タイトル:【落日】心の復興マスター:後醍醐

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/10/21 21:19

●オープニング本文


 黄昏時のオセアニア。
 バグアによる戦乱は人々に影を落とす。
 長く長く――黒い影を。
 
 ● 東オーストラリア
 
「寄るんじゃない!」
「あっ‥‥」
 石礫を投げられるストリートチルドレンになった子供達。
 この地域では子供達が忌避されている。
 理由は――そう、今は亡きバグアが子供達を利用したせいだ。
 (【MO】誰が為 等参照)
 だからこそ――人々は恐れ、排斥しようとする。
 それは――離れていた親子でもあってもだ。
 
 無論、この状態を良しとしていない人々もいるが――。
「やめなさい!」
 一人のシスター服を着た女性が出てきて、石を投げる人々を叱る――が。
「うるせぇ! 裏切り者!」
 子供達を庇う女性に罵声を浴びせる人々。
 忌避されている彼等に手を差し伸べる彼女は、彼等にとって人類の裏切り者のように映るようだ。
 
 ●教会
 豪華とはいかないが、厳かな空気が漂う教会――その教会の外れの建物。
 其の外れの建物に子供達が匿われている。
「シスター!」
「あらあら、大丈夫だった?」
「うん!」
 返ってきた女性――シスターを迎える子供達。
「苦労をかけます‥‥」
 白髪の神父がやってきてシスターの苦労を労う。
「いえ‥‥神父様が集めていただいている寄付のお陰でこうして出来ますので」
 表立って支援できない人々から物資や資金を神父が集め、シスターが子供達の世話をすることとなっていた。
「困りました‥‥不穏な話が、有りまして――」
 神父いわく、子供達に対する誤解から排除しようとする動きが過激になりつつあるようだ。
 ソレは教会に対しても例外ではない。
「私達では――彼等を説得するのは難しそうです‥‥」
「専門家――よく知っている人の話なら聞くかもしれないが‥‥」
 悩む神父とシスター。
「ULTの傭兵なら‥‥彼等なら詳しいかもしれません」
「傭兵ですか‥‥」
 シスターは思い出したように神父へ提案する。
「それに彼等はこの国を解放した『実績』がありますし」
「説得‥‥できるか?」
 一途の望みをかけてULTへ依頼をする神父であった。

●参加者一覧

クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
セラ(gc2672
10歳・♀・GD
ビリティス・カニンガム(gc6900
10歳・♀・AA
モココ・J・アルビス(gc7076
18歳・♀・PN
御剣雷蔵(gc7125
12歳・♂・CA
クラフト・J・アルビス(gc7360
19歳・♂・PN
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文


 東オーストラリア
 
「嘘も無し、はったりも無し。誠心誠意彼らの道義心に訴えるほかあるまいて」
 このメンバーの中で子供達の自爆を目の当たりにした一人の美具・ザム・ツバイ(gc0857)が集まった傭兵達に対して言葉を掛ける。
 自爆を止められなかった贖罪の意味もあるのだろう。
「俺の大好きなオーストラリアに禍根なんか残させるわけねーじゃん?」
 美具の言葉に続いて発言したのはクラフト・J・アルビス(gc7360)。
 彼もまた、子供達の自爆を目の当たりにした一人だ。
(被害妄想というのかしら? 無抵抗にも関わらず自分から殺らなきゃ逆に殺されるという自己防衛?)
 クレミア・ストレイカー(gb7450)は二人の言葉を聞きながら住人の心理を推察していた。
(こういうことの根本的解決には長い眼と手が必要になる。悪いがそこまで面倒は見れないな‥‥だから、必要とされているのは『きっかけ』と、もしもの時の鎮圧といった所かな)
 セラ(gc2672)はアイリスの人格を表に出し考える――刺激的な部分を見せないために。
「バグア共め、ろくでもない置き土産残しやがって!
 ‥‥だが絶対に間違いは起こさせねえ。人類はてめえらの思い通りにはならねえぜ!」
 依頼を知り、二人の言葉を聞いたビリティス・カニンガム(gc6900)はその、バグアの卑劣な行為に憤っていた。
 
(希望は‥‥やはり、どこにもないのかもしれない)
「自分が探している希望は、誰からも、与えられないのかもしれない。それなら、それでいい。ならば、この俺が希望になろう」
 恋人のビリティスと共に参加した村雨 紫狼(gc7632)は覚悟を決めて臨んでいた。
(クラフトさんの故郷‥‥こんな悲しいままにしておきたくない)
 恋人であるクラフトの故郷の為に参加したモココ(gc7076)――そして、疑心暗鬼に陥った大人達に憤っている。
(大人達よりも子供達が心配だ)
 憎しみを植え付けられる様な状況に追い込まれている子供達を心配する御剣雷蔵(gc7125)。
 
「神父さん。子供達に石が投げられた時のことを詳しく教えて欲しいんだが」
「詳しくはシスターから‥‥」
「子供達が投石にあった時は――」
 投石にあった時の状況を詳しく聞く御剣にその場でいたシスターが事細かく答える。
 その内容は大怪我するほどの大きい石ではないが脅すように、時折、手や足に当たるように投げていたとの事だった。
 

 広場
「で、あんたらが強化人間との見分け方を教えてくれるんだ」
 聞こうという態度があるのは反バグア派からの信頼があるおかげだ。
「そうじゃ、バグアは憎むべき敵。そして一部の子供達が強化人間として人類の敵となったのは残念なことなのじゃ。だから子供と見れば『強化人間か!?』と疑うのは無理もない」
「そうだ、他でも起こっていた」
 それは食料庫での出来事以外でも他の場所でも起こっていたという話。
「実際、強化人間に襲われた、逆に襲ったら抵抗された?」
 『他でも』という伝聞的な言葉にクレミアは指摘を入れる。
「‥‥」
 答える住人の視線や態度に気をつけているクレミア。
「抵抗されれば、その場で返り討ちにされてもおかしくないはず‥‥それが子供の姿をしていてもね‥‥」
「抵抗しないやつだっているかも知れないだろ!」
「無抵抗なのは相手が子供だったから? でもそれは、こいつなら勝てるという優越感や自己満足に浸りたいだけ? もしくは、殺られる前にやってしまおうという自己防衛本能? もしも、私が強化人間だったら、あなた達はかかって来れるの?」
「‥‥」
 一気にまくし立てるクレミアに黙るしかない住人達。
「自分が生きる為に子供達を拒絶するなんて‥‥身勝手な」
「俺達はあんたらみたいに丈夫じゃないんでね」
 クレミアとの住人とのやり取りを聞いてモココは憤りを含めた声で言い放ち、住人は皮肉っぽく言う。
「んー、俺は難しい事とか苦手なんだけどさー、こん中には子供の家族もいるんでしょ?」
 険悪になりそうな空気を破るようにクラフトが住人に問う。
「確かに、だけれども他の家族も守らなきゃいけない」
「自分の子もダメだと言うのなら、親としてどーよそれ」
「うるさい! 仕方なかったんだ!」
「人が心を失えば、それはもうあのバグア達と同じです。周囲から、家族から拒絶される孤独があなた達にわかるんですかっ!!」
 その言葉にキレたモココが若干覚醒して言い放つ。
「その為の、今回の講義じゃねぇか」
 ビリティスが住人とモココの間に止めに入る。
「人間同士で相争うなんざ、バグア共の思うつぼだぜ。今のこの状況こそ、連中が仕掛けた、奴等の置き土産なんだよ」
 住民を落ち着かせるアイリスやクレミア、クラフト達。
 

 一時間ほど間を開け、改めて強化人間の見分け方について講義を行う。

 御剣の場合。
「石が命中したり危害を加えられたりすると「フォースフィールド」俗に言う『FF』を張ってダメージから身を護る。
 これは強化人間ならば極自然に『FF』を張るんだよ」
 強化人間は見た目だけでは判別が難しいと前置きをおいて御剣は説明をする。
「それじゃ‥‥」
 住人の一人が御剣の言葉で何か気づいた様子だ。
「そう。だが、あんたらに聞いた子供達には其の侭ダメージがいってる、即ち『強化人間』ではなく『只の人間』という事だ」
「『只の人間』‥‥」
 そう、敵と思っていたのは自分達と同じ人類。
 同胞を迫害していたのだ。
「正直な話――今回は、あんたら大人よりも子供達の方が心配だぜ。大人を信用しない子供達が沢山生まれたからな。言うなれば『ハート・フィールド』所謂『心の壁』というやつだ。大人を親を信じる事のできない子供を大人自身が生み出したという事だ」
「心の壁‥‥」
 自分達の所業が引き起こした結果の一部を語る御剣の言葉に言葉を詰まらせる。
「親が自分の子供を抱きしめようとして両手を広げても子供は飛び込んでこないどころか疑心に満ちた眼で後退りして逃げていくだろうな」
 自分の子供がいた親がいたのだろう――御剣が話す内容に、自身が行った所業にショックを受ける様子が見て取れた。
 
 クレミアの場合。
 自身の依頼の経験から話しをする。
「強化人間に何かがぶつかった事で『FF』が露見した事例もあったわね」
「じゃあ、何かをぶつければ良いということ?」
「そうね――でも、一番わかり易いのは見掛けによらない身体能力の高さにあると思うのだけれど‥‥」
 石などをぶつける事も強化人間として調べる事もできるが、普通の人間だった場合は怪我を負わせる事になる。当たり所が悪ければ、死亡するかもしれない。
 出来るならば、他の方法で調べる方が良い。
「石でぶつけるのは駄目なのか」
 考えこむ、住人――そして、何か思い当たった表情をのぞかせる。
「なら、あの子供達は!?」
「そう、『只の子供』。貴方達が石を投げた子供達は――」
 事実を告げるクレミア――その事実を知った住人は‥‥。
 クレミアはそれまで住人達が置かれていた立場を考える。
(被害妄想に囚われてしまうと周りが見えなくなると同時に‥‥『他者の痛みや苦しみ、悲しみ』も聞こえなくなってしまうのだろう)
「我々は何という事をしてしまったんだ‥‥」
 悔いる住人をみて人の業の深さを知るクレミア。
(バグアに対する恐怖感から逃れたいが為に、人類というものはいくらでも残忍になれるのか‥‥)
 
 村雨の場合。
 村雨が出会ってきた強化人間達や報告書に書かれた強化人間達。
「何も好き好んでバグアの軍門に下った者だけじゃない。その大部分は無理矢理に、強化人間にさせられた者がほとんどだ」
 つとつとと語る村雨に住人達は話を聞く――自分達が知らない強化人間を知るために。
「彼らは不幸な犠牲者に過ぎない――本題に入ろう」
 強化人間とはどういったものであったか説明を終えた村雨は見分け方を教える。
 只、見分け方を教えるだけでは駄目なのだ――爆発するものとしか知らない住人に強化人間がどういったものであるか教える必要があった。
「強化人間は『FF』を持っている。これは強化人間に特定の条件が揃うと発動する――例えば身に危険が及ぶとか」
 身に危険、つまり『投石』という行為を連想させて住人が行った事を思い出させる。
「じゃあ、石を投げて確かめれば‥‥」
「そうだ。だが、投石以外でも確認する方法はいくらでもある」
 投石を正当化させないために村雨は注意し、提案する。
(人間は弱いから裏切り、奪い合う。人間は弱いから恐れ、殺し合う‥‥それが人間だという。そうかもしれない。それでも俺は人間を信じる‥‥人間のために闘う。俺は‥‥それだけでもいい!)
 住人を前に決意を新たにする村雨だった。
 
 アイリスの場合。
 アイリスは別れて講義を行うまでの間に思考する――。
(恐怖というのは簡単には剥がれない、人間が人間らしく考える事を阻害する)
「‥‥」
(変化には痛みを伴う。それがプラスの変化だとしてもだ)
(耐えられない復興を無理に押し付けても
それは彼らが恐怖から子供に石を投げるのと何が違う?)
 アイリスの前には落ち着きを戻した住人達。
「強化人間が怖い?」
「そりゃ、怖いよ。アイツらは強いし、そうでなくても自爆するし」
 出会い頭での会話からも住人達はバグアに対する憎悪以外にも恐怖しているのが推察できた。
「無闇に『恐れる』事がないように見分け方を皆に教えようと思う」
「ありがてぇ」
 一人の男が声を上げた――ずっと疑心暗鬼に陥っているのも心身疲れるのだろう。
「一番単純なのはFFの有無。触れただけで派手なバリアが出るんだ、単純だ」
「いや、待ちな。それじゃ、駄目だ」
 説明していたアイリスに対して、村雨が歩み寄った。
 村雨は、住人へ向き直る。
「FFは、思っている以上に厄介だ。触れただけじゃFFは出現しない。対象者にある程度のダメージが加わった時に、出現するもんだ」
「じゃあ、やっぱり石を投げて確かめた方が‥‥」
「それは、駄目。もし普通の人間であれば、怪我を負わせる事になる」
 ダメージを与えるという事は、危害を加えるという事。
 つまり、触れた程度では判明しないが、判明させる為には相手を攻撃する必要がある。「じゃあ、どうすれば‥‥」
 困惑する住民。
 それに対してアイリスは、力強く声をかける。。
「大丈夫。確かめる方法は他にもある。
 彼らはバグアの技術を受けている。体の使い方や行動を見れば、必ずボロが出る。でも、住民だけで調べるのは危険」
 顔を見合わす住民達。
 相手はバグアである事を思い出したのだ。
 もし、石をぶつけて強化人間だと判明した場合、強化人間が反撃する可能性もあるのだ。
「もし、強化人間だったら――」
「その時は、呼べばいい、直ぐにでも助けにくるさ」
(恐怖に対抗する安心感があれば‥‥)
 もしもの事があればULTに頼めばいいと安心感を与えるアイリスだった。
 
 ビリティスの場合。
「あたしはビリティス・カニンガム。傭兵をやっている」
 名前と身分を明かすビリティス。
 そして、いきり立つ住民達の前で堂々と想いを言い放つ。
「あんた達、子供を抱きしめた事はあるかい? 小さい時、親しい大人に抱きしめられた事は? ほんわかした、幸せな気分にならなかったかい?」
「あぁ‥‥」
 静かに住民に語りかけるビリティス。
「あたしは、抱きしめられるとすげえ安心する。暖かな気分になれるぜ。そういうのが出来ねえって、悲しい事だと思わねえかい?」
「そう、だな‥‥」
 住人の一人がビリティスの言葉に相槌を打つ
「奴等は粗方ぶっ潰してやった。もう新たな強化人間が作られる事もねえと思う。奴等の思い通りに動いてやる必要はねえさ」
 その事を聞いて安堵の表情をする住人達――この悪夢が終わると思って。
「あたしら人間は、長い戦乱で酷く荒んじまっ
戦争の前にはごく当たり前だった事、皆で取り戻していこうぜ!」
「そうだ!」
 力強いビリティスの言葉に住人達の声が次々と上がる。
 
 モココの場合。
 住人の前に立つモココ。住人もモココも時間をおいたおかげで落ち着いている。
「‥‥疑ってしまう気持ちはわかります。誰にだって怖いモノは怖い。でも、疑心暗鬼に陥って拒絶された方は‥‥」
 静かに‥‥住人に語りかけるモココ。
「すごく‥‥悲しくて、辛くて、寂しい。もし貴方達が理由もなく拒絶されたら? 迫害されたら?」
 偶々、子供だったから――もしそれが違えば――心に訴えかけるモココ。
「知って欲しいです。この状態を抜け出すためにも見分け方を」
 FFについて説明をした上で、経験から学んだ見分け方を伝授する。
「この子達は紛れもなく『人間』です」
 モココは、静かに住人達へ微笑んだ。
 
 美具の場合。
 FFの説明も行った上、説得に重点を置いていた。
「バグアは駆逐され、皆の努力によって地球は平和を取り戻しつつあるのじゃ。だが、何故バグアが子供達を強化人間にしたのかを。バグアは今日あることを予見していたのじゃ。そして自分達が負けた後も我らを苦しめるべく陰謀を張り巡らしたのじゃ。次代を担う子供達を敵だと認識させる疑心を残すことで、我らの勝利を打ち砕こうとしているのじゃから」
 住人達に敵の罠に嵌められていると説明する美具。
「悔しくはないのか? 自分らが敵の掌で踊らされていることに。疑心を乗り越えお互いが信頼を醸成せねば未来はない。だから子供らも守られるだけでなく自分にできることで復興に協力せよ。お互いが歩み寄ることでしか未来は開けないのじゃから」
 黙りこくった住人に更に言葉を続ける美具。
 美具の言葉を『理解』できたのであれば、彼らも変わるだろう。
 
 クラフトの場合。
 クラフトの前に集った住人の割合に比較的、女性が多い。
「自分の子じゃなかったとしてもさ、ただのちびっ子かもしれないやつをさ、嫌がっても何も始まんないぜ?」
 人々は沈黙したままだ。
「まぁ、どーしても納得できないってんなら、今からそのへんの子供達と遊びながら確認でも何でもしてやんよー」
 そう言いながら、子供達と遊びだすクラフトに困惑の表情――だが、何も起きない事が、子供達が大丈夫である事を示していた。
 それを見た住人の様子も変わっているように見えた。
 
 それぞれの講習が終わりを告げる。
 傭兵達の立場、というのもあったが――住人に対する態度が適切なものであった為、トラブルに発展する事もなかった。
 別れる際にビリティスが神父に提案する――住民と子供達が自分の体験を話し相互理解し合える様な集まりを開いていく事を。
 すこしずつだが、子供達と住人達の両者は復興に向けた作業を行い、互いの体験を話し合う――そんな、光景にも見られるようになるだろう。

【落日】心の復興 FIN