タイトル:仮装戦闘マスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/29 00:47

●オープニング本文


●学芸会ではないのだぞ!

 久しぶりの休暇で実家に帰宅したというのに、早々シアン・マクニールは大きな溜息をついた。
 以前、彼の兄キーツ(‥‥の幼馴染である劇団の団長)から頼まれて演劇をしたことがある。
 その団長から『人手が足りないので手伝ってほしい』と再び依頼を受けたのだ。

「‥‥俺はゆっくりしたくて家に帰って来たんだが」
「シアンみたいな怖い人が一日家にいてゴロゴロされんじゃ、お手伝いさん困るじゃないか。たまには違う自分になってきたら?」
「お前のようにくだらないことを名案だと言ってのけるやつが家にいたのでは、確かに皆困るだろうな‥‥!」
 シアンも『てめーふざけんじゃねーぞコラ俺は疲れてんだよ』という無言の圧力(プレッシャー)をかけてはいるものの、キーツは涼しい顔である。
「それに、彼女の劇団ね‥‥また食中毒で倒れちゃってね‥‥」
「‥‥」
 泣きながらキーツに電話してきたらしいが、そういえば、前回も確か団長の差し入れで皆動けなくなったはずだった。学習能力がないのだろうか、この劇団。
 流石に二度目はちょっと、とキーツも断ったようなのだが‥‥運悪く(?)『キーツ君家のお酒使ったらこうなっちゃったのー』と言われては(間接的に材料とされたくらいだが)キーツも断れなかったのだろう。
 シアンを差し出すことで済ませるらしい。
 おぼえてろ、と悪党のようなセリフを吐いて、シアンは不足している人数を聞く。
 足りない人数は申し訳ないが、手が空いていてこういうのが好きそうな傭兵からお願いしよう。
 シアンは電話を手に取り、ブツブツ言いながらULTへの番号を押していた。


●で。結局キメラ出ちゃう。

 演劇、本番が始まる頃であった。
 急に舞台袖へ電話を持った団長が駆けこんできた。
「シアン君、お電話っ‥‥UPCのロビちゃんから!」
「なんと‥‥!」
 どうしてここの電話番号を知っているのかとか、ロビって呼んだら殺されるんじゃないかとか、それはひとまず置いておいてシアンは電話を取る。
「はい。どうしました、少佐。‥‥キメラ?!」
 シアンの一言に、一緒にいた傭兵達の顔も引き締まる。
「場所は‥‥近いですね。よし、すぐに出動します」
 電話を置いて、自分の装備品を持って駆けだすシアン。団長が止めようとしたが、何気に足の速いシアン。すぐに出て行ってしまった。

「‥‥シアン君、仕事に一生懸命なのはいいんだけど‥‥衣装着たまま‥‥」
 うっかりさんなのだろうか。
 困ったのは能力者達だ。シアンがすぐに行ってしまったばかりか、詳細も聞いていない。
「ど、どうする?」
「どうするったって、行くしかないじゃないの」
 そうじゃなくてさ、と自分の舞台衣装を指す。
「これ」
「面白そうじゃない。借りて行ったら?」

 ハロウィンとでもいこうじゃないか。そう暢気な調子でいった男性能力者は、密かに楽しんでいた。

●参加者一覧

王 憐華(ga4039
20歳・♀・ER
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
秘色(ga8202
28歳・♀・AA
白虎(ga9191
10歳・♂・BM
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
桂木菜摘(gb5985
10歳・♀・FC
紫陽花(gb7372
22歳・♂・SN
柚紀 美音(gb8029
16歳・♀・SN
ティナ・アブソリュート(gc4189
20歳・♀・PN
パトリック・メルヴィル(gc4974
23歳・♂・ST

●リプレイ本文

●開演時間は見合わせ。

 折角気合も入れたというのに、開演直前にキメラが出没したという。
「いつでも、どこでもキメラは湧いて出ますね! 許せません!」
 妖精役の柚紀 美音(gb8029)が、舞台のサイド幕をぎゅぅと握りしめている。
 握りしめた手は怒りのため小刻みに震え、柳眉はつり上がっていた。
「今回は彼ら、呼んでないんですがね‥‥」
 紫色のロングジャケットの肩へ乗せたピエロ風ドールにいつも呼んでいませんがね? と同意を求めるかのようにぼやき、やれやれと肩をすくめたパトリック・メルヴィル(gc4974)。
「仕事に熱心なのはよいのだが‥‥まぁよい、とにかく追いかけよう」
 シアンの消えた方向を見て、藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)が西王母を模した衣装の裾を引きずらぬようにと気をつけつつ装備品が置いてあるところまで歩き、
「そうですねー‥‥無理されても困りますし、急いでいきますか」
 北欧神話に出てくる戦乙女姿のティナ・アブソリュート(gc4189)も同意を示す。
「ええい、キメラのやつめ要らん邪魔をしおって‥‥どうせなら桃色を邪魔しろ、桃色を!!」
 白虎(ga9191)も虎耳巫女服という萌えコスでぷりぷりと怒っている様は、申し訳ないが可愛い。
「着替えるのも面倒じゃ。わしらもこのまま参るとするかの」
 銃と剣を持った物騒な赤頭巾のコスチューム姿の秘色(ga8202)からはいろいろと健全とも言い難い魅力が出てしまっている。
「ええ!? ‥‥皆様そのままでいかれるんですか!?」
「だって、一人であの姿の戦闘は可哀想だし‥‥」
 王 憐華(ga4039)は大きな瞳を更に見開いて仲間に訊ねたが、依神 隼瀬(gb2747)の言うとおり皆そのままで行くという。
 憐華が危ないし衣装汚れるし恥ずかしいじゃないですか、と暗に匂わせたのだが、面白そうだという期待感が勝っている仲間にはあまり効果はなかった。
 彼女は着替えてから行くと言い、既にシアンと共に走り去って行った仲間の後を追う事にしたのだった。

●出落ちはよくある。

 舞台衣装のままキメラが出たという場所へ先行するシアン達。
 爆走していったというのに、追いついてきたリゼット・ランドルフ(ga5171)と橘川 海(gb4179)の姿もあった。
 二人とも生贄にされてしまう姉妹の役どころだったはずなのだが、その儚い姿はなりを顰め、傭兵のお顔になっている。
「もー不謹慎ですけど、出番が先に延びて良かったですっ!」
 舞台袖で涙目だった海は、この状況に少なからず感謝していた。ちなみに、姉妹が悲しみを歌に乗せるというものが開演して数分後、すぐにあるのだ。報告官もたった今思い出した。
 リゼットは微笑みを海へと送り、前を行くシアンの背中に視線をやって、切なそうに眉を寄せる。
(シアンさんの顔を見れて嬉しかったですけど‥‥)
 どうしてだろう。任務中だからとはいえ、手を伸ばせばすぐに捕まえられるのに、こんなに我慢しなければいけないなんて。
(こんなに‥‥)

――可愛いのに!!!

 前を行くシアンは、クマ‥‥というかレッサーパンダの着ぐるみだった。世界を救う旅をしているとかいう設定で、名前はレッパ。まんまである。
 そのふかふか尻尾、モフモフしそうな体、でかい頭。リゼットはそれらにモフモフしたくてたまらないのである。そこだけなら相手がシアンだからかどうかは実際のところ関係なさそうな気がしなくもない。
 説明をしているうちに、敵のクマと南瓜キメラも此方に気づいて走ってくる。互いに距離を詰めようとしたところを―― 一陣の疾風(かぜ)が駆け抜けた。
「菜摘殿‥‥よいか、突っ込むぞ!! しっかりつかまるのじゃ!」
 それは、藍紗のAU‐KV。彼らを追い抜き、キメラの群れ目掛け突進していく!
 騎龍突撃でクマを弾き飛ばし、南瓜を蹴散らす。敵とある程度の交戦距離を保ってから、乗せていた桂木菜摘(gb5985)に降りるよう言ってアスタロトを着装。
「びゅーんとひとっとび! 私たちが一番のりなのですよ〜♪」
 ゴシックドレス姿の魔法使い、菜摘が楽しげに笑い、ヘルメットを藍紗へ返すと持ってきた三角帽子をかぶり直す。
 藍紗の装着したアスタロトは清楚さと剛毅を併せ持って見事なものだった。巫女服のようになったAU‐KVは装着した部位に合わせるように塗装を変え、或いは衣装の一部としてカスタムしてある。
 ようやく追い着いてきた仲間とも合流し、気を抜くなとシアンは忠告したのだが‥‥なにぶんつぶらな瞳の着ぐるみなので効果は激減である。
「着替えないで来ちゃったけど、戦闘も頑張らなくっちゃね!」
 だってその後演劇だもの。と着物姿でウサ耳をつけた紫陽花(gb7372)が弓を持ちながら応えれば、海は小さく唸って気を重くした。

●南瓜とコスプレに釣られクマー!

「ぱぱっと退治して楽しい舞台をお届けするのですよ〜!」
「世界を元に戻すぞ〜。お〜!」
 魔女っ子なっちゃんとフェアリー美音がピコハンとロッドを軽く交差させ、『きらっ★』とでも音が出そうな可愛さとメルヘンぶりを振りまいている。
「支援はしますがね。ま、私の楽しみは残しておいてくださいよ」
 役に入り込んでいるパトリックは、役さながらに意地悪く微笑んでから、支援側に練成強化をかけていく。
 前衛側への支援は隼瀬がやると言ってくれたためだ。ケルトのドルイド僧をイメージした役に違わず、支援する姿などは良く似合っている。
 そこへカツカツとブーツが地を蹴る音が近づいてくる。赤頭巾の秘色だ。
「ふーむ。着物より走り易くはあるが、ちと足元がすーすーするのう‥‥」
 ミニスカートで全力疾走して来たのだ。同じく後からきた白虎の顔がやや赤い事から、なんか美味しい事件があったに違いない。
 狼が相手ではないのが残念じゃな、と言いながらも射程に入った敵へ蛍火を素早く振るってソニックブームを打ち出す秘色。
「ほれ、早よう起き上がらんと、でかい図体がハチの巣になるぞえ?」
 追撃にショットガンも浴びせて『悪の勇者の手先めが』と役の台詞も付け加えた。
「悪の勇者で思い出したけど、勇者‥‥じゃなくて賢者見習いの私が召喚されちゃった設定なんだよねー‥‥」
 こちらは善なる勇者様のサポート役だったのだが。誰が勇者に近いに存在になるんだろ? と隼瀬は呟きながらクロッカスで援護をする。
 前衛として駆けだそうとしたシアンは、覚醒してすぐに小さく唸っていた。
「くそっ、前が見えん‥‥!」
 着ぐるみの中。覚醒効果の為伸びた髪が大変な事になっているようだ。
 モゴモゴしているシアンをちょっと振り返って手を貸すか迷ったリゼットだったが、今は敵を倒す方が先だ。
 後ろの海とアイコンタクトを取れば、海が頷き、素早く瑠璃瓶を構えると、ふわりと覚醒効果の蝶がその後を追うかのように舞う。
「えへ、私たち姉妹の連携、見せてあげるっ!」
 番点印で動きの遅い熊の足を狙う。武器を持ち変えて接近するリゼット。
 後方支援する海の射撃の間を初めから分かっているかのようにかいくぐり、熊の横へ滑り込むように移動。蝶の紋様が見える左手を上にし、両手で獅子牡丹を振るった。
「いいところに踏み台発見ー! リア充はとりあえず邪魔にゃー」
 萌え虎仙女こと白虎が、モタつくシアンを踏み台代わりにして空へと跳躍!
 まさに空から舞い降りるかのように羽衣をひらひらと風になびかせつつ手にした巻物『雷遁』で熊を狙った。
「月のうさぎさんだって、頑張るんだぞー!」
 紫陽花が可愛らしくも、ぴょん、と無駄なステップを踏みながら月ノ宮を構えて、弓を番えて引く。
 狙い撃ちにされた熊を一匹倒したところで、着替えてから駆け付けた憐華が合流した。
 着替えてきたはずなのに――シースルー千早にキャットスーツ。舞台衣装のほうが露出やハデさが少なかった気がするのだが。
「あれ。まさか違う舞台衣装に着替えた、とか?」
「これは私の戦闘服です!」
 隼瀬の問いを自分の服だと説明した憐華。彼女がかぶりを振るごとにたゆたゆと胸が揺れていた。
 こほんと咳払いをしてから、憐華はEガンを構え直すと表情を引き締める。
「エロクトロリンカーの王憐華‥‥遅れましたが間にあったでしょうか?」
 あ、ちょっと噛んでる。
「‥‥ああ。まだ奴らは残っている」
 成程確かにエロっぽい格好だなという思考を振り払いながら、シアンは努めて冷静に南瓜どもを槍で示す。
 それならと狙撃に移る憐華と美音。側では藍紗が弓と剣を巧みに使い分け、それでも前衛を抜こうとする南瓜を、リゼットが円閃で防いで接近を許さない。
 弾かれてもんどりを打った南瓜の面に向け、ティナが剣を突き付けて凛とした声を張り上げる。
「我が主に仇為したこと、戦場で私に出会ったこと‥‥後悔するといい!」
 やはり此方も役になりきっている。戦乙女の神々しい姿に南瓜も一瞬怯んだような気がしたが‥‥まぁヴァルハラへ連れて行かれはしないだろう。
 それがどうしたとばかりに、ティナへ掴みかかろうと跳躍する。
「やれやれ。知性の無い輩に興味はありません‥‥私の奇術で消して差し上げましょう」
 失礼、ミス・アブソリュート。とやんわりした口調で告げてからビスクドールで南瓜を攻撃。攻撃を食らい、体勢を崩して落ちてきた南瓜を、菜摘がピコハンでピコっとひっぱたく。
「あ、兎だから、もちつきのほうが良かったのかなぁ‥‥?」
 菜摘のピコハンをヒントにアイデアを浮かばせる紫陽花。一寸考えたが、地球じゃ重いものもったら危ないもんね、という結論に至った。
 放った矢で南瓜の腕を地へ縫いとめる。
「我が主の敵を討ち滅ぼせ‥‥」
 そこに素早く間合いを詰めたティナが現れ、先程白虎がしたようにシアンを踏み台にして跳躍すると、気合の声と共に演劇の台詞であろう口上をその唇は紡ぐ。
「――炎剣『ゼフォン』!」
 倒れたままの南瓜にエアスマッシュを放つ。ばこっ、と南瓜の頭が二つに割れた。

「残るは熊一匹ですね!? 神妙になさいませ!」
 憐華は再装填の為、胸を揺らして小銃の予備弾を谷間から取り出す。何発入ってるんだろうという素朴な疑問だが、羨ましい限りである。
「ここにも熊が一匹いるにゃー。桃色のけしからん奴めー!」
「やめんか! 熊じゃなくてアライグマだ!」
「いえ大尉、レッサーパンダさんです」
 猫槍エノコロでつんつんとシアンを突く白虎。動物名の訂正をするリゼット。そんな三人をどうでもよかろうと叱りつけた藍紗。
「人の上に立つのならもう少し周りを見る余裕がほしいところじゃな、まったく‥‥敵もまだ倒しきっておらんというのに」
 ブツブツと言うそこへ、大きく横から振られた熊の爪を屈んで避ける藍紗。薙刀で熊の胴を突き、距離を取った。
 突き刺した反動か、反対側に転がる熊。
「戦場に舞うのは、戦乙女ばかりじゃないですよっ?」
 アクション映画さながら横の回転をかけ、転がってきた熊をひらりと跳んで避けた海。彼女の一挙一動から舞い出た赤い蝶は、浮かび上がっては消えていく。
 ただ避けるだけではなく、熊の胴体に銃弾を撃ち込んだ。
「ガルルォッ!」
 怒りか、痛みの為か。パトリックは咆哮を上げて立ちあがった熊へと蔑むような視線を投げた。
「‥‥何です、熊の癖にその深刻そうな顔。口が裂けてしまう位に、笑わせてあげましょうか?」
 熊に笑う事ができるのなら――ああ、もうそれ以上横には裂けませんね、これは失敬。
 ドールで熊を攻め立てつつ、フェドーラ帽をくいと持ち上げて詫びるパトリック。
「グ‥‥オ、オ‥‥!」
 熊も立ったまま二、三歩よろめいて‥‥手を上へあげた後、どうと倒れた。
「‥‥なんか、あの熊‥‥最期芝居がかって無かった‥‥?」
 その疑問は皆も感じ取ったのだろう。しかしそれ以上は追及しないまま、キメラ退治は終了したのだった。

●さて演劇に行きましょう。

「皆無事なようだな。衣装も」
 特に役に立ってないシアンは、足を引っ張ってすまんなと言いながらレッパの頭を外す。最初からやれよ。
 ぐいっと、シアンの髪が小さく引っ張られた。見れば、秘色が珍しそうにじろじろと髪を見ている。
「シアン、おぬしいつから金髪に‥‥?」
「ん? ああ。上級職になったら、変化が起こった」
 そうなんですか‥‥と言いながらも側にやってきたリゼットはうきうきした顔で、着ぐるみをモフモフと触っていた。
「桃色の気配!! 僕に隠れてこっそり桃色しようとしても無駄だー!」
 エノコロでシアンの顔をモフモフして粛清を決行する白虎。
 それを見て、パトリックが『さあ、もっと情念の炎を燃やすのです。無秩序に!!』と白虎を煽る。
「そうかぁ‥‥戻ったら、やらなくちゃ‥‥うー、どうしよう‥‥怖いよー!」
 今までイキイキと元気だった海ちゃんはどこへ。劇の事を思うと涙目になり始めた。
「海ちゃん、そんなに困らないでいいんだよ。舞台に立てるなんて最高じゃないか!」
 紫陽花は目を輝かせるのだが、困ったりしているのは海だけではない。
「うう、役に移入し過ぎ‥‥私とした事が‥‥恥ずかしいっ‥‥!!」
「私もでしたけど、楽しかったですよ?」
 ティナは紅潮した顔を両手で覆う。それを美音と菜摘がフォローする。
「そうでしたねー‥‥劇を始めなくてはいけませんから、私は一足先に着替えにいきますね?」
 ぺこりと頭を下げる憐華。藍紗が『我も行くので乗るか?』と言ってくれたので、これもお言葉に甘える事にする。
 AU‐KVのエキゾーストノートを聞きながら、シアンはしつこくエノコロを繰り出す白虎を横に抱えて『行こうか』と促す。
「劇はどんな内容だったか、何度聞いてもよくわからんな」
「悪の仙人が色々な平行異世界を融合させ、カオスな新世界を作ってしまいました。
 平行世界から集まられた人達は力を合わせて敵側についた仲間を取り戻したりしながら、ラスボスに戦いを挑みます‥‥って内容だにゃー」
 そう説明する白虎こそ、その世界のラスボスである。どこかで聞いたような世界設定だが、
『世界をしっとの炎で焼き尽くす』ということの規模は大きいが内容は小さいところが判断に迷うところである。
「面白い劇になると良いね♪」
 来た道を戻りながら、隼瀬が微笑みつつ言った。
「無論じゃ。わしらが作っておるんじゃしな」
 アドリブも混ぜるぞと秘色は胸を張った。

「さ、もう一仕事と行きましょう。腹がよじれてしまうほどに笑わせるのが仕事ですよ」
 パトリックはそういって、唇の端を吊り上げた。