちろん逃げられないように、である。
さらにその傍らでは宇加美とララのコンビが4匹の中ではもっとも小ぶりのキメラと戦闘中。小ぶりとはいっても優に1mはありそうなのだが。AU−KV装着の宇加美の姿がやけに物々しくも見えたりしているのだが。
「このキメラ! サーカスを楽しみにしていた人たちの代表として、その怒りを!」
いつになく威勢がよく見えるのはやはりお怒りが多分に含まれているせいか。だがハーモナーの彼女、いざ歌う際の声は実に澄んでいて気持ちがいい。しかも落ち着き払っているのだ。相方の宇加美はララの前衛を努めつつかつシュナのフォローができるように適度な距離保ちキメラの注意を引き付けるのだ。彼女もまた狙うはキメラの脚。
「動くとあたらないのですよぉ」
自慢?のその主武装が多少なりとも邪魔な感じに見受けなくもないがそれでも素早い動きでキメラの逃亡を阻止する。仮にキメラに多少食らったとしてもそのショック吸収剤たる主武装のおかげでかなりダメージは軽減できるであろうと思われるのだが。
そんな彼女の後衛に立つララの声がひときわ澄み渡り、キメラに対しての『呪歌』の詠唱が始まる。だが彼女にも降りかかるキメラの攻撃。宇加美の後ろにつくようにキメラに向かう彼女。ウィリ同様、接近しなければハーモナーのスキルは機能させられない。
それは時としてキメラから攻撃を受けることにも。その結果時折途切れる詠唱。だが決定的なダメージは盾とスキルを用いて回避し、再び詠唱を再開する。最終的に麻痺により攻撃の手が止まったキメラに対しては超機械をお見舞いするのだ。
「たぶんこのあたりぃ」
その宇加美が放った一撃はこの小ぶりなキメラに的確なダメージを与えるのである。
こうして。訓練用テントの中を我が物顔に歩き回っていたとらキメラ4匹は、すべて傭兵達の手によってかたずけられたのである。サーカス団にとって貴重な動物が失われることにもなったのだが、キメラ、ということであれば致し方ないところか。
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「間に合ったか?」
大きく肩で息をしつつも、やっと一息ついた表情で確認する黒雛。ほぼ同じくウィリが何かの気配を感じたようである。どうやら気の早い観客の一部がすでにこのサーカスの敷地内にやってきたようである。
するとどこかに隠れていたのか他のサーカス団員が姿を現す。どうやら事の一部始終を見守っていたようなのである。話によればどうやら公演は延期されるらしい。延期が残念そうなクリスティンであるがこの際やむをえまい。犠牲者が出た直後に公演、というのはさすがに無理があるのだ。キメラも無事退治されたのでこうして舞い戻ってきたのだろう。同じく自分も楽しみにしていたララも残念そうな顔をする。
そんなこんなで外が騒がしくなって来た頃、さっきまで活発に動きまわっていたキメラの死体を調べたりテント内を調べたりしているのがトゥリム。テント内に転がっていた元副団長だった人間の亡骸は彼女に連絡を受けたサーカス団の団長と団員によって迅速に外へ搬出されたので、ついでに何か遺品でも探しているのだろう。とふと足元に、トラの調教に使うムチらしきものの破片を見つける。それが無残な形をしているのがこの場所で起こったことの一部始終を物語っているようである。その遺品を丁寧にくるんでサーカス団長の元に届けるトゥリム。やり残したことはない、という表情。だがその内心はやはり無残な死体しか見つけられなかったことへの悔しさがにじみ出ているようであった。
「痛いの痛いの、飛んで行け」
決してふざけているわけではなく、これでも真面目に練成治療に励むシュナ。カスリ傷程度ではあるが効果はある。だがその表情は副団長がすでに手遅れであったことをどこか無念そうに感じているようではあったが。
そんな光景を眺める宇加美の横顔の表情は、見えはしなかった。
ちなみに、延期になった公演は後日改めて開催されたそうである。その招待客の中にララやクリスティンの姿があったのは言うまでもない。そしてそこではキメラではない立派なトラを使った見事なショーが演出されたそうだ。
了