タイトル:【GR】霞むペルセウスマスター:冬野泉水

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/27 20:03

●オープニング本文


●GR鉄道計画
 その計画は、カンパネラ学園の関係者を集め、チューレ基地跡を利用する形で、行われる事になった。
 残骸と化した基地は、言い換えれば資材の宝庫でもある。そして、上手い具合に空いた土地を放って置くのも勿体無いだろうと言う事で、話はまとまっていた。
 しかし、かの地にはまだ、敵も多い。
 莫大な資金のかかる事業に、極北と言う観点から工事を請け負ったのは、かつてシベリアに鉄道を通したプチロフ。
 その代表マルスコイ・ボーブルは、作業員達の安全確保を、その条件に求めた。
 さもありなんと頷いた学園側の総責任者は、ウォルター・マクスウェル卿。
 加えて、会長でもある龍堂院聖那、技術部門の責任者はキャスター・プロイセン准将と、それぞれの関係者が、それぞれの役目を持って、再び極北の地へと赴く事になる。

 グリーンランドに鉄道を。

 基地を作り、街を作り、それを結ぶ。絆と‥‥共に。

●建設開始
 前回ウォルター卿が提案した『スクウェア・プラン』は傭兵達の尽力により、予想以上の戦果を上げることができた。そのため、三度に分けての作戦遂行の必要性は薄れ、予定を大幅に前倒しする形でチューレ基地跡に研究所建設が急ピッチで開始されることになったのである。
 ところが、これを狙ったかのように新たな問題が発生した。
 研究所建設予定地のキメラはほぼ掃討されたわけだが、空は殆ど手付かずと言って良い状態だったのだ。
「研究所の建設途中に空からの襲撃、ですか‥‥」
「いかにも。カーレッジ君、その迎撃を頼みたいのだが」
「勿論です。マクスウェル先生」
 モニタの前で背筋を伸ばしたティグレス・カーレッジ(gz0098)は使命感に静かに燃えていた。
 今回の作戦をもって、スクウェア・プランは暫定的に終了する。暫定的、というのは卿曰く、
「その内襲撃された際に、作戦名で悩まんで済むだろう?」
 という、どうでも良い理由からである。
「ただ、カーレッジ君。今回は、空に上がることを禁止する」
「そ、空からの襲撃ではないのですか‥‥?」
 面食らったティグレスに卿は穏やかな表情を崩すことなく続けた。
「空中で交戦されると、流れ弾が地上に落ちた際にフォローできんからな。KV自体が、建設現場の盾となり、地上から上空の敵を殲滅してもらいたい」
「は、はぁ‥‥」
 あまり経験のない状況だが、卿が言うのだからこれが最善の策なのだろう。もとより、ティグレスに反対する権限は用意されていないのだ。
「‥‥ああ、それと、カーレッジ君。私はこれからティータイムゆえ、今後の指示は大尉に仰ぎたまえ」
「え‥‥せ、先生!?」
 ティグレスが聞き返すより早く、一方的に通信を切った卿である。
 そこまでして紅茶が飲みたいのか、と内心思わずにはいられなかったティグレスだが、通信が切れると同時に一人の女性士官が入ってきた。
「貴様がティグレス・カーレッジだな。マクスウェル准将の代理で来た、シャルロット・エーリク大尉だ」
 敬礼した女性をティグレスはまじまじと見下ろした。
 物腰がとてつもなく尊大なのだが、ずいぶんと小さい女性である。25cmも違えば当然なのだが。
 じっと見下ろされている大尉は、翡翠の瞳を煌めかせて副会長を見上げた。
「何だ。何か文句はあるのか?」
「いえ‥‥」
 慌てて敬礼を返したティグレスである。逆らったら殺される――と本能的に判断する彼は伊達に聖那と組んでいたわけではないようだ。女性特有の威圧感が分かってしまうのも考えものである。
 そんな彼の内心はお構いなしに、ふぅ、と息を吐いた大尉は腰に手を当てて、ぐいっと彼を見上げて堂々と言い放った。
「私は最前線で掃討にあたる。お前は自分で戦域を考えろ」
「はい――‥‥‥‥は?」
 指揮官が最前線で戦うのか、と頭に疑問が浮かんだ時には、大尉は身を翻して部屋を出ていた。
 ぽつんと残されたティグレスは、作戦も何もあったものではない指示を頭で反復しながらぼんやりと考える。
 UPC軍とは、あんな人間の集まりなのだろうか‥‥と。


 外に出て、空を見上げれば輝く星々が凍える大地を照らし出す。
 その星団の一つ、ペルセウスを霞ませるように、黒い影が押し寄せてくるのが見えた。
「ここを乗り越えれば、しばらくは安全‥‥か」
 そんなことを呟きながら、ティグレスは愛機のロジーナに搭乗した。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
水無月 紫苑(gb3978
14歳・♀・ER
九頭龍 剛蔵(gb6650
14歳・♂・GD
湊 獅子鷹(gc0233
17歳・♂・AA
エリス・ランパード(gc1229
16歳・♀・EL
黒木 敬介(gc5024
20歳・♂・PN

●リプレイ本文

 
 機体の出撃準備が整うまでの少しの間、彼らは大尉やその他の士官に挨拶だけをする‥‥はずだった。
「俺は九頭龍 剛蔵と言う。今日は宜しくな」
「よろしく頼む」
 ぴしっと敬礼した大尉に九頭龍 剛蔵(gb6650)も軽い敬礼を返した。
 剛蔵は挨拶だけ済ますと、さっさと愛機が格納されている場所へと向かっていった。
「獅子鷹くん、今回は‥‥分かっていまして?」
 意味深長なエリス・ランパード(gc1229)の微笑に湊 獅子鷹(gc0233) は固まった。
「‥‥ガ、ガンバリマス」
 それだけ言うのが精一杯だった獅子鷹は逃げるようにその場から走り去った。後を追うように、エリスも足早に部屋を出ていく。
「ねー、シャルちゃん。仕事が終わったらお茶でもどう? なんなら音楽でも聞きながらさ」
 大尉を呼び止めた鷹代 由稀(ga1601) は気さくに言った。銀髪の大尉はすぐに首を縦に振る。
「女性からの誘いとあらば」
「そう言わずに、俺ともお茶しない? 勿論、下心は無しだよ」
 柔和な笑顔を浮かべて近づいてきた 黒木 敬介(gc5024) に、大尉は露骨に怪訝そうな顔になった。
 特に気を悪くしたわけでもない敬介だが、彼が何か言う前に別の傭兵が輪に入ってくる。
「シャルロット・エーリク大尉か。今回はよろしく頼む」
 のっそりと彼女の前に歩いて来たのは、リヴァル・クロウ(gb2337) である。あまりの身長差に、大尉が自然と上を向く形になった。
「こちらこそよろしく頼む。お前は‥‥」
「俺はリヴァr――」
 何となく名乗ろうとした瞬間だった。
 大柄の青年が綺麗に水拭きされた床につるりと前のめりに滑ったのである。
 その場にいた士官達がびくっとする程の大きな音が響いた。
「す、すま‥‥」
「――――っ!?」
 謝って起き上がろうとしたリヴァルの下から言葉にならない声が漏れた。
 その声で、彼はようやく自分の手がどこにあるか自覚した。
 すらりと伸びた足を這うように、深く刻まれたスリットの中へと無意識に手を伸ばしていたリヴァルの掌は、肉感の良い彼女の柔らかな太腿に触れていた。
 黒手袋ごしなのが幸いなのか、逆にいかがわしいのか分かったものではない。
「あーっ。リヴァルさいてー」
 実に面白そうに水無月 紫苑(gb3978)が言った。言うだけ言って、勿論助けない。
「リヴァル‥‥お前‥‥」
 何とも言えない顔で仲間を凝視する須佐 武流(ga1461)は呆れて言葉もない。
「ち、違う。これは事故だ、事故だ‥‥っ」
 慌てて起き上がろうとするリヴァルより、『彼』の方が早かった。
 それまでただ状況を見守っているだけだったティグレスが凄まじい勢いで立ち上がったのだ。
 
「は‥‥破廉恥なのはいけないと思うっ!!!」

 初な怒れる副会長は、誰よりも顔を真っ赤に染めていたとかいなかったとか。



 出撃前は遊んでいるかのようだった傭兵達も、一歩戦域に出ればその雰囲気を変える。
「研究所には別にきょーみないけど、この数は撃ち落としがいありそうだね」
 愛機の操縦席で敵数をざっと視認した紫苑はペアを組む敬介の機体へ視線を移した。西側の迎撃に出ているのは自分と彼だけだが、戦力的には問題ない。
「敬介。準備は?」
「いつでもどうぞ」
「りょーかい。じゃ、近いのはある程度任せちゃうからよろしくー」
 特に何を守るという意思を持つわけでもなく軽口を叩く敬介にあっさり返事をして、紫苑は操縦桿を倒した。スピリット・ゴーストの灰色の機体から伸びる砲口が、押し寄せてくるキメラ群に向く。
「近づく暇なんて与えないよ。落ちなッ!」
 ファルコンスナイプBを起動させた紫苑は、そのままこちらへ進軍してくる敵の群れへ4連キャノン砲を斉射した。一撃で墜ちることは無いが、それでも威力は十分である。
「ほらほら、迷ってたら良い的だよッ!」
 初手の一撃が予想以上だったのか、それとも敵が複数機いると思ったのか、逡巡した動きを見せたキメラに向けって紫苑はガトリング砲を連射した。被弾したキメラの爆発で、赤い火花と夜空が灰色の煙に包まれていく。
「やれやれ‥‥可愛い顔して過激だなあ」
 苦笑して肩を竦めた敬介もただ傍観していたわけではない。遠距離攻撃に特化する紫苑に変わって、彼はその機動力をもって前線近くに切り込んだ。僚機の近くを漂うように移動していたキメラをレーザーバルカンで撃ちぬく。
 ばらばらと鉄の破片のようなものが降り注ぐ。それらもろとも撃ち落としながら敬介はレーザーバルカンで紫苑同様、より近くに弾幕を形成した。
「敵の作戦は大体予想がつくし、数もそう多くない。とはいえ、油断は禁物だけどさ」
 戦闘においては比較的真面目な敬介に、からかうように紫苑が答える。
「油断するほど手を抜いてやる価値もないってねー」
 やや遠めに位置していたHWを撃ち取った紫苑の視界の端にキメラが走る。
「逃さないって!」
 小回りが利かないと思われたのか、側面に回りこまれた紫苑だがファランクスで応戦する。火力の差は歴然で、面白いくらいにキメラが墜ちていった。
「下手やって報酬減るのはやだしねー」
「ちぇ、これじゃ俺の出番が無いね」
 そう呟いた敬介だが、彼も相当数は撃墜しているのだ。特に西側戦域のHWの多くは彼が落としていると言っても過言ではなかった。
「さて、お姫様の方は大丈夫かな?」
 プラズマリボルバーで最後のHWを撃ち落とした敬介は、爆撃音とは異なる爆音響く南側を見やって息を吐いた。


 時はやや戻り、北側にやや近い地点――ここからは、夜空に浮かぶペルセウスは比較的鮮やかに見えていた。
「任された以上、仕事はキッチリこなしてみせる。‥‥それが狙撃手のプライドってモンよ」
 唯一襲撃手として配置されていた由稀はコクピットの中で深呼吸した。
 既に敵は迫っているが、彼女が敢えて北側を出撃地点に選んだのには訳があった。その予感は、後にあたることとなるのだが‥‥。
「ジェイナス、目標を狙い撃つ!」
 モスグリーンとホワイトのガンスリンガーが戦場に勇壮と立ち上がった。由稀は操縦桿の代わりにライフル型のコントローラーに指をかける。
 刹那、最前線を疾走していたHWが爆炎を上げて雪原に墜ちたのである。ラバグルートをHWに叩き込んだ由稀は小さく息を吐くと、更に射程一杯からキメラを撃ち落とす。
 それが合図でもあり、作戦の綻びでもあった。
「突っ込むぞ!」
 それまでピアッシングキャノンで敵を迎撃していた武流が動いた。生身の場合もそうだが、近接戦を得意とする彼は敵軍に単機突撃をかけたのである。勿論、武流本人の実力は申し分ないし、機体の性能も十分だ。接近されたキメラやHWに対抗の術はないだろう。
 M−SG9で機先を制した武流の剣翼がHWを直撃する。その身を刻まれた残骸が無残にも地上へと散っていった。
「空を飛ぶ奴には弾幕射撃が効果的というかいな」
 更に、剛蔵の対空砲が敵を追撃する。かろうじて武流の攻撃を躱したキメラの一部が、砲撃に巻き込まれて爆発を起こした。
「こんなもので終わりと違うで。俺の武器はまだあるんや」
 剛蔵の機体は宇宙用のものではあったが、地上でも問題なく性能を発揮する。換装した二機の連装機関銃を構えた彼は、そのまま武流が突っ込んだ地点へと弾幕を形成した。当然友軍の位置は確認して、だが。
 しかし、連装機関砲とバルカンを撃ち尽くす方針の剛蔵と、それらの弾幕をかいくぐりながら攻撃を続けなければならない武流のペアは、ひどく力押しでもあった。いや、むしろ、お互いの射撃精度、操縦技術の見積もりが甘かったのである。
「ち‥‥っ!」
 急旋回をかけて剛蔵の砲撃を躱した武流は覚えず舌打ちした。フレンドリー・ファイアだけは己の矜持にかけても回避したいところである。
「何をしてる! ったく‥‥」
 咥えタバコを噛んだ由稀は射線を大きく右へ逸した。脇から武流機に奇襲を仕掛けようとするキメラをプラズマライフルで撃ち落とす。
 友軍同士の撃ち合いを心配した由稀だが、この状態で何故か肝心な所の連携は取れているのだから不思議でもある。研究所への被害もないどころか、敵を全く寄せ付けないのは流石ではあるのだが。
「これじゃ、北からは離れられないわ‥‥」
 溜息をついた由稀は一度紫煙を吐き出すと、不安定な戦域に腰を据えて砲撃を再開した。 


 南側はHWが最も多い地点ではあるが、最前線突撃思考の人間が二人もいるせいで意外と早く片がついたのである。
「シャルロット機は右翼、ティグレス機は左翼を頼む。センターは俺が」
 言いかけたリヴァルの機内に、突如爆音が響いた。思わず片耳を塞いだリヴァルである。
「聞こえているか、シャルロット」
「変態助平の指示は聞かん」
 非常に理不尽だ。
「‥‥鷹代。フォローを頼みたいのだが」
「こっちは北側の処理で手一杯だわ。制圧次第向かう!」
 やや逼迫した由稀の声が返ってくる。
 思ったより厄介な状況になったとリヴァルが冷静に考えている間に、友軍二機はとっとと建設現場近くのキメラに飛びかかっていた。
「猛獣なのだろうか、彼らは‥‥」
 とはいえ、動かないわけにもいかない。リヴァルはブラックベースのシュテルンを駆ると、すぐさま彼らと同じ戦線まで復帰した。マルコキアスを構え、突撃してくるHWを中心に片っ端から叩き落す。
「ティグレス。戦線の維持が困難ならばすぐに言うように」
「了解です」
 律儀に敬語で返す元副会長は機体戦闘に慣れていないながら基本に忠実だが、大尉は単に大暴れしているだけなので隙も大きい。必然的にリヴァルがフォローすべき死角も少なくはなかった。
 いやそれ以上に、この状況でジャズは無いだろう。
 それでも二人はリヴァルの指示を適確にこなしていたため、彼はHWの処理に専念できた。
 大尉を包囲しようとしていたHW群を撃ち飛ばしたリヴァル機の脇を、一本の砲撃線が走ったのはその時だった。
「鷹代かっ」
「待たせたわね。援護するわよ」
 ブーストジャンプという荒業を駆使して正反対側への射撃を行った由稀の声に先ほどの緊張は感じられない。
 どうやら北側も粗方片付いたようだった。


 それは八つ当たりという名の名誉挽回であった。
「おーおー随分居るねえ‥‥八つ当たりだ潰す!」
 これ以上エリスに無謀な姿を見せられない。彼女に怒られる方が怪我をすることの何倍も怖い。
 そのことを骨身に染みて覚えている獅子鷹は奮闘した。初手でキメラが固まっている地点へ向けて種子島を放った。高出力レーザー砲である、耐久力の低いキメラはまとめて吹き飛んだ。
「行くぜ!」
 間髪入れずに獅子鷹が対空弾幕を張ると同時にエリス機が動いた。
「さぁ、Shall we dance?」
 DFスナイピングシュートを起動し、マルコキアスを担いだ彼女のガンスリンガーが敵勢へ向けて一斉掃射を始める。長距離攻撃に長けた機体だ、そう易々とこの戦線は突破できまい。
 遠距離からの射撃が厄介と思ったのか、HWがエリスを囲みに動き始める。それらを予想していた彼女は、巧みに動きまわって獅子鷹の乗るシコンへと敵を誘導してみせた。
「殿方を立てるのも、レディの勤めですわね」
 華のような微笑と共に敵軍を引き受けた獅子鷹はスラスターライフルを構えた。既に敵軍は地表付近まで降りてきている。
「無駄だ! 貴様らの牙は彼らには届かん!」
 本格的に地上攻撃が始まる前に、獅子鷹はツングースカでキメラを撃ち落とす。
 だが、やや開きかけた両者の間に墜ちかけのHWが入り込んだ瞬間だった。
「――っ、させるかよ!」
 脊椎反射で超伝導AECを起動させた獅子鷹は急加速でエリス機の前に戻り、機刀でそれを斬り伏せたのである。防御までは流石に間に合わず、鈍い衝撃がコクピットに響く。
「獅子鷹くんっ」
「だ、大丈夫‥‥だ」
(また怒られるの分かってるのにやっちまった‥‥)
 内心項垂れた獅子鷹だが、心を許した存在であるエリスに被害が出るほうが彼にとっては余程怖いことなのだ。そのことに対してだけは、一人ほっと胸を撫で下ろす。
 仲間の被弾を目の当たりにしたエリスとて、黙ってはいなかった。すぐさま追撃に出たHWとキメラにマルコキアスを向けると、殺気を含んだ笑みを浮かべて言い放った。
「‥‥この一撃は、痛くってよ?」
 刹那、放たれた砲撃に次々と敵軍が砕け散っていく。即座にレーザーライフルに持ち替えた彼女は、間を置かずにそれをも斉射した。
 真っ暗な夜空に橙色の爆炎が上がり続け、しばらくして砲撃の音も、不気味な敵の移動音も聞こえなくなっていた。



 戦闘を終えた彼らは帰還準備を始めていた。
「ふぅ‥‥モニター視してたから目が痛いやんか」
「研究所にも作業員にも被害はないようで、感謝している」
 肩を回した剛蔵達に、やや疲れた表情のティグレスは言った。
「特に無いのであればさっさと帰らせてもらうぞ。面倒を押し付けられても困るのでな、大尉?」
 危うく同士討ちを始めてしまいそうだった武流は憮然としていたが、特に悪態をつくこともなかったのは歴戦の経験のなせることなのだろう。
 事情を報告されていた大尉は頷いた。
「お疲れだったな。くれぐれも命は大事にしろ」
 お前が言うなと言いかけて、何とか踏みとどまった武流であった。
 そして非常にぎこちなくリヴァルが近づいて来ると大尉は背伸びをし、問答無用で彼を張り飛ばした。彼の眼鏡が吹っ飛ぶ。
「あ。殴られてやんのー」
 ちょっとびっくりした紫苑が言う。だが最初同様、止めに入ることはしないようだ。
「す、すまない‥‥」
「黙ってそこに直れ!」
「まーまー」
 返す言葉のないリヴァルと大尉の間に敬介がにこやかに割り込んだ。
 むすっとした大尉に、彼は続けて言葉を添える。
「それにしても、大尉さんは豪快だ。俺、そういう気持ち良い戦い方の人、好きよ」
「‥‥褒め言葉として受け取っておく」
「あ、そうそう。シャルちゃん。お茶の日程だけど‥‥」
 さりげなく話題を変えた由稀が大尉を連れて部屋の隅へと移動する。ラッキースケベの顔面崩壊は仲間のナイスアシストで阻止されたわけだ。
 一方で、エリスは獅子鷹の前で仁王立ちになっていた。彼は彼女の前に正座してぶるぶる震えている。
「スイマセン‥‥マジスイマセン」
「‥‥まぁ今回は作戦も成功ですし、軽くで済ましてあげても良いですわよ?」
 にこっと微笑んだエリスだが、やはり許すつもりはあんまり無いらしい。
 滔々と獅子鷹に対するお説教が始まる。
 ただひたすらエリスの言葉を受け止めながら、獅子鷹は内心安堵していた。
(久々に今日はよく寝られるな)
 不安も後悔もない夜が、久々に待ち遠しかった。

 傭兵達の活躍により、グリーンランドの主要地域の一つが解放された。
 宇宙へと繋がる北の中心地点――プチロフ社の大きな実験場を兼ねた研究所の完成は、目前まで迫っていた。