●リプレイ本文
●出港
晴れ渡る空――見あげれば蒼い空は雲ひとつなく太陽が燦々と降り注ぐ。
それは――まるで航海を祝しているようにも見えるが――嵐の前の静けさかもしれない。
岸から速度を上げ、海面を飛ぶように進む高速魚雷艇。
そんな船の甲板で展開している傭兵たちの思いは様々だ。
純粋に任務として参加している、ロゼア・ヴァラナウト(
gb1055)とリズレット・B・九道(
gc4816)。
共に――リズと共に歩み続き依頼に参加している、滝沢タキトゥス(
gc4659)と明神坂 アリス(
gc6119)。
LHから帰還し、この依頼が帰還初の市川良一(
gc3644)。
家族のために依頼に参加した皆守 京子(
gc6698)
体を動かそうと思い参加した――ら、銃器を使う必要が高く、戸惑っているクラフト・J・アルビス。(
gc7360)
『父の為』と危険な仕事を請け負ったリズに心配して参加している那月 ケイ(
gc4469)。
それぞれの思いを胸に船は海を割いて進む。
海原を進む船の甲板、その上の遮蔽物は殆ど無く、有るのは船室部分の構造物ぐらいだ。
その船室部分を背にリズは託された箱を持って――否、抱えている。
それはまるで大事な赤子を守るが如く、抱き抱えた形だ。
「コレを無事に届けないと‥‥」
彼女にとってこの箱は――戦災孤児であった自身を育ててくれた父に対して、父の役に立ちたいと思って受けた仕事だった。
「お父さん‥‥」
彼女がオペレーターとして仕事を始めたのも父のため、広義的には父が救おうとしている世界のために彼女が出来ることで助けられるように志願したのだった。
そんな思いに耽っているリズに声を掛ける傭兵が居た。
「箱が無事でも、君が無事でなきゃお父さんは喜ばない。‥‥だから、もっと自分を大事にね」
リズを心配した那月が声を掛ける。
「‥‥はいっ」
素直に答えるリズ――確かに、自分が心配させるようでは本末転倒だ。
「この箱が? 今回の護衛対象? ‥‥ただの箱にしか見えんけどなぁ‥‥」
那月と会話している姿を傍目に、アルビスはリズの抱えている箱を見て感想を漏らす。
見かけには唯の30cm四方の黒い箱に見えるが、実際には唯の黒い箱ではないことをが後で知ることなる。
「初めまして」
そんな時、市川がリズに挨拶をした。今回リズを護衛する担当との事だった。
「此方こそはじめまして、よろしくお願いします」
市川に対してリズは頭を下げて護衛についてくれたことに対するお礼をした。
「乗りかかった船ってこの前言ったよね? ま、大船に乗ったつもりでどーんと‥‥って、今回の船はそこまで立派なのじゃなさそーだけど」
「アリスさんもああ言っているし大丈夫ですよ」
アリスと滝川もリズの所にやって来た――どうやらこの二人もリズの護衛の様だった。
「滝川さん、アリスさん。前回から引き続きよろしくお願いします」
知った顔が護衛につく事にリズは安堵の表情をした。
リズは無事に終わることを祈りながら――
●接敵
40ノットの速度で船は進む――彼らを載せて。
平穏無事が続けばと思った時――嗚呼、それが平穏の終焉の時。
「スピード出ていますし、振り落とされないように気をつけないと。およそ4時間、楽なクルーズ‥‥とはいかないでしょうね」
船の前部で「探索の眼」と「GooDLuck」を使い警戒している京子。
海原に異変が現れ、空はけたたましい鳥の声に包まれる。
先ず異変に気がついたのは双眼鏡で警戒をしていたリズレットと前部にいた京子だった。
「敵、来るよ!」
「‥‥敵発見」
言葉と共にハンドサインを出すリズレット、声を上げて知らせる京子、傭兵たちが警戒する。
『ニャーニャー』
猫の鳴き声にも似た海鳥キメラの鳴き声が辺りに響き、空を覆い尽くす!
そして、船の後方と両サイドから海の上を跳ねるトビウオキメラが現れた!
対海鳥キメラ班のリズレット・ロゼア・京子が迎撃を開始する。
また、対トビウオキメラ班のクラフト・那月も迎撃を始めた。
リズレットは重機関銃を備え付け、夥しい薬莢を排莢しながら弾幕を形成し牽制する。
が――幾匹かは落としたものの、高度を上げられ射程圏外に移動してしまった。
「誰でもいいので撃ってください!とりあえず弾バラ撒いて!」
並の武器では射程が足りないのを悟った京子が声を上げて指示を出す。
「わかったっ!」
リズの護衛をしていたアリスが銃座につき20mm機関砲を操作し、海鳥キメラに対し射撃を開始する。
鈍い音を出しながら排莢されていく薬莢、海鳥キメラにHITし撃墜するまでには至らないが気絶し墜落していくのが出てきた。
海鳥キメラはそんな接近できない状況を打破すべく攻勢に出てきた。
――そう、トビウオキメラを掴まえ投下しようと近づいてきた。
「余計なもんを、落としていくものだなー」
言葉とは裏腹に市川の眼は厳しい。
もちろん、機関砲の砲撃がトビウオキメラに当たり撃墜してくのもあったが、多勢に無勢で結構な数の海鳥キメラが船に近づいてきた。
「数の暴力はテレビゲームだけにしてほしいな、全く」
リズの護衛をしている滝沢はそうボヤきながら海鳥キメラが持つトビウオキメラに銃撃を入れていく。
リズレットは「探査の眼」を使い、接近してくるトビウオを搭載した海鳥キメラを探し重機関銃で攻撃を行う。
同じように、ロゼアは「強弾撃」を使いならがSMGでトビウオを抱えたキメラを攻撃している。
そんな二人を援護するように京子はガトリングで突破・接近しようとする海鳥キメラを牽制していく。
海鳥キメラとの戦闘の間にも海面からはトビウオキメラが船を襲い続けている。
「このキメラ、やっぱりあの箱を狙って‥‥!?」
那月は海面を小銃で撃ち牽制をしながら船に上がりそうなのを撃破し、体当たりしてくるのは盾ではじき飛ばして撃破していった。
「悪いけど、そっちには行かせねぇッ!」
幾つかが抜けリズに向かおうとするが――「仁王咆哮」で引き付け、盾で弾き飛ばした。
クラフトは拳銃を使い迫ってくるキメラを撃ち落としにかかる。
「銃器、めっちゃ苦手!」
どちらかと言うと格闘が得意なクラフトには辛いものが在った――が、今は撃てば当たるほど敵がいる。
「爆弾が近づいてくるなー!」
こまめにリロードしながら撃ち落とすが、一部が接近してきたので「キアルクロー」で叩き落す。
海上からはトビウオが空からは海鳥からと二面攻勢を受けている傭兵たち。
海鳥の投下攻撃は傭兵達の要撃をうけ数を減らすも、爆発したキメラが目隠しになり一部が投下に成功する。
投下されたキメラがリズを襲う!
●
一方、リズ護衛班。
平穏だった海が騒がしくなる。
空から襲いかかる海鳥キメラ、海面から襲いかかるトビウオキメラ。
「大丈夫だよっ、僕達がいるからっ!」
不安そうな表情をするリズを見てそれを払拭させようとするアリス。
「そうだ、なんとしても護るからな」
滝沢もそんな不安そうな表情のアリスに声を掛ける。
「アリスちゃん、大丈夫☆」
明るくおどけた感じで励ます市川。
「あ、はい。みなさんお願いします」
リズがそれを言うやいなやキメラ達の攻勢が激しくなっていく。
「誰でもいいので撃ってください!とりあえず弾バラ撒いて!」
京子の声が甲板に反響し、それを聞いたアリスが動く。
「わかったっ!」
アリスは近くにあった銃座につくと20mm機関砲を操り砲撃を開始した。
リズの耳に鈍い音と排莢される薬莢の金属音が聞こえ、思わず「箱」を抱えたまましゃがんでしまう。
鈍い音と銃撃の音、キメラの鳴き声、爆発音の戦場音楽が辺り一帯を支配する。
前とは違う圧倒的な戦力差による本格的な戦闘だ、出航前に想像していたのとは違う。
いくら気を張って強がっていても幼い少女、『記憶』の恐怖が体を支配しガタガタと体が震える。
「もー、やめてよねっ!」
(リズちゃん‥‥本当は無理をして‥‥)
アリスはリズを励ましたかったが、迫り来るキメラという現実が許さなかった。
アリスは機関砲で傭兵たちのアウトレンジから来るキメラを牽制しながら、他が接近を許したキメラを落とす。
「自分の爆弾で自爆ほどカッコ悪いものはないぞ!!」
迫り来る敵にぼやく滝川、多忙なりにも恐怖で震えているリズも心配だ。
「できれば、こないでほしいなー」
市川も気にはなりながら、スナイパーライフルで狙撃から小銃に切り替え迫り来るキメラを撃ち落としていく。
キメラの猛攻が続く、要撃を逃れたトビウオキメラが船にリズに向かって落下してくる。
十匹のうち、六匹はキメラ・海鳥班が落とし、残りの二匹を護衛班で落としたが、残りはリズに向かって落ちてきた。
「危ないッ!」
滝沢はリズを庇い、背中で受けたトビウオキメラが爆発した。
「痛くないさ‥‥このぐらいな!!」
●
アレほど空にいた海鳥キメラは片手で数えるのみとなり、水面から襲ってくるトビウオキメラの対処に人員を割ける様になっていた。
そんな状況な為、アリスは銃座から降りリズの方へ走っていった。
戦闘が緩やかになったのもあってリズの震えもわずかになっていく。
「もう、大丈夫だよ」
そんなリズをアリスは抱き寄せて頭を撫でるとリズの震えもなくなってきた。
「あ、ありがとうございます‥‥」
震える声で答えるリズを更に抱き寄せるアリス――その光景は親子のようにも見えた。
最後とばかり強襲してくる海鳥キメラを、リズレットが銃撃して全滅させた。
それを確認したアリスは爆雷の方へ行くと船後方から爆雷を落とし始めた。
落とした爆雷を撃ちぬき――爆発させ、水柱が立つとみるみるうちにトビウオキメラの数が減っていった。
その後、第二波を警戒したが、キメラ達が出てくることは無かった。
●寄港
無事、傭兵たち一行は目的地である孤島にたどり着いた。
港から上陸してくる傭兵とリズ達、箱もリズもダメージもなく無事だ。
「おつかれちゃん☆」
市川が腕を上げ陽気な感じでリズに対して話しかける。
「お疲れ様ですっ」
それに応じるように陽気に答えるリズ。
「やぁ、ご苦労さん。さすがにコレほどまでとは思わなかったよ。ハッハッハ」
先程までの激しい戦闘をそ知らぬ顔で逆なでするように言うのは安全地帯にいた研究者。
「ん?それが君たちの仕事じゃないか。私は私の仕事をしたまでだ」
幾人かの傭兵が研究者を睨みつける形になったが、そんな事を気にしない研究者。
「じゃあ、これは持って行くよ」
「あっ‥‥」
リズの持っていた箱を受け取るとそそくさと消える研究者だった。
「あ、えっと。みなさんのお陰で無事にたどり着きました。ありがとうございます」
険悪な雰囲気を払うか様に傭兵たちの前で頭を下げてお礼をいうリズ。
(お礼を言ってばかりだな――何かできたらいいのに‥‥)
「‥‥依頼だから」
そう簡潔に答えるのはリズレット。
「依頼でも‥‥こうして依頼を受けてくれるのはありがたいですっ」
リズにとっては依頼の為でもあっても受けてくれてくれたことに感謝しているのだ。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「あなたも無事で何よりですね――まあこの匂いは簡単に落ちそうもありませんが」
苦笑しながら答える滝沢、リズ自身もだが傭兵たちもキメラとの戦闘のせいか魚臭さがしている。
「クリーニングをしないとこれは‥‥落ちなさそうですね」
滝沢のボヤキに他の傭兵たちも同意を示す。
「ともかく、無事に終わってよかった」
京子が煙草を取り出して一服すると、紫煙があたりに漂う。
その煙草の匂いはリズに離れた父を思い出す。
かくして「箱」は無事にたどり着き、傭兵達に守られた少女も無事にたどり着いた。
彼女の任務もあと少し。
どのような結末に至るかは――傭兵達次第。