●リプレイ本文
● LH 出会いは突然に
「エカテリーナさんこんにちわ。どしたんです? 可愛いですけど‥‥」
「お、御守か――いや、何な――」
御守 剣清(
gb6210)がエカテリーナ・ジェコフ(gz0490)に声をかけ、経緯を話すエカテリーナ。
「買い物でしたら、付き合いますよ」
「ああ、すまん」
荷物持ちを提案する御守と共にあるくエカテリーナ。
「今の人、誰かに似て――いや気のせいか‥‥」
所属兵舎(喫茶店)の食材を仕入れに回っている所で遭遇するも、気づかなかったクローカ・ルイシコフ(
gc7747)はそのまま買い物を続ける。
「‥‥なん‥‥だと?」
御守とともに歩いていたエカテリーナ見つけたのは所用で街に出ていた美具・ザム・ツバイ(
gc0857)。
「お、美具か。あれ以来だな」
美具に挨拶するエカテリーナ。美具とは以前の依頼から久しぶりだった。
「ふぅん、エカテリーナさんにもそんな一面があったのね」
(これなら、彼女も普通の女性に戻ることが出来るかもしれないわ‥‥)
偶々、服を見に来ていた風代 律子(
ga7966)が美具と話すエカテリーナを見つける。
「エカテリーナさん、こんにちわ」
「よ。風代も、か偶然だな。それに久しぶりだ」
腕を上げて挨拶するエカテリーナ。風代もまたよく依頼で共にしてきた戦友だ。
「その服、いいわね。私も着てみたいわ」
『後で一緒にショッピングしましょうね』と合流する風代。
「‥‥ふむ、酒はまだ飲んでないから幻覚じゃないな」
さらに恋人への贈り物を探していたリック・オルコット(
gc4548)が見つけて戸惑うが、現実だった。
「よぅ、リック」
「‥‥ああ、エカテリーナか。一瞬誰かわからんかった」
「あー。うん」
リックを見つけたエカテリーナが挨拶する。依頼の後に共に飲んだこともある仲だ。
「リックはどうしたんだ?」
「一人で散策中だ。恋人とは予定が合わなくてね。暇だから一緒についていくよ。面白いものが見れそうだしな」
美具、風代と共に合流するリック。
「コザ・エ・クエスト?」
思わず母国語で(これはなんでしょう?)思わず呟いてしまったのはドゥ・ヤフーリヴァ(
gc4751)。
「な!? あれは、あの札付きの女傭兵か!!」
村雨 紫狼(
gc7632)もまた、その姿に驚愕する。
(以前の依頼(【MO】デマゴーグ )から会っていない‥‥いや、俺が避けていたんだ、冷静でいられねーからな)
「あの女が、こんな衣装を着るはずがない! だれだ! お前は、いつエカテリーナを乗っ取った!!」
村雨はエカテリーナに駆け寄りまくし立てる。
見ていたドゥもそばに近づく。
「バグアにでも乗っ取られない限り、こんなもの着るものか! 一度しか依頼で一緒にならなかったが、暴力に魅入られた女だった! だがそれでも、友人にはなれなくても地球を守るかけがえのない仲間だったんだ!」
激情に任せて更に詰め寄る村雨。
「それを‥‥え??」
「本人じゃよ」
ぽむ、と村雨の肩に手を置く美具。
「な、な、な! ほ、ほ、本人だとおおっ!?」
驚愕の声があたりに響き、珍しく呆然とした表情のエカテリーナを残して。
「すまん!!」
ジャンピング土下座をしそうな勢いで謝る村雨。
「あ、ああ。いい」
村雨の勢いに引き気味なエカテリーナ。何時もと違う表情を見せる。
「詫びとってはなんだが、奢らせてくれ」
「立ち話もなんだから行くのじゃ」
「ああ」
お詫びにと言う村雨と喫茶店へ誘う美具、共に行くエカテリーナと他の傭兵たち。
犯罪が起きていないか、困っている人がいないか、町をパトロールしていたのは北斗 十郎(
gc6339)。
「あの女子なかなか強そうではないか、少し試してみるかの」
エカテリーナを見つけてその歩き方や仕草を見て強い者と判断した北斗。
「あいたたた‥‥」
エカテリーナ達が通るそばで腰が痛いふりをした北斗。
「そこの、お嬢さんや少し腰を痛めてしまってのちょっともんでくれんか」
「俺に任せろ!」
が、バリバリと聞こえそうな感じで村雨が腰を揉もうとするが――。
「そこのお嬢さんに頼んだんじゃ」
「わかった」
指名され、北斗の腰を気を使いながら揉むエカテリーナ。
「だいぶ良くなったぞ、お礼と言っては何じゃが茶の一杯でもおごらせてくれんかの。もちろん友達の分もおごってやるぞ」
「別にそこまでは‥‥」
「いいんじゃよ」
奢ることを提案した北斗と断ろうとしたエカテリーナを押し切る北斗。
傭兵たち一行に北斗も加わった。
●喫茶店にて
「素敵ね」
風代、傭兵一行とエカテリーナはバロック調な家具の置いてある喫茶店にはいった。
「馬子にも衣装と言うが実に稀有なる馬子もおったもんじゃのう」
「そ、そうか?」
と、感想をこぼす美具。そんな見具はフリルたっぷりのブラウスにパンツルックと言う颯爽としたいでたちだ。
「‥‥」
「どうかしたか?」
「ん、いや」
改めて、エカテリーナの瞳を見つめる村雨。
(嘘、偽りはないか)
「かわいい服なのにスカーフェイスではなあ」
ふと、エカテリーナが手にしていたパンフレットに気がついた美具がエカテリーナに言う。
「あー。そうだな‥‥」
傷病専門の医院のパンフレットを取り出して見せるエカテリーナ。
「お主顔の傷を治すつもりか、まぁその傷に何の想いも無ければ治した方が良いじゃろう」
北斗も顔の傷を治すことをすすめる。
「怪我、治さないなら眼帯でもつけるか?似合いそうではあるが」
「ああ、これでも目は見えている」
リックの言葉にエカテリーナは返す。
「体に残った傷は時に友のことを思い出したり、戦う時の戒めになったりするもんじゃ。ワシも体中傷だらけじゃが、背中に付いてないのは自慢じゃがの」
「想いはあるのだが‥‥」
エカテリーナは顔の傷について話をはじめる――。
「この傷は――あたしが14の時――」
国軍に入る前の民兵時代、紛争地域で戦っていた時、共に戦っていた部隊が全滅し――庇った戦友のお陰で火傷だけで失明せずに済んだことを話していく。
「セルゲイの奴があたしを庇ったお陰で、唯一生き残って失明もせず傷だけで済んだ」
傷跡を撫でるように話すエカテリーナの様子は何処か懐かしそうな雰囲気もあった。
「だけど――あたしはもういいかなと。過去も大切だが『新しく』歩むには――」
過去との決別、心機一転するにはそうしたほうがいいのかと言う悩みだ。
「もしその本が意味する事をするのなら、俺は歓迎するよ。女の子は可愛い方がいいさ、君は美人だしな」
「なっ」
村雨の言葉に、余り聞かない言葉にエカテリーナが戸惑う。
「長かった戦いももうすぐ終わるし、そうしたら、普通の女性に戻りたいわね‥‥」
(出来れば、彼女には穏やかな生活を送って欲しい。それが難しい事は私にも解っているわ。私も、もう普通の女性としては生きられないかもしれない――だけど)
風代は願わくは、エカテリーナに平穏な生活を取り戻して欲しいと想いながら言葉を綴る。
「美具も目を何とかならんものじゃの。今はよくとも戦後はいらんトラブルの種なるやもしれず、なんとか直したいところじゃ」
隻眼の美具もエカテリーナの話を聞いて無理かもしれないがどうにかしたいと言う。
「それに、いずれ暴力だけで生きる時代は終わる、バグア本星を叩く事で。まあ、バグアに絡むなら無抵抗の強化人間すら嬉々と虐殺する傭兵もいるらしい。そんな連中、平和になった世界に居場所なんかあると思うか?」
村雨はこれからの事をエカテリーナに話す。
「エカテリーナ、君も変わろうとしている。人として、当たり前の生き方を望んでもいいんだ」
続けてエカテリーナの取ろうとしている選択に肯定的な意見を言う村雨。
「ふむ――」
(そうだな――『共に』新しく歩むことができるなら――直してもいいかもしれない)
考えこむエカテリーナ。
「そういえば――その姿はどうしたのじゃ?」
空気を変えようと美具が質問する。
「ああ。これは――」
偶々、手にとったファッション雑誌で特集されていてと説明するエカテリーナ。
「じゃが、その格好は――。何方かという男物とかそう言った類だと想像していたのじゃが」
「どうやら――こう言う格好に憧れていた様だな――着てみた瞬間、これだ! ってな」
美具のツッコミに、少し恥ずかしそうに答えるエカテリーナだった。
「男ができたのか?」
「どうだろうな」
あまりの変わりように美具は心境の変化の原因に探りを入れる。
「で、そいつは脈ありか?」
「さぁ、な。相手次第だな」
美具の質問にはぐらかすエカテリーナだった。
質問を投げ続ける美具であった。
(誰もが彼女のように願望を持っている筈。それは‥‥僕が排除されたあの世界で生きている妹も一緒だった筈)
ドゥはエカテリーナと美具のやり取りを見て物思いに耽る。
(小学生にも拘らず能力者として。あの学園の生徒として‥‥そして監視人として。世界の為に蘇った僕をも再殺した使命感)
何故か目の前のエカテリーナと被るものを感じたドゥ。
(死んであちらの世に取り残した僕の妹も、女史のように戦争没頭状態になったのではないか?)
ふと、そう思うドゥ。
そんな、幾ばくかの時間が過ぎたあと、喫茶店を後にする傭兵達。
「それじゃ、ここでお別れじゃ」
喫茶店の北斗と別れるエカテリーナ達だった。
「ワシは正義の味方をやっていてな、お主をスカウトに来たのじゃ」
「‥‥」
別れた後、一人になったエカテリーナに両肩に手をかけ話しかける北斗。
「愛と正義の魔法少女になってみる気はないか? 今すぐ決めろとは言わん心が決まったら連絡をくれ」
「ワシは正義の漢我流Σ、さらばじゃ」
そう言うと、北斗は颯爽と去っていった。
●買い物
「‥‥服は流石に本人連れてこないとわからんからな。小物でも買っていくか」
「ああ、付き合う」
「‥‥」
(どんなのをえらぶの(じゃろう)だろう)
リックが買い物に誘い、それについていくエカテリーナ、そしてどんなものを選ぶのか興味のある傭兵達だった。
アクセサリー専門店に行く傭兵たち。
「リックはよく買うのか? 恋人に」
「ん?多少なりとも、女物の衣装の知識あるよ‥‥前職の関係で」
詳しそうなリックに聞くと、返ってきた返事から意外な一面を知ったエカテリーナだった。
「これなんかどうだ?」
リックが選んだのは黒のミニハット。
「ん‥‥いいな」
エカテリーナに似合いそうなアクセサリーのアドバイスをするリック。
「しかし、人間、変わる時は変わるものさね。俺が良い例だ‥‥」
「そうか?」
「正直、恋人へのプレゼント選びで色々考えてる自分なんてものは想像の範囲外だったな‥‥」
「そうには見えないが――」
変わったというリック――エカテリーナは変わる前のリックを想像できなかったようだ。
会計を済ませるエカテリーナとリック。
「次は――せっかくだから、私も着てみたいわ」
風代がエカテリーナに先ほどの店に行く事を提案する。
「風代がそう言うなら」
風代と共にエカテリーナが買ったゴスロリの店へと向かう。
「そうね‥‥」
風代が選んだのはエカテリーナと同じようなモノクロ――白と黒を基調としたゴスロリ服だった。
モノクロのゴスロリ服は風代の黒髪にあって可愛さを引きだしていた。
興味のあった美具も色々と服を見て回っている。
御守やドゥは荷物を持ち、リックもまた女性陣に色々と服のアドバイスをしていた。
そんな時間が流れていく。
「すまない、ちょっと野暮用だ」
「そろそろいい時間だな」
一旦、エカテリーナと傭兵たちが解散する。
●日落ちる時
別れた直後――。
「!?」
「うわっ!」
角で荷物をたくさん持った人とエカテリーナがぶつかる。
「ご、ご免なさい!お怪我はありm‥‥ジェコフ同志?」
「あぁ‥‥クローカか」
とっさに謝罪中、その人――クローカがエカテリーナに気づく
(三十路がゴスロリ? 何かの罰ゲーム中なのか?)
疑念が湧くが命が惜しいので即時抹消する。余計な事は考えない、言わない。ロシア軍人には必須の技能だ。
「実は、ルキアサンの代わりに――」
クローカが買い物について話をする。それは、兵舎でやっている喫茶【Чайка】の買い出しだと言う事等。
「昔は――」
「ふむ」
戦場の事、任務の愚痴、噂話等、色んな話をクローカが話し、それをエカテリーナが聞いている。
エカテリーナの荷物を持った御守もその会話に入っている。
そんな楽しい時間もあっという間だ。
「もっと‥‥似合うようになると思いますよ。それでは――」
「そう、か」
別れ際にチラリと病院のパンフ、そして衣装を眺めているクローカは言う。
(世が世なら、何も違和感など無かったのだろう。女性として生きられたのだろう‥‥)
クローカとも別れて残ったのは御守とエカテリーナ。
いつに無く、二人の足は黄昏時の公園へ向かっていた。
「そういうカッコ、見れて良かったですよ。似合ってるってのもありますけど、そういう余裕あるんだなって、分かって‥‥」
「初めて‥‥だったのだがな。こう云うのは」
缶コーヒーを持ってベンチに座る二人。
「オレはまぁ、割と平和な側で暮らしてましたから‥‥違う側の人が、コッチの側を気に入ったんなら、引っ張り込めればなぁって。そう考えてるだけですから‥‥」
「幸せになる事か――」
御守の言葉に躊躇いがちに言うエカテリーナ。
「資格のアルナシなんてのぁ、自分だけで決めるモンじゃないですよ。幸せになる、とかそういう類のヤツは特に、ね」
少し強い調子で、後押しするように言葉を続ける御守。
「本人が気にしていることでも、受け取る側に取っちゃ、どォでも良かったり。そういうとこも丸ごとひっくるめて、だったりすんですから‥‥今、貴女の周りにいるのは、割とそういう人達なんじゃないですかね?」
「‥‥」
(気にはしないか――)
エカテリーナは御守の言葉の意味を考える。
「さて、そのカッコじゃ飲みに誘う、ってのもなんか違うなぁ‥‥何がしたいです? 何なら今日に限らず、この先‥‥世の中が落ち着いたらしたいこと、とか‥‥」
考えているエカテリーナに声をかける御守。
「戦後か‥‥さっきのだが――『そっち側』だな――行くとしても『一人』だと色褪せたものになるだろうな」
エカテリーナは地面に視線を落とし、かつての出来事――一度、平和な世界を見る機会が有ったことと、その顛末を御守に話した。
「だから――あたしは――そっち側に『導く』相手が二度と居なくなるのは――な。だからこそ、『共に』同じ道を――景色を見られたらと思う」
日は落ち――公園の街灯が二人を照らす。
祈るように言うエカテリーナの其の眼には涙を浮かべ、うつむいた地面には涙の跡がついていた。
「きちんと返事をしたいので次の機会に――」
「あぁ、悪い‥‥」
涙を拭ったエカテリーナが御守の言葉に返答する。
「返事――待っている」
そう言うと、踵を返して兵舎の方へエカテリーナが向かっていった。
「どうするよ、一緒に飲みにでも行くか?」
「すまない‥‥」
兵舎の近くでリックにあって誘われるが、断ったエカテリーナは自室へと入っていった。
「どう――返事になるのだろうな――」
着替えもせず、ベッドに仰向けに倒れて天井を見上げた其の言葉は闇に消えていく。
エカテリーナとゴスロリ FIN