●リプレイ本文
●戦いも突然に
突如現れたティターン。依頼はワームの撃退だけではなかったじゃないか。
そうぼやいたところで、遭遇してしまったものは仕方が無い。
相手はゼオン・ジハイドのシルヴァリオだという。
「まーた強そうなの出たっ! えと、シ‥‥シルヴァリオ? こうなったらジハイド全員見てやりますっ!」
ヨグ=ニグラス(
gb1949)が嫌そうな声を上げてライフルを握る。
「まったく、よく会うわね‥‥今度もぞくぞくさせてくれるのかしら‥‥? ねえ、シルヴァリオ?」
ケイ・リヒャルト(
ga0598)がモニタに映るティターンを見つめ、静かに訊う。
無論その男に聞こえているはずはなく、間近に迫ってくる。
「はて‥‥? 以前連れてた強化人間がいないね‥‥」
以前の強化人間。ルエラの事だろう。鳳覚羅(
gb3095)が軽く周囲を視認した後に呟く。
が、注意を怠るわけにはいかない。
「赤枝小隊は下がって周辺警戒とAPCの護衛を頼む。こいつは俺たちで抑える!!」
愛機天駆を操る神撫(
gb0167)が前に出て、迫りくるティターンを睨みつけた。
「まさか、ゼオンの一角と戦う事になるとは夢にも思いませんでしたわね。
まあ、起きてしまった事は仕方有りませんわ。微力ながら最善を尽くさせて頂きますわね」
回り込むように移動し、左斜め後方に位置したクラリッサ・メディスン(
ga0853)。
機動力のある敵の機体へ的確な狙撃を行うより、この場合は弾幕を張るほうが適していると考え、面射撃を行う。
「陣形を形成するまで、射撃で固めるんだ!」
鹿嶋 悠(
gb1333)は適度な距離まではライフルで応戦する算段だ。
「まずは様子見、か」
悠の後方より仮染 勇輝(
gb1239)とサキエル・ヴァンハイム(
gc1082)もクラリッサと共に射撃で援護する。
だがシルヴァリオも身を削るほど愚かな突撃を慣行しない。持ち前の機動性で避けつつ距離を縮めてきた。
「トヲイ!」
同隊の漸 王零(
ga2930)が煉条トヲイ(
ga0236)の名を呼び、トヲイも頷いてロッテを組む。
陽動役を買って出たトヲイの脳裏には、以前行ったシルヴァリオとのやりとりが駆け巡る。
『何故、戦う?』
訊いた言葉は自分に戻ってきた。予期せぬ言葉に、更にあの男は言ったのだ。
『――戦うのが好きなんだろ?』
それを即座に否定できなかったのは何故なんだ。まさか、俺も――
――いいや。
「俺は、違う‥‥!」
憤りさえ感じさせつつ、トヲイはリニア砲の砲口をティターンへと向けた。
●結束と力
ティターンの肉片を削りつつも射撃と近距離の波状攻撃が織り交ぜられる。
「よう。シルヴァリオ。いつもの斧使いっていえばわかるか?」
神撫がそう確認してみたが、返事は遅かった。
「どっちか解らんが、その声は聞きおぼえがある」
顔を見れば分かる程度に覚えているということだろう。
人の胸に風穴を開けたくせに、いい加減名前くらいは覚えろと毒づく神撫の攻撃にも熱がこもる。
AFを使用しつつ、攻撃と攻撃の隙間を埋めるように射撃を行う斑鳩・八雲(
ga8672)。時折知覚を織り交ぜつつ、距離を微妙な位置で保っていた。
リゼット・ランドルフ(
ga5171)とルノア・アラバスター(
gb5133)が覚羅と共に包囲に入る。
お互い所属する小隊が同じということで、タイミングも計りやすいのだろう。特に何も云わずとも絶好のタイミングで行動を行っていた。
(なかなか飛ばないわね。嫌って空に逃げるかと思ったのに)
使うつもりがハナからないのか。クラリッサは不思議そうな顔をしたが、飛ばないのであれば此方も包囲はやりやすい。
しかし巧みに手にしている盾で受け止め、サーベルでKVの装甲を貫かんと素早く突きや薙ぎ払いを繰り出してくる。
サーベルのせいで悠の装甲が少し削れ、嫌な音を立てる。
ルノアが手首の関節を狙いながら、敵が良く攻撃を受けていた所をチェックする。
同じくそれとなく損傷度を見るシルヴァリオ。射撃対応のKVは機動性に関する場所‥‥特に飛行ユニットを集中して狙っているようだ。
「フン‥‥これだけの人数がいて、狙うのがユニットとはな‥‥」
相手の機動力を奪うのは定石でもあるのだが、真っ向勝負で叩き伏せるのを由とするシルヴァリオにとっては興味を無くすのに十分だった。
一撃で吹き飛ばしてやれるのなら、どれほど愉快であろうか。
「うん‥‥?」
プロトン砲を使うつもりだろう。というのを朧げに察知した王零。トヲイに手で合図して直線に並び、攻撃を仕掛ける。
予測通りにプロトン砲に反応があったが――バグアはプロトン砲を使用するのを止め、手にしていた盾を左腹部位置に刺す。
「フッ。いいぜ、そんなにやりたきゃ、くれてやるよ‥‥!」
武器を瞬時に持ち替え、甘んじて二つの撃を受けるシルヴァリオ。
「なんだ‥‥? まさか勝てぬからと勝負を投げるはずはないと思うんだが‥‥」
ユニットを切断した王零が軽い戸惑いを見せる。だが、シルヴァリオの双眸や思考に諦めがあるわけではなかった。
狙ってくるという事は――
宙を舞う破片。すれちがいざまに王零の背面へサーベルを突き刺して、押さえつけるかのように力を込めた。
こちらとてただでくれてやるわけはない。
――折られる覚悟もできているからなんだろうな?
シルヴァリオに対する怒号。無論知った事ではない。
銃弾を鱈腹浴びるのも承知でサーベルを使い、斬り裂――く前に悠の帝虎とトヲイの雷電がすぐに割って入ったので無事だったが、
突き立てられた際に、めき。という軋む音がコクピットにまで届いた事に対して、王零は舌打ちする。
「慢心していたつもりはないんだけどね‥‥」
離脱した王零機。そして、シルヴァリオのティターンは再びプロトン砲を構える。
そうはさせぬとばかりに身構えて狙いをつけるクラリッサ。
よく観察していたケイは、プロトン砲口を見つめながら、発射と同時にいつでも射撃できるように構えていた。
割って入るように、無線からミネルヴァ曹長の緊迫した声が上がる。
「右75度の方向より反応! 識別ナンバーなし!」
「近くに、他の味方はいないはずですが‥‥敵の無人機? いえ、件の強化人間ですかね?」
たまには身の丈にあった敵と戦いたい、と零す八雲だが、その微笑みは苦くもならない。
――増援か‥‥!
緊迫した空気が流れるとともにすぐに現れたタロス。
群がるKVへフェザー砲を撃ち、己へと向かってくる数機を素早く躱し、シルヴァリオを狙うヨグの手元の武器を狙って射撃。軌道さえ逸らせれば問題ないのだ。
「あ、あの人も射撃得意なんですかっ?!」
うー、と小さく唸るヨグ。シルヴァリオから離すとブーストで加速しながらシルヴァリオの背面へと回る。
「なぜ来た!」
「主が戦っているというのに、呆とする僕(しもべ)がどこにいますか」
中にはそういうのもいるかもしれないのだが、ルエラはそう言い切る。だが、すぐにリゼットがブースト加速でやってきて包囲を改めて形成し、ルノアら同小隊で囲んで行く。
「庭園の茨の囲い‥‥そう簡単に抜けられないよ?」
覚羅の穏やかな口調は、逆に怖い。
「私、ガーデニングに興味はないのよ」
剣を振るう方が好きではあるが、こうして相手のペースを潰すのも嫌いではない。
銃、剣を持ち変えつつ織り交ぜて、後方にも狙いを定めつつ一定の距離を保たせている。
悠へ斬りかかったルエラだったが、悠は攻撃を刀身で受けると相手の力を利用し、受け流す。
そのまま振りきらせたいところだったが、タロスは軸と反対の足にも力を入れ、ブーストを軽く噴射させて押しとどめてくる。
「地球人は面倒な事が好きだな。腕ごと斬り落とした方がオレは好きだが」
「こうも相手が多くては、全部の腕を切っている暇はありませんし」
暇があっても、やらせてくれるはずはないのだが。
「一対一なら間違いなく負ける自信がありますよ、シルヴァリオ。まぁ、策を弄する余地が大きいのはいいことです。きっとね」
八雲がルエラに射撃を試みながら応えた。その口調は何故か優しい。
力の差が大きい相手には、まともにやって勝てるはずが無い。だからこそ、戦術や策という物があるのだ。
「シルヴァリオ‥‥こういう形で会うのは初めてだなァ?」
ゼロディフェンダーを振りかぶったサキエルに、バグアの男は肩をすくめた。
「お前らはオレの名を呼ぶのがやけに好きだな。そう慣れ親しまれても、顔が見えなけりゃ誰だか解らないぜ」
盾で軽くいなすと、側面から砂を寄せるようにして集めると、彼女の前でそれを蹴る。
「っ!」
一瞬立ち上る砂。身構えたサキエルを盾で殴りつけるように押し退けた刹那に、勇輝からインヴィジブル・カラドボルグたる必殺技を受けた。
強い衝撃がティターンを襲い、上体を崩す。
「この‥‥」
サーベルを突きだしたが、ブースト使用でやってきたケイはサーベルをヒートDで弾き、メアリオンでのカウンターをお見舞いする。
「神撫‥‥今よ‥‥っ!」
「ありがとう、一気に突っ込む。援護頼むね!」
好機と読み取った神撫。アクチュエータ起動で突っ込んでいった。
後方へ下がるケイのため、追撃させぬようにとヨグが援護射撃で塞ぐ。ケイはすぐにその場を離れ、神撫が仕掛けるのを察知したリゼットとルノアが射撃を重ねて援護する。
妨害を試みようとするルエラにサキエルと覚羅が対応し、中へと入らせない。
「天衝2枚看板、汝に避け切れるか? 好きだと言っていた戦い方にしてやろう!」
王零とトヲイの両機も後方から接近し、同時攻撃により盾を持っていた腕を斬り落とした。
潤滑油が血液のように噴き出し、砂上やKVにかかる。
眼前には雪村を携えた神撫が迫っており、
「これが俺の奥の手だ!」
以前の借りを返す意味で、ティターンの胸部を狙う。
右手のサーベルで、神撫の攻撃を払うつもりで振ったのだが‥‥右手首も、宙を舞う。
「意外と、射撃も当て続ければ‥‥」
「はい。やれるものですね」
ルノアが淡々と語る横で、リゼットも頷いた――ようだ。微かにKVの頭部が動いていた。
「――シルヴァリオ。1人で戦っている貴様にだけは屈する訳には行かない。絶対に!」
トヲイの声が彼に届いたと同時。神撫の剣を胸部に受けていた。
「ま、仲間同士の連携が功を奏してるってことだなぁ」
勇輝の声に反応するティターン。
仲間、だと。
そんなものが、お前らを強くする要素だというのか?
――個々の力を増幅させるとでもいうのか。ならば、仲間とは一体どういう存在なのだ。
「‥‥シルヴァリオ様。そろそろお戻りにならなければ」
ルエラが低く呻く。シルヴァリオも用件があったのを思い出し、そんな時間かと舌打ちした。
この機体は残念ながら使えまい。脱出し、爆破しておくしかないだろう。
答えの出ない考えを中断させ、自爆ボタンを押して脱出レバーを強く引いた。
「――逃がしはしない‥‥!!」
逃すものかと追撃をかけるため、HOGを使用して機槍を構えるトヲイ。
射出の瞬間を狙い、仕掛けるつもりなのだ‥‥!
「あなたの好きに――やらせも、しないわ」
包囲されていようと構わずルエラは瞬時にライフル銃を抜き、KVの頭部に向かって数発射撃。ルエラのほうにも数人が気を向けたが、彼女も敏感にその気配を察知しブーストの使用ですぐにその場を離れた。
「クッ‥‥! 何処行く気だよ、あァ!?」
サキエルの苛立ちをも無視し、飛び去っていく円板と、タロス。他に何かを言いたげな能力者達は止むなくそれを見送る形になった。
それぞれ思うところもあるのだろうが、トヲイは真一文字に口を結び、目を伏せる。
結局答えは出ずじまいだった、と。
シルヴァリオの機体は証拠を残さないという理由もあるのか炎上させたようだが、戦い終わって幸いにして怪我というものもなく、赤枝小隊も無事だったため、撃退は成功したようだ。
●
「何故、オレを庇った?」
帰還後、シルヴァリオは己の後方を歩くルエラにそう尋ねる。
「あのまま放っておけば、オレは地球人のKVに貫かれて負傷しただろう。どうして出てきた」
彼女は微かに眉根を寄せ、主の表情を見つめたが――そこから表情を読み取る事は出来なかった。
「あなたを護るのが、私の役目です。恐らく説明してもバグアには理解し難い、意識感情の一つです」
「‥‥フン。」
ルエラとて、ただシルヴァリオが危険だったから行ったというだけだ。しかしこの男は分からぬだろうから、ルエラはそれ以上の理由を告げなかった。
『共に闘うのだから当然だ』という事を。