タイトル:選択の自由マスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/12/10 23:58

●オープニング本文


●帰ってきたけど

 バグア本星、だったもの‥‥が大小問わず、宇宙ゴミとして幾つかは地球に落下してくる。
 その破片の除去作業や復興に向けて、各地は動いていた。
 ドイツ某所。美しい景観を持った街並みも、壊されてしまっている部分も少なからずあるが、おおむね被害は少ない方だったようだ。
 胸に猫を抱えた銀髪の女性は、いつもより本当に少しだけ眉を寄せる。

「‥‥どう、しよう‥‥」

 帰ってきたのはいいのだが――‥‥家がなかった。
 被害が少ないといえど、皆無だったわけではないのだ。
 借家は既に取り壊されていて跡形もなく、立ち入り禁止のガードフェンスに覆われた更地になっている。
 一緒に旅をしてきたティリスは自分の実家に戻って行ってしまったし、頼る人物もそんなに居ない。
「‥‥‥‥」
 今まで通りB&B生活に戻るしかないか。そう思ったが、ふと知人の顔が浮かんだ。
 困ったことがあったら、と名刺と連絡先を渡してもらっていたはずだ。
 少々考えた後、女性はその連絡先に電話をかけた。


●なんかいた。

 指定された場所まで来てみると、そこには見慣れた軍服姿に身を包んだ長身の男。
 女性に気づくと、軽く手を上げて近づいてくる。
「久しいな、ユーディット。元気そうで良かった」
「あなたも、元気そうで何より‥‥マクニール大尉‥‥そういえば、もう昇進、した?」
 ユーディットという女性は彼の胸元の階級章を見るが、大尉という男は穏やかに笑うだけだった。
「残念ながら、俺たちは現場が好きなんでな。偉くなると現場から離れないといけなくなる。昇進はしたい奴がすればいい」
 2人並んで歩きながら、駐車場へと向かう間に軽く互いの近況を伝えあう。
「‥‥君の兄は、まだ監獄にいるのだったか。
 民間の機関で、親バグア派を保護・支援しようとする団体もあるというが‥‥」
 ちらとユーディーの表情を伺ってみるが、彼には彼女が何を考えているのかまでは読み取れない。
「出所しても‥‥一緒には、暮らさないのか」
「‥‥‥‥無理。憎いと、まだ思うから」
 旅をしている最中、それは幾度となくユーディーも考えたが、やはりそれだけは出来ない。
 シアンも黙って頷いた。
「戦争は終わったが、君はこれからどうするつもりなんだ?」
「まだ、決めてない。キメラはまだ残っているから‥‥戦争が終わったという実感も、薄いのかもしれない‥‥」
 本部の依頼も減った。地球が平和になった証だとはいえ、寂しくないと言えば嘘になる。
「大尉は、どうするの」
「軍部は縮小の方向になる。赤枝はまだ特殊部隊として維持されているが、いずれは‥‥そういう点では、俺も決めていない」
 他には幾つか考えていることはあるが、と言いながら、エミタが移植されている方の手を見つめた。
「‥‥これも、どうするか決めねばならん」
「‥‥そうね」

 除去するのか、それともこのままか。
 それは、能力者にとって‥‥誰しもが持つ【選択】である。

「‥‥みんなは、どうしたのかな‥‥」
「摘出した者も居るようだが、まだ決めかねる者もそれなりに居る。気になるなら、まずあの男から聞いてみてはどうだ」
 駐車場に入ると、彼らの姿を認めたユキタケが、運転席から手を振っていた。
「‥‥伍長、帰ってきたの?」
「そうらしい。いつの間にか支部に居た」

 ユキタケのことはともかく、久々に同業者達と出会って話を聞くのもいいかもしれない。
 ユーディーは車に乗り込み、そんなことを考えていた。

●参加者一覧

潮彩 ろまん(ga3425
14歳・♀・GP
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
佐渡川 歩(gb4026
17歳・♂・ER
宵藍(gb4961
16歳・♂・AA
樹・籐子(gc0214
29歳・♀・GD
エイルアード・ギーベリ(gc8960
10歳・♂・FT

●リプレイ本文

●再会

「んふふ。お姉ちゃん楽しいわ〜!」
 樹・籐子(gc0214)が愛ある抱擁をティリスに行い、照れを押し隠すような態度で『トーコさんは、いちいち感激して抱き着かないっ!』と言われているものの、籐子には全く省みる様子はない。
「ウィンドウショッピングだけじゃ済まなくて〜、着せ替えも楽しかったわね!」
「トーコさん趣味はいいから、まぁ、たのし、かったけど‥‥」
 そっぽを向いて答えたティリスに、やだ可愛い〜といってまた抱き着く。
 しょうがないお姉さんですねぇ、と苦笑するティリスの視界に‥‥見知った、ユーディーの姿が映った。
「何してんのかしら、あの子‥‥」
 ティリスは籐子を連れて、近くまで歩み寄っていった。

 LHにやってきたユーディー達は、懐かしそうに目を細める。
 見知った景色に、馴染み深い顔の男性が立っている。
「お久しぶり〜ですねー、ユーディー君」
 人当たりの良さそうな笑顔で、ラルス・フェルセン(ga5133)が歩み寄ってくる。
「メアも〜お利口にー、していたようですね〜」
 ユーディーの腕に収まっている猫のメアの頭を撫でると、猫は頭を掌に摺り寄せてきた。
「久しぶり。あなたも、元気そうで本当に‥‥良かった」

「ユキタケさーん! また会えると信じてましたよ!」
「おお!? あなたは心のズッ友、佐渡川さんじゃないですか!!」
 そんな和やかな再会の傍らで、メガネ2人は、再会を喜び熱い抱擁を交わす。なんなんだ、心のズッ友っていうのは。
 ちょっと目に涙を浮かべる佐渡川 歩(gb4026)。その矢先だった。

「ふぁっ?! 宵藍さん!?」
 ティリスの声に視線をそちらへ向ければ、宵藍(gb4961)が感極まってかティリスとの再会の直後、抱き着いたではないか!!
「‥‥ごめん。もう少しだけ、このままで頼む‥‥」
 表情は隠されていて見えないが、宵藍の様子がいつもと違うため、ティリスの動揺を止めた。
「どう、したんですか‥‥?」
「‥‥友人が、宇宙で死んだんだ‥‥言葉通り、消えてしまって‥‥何も残らなかった」
 かける言葉も分からずに宵藍の背中をさするティリス。と、抱きしめられる手に力が篭る。
「この温もりも、間違いないよな‥‥」
 ようやく顔を上げた宵藍は、泣いてはいなかった。
「良かった‥‥ちゃんと、ここに居る‥‥」
 その状態で何かに気付いた宵藍はそのまま数秒固まる。
「‥‥はっ!? お、俺は公衆の面前で何を!」
 己の行動に羞恥しつつも、嬉しくてつい、とかしどろもどろになっている宵藍。
 歩は嫉妬丸出しでユキタケに愚痴をこぼし始めた。
「まだ隕石やキメラの問題が残っているのに、最近不謹慎です!
 僕なんか宇宙で佐渡と戦ったりと忙しくて恋人を作る暇なんて無かった、っていうのに‥‥!」
 もはや、人様にはお見せできない醜い形相になっている。
「こうなればクリスマスの前哨戦です。独り身の嫉妬の炎の方があたた――」
「やめんかぁーッ!!」
 スパーンと小気味よい音を立ててシアンのダブルハリセンが、ユキタケと歩の面を叩く。
 メガネがなければ即死だったと、訳のわからぬことを言いながら地に倒れるメガネ2人。

「‥‥相変わらずだな」
 リヴァル・クロウ(gb2337)がシアンの前に現れた。
 シアンはリヴァルの表情をまじまじと見つめ、何か悩みでもあるのかと訊ねた。それに対し、眉を軽く上げたリヴァル。
「なぜそう思う?」
「この仕事も長く続けていると、いろいろ察しがつくようになるのだよ」
 男は分かるが残念ながら女心は分からずじまいでな、と自嘲しつつユキタケの襟を引っ張ると、LH側からやってきた時枝・悠(ga8810)が軽く手を挙げた。
「‥‥マクニール、中尉? 珍しいところで会うね」
「時枝君か‥‥皆で立ち話もなんだ。時間があれば、食事でもどうだ?」
 悩みや相談か何かあれば聞こう、といった言葉に興味を持った様子の潮彩 ろまん(ga3425)と、エイルアード・ギーベリ(gc8960)が一緒に行ってもいいかと声をかける。エイルアードはなぜか女装だ。
 シアンは2人にも頷きを返し、行きつけの店に向かっていった。

●進路相談?

「――そういえばそちらの‥‥ユーディットさん。今後について悩んでいるんですか?」
 歩の言葉に、こくりと小さく頷くユーディー。
「‥‥生憎だけど、他人に語れるほどの人生経験はないぞ」
 訓練くらいなら手伝えるけどな、と真面目に応えつつ悠は椅子を引いて腰かける。
「そうですねー‥‥。まず、ユーディー君が『何をしたいか』がー、重要ではーないでしょうか〜?
 これからもー、傭兵としてー戦いをー続けたいのであればー、エミタは残しておいた方がー都合が良い、です〜」
 復興に携わりたいなら無理に残す必要はないだろうとゆっくりだが的確なアドバイスをくれたラルス。

「お姉ちゃんは、ちょーっと宇宙開発関係に首突っ込んでるものだから、傭兵は続けるわよ〜。合間縫って適当に憂さ晴らししておきたいしね〜」
 ストレスの解消は必要だもの〜、と微笑む籐子。
「宵藍ちゃんはどうするの?」
「俺は当分、傭兵とアイドル業の両方を続けるつもりだ‥‥心の復興っていうか、芸能面から応援するのもアリだと思うしさ。戦えるに越したことはないし、歌で救われることも、あると思う」
 そう言って微笑んだ宵藍。
「僕は、ずっと能力者として生きていくつもりです」
 柔らかな笑顔でそう答えたのはエイルアード。
「バグアの脅威はまだ完全に消えた訳ではありませんし‥‥エミタの力は役に立ちます。協力出来る事も多いと思うんです」
「やっぱり、悩んでる人は多いんだね‥‥」
 にぱっ、と明るく純粋な笑顔を見せるろまんは、飲み物を卓に置くと思い出すように語りだした。

「終戦後実家に帰ってみたら、漁業が壊滅的な打撃受けてて‥‥宇宙開拓とか戦後の復興でKVが活躍する場はまだまだ、多いと思うんだ」
「つまり、ろまんちゃんは能力者を続けるってことかしらー?」
 籐子が優しい視線を向ければ、はいとろまんは頷いた。
「メリーさんを払い下げてもらって、宇宙の何でも屋な会社を作りたいんだよ。ボクは社長兼パイロットの女子大生だから、運営は家族にも手伝って貰って‥‥ULTとか、軍の下請けでお仕事貰ったり出来たらいいなって」

 ろまんの楽しそうな未来展望を聞いていた悠は頬杖をついて、私もねー、と口を開いた。

「当面の間は傭兵を続けつつ、ゆっくり決めれば良いやー、なんて考えてたんだけどね。仕事はがっつり減ってきたし。金は貯めてたから、すぐには問題ない‥‥っちゃ、ないけど。ね、中尉‥‥あ、もう大尉か‥‥実際、軍ってどうなの? 確か能力者は入軍を奨励って言ってたよね」
「君ら能力者は、基本的に身分が保障されるはず。実際、傭兵から軍にやってきた者もいる。しかし、規律だらけだぞ?」
「堅苦しそう‥‥まぁ、軍とか‥‥正直、キャラじゃないなー、とは思うんだけどさ」
 嫌そうに顔をしかめた悠。シアンは勤務時間外なので気兼ねなくビールを口に運んでいる。
「その気になったらいつでも歓迎する」
 下士官にはあまり自由はないから覚悟するんだなとシアンは苦笑した。

「なぁ。ティリスは何か目的、ある?」
「ん〜‥‥どうしようかなって思うことは、ありますけど‥‥宵藍さんみたいに、アイドルになればよかった〜」
 歩が『エミタの除去ですか』と聞いた。
「要らないなら除去してもいいと思いますよ?
 一般人だからって何も出来ない訳ではありませんからね」
「僕みたいにな!」
 どこかで聞いたセリフでドヤ顔を浮かべるユキタケを見ながら、リヴァルは『変わらないな、君らは』と笑った。悠に至っては『大尉はともかく伍長って階級も中身もそのままだよね』と痛いところを突く。
 直後。リヴァルの表情は、少々寂しげなものに変わる。
「俺は‥‥今まで、必死になって生きてきて‥‥気がつけば、世界の中心‥‥最前線で戦っていた」
 一傭兵として、この軍人達と出会った頃とは明らかにいろいろなものが‥‥変わってしまった。
「ユダ‥‥ブライトンを討ったあの日から。受ける視線や評価‥‥そんなものから劇的に変わってしまった気がする」
 リヴァルは苦い顔で胸に浮かんだ想いを酒で流し込む。
「意味もなく漠然とした不安に駆られる時や、自分が自分でなくなってしまうような感覚‥‥そんなものが胸にこみ上げるときもあるんだ‥‥」
 昔の自分を知っている仲間の所で。自分が自分である事を確かめるように、こうして話をしたかったのかもしれなかった。と吐露するリヴァルに、シアンは何かを巡らせてから‥‥人は変わるものだと呟いた。
「確かに、君を取り巻く環境や君自身の心も、大いに変化はあったのだろう。それを転機と呼んだりすることもあるが、な」
 そこでシアンは言葉を切り、リヴァルの目をまっすぐに見つめた。
「だが、心の奥底に昔から変わらぬ部分があるのなら、それが己の本質なのだと思う。君が守るものは、力無き者や世界だけではない。揺るぎない意志もまた、そのひとつだ」
 君は前から、誠実な人間だと思う――と語ったシアンに、リヴァルが何か言おうとした。
「でも、リヴァルちゃんは、こういうのが好きなのよね〜? お姉ちゃんは何でもお見通しよ〜?」
 そこに籐子が横からむぎゅりと飛びついてきた。豊満な胸が顔に押し付けられ、もがくリヴァル。
 嫉妬しながら見守るのは‥‥非モテメガネ2人であった。
 ろまんは籐子とリヴァルのやり取りにどぎまぎしつつも、『いろいろありますよね』と話を変える。
「‥‥今までは『悪い宇宙人、やっつけなくちゃ!』だった。でもこれからはみんなの平和と発展の為に、お仕事とかしたいもん」
「ええ、平和は〜、我々にとってのー、願いですからねー」
 ラルスも同意した後、自分の意志をユーディーに伝える。
「私はといえばー、当分はー傭兵のまま、ですね〜。完全に平和だと思えるようにー、なるまではー、家族が安心出来る世界をー、目指します〜」
 平和かぁ、と背もたれに体を預けて、悠は未来の形を思う。
「‥‥まあ、食い扶持に困らず、身の危険の少ない道が一番じゃないかな。後から進路変更できない訳ではないし、そういう点では無難な方がいい」
「平和だけでなく、生活の安定‥‥理由は様々ありますね。僕にも‥‥一番の理由があって‥‥」
 言い終わるとエイルアードはすっと立ち上がって覚醒。すると、気品ある少女の姿になったではないか!
 少女は自身のゴシックワンピを満足そうに眺め、頷く。
「ふむ。依頼の直後だけあって妾のお気に入りの服装じゃの。妾はリンスガルト・ギーベリじゃ」
 礼儀正しく礼をすると、少女は目を閉じる。
「‥‥そう。エミタによって生じた仮初の人格じゃ。‥‥妾は、エイルアードと同じく、ある少女を愛してしまったのじゃ。本音を言えば消えたくはない。3人で、ずっと暮らしていきたいのじゃ‥‥」
 極上の笑顔を浮かべた後で覚醒を解除し、元に戻る。
「驚かせてしまったでしょうけれど、僕にとっても、僕達の恋人にとってもリンスガルトはかけがえのない存在なんです」
 だから、エミタは外せないと言うエイルアードの言葉。
 愛する者と共にいたいという願いは、数人の能力者の心に何かをもたらしたようだ。

「‥‥俺は‥‥特に戦う理由がないなら、ティリスには普通の女の子に戻って欲しい、と思う」
 そう告げた宵藍を注視するティリス。
「そりゃ、ティリスを叱りつけたことも散々あったけど、もう無理に戦うこともない。‥‥傭兵続けても、傭兵じゃなくても、その、ずっと守りたいとは思うし」
「ちょ‥‥あの人何かファイナルアタックなフラグが立ってますよ! ユキタケさん!」
「はーい、静かにね〜? 大事なとこなんだから」
 嫉妬丸出しのメガネ共を籐子が抱き寄せ、にっこり笑顔を浮かべて宵藍を応援している。

「あー、もう、まどろっこしいのは止め!」
 このじりじりとする雰囲気に耐えきれず、宵藍は拳を握ると、ティリスに想いをぶつけた。
「俺はティリスに傍に居て欲しい。で、ずっと俺の傍に居て欲しいから、何があっても絶対に守る!」
 上目遣いで返事を待っている宵藍に、ティリスは頬に人差し指を当て、小首を傾げ。
「‥‥宵藍さん‥‥肝心なこと、言ってくれてませんねぇ」
 え、と絶句する宵藍。まさか、駄目なのかという気持ちが頭をよぎったのだろう。しかし、ティリスは笑って首を振った。
「――宵藍さん、ティリスの事好き‥‥?」
「す、好きだぞ。大事に思ってる」
 言い終わって、照れたような顔をする宵藍。
 ティリスはくすくすと笑って、私も、宵藍さんの事大好きですと宵藍に抱きついた。
「でも、私、宵藍さんと一緒に戦いたい。支えてあげたいです」
「強くなったんだな。偉いぞ‥‥これからも、よろしくな」
 安堵の息を吐いた宵藍は、ティリスの体を優しく抱きしめてやる。
「なんでしょう、佐渡川さん。めでたい話なのにこのささくれ立つ感情は!」
「堪えてくださいユキタケさん! これはリア充の罠です!」
 しかし、これで話は終わらなかった。
「そうだー。ユーディー君〜、私の家へー、いらっしゃいませんか〜?」
 家がないと聞いたラルスは、善意でユーディーへ住居の提案をしたのだった。
「異議ありィィ!!」
 それには、この非モテ達も黙っていない。
 なだめるシアンの手をふりほどき、立ち上がると弁護士のように指をユーディーとラルスへと突きつける!!
「そんなこと言って! ふ、不純な動機じゃないでしょうね!
 パジャマが無いのでワイシャツで寝てくださいね〜とか!
 うわああ布団もないから一緒になんて不潔よ!」
「‥‥あの〜、仰る意味がー、分かりませんが‥‥家族としてー、歓迎させていただこうかとー思っております〜」
 ラルスは気分を害するでもなく説明し、ユーディーはラルスが住んでいるところにお邪魔したいと口にした。
「はい〜。喜んでー、歓迎いたしますよ〜」
 飲食店なので、携帯ケージに入っているメアに視線を投げたラルスは微笑む。
 ラルスから証として受け取ったアメトリンの腕輪をなんだか嬉しそうに眺めているユーディー。
「ちょ、ユーディーさん! あなた嫁入り前の子が男のひとの――」
 口角泡をとばすユキタケ。ユーディーは、なぜ怒られているのか良くわかっていない。

「すまんな‥‥許せ」
 やむなしとシアンは当然のように立ち上がり、騒ぎ始めたユキタケの口を手で押さえ、鳩尾に一撃食らわせて気絶させる。おお、と悠は感嘆の声を上げた。
「‥‥手慣れた感があるけど」
「毎年のことだ。久しぶりだが要領を会得してしまった」
 ぐったりしたユキタケを荷物担ぎし、シアンはそろそろ失礼すると立ち上がった。
「場を乱してしまったが‥‥いい意見を聞くことができた。次も、楽しい場で出会いたいものだ」

 そうして、君らの今後に幸あれと、小さく笑って背を向けたのだった。