●リプレイ本文
四人は始めに二手に分かれて木の実を取ることにした。吹雪 蒼牙(
gc0781)と最上 憐 (
gb0002)は赤い実、アームストロンガー(
gb9460)とユウ・ターナー(
gc2715)は黄色の実を担当することになった。
「ゴルディ教官、今回はサバイバルなんですね。手料理楽しみに食材採って来ます」
スタート前に吹雪はジャック・ゴルディ(gz0333)に笑顔で敬礼した。気をつけてな、とジャックは早くも調理体勢に入りながら言った。
完全にやる気になっている教官をテントに残して、生徒達は各自採集を開始した。
赤い実を担当する吹雪と最上は、森に入ってすぐに目的の木を見つけた。川に近いという情報通り、せせらぎの音が聞こえてくる。
「‥‥ん。私が。登る」
木を見上げた最上が言った。幹と枝の太さを確認する。高さがあるのが難点だが、足場は充分にありそうだ。
上を見つめていると、吹雪がポン、と手を打った。
「最上さん、僕が踏み台になろうか?」
「‥‥ん。お願い」
指を組んだ吹雪は身を屈めた。そこに最上が片足を乗せる。
「ん――っしょっ」
吹雪は勢いよく最上を上に押し上げた。小柄な少女の体が宙に浮く。手近な枝を見つけてしがみついた最上は、身軽さを発揮して体を回転させ、枝の上に降り立った。地面では吹雪が手を振っている。ここに落とせ、ということか。
「‥‥ん。やる」
静かに覚醒した最上は赤い実を取って地面に落としていった。一つの木でも、人数分は充分足りそうだ。
一通り取り終えて降りてきた最上に、吹雪はジャックから借りたバスケットを彼女に渡した。中には赤い実がぎっしり入っている。
「こっちの木は僕が行くよ」
にこりと笑って、吹雪は別の木を足軽に登っていった。
残された最上はバスケットの中をじっと見つめ、赤い実を取り出して一口囓った。覚醒したせいか腹が減っている。甘い味が口の中に広がった。
「‥‥ん。美味しい」
「最上さーん、聞こえますかー?」
上から吹雪の声が降ってくる。食べる手を止めた最上は返事の代わりに手を振った。
「前方にキメラが見える。角のない方‥‥かな。僕、まだ取ってるからお願いしても良いですか?」
「‥‥ん」
バスケットを地面に置いた最上は大鎌を構えた。目視できる距離にキメラが来るのを見計らって、瞬天速でキメラに肉薄した。
キメラが最上の姿を捉える頃には、彼女はキメラを鎌で切り捨てていた。じぃっとキメラの死体を見下ろす。
「最上さーん」
木の実を取り終えて追いついた吹雪の方を見て、最上はぽつりと呟いた。
「‥‥ん。このキメラ。食べられるかな」
同時刻。
ユウは豪力発現を使用して、木の幹に体当たりをしていた。ばらばらと地面に落ちてくる黄色い実を集めて、彼らも借りたバスケットに実を詰めていた。
数を数えたユウは、仲間のアームストロンガーの方を見る。彼は息を吸い込むと、大音声で叫んだ。
「アァーム、スト・ロン・ガー!」
ど派手に覚醒したアームストロンガーは、地面を蹴って黄色い実のなる木の枝に飛び降りた。オレンジより少し大きい黄色の実は片手でもぎ取るには充分だった。
「アームストロンガー、アームストロンガーッ!」
地面からユウの声が聞こえる。枝に座って、彼は地上にいる少女を見下ろした。
「どうした、ユウ?」
「キメラがいるよ! 角のないやつ!」
「あー‥‥俺の声に誘き出されたか?」
肩を鳴らしたアームストロンガーは、地面に降りた。角の無いキメラがこちらをじっと見ている。
取った木の実をユウに預けて、アームストロンガーはキメラに近づいて行った。キメラは彼の姿を認めるや否や、咆吼を上げて突進してきた。
「そーこなくっちゃな!」
豪力発現を使用したアームストロンガーはキメラに真正面から走り寄った。
「アームストロンガーキック!」
前蹴りを喰らったキメラは宙を舞って地面にひっくり返った。木にぶつかって気絶する。おまけのように、ばらばらと黄色い実がキメラの体に降ってきた。
二人は顔を見合わせて、キメラと黄色の実を見比べた。
「ラッキーだね☆」
「そうだな。ついでだから、貰って行くか」
川で合流した四人は、次に魚を捕ることになった。焚き火を作っている吹雪とユウに木の実の見張りを任せて、アームストロンガーと最上が川に入る。
「つめたっ!」
水に入ったアームストロンガーが声を上げた。足の間を何匹かの魚がすり抜けていく。
カジキランスを持った最上は、じっと水の中を睨み、タイミングを見計らってランスを投げた。見事に魚の背を突いて捕獲する。岸に放り投げた魚はユウがバケツに入れている。
アームストロンガーは上流を波立たせて魚を下流に追い込んでいる。彼のおかげで、魚の集団がどんどん下流に流れていた。
「僕も手伝おうかな」
「ユウもやるよっ!」
吹雪とユウが釣り竿を持って岸辺に寄ってきた。餌がないので赤い実を砕いて餌の代わりにする。
釣れるかどうかは分からないが、これだけ魚いれば一匹くらいは引っかかるだろう。
四人はしばらく、川で魚の捕獲に没頭した。
「こんなものかな?」
額に浮かんだ汗を拭った吹雪の前には、結構な深さの穴が開いていた。隣では同じくスコップを地面に突き立てたアームストロンガーが笑っている。
「何かこういうのも悪くないな」
戦ってばかりの中だからこそ、尚更思うのかもしれない。自然の空気はいつもより美味しく感じた。
「これだけで良い?」
「‥‥ん。草。置けば良いと思う」
ユウと最上が両手一杯の草を持って帰ってきた。途中で葦の長い草むらを見つけたらしく、刈り取って来たのだった。
落とし穴に草を被せ、上に餌の赤い実をばらばらと置く。
同じように落とし穴を三カ所作った四人は、全ての落とし穴が見える位置まで下がって様子を窺うことにした。
「引っかかるかな?」
どきどきしながらユウが尋ねた。双眼鏡で見つめている吹雪は「なるべく早い方が良いな」と返した。時間制限は特に設けられていないものの、夜中までかかってはこちらも腹が減るだろうし、第一あれだけ気合いを入れて待っている教員のためにも、何とか早い段階で捕まって欲しいものだ。
かといって、角の無いキメラが引っかかっても困る。
「ちょっと上から見てくるよ」
そう言って双眼鏡を持ったまま吹雪が手近な木の上に登った。枝の上に立って、双眼鏡を覗き込む。
丁度北の方向に角のあるキメラが見える。ただ、少し距離がある上に、キメラがこちらに来る様子は無い。
「ユウさん。北の方にキメラがいるんですけど、誘き出せますか?」
「やってみるよ☆」
特殊中を担いだままのユウが笑顔で森の中に消えていった。ややあって、数発の発砲音が森の奥から聞こえる。
じっと様子を窺っていた彼らだが、「げ」と吹雪の声が木の上から降ってきた。
「誘いすぎだよ」
「誘いすぎって何が‥‥?」
尋ねたアームストロンガーの声を遮るように、五体のキメラが姿を見せたのである。猛烈な勢いで走るキメラ達は、一直線に落とし穴の方に向かい、そのまま全てのキメラが落とし穴にはまったのである。
「‥‥ん。全部。捕まえる」
瞬天速でキメラの一体に詰め寄った最上は大鎌を振るった。一匹を一刀両断の元に切り捨てる。
「僕も行くね」
木の上から小銃でキメラの頭を狙って、吹雪は引き金を引いた。続けて森の奥からユウが現れた。はまっているキメラの数に少し驚いていたが、角のあるキメラを狙った最上に援護射撃を発動させた。瞬即撃を使用した最上は、キメラの脚部に攻撃を直撃させた。
「俺も行くぜ! ブラストショット!」
仲間が離れたのを見計らってアームストロンガーが動いた。制圧射撃でキメラを数体同時に攻撃する。続けて強弾撃で角のあるキメラを強襲する。
木から降りた吹雪は、直刀に持ち替えてキメラの集団に駆け寄った。罠にはまって動けないでいるキメラの急所を順に切りつける。
「離れろ、吹雪! バーストショット!」
アームストロンガーの放った銃弾をかわして、吹雪は横に飛び退いた。代わりに弾の直撃を喰らったキメラがひっくり返った。
あっという間にキメラ達を殲滅してしまった四人は、ふぅ、と息を吐いた。気づけば五体のキメラの死体が転がっている。
角を切り落とした最上がぽつりと言った。
「‥‥ん。いっぱい。食べられる」
「んー、一杯というか、多すぎだね」
苦笑した吹雪に、ユウも頷いた。
「というかこれ、おやじさんに取りに来て貰わねえか? 俺達で運べないぜ」
冷静に言ったアームストロンガーに、三人は大きく頷いた。
「こりゃあ、大量だな! 作りがいがあるぜ!」
材料を前に並べたジャックは目を輝かせた。その手には肉切り包丁とおたまがある。
「‥‥ん。これ。使って」
最上が渡したキメラの調理セットと、ジャック自慢の調味料を使って、彼はテキパキと料理をこなしていく。
ちゃっかり手伝わされている生徒達も、黙々と作業を進めていた。
「教官、この実はどうするんですか?」
吹雪の質問に、ジャックは綿棒を投げて寄越した。つまり、砕けということか。
「おやじさん、こっちは?」
「醤油とみりんを大さじ三だ」
アームストロンガーは並べられた調味料を見比べながら鍋に入れている。
皿を並べているユウは、暮れかけた日を見つめながら微笑んだ。
「美味しそうな匂いがしてきたね☆」
料理が完成擦る頃には、日がすっかり落ちていた。星々の絨毯が空に広げられている。
木で作られたテーブルの上には豪華な料理が並んでいた。きっちりキメラまで調理された夕食だ。赤と黄の色彩豊かなサラダに、魚で出汁をとったというスープ。どれも上手そうだ。
「さあ、食え! よく食ってよく寝れば、今日の訓練は終了だ!」
しっかり酒瓶を持っているジャックが叫んだ。
「‥‥ん。いっぱい。おかわりする」
「美味しそうだね。教官、ありがとうございます!」
「さすがおやじさんだぜ!」
「一杯食べようっと☆」
生徒達は早く食事にありつきたいと言わんばかりに箸やフォークを持った。「いただきますっ!!」
夜空の下で食べるジャックの手料理は、いつもよりも数倍美味しく感じられたのだった。