タイトル:Xmasカプリッチョマスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/27 22:37

●オープニング本文


●ついに来てしまった

 今日も明日もその先も、『そういう風潮』だと気にしなければ、きっと彼は幸せであったかもしれない。
 しかし、あろうことか彼の仲間が気づかせてしまった。

『410通信』という、心に消えぬしっとの灯りをともしている男たちのメルマガに記載されていたのである。
 今日は何の日? というフツーの見出しの後で

――クリスマスは、滅殺ダゾー?

 と記されてあった。

「クリスマスは何故家族で過ごさないのか! 友達とだっていいじゃない!」
 毎年変わらぬスローガンで行動を起こす彼らには、一種の提案があった。

「クリスマスの会場を、我らで作ろうじゃないか」

 どうせリア充たちもキャッキャウフフと遊ぶ(と言っているが、結局のところカップルの妨害行動を行う)我らを許さぬだろう。
 であれば、最初からその会場を設置してやればいいのだ。
 彼らとてクリスマスの行事が憎いわけではない。クリスマスに、よりによってカップルが大量発生するという惨状が嫌なだけなのだ。
 だが、いきなり戦地と化してしまうには忍びない。
 嫌だからといって街に繰り出して行動をしていれば――何故かリア充のシアンに見つかって、あろうことかリア充仲間を率いて抑止力として介入してくるし、
 かといって目の上のコブであるシアンを叩こうものなら、巡り巡って此方が袋叩きにされるのである。
『なお、シアン大尉に悟られないように』という注意事項がメルマガについている位だ。
 そこでよせばいいのに、彼らはとある策を打ち出した。
 
 ここは普通のパーティー会場の作成をしよう。
 そして、彼らと志を同じくする(要するに独り身)のではない者――ノコノコやってきてしまった哀れなリア充はBOKOろう、と。

「クリスマスは決戦日! いざ、ケーキで顔を洗い、チキンで敵の眉間を狙い撃つ為の戦場を作成するぞ!」
「クリスマスの決戦場を作成するため、手伝ってくれる同士求む」

 ということで、彼らは早速有志を募るのであった。

 あ、もちろん、あとでスタッフ(参加者)たちが美味しくいただきますからね。ご安心を。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
くれあ(ga9206
17歳・♀・DF
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
常 雲雁(gb3000
23歳・♂・GP
天原 慎吾(gc1445
16歳・♂・FC
エシック・ランカスター(gc4778
27歳・♂・AA
マリンチェ・ピアソラ(gc6303
15歳・♀・EP

●リプレイ本文

●みんなで準備っ!

「みなさん、クリスマスの準備を手伝ってくださるそうで‥‥お忙しい所ありがとうございます!」
 頑張りましょうと言いながら丁寧に頭を下げるユキタケ。ここまで見れば普通にいい人である。
「クリスマスか‥‥ふ‥‥束の間の休息も‥‥良いだろうな‥‥」
 紅月・焔(gb1386)がしみじみと穏やかな微笑みを浮かべていたが、すぐに刮目し、会場が揺れるような錯覚を抱くほどの大声を出した。
「だが断る!」
「どっちですかっ!?」
 ユキタケのツッコミにも、『やるに決まってるだろ!』と、妙に燃える焔。まさに名は体を示すほどのやる気である。
 二人掛けの椅子が気にくわないのか、じっと眺めていると思いきやのこぎりと材木を手に取って作業しはじめる。
「さてさて‥‥協力して準備をしましょうか?」
 備え付けてあったモップや箒を持ち出して、床の清掃から始める天原 慎吾(gc1445)。一緒に運びますよと進んで手伝ってくれるユキタケはニコニコと笑顔を絶やさない。
(伍長がクリスマス、ねぇ‥‥? 何かちょっと裏がありそうだなぁ‥‥)
 そんな笑顔の裏に垣間見えるものでもあったのか、少しばかり常 雲雁(gb3000)が訝しんだようだ。かなりイイセンいっているが考えている事‥‥『リア充爆発しろ』までは伝わるまい。

「ク・リ・ス・マ・ス〜♪ 一緒に過ごす予定の人はいないけど、このうきうきした雰囲気って良いよね♪」
 マリンチェ・ピアソラ(gc6303)がまさに言葉通りの弾む気持ちで、ツリーや会場の飾りつけをどうしようかと考えている。
 クリスマスと聞いて一瞬表情を曇らせたユキタケに『何だか暗いぞー? 笑顔笑顔』と言いつつ当人から明るい笑顔を見せ、それに軽く微笑み返すユキタケ。
 どうした、ユキタケ! 女の子がキミに笑いかけているんだぞ! もっと喜ぶんだ!
 なぜか報告官のほうに力が入ってしまったが、当のユキタケ伍長はマリンチェに気付かれぬよう溜息を吐く。
(クリスマスかぁ。僕だって本当はこんな事したくないんだよなぁ)
 幸せにクリスマスが楽しめればそれでいいのだが、生憎と『大事な人と過ごす』の『大事』は恋人、というイメージが大半を占める風潮がそうさせてはくれないようだ。
「乱闘がある、と聞いたんだよね」
 マリンチェは強化アクリル板にスプレーで絵を描きながら、同じくアクリル板へ模造紙の下絵を参考に美しい絵を描こうとしているエシック・ランカスター(gc4778)に話しかけた。
「おや? 暴動を警戒しているようですね。クリスマスのイベントがそんな物騒なわけ‥‥」
 ありませんよ、と続けたかっただろうエシックは口を開いたが、なんだかよく分からないユキタケの歓声に消され、マリンチェに届く事はなかった。
 何事かと思えば金髪巨乳ツインテールメイドのくれあ(ga9206)がぱっちん、とウィンクをユキタケにくれる。なに、このお色気も作戦のうちだ。
「ユキタケさん、がんばりましょーねっ♪」
「はひっ、頑張ります!!」
 しかし可哀想な伍長はそれに気づかず、妙に鼻息荒く頑張りますとテキパキ動いている。恐らくいいところを見せて(かっこつけて)『キャーユキタケサーン!』されたいのだろう。
「ユキタケさんってこんな性格でしたっけ‥‥?」
「さぁ‥‥でも、多分あんな感じだったと思うけど」
 慎吾が残念な感じのユキタケの行動を見ながら雲雁に訊ねるが、雲雁もそこまで伍長に詳しくはない。しかし思い起こしてみれば、という範囲で当てはまるようだ。
(ふふー、リア充は爆破爆破! そして僕は充実したクリスマスを過ごすんだ‥‥)
 妄想内でも爆破。あまり中身も充実していなさそうである。可哀想なユキタケの前に、突如ヌッと血みどろの何かが現れた!!
「おわぁーッ!? なんかリア充のお化け出た!?」
 驚きのあまり腰を抜かした彼に、大丈夫か、と手を差し出したのはその血みどろの何か。
 よく見れば終夜・無月(ga3084)である。
 そのお気持ちだけで大丈夫ですとユキタケがやんわり拒否すると、そうか、と抑揚のない声で返す無月はシャワーを借りてくると言い残して奥へと消えていったが――タオルとかどうするのだろう。
 真っ赤な後ろ姿を見送って、リア充のあんな脅しには屈しないぞと意味不明な事を呟くユキタケ。
「あ、ユキタケさん。そこにいると危ないですよ」
 床の清掃を終えた慎吾が、此方へとテーブルを持って来る。慌てて伍長も手伝うのだが、ツリーのオーナメントを腕にひっかけ、頂きに大きな星をつけようとしていた雲雁が乗った梯子にぶつかる。
 危ないな、とでも言いたげな雲雁の一瞥をいただき、既にその気が無いのに大暴れしている彼。
「ユキタケさん、ドンマイですよ♪ もしよろしかったら手伝ってくださいな?」
 くれあの優しい一言に元気づけられ、共に家具や料理を保護するための衝立造りにホイホイ取り掛かる。

 そこへやり遂げた男の顔で焔が『おう見ろ』と先程手を加えていたらしい二人掛けの椅子を持ってきた。
 なんと、背中合わせで座‥‥るだけではない。肩に手を回せないようにという配慮だろう。席同士がやたら離れている。
「いや、素晴らしいです‥‥! カップルが絶対に悔しがると思います!」
「ふっ、またつまらぬ物を作っちまったぜ‥‥」
 確かにつまらんことをしよる。けしからんがもっとやれ。
 ユキタケと焔はドヤ顔をしているが、慎吾は『その前にカップルが座るだろうか?』という疑問を抱いたものの口には出さず、そそくさと雲雁の飾りつけの手伝いに動いた。

「こうして飾り付けやお絵かきをしていると、あったかい気持ちになりますねーっ?」
 マリンチェが雪だるまの絵を描く傍ら、エシックがちょうど小天使の羽根を描いている所だった。
「はい。絵を見て多少なりとも穏やかな気持ちになってくれれば‥‥」
 何かしらの暴動が起こるかもしれないと言っていたが、蹂躙されたらそれはそれでいいと考えるエシック。
 暴動の理由については知らぬところも多くあるが、それを抜きにして、その日は――彼の描いている絵が気持ちを現すかのように、『良い日』なのである。
(主とか天とかそういうのは置いておくとして――今そこにいる隣人を‥‥愛しましょう‥‥)
 エシックの祈りにも似た清廉なる想いは筆に乗せられているのか。天使の肌を塗るその手先は優しく、陽光が入るとその肌に温もりでも与えたかように暖かさを乗せて浮き上がる。
「ふんふん。恋人達のこれからの歩みに、俺から憎しみを込めて‥‥っと」
 そんなホンワカいい気分など分かるはずもなく、焔が恐ろしい事を言いながらクリスマスリースを飾り付けている。
「‥‥独創的? っていうのかな‥‥」
 梯子から降りてきた雲雁は、その飾りつけに珍しく目を見開いて驚いている。
 なんとリースはカラフルな髑髏や藁人形で出来ていて、見方によってはポップであると‥‥言えなくも、ない。
 そしてツリーの向こう側‥‥会場の中央部分には、何故かステージが出来上がっており、どういうわけかせり上がる仕組みになっている。
 しかもそれでは飽き足らぬのか、くれあは演出用のスモークまでも付けているではないか。
「あとは落ちる金タライとか定番商品も付けましょうかー」
「く、くれあさん‥‥そこまで頑張らなくていいんですよ?」
 ユキタケがおそるおそる声をかけると、ハッとした顔で振り返るくれあ。青ざめて震えつつ、口元に手を当てた。
「ごめんなさい、予算使いすぎ‥‥ですか?」
――そりゃおめえ、どう見ても使いすぎだべら。とも言えず、グッと言葉に詰まるユキタケ。
「あー、いえ、ちょっとだけ、抑えてくれれば、大丈夫です」
 どっちつかずの返事だが、とっくに予算はオーバーしている。
 まぁTEに少し負担してもらおうと考えているらしいが、きっと彼らも驚く費用であろう。
 入浴タイムを終えたらしい無月がやってきて、ぐるりと会場を見渡す――が、どうみてもクリスマスパーティーに不要そうなタライや設置されたリングに軽く首を傾げた後。
(ツリーの飾りつけは‥‥終わりそうだな‥‥)
 どうやら普通に飾りつけ程度にしか思っていないらしい。規模が大きすぎてよくわからなかったのだろう。きっと、という事にしたい。
 そのままふらふらとキッチンに入って料理の仕込みを始める無月。
 チキンのオレンジソースがけ、サンタの帽子に似せたパイ包みシチュー、
 その他モンブランやチョコや苺やタルト等を手際良く次々に作成していく無月。納得のいく味ができたらそのレシピを記入し、当日の調理当番を呼ぶとそのレシピを渡す。
 味見をしてみると、見た目は普通に美味しそうなのに味は格別にうまい。傭兵以外でも食っていけそうな腕前だ。
「摘み食いは‥‥駄目です! 我慢ですよユキタケさん‥‥!」
 慎吾も慣れない手つきながら自分でもサラダや唐揚げでも作ろうか、と考案している際、ユキタケが美味しそうに食べているのだ。
 掃除も手伝いもロクにせず、試食と言いつつ食べ続けるユキタケを見かねて叱る慎吾。
 あまりキッチンや飾りを汚さないでくださいね、と言いつつもその表情は穏やかだ。


●出来上がったもの

 と、まぁ色々とあったが、ようやく完成した会場。
「素晴らしい‥‥!! 皆さんは神!」
 飾り付けやケーキなどが用意され、準備も万端に整った会場をうるんだ瞳で見つめるユキタケ。
 会場にはいって目につくのは大きなツリー。きらきらと光る電飾が施され、
 サンタやプレゼントを模したオーナメントのほかに下げられているカラフルな髑髏や藁人形。ご丁寧に釘を刺して飾られている。
 料理や家具を護るように設置された衝立やアクリル板。透明な板には心和むマリンチェの雪だるまイラストと共に、エシックが名画の一場面を描いたものがある。
 光が差し込むと、ステンドグラスさながらに荘厳な雰囲気を醸し出し、見ている方の心も洗われるような出来栄え。
 衝立と板の向こう――白いクロスを張ったテーブルの上へ置かれるのは、無月・雲雁・慎吾が考案した食事やデザート達。
 目にも楽しいデザインや色遣い、何から食べようと模索する中で目に留まるのは‥‥『浮気』『破局』『キープ』などの細かい呪われし言葉が彫られた焔作のケーキ。
 味は美味いのだろうが手は着けたくない、という気分にさせる。疲れた体を休めるために設置されているイスやソファは、妙に座席と座席の間隔が離れている。
 そのまま中央部分を見つめれば、スモーク噴射と共にせり上がる仕組みの特設ステージ。中央にはやはりマリンチェのイラスト『サンタとトナカイ(が戦っている絵)』があった。

 統一感とかそういうものは考えてはいけない。楽しければそれで良かろうなのだ。

 そして、会場設営に尽力してくれた仲間達も、自分たちの仕事をやり遂げたことに対して満足げである。
 友人へ配るために数枚貰った招待状。雲雁は誰に送ろうか考えているようだ。
 ちなみに彼は参加せず、妹と過ごす予定らしい。
「まあ、俺はどちらかと言えば実行班だからナ‥‥動くのは当日だな‥‥」
 これだけの事をやってなお焔は『当日は誰か誘ってゆっくりしたいものだ』というような発言を残している。お前の本音はどっちなんだ。
「ん。このスケジュールなら、当日も来れるな‥‥」
 無月が手帳を見ながらパーティの予定を書き込むと、その間に招待状を挟み込む。
「ありがとうございました。僕らだけでは、ここまで美しいものはできませんでしたよ‥‥」
 ちょっと涙声のユキタケ。くれあに礼を言うが、彼女はニッコリと微笑む。
「いえいえ。いつもうちの子がお世話になってますから」
 ウチ、ノコ? ツチノコの仲間だろうか。おそるおそるユキタケが訊ねると、よく知っている人物の名が出たではないか!!
「えっ‥‥くれあさん、お母さんですか!?」
「うふふ〜★ 子持ち人妻属性です〜」
 息子は女装癖のあるカオスなショタである。まさにこの母あってあの息子あり。
 運命と思われた出会いは人妻だったためノーカウント。さめざめと泣くユキタケに、マリンチェが画材や備品の領収書と共に可愛らしくラッピングされた包みを渡す。
「パーティには参加できないけど、プレゼントだよっ」
 中には柴犬の湯たんぽ。寒い日もこれで温まってねとやさしい言葉もいただいた。
(マリンチェさん‥‥! これって僕だけにくれたものですよね‥‥?!)
 もしかして、これって‥‥!? フラグ!?
 そういえば先程から妙にいい笑顔を見せてくれる(気がするのはユキタケだけ)し、よく見ればナイスバディである。(ただのセクハラ)
「ありがとうマリンチェさ‥‥?」
 やったらセクハラ、とかそういうのもすっぽ抜けたままマリンチェに抱きつこうと思ったユキタケだが、さっさと皆は帰って行ったあとで会場には彼以外誰もいない。
「‥‥あれ」

 あるのは、仲間達が残した領収書だけである。

 そして、慈愛の色を見せいたはずのエシックの描いた主と天使達が、心無か冷ややかにじっとユキタケを見下ろしているだけであった。