●リプレイ本文
●マリアンデールの罠
時間は少し遡る。
「お? KVが落ちているな」
決して落ちていたわけではないヘンリーのマリアンデールを見つけたUNKNOWN(
ga4276)は、顔見知りの好という謎の理由でそれを改造していたのである。ある意味確信犯である。
「よし、これで良いだろう。後は酒とつまみと‥‥私は見学させてもらうとするか」
出来上がったマリアンデールVer.UNKNOWNに頷いて、彼はそそくさと整備場を後にした。
騒然としているカンパネラ学園のグラウンドには、一機のKVがその珍妙かつ奇怪、奇天烈にして斬新な姿を晒していた。事前にマリアンデールが用意されることを知らされていなければ、それが何であるか、むしろKVだと認識するのは非常に難しかったに違いない。
だが、果敢にも――というかあまり気にしていなかったのは、我らがしっと団総帥こと白虎(
ga9191)である。
「な、なんか‥‥マリアンデールには全く見えないけどあれに違いない! そういうことにしておく! 船木くんを助けるために、あれは厄介だ!」
堂々と裏切り宣言をした白虎は、猫耳アンテナにロッタペイント、無駄にフリルのついた黒系ゴシックロリータデザインになったマリアンデール(多分)に瞬速縮地で近づいた。
「ふははは! 誰が乗るか知らんが、これでも喰らえー!」
機体内の暖房を最大まで引き上げ、スイッチや操縦桿に瞬間接着剤を流し込んだ白虎はやりきったという顔で額の汗を拭う。脱出際に墨汁をぶちまけ、
適当にふん掴んだ模型飛行機を三機放り込んだ。
「これがしっと団流トラップだー! ふはははh‥‥はぁはぁ」
暑さのせいで高笑いしきれなかった白虎であった。
かくして、後に『マリアンデールの怪』と言われる罠が完成したのである。
さて、この悲惨な罠にはまった傭兵が一人だけいる。須佐 武流(
ga1461)である。
何も知らない彼は、騒ぎを一気に収束させようとマリアンデールに乗り込もうとして脚を止めた。
「何だこの機体は‥‥マリアン、デール‥‥なのか?」
奇っ怪極まりないデザインのマリアンデールを呆然と見上げた武流である。心なしか、禍々しいオーラが溢れでているような気がしてならない。遠目に整備士が号泣しているのが見えるが、泣きたくもなるだろう。自慢のシラヌイがこんなざまになったら、武流とて平常心ではいられまい。
とはいえ、これを使わない手はないのだ。
「まぁ‥‥使えるなら、何でも構わんか」
むしろロッタペイントの機体に乗ってしまうことによって、ロッタファンだと思われることの方が心外なような気もする。
「まったく、また船木とかいうやつか‥‥‥‥‥‥何だこりゃ!!」
コクピットに入った武流を待ち受けていたのは、暖房と粘着液、そして、同士討ちの末に果てた模型飛行機の山だった。
「暑っ‥‥んの野郎‥‥っ!!」
暖房もびっくりの速度で怒髪天を衝いた形相になった武流である。即座に冷房に切り替えようとしたが、どこかの誰かが変にいじったらしく全く利く様子がない。
「つーか、なんだこれ‥‥接着剤か‥‥くそっ、取れん!」
瞬間接着剤のせいで左手が完全に操縦桿に固定されてしまったようだ。
舌打ちした武流は、そのまま拡声器を起動させて己の怒りの全てを吐いたのである。
『あー‥‥これから訓練を始める。というか、殲滅する。下のやつら、遊んでても良いが、当たっても責任はもたんぞ。特にマリアンデールを改造したやつ』
そうして一拍おいて、武流は不敵に笑って見せた。序盤だというのにもはや自棄糞である。
『良いか、お前ら。し っ か り 逃 げ ろ よ ? 』
●嫉妬と憤怒
『うおおおおおおお! リア充は絶滅しろおおおおおおお!!』
あっぱれな叫び声を上げて船木機から大量の熱風が吹きつけられる。
「だあああ! 面倒くせえ!!」
模型飛行機を切り落としたヘンリーはだらだらと汗を流しながら上空を仰いだ。
まさにその瞬間である。
「ヘンリーせんせぇぇええええっ!!」
「あ、あ、綾河ぁ!? ‥‥ぐぇっ」
教室の窓から飛び降りてきた授業中の綾河 零音(
gb9784)の踵がヘンリーの肩に直撃した。たまらず悶絶撃沈した彼の周りに、彼女が叩き落としたのであろう模型飛行機が数機散らばった。
「こらー! 綾河ぁ! 危ないことするなー!」
「すいません、でもこれ、大規模関連なんです!」
「何ぃ!? ちょ、ベルナドット先生! よろしくお願いしますっ!」
教室から叫んだ教官に嘘八百を並べた零音は、即行ヘンリーのタンクトップ姿を携帯で撮って保存した。この間、わずか五秒。コレクションが増えた瞬間であった。
「眼福眼p‥‥いや、なんでもないよ?」
そそくさと携帯を隠し、何事もなかったかのように避難誘導を始める彼女に従い、無関係の生徒達が避難を始めた。
「‥‥っ、綾河! 危ねぇ!」
「へ? うわっ」
突撃してきた飛行機の放った粘着液を零音の代わりに被ったヘンリーは、そのまま勢いでグラウンドに倒れこんだ。
「ってぇ‥‥おい、大丈夫――」
言いながら目を開いたヘンリーの硬直ぶりは、それはもう見事だった。
「せ、せんせぇ‥‥」
「やめろ綾河っ、そんな声で先生とか言うなあああああっ!」
「あっ、ごめんね、教官! ちょっと踏み台になって!」
「は? って、うぉ‥‥ぐえっ!」
生徒を押し倒してしまったショックと潤んだ瞳の零音に発狂寸前のヘンリーだったが、その後頭部を踏んづけたのは月居ヤエル(
gc7173)だった。ぴょこぴょこと兎のように跳ねながら、教官を踏み台に空へ飛び上がった。
「ストレスマッハだか何だか知らないけど、こんなの迷惑だよっ」
鉄扇で飛行機をたたき落としたヤエルはむすっとして言った。ただでさえ暑い状態なのに、この上ネバネバすることなど遠慮したい。
着地したヤエルは後頭部を抑えて屈んでいるヘンリーの方を見やった。
「教官、大丈夫‥‥?」
「大丈夫じゃねぇ‥‥っつーか、お前ら最近、俺の扱いがひでぇぞ!!」
吼えたヘンリーだったが、ヤエルはきょとんとしたまま首を傾げた。それが妙に可愛らしいのだから反論のしようがない。
そこへ、遠くから男にしては高い声が木霊したのである。
「あそこにリア充がいるぞ―――――――!! 野郎ども、やってしまえ!!」
休む間も与えられずに、ヘンリー達はしっと団に強襲された。
入れ替わりで、事態を知った傭兵達が続々とグラウンドに集まってきた。
「‥‥暑っ! 暑い!!」
言うや否や上着を脱いでキャミソール一丁になったLetia Bar(
ga6313)に、隣にいた張 天莉(
gc3344)は思いっきり噴きだした。
「ねねね姉さん、脱いじゃ駄目ですよ!」
「だってぇ‥‥ふぁっ!」
ぼやーっとしていたLetiaに模型飛行機が盛大に粘着液をぶっかけたのである。ねっとりとしてしまった彼女は何というか、何とも言えないくらい艶っぽくなった。
間髪入れずに天莉が飛行機を蹴り落とす。
「姉さん、大丈夫っ?」
「て、天ちゃん!ごめん、ちょっと暑さにやられて‥‥」
抱きついてきたLetiaに天莉の紅潮が限界に達した。そこへ更に飛行機が追撃する。
「姉さんは、僕が守るっ!」」
勇ましいことを言ってはみたが、要するにLetiaの代わりに粘着液を喰らうということで、当然べとべとになった天莉は塩っぱい気持ちになった。
「もー! 暑いー! これも脱ぐー!」
「駄目ー! 姉さんこれ着てー!」
キャミソールすら脱いでしまおうとしたLetiaに天莉が慌てて止めに入る。止めてくれないと報告官が偉い人に修正されてしまう。
「ふわ‥‥天ちゃんの上着? ‥‥私は今、何を‥‥あの、ありがと」
そう言って抱きついてきたLetiaに天莉は為す術がない。はわわと赤くなって硬直していると、更に胸やら腰やらに手が伸びるので心臓が跳ね上がった。
「ちょ、姉さ‥‥ふぁ‥‥っ」
「天ちゃーん‥‥うふふ」
「これが噂の禁断モードかぁ。船木も嫉妬するな、これはぁ」
遠目にレインウォーカー(
gc2524)は二人の様子を面白そうに観察していた。狙うのはグリフォン一択、彼は粘着液を軽やかに避けながらその機会を窺っていた。
「毎度毎度アイツが暴れるとカオス度が跳ね上がるなぁ。ホント、収集つくのかぁ?」
つくならこんなことになってないよなぁ、と一人呟いたレインウォーカーの声に重なるように、グリフォンが吼えた。
『果てろおおおおおおおおおおおおっ!!』
どうやら禁断モードを見てしまったらしい。熱風を二人に向けて放った船木くんである。同時に、複数機が二人に襲いかかる。
「また、船ナントカか! 女性に危害を加えるなら容赦しないぞ」
そう言って飛行機を叩き落としたのはエイミー・H・メイヤー(
gb5994)である。二人を守るように飛行機を処理した彼女は、休むことなく別方向へ走りだす。
その先には、飛行機に追い回されるラサ・ジェネシス(
gc2273)がいた。
「カンパネラ学園生としてココは守らないとッ」
飛行機をめっためたにしているラサだったが、エイミーが近づいてくるのを見ると途端に攻撃の手を休めた。そして、可愛らしく彼女の方に駆け寄る。
「キャー、なんかこっち来るノダ‥‥怖イー」
そのままエイミーに抱きついたラサである。彼女の頭を撫でて、エイミーは凛々しく微笑んだ。
「ラサ嬢、そっちは危ないぞ。あたしの側を離れるんじゃない」
飛行機を衝撃波で撃ち落としたエイミーはラサの腰に手を回して彼女を引き寄せた。あまりに自然な仕草だったので、周りにいた人々が硬直する。
何だかカオスな空間なはずなのに、あちこちでキラキラしているのは何故なのだろうか。
青春って良いですね、としか報告官は言えません。
そして、所変わってグラウンドの外れにある木陰でも青春があった。
「‥‥殺気!」
居眠りを邪魔する輩を退治しようと起き上がったイレイズ・バークライド(
gc4038)に仮面の人間が奇襲をかけてきたのである。
難なく躱し、相手の放った手裏剣を打ち落としたイレイズは、浴衣の相手をじーっと見つめて、げんなりと言った。
「‥‥おい‥‥お前、ティナだろ?」
「はテ? 何ノ事デスか?」
「‥‥真っ二つにされるのと、叩き潰されるの、どちらが好みだ」
遠慮無く威嚇したイレイズに仮面の少女は触覚のようなアホ毛をピクンと動かした。
「こわ、まぁバレたのなら仕方ないですね」
仮面を外したティナ・アブソリュート(
gc4189)はニヤリと笑った。
「ここで会ったが千年目! 私の視界に入ったのが運の尽きと思って諦めて下さい!」
「ツッコミが追いつかんが‥‥お前が勝手に入ってきたんだろうが」
憤怒の炎を纏ったかのような声のイレイズは、うんざりという風に言った。
「もうお前、俺を襲えたら理由とかどうでも良いとか思ってるだろ?」
「YES!!」
元気よく答えたティナは、近くを飛んでいた飛行機をイレイズに向かってぶん投げた。
「イエス、じゃないだろうがっ!」
飛行機を受け止めて投げ返したイレイズである。ティナはそれをハリセンで打ち返す。だが、狙いがデタラメなのか、あらぬ方向へ飛行機は飛んでいった。
「アイツら、やっぱりいいコンビじゃないかぁ‥‥って、いてっ!」
ティナの打った飛行機はレインウォーカーに当たったのだ。船木が地上に近づかない限り、彼としてはやることがなくて暇な彼は、丁度良い獲物を見つけたかのようにティナの方へ近づいてくる。
勝てる気がしない相手の接近を察知したティナはそそくさとイレイズの後ろに隠れた。
「おい‥‥」
「お、男なら体張って乙女を守れー!」
ビシッとイレイズが固まった。斬馬刀を地面に突き立てたイレイズはティナの襟を引っつかんで自分の正面に置く。
こいつが、乙女‥‥だと‥‥。
「 あ り え ん 」
イレイズとレインウォーカーに挟まれたティナはじたばたと藻掻く。
「人でなしー! 乙女のピンチを更にピンチにしてどうするんですかー!」
「ティナァ‥‥べとべとになっちまったんだけどぉ」
「ぎゃー! 道化さんごめんなさいっ、全部イレイズさんが悪いんですっ!」
「おいこら‥‥やっぱり一回決着つけておくか」
「ひどい! イレイズさんの悪魔ーっ!!」
傍目に見ればリンチ状態なわけだが、あいにく彼らも青春の雰囲気丸出しだったので、誰も助けに入ろうとはしなかったのであった。
●真面目な面々と傍観者
「あー‥‥何ですかね? アレ‥‥」
扇嵐で扇いでいた立花 零次(
gc6227)は現場の混乱ぶりに困惑していた。奇っ怪なデザインのKVと空に浮かぶグリフォン、加えて飛び回る模型飛行機に阿鼻叫喚の人々。
どこから理解すれば良いのか分からない。
「と、とりあえず‥‥手伝っておきましょうか」
近づいてきた飛行機を扇嵐の竜巻で落とした零次は、無防備な生徒達の避難誘導を始めた。
蠅のように耳障りな音を立てて近づいてくる飛行機は念入りに潰しておく。地面にぶちまけられた粘着液が不快の極みだったりする。
「‥‥っと、そう簡単にかかりませんよ」
迅雷で粘着液を躱した零次は扇で飛行機を叩き落す。ぐしゃっと潰れた飛行機が内に溜め込んだ粘着液をグラウンドに撒いた。
「嫌ですね、この暑い日にこんなものを食らっては」
ちらっと空を見れば、地上に引き摺り下ろされそうになりながらも、なぜか援護を受けて立ち直るグリフォンが見える。
どうやらあの辺がカオスの中心らしい。
「あー‥‥アレには近寄りたくないですねぇ。暑いですし」
生徒の避難を終えた零次は近くのベンチに腰を下ろした。すっかり見物の姿勢である。
「それにしても‥‥LHは冬なのに、ここは暑いですねぇ‥‥」
あんなのが納涼だったら嫌だなと思いつつ、零次はカオスの行方に注視した。
「こういう混乱は凄く迷惑なのですが‥‥」
グラウンドの隅で演奏練習をしていたユーリー・ミリオン(
gc6691)は騒ぎの音を聞きつけて溜息をついた。
いきなり頭の上にグリフォンが飛んできたかと思えば熱風が吹きつけられるし、何だかネバネバしたものが降ってくるし、変なKVが出るし、カンパネラ学園はどこか変だ、とも思う。
「まあ、やれることはしましょう。一応、ユーリーも練習場所を借りているわけですし」
けれども、騒動の中心には行きたくない。逃げ遅れた生徒達を誘導しつつ、ユーリーはグリフォンを見つめた。同じ機体に乗る者として、何だか許せない。
「あのパイロットは、呪歌で縛り上げましょう」
固く心に誓ったユーリーはひまわりの唄を奏でながら、黙々と避難誘導を続けた。
「‥‥またあの変態が厄介事を起こしたんですか」
粘着液を剥がしてやったソウマ(
gc0505)は、船木くんの行動に顔を歪ませたが、女生徒と目が合うとにこりと微笑んだ。彼女の目が思わずときめきで潤んだが、彼はさっさと別の生徒の救助に走りだしてしまう。
「気分が悪いとか、怪我とかはありませんか?」
別の生徒にひまわりの唄を聞かせながら、ソウマは笑顔を絶やさない。
そこへ、グリフォンの放った熱風が吹きつけられる。
「きゃーっ!」
スカートを押さえた女生徒だったが、ソウマにはしっかりと見えていた。つまり、白とピンクのボーダー柄だ。
大変な役得である。
「こ、これぞ、キョウ運!」
ぐっと拳を握りしめたソウマだったが、そうそう良い思いばかりできるわけではない。
彼の視界に別の生徒が入ってきた。粘着液を取ろうと必死にもがいている。その近くには、模型飛行機が複数飛び回っていた。
「危ないっ」
駆け寄ったソウマは超機械で飛行機を地面に叩きつけた。割と立派な体格の少年はソウマの中性的な顔立ちを見て何故か視線を背ける。
「どうしました? ああでも、怪我がなくて良かったですね」
意図せず微笑みかけた彼に、男子生徒はキュンとなった。そして、男か女か尋ねるより先にソウマの肩をつかんだのである。
「君‥‥か、彼氏とか、いるかっ!」
「‥‥‥‥」
返答に困ったソウマである。彼氏はいるか、と聞かれれば答えはNOだが、もしかしなくてもこれは女に間違えられているのだろうか‥‥。
一方、男子生徒は完全に少女漫画モードに入っている。
「すまない‥‥こんなことを言われて混乱するかもしれない。吊り橋効果と言われても仕方がないかもしれない。だが、俺‥‥一目見ただけで君のことを‥‥」
「あー‥‥僕、男なので」
無理、ときっぱり言い放ったソウマの言葉に男子生徒はこの世の終わりかという顔になった。だがしかし、男色の気はないのだから仕方がない。
「やれやれ‥‥このキョウ運も侮れませんね」
男子生徒を避難させて溜息をついたソウマは、それ以上現場には近づかず、高みの見物を決め込むことにした。
『あー。テステス。‥‥粘液や温風を浴びた方は校舎内にシャワー室及び着替えの為の教室が準備してある。必要ならば使うように。‥‥ちなみに女性優先だ。男性諸氏は紳士っぷりを発揮してしばらくはタオルで我慢するように』
ヘイル(
gc4085)の声がグラウンドに木霊する。助かったと言わんばかりに粘着液を食らった生徒たちは小走りに移動を始めた。
『一応警告はしておくが、不埒な行為に及ぼうとする輩の安全は保障しない。繰り返す。安全は保障しない』
これはしっと団の面々に向けて言ったのだが、おそらく言っても無駄だろう。それはヘイルもよく分かっている。
「まぁ‥‥仕方が無いか」
仕方がないの一言で状況をまとめてしまったヘイルは屋上へ移動すると、用意してあった銃で模型飛行機を狙撃した。
「ぐぁっ! ちょ、何だよ!?」
直後、ヘンリーの悲鳴が聞こえたがヘイルはあまり気にしていない。
「む、ヘンリー教官‥‥。まぁいいか。今さらだし」
それに粘着液まみれにした方が面白いことが起こるはずだ。構わずヘイルは模型飛行機がヘンリーの頭上に来るタイミングで片っぱしから撃ち落としていく。
当然だが、その都度ヘンリーはべったりねっとりとしていく。粘着液が滴っても別に良い男に見えないから不思議だ。
「このくらいで良いだろう。次はあいつだ」
ペイント弾を装填したヘイルは、上空のグリフォンに照準を定めた。あれを止めない限り、この暑さは消えないのだ。
「‥‥今回は猿やらではないのだな。まぁ、破壊することには変わらんが、逆さ吊りは無し、だな」
的は大きい方がよく当たる。グリフォンのカメラにペイント弾をぶつけたヘイルは、続けて強襲弾を乗せて機体の関節機動部を撃ち抜いた。
「船木くんがピンチだ! 野郎ども、援護だー!」
などとどこかのショタっ子の声が聞こえるので、弾が余ったヘイルはその声の方にも一発撃ちこんでおいた。
「ちくしょう、なんだこんなもん‥‥!」
「うおおおお、脱ぐなー!!」
巳沢 涼(
gc3648)のバイクに乗って模型飛行機を壊していた九道 麻姫(
gc4661)は粘着液を喰らうと潔く上着を脱ぎ捨てた。
「俺にこんなもんぶっかけて、タダで済むと思ってんのかっ!」
吼えた麻姫はバイクから飛び降りると両手の剣と太刀で飛行機を真っ二つに切り刻んだ。だが、直後にグリフォンが熱風を放ったせいで、更に暑くなったのだろう、うあああああと声を上げて服を脱ぎ捨てたのである。
「暑いっつってんだろうがっ!」
「わああ、麻姫ちゃん、それ以上脱いだらやべぇから!」
どんどん脱いでいく友人に冷や汗をかきながらも、涼もAU−KVを装着して飛行機を撃ち落とす。
彼らの頭上では、カメラこそ潰れたものの悠然とグリフォンが熱風を吹きつけている。
「暑いぞ畜生!とっとと降りて来やがれ卑怯者ー!」
槍を振り回した涼はグリフォンに向かって叫んだが返事はない。
ブチッと切れた涼はS−01に持ち替え、グリフォンの腹に向かってペイント弾を連射した。
そして、叫んだのである。
「てめぇふざけんな! うちの行き遅れの姉貴やるから妹よこせー!!」
『そんなもんいるかああああっ!』
意外にも船木くんから返事があった。そうと来れば答えないわけにはいかない。
『妹だってくれてやr‥‥灯夜ならくれてやるわっ!!』
「何だとっ!」
「何ぃ!?」
「灯夜ちゃんキタ━━━━(゜∀゜)━━━━ッ!!」
何名か即座に反応したのはこの際どうでも良い。
「涼! 埒があかねぇ! 俺があの機体に飛び移る!」
「お、おう‥‥任せたぜ、麻姫ちゃん!」
妹をやるという発言に対して答えに迷っていた涼だったが、麻姫に促されて再びバイク形態に切り替える。とりあえず今は、あの機体を地面に叩きつけてやることが先決なのだ。
だがしかし。
さてはて、そう簡単にグリフォンが落ちるのだろうか。
「なんですか‥‥あの、趣味の悪い機体は?」
船木くんの声を聞きつけてグラウンドに来た秦本 新(
gc3832)はグリフォンを見て絶望を禁じ得なかった。だが、船木くんのこれまでのセンスを鑑みると、何だか納得してしまう。
「というか‥‥あれは、マリアンデール‥‥? いや、そんなはずは‥‥」
続いてマリアンデールを見た新は絶句した。どっちもどっちな気がするが、まだグリフォンは原型を留めている。
そのマリアンデールは動きが若干おかしいが、とりあえずは状況鎮圧に貢献しているようだった。見境なく弾幕を張っているようにも見えなくはないが。
「まぁ‥‥あれは見なかったことにしましょう」
早くも頭が痛くなってきた新だったが、まずはグリフォンに呼びかけた。
「船木君とやら‥‥正々堂々、下まで降りて来い! 格好悪いぞ! 情けなくないのか、お前ー!!」
『黙れ! お前に俺の苦しみが分かってたまるかー!!』
聞く耳を持たないとはこのことである。
そんなことは承知していた新はSMGを構え、グリフォンのブースターを遠慮無く撃ち抜いた。黒煙を上げてグリフォンの高度がぐっと下がる。それでもまた一定の高度は保ったままなのだから驚きである。
「一体どんな改造なんですか、あれ‥‥」
「さてなぁ。ただ、潰せば一遒世蹐・・宗充・瞭参宗▲譽ぅ鵐Ε・璽・次G票蠅砲い・擦討發蕕Δ茲・ラ
新の脇に立ったレインウォーカーは、グリフォンの鼻先に多目的ワイヤーを引っ掛けた。
前かがみになったグリフォンにすかさず新が詰め寄る。
「‥‥その機体。バラバラに解体して、弁償扱いにさせてやりますよ」
槍を構えた新は、猛火の赤龍と静寂の蒼龍を乗せた強烈な一撃を機体の脇腹に叩き込んだ。ひときわ大きな音がグラウンドに響き渡る。
『ちょ、やめ‥‥死んじゃうだろうがっ!!』
珍しくまともに怒った船木くんが無理やりグリフォンを旋回させて急浮上する。
「‥‥ちっ」
あまりの無茶な動きにレインウォーカーが一旦ワイヤーを離して地面に飛び降りた。
「なんだぁ、あの機体‥‥」
直後、勝機を見出した(と思った)しっと団がわっとその場に雪崩込んできたのである。
●しっと団、介入
「何が不満だと言うんです! 美人三姉妹に虐げられるとか、僕に言わせればそれはむしろご褒美です。不満なら僕に代われ! むしろ代わってください!!」
船木機に向かって絶叫したのは佐渡川 歩(
gb4026)である。妹萌えの極致とも言えるであろう環境を疎む船木くんの心情が心底理解できないようだ。
だがしかし、待って欲しい。待って欲しい。
大事なことなので歩の脳内で制止の声が二度響いた。
ここでもし、船木くんを手助けして彼が首尾よく逃亡することが出来れば、おそらく彼は歩に感謝することだろう。そこで上手く彼を口説き、姉妹に会わせて貰い、家族同然の付き合いになる。
これっていわゆる、ハーレムじゃないだろうか。
歩の脳内に、更にもやもやと次女の灯夜のツインテールが浮かび上がる。顔とか胸とか、その辺は妄想で創り上げておいた。
何故か水着の灯夜が、ややきらきらした目でこちらを見つめている。僅かに蒸気した頬をほころばせ、彼女は口を開くのだ。
「あ、あんたのためじゃないんだからねっ‥‥あ、歩お義兄ちゃん‥‥」
キラーン☆と歩の瓶底眼鏡が月光のごとき眩さで輝いた。
「キタッ! 勝つる! 船木くん、君をこんなところで死なせはしない!」
鼻血をダバーっと流しながら、歩は拳を握りしめてマリアンデールの方へ向かった。既に現場の制圧をせんと、荷電粒子砲で飛行機をぶち抜いている機体に無理やりよじ登り、コクピットの壁をガンガンと叩き始めたのである。
「ちょっと待ってください! 船木くんが何か仕掛けている可能性がありますから、僕が安全を確認します!」
『ふざけるな、正常に動いてる‥‥っていうか、お前しっと団だろ!』
中から言った武流の声は言葉に反してやや弱い。どうやら粘着液と暖房のせいで徐々に体力、気力共に削られているのだろう。
対して、歩は驚異の執着ぶりを発揮して引こうとしなかった。
「駄目です駄目です! 船木くんを援護‥‥じゃなかった、撃ち落とすためには安全点検は欠かせません。それに、こんなデザインの機体なんて絶対あやしいですよ!」
『うるさいっ、機体から離れろ! くそ、暑い‥‥』
マリアンデールにぶんぶん振り回されている歩は、無意識ではあるが充分撹乱になっていた。
「リア充は粛清だー!」
一方、ヘンリーの辺りでは白虎が傍目にいちゃついているように見える教官に向かってピコハンを振り回していた。
「総帥! 今回ばかりは総帥と言えども、ぶっ飛ばすよ!」
果敢に応戦に出た零音に白虎は飛行機をぶん投げる。
「ヘンリー先公!! リア充行為したらどうなるか思い知りやがれえええぇぇーーー!!!」
その脇からガル・ゼーガイア(
gc1478)が突進してきた。竜の翼で一気に近づいた後、ヘンリーのズボンを引っつかんで思いっきりずり下ろしたのである。
詳しいことは蔵倫が面倒なので割愛するが、アラサーの男性とは思えない醜態を晒したヘンリーであるが、反応は周りの女子の方がすごかった。
「きゃ―――――――――――! ヘンリー先生のパンツーッ!」
またもや激写した零音は相変わらずとして、偶然その場に居合わせたヤエルがみるみる青ざめる。
「教官! それだって立派なセクハラだよ!」
「待てっ、俺は悪くn‥‥!」
言う暇を与えず、鉄扇でヘンリーをぶん殴ったヤエルである。
「へへへ、成功だぜ!」
作戦成功、と高らかに宣言したガルは続いて手近な女子のスカートをめくろうとした。
だが――、
「お兄ちゃん、大好き!」
突然脇からガルに抱きついた諌山美雲(
gb5758)はどう考えてもガルより年上に見える。
抱きつかれたガルはまんざらでもない様子だが、ノリノリで反応した。
「そう言う悪い人妻はお仕置きだ!! うりゃ!!!」
そう言って、遠慮無く人妻のスカートを捲る。チェック柄の可愛らしいパンツが男子諸君にお披露目された。
「お兄ちゃんのエッチっ!」
可愛らしく言ってみた美雲だったが、乙女桜の鞘を振り下ろし、問答無用でガルを叩き潰しにかかった。
「ちょ、ま‥‥俺達仲間だろおおおおおおおおおっ!」
断末魔の悲鳴を上げながらも、ガルは近くの女子に縋りついた。
掴んでみて、彼は完全に固まった。
「んと、きょうはぱんちゅじゃなくて水着きてるから、めくれない」
粘着液にまみれたのか、既に制服を脱ぎ捨てて水着姿になっていた舞 冥華(
gb4521)は、掴まれた水着部分を無表情に見下ろしていた。詳しくはやはり蔵倫なので省略するが、ガルの人生最大のめくり方だったとだけ記しておく。
「べおうるふはだめー‥‥だから、みねうちでゆるすー」
事前に白虎に懐柔(?)されていたためか、素直にしっと団に協力している冥華は、ベオウルフを返し、ガルの頭部を思いっきり殴った。続いて、防御の暇も与えずに、竜の咆哮で彼をふっ飛ばしたのである。
「なんでいっつもこうなんだよおおおおおおおおおっ!!」
ガルは青空に向けて吹っ飛んだ。大丈夫、その内帰ってくるはずだ。
その様子を見ていた白虎は、このまま冥華が見境なく攻撃するのではないかと不安になった。あれこれと説明して、最後に彼はこう付け加えた。
「という訳でリボンをつけてやる、頭こっちに向けろ」
かくして、幼馴染のリボンを装備させられた冥華は、ぬるぬるになった男子生徒を重点的に粛清し始めたのだった。
「白虎さん、いちゃいちゃしてるんですか?」
背後から美雲に言われて、思いっきり白虎は固まった。毎度のことだが、粛清する側の彼もまた、立派な粛清対象なのである。
「そそそんなことはないぞ!」
「ん? しゅくせー?」
「違あああああああああうっ!」
並々ならぬ殺気を感じながら、白虎は半壊の船木機の方へ走りだした。
「はーい涼しい校舎はこちらです。あまり焦らないでくださいねー」
一方、唯一しっと団の中で生徒誘導をしていた和泉 恭也(
gc3978)は、粘着液にまみれた生徒達へタオルを配っていた。
聞けば、船木くんは姉妹にいじられた腹いせに学園を襲撃しているらしい。姉妹がいるだけでも良いじゃないか、と恭也はぶつぶつと呟いている。
「ええい、それは両親に勘当されて妹に会えない自分へのあてつけですか!」
真っ先に家族に連絡を取ろうと試みた恭也だったが、生憎家はには誰もいなかったらしく、連絡は取れないでいた。彼女たちに出向いて貰うのは一番早かったのだが、なかなか上手くいかないものである。
「それにしても‥‥団長殿が頑張っているのに、船木くんの機体は半死状態ですね‥‥」
明らかに序盤より高度の下がっているグリフォンを見つつ、恭也は追加のタオルと取りに向かった。
●暴走、カオス、そして撃破
『もう我慢できねぇ! 全力でぶっ飛ばす!』
マリアンデールの罠に堪忍袋の緒が切れた武流の声がグラウンドに響き渡った。
それはすなわち、グラウンド全体に無差別攻撃をしかけるということと同義でもあった。
「やべぇ、マリアンデールっぽいものが切れた!」
「逃げろ――――――――っ!」
「ぎゃ―――――――――――っ!」
地獄絵図に筆を足したようになったグラウンドの惨状は筆舌には尽くしがたい。
だが、そんな過酷な状況の中にあっても、マリアンデールに狙いを定めた傭兵達が奮闘していた。
「引きずり出そうとする奴らがいるのか‥‥? ふむ。援護位はさせてもらおう」
屋上では、ヘイルが銃を構え、グリフォンの翼を撃ち続けていた。近寄るのは未だ危険ではあるが、当初に比べるとこうした努力が実を結んだのか、大分墜ちやすくはなったはずだ。
「ああ‥‥AUKVの関節に!」
グラウンドでは、新を始めとする一部のとても真面目な面々がグリフォンと模型飛行機の処理の最終段階に入っていた。
AU−KVの動きの鈍った新は顔を顰めながらも和槍で飛行機を貫いていく。
「全く、何という‥‥呆れてものも言えませんよ、船木くん!」
吼えた新は和槍を投げて飛行機をまとめて穿つ。
「高速機動型砲台、ってところか」
別方向では、ネオが飛行機の残党を手早く叩き落としていた。彼らのおかげで、グラウンドには殆ど模型飛行機がなくなったのである。
「あとはあのグリフォン‥‥のようなものだけか。船木くん‥‥何故あれでまだ飛べているんだ」
そのネオの疑問は報告官も非常に同意である。ブースターを失い、関節部を失い、どうしてそれでまた浮いていられるのか。
「けどまぁ、大分堕ちてきたな」
この時を待ちくたびれていたレインウォーカーが腕を鳴らしながらグラウンドの中心部まできた。
しかし、ここでもしっと団は驚異のふんばりを見せる。
いつの間にかグリフォンに乗っている白虎が、レインウォーカー目がけて墨汁入りの水鉄砲で攻撃してきたのである。
「しっと団は、船木くんを、応援する!」
「この‥‥狙う相手が違うだろうがぁ!」
高速起動で回避したレインウォーカーは再びワイヤーでグリフォンに取りつくと、乗っかっていた白虎に遠慮無くライダーキックを食らわせたのである。
「ぐはっ‥‥何の、まだまだ、しっと団は不滅だ!」
まともに食らった白虎はグリフォンから落下しかけたが、何とか踏みとどまった。
これで邪魔をするものがいなくなったのかと言えばそうでもなく、グラウンドでは相変わらず一部の反乱分子がスカートめくりだの何だので暴れているのだ。
そこへ、一台のバイクが突っ込んできた。
「一気にぶち壊してやるぜ!」
「ああ! ――今だ麻姫ちゃん! やっちまえ!」
涼のバイクを蹴ってグリフォンに飛びついたのは麻姫である。炎剣を振り回して、グリフォンの頭部にある砲台を切り落としたのだ。
これで厄介な熱風は吹きつけられまい。
「船木くん! 逃げろ、このままでは死ぬ!」
最後まであがく白虎はコクピットを叩いて船木くんを逃がそうと試みる。
『させるか! 落とし前はしっかりつけさせて貰うぞ!』
ここで本気を出したのがマリアンデールに乗った武流である。最早暑さと粘っこさで瀕死の体であるが、最後の一撃を放つ力くらいは残っているらしい。
危険を察知した麻姫とレインウォーカーがグリフォンから降りたが、白虎だけは船木くんをコクピットから出すと、彼を近くの林めがけて背中を押した。
「我々しっと団は、いつでも君の訪問を歓迎すr――」
言い終えるより早く、掃射モードに入ったマリアンデールから荷電粒子砲が飛んでくる。
「にゃあああああああああああああああ!!」
船木くんを逃がした白虎は、グリフォンと共にお星様になった。
●事後処理
「あー‥‥暑かったですねぇ‥‥こんなのは二度とごめんですよ」
傍観に徹していた零次は扇嵐で仰ぐのをやめて、冷気の戻りつつあるグラウンドの惨状を見渡して肩を竦めた。
何はともあれ、船木くんは逃がしてしまったが、平和は戻ってきた‥‥はずだ。
「船木さん‥‥今回のことは、やはりご家族に報告した方が良いですよね」
船木くんの逃げて行った方向を見やりながら、恭也は余ったタオルを抱えたまま溜息をついた。
普通の家庭なら、彼の所業を聞けば烈火のごとく怒るだろうが、生憎あの船木くんの家族だ。狂喜乱舞したって驚かないが、きっとまともな反応を返してくれると信じたい。
「それにしても‥‥彼も悩みがあるなら、自分達に話して欲しいものです」
でないとまた、この大事な時期に暴走しそうだ。
それを思うにつけ、恭也は再び深い息を吐いた。
「ふむ‥‥やはり、あのデザインは没、だな」
学園内から一部始終を見守っていたUNKNOWNマリアンデールを見つめて息を吐いた。色々と属性を詰め過ぎたか。
そのマリアンデールの持ち主であるヘンリーは、零音からタオルを受け取りながら彼女と二人で歩いていた。
「ああああの先生‥‥もう少し、隣にいてもいいですか?」
「俺、かなりネバネバしてるぜ?」
「良いんですっ!」
「そうかぁ? んじゃあ、好きに――」
傍にいろよ、と言いかけたヘンリーだったが、変わり果てた愛機を見た瞬間にタオルを落とし、その場で膝を折った。
「お‥‥俺のマリアンデールがあああああああああああっ!!」
男泣きに泣くヘンリーの背中が、非常に印象的であった。
「あー、仕事の後のシャワーは良いですねー‥‥」
ユーリーはシャワー室から上がると濡れた髪をタオルでよく拭きとった。
「シャワー室を覗くつもりだったの? 覚悟はいいよネ?」
隣では、何故か女子シャワー室に乱入した男子生徒の頭を踏みつけているヤエルの姿があった。そう、しっと団の暴動に便乗して、不埒な連中がシャワー室を覗き見ようとしていたのである。
「不埒を働く者には鉄槌を!」
ハリセンとピコハンで男子生徒をぼこぼこにしているのはエイミーである。その後ろでは、やはり猫を被ったラサがいる。
「お、おれたちはしっとd‥‥」
「しっとが怖くてカンパネラ学園生やってられるカー」
猫は被りも、生徒の顔面を踏んづけたラサである。そのまま、どこからともなくガリガリアイスを出して、大好きなエイミーに差し出した。
「風呂上りはアイスですヨ」
「うん。頂こう」
やはりどこでもいちゃいちゃである。
「船木さんにお兄ちゃんって言ってあげたかったのに‥‥」
しょぼんとしてシャワーを浴びる美雲にも、男子生徒の魔の手は迫っていた。
「お姉さーん! 胸みーせ‥‥あれ、貧ny――」
「何か言いましたか?」
問答無用で胸倉を掴み、顔面をどついた美雲である。胸のことならは音速で反応できそうな勢いであった。顔は笑っているのだから余計怖い。
こうして、事後のシャワー室でも一悶着あったようだが、無事カンパネラ学園に平和が戻りつつあるようである。
余談だが、謀反を起こしたしっと団の男性諸君は厳しく粛清されたらしい。これからまだ大きな仕事が残っているというのに、大丈夫なのだろうか。
ともあれ、大規模作戦発令中に起こった学園珍事は、良くも悪くも混沌としたまま幕を閉じたのであった。
了