●リプレイ本文
「ご協力ありがとうございます、どうぞこちらへ」
担当官はまず礼を述べてから彼らを招き入れた。
その部屋をみて彼らは唖然とした。部屋の中は見渡す限りの紙、紙、紙であった。
「サーバー上のデータなんてものは簡単に書き換えられてしまいます。 常日頃は紙情報なんて資源の無駄遣いなんて思いますが、今は宝の山に見えますよ」
紙の山を見つめながら担当官がつぶやく。
「私がおかしい、と思い始めたのは1月ほど前からです」
担当官の説明によると、納入される物資の量と貯蔵されている物資の量が合わないとのことであった。当然のことながら搬出される量もあっていない。
しかしデータ上では誤差がないのである。全てが正常に出入りした形になっているのである。2ヵ月ほどさかのぼって確認調査をしてみても同じであった。
そこから担当官が気付いたことはおそらくデータが改ざんされている、ということである。そのために山のような紙の情報を引っ張り出し、バックアップを隅々まで確認するという行為に出たのである。
「もう少しで解析が終わるのです、ご協力をお願いします」
●解析
須佐 武流(
ga1461)と緋室 神音(
ga3576)は膨大な資料とまさに格闘していた。膨大な量の紙情報とデータベースを比較し確認し、そして誤差を矛盾点を抜き出していく。担当官と3人がかりとはいえなかなか作業ははかどらない。
どれだけの時間が過ぎたであろうか。外を見れば日も傾きかけた時間であったが3人はある程度の予測をつけた結果を出していた。
武流がまず物資の量に気付いた。主に数量が合わない物資は食料、武器弾薬、そして衣類の順であった。特にその中でも食料物資の数量が異常なまでの誤差を出していた。その上、奇妙なまでに一定の期間をおいて誤差が発生している。巧妙なまでに仕組まれ、組み合わされた数字のトリックであろう。
「物資の横流しか。 まぁ、良くある話ではあるが人の物を勝手に持っていくのは感心できないな」
解析結果を見ながらつい武流はこぼしてしまった。
神音が気付いたことは物資の搬送に関してであった。武流の割り出したデータを基に各ゲートの通過記録、ヘリポートの離着陸の記録を照合し検討した結果であった。そこから想像できることはかなり悪質な事例であった。
「皆のお金を何だと思っているのかしら」
神音がこぼすのも無理は無い。この結果から導き出されたものは定期的な横流しという実態、そしておそらく特定の人物によって行なわれているであろうことである。だが逆に言えば、次の犯行日時も想定しやすいと言えた。そう次の犯行が近日中であることをその資料は教えていた。
「次の横流しは絶対に阻止しましょう。 ご協力をお願いします」
担当官は解析された資料を力強く握り締める。
データベースの画面上には数人の人物が映し出されていた、おそらく容疑者と思われる人物たちである。
そのデータを武流と神音は他の2人に連絡と一緒に送信する。彼らが容疑者達を発見しやすいように、そしてより注意するように。
●聞き込み
正面ゲート、そこは多くの人々と車両が行き違うところ。周防 誠(
ga7131)はその正面ゲート付近に立っていた、手には担当官から渡された特別許可証がある。意味も無く立っているのではない、聞き込みに回っていたのであった。この施設の出入り口は3つ、正面ゲート、裏ゲート、ヘリポートである。 手始めに正面ゲートに来てみたわけだがなかなかの交通量である。
「さて、どこから行けばいいものやら‥」
手始めに誠が向かったのは正面ゲートの守衛所であった。出入りする者は必ず1度は通らなければならない場所である、情報収集にはもってこいのところだ。
守衛の老人はなかなかに気さくな人物であった。誠の問いかけにぺらぺらと答える。
老人が言うにはこの2ヵ月ほど前から施設を出入りするようになった搬入業者の人員のガラが非常に悪い、ということであった。
2ヵ月という数字はたしかに一致する。しかしそれだけでその業者を疑ってもようにだろうか、誠は一瞬かんがえた。しかしその考えはすぐに捨てることとなった。
送られたきた容疑者のリストにその業者がのっていたからである。
●ヘリポートにて
ダイゴ・イザナミ(
ga9016)はヘリポートでその情報を受け取った。そして何たる偶然かその業者の輸送ヘリが目の前に下りてくるところであった。即座に他のメンバーに
連絡を入れる。ダイゴは他のメンバーがこちらに向かうとの連絡を受けるとそのまま、見張りに付く。
だが到着する前に犯人達が犯行を済ませてしまったら見張っている意味が無い。業者の人数もそれなりにいる。勝つ自信は無いわけではないが相手も武装しているであろう、弱気なわけではないが万が一ということもある。どうにか足止めする方法は無いものか‥。
「爆破予告!? ヘリに爆発物が仕掛けられてるって言うのか?」
ダイゴにそう告げられ整備員は目を丸くして驚いていた。
当然のことながらこの報告は嘘である、しかし足止めをする効果はあるはずである。目の前にいる整備員がそれを証明しているのだから。
整備員達は慌てて各機の調査を始める。5〜6台のヘリが現在ヘリポートに止まっている。これを調査するのだ十分に時間は稼げるはずである。ヘリの確認作業が半分ほど終わった頃には全員集合することができたのである。
●突入!
奴らは彼らの目の前で物資を運び出していた。担当官が搬出予定を確認しているが予定に無い物資がかなり積み込まれているようである。施設内の協力者と見られ容疑をかけられている軍人達も数人見受けられる。先ほど施設への入退状況を調べたところ、容疑者の多くは施設内にいるようであった。
「ここは一気に行きましょう! 一網打尽にしてやるのです」
情報部や査察部の捜査官も呼び寄せていた担当官は力強く宣言する。数の上ではこちらのほうが確実に上になっている。
そして数分後一斉摘発が開始された。
対応、反応の鈍い容疑者達は即座に捕縛逮捕されるに至った。
だが中には鋭い反応を示すものもいる。突入を潜り抜け素早く逃走に転じていた。しかしそこまでであった。
なぜならばその前に傭兵達が立ちはだかったからであった。
「俺に速さで勝てると思ったのか?」
「夢幻の如く、血桜と散れ――剣技・桜花幻影!」
「逃がさないよ」
「おっと、それまでじゃい」
あるものは目にも止まらぬスピードで捕らえられ、あるものは足を打ちぬかれ、あるものは組み伏せられた。時間にして数時間の出来事であった。
●最後の捕縛劇
逮捕された容疑者の尋問が情報部及び観察部で直後に行なわれた。軍関係者の、特に軍人への処罰は苛烈を極めるであろうことは予想できた。
結果的に今回の逮捕劇では6人の軍人と11人の軍関係者が逮捕されることとなった。この結果から明白なことは例の搬入業者の営業停止、そしてそこから浮かび上がる腐敗の大本の処罰であった。
そして担当官は1つの重大決心を迫られることとなる。
そう上役、つまり軍隊においてはご法度ともいえる上官の告発であった。
「私は後悔していませんよ」
そう力強く担当官は傭兵達に語った。どのような結果になるにせよ、彼はもう軍隊という組織に籍を置くことはできなくなるであろう。
「ご協力、ありがとうございました。 あなた達がいなかったら解決することなんかできなかった。 本当にありがとうございました」
力強く語る彼の顔にはある種の達成感が浮かんでいた。