●リプレイ本文
●地を駆ける狂乱
連絡を受けて街へ着いたときには――既にそこは荒れていた。
どこかで‥‥いや、方々で人の悲鳴や何かが割れる音、発砲音、緊急車両のサイレンといったものが響いている。
「間に合ったみたいだが‥‥まだ、避難は終わっていないみたいだな」
シクル・ハーツ(
gc1986)が周囲の様子に眉を顰めて誰にともなく言う。
「ここは危険ですっ! 早く近くの建物か住宅地の方へ避難してくださいっ」
逃げ惑う人々にユーリ・クルック(
gb0255)は指示して仲間に向き直る。他の仲間達も、住民達に近くの建物に入るように、施錠してじっとするようにと声を張り上げていた。
その頃、西島 百白(
ga2123)もユーディーに無線で連絡をとっていた。
「‥‥聞こえるか‥‥状況は?」
『敵数、凡そ50以上。でも80には満たないと思う。住人の避難は続行中‥‥キメラ既に3匹駆除完了‥‥』
これで4、という声と銃声が無線越しに伝わった。
「キメラ約70体だから15人で‥‥一人当たりえーと‥‥」
ウン! ワカラン! と何故か誇らしげなラサ・ジェネシス(
gc2273)。同意したかのように頭のチューリップが揺れている。
そう、細かいことはいいのだ。
「ユーディー君、ラルスです。現在地を教えて下さい」
ラルス・フェルセン(
ga5133)もその横からユーディーの所在を問いながら、地図を目で追う。
「分かりました。ただちに皆で援護に向かいますので、ご無理なさらぬよう」
『ありがとう』
「――ティリスさん、住民の避難はどれぐらい済んでるか分かりますか?!」
そういえば誘導はティリスが当たっているはずだ。東青 龍牙(
gb5019)が即座にどこかに居るであろうティリスへと無線を飛ばす。
『こっちだって正確には分かんないわよっ!』
つーか誰よっ! と無線の向こうで怒鳴る声が聞こえる。申し遅れましたと龍牙が挨拶しても、何かまだ文句を言いたそうだ。
「ティリス無事か? もう着いたから合流するまで怪我するなよ。避難誘導は落ち着いてな」
ひょいと龍牙の無線を宵藍(
gb4961)は貸してもらい、状況の確認をする。
『あ、宵藍さん! 大通り付近の人は避難だいたい済んでます。脇道に逃げた人とかいるかもですぅ』
コロリと態度が激変。隣で聞いている龍牙もよく怒らないものである。
が、大体の避難は終わっているということで、傭兵たちの心にも若干の安堵が湧いた。
「避難継続中か‥‥」
ならば。此処で全て砕くのみ――!
守原有希(
ga8582)が皆より前に出てスコールを構えた。
ここで抑え、住民の憂いを払って士気を上げる必要もある。
「掃射開始します!!」
スコールの名の通り激しい銃弾の雨が獣達に礫となって食らいついていく。
仲間たちも再装填が重ならぬよう、遅らせたり早めたりと隙のない弾幕を形成。
これだけの弾幕とはいえ前を走るキメラが足止めを食らえばその速度は全体にも影響する。
だが、数匹が壁を蹴り、弾幕の罠から逃れて有希に食らい付こうと牙を向いた。
「うちがそんなモノを考慮せんとでも思ったか!」
むしろ特に警戒していたところである。直ぐ様後方に飛んで凶牙をやり過ごすと、仲間の射撃の援護を受けながら精密射撃で急所を狙い撃った。
『まさか街中にキメラの群れが現れるなんてね。
事前情報ではそんなに強くないと言うことだけど、住民にとっては脅威よね。
一刻も早い殲滅に心掛けないといけないわね』
武器を携えて、足止めに適した場所を目指して駆ける小鳥遊神楽(
ga3319)。少々危険な場所だったが、弾幕を形成しつつ住民の避難と味方の配置時間を稼げればとの思いだ。
「此方も豹狩りと行きましょうかね?」
いかつい装甲服にガトリング砲を携行して街を歩いている自分を一般人はどのように見ているだろうかと思うクラーク・エアハルト(
ga4961)だったが、 街の住人の恐怖の対象はキメラであるため、完全武装のクラークはさぞかし頼もしくあるだろう。
住居の前で立ち止まると失礼、と断ってから瞬天速で駆け上がる。壁を登り切り、空中でくるりと身をひねりながら着地してガトリング砲で掃射する。
「こちらランディ。これより狙撃を開始する」
スキルで射程と命中を上げ、ランディ・ランドルフ(
gb2675)は駆けるキメラの頭部を狙い‥‥D713で射撃!
パシュッという軽い音と共に、キメラの頭部は柘榴のように爆ぜた。
ヒュウ、と自分で口笛を吹いてから、射程制限がなけりゃこの銃は良いんだけど、とランディは狙いをつけ直す。
「ここから先は、一匹たりとも通しませんっ」
牙を剥く四ツ足をキッと睨みつけ、洋弓をゆっくり構えたユーリ。
ばらばらと弾丸が彼方此方よりばら蒔かれる。
薬莢の落ちる音も、銃が吼える音も、キメラの悲鳴も――全てが入り交じった。
近くの住居より屋根に上がらせてもらった鷹代 由稀(
ga1601)は狙撃眼で射程範囲を伸ばした後、スコープを覗き見る。
その先。大通りに侵入してくる豹型キメラの群れ。なかなかに速い。開けっぱなしの無線を捕まえ、由稀は送信回線を開き、攻撃開始の旨を伝えて送信を切る。
「‥‥狙撃屋名乗ってんのはダテじゃないってこと、見せてやるわよ」
頭部を狙い、トリガーを‥‥引いた。
「古傷が‥‥痛む‥‥面倒だな‥‥」
百白は脈動する痛みに顔を歪めつつもいつでも撃てるようにとガトリング砲を強く握る。
この街も、自分の故郷と同じようにはさせたくない。目の前の事へ集中するようにと強く念じ、キメラの姿を確認すると仲間と共に弾幕を形成すべく撃ちまくる。
(大丈夫にゃ、狙って撃つだけにゃ‥‥)
幾度も深呼吸を繰り返し、リュウナ・セルフィン(
gb4746)が緊張を解きほぐす。
よし、と気合を入れなおして『リュウナ・セルフィン! 黒龍神の名の下に、狙い撃ちます!』と確実性を重視して頭部を狙う。
少しでも仲間たちの、特に後方で最後の砦として立ちふさがる彼らのためにも負担を、敵の数を減らす――!!
『通りから逸れたのがいる。西に2体。よろしく』
由稀の指示にリュウナは応対し、血を流しつつも路地へ潜り込もうとするキメラに狙いを定めて強弾撃で撃つ。
「逃がしません!」
「大丈夫か!? 立てるか?」
シクルが転んで倒れている子供を発見し、抱き起こすと辺りを注意深く見る。
子供を抱き抱え、近くの家の扉を叩く。
「すまん、この子だけ入れてくれ! 脚を怪我しているんだ。キメラは私達が必ず殲滅するから、頼む!」
恐る恐るといった体で扉を開けた女性にその女の子を託して一礼すると、シクルは走った。
10メートルほど先に、キメラが5匹ほど集まっている。彼女に気づいた獣たちは、走ってくるではないか。
(こんな所にまで‥‥クッ)
近くの仲間に援護を要請し、先頭に向かってエアスマッシュを撃って後退。
『キツいの撃つから、そこから走りな』
無線から仲間の声が聞こえたので、シクルは一旦下がると言ってから迅雷で駆け抜ける。
その後ろ、彼女がいた辺りから爆発音が聞こえた。
主は長谷川京一(
gb5804)である。濡れ羽色の弓を再び引き絞っていた。先程番えた弾頭矢の爆破性も考慮し確実には狙わないにしろ、当てないわけではない。
「かの吉備津彦も使ったという『燕返しの矢』――さて、獣の知性で見切れるかね?」
軽く射つと、キメラが数匹爆発の衝撃で後方に飛ばされる。それを見逃さず。即射で通常の矢を頭部に見舞った。
続け様に弾頭矢を2射、再び軌道に隠すように普通の矢を部位狙いで撃つ。
獣は面白いようにその術中に陥る。警戒心を持つどころか、音に反応して数匹が此方にやってきた。
「ふぅん。知性ってのは持ち合わせてないってワケかねぇ」
だとすれば、本能で危機を感じ取ればいいものを――‥‥そう感じつつも、京一は再び矢を番えるのだった。
「恐怖に震えるティリスちゃんに、颯爽と救うお・姉・ちゃん、と‥‥」
あらやだー、楽しいわーとかい言いつつ樹・籐子(
gc0214)は宵藍と組んで、この辺に居るであろうティリスの元へと移動中だ。
住民の避難は彼女たちと現地警察の奮戦の甲斐あって、終了している。
「このへんは大丈夫そうねー。あの位置に神楽ちゃんとー、こっちに京一ちゃんがいるものねー?」
何故か楽しそうな籐子を横目に、宵藍はSMGで弾幕を形成しつつ互いの死角を補いあう。
そして、ティリスはどこかと思っていると、此方に向って走ってきた。
「待たせたな。怪我はないか?」
「一杯逃げましたから、大丈夫です!」
ゼーハーと息を荒げるティリス。うん、そうか‥‥とちょっとだけ遠い目をした宵藍。
呼吸を乱すティリスの頭を撫でてやりながら、よく頑張りましたー、と言いつつ背中も叩いてやる籐子。
どうやら何か言っている暇はなさそうだった。
「後は任せろ、と言いたいところだが、もう少し一緒に頑張ってくれ」
宵藍の言葉に、ティリスも頷いて、支援をと申し出るのだった。
「たく、数は多いわ。銃が近接向けじゃないから困るな。どこの世界のFPSか! 嫌いじゃないけど」
「気持ちはお察しします‥‥こちらで敵を引き付けるので、側面から攻撃を願います」
ランディがぼやくのも無理は無い。クラークでさえ、この数のキメラが街になだれ込むまでに軍は察知できなかったのかと思うところである。
クラークのガトリングで足止めをしながらランディの射撃で仕留める。
高台より狙い撃つラサも、狙いが逸れたので首を傾げた。
「狙撃は常に風に気をつけないト‥‥もう少し右、カナ?」
ふわりと風に揺れるチューリップ。なんと、風向計にもなっているのだろうか。
「寄り道は宜しくない‥‥ですね」
ユーディーの銃撃に追われ、路地に逃げこもうとした獣をラルスが弓で射る。
倒しても獣のスピードは急には殺せず、建物にぶつかって倒れた。
「ラルス、怪我は?」
「ありませんよ。ユーディー君こそ大丈夫ですか?」
ない、という意味で首肯する彼女に、笑顔を返したラルス。
「では、この調子でいきましょう」
「了解」
数匹目の獣を射って、ユーディーは視線を仲間に走らせた。
「ここもよしっと、一匹でも逃すと大変ですからね‥‥」
仲間との無線で敵の位置や安全圏を確認したユーリは、徐々に前進していく。
敵を甘く見ているわけではないが、もっと――あいつを倒すために強くなりたい。
だから。
「立ち止まるわけには、いかない!!」
建物の扉に体当たりをしている獣を見つけ、ユーリはグロリアに持ち替えて駆けた。
「装甲があるバハムートだ。誤射上等! かかってこい!」
ランディも合流し、通りから駆けてくるキメラに射撃を加えていく。
「守原さんっ!」
後方支援にとやってきたティリスの超強化と自身で急所突きを付与し、
「ふッ!」
小さく息を吐きながら蝉時雨でたたき斬る有希。
彼の足元には数匹の骸が転がっている。
「さぁ‥‥俺を‥‥狩ってみろ‥‥キメラさんよぉ!」
珍しく声を荒げる百白がキメラに斬りかかる。弾幕のせいで思うように行動できないキメラは、為す術も無く倒された。
「スピードだけが生命線のキメラにやられるほど、あたしは甘くないわよ。
これでも傭兵として、死線はくぐってきているのだから――猟兵としてのあたしは手強いわよ?」
もう足止めの必要はなくなった。徐々に仲間たちで追い込んで、討つだけ。
広範囲に張っていた弾幕も徐々にその範囲を狭め、確実に敵の体力と行動を奪っている。
それでも、獣にも意地があるのだろうか。抵抗しようと傷を負ったその身を神楽へと向けてくるが、神楽は顔色も変えず即射で押し返した。
あれほど攻めこんできたキメラの数も、もう両手で足りる程度の数である。
そのキメラも白兵に切り替えた仲間たちや狙撃ポイントから狙う籐子や由稀の射撃により、徐々に数を減らしつつあった。
「‥‥掃討、完了。街に大きな被害が出ずに済んだか‥‥。実によかった‥‥」
シクルは言いながら武器をおろし、街の様子を確認する。
倒れた獣があちこちに転がり、あちこちには戦いの傷跡が残っている。
無事仲間達は合流し、傷の手当などを行っていた。
「にゃー! 龍ちゃん! ユーディーっち! お疲れ様なのらー!」
「リュウナ様、ご無事ですか!?」
彼女に怪我がないかと慌てながら見る龍牙だが、特にこれといった負傷もないので胸をなで下ろす。
「リュウナ、とても頑張ったのね」
ユーディーが声をかけると、リュウナはえへんと胸を張った。
走りまわったのと、緊張の糸が切れたせいで壁に寄りかかっているティリスを見つけた宵藍。
「よく頑張ったな。ほれ、ご褒美」
クリスマスに渡せなかったからと小箱を手渡す。
「ふぇ、私に?」
ありがとうございますー、と嬉しそうに笑うティリスに、宵藍も微かな笑みを見せた。
「怪しいのがいたケド、結局操ってるヤツはいなかったみたいダー」
戦闘中に何度か双眼鏡で覗いていたが、獣のボス的なものも、バグアのようなものもいなかった。
だとすれば、事前に命令されていたのかもしれない。だが、ラサは唇に手を当てたまま『うん、ワカラン』ともう一度言った。
憶測をでない域であるし、確かなのは敵を倒すという依頼はこなしたということなのだから気にするところではない。
現地警察より無線が入り、これからUPCが獣の回収・被害調査などに入るそうである。
「‥‥犠牲者の‥‥数は‥‥わかるか?」
百白が尋ねたところによると、負傷した一般人はあるにせよ、傭兵の尽力あって死亡者はいないそうだ。
了解と無線を切った彼の表情に、僅かな弛緩が見受けられた。
「我々の戦闘での建物被害もあるでしょうが――何にせよ犠牲者がないのは喜ばしい結果でした」
これで、この街にも安息が訪れるのだろう。クラークの声も心なしか軽く、仲間もそれに応えていた。