●リプレイ本文
●冬のお買いもの
待ち合わせ場所で待機しているユーディー。
白い息が虚空にとけるが、今日は寒さも苦にならない。
「なあ? ユーディーさん、やね?」
そんな彼女に、後方から女性の声がかかる。そこに立っていたのはCerberus(
ga8178)と白藤(
gb7879)。
ユーディーは『あなたは?』というそぶりで小首を傾げ、白藤は『白藤言うねん、よろしゅうな♪ こっちが恋人のけーちゃん』と紹介する。
「ユーディーさん。お久しぶりですね!」
手を振って近づいてくる南 十星(
gc1722)に、リュウナ・セルフィン(
gb4746)達。ユーディーの姿を確認すると、駆けてきた。
「リュウナ様、走ると危ないですよ!」
東青 龍牙(
gb5019)の諫める声を聞き、その後ろからゆっくり歩いてくる西島 百白(
ga2123)。
待ち合わせ場所に集まってくれた仲間達に自己紹介をした後、何処に行けばいいのかな、と漏らす。
「そうね、書店でクリスマス関係の内容が掲載されている雑誌を先に買うのはどう?」
休憩も取り入れながら買い物の情報収集をしましょう――天道 桃華(
gb0097)が人好きのしそうな笑みを浮かべてアドバイスをする。
まずは書店へ立ち寄る。が、雑誌といえども種類は多い。
「色々な‥‥雑誌‥‥が‥‥あるのです、ね‥‥」
「ああ‥‥選ぶのも‥‥面倒になる、な‥‥」
ユーディーと並び、平積みにされた大量の関連雑誌や書籍達を見つめながら、目をぱちぱちとさせる秋姫・フローズン(
gc5849)と百白。
「ファッション関係の雑誌などがいいのかもしれないが‥‥私も戦場ばかり駆けてきたから判らないな‥‥」
だから、一緒に勉強させてもらおうと思う、と柳眉を寄せながらザインフラウ(
gb9550)は苦笑いした。
「フラウが一緒だったら、心強い‥‥」
ユーディーが雑誌をめくりながら呟いた言葉に、ザインフラウはゆっくりと視線を彼女に向ける。
「‥‥フラウって、呼んでみようかと‥‥嫌だったら呼ばない‥‥から」
心なしか、表情が硬い。どうやら恥ずかしいのを堪えているようだ。
ザインフラウは違う意味で苦笑し、違う本を手に取った。
そのやりとりを見ていたラルス・フェルセン(
ga5133)は、先日受け取った手紙を思い出す。
(自分からー、人と関わろうとしようとはー、ユーディー君も、変わられましたね〜)
良い方向に変わっていく彼女。とても素敵な事だなと感じたラルスは、彼女の力になろうと思いつつ視線を棚に移す。
そこには子猫の日めくりカレンダーがあり、あまりの可愛さに破顔した。
●洋服選び、なう。
「うにゃー! 張り切って行くなりよー!」
両手を上げ、やる気ポーズ中のリュウナがハタと気付く。
「‥‥そういえば、リュウナの服は龍ちゃんが買ってきてたなり」
リュウナの初めてのお買い物なり! と息巻くリュウナをよそに、白藤は服の好みなどをユーディーへ訊ねる。
「レースとかフリルは好きなん?」
「‥‥子供の頃にしか着た事が無い気がするわ‥‥」
というより、好みはあまり気にした事が無いらしい。
んじゃ趣味や好みに合うもんも見つけられたらええな、と言った。
すかさず『あれなり!』と叫んだリュウナがビッと店の一つを指さす。
「サンタさんの服なりね! ああいう服とか龍ちゃんの押し入れに沢山あるなり!」
「リュウナ様! 押し入れを勝手に開けてはいけません!」
真っ赤になってあたふたする龍牙。
「あ‥‥楽しそう‥‥な、お店‥‥です、ね‥‥」
店頭にある可愛らしいメイド服に小さな笑みを見せた秋姫。
でしょ? と同意を求めつつ、桃華はユーディーを伴って店に入ってしまう。
「こういう時はミニスカのサンタコスと決まっているのよ! ネコミミつける? あ、尻尾もあるといいわよね♪」
「意味、あるの?」
ユーディーの怪訝そうな顔に、大ありよ! と頷いて服を押し当てていく桃華。ユーディーは渡された服の試着を始めた。
「んー、ええなあ。なぁけーちゃん、どっちがええと思う?」
白藤も幾つかサンタコスを手にして彼氏へ訊ねる。どちらも似合うと答え、優しく微笑むCerberus――なにこのリア充風景。
「猫耳をつけると、肝心の帽子がかぶれないな」
「いーのいーの、必要ないのよ」
ザインフラウが鏡を見つめながら帽子をつけようとするのだが、桃華がそれを押しとどめる。
女性陣はサンタコスで和気あいあい。龍牙は手慣れた様子でユーディーや秋姫のコーディネートを手伝った。
「さぁこの姿に萌えるがいいわ!」
しかし桃華、ノリノリである。ラルスも『皆さん〜、良くー、お似合い〜ですよー』と目の保養にしている。
百白は何故かヒゲメガネを付けて、十星は赤くなりつつもトナカイの角を試着していた。なんだ、みんな楽しそうだな。
「――ちょっと待て。行くのはコスプレパーティ‥‥じゃないんだろう?」
見かねたCerberusが指摘する。ハッと気付いたユーディーは猫耳を外す。
「‥‥そうだった。ちょっと面白かったけど、違う」
面白かったのかよ。
「龍ちゃん巫女服とかも持ってるなりよ。今度遊びに来るといいなり」
リュウナは無垢な笑顔で言うのだが、龍牙にまた窘められていた。
「にゃっ、あっちにも凄いドレスがあるなり!」
「本当ね‥‥」
今度こそと思い、豪華なドレスのあるブティックに入――「おい待て、その店はパーティドレスではなくウェディングドレスの店だ」
ため息交じりに今日何度目かの突っ込みをしたCerberus。保護者とか引率の先生みたいになっている。
そうして軌道修正をさせた後、今度こそパーティドレス関係の店へと入った。
「わぁ‥‥綺麗‥‥です‥‥」
うっとりとした表情で、秋姫もドレス達を眺めていた。
(パーティー用の‥‥服‥‥か‥‥)
ぼーっと脳内で(自分の)クローゼットの中身を検索する百白。
「‥‥ジャージしか‥‥無い‥‥」
検索結果が自然と口をつく。やや左にいたCerberusが思わず視線を向ける。
「この際、一緒に探せばいいのではないだろうか」
「時間が‥‥あればな‥‥」
そういって、時間もかかると踏んだのだろう。百白は店の外のベンチへと移動する。
Cerberusは視線で見送ってから、店内をざっと見渡す。男物も少しばかりだが置いてあるようだ。
「ユーディーさんには黒か青を基調にしたカジュアルなものが似合うと思うのですよ」
手を触れるのですら躊躇するが、十星が近くのドレスの感想を『どうでしょう?』と訊いてくる。
「ミニスカワンピースでも別に良いと思うのよね〜?」
桃華もそう言ってはユーディーの見立てをしてくれる。
「すぐ下の弟ですとー、女性服選びもー、得意なのですがね〜」
妹の服なども良く選んでくれましたからと、小さく唸るラルス。しかし女性達に任せるだけでなく、ユーディーの反応を伺ってはそれを皆に伝える。
「ユーディーさん、アクセサリーでイメージを調和させる事も出来ますから、難しく考えなくても大丈夫ですよ」
龍牙とザインフラウがアドバイスする。
好きなもの等も特に選んだ事が無かったな、と思うユーディー。
彼女にとってはあるから選んで、機能が優れているから買う。好みを優先した事すらなかったのだ。
だから、こんな事ですごく戸惑う。しかしそれが――
「‥‥買い物って、楽しいわね」
その気持ちが伝わったのだろうか。
「ユーディーっちが楽しいと、リュウナ達も嬉しいなりー!」
リュウナが微笑んでくれた。
「髪飾りとかあれば、また一味ちゃうんやけどなぁ‥‥」
ここにはコサージュ程度しか置いていないようだった。ユーディーの視線を参考に選ぶ白藤。
「パーティとはいえ、決めすぎても浮きかねない。シンプルなのがいいだろう」
(お、さすがけーちゃんやなぁ‥‥♪)
結構面倒見の良い人である。
さりげなくアドバイスをするCerberusの声に、白藤はくすりと笑う。
折角だし、彼と対になりそうなドレスでも探してみようか。一体、どんな物が良いかな。と、彼に似合いそうな服等も見ていたのだった。
●休憩。
とりあえずドレスは購入できたので一休みするため、喫茶店に立ち寄る一行。
結局ユーディーは背中が大きく開いた白いロングドレスにしたようだ。
秋姫と選んでいた青いドレスと迷った時に店員さんに試着を勧められ、一緒に試着したりして選んだ。
もっとも――秋姫に一緒に着ましょうと勧められたのがおおむね好評だったのでこれにした、という経緯なのだが。
一人やや離れた所に座っている百白。ユーディーと視線が合うと目だけで『別に何でもない』と伝えたようにも見える。
無口な者同士で感じられるアイコンタクトなのだろう。 邪魔にならないように荷物を置き、買ってきた雑誌を広げ、良さそうな店を物色する。
「次は〜、アクセサリー等ですかー。ああ、ハンドバックや〜、靴もー、必要ですね〜?」
紅茶を口に運びながらラルスは雑誌を見つめる。確かに小物も重要な存在なのだ。
「これは‥‥どう‥‥でしょう‥‥か‥‥?」
写真のネックレスを指す秋姫。紹介されている店舗もこの辺から近い。
「オトナの人ってパーティーの時にどういうのを着るんですか?」
参考までに皆の意見を求めてみた龍牙なのだが、白藤も袖を振り振りしながら『場所と雰囲気に合わせて変えたりかなあ‥‥』と考える。
「私、も‥‥詳しくは、ないので‥‥」
困ったように秋姫もおどおど答える。桃華は頬に手を当て、虚空を見つめながら答える。
「豪華にリボンとかフリルをたくさん着けた服とかかしら〜? 別に問題ないと思うんだけど」
ちなみに、ザインフラウとユーディーは経験が無いので口を挟まなかった。
既に百白は先に会計を済ませていて、領収書まできっちり貰っていた。
「うし、買い物まだまだ行くなりよー!」
ホットケーキを美味しそうに食べつつ、時折龍牙やユーディーにもあげていたリュウナ。
食べ終わるとすぐに行動に移ろうとしている。
丁度次に行こうとする店の目星も付けていた頃なので、皆も同意して立ち上がる。
ささっとラルスと十星へ近づいた白藤。彼らにしか聞こえないような小声で訊ねてみた。
「男性って、どないなもんクリスマスにもろたら嬉しいやろ、か‥‥?」
彼女は恋人にあげるのだろう。だとしたら、その彼が喜ぶものをという気持ちも解らないわけではない。
それを汲み、二人は『白藤さんの好きなものとかどうでしょう?』と返した。
●装飾品
きらきらと輝くアクセサリや引き立たせるための小物類、有難い事に雑貨も取り扱うショップだった。
「この猫のイヤリングなどどうでしょうか?」
十星の示す猫のイヤリングは目の部分にジルコニアが入っており、光を受けると輝く。
ドレスはシンプルなもので大人のイメージがあったので、小物で少し甘さを出すのも良いだろうというアドバイスも取り入れ、それを購入した。
「紫を少し入れてはー如何でしょう〜? ユーディー君の瞳の色はー、綺麗ですし〜」
なかなか照れて言いづらい事を平然と言ってのけたラルス。普通の女性であれば赤面して『もうラルスさんのバカッ★』とか言っちゃっていい雰囲気なのだが、
ユーディーは目の前の鏡を見つめ『そう‥‥?』と目を瞬かせる。だが、褒められて悪い気になる人間などおらず、今回の彼女も例外でないようだ。
「派手な物よりはシンプルなものが似合いそうだな、これなどはどうかな?」
翼をモチーフにしたものや、水晶を使用したアクセサリを衣装に合わせたものと、ユーディー自身に合わせたものと選別しながら選んでくれる。
「多分、こっちはフラウのほうが、似合う‥‥気がする」
青い石がアクセントとして飾られた銀のブレスレットを指し示すユーディー。
「そうだろうか‥‥あまり使った事が無いからな‥‥」
似た者同士ということだろう。首を傾げながらも腕にはめてみたりするザインフラウ。
白藤はCerberusの視線の先をちらちらと追いながら、彼の趣味をさりげなくリサーチしている。なんという可愛らしい乙女心。
ふと、自分の近くの棚に飾ってあったペアカップ。
「わんこと‥‥にゃんこやー‥‥v」
けーちゃんと、ウチみたいなん。
思わず手にとって眺める白藤を――Cerberusもまた目を細めて見つめているのだった。
「パーティの予行演習‥‥?」
「反省会&作戦会議の延長ってトコ。気楽にやりましょ?」
店の外で待機していた百白は、桃華からの相談――場所の提供と準備を受けて頷いた。
口では面倒だと零しながらも、たまにはこんな面倒事も悪くはないようだ。
「あ、では私も手伝います♪」
一足先に準備をするため龍牙も百白の後を追い、走り去った。
「そういえば、パーティーに一緒に行く人は決まっているのですか?」
猫喫茶という響きに心躍る数人。ゆっくり次なる目的地へと向かいながら、十星はユーディーへ訊ねる。
特に決まってないが、来てくれる人がいるならという返答の彼女。
「もし相手がいないなら、私がお供致しますよ?」
一緒に行きたいのだろう。十星は自ら申し出る。
「ありがとう‥‥パーティも、楽しめたらいいな‥‥」
ユーディーは十星にそう言うと、じっと此方を見つめていた秋姫へ近づく。
「あなたが一緒に選んでくれたネックレスも、とても可愛かった。ありがとう」
言われた秋姫は恥ずかしそうに微笑む。
「喜んでいただけて嬉しいです‥‥あの‥‥良かったら‥‥お友達になってくださいませんか‥‥?」
迷惑でなければ、と思ったのだが、ユーディーは真顔で彼女を見つめる。
「友人になるのに、承諾とかはいらないと思う‥‥」
だって、私もこうして友達がいてくれるから。
その意味を正確に解したと思われる秋姫は、頷いてから嬉しそうにユーディーの手を握った。
それを握り返したところで、ユーディーははたと気づいた事がある。
「‥‥紫、取り入れられなかった」
ラルスのアドバイスの件だろう。どうやら思い出した後で少しばかり落ち込んでいるらしい。
急に押し黙るユーディーが気を悪くしたのかとおろおろする秋姫。察する事ができるようになってきたラルス。
心配は無用です、とラルスは秋姫とユーディーへ言い聞かせ、先程の店で購入したショールをユーディーへと差し出す。
藤色のショールだ。思わずラルスの顔を凝視するユーディーに、ラルスはくすぐったそうに笑った。
「クリスマス前のー、プレゼントです〜。パーティーで、使って頂ければー嬉しいです〜」
その笑顔をしばらく見つめた後で、ユーディーはそっと両手でショールを胸に寄せて抱き締める。
「‥‥ありがとう」
どういたしましてと微笑むラルス。つられてユーディーも表情を微かにほころばせた。
「今日は、楽しい」
そう呟かれた言葉に、その場にいた面々は顔を見合わせ、互いに表情を緩ませる。
まだ楽しい事があるわよ! と言った桃華が――ねこねこ喫茶を指し示した。