タイトル:アルメリアと銀の悪魔マスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/05 04:09

●オープニング本文


●スペイン・アルメリア

 バグアと人類の競合地域にあたるこの辺は、常日頃から緊張感が漂っていた。

「いつ来ても息苦しい雰囲気だなァ、ここはよ」
 ロビン少佐が息をつこうと襟に思わず手をかけた。生憎自分の襟は開けてあるので触れるだけに終わったが、
 側にいたシアン大尉も駐屯地の物々しい雰囲気に、思わず眉を潜める。
「‥‥それだけ、重き任を課せられているんだろう」
 彼らが来ているこの駐屯地と、点在している自警団がこの地域の最前線を護るためにあるのだと思うと、不安ややり切れなさが胸に広がる。
 それを察知したのか、少佐は『このあたりじゃ、施設の拡張にも人材資材が必要だ。建設中にバグアでもワームでも来て見ろ。甚大な被害が出ちまう‥‥だから、いろいろと出来ねぇのさ』
 と語る。
「‥‥こう考えてしまうのも、自国が恵まれた環境だからだろうな」
「かもしれねぇ。それでも、何処だって人材や物資投入を望んでいるのには違ぇねえぜ」
 近くの椅子に腰かけて、少佐は煙草を吸いたい誘惑を堪えつつ言った。
「欧州・北方軍は指揮官不在。だってのに部隊編成やら、人員配置やらで大忙しだ。場合によっちゃ北方に配属になる。北へ南へ。赤枝も棒きれになるってもんだ」
 それを見ていたシアンは、ややあってから口を開く。
「事に異論は無いが‥‥口が悪いな、少佐」
「やかましい。目つきが悪りィお前に言われたかねーや」
 幾分雰囲気が和らぐかと思われたそこへ――敵襲を告げるけたたましい警報の音が基地内に鳴り響いた。


●白き破壊者

「地球人の前線基地の壊滅、ね‥‥弱い奴らばかりで気は進まないが、爺さんやリーダーにはやることやってるトコを見せとかないとな」
 崖の上に立つシルヴァリオは、眼下に小さく見える薄汚れた四角い建物に目を留める。
 ついでに言えば、手駒に使えそうな地球人でもいるなら尚良いのだが――さすがによさ気なものはあるまい。
(何を考えてるんだか、俺は)
 フンと鼻を鳴らして己の考えを払拭し、崖の上からふわりと身を投げるシルヴァリオ。

 どうせ、あの崖へ来た時点で地球人のレーダーには反応している事だろう。
 余計な邪魔が入らないうちに、さっさと終わらせてしまうだけだ。

 頭から真っ逆さまに落ちていくシルヴァリオ。
 地面まで十数メートルほどに近づいたあたりで、身を捻り綺麗に着地した。
 軽く服の埃を払ってから、眼前の駐屯地に向かって走りだす。
 入口付近では既に、十数人の軍人が射撃用意をしていた。
 こちらに独りで駆けてくるジオン・ゼハイドの男を見るとヘルムの下にある表情が恐怖で僅かに強張って見えた。
「逃げ出したい腰抜けがいるならとっとと道を開けろ。死を覚悟した奴がいるなら、撃つなり向かってくるなりしろよ!」
 そう声を上げると、『逃げる』事など出来なくなるのが人間というものだ。
 現に、彼らは勝ち目のない戦いにも関わらずマシンガンを、ガトリングを、ランチャーをシルヴァリオへと撃ちまくる。
 避けるでもなく受けてみて、やや落胆の面持ちを見せた。
「やっぱりか。強ければ殺してもいいかって思えたけどな‥‥」

 お前らじゃ、殺し甲斐がない。

 自身を取り巻く赤く光る障壁と着弾の衝撃を受けながら、シルヴァリオは剣に手をかけずに彼らへ肉薄した。

 兵士の銃を握る手を蹴り上げ、振り下ろすと同時に手首の骨を狙って砕き、ナイフを振りかざして襲い掛かる別の兵士の鳩尾へ拳を深々と埋める。
 この程度では武器など必要ない。ただ、向けられたものは利用すればいいだけだ。
「よく狙えよ」
 数メートル離れた所から狙撃していた兵士へ瞬時に近づき、背中あわせに腕を取ると、銃の引き金をクイと引いてやる。
 オートマチックの銃は、閃光を散らしながら味方に牙を剥いて血の雨を降らしていた。
 立ちこめる血と硝煙の匂い。
(闘争の匂いは、嫌いじゃない)
 シルヴァリオは少しばかり気を良くしたのだが、それはすぐに不機嫌へと戻される。
「いやだ、止めろ! 止めてくれ! 止めろぉぉォォ!」
 目の前で展開される悲劇に、銃の持ち主である兵士は恐慌状態に陥り叫びながら懇願する。
「泣くなよ。そんな奴は除隊になっちまうぜ?」
 周囲の状況を察知したシルヴァリオは咄嗟に兵士を盾にして、自分への狙撃を防ぐと確信に満ちた表情で笑う。
 やはり、奴らは撃ってこない。
「狙撃を止めるとは優しいな、お前の仲間は‥‥お前は撃ったってのに」
 盾にした兵士の『違う』という否定を聞く前に、シルヴァリオは通路のずっと先――司令部を目指すため駆け出した。

●貴様の命、貰いうける

 指令室‥‥そこには、椅子に座ったままこちらを見ているロビン少佐と、槍を手にしていつでも攻撃可能な体勢になっているシアン大尉がいた。
「‥‥お前がこの砦の責任者か?」
 シルヴァリオが尋ねると、ロビン少佐は『さてね』と答えた。
「ジオン・ゼハイドのシルヴァリオ、か。生憎だけどよ、指揮官なんざこんな危ねぇ所にいねえよ」
――もうとっくに、後方に引っ込んでいるさ。
 そう揶揄した意味が分かったのだろう。チッと舌打ちしつつロビン少佐を見つめた緑の眼は、すぐに悪戯っぽく細められた。
「予定が色々狂っちまったが仕方ない‥‥こことお前を潰して帰るとしようか」
 見た所、椅子に座っている男はそこそこ階級があるようだ。何も無いよりはマシというところだろう。
「おっかねぇな。‥‥俺も簡単にはやられる気はないぜ」
 ちら、と隣のシアンに視線を走らせると、彼ははっきり頷いた。
 既にシルヴァリオがここへ来る間に、ミネルヴァ曹長には近くにいる傭兵を大至急集めてくれといってある。
 曹長が彼らを率いて戻ってくるまで時間を稼ぎ、彼らもまた生存しなくてはならない。
「‥‥赤枝の名にかけて。この命の限り、闘おう」
「くだらないぜ! 戦場じゃ強さが全てだ!」

 シルヴァリオの嘲笑を耳にしながら覚醒し、リノリウムで出来た光沢のある床を蹴るシアン。

――能力者か。
 向かってくる軍人に、シルヴァリオはにやりと笑って剣を抜いた。
「この間よりは真面目にやってやるか。だから――俺をがっかりさせないでくれよ?」

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
夜木・幸(ga6426
20歳・♀・ST
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
桂木穣治(gb5595
37歳・♂・ER
ウェイケル・クスペリア(gb9006
12歳・♀・FT
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
サキエル・ヴァンハイム(gc1082
18歳・♀・HG
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER

●リプレイ本文



 仲間が危機的状況に遭っているのだから当然だが、先導しているミネルヴァ曹長の表情は硬い。
 しかも相手はゼオン・ジハイドだという。相手は一人らしいが、傭兵達を連れて基地の中へ戻る時間は一秒たりとも、一瞬も無駄にはできない。
「2人でゼオン・ジハイドの相手なんて無茶すぎる‥‥!」
 基地内部へ突入する前に、神撫(gb0167)はまだ残っている兵士の避難を手伝うように曹長へと伝える。
 シルヴァリオの相手は自分たちがやるから、とも。
「ですがっ‥‥」
 仲間の身を案じ、基地の内部を切なそうに見つめる曹長だったが、頷いて『少佐と大尉をよろしくお願いします』と声を詰まらせた。
「ミネルヴァ曹長、俺も一緒に手伝うよ。人手は多い方が良いだろう?」
「僕も。この傷では、戦闘に向かうことはできませんから‥‥足手まといにだけはなりたく無いですしね」
 負傷している桂木穣治(gb5595)とソウマ(gc0505)の声や表情にも悔しさが見て取れた。
 皆さん、とソウマは仲間へ声をかける。
「シルヴァリオは非常に好戦的ですから気をつけてください‥‥ご武運を」
 その進言への応えは、力強い頷きとして。すぐに奥へと駆けだしていく仲間達。
(僕も、自分にできる事をやるつもりです)
 小さくなっていく背をしばしの間見つめていた穣治とソウマ、ミネルヴァ。
「ミネルヴァ曹長。基地内の避難経路なんかを教えてもらえると助かるんだけどな」
 穣治が切り出すと、ハッと我に返ったミネルヴァはすぐに何度も頷いて二人と行動を共にする。


 幾度も刃を交えるシアンとシルヴァリオ。
 シルヴァリオが一振りするごとにシアンの傷は増えていく。
(速い‥‥!)
 間合いを離してもシルヴァリオは涼しい顔で、無数に繰り出される槍先を捌きつつ間合いを詰める。
 シアンとて遊んでいるわけではない。実のところ、かなり本気である。後方からロビンの援護を受けていても尚、シルヴァリオの顔を曇らせる事は出来なかった。
「もういいだろ? お前じゃ、オレには勝てないぜ?」
 シルヴァリオが大きく剣を振りかぶる。それを察知したロビンがソニックブームを振るったが、何なく避けられ――
――寝てろ。
 その呟きと風を切る音が、シアンの側面より聞こえた。全身が粟立つ感覚。ロビンの叫び声が、耳に遠い。

 しかし、シアンの身体に剣がつき刺さる事は無かった。
「‥‥大尉!」
 ウェイケル・クスペリア(gb9006)の扇嵐とケイ・リヒャルト(ga0598)のM‐121がシルヴァリオの攻撃の手を止めさせる。
 咄嗟に横へと飛んで躱したが、シアンのそばからは中々離れない。
 彼らがまず何をするか? この人間を助けようと考えるだろう、というシルヴァリオの考えは外れではなかったからだ。
 予想通り、射撃班の表情が曇った。
「貴方はこの場に相応しくない。お帰り願うわ――全力を以って!!」
 静かに。冷静に言いながら、ケイは武器をアラスカとEガンに持ち変える。
「さぁ、あたし達とダンスを踊って頂戴?」
 艶がありつつも、氷のような冷たさを乗せた笑みを貼り付け、足元、手元と狙うケイ。
 狙撃には反応したものの、まだ槍を振るうシアンや超機械で攻撃してくる夜木・幸(ga6426)に手を焼かされていた。

「チッ‥‥大人しくしてろよ!」

 まずは黙らせる必要がある。懐からカスタムした光線銃を取り出すと、射撃班に向かって数発撃ちこんだ。
 相手が銃を持っていることなど、誰が予想できただろうか。牽制と足止めの手が僅かに緩んだのだが、
「――其処までだ。ゼオン・ジハイドの15‥‥!!」
 煉条トヲイ(ga0236)ら戦闘班が射撃班の傍らを駆け抜けて行く。
 面倒だなと思いつつも再び銃をしまうシルヴァリオ。
「暫くの間お相手願おう。――煉条トヲイ、推して参る‥‥!」
 トヲイがシルヴァリオとシアンの間に身を割り込ませるように攻撃を仕掛ける。
「俺を知っているなら名乗らなくていいな‥‥挨拶代わりだ、貰っておけよ」
 突き出された爪を捌き、半歩踏みこむと体を捻り、薙ぎ払うような大刀筋をトヲイへ叩き込んだ。
 高い防御性能を誇る鎧であったが、僅かながらに伝わる衝撃と痛み。僅かにトヲイの顔が歪む。
「隙だらけだ!」
 神撫のインフェルノが、シルヴァリオの背面へと振り下ろされる刹那、冷たい光を宿す翠の瞳が肩越しに神撫を見た。
「背中まで斬らせるほど手は抜いてないぜ!」
 金属同士がぶつかる甲高い音は、衝撃として耳を震わせる。
 もともと右手に所持していた剣のほか。左手にはいつの間にか、もう一本――抜かれていた。
 逆手で剣を持ち、斧の刃が自身に届くのを止めている。
「‥‥よォ、色男。――ちィと遊ぼうぜ、なァ!」
 だが、彼らも黙って見ているような素人ではない。小銃を両手に携え、サキエル・ヴァンハイム(gc1082)が戦いの匂いと強敵への興味に目を輝かせ、割り込む。
 射撃の手も止まない。流石にこのままでは態勢が不利と感じたシルヴァリオ。両の剣でトヲイと神撫を振り払うようにして体を捻り、大きく左へ跳んだ。
「逃がすか!」
 すかさず追うトヲイ。後方へ抜かせるつもりもないが、体勢を立て直す隙も与えない。

 シアンへの途は空いた。そこを目指し駆け抜けるリゼット・ランドルフ(ga5171)。
「大尉!」
 顔をリゼットのほうへ向けたシアンは、何かを思う間もなく彼女のタックルによって後方へと弾かれる。
 振動が傷に響いたが、リゼットと肩を並べて春夏秋冬 立花(gc3009)が彼の前へ庇うように立ちふさがる。
「大丈夫ですか? 撤退しますよ」
――撤退。
 その言葉の意味を理解するとともに、少佐のいた方向を確認。上司が無事だと知ると、安心したのか息を一つ吐く。
「久しぶりだってのに随分と草臥れちまったなぁ!」
「さほど若くないからな」
 ウェイケルの言葉に苦笑いで返したシアン。すぐにシアンから少佐のほうへ視線を移した彼女は、眼だけで『逃げろ』と促した。
 ロビンとてまだ表に残る兵士らの状態も気にかかったが、負傷したシアンもここに置いてはおけない。
「他の軍人さんたちは無事に、曹長さん達が誘導しているはずです」
 と、シアンを時折心配そうに見つめながらリゼットが彼の胸中を見透かしたかのように伝えた。
「‥‥そうか。ありがとう」
 これでシアンも少佐も無事に撤退行動をとることができるだろう。
 彼らが非常口から退避するまで、近づけないようにと狙撃班のケイと幸が遠距離から狙って行く。
 シルヴァリオも非常口の方を見て――逃亡を許したという事実に対し、苛立たしげに舌打ちした。
「チッ‥‥! お前ら、余計な事をやってくれるぜ!」
「笑止。ゼオン・ジハイドともあろう者が、子供の使いでもあるまいに‥‥目的が果たせないからと言って、他に八つ当たりか?」
 トヲイの挑発にも不機嫌極まりないという表情を見せ、後を追おうにも、攻撃の網をくぐろうにも一筋縄ではいかない状況だ。
「邪魔して悔しげな顔を笑ってやるぐらいじゃないと、俺も穏やかな生活を邪魔された分を償わせられないじゃないか‥‥」
 その貌だよ、と幸が揶揄しながら練成弱体をシルヴァリオへ飛ばす。
 両手の剣で戦闘班の攻撃を止めると、瞬時にシルヴァリオは神撫に左の剣を受けさせ、右でサキエルが向けた銃を打ち、射線を変えた。
 くるりと身を捻りつつトヲイの後方へ――当然トヲイも爪を突き出すが、そこにあるはずのシルヴァリオの姿がない。回り込んでの攻撃と見せかけ、狙撃班へ向かって移動していた。
「リゼ!」
 神撫が走りながら、リゼットを呼ぶ。既に射撃班と共に行動している彼女は、頷きながらソニックブームを撃った。
 赤く光る障壁。攻撃は通っていないわけではないが、効いていないかのように突き進んでくる。
 この場合はきっと、射撃が邪魔になるはずだ。そうアタリをつけたウェイケルはケイのほうへと走り、両断剣を扇嵐に乗せてシルヴァリオへと繰り出す。しかし、それを右剣で受け、シルヴァリオはもう一方の剣を振るった。
「ッ‥‥!」
 血の朱球が目の前で幾重にも散る。しかし、ケイもタダでは終わらない。
「ゼオン・ジハイド! あたしからのプレゼントよ!」
 痛みを堪えて、アラスカをシルヴァリオへと零距離から撃ちこんだ。
 スキルも乗せた攻撃は、通常よりもはるかに重い。シルヴァリオですら例外ではないはず。現に、彼も眉を顰めていた。
 幸がケイへと練成治療をかけ、リゼットが引き離す為に斬りかかる。
「―‥‥目ェ反らしてンじゃねェよ。あんたの相手は俺、だろーがッ!」
 サキエルが軽い身のこなしでシルヴァリオの側面に位置取り、再び接近戦を試みる。
「こら、サキエル! 出過ぎんじゃないッ!」
 幸の叱咤も聞こえないのか、サキエルはシルヴァリオと至近距離で組み合う。肘を突き出せばそれは易々と払いのけられ、手首を返し銃を突きつけトリガーを引けばシルヴァリオは屈んで足払いをかける。
 倒れこむように見せかけて小銃を引き、ハンドスプリングの要領で起き上がりつつ蹴りを伸ばすサキエル。
 腕でガードされたが、サキエルはニヤリと笑った。
「いいねェ、そうでなくちゃ戦い甲斐がないよなァ?」
「殺してほしけりゃ、自分の価値を上げて来いよ。 俺が殺してやりたい、と思えるような強さを手に入れてから、な!」
「‥‥クク、そいつァいいや。いいぜ、本気のダンスなら幾らでも付き合ってやらァ!」
 四方八方から攻め続けられているシルヴァリオ。神撫の攻撃を払い、剣速のみを生かし、幾度か斬りつける。
「生憎、踊れない奴とはお断りだ‥‥オレだけ踊っててもつまらないんでね」
 だったら一緒に踊ってやろう、と言いながら防戦に回っていた神撫はインフェルノを振り、トヲイと挟み打ちにしてタイミングをずらしたり速めたりと微妙にずらしていく。
 
 シルヴァリオの注意が上体に向けられている、今この刹那の刻を逃すわけにはいかない。

「――もらったっ!!」
 囲まれた状況からなるべく隙なく回避しやすい軌道を予測し、トヲイはシルヴァリオに肉薄した。
 そして、集中して攻撃していた状態の攻撃だと思わせておいて――足元を狙いに行く。
 だが――シルヴァリオの表情は明るい。

「やっぱりな!! そう何回もやらせるかよ!」
 足を狙うという攻撃は一番効率良く機動力を削ることができる。
 一度能力者と戦闘した経験から、そこを狙ってくるだろうと注意していたらしい。
 剣で防ごうとしたのだが、瞬時に明るかった表情が曇った。
「煉条さん! 思い切りぶちかませっ!!」
 神撫のインフェルノが、シルヴァリオの胴を薙ごうと必殺の唸りを上げていたからだ。
 どちらかが避けられようとも、両方避けられても、リゼットやサキエルが繋いでくれる。
 止む無く双方の攻撃を剣で受けるため、体勢を整えたシルヴァリオ。 

『うおぉおおッ!』
 トヲイと神撫の気迫の篭った一撃は重く、三者の雄叫びが入り混じる。
 気迫は時として予想だにしえぬ力を生む。
 そして――

 バキン、という金属の砕ける音が、全員の耳に聞こえた。

 次いで飛び散る破片と、鮮血。

「‥‥クソ、この馬鹿力め」
 異変を感じたシルヴァリオは大きく後方に跳び、感じる痛みを堪えて着地した。白いコートに赤い染みがあり、彼が両の手に持っていたはずの剣は。
 地球に来てから一般人から奪取したものだったが、シルヴァリオの使っていた剣が両方とも衝撃と加重に負けて砕けたのだ。
 まだやるのか、という能力者の眼。
 だが、もうシルヴァリオからは闘気が感じられなかった。昂っていた熱が冷めたらしく、踵を返す。
「命拾いしたな、お前ら‥‥次は借りを返させてもらうぜ」
 そういって出入り口へと歩き出そうとした彼を――立花が引きとめた。
「はじめまして。春夏秋冬立花です」
「あ?」
 いきなり自己紹介し始めた傭兵に、眉を顰めるシルヴァリオ。
「‥‥貴方、楽しみを探しているんでしょう?」
 私と取引をしませんか、と投げかける立花。だが、シルヴァリオはけんもほろろにあしらった。
「仲良しゴッコならそこの地球人とやってろよ。オレには全くその気がない」
 尚も食い下がって、シルヴァリオへ渡そうと持ってきた物を投げたが、彼は受け取らずそのまま歩き去っていく。

 その後ろ姿を見送る傭兵たち。
 トヲイは自身の手に視線を落とし、ゆっくり目を閉じた。
「シルヴァリオ、か‥‥」
(‥‥久し振りだな。この血沸き肉踊る感覚は‥‥)

 が、サキエルは自身の身体にそっと手を当て、後方で此方を見つめている幸の視線を感じていた。
『怪我してたら麻睡ナシで刺青入れるぜ?』と、幸の笑顔は語っていたのだ。
(っちゃー‥‥夜木には近寄りたくない、なァ‥‥?)




「大丈夫です。傷は塞ぎました。あとは適切な処置を病院で受けてください」
 傷の状態が重い者から先に、ソウマと穣治は治療を進めている。
 曹長が避難指示担当として、歩ける物は自力で避難させているはずだ。
 彼女の階級的な事は置いておくとして、皆それに従って出ていくだろうし、軍内部的な事は、軍に任せる方が良いだろう。
「シアンさん達や仲間は大丈夫かな‥‥」
 穣治はチラと通路の先を見つめ――‥‥そのまま、縛られたかのように微動だにせず通路の先を凝視する。

 やり合った後なのだろう。血に染まるコートを羽織ったまま、シルヴァリオが此方へと向かって歩いてくるではないか‥‥!!

「ソウマさん! すぐに‥‥すぐにみんなを影になるようなところへ集めてくれ!」
 穣治の顔つきや言動から、危険だというのを察知したのだろう。
 ソウマも質問すらせず、すぐに残った者を柱の陰へと退避させる。
 中には戦うと言った果敢な兵もいたが、ソウマは首を横に振ってそれを許さない。
 こちらにやってきたシルヴァリオも、立ち止まって興味なさげな顔のまま、身がまえた二人を見る。
「‥‥フン」
 手を出されなければ戦う気は無いのだろう。つまらなそうに鼻を鳴らして、二人の側を通り抜け、まっすぐ出口へと向かって去っていく。
(今回は手を出せなかったが‥‥生きていれば必ず、機会は得られるはず‥‥!)

――その時は。

 ソウマは白い後姿を睨みつけながら、再戦を誓うのであった。