●リプレイ本文
●第三勢力?
砂埃を舞い上げ、地響きを立てながら街に降り立つ赤い巨大ロボ‥‥いや、生命体だろうか。
「何なの?! あの赤い巨人は‥‥! ‥‥レドン?」
ケイ・リヒャルト(
ga0598)は風に煽られる髪を押さえつつ、巨大なものを見つめた。何故その名称が皆に浸透しているかとか細かいことなど気にしなくていい。
「‥‥って! その前に。どうして貴方が此処に居るのかしら? シルヴァリオ!」 レドンの足元、ちまを庇いながら攻撃をひらひらと避けている男を発見したケイ。
「迎え火を貰ったんなら来るだろ普通!」
まぁ、いいわ――と微笑むケイ。M−121を掃射しながら疾走。
滑りこむようにレドンの足元を潜ると同時、ウリエルを携え、彼女と並走しているちま。ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)だ。
「っ‥‥ちま!? 危ないわよ!?」
「心配無用! 俺はそこそこ戦えるちまなのです! ‥‥新人ちま達! 今助けに行くからなー!!」
ユーリはぴょん、とジャンプした。
「怖いよぅ」
「逃げろぃ」
シルヴァリオの手から飛び降り、割と余裕そうな声を上げて逃げるちま達。ユーリが注意を自分に向けつつ、彼らが安全に逃げられるよう通路を確保。
「おっとォ、そっちばっかり見てっと‥‥危ねぇゼェ!?」
サキエル・ヴァンハイム(
gc1082)の放った貫通弾がレドンの胸元に撃ちこまれ、赤く火花を散らした。
「よォ、シルヴァリオ。――‥‥手ェ貸しに来たぜ」
「フン。足引っ張るなよ」
「言うに事欠いてそれとか‥‥ったく可愛気ねェなぁ‥‥!」
だが、二人の顔は穏やかなので、挨拶がわりといったところだろう。ケイも合流し、シルヴァリオにウィンクしながら『頼りにしているわよ』と彼の後方に下がる。
「逢えて嬉しいとだけ、言っておくわね。それ位には貴方のこと‥‥認めてたのよ、あたし」
「オレはお前のことを当然認めていたぜ? ‥‥ヴァンハイム、お前もケイくらいに素直になれよ」
「あんたが突っかかってくるんだろ‥‥!?」
名前を呼ばれたケイはちょっと照れたようだが、サキエルはシルヴァリオに当然文句を言う。なんだか、変な雲行き。
痴話げんかは外でやれと言わんばかりに振り下ろされるレドンの鉄拳。シルヴァリオが大剣を構えて二人を庇うが――
「敵の敵は味方ってか? この一戦。肩を並べて戦わせてもらうぜ!」
神撫(
gb0167)が颯爽と現れ、シルヴァリオの横へ滑り込むと、インフェルノで拳をかち上げる。
「‥‥神撫か」
「背中は任せな。お前は敵を潰すことだけ集中してくれ」
「お前らにも戦ってもらうに決まってんだろ」
そうして神撫と並んだところで――何処からか高笑いが聞こえた。
「あそこ‥‥見て!」
ケイの指すビルの上には――仮面と黒衣を身に纏った男。
「――我が名は羅喉。レドンの使者にして、太陽と月を飲み込みし『蝕』の化身なり‥‥!」
「‥‥‥‥」
言葉もなく、その男を見つめるケイ、サキエル、神撫、シルヴァリオ。
「トヲイ、よね?」
「煉条だなァ」
「紛れもなくトヲイさんだと思うんだが」
「何してんだ、トヲイ」
口々に煉条トヲイ(
ga0236)の名を出す彼らだが、トヲイ‥‥じゃない、羅喉は『そんな男ではない!』と一喝するとビルよりと飛び降りる。
レドンの掌に着地すると、爪を抜き放ち――
「何百人掛かって来ようとも、我等を倒す事など不可能と知れ‥‥!」
シルヴァリオらに向かって攻撃を繰り出してくる――!!
●一方その頃
「ついにこの時が来てしまいましたか‥‥こうなればアレを使わざるを得ないようですね」
佐渡川 歩(
gb4026)の眼鏡がキラリと光る。
「えっ‥‥佐渡川さん、なにか知っているんですか!?」
此方に逃げてきたちまを労いつつ愛でながら和泉 恭也(
gc3978)が歩に訊いた。
「僕だって 伊達に眼鏡かけてる 訳じゃない――んですよ。度入りですけど」
‥‥だってー。実は知らないけど、眼鏡キャラで『何も知らない』のってカッコ悪いじゃないですかー。やだー。
という歩、心の俳句は伏せてあげよう。字余りだけど。
「こういう事もあろうかと、チームエンヴィー&幸せバスターズの皆さんを召喚して『契約』します!」
そう、先程言っていた。契約をすればNPCが共闘できるのだと! ‥‥あれTEと幸せバスターズ?
知らない人のために説明すると、チームエンヴィー、幸せバスターズは嫉妬三大祭に現れる嫉妬に燃える非リア集団です。
「合体っ!? わ、私は人妻ですよ‥‥っ!」
開口一番何やら盛大に勘違いした様子の諌山美雲(
gb5758)、顔を真っ赤にして照れはじめた。
「いや合体とかだと釣り映画になっちゃうだろ。契約ね。エネルギー受け渡すだけ」
言わせんな恥ずかしい。とばかりにルフ(
gc7819)が説明すると、羞恥で頬を染める美雲。
「え? 契約‥‥? わ、私ったら‥‥っ」
いやいやをするように顔を両手で覆っていたが――急に真面目な顔つきになる。
「じゃあ、わ、私と契約したいNPCの方、いらっしゃいますか?」
「ハイ! ハイ!」
ユキタケが嬉しそうに挙手。当然僕ですよねの顔だ。
「――シルヴァリオ。今は地球人だバグアだと言っている場合じゃありませんね! 私はあなたと契約しますっ!」
「ちょっと美雲さんおかしくないですか! だったら手なんか挙げさせないでよ!」
わっと泣くユキタケを白虎(
ga9191)がなだめながら、契約してあげると言って涙を拭かせる。
「闇に(しっとの)炎を灯し、荒野に(血涙の)花を咲かせ――」
ウィザードマントを何処からか吹く風になびかせ、歩が契約の呪文を唱えていた。
「――(浮かれた)心がどん底に突き落とされる――嫉妬は世界を変える‥‥!」
そこで、カッ! と瞳を見開き手を伸ばす歩。その先には、TEらの姿が!!
「――‥‥す」
TEのリーダーが口を開いた。思わず聞き返す歩に、TE達は飛びかかりながら叫んだ!!
「じゅもんが ちがいます!」
「な、なんだってー! 本当か、ユキタケさ――ぎゃあああ!」
生者から血肉を奪う死霊のように歩はTEらに群がられ、生命エネルギーを抜かれまくっている。恭也が『仲良しですね相変わらず』とにこにこしていた。
「あー、はい。呪文、最後は『胸のエンヴィー・クロックを動作させよ』でしたので‥‥」
「呪文無くても合意で契約できるみたいだしねー」
ユキタケは申し訳なさそうに説明しながら、合掌。
「さぁ行くぞ、我らしっと団の突撃だぁー!!」
「おーう!!」
と、手を高く掲げたところで――突っ込んできたリンドヴルムに数人が轢かれた。
「‥‥ん? なんか当たった‥‥? 気のせいか」
愛馬(と書いてAU−KVと読む)アルレーシャに乗ってきた綾河 零音(
gb9784)。
「お嬢、真っ直ぐ突き進むにもほどがあるだろ」
天原大地(
gb5927)が轢かれたTEなどを見つめながら辟易した顔で呟いたが、レドンを見上げる零音には届かないようだった。いや、割と大事故よ。これ。
「どーでもいいけど、あのオモチャみたいなのを倒せばいいんでしょー?」
「そういうことだな」
「じゃ、楽しく‥‥やろうよっ!」
大地に背を預けると凍瀧をレドンへと向けて――行け! とTEやらに命令。
「ちょ、いきなり来て轢いときながら偉そうよあの子」
「ひっどーい! NPCだって人権あるんだからね!」
「‥‥あ? お嬢の采配に文句があるってのかあんたら」
ぶーぶー文句を言うTEらに、大地が睨み一発。あらほらさっさとTE達は突撃していった。
●怒ってるんだからね
「『紅い』色に‥‥『人型』か‥‥」
普段感情を殆ど出さない西島 百白(
ga2123)が、敵意を剥き出しにしてレドンを睨みつけている。
わずかに残された記憶が教える。かつて故郷を襲ったものに似ているのだと。
「面倒だな‥‥本当に‥‥面倒だな! デカブツ!」
ガアアッと吼えると、百白は覚醒した。
「喰らってやるよ‥‥徹底的にな!」
「西島さん‥‥!」
東青 龍牙(
gb5019)が悲しそうな顔で、百白の憎悪に染まる形相を見つめた。「ひゃくしろだけじゃなくて、今日のリュウナは怒ってるのら! ユーディーっちとのお別れの時だってのに!」
何なりかあれは! とリュウナ・セルフィン(
gb4746)も目を吊り上げて怒っていた。
「残念ですがKVを待ってたら間に合わないようですね‥‥ですので、生身で相手をしますよ!」
(青龍神様‥‥私に力を‥‥仲間を‥‥友達を‥‥大切な人を護る力を!)
祈りを捧げ、龍牙はリュウナへ声をかける。リュウナは頷き、D−713を取り出す。
「了解! 龍ちゃん! 援護はリュウナにまかせて! ‥‥黒龍神の名の下に全力で排除します!」
「はい、リュウナ様! 私は前に出ますので、後ろはお任せします!」
仲間が駆け出していくというのに、ユーディーは歯がゆくそれを見ているだけ。
「ユーディー君‥‥」
だが、彼女にも声がかけられた。この声の主は間違えたりしない。ユーディーはゆっくりと振り返る。
「私の力で宜しければお貸ししますので、ユーディー君の力、私に貸して頂けますか?」
あれ、どちらも力を貸してますね、と微笑みながら、既に覚醒しているラルス・フェルセン(
ga5133)は手を差し出した。
「ありがとう、ラルス‥‥私こそ喜んで‥‥」
その手を両手で握り、いつも支えてくれて有難うとラルスを見つめるユーディー。その視線を受け止め、ラルスはありがとうございます、と微笑む。
「‥‥受け取って下さい。皆で脅威を排除しましょう」
優しかったダークブルーの瞳は、突然色を変えて謹厳さを浮かべる。
「あんなに暴れられたら、街中の猫が怯えます」
「――!」
そう言われたユーディーも きゅっと表情を引き締めて、一刻も早い討伐を、と返すのだった。
え、保護対象猫なの。人じゃないの。という、ルフのツッコミも何処へやらである。
●とある軍人は痴話喧嘩
「謎の第三勢力、か‥‥」
腕を振りあげて地を砕くレドンと、シルヴァリオや神撫に襲いかかる羅喉。
一体彼等の目的は何か。考えても分からぬことだが長考し――ていたのを中断する鳳覚羅(
gb3095)。
そんな彼の耳に、聞きなれた二人の声が入ってくる。
「何故嫌なんだ! 今は一刻を争うところで――」
「それは解っています。でも、他の人なら良いのですけど、大尉とは嫌です」
「――‥‥俺とは嫌、って‥‥」
その声の主はシアン・マクニールとリゼット・ランドルフ(
ga5171)である。
「まぁレドンはとりあえず置いといて‥‥」
この二人うまくいっているのかな、と苦笑しながら二人に歩み寄る覚羅。‥‥いや、地球の危機だよ鳳さん。
「私と覚羅さんで動きます。だから大尉は‥‥ダメです」
「ダメの意味が分からん」
だって、と言いながら肝心な部分は言わないリゼット。シアンのほうは、当然納得行かない様子。
「誰かと契約しないと動けないのは分かるんですけど‥‥戦うんですよね」
「ああ。頼りにしているが、俺も戦うために来た」
「じゃあ、嫌です」
「嫌? 俺が嫌いか」
「ち、違います! 全然‥‥す、す‥‥好き、だ、から‥‥って、もう大尉! それどころじゃないんです!」
「だから契約をと言っているのに、嫌だと断られているのだが」
さっぱり分からんという顔のシアンだが、眉間に皺が刻まれ、困っているのだが睨んでいるようにも見える。
「鳳くんが良くて、俺がダメだという理由も分からん。同じ男だぞ」
「覚羅さんは私のお姉さんみたいなものですし、心配なさらなくても大丈夫ですよ?」
「いや俺れっきとした男だけど! ‥‥もういいよ‥‥リゼさんが契約拒む気持ちもなんとなく分かるし、大尉、俺と――」
覚羅が溜息をつきながら事態を収拾にかかる。このままでは喧嘩が桃色になってしまう。
シアンに手を差し伸べようとしたところで――リヴァル・クロウ(
gb2337)がシアンに話しかけた。
「以前、一度だけ同行したか。まぁ、覚えているかは解りかねるが‥‥」
「無論覚えている。久しぶりに元気な姿が拝見できて嬉しく思う」
そうして、リヴァルはシアンに手を差し伸べて『俺の力を貸与する』と宣言した。
え、と声を上げるリゼットと覚羅だが、シアンにはリヴァルの申し出は渡りに船。助かる、とその手を握る。
「‥‥共に、戦おう」
「ああ。宜しく頼――痛っ」
ぽかっ。リゼットがふくれっ面でリヴァルとシアンの二の腕あたりを叩く。
ぽかぽかっ。
「リヴァルさんっ、もうっ‥‥怪我したら嫌だから、大尉を戦わせないようにしてたのに‥‥」
「す、すまない‥‥」
何故か謝るリヴァル。覚羅も苦笑して、気にしないでと肩を叩いた。
「リゼット‥‥そうならそうと隠さず言ってくれれば‥‥」
「言えません、そんな事‥‥言っちゃいましたけど」
シアンはぽかぽかと胸を叩くリゼットに微笑む。
「大丈夫だ。俺には幸運の女神が一緒にいてくれる」
「大尉‥‥」
見つめ合う二人。あっちでみんな戦ってますけどね。
「やっぱり居たかー! 桃色には粛正だぁー!」
ピコハンを振りかぶり、白虎がシアンに向けて突撃してくる。
「遊んでいる場合じゃないですっ!」
が、リゼットは強かった。バッと白虎からピコハンを取り上げ、彼の頭に軽く落とす。
「ぐぐ、シアン大尉の嫁、やりおる‥‥」
「よ、嫁とかじゃなくて‥‥えっと、とにかく‥‥色々なんだか混乱してますけど、レドンでしたか。あれを攻撃すればいいんですよね?」
ここまで来てようやく本題に移る彼等。それぞれ武器を構え、戦場へと駆けていった。
●頼りにしてますぅ
「さぁてと、なんだか雰囲気は最後の戦い、ってわけだが‥‥ティリス、少しはまともに戦えるようになったか?」
須佐 武流(
ga1461)が珍しくやる気になっているティリスへ問う。
「いろいろな応用はわかりませんけどっ、前よりは、敵の近くにいても怖くないですっ‥‥」
「そりゃ良かった。緊急時には助けてもらうからな?」
「うー‥‥頑張りますぅ」
その声を背中で聞いて、武流は皆と合流するため走り去る。
「泣きそうな声出すなよ、ティリス‥‥とりあえず、協力要請受けて来たぜ?」
「‥‥! 宵藍さん!」
宵藍(
gb4961)が片手を上げて挨拶をした途端、ティリスが駆け寄ってきた。抱きつこうとしたのだが、今は実体がないので通り抜けてしまう。
「‥‥惜しいことをした気分‥‥。いや、そうじゃなくってだな。力が必要なら契約するから、一緒に戦うぞティリス‥‥ほら、力受取れ!」
「はいっ!」
きゅっと手を握ると、ティリスは嬉しそうに微笑む。元は悪くないのでちょっと可愛い。と宵藍が思ったかどうかは分からない。
「宵藍さんに、いつも面倒みてもらってますねー。少しでも負担を減らそうとしたんですけど、まだまだでした」
ぺろ、と舌を出すティリス。宵藍はそんな事ないと言ってくれた。
「最初に会った時より、お前はちゃんと強くなってるから大丈夫だ」
そっとティリスの頭に手を乗せ、撫でてやる宵藍。‥‥手、届いた!!
「うるさい! 届きはするんだっ!」
「ふぇ!?」
「いや、なんでもない‥‥多分幻聴なんだけど無視できなかった‥‥」
ちょっと遠くを見るような目で、宵藍は溜息を吐いたのだが――すぐにティリスの手を引いて走る。
「ティリスは後方で支援してくれ! あのデカブツに『練成弱体』でもかけてくれれば、前に凹りに出るから!」
「はいっ! でも、その前に強化だけは皆さんにかけますっ!」
●ココからが本番
ティリスが後方より皆へ向かって超強化をかけ、レドンへ練成弱体をかけていく。
「よし、その調子だ‥‥!」
宵藍がレドンの行動に注意しながらも豪破斬撃でその表面に斬りつける。
レドンは掌を大きく広げ、振りかぶった。狙うは大地と零音。
「お嬢、狙われてるぜ? 目の着けどころは良いけどな」
「そうねー。 ま、当たるワケ、ないんだけどさっ」
地に押し付けようとする掌は、勢い良く振り下ろされる。しかし二人は軽々攻撃を避け、まだ余裕の顔を見せた。
舞い上がる埃からも零音を庇うように立つ大地。そのなんとなくわかる優しさに、嫉妬するTE。
「さりげなさアピールなら、俺たちだって負けないぜ!」
「行くぜ、佐渡川!」
エネルギーを吸いつくされてボロ雑巾のようになった歩を引きずって、TEらは零音らをすり抜けレドンに突撃。
だが、今思えば彼等は大した武器を持っていなかった! 当然のようにレドンからビンタを食らってアクションゲームのモブよろしく吹き飛ぶ彼等(と巻き込まれた歩)
「総帥、後は頼んだぜ‥‥」
「頼まれなくとも何とかやってるっての! ‥‥まあ、あいつらはしっと会の中でも脆弱な部類だし‥‥期待はしてなかったからね」
割にドイヒーな事を言いながら、ユキタケにエネルギーを送り続ける白虎。
「要はエネルギーを注ぎ込めば強くなれるんだろう?」
「はぁ、そうだと思いますけど」
「じゃあ、エネゲルギーをユキタケ君に注いでスーパー地球人化を試みようと思う」
スーパー地球人。某ジハイドさんが反応しそうなステキな響きだが、ユキタケは期待に満ちている。
「新世界のアレになれるんですね!」
エネルギーを送り込まれたユキタケは、未知のエネルギーが渦巻くのを感じた。
「いける! やれっ、ユキタケ君!」
「はい!」
一目散に走っていくユキタケだが――
「邪魔をするな、ユキタケ! 退いていろ!」
「ゴフッ!」
槍を振るうシアンの妨害をしたらしい。イラッとゲージがMAXになったシアンの裏拳を食らって吹き飛ぶ。
「ユキタケくーん! 大尉、なんというパワー‥‥」
久し振りに戦ってるしね。許してあげて。
そんな横では、ユーディーとラルスもエネガンで駆動系を狙い、動作を鈍らせる。
表面の装甲は堅いところもあれば、ティターンのように肉っぽいところもある。その比較的柔らかいところを狙って打ち込んでいるのだ。
「切り落とせないこともなさそうな造りだが‥‥そう簡単に事が運べないだけだな」
武流の回し蹴りや、超機械での攻撃も通っているようだが『壊す』には繋がらない。行動力を制限するにはやはり――
「でしたら‥‥部分破壊を試みます! 行きましょう、覚羅さん!」
リゼットは迅雷で一気に接近し、円閃を併用して隙のない一撃を足首の結合部へぶつける。
「‥‥男なのにリゼさんからは相変わらず姉さん認識とかどうゆう事?」
ぼやきながら、リゼットの打ち込んだ部分に覚羅の斧が唸り、水平に薙ぐ。鈍い音と共に竜斬斧がめり込むが、切断までには至らない。
「離れて。反対側から斬る!」
リゼット達が素早く離れ、神撫が炎斧で同箇所に攻撃を当て、振り抜いた。
熱い血潮のようなオイルが噴出し、切断部から断線したケーブルなどが覗いている。
「出来ないことはないんだろうけど――、これを斬っていくのは骨が折れるね」
顔にかかったオイルを手の甲で拭きながら、神撫は敵を見上げた。
「これが、レドンかーおっきいです‥‥とか、観光じゃないのは分かってますけど‥‥よっ、と」
地面を薙ぎ払うようなレドンの平手を月隠 朔夜(
gc7397)がひらっと躱す。割と大振りなので、ある程度の予測が出来るのであればさしたる脅威ではない気がする。
だが、この場合のある程度、とは――正確さが十分に求められていることなのだが。
手が通り過ぎた後には突風。朔夜の身体がふらつき、飛んできた瓦礫から頭部を守るため、両手で顔をガード。
「うわわっ‥‥!」
もう一人、突風の犠牲者が。ちまのユーリだ。小さいのでふわっとその体が風に流される。
「ちま!」
シルヴァリオが手を伸ばそうとするが――羅喉の攻撃の前に、ユーリのフォローも叶わず。どうやらシルヴァリオ、ちま好きなようだ。
「どうでもいいんだが、さっきそこの女から貰ったエネルギー‥‥微妙に質が変なんだよ」
失礼なことを言うシルヴァリオだが、戦っている最中に転んだり(だが手から離れた剣は敵の攻撃を防いだりするラッキー攻撃)する。
「わーっ、ごめんなさーーいっ! ほんとにごめんなさい!!」
謝りながらも、ドジは世界を救いますと謎の名言を残す美雲。
「トヲイ、正気に戻って!」
貴方と戦っている場合じゃないのよ――とケイも訴えるのだが、羅喉と名乗る彼には届かない。
シュナイザーで繰り出される攻撃は本気のものなのだろうが――少年漫画的に、敵補正というものもあるのだろうか。強くなっている。
だが、羅喉と名乗るトヲイのほうでも困惑している様子がある。
シルヴァリオと刃を交えている間に封印されている記憶が脳裏に浮かんでは瞬時に消える。
「‥‥貴様とは、何処かで‥‥?」
そして、この感情は何だ? 俺は―― 一体‥‥
頭を軽く振ってそれらを追いやると、かつての仲間やシルヴァリオに容赦なく剣を振るう。
「微妙にこいつ、オレを狙ってるんだが‥‥」
「今まで戦ってたからじゃないの?」
神撫にも攻撃はいくのだが、やはり自分によく来るようだ。
「さっきのだけじゃ、エネルギーが足りないんだよな。ドジって死ぬのは嫌だぜ」
もう死んでるだろ、というツッコミがサキエルから入る。
「‥‥以前の敵が今日の友。今までの友が敵なら――倒すしか無いな。許せ!」
追儺(
gc5241)が羅喉を側面から攻撃。それを避けて後退したのを見届けてからシルヴァリオに手を差し伸べる。
「力が足りないなら、取り合えず俺のを分けよう。戦うってのに万全じゃないなんてのはつまらない」
「お前の言葉に同意する――その力、貰おう。この剣を思う存分振ってやるさ」
攻撃をやり過ごしながらも、龍牙とユーリは探査の眼を発動させて敵の弱点などを探っている。
「‥‥罠は当然ながらありませんね‥‥」
「どうすれば早く‥‥あいつを倒せるかなぁ?」
朔夜は一旦後方に下がり、様子を見ている。なかなか強固な装甲に手を焼いた様子である。
「でも、何か弱点みたいな所が少しでも見つかれば‥‥!」
と言ったユーリは、ハッとする。レドンの眼にあたる範囲――装甲が他の箇所よりも薄く、継ぎ目が細かく分かれていた。堅いもので覆われていない部位‥‥つまり弱点、なのではないだろうか!?
「目玉が弱点と言うのは怪獣物の鉄則であればこそ!」
いざ、と恭也が扇を開き、怪物の頭部へ向けて手を振りかざす。面に『嫉妬』と書かれた扇から迸る何かの電磁波的なモノ。嫉妬のパゥワーだと思うのはやめておこう。
眼に当たると、レドンが頭を揺らし‥‥嫌がるかのような素振りを見せた。効いているのかはまだ分からないが、嫌だということは行動阻害には有効なのではないだろうか。
それを見たリュウナと百白も顔面を攻撃し、百白はまだ弾数の残るスコーピオンをその場に捨てる。
(‥‥?)
リュウナが怪訝そうな顔をしたが、無言で頷く百白のアイコンタクトを受けてピンときた。
「この――デカブツがぁぁあァ!」
理解し、落とした銃を拾った途端、百白は防御も顧みずにレドンへ突っ込んでいく。
(ふむ‥‥薄ければ、装甲を剥がすという荒事も出来ますかね‥‥?)
ラルスもエネガンを下ろし、天照に持ち替えて傍らに声を掛けた。
「――そろそろ前に出ますね。ユーディー君、援護をお願い出来ますか?」
「わかったわ‥‥」
ラルスが飛び出していくのと同時に、ユーディーもオルタナティブに持ち替えて攻撃。彼に攻撃の手がいかぬよう、故意にレドンの眼を狙う。
徐々に近づくラルスに対し、踏潰さんと足を上げるレドンだが――顔にはサキエルの援護射撃にケイの死点射、軸足には神撫の豪破斬撃、下からはシルヴァリオの衝撃波と多重攻撃を喰らい、攻撃のタイミングとバランスを崩す。
倒れぬようバランスを取るため振り上げた足は、当初の目標とは違う場所に着地した。
「失礼しますね!」
レドンの表面を瞬天速で一気に駆け上がる。ラルスに続き、宵藍と追儺、武流が装甲の突起を生かして跳び上がってくる。
肩に上がった追儺が、右側面の眼に剣を何度も突き刺す。表面は防弾ガラスのようなもので覆われていたが、攻撃――能力者の力はそれを超えたのだろう。
とうとうその表面も破損し、生物の眼球に酷似した構造のモノに剣が突き刺さる。柔らかい感触の後、中で青白く火花が散るのが見えた。
宵藍とラルスもレドンの顔装甲の継ぎ目へ刃を差し込み、薄い金属をひしゃげさせる。
「思った以上に柔らかいな。もっと頑丈かと思ったが」
「お顔はデリケート‥‥ってことでしょうか?」
若干拍子抜けした二人だが、武流が拳を振り上げたのを見て場所を譲り、追儺と宵藍は降りていく。
「烈!」
掛け声と共に攻撃を繰り出していく武流。幾度も繰り返される頭部への打撃に、流石のレドンもなすがままではない。
腕を振りあげ武流を掴むと、ゆっくり力を込めていく。武流も忍刀で指の付け根に何度も突き刺し、脱出を図る。
「っだ、クソッタレ‥‥その面倒なFF、剥がしやがれってんだッ!」
サキエルが毒づくのも無理はない。青白く光るFF‥‥バグアのそれと同じ効果を持っているようだ。
だが、武流を狙うもう一人‥‥羅喉がレドンの身体をかけ登り、跳躍。
「――何人たりとて、逃さぬ‥‥!」
回避行動がままならない武流の御首を狙っていた。焦躁が仲間全体に広がるが――
羅喉の腕に銃弾があたり、思わず振り返る。
「‥‥いい加減にしろよ、トヲイ。自分が誰かもわからねぇまま、同胞を殺すのか」
そこには、ケイとサキエルが持ったままの銃を握るシルヴァリオ。まあ、平たく言えば二人の手をとった状態でトリガー引いたんだね。
「目を覚まさせてやる。来いよ。今のお前なんて――素手で十分だ」
すっと手を離すと、人差し指を自分の方へ折り曲げて羅喉を挑発する。その隙に武流はレドンの指を破壊し、掌を蹴りつける反動で離脱。
ラルスもレーダーの役割も兼ねていたらしき目を潰し――頭部はほとんど機能しないような状態になっている。
●ふざけてないよ!
そして、地上では。白虎がユキタケを揺り起こす。
「ユキタケ君。しっかりするんだ! 出番が終わるよ!」
「うう、総帥‥‥僕のことは構わず出番をしっかり」
出番とかじゃなくてさぁ。敵倒そうよ。朔夜は苦笑しつつ、再び流し斬りで応戦。
それ同様に思っているのが大地である。
「なーお嬢。そろそろ真面目にやんねぇ?」
「そうだねぇ〜、あのでくの坊の相手はつまんないから飽きちゃったし‥‥早く終わらせて遊ぼうか?」
零音も伸びをしながら同意し、ニヤリと笑った。
そんな時である。
ぐらりと、レドンの頭部が揺れ、大きくショートした途端。内部で発生したらしい熱でコードが融け、重量に負けた頭部がコードを引きちぎりながら落下してくる‥‥!
「危ない!」
瞬天速でやってきた宵藍がティリスを横から攫うように抱きしめ、その場を離れる。
大地も零音を庇い、ひょいと抱え上げて走る。
「ちょ‥‥! 天兄ー‥‥はずかしーじゃん!」
「恥ずかしいとか言ってる場合か? お前に怪我なんかさせられるかよ!」
「――‥‥何、真面目なこと言って‥‥ばぁーか‥‥」
もふ、と大地の方に顎を乗せる零音の顔は、ちょっと赤い。
ちょうど二組が離れたそこへ、レドンの頭部が落ちてきた。逃げようとした美雲のドジっ子がここでも発現。何も無いところで転ぶ。
「きゃぁっ!?」
「‥‥! 危ない、美雲‥‥!」
リヴァルが気づき、美雲を助けるために瞬天速で疾走。リヴァル自身既視感を覚えたようだが、奇遇な事に報告官も嫌な予感がした。だが真実を報告するのが私の仕事。
「美雲、今度こそ助け――‥‥?」
「! リヴァルさ‥‥ん?」
頭が落ちてくる前に掻っ攫う様にして美雲を助けたリヴァルだったが‥‥やっぱり瞬天速の勢いを殺しきれず、美雲に覆いかぶさるような体勢で――制服の中へとリヴァルの頭がダイブ。
「っわぁ!?」
しかも運の悪いことに、そのまま零音にもぶつかった。
色々細かく書くと報告官の命が危ないので例えると、ティッシュケースに滑りこむ猫のような感じだ。スポッと下から上に。
つまり、リヴァルは美雲の制服のブラウスの下、胸に埋もれるように顔を突っ込んでいる。どういう状態なのかとか、実際難しいだろというのは知らない。
「ち、ちょっと、リヴァルさんっ!?」
慌てる美雲。モガモガともがきながら視界を確保したリヴァルの目の前には美雲。謝罪もそこそこに大慌てでこの状態を打開しようともがくリヴァル。
そして、さらなるラキスケが彼を襲う。
「痛ったた‥‥危ないじゃな‥‥」
いきなりぶつかってきた二人。巻き込まれた零音としては文句くらいは言っても構わないだろう。リヴァルを睨みつけようとして、違和感のために動きを留めた。
しばしの間。リヴァルも美雲も零音も、周りの人々も何が起こったのかは分からなかった。しかしである。リヴァルの手は零音の胸に置いてあった。
しかも、美雲の服の中から脱出を試みているため、手には力がこもったり抜かれたり。意味は、わかるな?
まじまじ見ていた零音は、ぷつん、と頭の何かのスイッチが切り替わった。
「はっ‥‥破廉恥でござりまするぞぉおォォォ!!」
不敗の黄金竜と竜の咆哮追加のインフェルノに乗せて問答無用でぶっ飛ばす。あ、美雲の服がリヴァルと一緒に吹き飛んだ。
美雲をまじまじ見たい気持ちを抑え、ユキタケが上着をかける。
「テメェは零音に何してんだぁあああっ!!」
どしゃっ、と顔面から着地したリヴァルに、大地のグーパンが飛ぶ。ホームランではなく地面にめり込む状態。
そこにさらなる追撃が入る。美雲の兄貴分である神撫だ。
「もはや何も聞かん‥‥そのまま逝ってしまえ」
無表情で近づいたかと思うと、肩幅に両足を開いてリヴァルを見つめながらインフェルノを振りかぶる。本気と書いてマジと読むアレである。
――殺される。
そう判断したリヴァルは、近くにいたTEのリーダーに四肢挫きをかけて移動不能にすると、彼を身代わりに回避する。
悲鳴が聞こえたようだが、後ろは振り返りたくない。
「ちっ、ゴキブリ並みの素早さだな‥‥!」
だが逃がさん、と、インフェルノを振り回して神撫と零音と大地はリヴァルを追いかけ回す。恐らく殺すまで追いかけるのだろう。
そこはいいとして。同じく、危険な状態にあったティリス。恐る恐る眼を開けた。そこには――
「宵藍さん‥‥!」
「危なかったな! 無事だよな?」
こくりと頷くティリス。ちなみに、お姫様抱っこである。困ったときに男性が助けてくれる幻想を抱くティリスさんにとっては大変Goodな状況だ。
衝撃で街のレンガや瓦礫、といったものが宙に舞い上げられて一気に降り注ぐ! ビルとか住居はシャッターに入ったけど、こういうものは違うよ!
「ユーディー君‥‥!」
覆いかぶさるようにユーディーを抱きしめ、瓦礫などから庇うラルス。大きく目を見開き、ユーディーは首を横に振った。
「ラルス、そんな事をしては、怪我を‥‥!」
「大丈夫ですよ‥‥ああ、これくらい猫を見れば治りますから」
血が、だらだら出ているではないか。だが、そこを指摘するほど空気読めない子ではないユーディー。
「‥‥ありが、とう‥‥」
すまなそうに目を伏せ、ラルスの胸元に頭を寄せた。
シアンもまた、リゼットを己の胸に抱きしめ、外套で覆う。
「大尉! 私も能力者ですし、怪我とかは多分大丈夫ですよ‥‥!」
あたふたするリゼットだが、シアンはそういう問題ではないと切り捨てた。
「大事な人に物が当たるさまなど見たくはない。綺麗な髪も汚れる」
「‥‥公私混同です」
「たまにはいい。内緒にしてくれ」
そう言われたリゼットも、抱擁の暖かさにそっと微笑んだ。
「‥‥はい、今回だけです」
その光景を見ていた鳳さん、通常より三割増しで頬が緩んでますが、モノとかあたってますけど。ああそう、平気。
ケイとサキエルは、シルヴァリオの後ろ。FFを強く展開した彼に庇ってもらったようだが。あれ、それ庇ってるって言わないよな。まぁいいか。
更に大変なのは、それを見ていたしっとする方々である。
「かぁー、この期に及んでイッチャイッチャと‥‥おお、何かどす黒いものがこみ上げてきた!」
その台詞に、ボロ雑巾のようになっていた歩は刮目し『それだ!!』と大きな声を上げてTEたちを大変に驚かせる。
「伝説の非リア必殺技‥‥【しっと玉】を使うしか無いということですか‥‥」
「しっと玉‥‥?! なんです、それ」
しっと玉。なんだかもう想像するのも嫌な名前だが、あえて聞いてしまった恭也。胸を張り、良い質問だねと言いながら歩は続ける。
「世界中の非リア充から分けて貰った嫉妬心を一身に受け、非リア充へ妬み嫉み怒りをぶつける必殺技です」
聞かなければよかったと後悔しても遅いのである。歩は両手を頭上に掲げ、高らかに叫んだ。
「僕達が必殺のしっと玉でレドンやバグアに桃色総帥、ラキスケだって粛清して見せますよ! さあ、皆のしっとを僕に!」
恐らくその場のしっとが集まっているのだろう。掌の上に大きな黒いものが集まってきた。
「ああ、感じる‥‥感じるぞ、世界の嫉妬の力!!」
凄いです佐渡川さん! と、若干棒読みで恭也が感嘆の声を上げた。
ちなみに、その嫉妬のエネルギーはここにいるしっとのメンバーだけである。
「まずはそこのラキスケに喰らえ――うわー、しっとの中にドジ属性と桃色属性が混じっていたなんて! いやあああ潰される!」
リヴァルに投げつけようとしたしっと玉だが、いろいろな思念というかそういうものが入っていたらしい。人を呪わば穴二つ。歩は力に押しつぶされた。
だが、安心して欲しい。このしっと玉、見た目は派手だが電波増幅を掛けたところで効果は同じだ。
「これで終わり‥‥かな?」
朔夜が恐る恐る槍を収めようとしたが‥‥それは途中で止まる。頭部が無くなったレドンはこれで倒されたかと思いきや‥‥頭を失くし、行動統制部分を失ったのだろう。暴れ始めたではないか!
「おいおい‥‥ますます酷くなっちまったじゃねェか」
サキエルが辟易した顔をして、肩越しにレドンを見上げる。腕を振り回し、走りまわって下手に此方が動けない。
羅喉はレドンを見上げて、己‥‥彼等の敗北が近いことを悟った。
斯くなる上は、と羅喉はバグアで言う限界突破――のようなものを使用する覚悟を決めたようだ。
動きを変えた彼に、ケイは躊躇う。
「トヲイ‥‥!」
だが、シルヴァリオも割といい加減だがアホではない。勘づいたのか羅喉に体当たりをして引き倒すと、双剣を彼の頚に左右から当てた。
「お前自身の感情で死ぬのなら止めない。だが、誰とも知らぬ奴にいいようにされて死ぬのがお前の最期なら――お前も大したことはない。今ここで死ね」
「やめろッて、煉条が――」
「失望した」
サキエルが止めるのも聞かない。ぐっ、と徐々に力が込められ‥‥見かねたケイがシルヴァリオとトヲイの名を叫ぶ。
が、羅喉は小さく呻いた後に――『すまない』と言った。
「そうだな、まだ‥‥死ぬ訳にはいかない。お前には又、借りを作ってしまったな」
と、顔を覆っていた仮面を外したトヲイの眼は‥‥今まで、シルヴァリオが対峙してきた彼のものだった。洗脳が解けたらしい。
「フン、オレは高いぞ。きちんと働いて返せ」
剣を引き、その代償としてトヲイと契約。いつもより多めに力を吸って、暴走するレドンを顎でさした。
「――こいつがラストダンスか‥‥派手に踊ろうか!」
ぱん、と拳と掌を打合せた追儺が走る。
「フルオープン、ファイヤー!!」
危険を顧みず百白も続く。SMGを両手に持ってそれを援護するリュウナ。
「‥‥堕ちろ!」
「‥‥図体がいくら大きくてもね‥‥鳳凰の羽ばたきは止められはしないよ!」
「【赤枝】の名にかけて! 祖国と地球は守る!」
スコーピオンを真下から打ち込む百白。そこに、覚羅とシアンが加わり足の切断を図る。あれほど苦戦した装甲は、内部異常があったのだろうか? 肉を断つように柔らかい。
「もっとかっこ良く頑張りたかったーーー!!」
白虎のぬいぐるみ型超機械『虎きゅん』を握りしめてユキタケが叫ぶ。彼のしっと心に反応したのか、虎きゅんの口から衝撃波が飛び出す!
「レドンとやら‥‥終わりにしよう!」
武流がレドンを駆け上り、ぽっかりと空いている頭部だった場所――へ、真燕貫突を付与した飛び蹴りを当てた。更に身を反転させ、垂直に落下する飛び蹴りを当てる。
ぴし、とレドンの身体に亀裂が入る。更に拳を振り上げた武流。
「この一撃‥‥こいつで決める!」
「――いいところは残しておくものだぜ?」
上から降ってくるのはシルヴァリオとトヲイ。『じゃあ半分だけな』と武流は珍しくフッと笑って拳を打ち下ろす。
「仮初めの仲間だったとはいえ‥‥悪く思うな!」
トヲイの爪が、武流の拳が、仲間の思いがレドンを引き裂く。
そのまま着地した彼等の頭上で――金属の破片や体の一部を地へ降り注がせつつもレドンは大爆発。
目標は完全に、沈黙した。
周りを見ると既にNPC達の姿はなく。傭兵たちと救助されたちまが残るだけ。
礼も別れも言えずに契約は消える方式らしいが――
『また いつかどこかで』
風に乗って聞こえた声は、誰のものかは分からない。
きっとまた再び会えることを信じて。