タイトル:【RAL】血紅の誓いマスター:藤山なないろ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/08 22:47

●オープニング本文


●Roller for African Liberty
 ラバト周囲の都市や地域の制圧を試みる最中――。
 欧州軍は応戦するバグア軍内での情報の中に、驚くべき内容が含まれていることを把握していた。

 制圧目標であるラバトの司令部に現在、『ピエトロ・バリウス』が滞在している――。

 その話は、当然ながら今作戦を主導する二人――ウルシ・サンズ少将とブライアン・ミツルギ准将の耳にも入っていた。
「そのうち会うじゃろうとは思っておったが、まさかこんなところで大物が釣れるとはのう」
 その二人の通信上において、ミツルギは言う。
「流石にこのままじゃ拙いと思ったんだろ」
 ふん、とサンズは鼻を鳴らし――それから、口端を歪め笑みを見せる。
 普段の表情が硬いことに加え、醸し出す雰囲気もあり――その笑みには獰猛な力強さが漂っていた。
「――まァ、丁度いい機会だ。
 予定通りぶっ潰しつつ、大将の面拝みに行こうじゃねェか」

●血紅の誓い
『周囲の戦闘がどうなろうと――ごく近いうちに、人類はラバトに攻め入るだろう。
 ――いつまでも調子付かせておくなよ』
 あのお方の言った事に間違いはない。今までだってそうだったし、これからもそうだと信じて疑う余地は無い。
 だから、僕はただ一足先に準備を進めただけだったし、少し人類側の攻め手を読んで遊んでみただけ。
「ラファエル様! 首都中央部へ向かう傭兵の一団が捕捉されました!」
「‥‥あー、やっぱ此処通る? そうだよねー。此処を生身でするっと通り抜けたら、中央まで近いもんねー」
 もし僕がラバトの司令部に突入するとしたら、間違いなく此処──今まさに僕が眺め下ろしている場所──を通る。

 ラバトとは城壁都市の意。
 この街の名の元となった言葉は「勝利の要塞」という意味を持った言葉だった。
「‥‥そんな華々しい名前ついた街で負けたらさ、それこそシャレにならないし」
 負けるとはつまり、自分が忠誠を誓う人の元へ、処理しきれなかったドブネズミの姿を晒してしまうということだ。
 僕はあの人に全てを捧げると誓った。
 例えこの身体が燃え尽きようとも、あの人の為に最後の瞬間まで命を灯し、消費し続けると。
 常にあの方に重用される駒で有り続けると、誓った。
 そして願わくば、少しでも長く傍に在り続けたいと‥‥。
「あと10分くらいで、連中が着く。とりあえず、これは僕一人でやるよ。すぐ終わるだろうし、大丈夫。指定の配置で控えてて」
「了解しました」
 ラバトは既に夏模様だった。乾燥する空気が、日差しを含んで熱く吹き付ける。
 おろし立てのスーツを、砂塵を含んだ乾いた風が包んでいく。
 整った町並み。舗装された道を挟んで均一の間隔に並ぶ街灯。
 十字に道が交差する場所には噴水が設置され、渇きの町を潤すオアシスの様に存在を主張していた。
 この街並みを、どこか似た場所にリンクしている自分に気付いて、僕は思わず首を振った。
「‥‥この男の故郷に‥‥似ている、のか」
 途端、僕のすぐ脇を一発の弾丸がすりぬけた。
 気付けば、UPC欧州軍と傭兵達を含む第一波の勢力が、僕の姿を認めて臨戦態勢に入っている。
 やっぱり、2月のアルジェでの件で顔が割れちゃったみたいだ。残念、こうなるはずじゃなかったんだけど‥‥まぁ、想定内。
「来なよ。骨も残さず焼きつくしてあげるから」
 折りたたまれて窮屈そうにしていた背中の翼が、久々の風に悦んだのを感じた。

●朱き絶望
『‥‥ッ! ‥‥が‥‥伏‥‥』
「どうした? 一体何があった」
 モロッコの首都ラバトよりまだ距離のある場所に仮設された前線基地。
 UPC欧州軍ミシェル・カルヴァン(gz0416)大尉は、司令部を目指してこの前線基地を発った第一陣からの無線通信に眉を顰めた。
『ミ‥‥大尉‥‥K座標にて‥‥戦。‥‥滅‥‥』
 戦いの合間に、死ぬ気で情報を伝えようとしているのだろう。
 ジャミングやノイズではない。通信している人間の状態がそのままこの情報の荒さに繋がっているのだ。
「敵は? キメラか? 強化人間か? 数はどれくらいいる」
 恐らく、今から駆け付けたのでは間に合わないだろう。
 ならば、出来る事はその命をかけた情報を少しでも正確に受け取り、次へと活かす事。
 部下の死を、そしてこの作戦に同行している傭兵達の死を、決して無駄にするまいと、割れんばかりに無線機を握りしめる。
『‥‥相手は‥‥朱雀‥‥‥‥ぐっ‥‥』
「‥‥! おい、聞こえるか? 応答しろ、こちらは‥‥」
『UPC欧州軍、だよね?』
 声が、変わった。
 途端に音声がクリアに届き始め、周囲からざわめきが聞こえた。

●過る懸念
『‥‥お前が、朱雀か』
 この声に聞き覚えがあった。
 相手は欧州軍の人間だ、やりあった人間は大体殺してきたし、アルジェで仕留め損ねた人間の中にこんな声色の男はいなかった気がする。
 ‥‥というより、あの時の人間の大半は覚えてない。この男は、何処で‥‥?
「どうかな、どう思う?」
 僕は思わず、問い返していた。
 元々問いかけに正しく応えてやる義理何かないし、それに僕は、この男の声をもっと聴きたいと思った。
『俺の部下が、自分の命を奪う相手の名を間違えるとは思えん』
 強く、真っ直ぐな声だった。
 低く、深く、心のどこかに馴染むこの声は、恐らくこの身体の持ち主が求めている声なのだと感じる。
 少なくとも‥‥あたしはこんなやつ、知らない。知りたくない。
『朱雀、お前は今一人か』
「一人だって答えたとしてさ、信用する? 何でもいいから早く殺しに来れば?」
『‥‥それもそうだな』
 無線は、それきり何も発しなかった。

「‥‥聞こえる? 直、欧州軍の第二波が来るよ。座標は向こうも把握したはずだ、真っ直ぐ此処へ来るだろう」
 嫌な予感がする。さっき、あの男の声を聞いた瞬間からずっとだ。
 なぜだろう? わからない。
 あの男との関係を探ろうとしても、この男の身体が持つ膨大な記憶と知識の中にそれが埋もれて上手く取り出せない。
 あれは、誰だ?
『ラファエル様?』
 それを拭うように声を絞り出す。
「‥‥ごめん、考え事してた。僕は手はず通り此処で迎え撃つよ。来る虫は全部叩き潰す。僕の手を少しでも煩わせないようにするには‥‥解る、ね」
『心得ております』

●朱雀という男
 深く息をつき、ミシェル大尉は何事か思案する。
 軍人らも、2月のアルジェリアの首都アルジェでの戦いを挙げ、ラファエルという男の戦い方について各々口にし始める。
 それは、ミシェルも同様だった。
「チェス‥‥キャスリング‥‥なぜわざわざ、プロトスクエアの一角が。力があるから、それは判る。しかし、そんなクイーンをなぜ、ポーンにぶつけた‥‥?」
 あいつが素直に待ちかまえていると思えない。
 K座標について、何か仕掛けているのではないか、と。
 ミシェルは途端に通信機を手に取り、口を開く。
「至急、もう一部隊編成してくれ。こいつは囮だ」

●参加者一覧

セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
フォビア(ga6553
18歳・♀・PN
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
黒木・正宗(gc0803
27歳・♂・GD
秦本 新(gc3832
21歳・♂・HD
イレイズ・バークライド(gc4038
24歳・♂・GD

●リプレイ本文

●遥かなる故郷
 アフリカには大小合わせて50以上もの国があり、そのほぼ全域がレッドゾーン‥‥つまり、バグア支配地域だった。
 この広大な大陸に、如何程の人々が暮らしていたか。
 そして、侵略を境に如何程の人が死に、或いは捕虜として耐え、服従してきたか。
 今この地に立っているという事実。
 それは、アフリカに関わってきた全ての者達が、多くの屍の上に立ち、血に塗れながらも、足掻き進んだ勝利の先に
 漸く、掴みとった現在なのだ。

 ──遂に、此処まで来た。
「‥‥歩み、ハ、止めサセ、マセン」
 アフリカ解放作戦が始まってから、どれ位が経っただろう?
 ムーグ・リード(gc0402)は、自らの足跡を辿る様に、想いを巡らせる。
 解放のために着実に踏み出していた足は、遅々として思うようにいかないことばかりだった。
 だが今、ムーグの鳶色の瞳に映るのはどんな景色だろうか。
 青年は、胸にたった一つの願いを抱いた。そして‥‥
(手伝ってくれた、“彼”の為にも)
 ただ、銃を握った──。

●合格点
 乾いた風の向こう、大きな破壊音を聞いた。
 その先に、噴水を壊しながら接近する人間達の様子を捉える。
 まるで箱庭に飼育する小さな生き物を観察するかのように傭兵達を見ていた男は、
 幾つか、記憶に合致する人影を発見すると、その幸運に思わず口角をあげた。
「鳥頭の僕ですら覚えてる顔がある。‥‥面白い事になりそうだ」

「前方に朱雀を確認。皆さん、警戒を!」
 朱雀と傭兵との距離は100mを切る。新居・やすかず(ga1891)は、視線の先に標的の姿を認めた。
 だが、やすかずらが接近してきたそこへ、道の両側の建物屋上より射手が姿を現す。
 けれど、これは見事に傭兵達の読み通り。
「‥‥伏兵の存在も、織り込み済みです」
 狙い澄ました光線銃の銃撃を受け、ダメージがその身に蓄積されても、傭兵達が動じることはなかった。
 距離、約40m。
 射手の構える建物へ到達。ここで傭兵達は当初の想定通り3手に別れる事となる。
 進行方向左手にやすかずとフォビア(ga6553)、右手に杠葉 凛生(gb6638)とムーグがついた。
 残る4人は、朱雀との直接対決の為に直進。
 この場に不相応な程、仕立ての良いスーツを纏った男を目前に控え、イレイズ・バークライド(gc4038)は表情を強張らせる。
「あれが朱雀か‥‥」
 遂に直接対峙する時が訪れた事に、イレイズは無意識に鳴神を握る力を強めていた。
(こいつが生きている限り、ヴェルナスは目を覚まさない。そんな気がする)
 そしてあいつは‥‥自分を責め続けるだろう。
 かつて朱雀の攻撃を受け、以来今なお眠り続ける戦友の姿を描く。
 その先に、ある男の影を意識しながら、イレイズはきつく眉を寄せた。
(今、俺がしてやれる事、それは‥‥)
 イレイズは、自らに課した。
 ───“目の前の男を倒す”、と。
「プロトスクエア・朱雀。お前を、ここで討つ」
「‥‥やってみなよ」
 せめて、二度とこの男がアイツ等の前に現れぬようにと‥‥まるで、祈る様に。

「手下の排除が優先です。一刻も早く片づけましょう」
 やすかずたちが屋上を目指し建物を登っている間、尚も降り注ぐ光線の雨を中央の4人が引きうけながら進む。
 しかしその時、フォビアは建物を登る3名と別行動をしていた。
 瞬天速で壁面の窓縁などを足場に登り、建物の屋根を移動していた彼女は、結果的に単独行動をとる形になった。
 必然、4人の射手は目立つフォビアへ狙いを定め、一気に銃撃を放ち始める。
(私もバリウスさんを守れなかった一人‥‥逃げるわけにはいかない)
 光線の雨を潜るように、そして時折その身を焼かれながらもフォビアは突き進んだ。
「‥‥通して貰う」
 奥底に隠し持った”臆病”を、”頑固”と”意思”で律する少女。
 フォビアは、必ずバリウスを解放するという強い思いを胸に、その意思を貫き通さんと前へ踏み出し続けた。
 そして遂に射手の構える建物屋上へと飛び移ったフォビアは、他の仲間よりも早く交戦を開始。
 けれど接近までに負ったダメージの蓄積と、2対1という数で及ばない戦いに、結局、彼女はそう長くもたなかった。
(私には‥‥何が相手でもこれしか無い)
 唇をかみしめ、只管に耐える。
 だが、とうとうフォビアが覚悟を決めた瞬間。視界に、眩い白銀が輝いた。
「遅くなって、すみません」
 同時に聞こえた銃声は、フォビアへ躍りかかる敵の1体を見事に撃ち抜く。
 やすかずが合流を果したのだ。
「さ、援護しますよ。反撃と行きましょう。」
 形成は逆転。やすかずとフォビアは戦いを再開した。

●血紅の誓い
「ここで落とせば金星だな」
 驚異的な速度で前衛の虚を突いて間合いを詰めると、非常に軽快な身のこなしで連撃を叩きこむ朱雀。
 その爪を赤木・総一郎(gc0803)のシールドが受け止めると、レーザーの熱でオモテが歪む。
 だが、行動力の差を覆すことはできず、総一郎はその体に幾つもの爪痕を刻んだ。
「落とせたら、ね」
 朱雀が嗤う。
 返す総一郎も、敢えて余裕の笑みを浮かべた。
 一触即発。
 2人は離れ、そしてまた激突する───。

 一方。
「やはり狙撃手か」
 右手の建物屋上に到達した凛生とムーグも、そこに居た射手2名との戦いを開始する。
 が、凛生は手近にいる敵が人間の形をしているということ‥‥
 つまり“強化人間”である可能性を含むが故に、ある注意を怠らなかった。
 それは、自爆の可能性。
 朱雀と言う男は何の躊躇もなく部下の命を捨てるだろう事を、凛生は身をもって知っていた。
 あの、アルジェリアでの戦いを意識に留めながら‥‥。
 案の定、凛生達が射手と戦闘している隙に、朱雀の眼が冷たさを増す。
 刹那。朱雀が正面に相手取る傭兵達から視線を外したかと思うと、同時に全ての射手が自ら爆発を開始した。
 ──僕の為なら、命も惜しまないと。
「ラファ‥‥様‥‥!」
 お前達は、そう誓ったはずだ──。
 血肉は爆ぜる炎に焦がされ、或いは伴う爆風に消し飛び、同時に周囲の傭兵達へと襲いかかる。
 しかし、高い身体能力を持つムーグや、事態を完全に予期し警戒していた凛生はそれを回避。
 距離を置いて戦っていたやすかずも直撃を免れた。
 けれど、敵の最終手段に無警戒だったフォビアが自爆に直撃。
 それまでの蓄積も祟り、体力は限界値を超過。フォビアはその場で意識を手放した。
 本来であれば、セシリア・D・篠畑(ga0475)はフォビアの支援に駆けつけたかっただろう。
 しかし、それを許さぬ程に朱雀の攻撃は苛烈で、前衛達の回復に手が塞がっていたのだ。
「‥‥っ」
 想いは胸の奥に秘め、セシリアは変わらぬ表情でただ目の前の戦いに身を投じる。
 だが、それだけでは無い。朱雀の狙いは、“その先”にもあった。
「!? まずい‥‥!」
 やすかず達の立っていた石造りの建物が、爆発によって同時に崩壊。
 足場を失い、屋上にいた傭兵4人は全員例外なく瓦礫と共に地上へ崩れ落ちた。
 特に凛生は、伏兵の存在に気付き、更にそれが強化人間である事も予測。
 そして、自爆の可能性までも見落とさず、対策を講じていただけに、惜しかった。
 瓦礫は周囲に多量の粉塵を巻き上げ、近くに居るはずの互いの姿をも、もうもうと隠してゆく。
「‥‥ここまでが、お前の策か」
 朱雀の残した最後の狙いまで、あと一歩。二重のデコイが、仕掛けられていたのだ。
「ただ駒を置いてるだけだと思った?」
 イレイズの怒りに満ちた低い声が、塵を貫いて敵の元へと響く。同時にその槍に全体重を預けて一気に突き出す。
 だが、立ちこめる粉塵に狙いが鈍り、何かに掠った感触がするのみ。
「あの男、“僕”に一度も勝てなかった癖に」
「カルヴァン大尉のことだな」
 朱雀の言葉にピンと来た総一郎は、感づいていた事を口にする。
「この変人男の唯一の親友らしい」
 自らを”変人男”と称するヨリシロの奇妙な剥離感に心が騒ぐ。
「死んだ友人と戦うことになった‥‥か。既にお前がただのバグアであるとわかっても、思うところはあるだろう」
 想いを馳せるようでありながら、眼前の敵だけを忠実に捉えて総一郎が言う。
「僕にはないけどね」
 なおも攻勢のやまぬ朱雀。
 総一郎は中央班の面々を守る様に庇いながら立ち、舐る様に連撃を仕掛ける朱雀にもその先を決して許さない。
 自分の身体が消耗しても、どんなに血を流しても、盾を握る手を緩めなかった。
「問題ない。ここで俺達が落とす」
 総一郎への答えのように、高熱線の3本爪が総一郎の胴部を斬りつける。‥‥その、一瞬の虚。
 側面を狙った秦本 新(gc3832)が攻撃を繰り出すも、想定していた肉を穿つ感触はなく。
 代わりに新の視界を強烈な紅が支配した。

●刻印
 足がしっかり地についている以上、人間であればそれは大きな隙が生じ、攻撃を当てるチャンスにも繋がる。
 だが、この男には「翼」があった。
 一度強く大きく羽をうち、ごく短い滞空の後、すぐさま着地。
 足を使わない跳躍、と言うと表現が陳腐だが、比較的イメージに近いのかもしれない。
 この男には移動・回避の為の手段が足と翼の2通りあると言うことだ。
「‥‥翼は、消えない。虚実空間が、効かないということは‥‥」
 現れた紅に対し、セシリアも即時応答するが虚実空間は成功しなかった。
 通常の人間の動きとは全く異なり、行動の先を非常に読みづらく、攻撃を仕掛けるのも当てるのも至難の業。
 一時回復へと総一郎が引いた瞬間をついて、イレイズを抜きさった朱雀は、新の懐に入り込む。
「朱雀‥‥ッ」
 険しい表情を浮かべながら、新は即時に間合いを整え、攻撃への構えを取る。
「君も良く会うね。運命かな」
 新はしゃべりかける朱雀を完全に無視し、幾度も刺突を繰り返す。
 そして、新は腹部に鋭い一撃を見舞った。が、その槍の柄を朱雀が握りしめ、嗤う。
「デジャヴ?」
 しかし、新はすぐさま竜の咆哮で朱雀を弾き飛ばした。
 不意をつかれた当の朱雀は、余裕の表情で衝撃に身を任せている。
 そうかと思えば、滞空中に羽根を一度打ち、低空を僅かに飛びあがって体勢を崩さず着地。
「あは、賢い子だね」
「二度も同じ手を許すと思うか‥‥!」
 人を食ったような様子の朱雀を睨みつけた新は、眠り続ける戦友を想った。
 そして、あの人の絶えた渇きの町を想いながら‥‥再び、鬼火を構える。
 怪火の名を持つ焔色の槍が、新の手の中で、燃え上がった。
 亡き者達の強い怨嗟の代わりに、新は怒声を発する。
「お前達に踏みにじられた人々の怒りと痛み、その身に刻みつけてやる」
「その想いごと踏みにじってあげるよ」
 そこへ、新の衝撃に合わせて朱雀の着地点に入り込んだイレイズが、更に朱雀へ追い打ちをかけた。
 朱雀もその爪で応戦し、交戦する2人に対し位置取りを改めた新が小銃を乱射。
 総一郎を治療し終えたセシリアは、次いで後方に下がった新へと駆け、休む間もなく能力を酷使し続けている。
「‥‥消耗が、激しくなってきた‥‥?」
 重体者を出さぬよう専念していたセシリアには、肌で感じ始めていることがあった。
 それは、このラファエルと言う男が、前衛3人で受け切るには少々荷が重い相手だと言う事。
(これ以上、この状態を続けると‥‥)
 誰かが、死亡する。
 最悪の懸念は頭の隅に追いやり、セシリアはただ、その白い手を休ませることなく傭兵を癒し続けた。

 その時、崩落した建物の中から、瓦礫を押し上げてムーグが姿を現した。凛生を、支えるようにして。
 ムーグの驚異的な体力によって瓦礫排除に成功したのだ。
 すぐさま体勢を整えたムーグは瞬天速で朱雀へ接近開始。
 それに注意を向けた朱雀は、ムーグの後方で凛生が不敵に笑っていたのを目敏く発見する。
「おじさん。良かった、腕も足もついたままだね」
「来いよ‥‥この『器』が欲しいんだろう?」
 朱雀の眼は、確かに凛生を捉えており、それを利用するように凛生が朱雀を挑発。
 この男が“何”を欲するか、凛生は分かっていた。
「可愛がってやるよ」
 それが合図だった。
 朱雀は深く構え、その溜めを解放するように両腕を広げて体を回転させると、
 自らを中心とした全周囲1スクエアの傭兵に対し、範囲攻撃を放つ。
 接近していた総一郎らは同時に弾き飛ばされ、がら空きになったセシリアの危機を感じた新は彼女の元へ駆けつけるも、朱雀はある1点だけを狙って移動を開始した。壁が、立ち塞がるまで。
「またお前か、ヒトより最も遠い者」
 立ち塞がるムーグが放つのは天地撃を乗せた弾丸。初手は朱雀の翼を掠めるも、二撃目がついに体を貫通。
 衝撃に叩き上げられた朱雀だが、宙で即時に羽をうち、更に続く一撃を回避。
 ムーグを相手に悟ったか、朱雀は着地までの間に水の雫を払うように右手を振った。
 すると爪が籠手からパージされ、弾丸の如く放たれる。‥‥特定の傭兵へと、目がけて。
 凛生は明らかに自分へ放たれたそれを認識しながらも、この隙を逃さず、着実に中空の朱雀を狙い撃つ。
「お前は必ずこの手で殺す」
「僕は、貴方を殺さないのに」
 凛生は右胸、左肩、脇腹の3か所へ超高度の熱を刻みつけられた。
 先の建物崩落に続いて、削り取られた体力。
 肉を焦がすような臭いを認識できる内はまだいいと笑い飛ばしながら、紅を散らして膝から崩れる凛生。
 しかし同時に朱雀も3発の銃弾を身に受け、宙で体勢を崩していた。
「凛生さん、直ぐに‥‥!」
 セシリアは、凛生へと精一杯その手を伸ばし、祈りを捧げるように光を放つ。
 彼女の腕に現れた血管のような紅く細い無数の管は、一際赤々と濃い色を浮かべた。
 回復を施すも、ヨリシロを前には倒れないとばかりに膝をついたまま凛生は意識を手放しており、彼にこれ以上の戦闘は危険だと判断したセシリアは、凛生を庇うように立ちはだかる。
「‥‥行きます」
 全ての熱を、手にした銃に注ぎ込むようにして。

 執拗に凛生を狙う朱雀と倒れた凛生の姿に、ムーグは、暗く、灼けるような焦燥を感じていた。
 その正体が、何かは分からず。ただ、反射的にトリガーを引く。
「ココデ、討つ、ニハ‥‥十分ナ、理由、DEATH」
 ムーグの放った天地撃は未だ滞空している朱雀を確実に捉え、男は勢いよく白煙をあげて大地に叩きつけられた。
 続くセシリア、新、総一郎の銃撃が猛火の如く降り注ぎ、一瞬の静寂が訪れる。
「朱イ、妖鳥ハ、此処、デ、眠り、ナサイ‥‥」
 そして、最後の追撃が繰り出された。
 迅雷で加速したイレイズが、ある一点に狙いを定め、渾身の力を込めて一気に鳴神を突き出す。
「これで、終いだ」
 胸部に強烈な一撃を穿たれ、衝撃に吹き飛ぶ朱雀は、その間何かに気付いたように表情を変える。
 イレイズの一撃に再び大地を這うかと思われた朱雀は、気付けば突然音もなく姿を消していた。
 消える間際に、至極喜びに満ちた、端正な笑みを残して‥‥。