●リプレイ本文
●多少之縁也
宵藍(
gb4961)はふと思う。
赤毛の女に依頼の同行希望で声を掛けられた。依頼自体は受けようとしていたものだったので、特に問題はない。
(「問題はないのだが‥‥」)
「動物、キメラ、殲滅、デス、カ‥‥ガンバリ、マス、ガ‥‥」
サバンナで育ったムーグ・リード(
gc0402)は動物を撃つことに関して罪悪感を抱いているらしく、浮かぬ顔をしている。
「人数少なくて困っているなら‥‥手伝うよ‥‥ええと‥‥うん‥‥。頑張ろう‥‥」
じーっと見つめれられ、緊張している幡多野 克(
ga0444)や、
「‥‥一緒に? 別に構わん」
同行は誰だろうが依頼が何であろうがどうでもいい、というような無機質な感じで即答した赤木・総一郎(
gc0803)に、
「はい喜んで!」
ホイホイ引っかかっている気がする佐渡川 歩(
gb4026)、など‥‥
――何故に声を掛けるのが男ばかりなのか。
いくらか男手も必要だろうとはいえ、女性なら普通は女性にかけるのではないだろうか。
「おーっす、数少ない女同士。宜しくねっ」
唯一応じてくれた女性、八房 太郎丸(
gc0243)が笑顔で快活な挨拶をティリスへ向けても、彼女は『あ。よろしく』程度で簡単に済ませる。
しかし、太郎丸にはそっけなかったというのに男には輝くばかりの笑顔を振りまくティリス。
太郎丸も『‥‥あれ?』と、男性ばかりが多いので首を傾げていた。
(「‥‥どうでもいいか」)
暫くティリスを見ていた宵藍は呆れてしまって、気を揉むのが馬鹿らしくなってきた。
そして、とうとう――
「私の為に集まってくださってありがとうございますぅ〜」
なんて事を言い、ぺこりと頭を下げているティリス。
「まぁ、よくもこれだけ集めたものだね」
依頼は彼女が声をかけてきた人間ですべて埋まったらしい。
秋月 祐介(
ga6378)が感嘆の声を出し、同行する仲間たちの姿をざっと見渡す。
目的の為に演じるティリス。嫌われもするだろうが、賞賛されて然るべきだろうとも彼は思う。
(「尤も、最後まで終わらせるという前提がつくだろうけどね」)
既に数々の人生経験から、彼女のアレは演技であると看破した祐介だった。
「皆ティリスの嬢ちゃんの誘惑に負けたのかねぇ。とか言いつつ俺もその一人なんだが」
ブランディ(
gb5445)が祐介と同じように皆を見つめ『可愛い嬢ちゃんに頼まれりゃ男だったら嫌とは言えねぇよな』と気さくに笑うのだが――
片思いの女性たちよ、どうか安心してほしい。女の魅力に、というのは残念ながら少数なのである。
『色仕掛けで異性をゲット大作戦』は今後恋する女性たちの重要なデータとして必要になるであろう事を予測し、報告官はLHの研究機関に提出しておこうと思う。
「聖戦の勇士として数々の戦いを経験した僕にかかれば、馬キメラなんて相手にもなりません!」
少数派の一員、歩は豪語しつつもティリスに鼻の下を伸ばした笑顔を見せている。
聖戦の勇士というのは嫉妬的な意味での活動なのだが、それはいずれ機会があったら本人から武勇伝を語ってもらうといいだろう。
「‥‥ティリスさんもサイエンティストなんだ」
「はい。そぉですよ〜」
内心『だから何よ!』と思っているティリスに、『僕、運命感じちゃうなー』などと思っている歩。こうして感じた運命の出会いは既に数多。
そうしていた所に聞こえた祐介の声。びくりと視線を向ければ――因縁の眼鏡キャラが。
「ゲエェッ、教授ー!?」
自分(歩)を『ダメだこいつ』という眼で見つめ、早くなんとかしたいと思っている祐介の顔。
「班分けだが、効率を考え、サイエンティストは分散して行動する方が良いと思う」
それに対しては皆も異論なく‥‥いや、歩だけが『さては僕とティリスさんの仲を引き裂くつもりだな!』と猛反発していた。
「‥‥第三者にはそう見えるかね、覚羅」
「いや、全然‥‥?」
話を振られた鳳覚羅(
gb3095)は祐介と歩を見ながら肩をすくめた。
「お知り合い同士、積もる話は後ほどゆっくりと‥‥では待伏せ班、追い立て班と二手に分かれる作戦で。追い立て班は車を使用しますので、早速準備しましょう」
綾野 断真(
ga6621)が割って入り、やんわりとした口調と姿勢で作戦を伝えると赤木と共にジーザリオを準備しに行った。
●追います。
草原で、ざっくざっくとスコップを振るい溝状の穴や針金を張り、罠を作成している待ち伏せ班の面々。
「これで、よし、と‥‥」
出来上がった落とし穴の上へ草などを敷き詰める克。
「ふむ。後は追いこみ班の誘導を待つだけか」
祐介は呟きながら、キメラを追い立てるために彼らがやってくるであろう、ただただ広い草原へと視線を向けた。
追いこみ班から離れた場所。
視界いっぱいに広がる草原をやや離れつつも並走しているジーザリオ二台。
「こちらティリス、異常なしですぅ〜」
まだ馬キメラ(以下馬)は見えず、ドライブ気分ですねぇ〜、と暢気な事を言いながら隣のジーザリオへ連絡を取るティリス。
『了解、デス。コチラ、モ、異常アリマ、セン』
応答をしてからティリスは頷き、運転手のブランディにも声をかけた。
「あちら側の班も、異常なしだそうです〜」
無線を置き、隣にいる断真へ話しかける。
「私もお役にたてるよう努力するので、頑張りましょうねっ」
「ええ。人数も揃っていますし、バランスも悪くありません。油断さえしなければ問題ありませんね」
静かに、かつ優しく応える断真。これが大人の魅力というものだろうか。
「異常が無いのはいい知らせだけどな。手早く終わらせて――」
運転に集中しつつ、ブランディが慌ててバックミラーに映るティリスを見つめた。
「って、嬢ちゃん。身を乗り出しすぎじゃねぇか? 頼むから落っこちねぇでくれよ?」
「でもぉ‥‥綾野さん、ブランディさん。あそこにいるのはキメラです、よね?」
ティリスが示す方向。丁度ジーザリオのやや先。緩やかな斜面の上で4頭の灰色の馬が草を食んでいた。
綾野から笑みが消え、同時に目標を発見したらしい歩が無線で待ち伏せ班にも伝える。
「そんじゃ馬退治だ。お隣さんと連携して、誘導しながら追い立てるぜ!」
『承知した』
ブランディと総一郎が車のスピードを上げて徐々に馬へ近づいていく。馬は此方にやってくる車のエンジン音を聞きつけ、草を食むのを止めて車から逃げるように駆けだした。
両車の荷台からムーグと断真がプローンポジションで狙撃の態勢を取り、すぐに撃てるよう構える。
「‥‥馬、サン‥‥コッチ、デス、ヨ‥‥?」
ムーグがガトリングで大まかな進行方向を作ってから少しずつ調整し、断真は馬が横に逃げようと道を逸れる前に、先読みして威嚇射撃を行い退路を断つ。
その後、運転手と連携を密にとって車の進行方向や軌道を調整。
総一郎は時折瞬時に地図へ眼を走らせつつ、ブランディに無線を通じて、注意すべき部分などを的確に伝える。
『皆さん、頑張ってぇ〜! 私応援してます!』
キャーだとか、頑張れとティリスは黄色い声を上げて彼女なりに応援していた。
『嬢ちゃんにも攻撃に参加してもらいてぇが‥‥』
当惑したようなブランディの声。『落ちるなよ?』と再び注意を向けてくれている。
(「‥‥ティリス、だっけ? 何か‥‥邪魔してるような‥‥」)
宵藍は取り出した双眼鏡で様子を確認しつつ、無線から聞こえている声に怪訝そうな顔をする。
追い立て班は上手い具合にキメラを誘導してくれているようだが‥‥
「大丈夫なんでしょうか‥‥」
克も同じように思ったらしい。双眼鏡で此方に向かってくる一行を確認して、ティリスに向かって連絡を取る。
「俺‥‥ティリスさんのこと信頼してるから‥‥。よろしく頼むね‥‥」
能力者である以上は、訓練も受けたであろうしそれなりに腕もあるはず。
素直な言葉を受けてか、ティリスからの返答が暫し遅れた。
『了解ですぅ〜。できるだけやってみますねぇ〜?』
そう言って、彼女は無線を切ったようだ。車と馬は肉眼で確認できる距離にまで差し掛かっている。
「やっときたか‥‥そろそろ本気でやらないとね」
覚羅は微笑みを浮かべつつも龍斬斧を握って肩に担いで仁王立ちする。
巨大かつ超重量の斧を軽々と操る彼に、克は眼を丸くしている。
「人は見かけによらず、ってね」
既にこんな視線にも慣れている覚羅は苦笑しつつ答え、状況判断しつつどう動くかと考えていた。
「では始めようか。我々の仕事を」
そう祐介が告げると太郎丸と克を左側に。宵藍と覚羅を右として祐介自身は中央後方に位置する、という扇型に陣形を作った。
●ハマると大変
此方の誘導を待っている待ち伏せ班。近づく距離と、はっきり顔も見える仲間たちへ向かって馬を追い立てながら、ムーグは哀切を覚える。
――待ち伏せ班のいる場所には罠がある。彼らはこの先、自身たちがどうされるかも分からずに逃げているのだ‥‥
(「‥‥母サン、ノ、タメニ、今、ハ狩り、マス、ヨ‥‥?」)
しかし、見逃すわけにはいかない。クッと堪えて、ムーグは番天印に持ち替えた。
目の前の柵が見えて流石に馬はスピードを緩めるも、後方からの射撃や最後の追い込みに、やむなく前進するほかなかった。
「残念‥‥ここから先に道はない」
克の言葉通り。ムーグの予想通り。馬達は後にも先にも進むことなどできなくなってしまった。
「ブルル‥‥!」
小さな落とし穴に嵌ってしまい、嫌がるように首を振りつつ針金や柵を前脚で押し離そうともがいている。
「っしゃ、やるわよみんな!」
気合と同時に覚醒した太郎丸。射撃要員が馬を逃がさんとばかりに縫い止め、宵藍と鳳覚羅が射撃の間を見計らって飛び出した。
総一郎は、馬が逃げたときにすぐ追撃ができるよう待機している。
瓶底眼鏡の奥。鋭い眼差しで祐介を時折盗み見ている歩。祐介は見ていないフリをして恐らく邪念を送っているのだろうな、と想像しつつ、
ティリスにも歩にも興味のない彼は仲間への支援が第一と練成強化をかけていく。
実際『人の恋路を邪魔する教授なんか、馬に蹴られてしまえばいいのに!』とあの少年は思っているので予想は的確である。
「教授が練成強化なら、僕は練成超強化だっ!」
そのてきぱきと動く姿に対抗し、歩はバッと手を広げて支援を同じく仲間にかけていく。支援を受けた彼らは、近接に切り替えて馬へと向かっていった。
「経験の浅さは気合で補う!」
首を斬り上げ、円閃で腹部を横薙ぎにして宵藍は立ち回り、太郎丸は黒金の夜叉で機動力を奪うため脚を重点的に狙い、殴りつける。
同じく克も接近して月詠を握り、流し斬りで馬を斬りつけ側面からの攻撃を開始した。
ブランディは近接の邪魔にならないよう、やや距離を置いて銃モードのヴァイゼル・トレイネで馬の脚部を撃っている。
「ちょ、そこのも働けっ!」
「ふぇ‥‥? わ、私ですか?」
そうだよと宵藍の怒鳴り声を聞きながら、間の抜けた声で返答をするティリス。自分の事だと理解するのに時間がかかった。
「で、できませんよぉ、怖いですもんっ‥‥」
「‥‥って出来ないじゃねぇよ‥‥」
蚊の鳴くような声でそんな事を口走るティリス。つい宵藍もへなへなと屈みこむよう脱力した――瞬間に馬の蹴りを回避したのは素晴らしいタイミングだった。
「ある意味非常に分かりやすい方ですね‥‥」
断真が苦笑しながらティリスをそう評価し、歩がそこでズイッと出てきた。
「ティリスさんの手を煩わせるまでもありません。強化は僕に任せて下さい!」
キラーン、と眼鏡を輝かせて、いいとこ見せようと一層張り切る歩。宵藍が何か言いたそうにティリスを見たが、すぐに馬のほうへと向かった。
(「っ、冗談じゃなくて、本当に怖いからなんだってば‥‥!」)
実は能力者になって日が浅い彼女は、まだ戦闘に関して恐れが捨て切れない。武器を持って戦うのが怖いのだ。
それでも、何かしようと考え雷光鞭を持って前線まで出てきたのだが‥‥うまく考え付かない。
不安そうにきょろきょろとし、暴れる馬の脚が自分に向かっている事すら、気付いていなかった。
断真がハッとして対象の馬を射撃したが、伸ばされた脚は止まらない――
「危ないっ!」
自分に突如として太郎丸が抱きついてきた。草の上に引き倒されて、小さい悲鳴を上げるティリス。
「ちょっ‥‥何よ!?」
「ていうか大丈夫?! 怪我は!?」
すぐに起き上がって、覚羅の攻撃と同時に太郎丸は馬へアッパーを喰らわせつつ聞いてくる。
そこで、ようやく事態が理解できた。彼女が庇ってくれたのだと。
「怪我は‥‥ない。ありがと‥‥ね」
「ん」
にこっと微笑む太郎丸。向けられた表情が優しかったので、ついそっぽを向いてしまうティリス。
「その程度の能力で俺に向かってくるとは‥‥いい度胸だ」
覚羅が言うように、馬もさほど強いものではなかったらしい。
馬も皆の連携で一匹、また一匹と倒され最後の一匹。
大分弱った馬へとブランディが豪破斬撃で剣を振り下ろし、抵抗する馬に死を受け入れた方が楽だと思いながらもムーグが番天印のトリガーを引いて。
最後に残った馬は柵に身を預けるようにして‥‥散った。
●お疲れさま。
「やったぁ〜、討伐完了ですねぇ〜」
きゃっ、とはしゃぐティリスに注がれる冷たい目。
「‥‥それ、役に立ったわけ?」
宵藍がティリスを指さし、普通ならばだれしも思う事を代弁してくれた。
「えーん、ひどい‥‥でもぉ、皆さんがお優しい方でよかったです」
えーんとか言うな。とは思っただろうが、それ以上宵藍や仲間が会話を引き継ぐ事は無かったが――ティリスに話しかけてきた祐介。
「で、アレはどうするんだい?」
アレとは‥‥歩の事である。その歩は、ティリスのほうへずいずいと向かってきた。
「えー? えっと‥‥」
「お手並み拝見といきましょうか」
そう言って、そっと彼女から離れた。
「ティリスさん!」
「はい?」
考えてなかった。と思いつつ、どうしようか考えていると‥‥歩は何故かモジモジと身を小さくくねらせ、上目遣いでティリスを見ていた。
「また、あああー、会ええ‥‥ます、きゃ?!」
「?」
吃るし噛むし何も伝わらない。意味を解せずにティリスは眉を顰めたが、佐渡川さんのおかげで助かりました、と笑顔で告げる。
「機会があったらまたご一緒しましょうね?」
そこで、表情を明るくした歩。
「喜ん――」「よし。皆特に怪我も無ぇワケだし、どうだ? 皆で飯でも食いに行かねぇか?」
伸びをしながらブランディは話題を切り替える。歩の妨害をしたわけではないと、誤解が無きようここで記載させていただこう。
「ええ。美味しい一杯を頂きたいものですね」
そこで断真も賛同し、皆で食事に行く運びとなったのだが‥‥
「次こそもっと上手に、言いくるめなくちゃ‥‥」
と、堅く心に誓ったティリスだった。