タイトル:最後の聖★戦!マスター:藤城 とーま

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 19 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/03/19 03:16

●オープニング本文


●またお前か

「‥‥またこの時期がやってきてしまった‥‥」
 カレンダーを見ながら、真顔でぶつぶつと呟いているユキタケ。
 今日は2月14日。
 しかし、ここはもう日本ではない。
 チョコレートを貰えず、むせび泣かなくていい、はずなのだ。

 が。

「ほら、ミネルヴァ。俺とシアンから」
「まぁ、ありがとうございます‥‥綺麗なお花」
 嬉しそうに花束を受け取るミネルヴァ曹長。ちなみに、彼女へ花を渡したロビン少佐の奥さんである。
「マクニール大尉も差し上げるのでしょう? 婚約者に」
「ああ」
「うああああもう!! 最悪!!」
 にこやかに談笑している3人に、ユキタケは奇声を上げた。
 なんという、なんというリア充小隊!!
 急に変な声を上げたユキタケに驚く三人。そして、シアンは合点いったような顔をした。
「捕まえておくのを忘れていた‥‥そうだった。伍長は2月や3月は特別保護月間だったな」
「なによ! 大尉のばかっ!
 ちょっと背が高くて金持ちの家に生まれてそこそこ顔がいいくらいでリア充になりやがって!
 どうせ、学生時代は遊びまくっていたんだ! もう■ねばいい!!」
「ユキタケ! 上官に向かって■ねばいいとはなんだ!! お前こそ僻み根性をどうにかしろ!」
 リアルに充実していることの何がそんなに悪いんだ、と、非モテにとって禁断の言葉を放つシアン。
「よろしい、大尉! 全面対決だ!!」
「なんだかよくわからんが、チーム何たらとアルバトロスを持ち出すつもりなら、俺もシラヌイを出すぞ」
 妙に今回はやる気のシアン。完全にユキタケをつぶす気らしい。
「‥‥毎年よく飽きねえねぁ、あいつら」
「元気があっていいですねえ」
 ベルフォード夫妻はそれを止めるでもなく見つめていた。

●対策:なし

「――というわけで、大尉がやる気スイッチ押されてる感じです」
「押したのおまえだろ」
 チームエンヴィーの仲間が、やっちゃったー、というような顔でユキタケを見つめていた。

「‥‥あのな、ユキタケ。言いにくいんだけどさ。
 俺たち、もうチーム解散しようって話が出てるんだ」

 すまなそうに告げる隊長に、ユキタケはまた激怒した。
「なんでですか! 去る者は許さないのが掟でしょ!?」
「だって婚活したい」
「だって、じゃあありませんよゥ!! もー頼りにならないんだから!!」
 言いたい放題のユキタケではあったが、こうなったら、とユキタケはラストホープの方向に顔を向けた。

「残存兵力に頼るほかありませんね‥‥!!」

●参加者一覧

/ 神崎・子虎(ga0513) / 弓亜・優乃(ga0708) / 須佐 武流(ga1461) / 西島 百白(ga2123) / クラーク・エアハルト(ga4961) / ラルス・フェルセン(ga5133) / リゼット・ランドルフ(ga5171) / 守原有希(ga8582) / 白虎(ga9191) / 神撫(gb0167) / リヴァル・クロウ(gb2337) / 鳳覚羅(gb3095) / 佐渡川 歩(gb4026) / リュウナ・セルフィン(gb4746) / 宵藍(gb4961) / 東青 龍牙(gb5019) / 樹・籐子(gc0214) / セラ・ヘイムダル(gc6766) / ルーガ・バルハザード(gc8043

●リプレイ本文

●最後のしっとに祈りを込めて

「今年もこんな季節ですか‥‥」
 しみじみと感慨深そうに語るクラーク・エアハルト(ga4961)。
 残念ながら彼の表情は全身装甲服に覆われているので全く見えない。
 だが、ショットガンやシールドを手にする立ち居振る舞いから、やる気のほどがにじみ出ている。
「――久しぶりに、全力でいかなくては」
 強敵と書いて『とも』との、戦いが待っているのだから。


「まだなのか!? 少佐! 出撃許可は、いつになったら降りるんだ!!」
 パイロットスーツを着用し、シラヌイの出撃許可まで取り付けているシアン。
 しかし、当然上官はGOなど出してくれない。
 ロビン少佐も対戦相手がKVを持ち出して攻撃態勢に入った場合のみ考慮する‥‥というが、流石に街中でドンパチされては困るわけである。
「まぁ待て、シアン。怒りたくもなる気持ちはわかるが‥‥早まらないでほしい」
 その様子を見ていたリヴァル・クロウ(gb2337)が、やんわりと静止するようにシアンの肩に手を置いて諌める。
「それに‥‥KVを出していいのは『出されても良い』覚悟のあるものだけだ。
 奴らにその気概があるのなら‥‥その時は、俺もさほど強くはないがシュテルンで対抗しよう」
 そのシュテルン、控えめに見ても弱いなどとは思えないのだが――まぁ、強さの価値は人それぞれ。
 シアンもその時は頼むとあっさり譲歩し、二人は僅かに微笑んだかのような顔を見せる。
「ああん、お兄様あぁ〜! そんな笑顔を他の人に見せちゃ嫌ですぅ〜!」
 しかも男の人にいぃ〜、と鼻にかかる甘えた声でセラ・ヘイムダル(gc6766)はフライングボディプレスばりにリヴァルへと飛びかかり、
 慣れた仕草でリヴァルの顔面に胸を押し当てている。どうやらプロの手口だ。
「モガッ‥‥、セラ、苦しい‥‥」
 しばらく胸の海でもがいていたリヴァルだが、窒息の危険が濃厚になったため、セラの腕を掴むと引きはがした。
「あら、お兄様ったら積極的‥‥」
 全く話が噛みあっていない。困ったような表情を浮かべるシアンに気付き、セラはにっこり微笑んだ。
「リヴァル・クロウお兄様はセラの最愛の人なのです♪
 実は愛の告白を去年の秋にしているのですが、返事を先延ばしにされていて‥‥」
「‥‥それは良くないな‥‥」
 振っておいてですよねー? と同意するセラ。
 それゆえ、焦らし上手のリヴァルから返事を頂くべく押しまくっているのだそうだ。
 どうにもお邪魔だと感じたらしいシアンは、邪魔したなと言ってその場をそそくさと立ち去って行った。
「さ、お兄様♪ セラとデートし・ま・しょ!」

 街では、幸せなカップルも多数歩いていた。
 神崎・子虎(ga0513)は、女装ではなく男装‥‥いや、性別に合う装いをしている。
「なんだか、お互い新鮮ですね〜」
「うん‥‥いつもの服だと女の子らしくないから‥‥私も、らしい服装をしてみたの」
 その女の子らしい服装というのはセーラー服だ。
 子虎の視線を感じると、弓亜・優乃(ga0708)は恥ずかしいしいようで俯きながらもじもじと体を揺らす。
「‥‥最近、こういう格好もいいんじゃないか、って‥‥そう思ったらなんだか気に入ってきて‥‥」
 心境の変化は、恋人によるものなのだろう。若干潤んだ瞳で、優乃はにっこり微笑んだ。
「は、恥ずかしいけれど、子虎君の望む服装なら、なんでも着るわ、よ‥‥?」
 そこで我慢が出来なくなったのは、子虎ではなかった!
「では着てもらおうか! 相撲取りクラスの肉襦袢を!」
 物陰に潜んで事の成り行きを覗‥‥監視していた非モテが、飛び出すや否や、優乃に分厚い肌色肉襦袢を押し付けようとする!
「こんな襲撃、予測済みだよっ!」
 シールドを構え、咄嗟に前に出て優乃を庇おうとした子虎だったのだが、
 大事な人を守ろうとする気持ちは、優乃も同じく強いようだ。
「ちょっと何なの、キミ達はっ!? 私の大切なご主人様に傷なんかつけたら承知しないんだからね!?」
 大体こんなモノいらないわよ、と言いつつ、肉襦袢を武器に非モテをバシバシ叩いてとっちめる優乃。
 子虎は、優乃の言葉を噛みしめて喜んでいたりする。


「‥‥今年も、伍長さんの発作が起きてしまったんですね‥‥」
 もういい歳なんだからそろそろ止めたらいいと、リゼット・ランドルフ(ga5171)が心配そうな表情でシアンの側へと近づき、ここにはいないユキタケの事を思ってため息をついた。
 しかし、ユキタケの件に関してはシアンが一番悩んでいるのだろう。それは眉間の皺が物語っている。
「あの、シアンさん‥‥」
「ん? どうした?」
「あの‥‥邪魔しませんから一緒してもいいですか?」
「邪魔などと思うはずはない。是非共に」
 リゼットは嬉しそうに微笑んでそっとシアンの腕に手を伸ばせば、彼の手は自分の肩を抱きこんでくれる。
 やっと、一緒に居られる。そう思うと、へにゃりとリゼットの頬が緩んだ。
「仲睦まじそうで、なんだか見ているこちらも幸せな気分になります」
 ニコニコ笑顔で彼らに歩み寄る守原有希(ga8582)。会うたびに年々強くなる汎用屋台も健在である。
「守原君か。久しいな‥‥。言うタイミングを逃したが、結婚したそうじゃないか。おめでとう」
「ありがとうございます〜。大尉のように、あのバカユキタケも人の幸せを祝うことが出来ればよかですが‥‥」
 だんだん、怒りで口調が変わってきたぞ。
「予め贈ったニュートンのゆりかご、どうやら意図も解らんかったみたいで‥‥」
 しかも、奥方との大事な記念日を穢すようなユキタケの所業。毎年だが、有希はそれにひどく腹を立てている。
「運動量保存則の勉強ば、嫌っちゅうほどさせますから‥‥!」
 こうなると止められないようだ。シアンは、ほどほどになと言って彼を送り出した。


「ふふふ‥‥久々の活動、腕が鳴るねー。頑張ろうではないか、ユキタケ君」
 しっと団総帥、白虎(ga9191)がやぁやぁと言わんばかりに片手を挙げて姿を見せたものの‥‥ユキタケの視線はなんだか険しい。
「なんだい、リア充」
「ノーゥ! ユキタケ君、ご挨拶すぎる!」
「彼女持ちで、しっと団員、あろうことか総帥を名乗るなんて!
 北風が鼻息で旅人のコートを吹き飛ばせますか!?
 姫が毒リンゴを食べて、歯茎から血が出るんですか!!」
「言ってることがよく分からないけど、ユキタケ君が正常じゃないことだけは分かったよ。
 だが、しっと活動は手を抜かないから、ともに頑張ろうにゃー」
 にっこりと純粋な笑顔を残し(そうせざるを得なかったとも言う)白虎は数々の作戦道具を抱えて街へと向かう。
 そして、ユキタケは双眼鏡で遠くを監視し、舌打ちした。
「‥‥チッ、大尉ェ‥‥『困ったら友人が助けてくれるパターン』発動かよ‥‥。
 可愛らしい嫁だけでなく、どこまでも恵まれた奴‥‥」
 双眼鏡を投げ捨て、これだからリアはKYなんだよ、ともう聞いているこっちが辛くなるほど惨めなユキタケ。
 打ち捨てられた双眼鏡を、無言で拾い上げる鳳覚羅(gb3095)。

――仕事は、やはり選ぶべきだった。

 同情から、護衛を金で引き受けたものの‥‥契約が切れるまであと数時間。
 一体、この男の愚痴や恨みや妬みの言葉をいつまで聞けばいいのだろう。
 大方スルーすることを覚えたが、これでは気分がどんどん塞いでいく。
 覚羅自身もため息を吐きそうになったときだ。
「やれやれ‥‥お前ら今年も元気だよな」
 しかし毎年毎年よくやれるもんだな、と感心というか呆れるというか。
 どんな顔をしていいかわからないといったような様子の須佐 武流(ga1461)がユキタケの前に現れた。
「むむっ、すーさー、邪魔するかあッ」
「何なれなれしく愛称付けてんだよ‥‥! ユキタケの分際で!」
 お前ら自由すぎるだろ、と素早くユキタケにヘッドロックをかます武流。
 そして、そのまま――交渉に入った。
「俺は毎度のことながらどちらかに肩入れすることはしねぇ。どうする、ユキタケ?」
「と言いますと‥‥?」
「高い報酬を出すほうに、俺はついていくぜ?
 つーことで、オラ、ユキタケ。俺を雇いたけりゃ高い報酬を出せや」
 かっぱぎタイムである。いや、傭兵なのだ。お金の分は戦ってくれるのだ。
 ユキタケが分かりました、と頷いた矢先に――ちょっと待ってと静止の声がかかる。
「ゆっきー、俺との契約料金は変わらないだろうね? ていうか君、そんなにお金持ってる?」
 先に契約していた覚羅が、やや厳しい口調で言うとユキタケの顔を覗き込む。
「持ってますよ! 彼女いないから貯めこんでますよ!
 いいんだ、どうせ僕は能力者じゃないからKV買えないし、エミタメンテも必要ないしモテないし‥‥
 って、モテないとかいうのやめてよ!!」
「俺たちは何も‥‥ま、目的さえ達成できりゃ、構わない」
 武流も少々困ったような表情を浮かべ、とりあえず覚羅と同等の値段で取引は成立したようだ。


「もう〜、なんでこんな素敵な日に、争いをするのかしら〜?」
 悲しいわぁ〜と言いながら樹・籐子(gc0214)は、豊満な胸を強調するかのように腕組みしながら嘆きの吐息を漏らす。
 綺麗な子や可愛らしい子同士がいがみ合う。そんな世の中はとても辛いものだ。
「可愛い子全てに愛を振りまくのが生き甲斐のお姉ちゃんとしては。
 そんな偏狭な考えを捨てさせて、皆で愛し合う様に誘導して‥‥一緒に幸せになる様にしたいわねー♪」
 幸せは皆で分け与えるからこそ、大きく育まれるのよ〜!
 などとそれっぽいことを言いながら、行動力全開の籐子は颯爽とその場を立ち去っていく。

「‥‥面白くない」
 人が愛を目指すものならば、かの人は幸を恨む――
 にこりとも笑わず無表情というか、能面のような顔のままルーガ・バルハザード(gc8043)は、肩で風を切るかのようにずんずんと大通りを歩いていた。
 この日というのか、この時期というべきか。周りはカップルが多い。
 一人で歩く人間も当然いないというわけではなかったが、同志(と勝手に認識している)を温かく見守ろうとするルーガとは視線を合わさぬよう、首を縮め顔を背けながらその側を通り抜ける。通常の3倍は早そうである。
 それが気に障った‥‥ようでもあり、そうでなくもあり。
 ルーガは徐に敵の気配(と思った)を察知し、歩道脇に生えている街路樹に手をかけると、覚醒してまで一気に引っこ抜く。
 普通っぽい女が街路樹を力任せに引っこ抜く――そんな姿にぎょっとする人々をじろりと睨めつけ、殺気を感じ取‥‥いや、逆に放った瞬間。
「そーれ、どーん。強く叩くどぉーん」
 ルーガは敵認定した人物へ向かって、街路樹を放り投げた。悲鳴を上げながら逃げ出すカップル。
 カップルたちが避けたため、樹は地面に投げ出された。
 振動と轟音が周囲に響き渡り、大通りはそれなりに混乱――いや、最早阿鼻叫喚の模様である。
「あ〜あ、今年のバレンタインも全くつまらんぞー、はっはっは‥‥」
 これだけの芸当をやっておきながら、能面顔で乾いた笑いを発するルーガ。
 ある意味、恐ろしい。

「ユーディット、お天気もー良いですしー、こんな日には〜買い物にでもー、出かけましょうか〜?」
 と、ラルス・フェルセン(ga5133)にニコニコ笑顔で誘われて、街へとやってきたユーディー。
 ルーガ無双の真っ最中に出くわし、驚くでもなくその光景を眺めていた。
「‥‥凄い、活気づいてる‥‥」
「ええ〜、活気があるのはー、いいことです〜。なかなか〜見ごたえのあるー、催し物です〜」
 凄いですねと関心を示したようなラルスの声。
 言いにくいのだが、あれは催しとかではない。断じて違うのだ。
 しかし、二人はこれでいいのか悪いのか。一切を気に留めずにショッピングモールへとやってきた。
 いろいろ種類が出てきましたねとラルスは呟き、ユーディーへと視線を送る。
「しかし〜ユーディットは〜、もっとお洒落してもー、良いと思うのですよね〜」
「‥‥ティリスにも、言われたけど‥‥どれが似合うとか、よく分からなくて‥‥」
 なにぶんいろいろなことに興味を持ち出したのはここ1、2年である。
 おや、勿体ないとラルスは非常に残念そうに口にしてから、すぐに名案を思い付いたか――のような晴れやかな顔を浮かべていた。
「ふむ‥‥今日はー、バレンタインですし〜、ユーディットへ服をプレゼントしてしまいましょうか〜」
 そうして、ラルスはお揃いで猫柄マグやら何やら、気に入ったものは買う、という究極の大人買いを始めたのだった。


 公園にやってきたのは、ティリスと宵藍(gb4961)の二人。
「ティリスは今日も可愛いな。――と言うと、当然だと返ってくるのだろうが‥‥」
「え〜♪ わかりますかぁ? 可愛さに磨きがかかったんですよ?」
 宵藍の予想通りな返事をするティリスだが、甘えるように宵藍の腕に絡みつく。
「好きな人に愛されてるとぉ、可愛くなるんですよォ〜、女の子って♪」
 この子を誰か止めてやってほしい。ユキタケとは別の意味で、イラッと来る‥‥気がするのだが、
 宵藍は微笑みを返していた。恐るべし、愛の力。恐るべし包容力の持ち主、宵藍。
「なぁ、ティリス。その手に持ってるバスケットには‥‥何が入ってるんだ?」
 期待全開でそう尋ねると、ティリスはにっこりかわいらしく笑う。
「お化粧道具でぇす♪」
「持ちすぎだろ!? ていうかてっきり――」
 そこまで言いかけて、宵藍はがっくりと肩を落とした。
「なんでもない‥‥」
 そんな宵藍を不思議そうに見た後、ふふと笑うティリス。
 ベンチに腰かけると、そのバスケットを開いて見せた。
「宵藍さんが欲しいのは、ティリスのチョコじゃなくてお弁当ですかぁ?」
 タコウィンナー、ウサギリンゴ、厚焼き玉子。そして海苔やら何やらでデコデコした‥‥弁当!!
「うおぉ‥‥ティリス、お前戦闘はダメだったのになかなか‥‥これは‥‥!」
「宵藍さんとたこさんウィンナー、似合いそうなので練習したんですよぉ」
 と、何か気になるフレーズを乗せながらティリスがタコさんをフォークで刺すと宵藍の口元へと運ぶ。
「あ〜ん♪」
 つられて、あ〜んと言いながら嬉しそうに口を開けるアラサー。
「あら〜。可愛いお弁当ねぇ〜。お姉ちゃんが味見しちゃうわ〜」
 しかし、どこからともなく現れた籐子がタコさんをすかさず捕食!
 ぽかんとする宵藍に、籐子は『すごく美味しい』とサムズアップ。
「可愛くてお料理も出来るなんて、お姉ちゃんますますティリスちゃん大好きになっちゃったな〜」
「とぅ、トーコさ‥‥!」
 むぎゅり、と籐子の胸に埋もれるティリス。愛ある抱擁のはずだが、ある意味凶器。
 ティリスを放すと、宵藍にもむぎゅりとハグし、投げキッスを送りながらその場を離れていく籐子。
 相変わらずなんだから、と言いながら卵焼きを食べ始めたティリスを見て、
 ラヴラヴなタイミングを逃してしまい、宵藍は少し泣きたい気分だった。


「シアンさん、あそこにユキタケさんが!」
 リゼットの指すほうには、紛れもないユキタケの姿。
「何ッ‥‥ユキタケッ!! 今日こそお前の野望を打ち砕――」
 シアンが迎撃態勢に移行する前に、既に行動を始めている能力者たち。
 姿を見せたユキタケへと飛びかかって行くではないか。
「キャーッ、先生! お願いしますーッツ!!」
 あっという間にリヴァルの盾で壁際まで押され、別の意味で壁ドン状態になりながらも助けを求めるユキタケ。
「ちょっとゆっきー‥‥。いきなりピンチにならないでほしいなぁ‥‥」
 雇い主のピンチに、辟易した顔で現れた覚羅。
「うわ、壁ドン‥‥男にまで手を出そうとするなんて‥‥」
「完全に誤解だ!!」
 リヴァルとユキタケを見比べ、ひきつった顔で吐き捨てるドン引きの覚羅に、怒鳴りながらも否定するリヴァル。
 そこへセラが『お兄さまには私がいるのにー!!』と泣き叫びながらフライングパワーボインプレス。
 手馴れた仕草と位置調整でリヴァルの顔を自らの胸に押しつけ、側に居るユキタケには素早く鳩尾への蹴りを数発容赦なく浴びせる。
「痛ー!! 覚羅さん、ちょっとお仕事してよ! 今のどう見てもスポーツ業界だったらアウトでしょ!?」
「ごめん見てなかったよ」
「もう!! 主審になれないよっ!?」
 苦笑した覚羅に、プンスコ怒るユキタケ。別に主審になれなくてもいい。
 盾で追いつめると、リヴァルは何故かコーラを取り出し、上下に軽く振るとユキタケの頭からぶっかける。
「わぁーっ!?」
 優勝セレモニーみたーい★とかいう言葉は出てこず、
 一瞬驚いたユキタケだが、キッとリヴァルを睨みつけると『飲み物を無駄にしないでください!!』と、口撃する。
「未だにこういう美味しい飲み物、飲みたくても飲めない人もいるんですよ!?」
「む、す、すまん‥‥」
 勢いに負けて謝ってしまうリヴァル。
「ふはは。ユキタケごときに叱られてるとはなんとも恥ずかしいな、リヴァル!」
 武流が面白いものでも見たかのように、にやにや笑いを浮かべていた。
「ま‥‥そこのらきすけ野郎、とりあえず倒れとけッ!」
「――ッ!」
 拳を盾で受け止め、素早く臨戦態勢に移る二人。
 その隙に逃げ出すユキタケ。
「待て!」
 追いかけようとした有希とシアンだったが、足元に突如ソニックブームが撃ち込まれたので飛び退る。
「‥‥ここから先は、通せないな。あと数分だけど」
 そこへ立ちふさがる覚羅を見て、リゼットが小さく息を呑んだ。
「覚羅さん‥‥お仕事は選んだ方が‥‥」
「そうなんだけどね‥‥うん、でもお給料と時間の範囲ではきちんとやるよ」
 少々後悔している様子の覚羅。
 ‥‥と、リヴァルと楽しそうに抗戦する武流。
「‥‥そこを退いてくださいませんかね」
「ごめんね、あともうちょっとなんだ。ああ‥‥そのラインを超えたら、攻撃を仕掛けるから」
 と、ソニックブームの穿った地面を指して、忠告を放つ。
「あの男を庇うなんて、鳳さんの本心とは違うのでは?」
 有希の問いに、覚羅もまぁ、なんというかだね、と言葉を一瞬濁した。
「説得は却下‥‥依頼内容が『契約期間内の対象警護』である以上プロの傭兵として私情をはさむわけにはいかない! ‥‥あと1分は」
 謎のカウントダウンに怪訝そうな顔をしながら状況を見守ると‥‥。
「10‥‥5‥‥0‥‥契約期間終了。
 おつかれさま。うん、正直、愚痴の聞き役とか面倒くさかった‥‥大尉も毎日大変だね」
 苦笑しながら同情してくれる覚羅は、次の仕事があるからと立ち去っていく。
「‥‥数分時間はかかったが。無益な争いを回避できたのは喜ぶべきだろう」
「そうですね。さて――直ちに捜索と勉強の続きですね」
 ぎらりと有希の瞳が変わって、若干の寒気をシアンも覚えるのだった。


「あ〜、チームエンヴィーに告ぐ。
 今寝返れば、俺の人脈を使っての女性士官との合コンをセッティングしよう」
 神撫(gb0167)が、拡声器でTE達に魅力的な提案を持ちかける。
 びくっと体が跳ねた彼らは、どうする、と顔を見合わせた。
「ただし、TEの強硬派を三人潰したものだけにその権利を与える‥‥さぁどうする?」
 神撫の提案は、仲間を裏切れという事のようだ。
「おれたち、この戦いが終わったら、婚活しようと思ってたんだ‥‥」
「だから、女性士官と合コンって提示しただろう」
 美女多いぞ、という言葉に辛抱たまらなくなった一人が草むらから飛び出した。
「許してくれ! おれは幸せになりたいよぉぉぉ!」
 仲間に向かって泣きながらピコハンを振り上げる男の手を、握って止める者がいた。
 見た目は子供、実際は非モテのメガネ、ユキタケのズッ友、佐渡川 歩(gb4026)である。
「‥‥ああ、全くもって嘆かわしい! TEともあろう方々が、婚活を理由に解散とは!!」
 汚らわしいものでも見るかのような、歩の目つきにTEたちもなんだか後ろめたい気持ちでいっぱいだ。
「だってー」
「だっても舵天照もないんですよ!
――いいでしょう。貴方たちの行動が間違いであると証明するため、ひとつ昔話をさせて貰いましょうか」
 メガネを光らせつつ、口を開く歩。
「あれは、四年前のこと。僕はチョコが欲しいと訴えていました」
「毎年そうじゃね?」
「だまらっしゃい。‥‥えー、そこへある『男の人』が僕に板チョコを渡しながら、こう言ったのです。
『バレンタインなのにチョコひとつもらえないのは寂しいから、これやるよ』」
 いい話じゃないか、男からだけどとTEは拗ねたように言うのだが、歩は次の瞬間豹変した。
「ええ。悪気すらない、純粋なる行為だったんです。
 でも! 僕はチョコが食べたいんじゃなかった!
 この機会に勇気を出して告白してくる、女の子の登場を期待していたんですよお!」
「おれらと同じ非モテが夢見てんじゃねぇよ!」
 文句ブーブーなTEたちに、それです、と指を突きつけた歩。
「非リアの気持ちを知る貴殿らが、非リアの繊細な心を踏みにじるような行為をこれからしようというのですか!?
 しかも、僕らを必要以上に痛めつけようとする集団にまで成り下がるおつもり――」
「はいー。ちょっと君、署で話を聞こうかー?」
 涙ながらにそう熱弁している歩だったが、騒ぎを聞きつけた警官らに捕らえられ、ずるずると引きずられていった。



「‥‥おや。あれを歩くは子虎君か。これでも食らえ!」
 と、ビルの3階から階下を覗き込んだ白虎、彼ら目がけて墨汁入りの水風船、投擲用のパイなどを投げつける。
「‥‥白虎さん。ここで決着をつけましょうっ!」
 子虎はシールドを掲げてパイや水風船の攻撃から優乃の身を守り、イカ墨水鉄砲ですかさず射撃。
 咄嗟に物陰に隠れた白虎に、その一撃は当たらなかったが‥‥子虎は優乃に気をつけるように言うと、降りてきた白虎と交戦する。
「白虎くんもこんなことしてないであの子とデートすればいいのに♪ チョコ貰ったんじゃないのかな? かな?」
「そ、そんな事より子虎君、成長したね。だが、大事なことを伝えるにゃー。勝負は、手数も工夫も必要なんだねー!」
 彼の足下にスーパーボールを撒き、視界のあちこちで不規則に跳ねるボールに気を乱されたところへ、胡椒の詰まったビニール袋を力強く投げつけた。
「ふぁ‥‥へっくし!」
 止まらぬくしゃみに苦戦する子虎。
 巨大ピコハンで止めをと振りあげた白虎に、見ていた優乃が子虎の前に駆け出すと両手を広げる。
「それ以上は、許さないわよっ‥‥って、くしゅん!
 私が‥‥ケホッ、守る、ぅ‥‥はくしょん!」
 格好いい言葉も、胡椒のせいで台無しである。
「‥‥たとえしっと側から追われる事になっても!
 僕は非モテ達の為に戦いつづける!!」
 既に彼はしっと側からもリア充側からも時折敵視されているのだが、そこはしかるべき立ち位置だと言っておかなければなるまい。
 二人がくしゃみに苦しんでいる間、白虎はそんなセリフを残して姿を消していた。
 ちょうどそこへ出くわした籐子が、胡椒など微塵も気にせず笑顔で『あらあら大丈夫?』と二人に近寄る。
「辛そうね〜、はーい、これ使って頂戴〜」
「ず、ずびばぜん‥‥」
 ティッシュで鼻を拭いてやりつつ、好みの子にスキンシップを図るのも忘れない籐子、素晴らしい。
 二人に礼を言われて上機嫌で離れた籐子は『う〜ん』と頬に指を置く。
「あまり妨害班の子たちを見かけないけどー、ま、これはこれで、楽しく一日過ごせそうだからいいわね♪」
 と、前向きに楽しく次の獲物‥‥じゃなかった、困っている人を探しに出かけたのだった。


「‥‥ラルス」
「はいー?」
 両手に荷物を無数に抱え微笑むラルスに、ユーディーは小箱を差し出した。
「‥‥いつも、ありがとう。これ、気に入ったら使ってほしい」
 ぽすっとラルスに押しつけ、恥ずかしいのか俯くユーディー。
「それで、この間の‥‥返事もしたくて。
 私、ラルスと‥‥一緒にいて嬉しい。
 あなたが、私に幸せを教えてくれたから‥‥」
 きゅっと服の裾を握り、ユーディーはできるだけ平静を装う。
「あなたと、ずっと‥‥一緒にいたい。
 将来、ラルスのお嫁さんにふさわしくなれるように、努力する、から‥‥」
 だから、と先を告げようとするユーディーの唇に、そっとラルスは人差し指で触れて止めさせる。
「ありがとうー、ございます、ユーディット‥‥。
 その先はー。時期が来たら〜、言わせてくださいー」
 嬉しそうに笑ったラルスに、ユーディーも微笑んだ。
 しかし間の悪いやつは居るのだ。
「あっ、なんかリア充の匂いがすると思ったら、ラル――」
「ちょっとユキタケ君黙っていて貰えますか?
 というか貴重な時間なんですからヒョコヒョコ出てこないでくださいね? 邪魔ですし迷惑なので」
 くるりと顔をそちらに向けると、覚醒前だったはずなのに、
 おっとり口調ではない普通の話し方で冷たく言い放つと、
 瞬天速で近づき、ユキタケへ限界突破からのグーパン、腹パン、背負い投げをコンボで決めた。
 ちゃんとヒット確認はしている。問題ない。
「‥‥さてー、ユーディットー。
 ちょっとー、マクニール君を探して〜、引き渡しましょうかー」
「う、うん‥‥」
 ラルスは、外敵排除に容赦はない。
 それを実感したユーディーだった。
 しかし、ユキタケも一般人ではあるが、今はしっとの力でパワーアップ。
 あれだけの攻撃を食らって立ち上がってきた。
「くっ‥‥こんな、効かねえぜ‥‥!」
 やせ我慢なのは分かるのだが、余計なフラグは立てなくてもいいのではないだろうか。
 しかし、それに呼応してか武神はどこからともなくやってくる。
「銀の屋台に甘味を載せて灯せ愛情青信号! 鋼鉄屋台主守原有希、宣伝通りに只今開店!」
 ひぃ、来た! と身をすくませるユキタケに、一歩一歩近づく有希。
「運動量保存則の勉強の時間だ、ユキタケェッ!」
 ばっ、と手を広げた有希は、ユキタケの胸ぐらを掴んで地面に投げ出すと、お仕置きタイムを始めた。
「痛! エネルギー保存の法則も含まれてるじゃないですか! 、ギャー!」
「エネルギーの質は高い物から低くなる! ユキタケ、年々志が低くなっとるが、その熱を研鑽に使わんかあああ!」
 ユキタケの身体に掌を添え、その上から拳を叩きつける。
 力加減はしたものの、流石にユキタケも耐えられなかったようだ。
「あ。やりすぎたか‥‥。もう少し弱めに当てないと、お仕置きにならん」

 なんとも恐ろしいコメントである。



「‥‥私の何がいけないのだ!! 顔もスタイルも悪くないし、傭兵として稼ぎもある!
 私の‥‥何が、いけないというのかッ?!」

 ルーガの魂の叫びは、聞く者全てに居たたまれなさと悲しさと共感と‥‥憐れみを感じさせるものであった。
 ある者は己に重ね合せて深く共感し、ある者は眉を顰めて通り過ぎる。
「そんなときに、チャラチャラとイチャつきやがってえ!! 大木で夜空にぶちかますぞー?」
 ルーガさん、ご乱心。
 近くに落ちていた‥‥いや、彼女が先ほど引き抜いた街路樹の一本を抱え、ダイナミックスイングをかます。
「天まで! 届け! 私の祈り!!」
「‥‥なんか、凄い人がいるな」
 暴走ルーガに出くわしてしまった神撫は、
 どうしたものかと思案したようだが、放っておくわけにもいかず対峙する形になった。
「しっと勢力の方とお見受けした。
 恨みはないが、ちょっとお転婆が過ぎたんじゃないか」
「お転婆なんか気にしていられないっ! 邪魔をするなら容赦はしない!」
 問答無用状態のルーガ。
「致し方ない。交通遵守は当然のマナーだ!」
 トマレを掲げて進路を妨害している神撫だが、少々この荒くれ女子を相手にするのは骨が折れる。
「お困りのようですね。ただの通りすがりのヒーローが、手を貸しましょう」
 言い終わらぬうちに後方へ回り込んだクラークは、すかさずルーガを縄で縛り付ける。早業である。
 ルーガも縛られながら必死に蹴ってみたり抵抗を試みるのだが、完装のクラークには微細たるダメージにもならなかった。
「後で回収班がやってくるでしょう‥‥では、みなさまよいバレンタインを‥‥」
 と言いながら去っていくクラーク。
 とりあえず【ヒーローっぽく見える】かどうかはさておき、結果街の平和は守られたので、行動はヒーローである。

「ニャッフー! なんだか、街が騒がしいのら!」
 リュウナ・セルフィン(gb4746)がきょろきょろと街を見渡し、忙しなさを感じ取って首を傾げる。
「そうなのです、リュウナ様! 今回の私の目的は、バレンタインの中止を目論む輩達の成敗です!」
 東青 龍牙(gb5019)が握り拳を震わせながら力説する傍らで、
「‥‥相手‥‥暇なんだな‥‥」
 と、本当のことを漏らしてしまった西島 百白(ga2123)は周囲を警戒する。
 それらしき者は見当たらないのだが、怪しめばどれも怪しく思える。
「むっふっふ‥‥。ひゃくにぃは気づかないみたいなのら。
 龍ちゃんが、ひゃくにぃにチョコを渡すのを援護するのが真の作戦なり♪ その名も『イチャラヴ囮大作戦!』」
 自分の持ってきたこの黒い塊(同じくチョコである)も渡す算段だが、リュウナは一人うふうふと笑う。
 龍牙も、勿論お手製のチョコを持ってきており、百白とリュウナへと渡すようだった。
「ラブ‥‥作戦?」
「怪しいのをおびき寄せるのら」
「‥‥囮作戦か」
 そう呟いて納得する百白に、
「了解です! リュウナ様の策は必ず成功させます!」
 やる気満々の龍牙。そして、おとり役は誰だと意気込んで聞いたところで、リュウナから二人を指される。
「リュウナは、監視の為に草むらの中に隠れてるのら! 無線から指示するから、任せるのら!」
 そうして、ささっと草むらへ身を潜めるリュウナ。
 いそいそと無線機を取り出すと、二人に指示を出し始めた。
「‥‥」
 百白も、もともと無口だがさらに喋らなくなるし、龍牙もそわそわと落ち着かない。
「こ、コレは! 作戦です! 作戦ですから! 緊張してませんかりゃ!」
 龍牙! 指輪をその指に輝かせておいて、何を言っているんだ!
 しかし、リュウナ監督は許しはしない。
「コッチから見てるとアレなりよ? 囮率がハンパないなりよ? もっと自然体になるのら!」
 適当に、おおらかに、にゃーにゃーするのら! と、アドバイスするのだが‥‥
「飲み物、買ってくる」
 耐えきれずに百白が席を立って近くの自販機へと向かう。
「‥‥にゃ!? 不審者なり! 龍ちゃん、気を付けるなり!」
 その無線を聞いた途端、くるりと踵を返して百白は龍牙のいるベンチへと戻ってくる。
「‥‥使え」
 なんと、ベンチ下に隠してあった巨大ピコハンを龍牙に差し出すと身構える、が――
 予想以上の殺気探知能力を持っていた不審者(とリュウナに言われた人)は、そそくさと進路を変えて立ち去っていった。
「にゃー、ひゃくにい、もう少し殺気を放つのは待つのら〜」
「‥‥囮も‥‥面倒だな‥‥」
 そう小さく零した。

「一体、貴方とこうして拳を交えるのは何度目ですかねえ‥‥」
 クラークは、当初の予定であった白虎を発見し、二人は互いの姿を認め合うと、どちらともなく戦闘態勢に入った。
――と解説するとシリアスだが、まぁ挨拶というか、恒例行事のようなものだ。
「いつの世も、恵まれない人っていうのはどうしてもいるんだ。
 妬むな、というのは簡単だけど――それだけで、いいのかなって」
 クラークのゴム弾をピコハンでたたき落とし、白虎は宿敵かつ強敵(とも)に自らの考えを語る。
「リア充のみなさんは、その愛情の一握りでもいいから、他者へ向けて恵まれない人に優しくしてあげられないかな‥‥。
 それを訴え、活動するのがしっと団なんだよ」
「混乱をも招いていますけれど‥‥」
「そ、それは、たまーにだし」
 そんな白虎へ、クラークから『ふっ』と小さく笑うような声が聞こえた。
「まぁ、人を救うためといいながらも‥‥自分も、白虎さんと戦うために、こうしてやってきているようなものだからね」
 共闘したような記憶はないですが、あってもよかったかもしれませんね。
 などと言いつつ、日々感じていたのか思い出したのか、ふと疑問を投げた。
「そういえば、あの娘とはどうなったのかな?
 おじさん、少し気になったりしているんだけど」
「にゃ? もやしお姉ちゃんですか?
 先日、チョコをあげたりしましたよ」
 フン、下僕が私に寄越すのは当たり前でしょ。まぁ貰っといてあげるわ。なに見てんのよ変態。訴えるわよ。
 とか言われているんだろう。でも白虎はきっと、嬉しいに違いない。


 戦いという戦いもあまりなく、カップルたちはそれぞれ幸せそうに過ごし始めた。
「あ、チョコがついてる。美味しそうだから貰っちゃうのだ〜」
 互いにチョコを渡し合い、仲睦まじく食べ合っていると、子虎は優乃の唇についたチョコをぺろりと頂いた。
「ちょっと‥‥ドキドキしちゃったな‥‥」
 大胆な行動に、優乃も思わず頬を染めたが、照れたように微笑んで子虎の肩にしなだれる。

 百白と龍牙も、緊張は解けて、ふとした出来事で彼女の手を引いたが、そのまま歩いている。
「リュウナ様、どこへ行ってしまったんでしょう‥‥」
 猫と戯れているのだが、流石にこの二人に知る由もない。

「さっき‥‥両親に捨てられたのは戦争だから仕方がないと‥‥言っていた。
 ‥‥だが、セルフィンだけではなく‥‥俺も、お前に助けられている‥‥」
 ぽつりと、百白が語り始め、こう言った。
「‥‥龍牙‥‥復讐以外の生き方‥‥俺に教えてくれるか?」
 龍牙は、目を見開いたまま百白を見つめ――
「はい!!」
 満面の笑みを浮かべたのだった。


 ユキタケを捕縛し終わったシアンは、リゼットにバラの花束を渡しつつも和やかに談笑しており。
 ティリスは宵藍から貰った花束を抱えつつ、膝の上に座って対になっているアクセサリーなどを見せてイチャイチャしている。
 リヴァルに至っては、セラと籐子に両脇から胸部主兵装で挟まれ、その頭部には武流の肘が落ちていた。

 年に数度あるかないかの戦いも無事に終わったが、リア充と非モテの戦いがこれで終わったわけではない。
 彼らは機会とラブラブ記念日がある限り、いつでも参上するのだ!


「今回もまた大活躍だったけど! 僕たちの助けが必要なら、いつでも言ってくださいよ!」
「しっとという戦場でならした僕たちが、馳せ参じます!」

「もういい加減にしろよー。毎年あんたらの顔見るのヤダよ」
 と、呆れ果てる牢獄の看守へ、ドヤ顔で告げるユキタケと、ポーズまで決める歩の姿があった。