タイトル:【HD】秋は演劇マスター:藤城 とーま

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/12 23:56

●オープニング本文


※このシナリオはハロウィンドリームシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。

 なぜか少年の姿から相変わらず元に戻れないシアン・マクニール。
「きゃー、シアン大尉かわいいー!」
「頭撫でさせてくださいー」
 女性軍人さんに大人気の彼だが、このままでは職務と戦力、そして主に人間関係に支障が出ると言われ、困惑した軍部。
(ユキタケ伍長の妙に冷静な視線が危ないとロビン少佐が進言した)
 そこで、打開案として赤枝小隊には――新たな人材が投入されることとなった。
「シアン。お前の代わりにやってきた軍人だ」

 そこには――UPCの軍服なんぞを着ているが、どこかで見たような、そうでないような銀髪の男。
「代行をするシルヴァリオ中尉だ。仲良くやれよ」
 しかしくどいようだがここは通常のCTSとは関係のない世界観。シアンも男の顔をじっと見た後、よろしくと言っただけだった。

●そして問題発生。

 そして、久しぶりにキーツからの電話がシアンの元に届く。
 もう毎度の事なのだが、キーツの友人である劇団の長。
 ハロウィンのケーキ『ソウルケーキ』を作ったが、それを食べた劇団員もろとも病院送りになったらしい。

――この劇団、本当に大丈夫だろうか。

「‥‥どうして、レシピ通りに作ってこうなるんだ?」
 ある意味才能だ。ちなみに、シアンもキーツも劇団には所属していない。
『でね、シアン‥‥劇の人員が』
「またか!?」
 公演はあさってなの‥‥とキーツが電話の向こうで渋面なのは想像できるのだが、もうこんなのが続くのでは劇というか劇団ごと辞めたらいいのではないか。
「しかし。人員はなんとかなるにしろ台本はどうなっている?」
『それが、悶絶した拍子に暖炉に投げ込んだらしくって‥‥』
「‥‥」
 全部かよ! と突っ込もうとしたが声が出ず、ぐぅぅ、という奇妙な音が漏れただけ。
 あさってまでに行えというのか。これはもう台本どころではあるまい。しかし――やるしか、ないのだ。
 それが己の仕事‥‥おや、自分の仕事は軍人だった気がするんだが、雑用の多い特命係だっただろうか。ああ、だから特殊小隊なのだ。
 どこか間違った解答を導き出したシアン少年は、こくりと電話越しに頷いた。
「‥‥‥‥‥‥わかった。やるだけやってみよう」
「頼んだよ、シアン」
 お前が頼りだ。そう言いつつ、内心ほっとしたキーツだった。
「あー、ついでにビデオカメラ持って行かなくちゃ」
 とか嬉しそうに呟いていたとか。

 そうして電話を置くと、シアンは最初の任務だ、とシルヴァリオに振った。
「お前に協力を依頼し――演劇の人員として手伝ってくれ」
 シルヴァリオ中尉に相談を持ちかけるシアン。むしろシアンのほうが階級的に高いので命令ではあるのだが。
 ちびっこ上司から概要を聞いたシルヴァリオはつまらなそうに、前髪を指先でいじりながら適当な返事をする。
「愉しませてくれるんなら構わねぇが‥‥どうせくだらねぇ遊びだろ?」
「くだらないとはなんだ。やってみると何気に楽しいぞ」
 どうだか。と鼻で笑うシルヴァリオ。敬語とかそんなものはやはり使わないらしい。
「おい、ルエラ。なんか出してやれ」
 ぱちん、と指を鳴らして誰かの名前を呼ぶシルヴァリオ。
 すると突然、青髪の女性がロッカーから瞬時に跳び出すと、シルヴァリオにカンペらしきものを渡して元のロッカーに戻っていくではないか!
 シアンが駆けよって、閉まったロッカーの扉をすぐに開けてみたが、そこには誰もいない。
(‥‥イリュージョンか?)
 首をひねる彼に『おい』と声をかけ、シルヴァリオは立ちあがる。
「俺の役は決めたから、後は適当に決めてくれ」

 そう押しつけられたキャスト表。そこには『王子‥‥シルヴァリオ』と記載されていた。

●参加者一覧

/ ケイ・リヒャルト(ga0598) / 終夜・無月(ga3084) / 雨霧 零(ga4508) / リゼット・ランドルフ(ga5171) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 白虎(ga9191) / 桂木穣治(gb5595) / ソウマ(gc0505) / サキエル・ヴァンハイム(gc1082) / フランドール(gc5217

●リプレイ本文

●あ、あんたの為じゃないんだからね!

 集まってくれたメンバーに、シアンはこういうわけだ、と大まかな諸事情を説明。
「またなのか! よくもまあ体調不良になる劇団だねえ‥‥」
 シアンさんもまた‥‥ちっこくなってるし。と、つい愛でてしまう桂木穣治(gb5595)だが、面白い事が好きである穣治。今回も快く引き受けてくれた。
「ガキの頃から芝居の縁はありそうで全くなかったからなァ‥‥ま、あたしでも構わないってならァ少し力を貸してやるかねェ」
 八重歯でもあれば見えそうなくらいニッ、と笑ってサキエル・ヴァンハイム(gc1082)は頷く。
「ハッ。パッと見、男か女か解らねェ格好してりゃ芝居みてえなモンだろ? そのままやってりゃ問題ねえよ」
「ンだと‥‥!」
 シルヴァリオのからかう様な言い草に、サキエルの紅瞳が不快の色を灯す。シアンが即座にシルヴァリオの名を強く呼び、諫めた。
「すまんな。部下が非礼を」
「ま、慣れてるけどさァ‥‥ちゃんと躾といてくれよな」
 怒っていないといえば嘘になるのだろうが、そこまで立腹したわけではない。
 ただ、シルヴァリオには妙にペースを崩されるところがあるようだ。
「それじゃ、配役は王子シルヴァリオ‥‥以外を決めるかー。決めたら役作りと内容を決めるにゃー★」
 まだ年若いというのに、意外としっかり動いてくれる白虎(ga9191)が率先して引っ張る。
「衣装は貸して貰えンのか?」
「ああ。それは問題ないはずだ。イメージに合わないのであれば多少の部分はアレンジしてもいいだろうし‥‥」
 どうせ団長かキーツに請求書を回せばいいだけの事だ。多大な金額ではないはずだし、それくらい多めに見てくれるだろう。
「何しよう‥‥お芝居は3回目ですけど、やっぱり慣れませんね」
 リゼット・ランドルフ(ga5171)が唇をすぼめて迷う中、シアンは『俺だってそうだ』と同意した。
「大尉の姿‥‥‥‥うー‥‥」
「?」
 シアンを見て急に元気を無くすリゼット。けも耳がついていたら『へにゃり』と垂れていた事だろう。
「なんか、もやもやします‥‥」
 もやもや!? 具合でも悪いのか、と驚いて詰め寄るシアンへ、力なくかぶりを振ったリゼット。
「いえ、平気です。お芝居は頑張りますから、心配しなくても大丈夫ですよ」
 ぎこちなく微笑んだリゼットに、かける言葉もなく迷いのある視線を向けているシアン。

 ユキタケ伍長と白虎の生温かい視線が絡みついているとも知らずに。
「‥‥赤枝小隊、■■ばいいのに‥‥」
 ユキタケ伍長がどす黒い声音で呟く。■の部分。報告官は聞き取れなかったが、よくない言葉のような気がする。伏せ字数的に。
「にゃ。ユキタケ君、僕は君の味方だぞー。そして台本でもいい流れを思いついた。ごにょごにょ‥‥」
 耳打ちする白虎。そこでユキタケは素晴らしいと言って、白虎に抱きついた。
「ぎゃああ、ユキタケ君。僕はそういう趣味はないー!」
 思わぬ苦しみを味わう白虎。そこへ、
「‥‥なあ、司会とかでもいいか?」
 白いもこふわがシルヴァリオに訊ねた。ちらとそれに目をやって――シルヴァリオは動きを止めた。
「‥‥‥‥ちま?」
「ん。シアンだって小さいんだから、俺がちまでも不思議じゃないよな」
 白狼、であろうか。もこふわの正体は‥‥ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)だ。
 成程確かに、ちまでも問題ない気がする。少なくともシルヴァリオ的にはオッケーである。
 無言で頷きながら、ユーリをじーっと見ているシルヴァリオ。
「‥‥なに?」
 当然ユーリ的にも居心地が悪い。
「撫でさせろ」
「だが断る!」

 そんな周囲の様子を見ていたソウマ(gc0505)。演劇的に彼はこの中で一番のベテランである。
 様々な思惑を乗せているこの演劇‥‥どうやら一筋縄ではいかないかもしれない。
 万が一巧くいかなくなりそうになっても、フォローする気概は人一倍あるが――‥‥数奇かつドラマティックになるであろう展開を楽しみたいと思う気持ちもある。
(なんだか波乱を含んだ劇になりそうですね‥‥楽しくなってきましたよ)
 ふふ、と悪戯っぽく笑って、出来上がったストーリーから役柄を導き出すのだった。

●演劇の始まり

――いろいろ端折って演劇当日。舞台の開演を告げるブザーが鳴り、幕が開く。

 そこは王宮。玉座に王様役の穣治、第一王子のシルヴァリオ、第二王子のシアンがその両脇に座っている。
 なんで玉座がそんなにいっぱいあるんだよ! ‥‥というのは気にしてはいけないのである。
「王よ。明日の『ぶとう大会』の件だが」
 唐突にシルヴァリオ王子が口にした。
「パパって呼んでもいいんだぞー? そうか、ぶとう大会か‥‥参加者は順調に集まっているようだし。シルヴァリオの活躍が今年も見られるのか、楽しみだな!」
 お妃さまに先立たれたが、男手ひとつ(?)で二人の王子を育てている王様。そのせいかとても子煩悩だ。
 つーか、その『ぶとう大会』ってなんだろう。その解説をするべく、白虎が『説明しよう』という看板を持って現れた。
「舞踏で武闘、ダブルな意味を持った大会にゃー! 試合はリズムに乗せて華麗な動きで闘う事が義務付けられるっていう、スタイリッシュな舞闘アクション大会の事ですにゃー!」
 と、再び舞台袖に消えて行く。
「――とまあ、大会は既に告知済み。審査員は‥‥父上なのか」
 シアン王子が呟けば、えへんと胸を張る王様。
「息子のいいところを見るのは当然な権利だ! 当然勝敗は公平に行うつもりだぞっ」
 どうだか、と思いつつ頑張れと気休めな声をかけるシアン王子。
「明日の服は何が良いだろうな。パパも頑張っちゃうぞー」
「いや、普通で良いだろ」
 とハッキリ言われて、王様はしょんぼりと肩を落としたのだった。 

●舞踏でバトル

 舞台が暗転し、セットが変わって――舞台は城内。
 そして(舞台上の日時で)翌日の舞闘会に話は進む。

 歓声が外から聞こえて‥‥華やかな開会式が行われているようだ。
 召使いのリゼットは、夜に行われるであろう宴の準備に追われていた。真っ白なテーブルクロスの束を大広間へと運んでいる。
『――で、どうです大臣』
『首尾は上々ですよ』
 そのうちの一室。そこから会話が聞こえてきた。舞台の上手が部屋、下手が廊下と分かれているが、ドアが完全に閉められていないのもお約束。
「今の声は‥‥大臣?」
 一応演劇なので、思った事を口に出して表現する。大きな声でもドアの向こうにいる相手には聞こえないのも演劇という舞台上の理由である。
 いけないと思いつつ、こっそりと聞き耳を立てるリゼット。いけないメイドさんだ‥‥。

 すると、ライトが切り替わった室内。中には白虎とユキタケ大臣‥‥に、クールビューティーなお嬢さんケイ・リヒャルト(ga0598)がいた。
 ちなみに彼女、出番中は常に覚醒状態なので大変である。
「――ユキタケ大臣‥‥この頃のシアン王子、如何思いまして?」
 ケイはそっとユキタケに接近し、そう尋ねる。うーん、クールかつ妖艶。報告官の大好物です。あ、聞いてない。ですよね。
「け、けしからんと‥‥思う」
 演劇にも女性にも慣れていないユキタケはドギマギしながら台詞を口にする。そこへ白虎もそうだそうだと声を荒げた。
「リア充はいついかなる時でも粛清なのだー!」
「‥‥やはり、芳しく思われておられませんのね」
 二人の荒れっぷりにクスッと笑ったケイ。
「私に考えがありますのよ。うふふ‥‥このケイ、ユキタケ大臣の為に一肌脱いでみせますわ」
「脱いでくれるんで‥‥へぶっ?!」
 単語だけに興奮してしまったユキタケ大臣。鼻息荒くケイに詰め寄ろうとした途端、舞台の上から謎の一斗缶が落ちてくる。
 ガン、とナイストンガリが頭に直撃したところで、バッタリと倒れる。動かない。
「‥‥ユキタケ大臣はこう見えて策略を練ってる最中だにゃー。ともかく、シアン王子の粛清だー」
「御意‥‥大臣の思し召す侭に‥‥」
 ナイスフォロー(?)の白虎。それに対し恭しく礼を返したケイ。そしてライトは再び下手に戻される。
 この恐ろしい現場の全てを目撃してしまった家政‥‥じゃない、召使い。口元を手で覆いながらサッと物影に身を隠すリゼット。サスペンス的な音楽も流れる。
「そ‥‥そんな、大臣が‥‥王子を‥‥?」
 こうしてはいられない――国家の一大事だ。リゼットは動揺しつつも、シアン王子を護るために立ちあがったのだった!!

――という話の間。舞台袖に引きずってこられたユキタケ。
「伍長。大丈夫か?」
 ぺしぺしとシアンが頬を軽く叩いてみるが、『リア充もげろ』と呟くだけ。頭のてっぺんにたんこぶができている。
「‥‥ユキタケさんの出番は当分ないんだから寝かせておいても困らないんじゃないか?」
 コブの具合を見た穣治。そろそろ出番ゆえ、場所的に邪魔にならないところに寝かせてあげている。

「あとは如何に確証を掴むかで‥‥」
 舞踏大会の会場へ行く人々の中、ぶつぶつ何か言いながら難しい顔をして目的地へ向かう女が一人。雨霧 零(ga4508)。
 華やかな会場で突然起こるのが事件――彼女の探偵としての勘。そこへ何者かにより『ユキタケ大臣のシアン王子暗殺計画』が彼女の元に知らされたのだ。
(ちなみに召使いは先程知ったばっかりなので彼女ではない)
 各国・各地より集いし参加者。そして見物者達‥‥この国にはたくさんの人間が集まってきていた。
「ちょうど良いタイミングで第一王子シルヴァリオが舞闘大会を開催するとの事」
 もしや第一王子も暗殺に関与していると仮定しよう。不特定多数を呼びこむ口実として舞闘大会を開催したのかもしれない。
 そのため競技に潜入し、暗殺の噂が本当なのか確かめつつ――本当ならソレを阻止しなければ‥‥!
 ここにも正義に燃える女性がいた。とはいえ、ある意味真実を知りたいという自己満足から起こるものだから、探偵に『正義』があるのかは分からないが。
 いつの間にかマイクを持って語りかける零。
「これは、容姿端麗にして頭脳明晰の『アノ』名探偵が解決に導いた複雑怪奇にして壮大、様々な人物の思惑が交錯し織り成す感動の物語であ――」
 
 ガーン、という金だらいの落ちる音がマイクの中にも入る。そのまま舞台は暗転。耳と頭がキーンとしている零を舞台袖に回収した後――舞台を再びライトが照らす。

『紳士淑女の皆さま、ようこそ、なのー!』
 何事もなかったような顔で、舞台袖からちまユーリがちまちまと歩いてくる。
 舞台を見ていた小さい子や若い女性から『可愛いー!』という歓声が上がり、ちょっと照れを隠しながらもユーリはぺこりとお辞儀をした。
「そっ、それではっ、これより舞踏大会を始めますー、なの。参加者の皆さんは、ご用意してお待ちくださいなの!」
 ぴゅっと舞台袖に引き上げて行くユーリ。大人しくしていた雪狼のラグナが近寄って彼の苦労をねぎらってくれる。
「あたしの出番はもうちっと後かァ。今のうちに服でも整えとくかなー」
 貴族風上衣を着崩し、象牙色のリボンタイを緩めにしめた。花瓶に飾ってある赤いバラを胸にさして‥‥姿見で映す。
「お、結構出来いーじゃん。どーよ、イイ男に見える?」
 上着をちょっと引っ張って違う角度から見てみたりするサキエル。ユーリが素敵なのー、とこくこく頷く。
「良いか悪いかは別として、男には見えるな」
 シルヴァリオは褒めもしなければ遠慮が無い。ちまユーリをポミポミと撫でつつ口を開いた。
「チッ。後で覚えてろよな。楽しく踊らせてやるよ、中尉サン」
「そいつは楽しみだ。精々、準備運動してな」
 ユーリはシルヴァリオの手を振り払って舞台へ駆けだしていく。

『では、挑戦者どうぞ、なのー!』
 ちまユーリが手を振り上げると、金・紅色で刺繍を施されている漆黒のタキシードに身を包んだソウマが下手より現れた。
 しかし、彼の頭には黒猫の耳と尻尾がついていて、それが不思議な事に動いたりもする。
「関るととんでもない幸運や不幸に巻き込まれる、との噂がある名門ブラックキャットのご子息、ソウマ様ですー!」
「頑張れー!」
 その隣では、シアン王子も観戦中。二人にお茶をお出しするリゼットは緊張した面持ちで周囲に気を配っていた。
 しかし、そこに‥‥ユキタケ大臣に与していたケイが近づいてきたではないか。
「こんにちはシアン王子‥‥あたしと火遊びするつもりは無くて?」
 どこか加虐的かつ妖艶な笑みを浮かべ、シアンに声をかけてくるケイ。突然声をかけられたので、不思議そうな顔で『そなたは?』と訊ねたシアン。
「あたしの事は‥‥これから知ってくだされば良いではないですか?」
 ね? と、スタイルの良い身体を軽くくねらせながらシアンの前に屈み、視線を合わせる。
「王子、こんな開けたところで観戦なんて危なくてよ‥‥? あたしと一緒に離れましょう。あら‥‥素敵な宝珠をお持ちなのね、綺麗‥‥」
 彼の首から下げられている赤い宝珠に、ほっと溜息を洩らしてから。綺麗なモノは大好きよ、と囁くように言う。
 もっとも、ケイが協力を申し出たのはシアンの事で、というわけではない。彼の持っている宝玉――最初から狙いはこれだったのである。
「勿論、シアン王子‥‥貴方もね。貴方はとても美し――」
「そこまでですっ! 王子から離れてください!!」
 びゅっ、とモップが二人の間を突き抜けた。王様の顔をかすめたが、そこはセーフだったので問題ない。

「はしたない方は、テーブルマナーから躾けて差し上げます!」
 お覚悟! と地を蹴るリゼット。ケイは不機嫌そうにそこを離れ、ソウマの横へと降りた。
「あ、次のお相手は――妖艶な美女、ケイさんのようですー! あれ、熱血召使いさんかな?」
 何だか怪しい雰囲気になったが、ハプニングも演劇のうちと受け止めて司会を続行するユーリ。
「いくら王子を撫でたいからとはいえお城で誘惑と狼藉なんて、許しませんよ!」
 私だって我慢してるのに! とつい本音を漏らしたのに気づかないリゼットは、ナイフとフォークを何処からか取り出して構える。
「ああ‥‥お二人の美しいレディのお相手とは光栄です‥‥レディ? どうか僕に貴女と踊れる名誉を頂けませんか」
 ソウマの上品な語りに会場の一部からもげろもげろとヤジが飛んだ、その時。
「リア充へのしっとに狂う時! 誰かがボクを呼ぶ合図! この世はリア充の好きになどさせん!」
 ぶぎゅる、とソウマを踏み台にしてゴシックワンピース姿の白虎がロケットランチャーを構えて飛び出してきた。ゴテゴテしいが中身は照明銃である。
「とりあえず萌えショタっ子ナンバー1の座は渡さん! 貴様には消えてもらうのにゃー!」
「危ない、シアン!」
 いきなり玉座から飛び出す王様。
 くらえー、という白虎の声。
 
 しかし。すぽ、という間抜けな音と共に、シアン王子を庇った王様の頭上にはアフロカツラが落ちてきた。

「シアンは無事だったか‥‥って、なんじゃこりゃー!?」
「コイツで貴様の萌えパワーを地に落としてくれよ‥‥って、にゃ、にゃんだとぅー!? 王様めー!」
 しかも王冠の上に落ちたので矢鱈と頭が盛り上がっている。
「フフ、僕のキョウ運の産物でもありますね」
 とりあえずシアンにとって幸運に働いたらしいが、自身はまだ足蹴にされたままであるソウマ。これは不幸だ。
「逃がしません! ‥‥あっ!」
 リゼットも追い着いてケイを攻撃――しようとして、転んだ。
 その拍子に、無数のナイフやフォークが宙を舞い、彼女らに襲い掛かってくる!
「‥‥ここは一度退いた方がよさそうね。シアン王子。またお会いしましょう?」
 軽く指先をひらひらと動かした後、下手へと走り去って行くケイ。彼女が今までいた場所に、ナイフがつき刺さった。
「ぎゃー! 暴力反対っ!」
「その前にレディ、僕の上から退いてくださいませんか!?」
 容赦なく降ってくるナイフに恐れ慄きながら、ソウマは白虎の下から彼に懇願する‥‥と、ワンピースだっためソウマからはブルマが丸見えだ。
 穿いてたのか。ブルマ。
「どこ見てるーー!!」
「これは不幸‥‥な事故です!」
 ソウマの断末魔はロケットランチャーの効果音でかき消えた。ソウマも覚醒して目も瞑ったから無傷だ。怖かっただろうけど。

●決勝戦らしい

「‥‥舞台、よく壊れないね‥‥」
 終夜・無月(ga3084)が出番の準備をしつつ割と強固な舞台作りに感心していた。
「あれは、私の読みだと特殊な加工で護られているに違いないね!」
 零が難しい顔で舞台の床を見ていたが、まあ加工はワックスがけしかしていない。
「最初から分かっていた事だけど。結構混沌としているわね、この演劇‥‥」
 戻ってきたケイがタオルで汗を拭きながら苦笑いする。
「そろそろ終盤だろ? ま、気楽にやるさ」
 舞台袖の椅子から立ちあがり、武器を手にして上手方向へ歩いて行くシルヴァリオ。
 それをいってらっしゃいと見送ったサキエル。
「‥‥にしても、中尉はあーいう格好似合うよなァ‥‥いや、何考えてんだあたしはッ!」
 彼の後姿を見ていたサキエルだが、ハッと我に返り頭をぶんぶん降る。喫煙禁止なので、咥えるだけの煙草のフィルタが強く噛まれた。
 赤い生地に金色の細かい刺繍が施された長めの上衣、ヒラヒラとしたレースタイといった正統派(?)王子服姿だ。
 ちなみに、王子の服はあのちょーちんソデとカボチャパンツではない。戦うのでアレじゃ動きにくいとはいえ残念。

 王子服の裾を翻して舞台に降り立つシルヴァリオ。今回の武器は片手剣である。
「しるおさん、頑張れー」
 謎の愛称で王子を呼ぶ王様。報告官的にもシルヴァリオと記載する手間が省けてグッドである。
 
 下手から黒ずくめの男がやってきた。
 その貌は白き仮面で覆われ、黒き甲冑にその身を包み‥‥暗夜をマントにしたかのような闇色のマント。
 どこからか『ファントムだ‥‥』というささやきが聞こえた。
 ファントム役の無月がどうやら最後の相手らしい。
 斜に構えてファントムを見ていたシルヴァリオ。
「名乗らなくていいのか? 余計な世話だが、兜じゃ死角が増えちまうんじゃねえか?」
 取ったらいいと促しているようだが、ファントムは肯んじない。
「顔や名などこの道を志した時に捨てたよ‥‥」
 それよりも、貴方の強さを見せていただこう――そう云って司会に始めてくれと視線を向けたファントム。
「はーい。それじゃ、始めー、なの!」
 ユーリの試合開始の合図と同時、ファントムが迅雷で王子の眼前へと接近した。
 その動きはまさに亡霊の名の如き速さ。流れるように抜刀術で炎を宿す刀‥‥黒刀を瞬時に抜き、王子へ斬り掛かかる。
 僅かに王子の眼が見開かれたが動かない。完全に虚をついたようにも見える攻撃だったが、王子は大剣を自身の前に斜に構え、屈む。
 回避などせず、その刃と付随する衝撃波を受け止める。彼の周囲には黒刃の効果――炎が舞い、消えた。
 その体勢から一歩踏み出し、足元を狙って薙ぎ払おうとする王子。ファントムも瞬時に明鏡止水を持ち替えた。突きだされる勢いを利用して受け流し、舞うようにくるりと体ごと移動させて足元の大剣を弾いた。
 そして鳴神に持ち替えると、僅かな隙を逃さず、武器効果の淡い紫電を残しながら再度迅雷を用いて王子に接近を試みる。
「フン、なかなか面白いじゃないか。次から次へと武器が出てくるのは楽しい」
 王子はニヤリと不敵な笑みをファントムへと向け、大剣で無数の突きを器用にさばく。
 楽しくなると思われた試合も、突如『勝負あり! 勝者ファントム!』と司会の声が上がった。
「どういうことだよ!? まだ勝負は終わってないだろ!」
 当然王子が不服そうに声を荒げるが、司会と王様はお互いに顔を見合わせた。
「芸術点、技術点も審査基準に入ってるのですー」
「あー‥‥そういや、そうだったな」
 今頃に思い出したらしい。しょうがないなと肩をすくめたシルヴァリオ王子。意外と素直だ。
 しかし、当のファントムは不完全燃焼である。もう少し戦いたかったな、とぼやき、武器を渋々しまう。
「ちょ、ちょっと待てー!! そこで王子が負けたら!! この先のあたしの出番はどーなるッ!」
 舞台袖から慌てた様子のサキエルがドタドタ走ってきた。あ、これアドリブっていうか素ですね。
「しょうがないだろ。負けは負けだ」
「‥‥そりゃ、そーかもしれねェけどよ‥‥」
 仕方ない、で、出番が無くなるのはあんまりなのではないだろうか。
 というところで、ユーリが名案とばかりに手を打った。
「ではー、飛び入り参加で謎のお姉さん? お兄さん? が、相手なのっ」
 サキエルを皆さんに紹介するユーリに『男装してるんだからそこはお兄さんだろォ!』と抗議するサキエル。いやお姉さんじゃないのか?
「ま‥‥遊べンなら、いいかァ」
 先程の紹介内容を不服そうにしていたが、すぐにニィと屈託なく笑うとレイピアを引き抜きながらシルヴァリオへと向き直った。
「――‥‥王子、次はこの私とお手合わせ願えるかな?」
 とはいえ、シルヴァリオも戦えるならそれはそれで良いようだ。頷いて今度は同じく片手剣を構え、来いと手招いた。
「片手で十分‥‥」
「ッ、言ってくれるじゃんか。刺されても泣くなよっ!?」
 先に動いたのはサキエルだった。地を蹴り、音楽に合わせるように突きと払いを行う。
 王子も突きを避け、剣で払いの軌道を止めて一歩踏み出すと肩からサキエルにぶつかり、よろけさせる。
 しかしサキエルも僅かに早く回避行動をとっていたので、ぶつかっても完全にバランスを崩すことはなかった。
 愉しい。と、声に出さず笑うサキエル。再び動いた。

「‥‥王。俺はどうすればいいだろうか」
「まあ、王子を応援してあげるんだな! しるおさん、頑張れー!」
 いた所で全く出番のないシアン。そしてまだ裏で気絶しているユキタケ。
「どうすればいいのかわからないのは、あたしだってそうなのよね‥‥」
 と呟くケイ。一応シアン王子の首飾りを再び狙うというのは残っているが、だいぶ劇はアドリブが多くなってきていた。
 そして舞台は今いいところらしい。どう出ていこうかと考えている所で、突如『この名探偵にお任せ!』と零が舞台へと走って行く。

「私はこの王宮へ事件を解決しに来た! そう、これは全てそこにいるシルヴァリオ王子の陰謀なんだっ!」
「‥‥あ?」
 突然出てきた女性に指を突き付けられ、何の事件か解らぬまま犯人扱いされるシルヴァリオ。
「シアン王子暗殺事件。私はこの事件を未然に防ごうと思ってやってきた。起こってしまった事件は、勿論平和的に解決していきたかったんだ‥‥」
「すまんが俺は生きているのだが」
 そう静かに突っ込んだシアンの声は届いていないらしい。静かに零は下手に視線を向けた。
 舞台袖では、この事態を収拾すべく(?)ソウマがカンペを見せているからだ。
「王子が危ないと気付いていたが有能な召使いによる活躍で、ユキタケ大臣の陰謀を阻止できた‥‥。ユキタケさんは気絶したまま起きなかったので、演劇上では『牢に入れた』という事にしてありますから」
「あ、注意文は読まなくていいんで!」
 舞台袖からソウマの慌てた声が聞こえ、慌てて咳払いでごまかす零。そしてソウマはケイに『陰謀がばれたってことで立ち聞きしてるそぶりを』と役柄の相談。
 ケイもこくりと頷き、出番を作ってくれた事に感謝して‥‥そっと舞台上にある柱へ寄り添う。

「‥‥っ! ユキタケ大臣の策略がバレた‥‥ッ?!」
 やばい、という顔をして名探偵の推理を訊いているケイ。だが、ちらと名残惜しそうにシアン(の首飾り)を見つめると悔しそうに自分の身体を抱きしめる。
「悔しいッ、あともう少しだったというのにっ‥‥! このあたしが、一度目を付けたお宝を奪えないなんて‥‥いつか必ず、絶対に奪ってあげるわ‥‥!」
 それまでは、ごきげんよう――

 名探偵の推理を背中で聞きながら、ケイはもう一度悔しいと叫びながら消えていった。

「犯人は、あなただ王子――いや、王子ではないまがいものゆえ、玉子と呼ぼう!」
「誰がまがい物だ! もう帰れ!」

 最後にいったこの台詞。その推理がハズれていたのはソウマのせいではない。とだけ言っておこう。

●終幕

 ‥‥当然といえば至極当然。
 演劇を終えると、会場からは微妙な雰囲気と拍手が送られていた。

「やはり、見る側には難しい演劇だったみたいですね」
「そうだな‥‥しかし此方も、何もないところから皆で考えて作り上げてもらったのは大変に心強かった」
 ありがとうとシアンは頭を下げる。ちいさいので礼儀正しい子供にしか見えない。
「オレはまだ遊び足りなかったが‥‥」
 シルヴァリオがそう言えば、無月もそれには同意した。
「また機会があれば、戦えるから。その時は」
「ああ。わかった」
 と頷くシルヴァリオ。
「では、俺はリゼットと一緒に病院へ団長の見舞いに行くが‥‥ここで解散といこう」
「え、私も一緒にですか?」
 きょとんとするリゼットに、シアンは『さっき撫でたいって言ってただろう』とこともなげに答えた。
「あっ、えっと、それは‥‥」
 返事に窮している彼女と逆に、白虎が『桃色は禁止にゃー! ついでにショタのナンバー1は譲らないー!』と憤慨している。
「まぁまぁ、みんなお疲れ様なの。そうだ、俺も団長というのに文句くらい言って帰ろうかな。プロ意識持ってほしいって」
 劇団は学習能力なさすぎる、と呆れているユーリ。まさしくその通りである。
「よーし、無事に終わった事だしパーッと飲みに行こうぜ! シアンさんは元に戻ってから、ソウマさんと白虎さんはノンアルコールだな!」
 と、穣治が明るく場を取り直し、皆で病院に行った後に打ち上げを行うことになった。

 その後、舞台の苦情を訊きながらめそめそと団長が泣いたのは言うまでもない。