●リプレイ本文
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出撃前〜
「実は‥‥」
ブリーフィング終了後、配布された資料とは違うモノを傭兵達に見せる士官。
どうやら良心の呵責が彼をそうさせたようだ。
それを読む傭兵達。
「‥‥情報提供に感謝だ。 その情報がなければ、万が一の際に引き金を引く手が鈍ったかもしれない。姿形がどうであれ、殲滅対象が無辜の民ではないと認識できていれば、余分な感情を交えなくて済むからな」
(何故、情報開示をきちんと行わない?‥‥)
そう、答えたのは榊 兵衛(
ga0388)だ。榊にとっては強化人間による被害が予防できることに越したことがないと考えていた。
「だからどうした? である」
良心の呵責に耐えかねて真実を告げに来た士官に対しても眉ひとつ動かず冷ややかに言ったのは美紅・ラング(
gb9880)だ。
どれだけ一般人に見えるようでも強化人間でかつバグアにくみする物であるとしれればそれで十分と言いたげな様子であった。
「貴官は白蟻を駆除する際に、相手が兵隊アリなら殺し、働きアリなら助けるのか?」
害があるのだから排除する、ただそれだけなのだ。
「やれやれ、何を思い違いしているのです? 貴官はこのオーストラリアでの惨状を理解しているですか?」
見せに来た士官に見て言い放ったのはヨダカ(
gc2990)だ。
「内部分裂を誘う敵のやり口を知りながら敵工作員養成所を見逃せと? 相手に情をかけろと?」
更に言い放つ。
「それこそが敵の思う壺なのです。『保護』された工作員は抜け出し、このケースに尾ひれをつけて触れ回るでしょう。相手に格好のプロパガンダの材料を与える訳です、それが貴官の望みなのですか?」
最大の懸念点――敵の、バグアのプロパガンダにやられている現状、これ以上の点を稼がせてはいけない。
「この件は終了後に上へ報告させてもらうです。貴方も士官なら全体を考えるのですね」
良かれと思った士官の表情が真っ青になる。
●出撃
敵施設群――
東オーストラリアに於いて珍しく『シェルター』でないタイプの村とも言える様相を呈したのどかな田園光景。
これから起こることがまるで嘘のように、のどかな光景が繰り広げられていた。
「こっちだよー」
「あらあら‥‥うふふ」
広場で遊ぶ子供達、青空に洗濯物を干す主婦。椅子に腰掛けて談笑している老人。
一見、普通の様子に見えるが歴としたスパイ型――所謂「草」の強化人間の訓練施設で有った。
特に混迷な東オーストラリアではUPCの動向を探ったりするのに有効であった。
そんな施設に近づきつつ有るKVが11機。
傭兵達は東西南北の四方向から侵入する。
南から侵入するのは忠勝に乗った榊とラプラスを駆る秋月 祐介(
ga6378)だ。
秋月は作戦に異存は無いものの、手順を踏まれずに虐殺のような事になることを懸念していた。
北からはニェーバを操縦するリック・オルコット(
gc4548)とリヴァティーを操縦する逢坂 アカネ(
gc8985)、そしてエカテリーナ・ジェコフ(gz0490)。
「汚れ仕事やらせるなら、報酬に色付けろや」
――それがリックの正直な感想。彼にとっては汚れ仕事も慣れていたが今回の様な騙すやり方は気に入らない。
「軍の人らは強化人間に恨み辛みを重ねてるようやけど、そんなん興味ない。科せられた任務は果たして、無事に帰る。それだけや」 逢坂は淡々と金を得るための『仕事』として参加した。
「楽しそうだな――」
エカテリーナは、それは楽しそうにラスヴェートを駆る。
西からはМолния(雷)を操縦するクローカ・ルイシコフ(
gc7747)とカムパネルラを操るヨダカ(
gc2990)とUPCのKV二機だ。
「Нипуханипера」(意訳:幸運を)
と通信を入れるクローカ。
「Кчёрту!」(意訳:地獄に堕ちろ!)
と返すエカテリーナであった。一連のやり取りは一種の願掛けである。
ヨダカはロータスクィーンを起動させ、全機データリンクを行った上でログを取り機体状態のチェックを行なっていた。
最後に東からはイングロリアスバスターズIIIを操縦する美紅とマローダーを操縦するクラーク・エアハルト(
ga4961)だ。
「‥‥防御施設すらないとは」
入ってくるデータから防御施設らしきものが確認出来ない事に言葉を漏らすクラーク。
「クラーク殿、先行させてもらう」
美紅はクラークに先んじて侵攻する。
11機のKVが東西南北から敵施設へと向かう――。
●戦闘開始
北侵攻班――
リックのM−181大型榴弾砲が火を吹き教会らしき大型施設へと着弾する。
「楽な仕事ではあるがね〜‥‥報酬少ない」
榴弾によって瓦解する教会、日常が終わりを告げ戦火が始まりを告げる、そんな光景が繰り広げられる。
崩壊する教会から慌てて逃げ出す強化人間、そして、崩壊した建物の瓦礫が直撃し頭を砕き、圧し潰され臓物と血をぶち撒けるモノ。
「お母さぁぁん」
へたり込み泣き出す子供の様なモノ。転び、倒れ起き上がれない老人のようなモノ。
だが、そんなモノたちを狙うかのようにリックの150mm対戦車砲による建造物砲撃の破片が襲いかかり、骸を築き上げる。
「逢坂、初任務じゃなかったか? 気楽にいけよ」
「大丈夫やで」
逢坂がそう答えるように127mm2連装ロケット弾ランチャーからロケット弾が発射され、建物周囲へと着弾する。
其の攻撃は騒ぎにより建物を飛び出し、逃げようとするモノに当たる。爆発により、体が消し飛び手足が飛び散る。
「漏らしの無いようにな、っと」
エカテリーナのKVの150mm対戦車砲が瓦解した建物に炸裂する。更に飛び散る瓦礫が被害を、危害を与えていく。
東侵攻班――
先行していた美紅が攻撃をかける。
「ハッハー、敵は焼却消毒だ〜なのである」
砲撃によって瓦礫と化した辺りを万遍なく『焼く』。黒煙にのって敵だったモノが焼ける匂いが漂う。
が、無論KVのコックピットにはその様な匂いは届かない。
「220mmロケット、セット。照準良し」
その近くでクラークの220mmロケット弾が炸裂して建物を破壊する。
「どうして!?」
「何もしてないのに!」
悲鳴に似た声が、悲鳴そのものがあちらこちらで上がっては骸になる事で消えていく。
「話を聞くつもりはない‥‥敵だからな」
更にクラークのP−120mm対空砲の砲撃が巨大なクレータを作り、土埃と四散して敵だったものを巻き上げる。
焼け落ちる建物、呆然としている強化人間。
美紅とクラークの居る周囲は紅蓮の地獄の業火のように火が燃え盛り、辺りを焼いていく。
「助けて!」
必死の形相で命乞いをする強化人間。
「火葬の手間が省けるのである」
また一人、強化人間が美紅の火炎放射器によって黒焦げ、人の形をした炭へと変わった。
辺りは地獄の様子を呈していた。
南侵攻班――
データリングで味方機からのデータの収集に務めている秋月。後方支援という立場で積極的に攻勢に出ていない。
榊は52mm対空砲「ギアツィント」で建物を攻撃し、建屋を崩していく。
無論、対象の建屋にいた敵は倒れされる事になるが、近隣の建物からはパニックになりながら避難していく強化人間がいた。 明らかに非武装で有ることが確認できた為に榊は反撃を除いて、反撃もないが攻撃を行なっていた。
だが、そうでない人間もいた。
「七面鳥撃ちだな!」
「爺とガキは鈍いから簡単だな!」
随伴していたUPCのKV二機が路上でへたり込んだり、投降の意志のある強化人間へ攻撃を行った。
「投降者だ、情報源にもなり得る! 撃つな!」
秋月はUPCの二機のKVへ対してやめるように言うが、攻撃は止まらない。
「こうなれば‥‥」
秋月が「何か」をしようとする――が、「電子魔術師」では無理だったようだった。
「くっ‥‥」
可能であれば止めれていたはずなのに出来なかった――目の前で蹂躙される強化人間達。
「やめろ! これ以上は!」
だが、ただ見ているだけではいけない――。二機のKVへ立ち塞がるように現れ、強化人間を逃し――。
「こちらの指示に完全に従うなら、投降者には手続の保障はする。結果はこれ迄のそちらの行動と何を話せるか次第だろう」
と、投降を呼びかけるのであった。
西侵攻班――
7.65mm多連装機関砲で薙ぎ払うように制圧射撃を行いながらビームコーティングアクスで建屋を破壊し、ドーザーブレードで片していくヨダカ。
「ひぃぃい! 助けて!」
無論、命乞いをするのもいるが――。
「そうやって助けを乞うた人間を、お前たちバグアはどれだけ踏み潰して来たと思ってるです? 滅尽滅相、ヨダカの大切な人を踏みにじったお前達を一人も生かして帰さないのです」
刹那、多連装機関砲により肉塊、否、ミンチになる敵だったモノ。
「生存者を残すつもりは一切無いです。命乞いも聞きません、建物も全部壊し、更地にするつもりです」
ヨダカはそんなモノを瓦礫とともにドーザーブレードで処理し、更地へしていく。
(地上での作戦は久々、重力が心地良い‥‥)
銃を携え歩く、歩兵には馴染みの姿にかつて叩き込まれた心構えをふと思い出すクローカ。
「『指先と心を切り離せ』か――」
PCB−01ガトリング砲の引き金を引きながら嘗ての教えを思い出す。
「今でも僕は兵士なんだな」
思案しながらもガトリングの引き金を淡々と引く自分に苦笑するクローカ。
そして、眼前では肉を、血を、臓物を飛び散らしている、その光景に在りし日の戦友の顔を思い出す。
「こちらの指示に完全に従うなら、投降者には手続の保障はする。結果はこれ迄のそちらの行動と何を話せるか次第だろう」
と、投降を呼びかける秋月。だが、現実は非情だ、南侵攻班以外の場所では差はあれど、強化人間に対して攻撃を行なっている。
皮肉にも南から逃げ出した強化人間が中央へ、北、東西と逃げることにより討ち倒れていく人数が増える。
四方から侵攻してきた傭兵たちが近づきつつ有る。
投降は――可能かもしれない、だが、周りがそれを許さない事を知った強化人間達は只々、逃げるしかなかった。
逃げ惑い、追い詰められた強化人間に対してグレネードを発射するのは榊。
「まとまって自爆されると危険だ」
報告書には纏まって爆発した際の被害が記載されているのを知っているが故――。
最後で最大の攻撃方法――それが「自爆」。
炸裂するグレードが強化人間達を襲い、ズタズタに引き裂いていく。
「全てを灰燼とする‥‥跡形もなく、な」
クラークはP−120mm対空砲で建物に砲撃しながら美紅に随伴している。
「ファランクスのオートは便利だな」
(目の前には自爆テロ要員となりかねない強化人間の群れ。よろしい、ならば手加減する必要性はない。見敵必殺、一人も残さずだ。)
ファランクスの銃撃が目の前に逃げ惑う強化人間を肉塊へ変えていく。
ファランクスの嵐、随伴している美紅はクラークが撃ち漏らした敵を焼きながら追い立てて行く。
そして――。
追い立てられた老いも若きも様々な強化人間に対して美紅は火炎放射器を発射する。
鳴き、叫び、絶望に染まる表情、疲れきって諦めた表情、様々な表情が火に照らされる。
子を抱き寄せて燃え盛る強化人間もいた。只々、怨嗟の声があたりを包む。
IRSTで周囲を熱探査しているのはリック。
「こういう任務じゃ、ニェーバは役に立つね。対人掃射的に」
建物の物陰に隠れた熱源に対して攻撃を加えていく。
「あー、これ作業だわ。ここまで抵抗が少ないとはね」
物陰に逃げている強化人間を掃討しながら言葉を漏らす。
「掃除屋時代にあれば、便利だったのだろうなっと」
リックは言葉を洩らす。
一方――クローカ。
誰かが足元で叫んでいる様だった。それは命乞いなのか罵倒なのか。
(良く聞こえないが、妙に苛立たしくさせる‥‥)
「助けてくれ」
そう、命乞いの言葉が聞こえた瞬間、クローカの中で何かがキレた。
「ふざけるな!」
そのままグチャリと足を踏み下ろした。肉塊に変わる強化人間。
(もう僕は生身で戦えない、こんな機械でないと敵を殺せない‥‥)
そんな自分にクローカは負い目を感じ、だからこそ、余計に奴らが「憎い」と感じた。
押し殺していた感情が噴き出しながら戦闘、否、圧倒的な暴力による殺戮が進む。
掃討は進む。
逢坂は周囲、捕虜を取る様な状況ではない空気。哀しくも捕虜を取ると云った秋月の提案が一蹴された状況。
「これは倒したほうがええな」
どっちでも良かった逢坂は周りに倣いG−M1マシンガンで敵をなぎ払い、骸に変えていく。
「どないやろなっ」
ナックル・フットコートで殴り、建物を崩していく。
「きぃつけんとなぁ」
ヴァイナーシャベルで避難しているであろう地下室を掘り出し、突き刺して中にいる敵ごと潰して埋めて回る。
同じように榊も地下を潰して回っている、地下から逃げ出そうとする敵を多連装機関砲で容赦なく攻撃していた。
「周囲に生命反応がないのですよ」
ヨタカによる報告、それは掃討、作戦の終了を告げるものだった。
更地になり、ぼやが残る元拠点をみたクローカは‥‥。
(プロらしくもない、思わず感情的になりすぎたな)
「次の任務はもっとクールにいこう」
と呟いた。
(傭兵のままでは、こんな状況を変えることはできない。なら、それを変える為に動くほかない‥‥。理の通らぬ世界なら、自分は否定する‥‥)
捕虜を取ることに失敗し無力感に襲われる秋月。残り火が秋月のKVを照らす。
「飲むか?」
リックが逢坂とエカテリーナに薦める。
「うちはええわ」
缶コーヒーを見せる逢坂。
「任務中は控えてる。すまんな」
帰投してからの飲もうとエカテリーナだった。
「基地に帰ったら、良い酒でもおごろう」
「ああ」
帰投する傭兵たちを迎えたのは人だかりだった。
押し分けるように高官がカメラを構えた軍の広報を従え、大きな事で大袈裟に言う。
「おめでとう! 英雄達!」
そして、近づいて小声で傭兵たちに警告する。
「今日の事は他言無用だ」
振り返り、笑顔をを作り――。
「今作戦――極光作戦において、彼等の英雄的行為によって大規模な敵拠点を壊滅することが出来た!」
掲げられる写真は灰人に帰した敵拠点、巧妙に捏造された。
歓声が、炊かれるフラッシュが傭兵たちを包む。
傭兵達は高官の部屋へと連れて行かれる。
「クソッ、こう言う理由か」
エカテリーナが悪態をつく。戦争は英雄を必要とする――英雄は作り出されるのだ。
「嘗ての自分の様に盛大に送られて、人殺しと罵られ帰還するよりかはいいじゃないか」
高官は傭兵たちに向かって言う――それは戦争終了後によくある光景だ。
「追加で金もやろう。だが、あのデータは無かった事になる」
そう、傭兵のデータは軍によって接収されてしまった。
「良いじゃないか、英雄様だぞ」
高官の皮肉な声を残して――。
Fin