タイトル:【BD】深淵に遺る誓いマスター:冬野泉水

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/02 20:01

●オープニング本文


●大規模の中で
「掃除屋、と呼ばれる敵部隊がいる」
 場違いに綺麗な軍服姿の男は、開口一番そう告げた。軍部の大規模な作戦行動の後に現れる、有人と思しい部隊の事だ。
 大規模な交戦では、通常の状態ではまず起きない事が起きる。100,200のワームが撃墜される中で、稀に自爆に失敗する個体があった時に、その破壊のみを目的とする部隊らしい。
「初めて目撃されたのはメトロポリタンX攻略戦の直後だ。正規軍の部隊が迎撃を試みた際には、文字通り一蹴された。それ以来、基本的にアンタッチャブルとして処理されていたのだが、‥‥ご存知の通り状況が変わった」
 2月のVD作戦の成功。そしてヴァルキリー級の実用。自爆に失敗した敵は、大きな損害を考慮してなお手に入れるべき財宝と化したのだ。
「敵の数は10機前後。いわゆるネームドと呼ばれる連中ほどではないが、腕が立つ。最後に目撃された隊は、タロスで構成されていたようだ」
 そして、任務の為に死ぬ覚悟であろう、とも。北伐において偶発的に遭遇した部隊が一機を撃墜する事に成功したが、その搭乗者は機体を失った後、生身で交戦を継続したという。
「逆に言えば、だ。今のUPCの戦力で奴らを1機落とせた、という事だ」
 傭兵がかかれば『掃除屋』を殲滅‥‥は無理でも、回収の間だけ食い止める事はできるかもしれない。誰かが言い出した結果、任務が掲示されたと言うわけだ。
「勝手に『掃除屋』と俺たちが呼んでいるが、出てくるのはおそらく毎回別物だ。故に今までの情報はあてにならん。‥‥誰か、質問は?」
 男は最後に、思い出したようにそう付け足した。


●UPC軍支部にて
 偶然、その声を耳にしただけだった。
 出張ばかりの毎日を送っていたヘンリー・ベルナドット(gz0360)は、南米にあるUPC軍の支部に顔を出していた。本籍――諜報部――の所用で来ており、今からカンパネラ学園に帰るところでもあった。
「それじゃあ、夫は‥‥あの人はどうしたら‥‥!」
 小さな会議室から聞こえて来た女性の声に、ヘンリーは足を止めてドアに凭れて聞き耳を立てた。
 話を要約するとこうだ。
 先の大規模作戦において、撃墜された上に偶然自爆に失敗した敵の機体が南米の海に沈んでいるらしい。
 敵戦力の解析は昨今UPC軍における急務でもある。当然、UPC軍は回収に部隊を派遣した。
 だが、その連絡が途絶えたのだという。それはこの会議室で女性を宥めている男が言うところの『掃除屋』達の行為かもしれない。
 現在、その部隊の生死は不明であり、かつ、敵機体――小型のヘルメットワームらしいが――はまだ海に沈んだままだと言う。
(軍人だからな‥‥まあ、よくある話だ)
 あっさり心の中で結論付けたヘンリーは会議室の扉を足で開いた。突然現れた赤毛の軍人に女性は怪訝な表情になったが、男の方は直ぐに踵を揃えて敬礼した。
「これは‥‥ベルナドット様」
「よぅ、誰かと思ったらお前か」
 軽く手を挙げたヘンリーである。相手は明らかに少佐クラスの人間だが、なぜか彼に向かって恭しく頭を下げる。
 まあ、彼を鍛え上げたのがヘンリーの父親であるというだけなのだが。生憎ヘンリー自身は何も便宜を図ったことはない。
 あるとすれば、彼が仕官した直後から知っているので、二、三の弱みを握っているだけだろうか。
「話は聞いたけどよ、その回収、俺がやってくるわ」
「はっ!? いや、待て‥‥あ、いや、中尉。それは危険だ‥‥です」
「別に俺は戦線に出ねぇよ。俺の仕事場に居る若い奴らを派遣してやるって言ってんだ。勿論、行方不明の旦那も回収してやるぜ」
 敢えて『死亡が確定している』とは言わなかったヘンリーである。回収、と言われた段階で女性も軍人なら気づくはずだ。
「やった部隊は何人だ?」
「十五人です。が、十二名は空中戦にて撃墜されており、残り三名のうち、二名は同じ機体に乗っています」
「ってことは、実際回収するのは敵機と味方機二機の計三機か‥‥能力者はその掃除屋、とかいう奴らが来たら足止めしつつってことになるだろうな。回収だけならUPC軍でも出来るだろ? まとめて護衛すりゃ手間も省ける」
 ぺらぺらと喋るヘンリーの言葉をじっと聞いていた女性軍人は、不意に彼の軍服の袖を掴んだ。
「夫に関する覚悟は‥‥するしかありません。ですが、どうか‥‥あの人の体だけでも、お願いします‥‥」
 来週、式を挙げる予定だったらしい、と男が耳打ちする。うわぁ、と表情を濁したヘンリーはしばらく頭を掻いていたが、しばらくして彼女の頭に手を置いた。
「まあ、俺の知っている傭兵達は強いから心配すんな。美人さんが泣いたら、ボリビアの海が荒れちまうぜ」
 最後の一言が無ければ良かったのに、と傍で聞いていた男は思ったが、後が怖いので何も言わずに敬礼してヘンリーを見送った。

●参加者一覧

櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
フォル=アヴィン(ga6258
31歳・♂・AA
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
オルカ・スパイホップ(gc1882
11歳・♂・AA
悠夜(gc2930
18歳・♂・AA
アンジェロ・アマーティ(gc4553
15歳・♂・SF

●リプレイ本文

 激戦の続く南米。
 派手な戦域を横目に、UPC軍の要請を受けて、傭兵達は海に沈んだ敵機の回収に向かっていた。
「掃除屋ねー。そんなきれい好きでない方が楽なんだけどなぁ」
 視界一杯に広がる青い海を操縦席から眺める赤崎羽矢子(gb2140)は呟いた。一度潜ってしまえば、そこは戦場になると知っていても、南米の海は美しい。
「うわぁー。きれいだな‥‥じゃないみんな真剣なのにこどもになっちゃらめ」
 頭を振った瑞姫・イェーガー(ga9347)は愛機、キャスパースティング――パピルサグの操縦桿をしっかりと握りしめた。綺麗な海を眺めるのは、全てが終わってからだ。
「掃除屋か、なんか可愛い‥‥べっ、別に凛、変な事なんか考えてないんだからなっ」
 モップを持って海底をせっせと掃除するタロスを思い浮かべた勇姫 凛(ga5063)は急いでその和む想像を打ち消した。実際にタロスが海底にいたら、それはそれで怖い。
「必ず回収しましょう。できれば友軍も‥‥ですね」
 UPC軍の回収部隊が海に入ったところで、傭兵達も海に入る。
 動作を確認した櫻小路・なでしこ(ga3607)は小さく言って、愛機と共に深海へと潜って行った。
 なでしこと羽矢子が事前に上空警戒やソナーブイの設置を軍に要請していた為、彼らは精神的に安心して海底へ向かって進むことが出来たと言って良い。空からの敵襲があれば、すぐに彼らに伝わるはずだが、今の所その知らせはない。
「初のKV依頼が水の中かぁ〜。緊張はするが、ビビッてらんねぇーぜ!」
 前を行く仲間の機体を見つめながら悠夜(gc2930)は意気込んでいた。愛機のアンヘル――破曉の初陣は、決して失敗してはならない戦いである。
「噂の掃除屋さんと戦えるなんて〜テンション上がっちゃうよ〜♪」
 先頭を行くオルカ・スパイホップ(gc1882)はその出身のためだろうか、それとも好みだろうか、いつになく上機嫌ですいすいとレプンカムイ――リヴァイアサンを海底へ向けて進める。
 水の中は青く澄んで視界も良好だった。陽光が差し込んで、水の中に幾重もの光の筋が走っている。
 回収部隊の道案内もあり、しばらくして彼らは目的のものを発見した。海底で横たわるHWとUPC軍の軍旗が描かれた戦闘機の残骸である。
 どれだけの戦闘をしたのか、双方の破損は想像以上であった。撃ち落とされたHWは言うに及ばず、友軍二機も大破というには生温い。
 機体を見た羽矢子は、操縦席に深く腰掛けて少し上を見つめて呟いた。
「ごめん、もう暫く眠ってて。あんた達の任務は引き受けるから」
 絶望的だと事前に聞かされてはいる。だから、現状を受け入れなければならない。
 だが――この状況を目の当たりにすると、言いようの無い痛みが傭兵達の胸を刺したのだった。

 ◆

 UPC軍の部隊が友軍の回収を始めようとしたその時であった。周辺警戒にあたっていたアンジェロ・アマーティ(gc4553)が声を上げたのである。
「北西に敵影確認! 距離五十、種類は‥‥HW五機です!」
 回収部隊が露骨に動揺して見えた。反対に、傭兵達はさっと陣形を作って部隊の前に陣取る。
「できるかぎり引き上げてあげたいですけど‥‥まずは、任務優先ですかね」
 敵機との距離を測りながら、フォル=アヴィン(ga6258)は溜息をついて後ろの残骸を一瞥した。
 先行部隊であろうか、水中用に改良された小型HWの群れは加速しつつこちらに近づいてくる。このタイミングを見計らって来たのであれば、何と悪趣味な掃除屋か。
「いつでも行けます。アンジェロ様、お願いします」
 なでしこの声に頷いたアンジェロは距離を詰めるHW群の機影をじっと見つめた。距離四十で魚雷を斉射、その後は各班に分かれて各個撃破――その流れを頭に思い浮かべる。
 その思考が切れると同時に、敵機群が狙った距離に辿り着いた。
「今です!」
「よし‥‥皆、頼むよ――魚雷発射っ!!」
 羽矢子の鋭い声が飛んだ。その声がまだ通信機から響いている内に、彼らは敵HW群に向かって魚雷を一斉に放ったのである。
「どれだけ来ようと、凛達が絶対近づけさせはしないんだからなっ!」
 凛の声が空を裂いた後の、一瞬の無音。
 直後、水中を振動させる大きな衝撃と、耳を劈かんばかりの爆音が響いた。機体を焼く魚雷の爆発が追って視界に入ってくる。
「行くよ〜!」
 真っ先に動いたのはオルカだった。リヴァイアサンを急加速させて敵陣の懐へ突っ込んだのである。相手がこちらの動きに気づく前に、彼は機体を変形させてシステム・インヴィディアを起動させた。
「こんにちわ〜そしてさようなら〜!」
 ここまで近づけば敵がただのHWであることは一目瞭然である。リヴァイアサンの持つ水中練剣「大蛇」を鋭角に薙いで、直近の小型機を寸断する。
「援護するよ!」
 やや前に進んだ羽矢子のアルバトロスがガウスガンを放った。オルカ機を狙おうと脇から接近していたHWの頭部を撃ち抜く。バランスを崩したHWをオルカが練剣で斬り捨てて、彼も一度距離を取った。
「凛達の後ろには、どうしても引き上げなければ行けない大切な物と思いがある、誰一人としてここは通さないんだからなっ!」
 張った弾幕を抜けて突撃をかけるHWの砲撃を躱した凛は愛機のリヴァイアサンを急旋回させた。後ろでは防衛班に守られるようにUPC軍が回収を急いでいるが、今のままでここまで来られると辛いのだ。
 相手を誘い出すように、羽矢子やオルカの正面に誘い込んだ凛は槍斧「ベヒモス」をHWの脇に殴りつけるように振り降ろした。動力部を砕かれたHWを足で押しのけて、凛は一旦その場から退く。
「戦うのって、撃つことだけじゃないって教えてあげます」
 遊撃班が前線で戦っている最中も、アンジェロはひたすら管制に努めていた。予測されていた敵の数よりも少なすぎることを警戒して、辺りを注意深く窺っているのである。
 そして、彼の予想は直後に的中したのである。
「敵機接近! 数‥‥十機です!」
 アンジェロの声に、前方の戦いを見守っていた防衛班の面々は、はっと我に返って操縦桿を握ったのである。
 回収部隊を取り囲むように十機のHWが接近していた。二手に分かれた防衛班は、遠距離から放たれたHWの砲撃を受け流すと、一気に加速して距離を詰める。
「ぶっ壊してやる。ぶっ壊してやる。‥‥なのに木偶人形かよどちくしょう
が!!!」
 怒気を撒き散らした瑞姫は接近しながらガトリングを乱射した。砲台を根本から破壊されたHWの懐に潜り込むと、太刀で下から上へ思いっ切り寸断する。
「当たれば結構痛いんだなー、これが!」
 後ろからは悠夜が瑞姫の援護に徹していた。初撃を叩き込まれて弱っているHWを遠距離からライフルで狙撃する。水中戦に慣れていない彼だったが、その腕は思った以上に良いようである。
「瑞姫さんっ、南西の方角より一機接近です!」
「問題ない。上から叩き割って滅茶苦茶に壊してやる。粉砕してやる。たかが人形にやられてたまるか!」
 吼えた瑞姫はアンジェロの指示を受けて敵機にガウスガンを向けた。相手が撃ってくる前に一発を前に取り付けられた砲台へ撃ち込む。次いでガトリング砲を斉射して目眩ましをすると、弾幕が晴れると同時に駆動部を正確に撃ち抜いた。
「すげぇ‥‥」
 その完膚無き破壊っぷりに悠夜は思わず感嘆の声を上げた。だが、感心してばかりはいられない。
 HWを沈め終えた瑞姫は元の冷静さを取り戻し、幼げな表情を浮かべながら悠夜機の方を見た。
「悠夜そっちは、大丈夫」
「ああ、大丈夫だ」
 近距離から別のHWを銃撃した瑞姫の問いかけに悠夜は応え、彼女の死角を捉えたHWの砲身を撃ち抜いて機動力を削ぐ。足手まといになりたくない一心での行動が功を奏しているのだろう。
「あちらは大丈夫そうですね‥‥っと、櫻小路さん、囲まれないように注意です」
「ええ、大丈夫です。こちらも行きましょう」
 別動隊の動きを見やったフォルの声になでしこは頷いた。明らかに一機、動きが違うHWがこちらに接近している。あれが恐らく掃除屋の隊長機に違いない。
 ならば、頭を叩けば自ずと戦況はこちらが有利に傾くはずである。
「行きますっ!」
 ビーストソウル――蒼騎士を変形させたなでしこは、接近するHW群に向かって大型ガトリングを斉射して弾幕を張った。
 間髪入れずに、前進を開始したフォルがホールディングミサイルを弾幕の中心へと放つ。その隙に愛機のビーストソウルを海底ぎりぎりまで沈めて、隊長機の死角へと回り込んだ。
「ここで仕留めてしまいましょう。抜けられると厄介ですからね」
 隊長機の背後を取ったフォルはインベイジョンBを発動させた。相手がこちらの動きに気づいて方向を変える前に肉薄し、レーザークローで大きく薙ぐ。
 だが、他のHWと打って変わり、隊長機はフォルの爪を弾いたのである。その機体が薄い赤色に輝いている。
「く‥‥っ、やはりFFですか」
 反撃の気配を感じて即座に距離を取った彼の機体の脇をレーザー砲が走る。一瞬でも遅れていれば被弾していたに違いない。
「フォル様っ!」
 その間に、別のHWがなでしこの張った弾幕を抜けて回収部隊へと接近したのだ。
 彼らの傍にはアンジェロのオロチしかいない。味方の援護が間に合わない状況で、HWの砲撃が彼らに向いた。
 その危機を、誰よりアンジェロ自身が分かっていたはずだ。意を決したように周りに視線を巡らせた彼は愛機――デルフィーノに呼びかけた。
「デルフィーノ、まだいける‥‥? もっと泳ごう、僕と」
 HWの砲撃一発目を受け流したアンジェロはファランクス・テーバイで弾幕を張った。今はとにかくこちらに敵を近づけさせないことが最優先である。
 ファランクスの装弾が切れるタイミングを狙って、HWが加速して弾幕を抜ける。
 だが、それで良いのだ。準備は整った。
「見えました、そこです‥‥撃って!」
 弾幕形成の片手間に撮影演算システムを発動させていたアンジェロが叫ぶ。
 これに応えたのは、先に戦闘を始めていた遊撃班だった。
「そうはさせないよっ!!」
 ブーストを使い突っ込んできたのは羽矢子のアルバトロスである。レーザークローとソードフィンでHWを十字に斬りつける。駆動部を砕かれたHWは水を掻くように藻掻いて海底へと落ちていった。
 その残骸を見届けることなく、羽矢子は後方から来る仲間に呼びかけた。
「オルカ、頼んだよっ!」
「了解です〜一発で沈められたらラッキーかな〜♪」
 うきうきと、けれども重い一撃を持ってオルカが防衛班と対峙するHWへと詰め寄った。放たれた砲撃を機体そのもので受け止めてみせる。
「おおっ、流石アクティブアーマー!」
 砲撃を受けても物ともしない装甲に感動しつつ、オルカは練剣でHWを頭から突き刺した。串刺しと言っても良い一撃に、小型のHWは爆発音を立てて二つに割れる。
「輝け蒼き燐光、これが凛達の想いの力だっ!」
 防衛ラインを突破しようとする隊長機には凛が向かっていた。システム・インヴィディアの起動で、機体の持つヘビモスが青く輝きだす。槍斧を振り降ろして、真上から隊長機を寸断しようとした。
「この‥‥っ!」
 FFを展開させた隊長機は砲身を一本犠牲にすることで凛の一撃を受け止めたのである。
 だが、これで動きは完全に封じられる形となった。
「今だっ!!」
「これで決めてやる。くそ‥‥どっか行けよ土偶人形のくせにっ!!」
 羽矢子の声に合わせて、瑞姫はアサルトフォーミュラAを発動させた。ガトリングで隊長機を強襲し、機動力を削ぎにかかった。
「おっと、そっちには行かせないぜっ!」
 次いで悠夜もライフルを斉射して隊長機を守ろうと接近するHWを牽制した。動きを封殺されたHWがその場に固まる。砲撃しようにも射線上に隊長機が居るために攻撃できないのである。
「剛装アクチュエータ『インベイジョン』A起動。フォル様、いつでも行けます」
「了解です。援護は任せて下さい」
 ガウスガンで隊長機を後ろから追い込んでいたフォルは一度銃撃を止めた。直後に弾幕も徐々に晴れていく。
 それを狙って、ブーストをかけたなでしこのビーストソウルが隊長機に突っ込んだのである。
 試作剣「蛍雪」をしっかりと構えたなでしこ機は隊長機に肉薄すると、剣を薙いで砲台を斬り飛ばした。反撃に放とうとするミサイルの発射口に剣を突っ込み内部で爆発を起こさせる。
 内部からの破壊にFFは通用しない。なでしこが剣を引き抜いて後ろに下がった直後に、隊長機は内側から爆発したのである。
 残骸の雨が降る中、頭を失ったHWの残党が後退を始める。
 それらを追うことも勿論出来たが、時間を置かずしてUPC軍の回収部隊が任務を完了したと報告を受けた彼らは、遠ざかる敵影を見送るに留めたのであった。

 ◆

「仕方のない事と割り切ってはいるも、あまり気持の良い物じゃない」
 そうフォルが言った通り、陸に揚げられた機体の状態は水中で見る以上のものだった。引き上げられた機体の内部は語るに及ばないだろう。
 敵兵器であるHWは回収されるや否や研究所に引き渡されることになった。破損が酷いが、解析しないよりは良い。何らかの情報がこちら側にもたらされることを期待するしかない。
 また、人類側も失ったものばかりではなかった。
 変わり果てた婚約者の姿を見た女性の手には引き上げられた遺体の指に填っていた銀色の指輪があった。深海に沈もうと手放すことのなかった、小さな、けれども堅い誓いの証である。
 彼女とて軍人であり、軍人の妻となる存在だった。だから、戦場で伴侶を失うことはどこかで理解しているはずだ。
 それがあったとしても、項垂れる彼女の後姿を見るにつけ、傭兵達は何度も誓うことがある。
 彼女のような人を二度と出したくない。
 早く、こんな戦いを終わらせてしまおう、と――。

END