タイトル:救援に向かえ!マスター:鋼野 タケシ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/27 00:17

●オープニング本文


 人は食事を取らなければ生きられない。それは戦争中でも同じことだ。
 最前線で戦う兵士たちへ送る水や食料。補給物資を貯蔵するための基地、それがここの役割だった。
「クソ、アイツら、ふざけやがって!」
 人間にとって食料が必要なように、キメラにも食料が必要となる。
 たまたま連中の食事に選ばれたのが、この貯蔵基地だった。
 小さな基地とはいえ、保存されている食料に加えて基地に勤める人間たちも居る。キメラにとっては、格好の餌場だろう。
「こんなオモチャみてぇな武器で、どうやってクソッタレのキメラ野郎に対抗しろってんだ!」
 突撃銃を振り回し、ユン兵長は叫んだ。
「落ち着けよユン。今更騒いだってどうにもならんだろう」
「コレが落ち着いていられるか! 突撃銃なんて豆鉄砲と変わりゃしねえ。対戦車ライフルでもなけりゃ、キメラの一匹も殺せねえだろうがよ!」
 基地に勤めるUPCの兵士たち。彼らの武装のほとんどは、対人戦闘を想定した突撃銃や狙撃銃だった。エミタを埋め込んだ能力者の一人も配置されていない。バグアとの戦いは能力者たちが主流になっているとは言え、エミタに適応できる能力者の数は決して多くないのだ。
 元々この基地は後方支援が目的であり、対バグア戦を想定していない。だが、彼らが主武装を対人装備としてる最大の理由は、他にある。
 後方基地に勤務する彼らにとって、警戒すべき対象は「バグア」ではなく「人間」なのだ。
 バグアの猛攻により無法地帯になりつつある中国では、食料をマトモに得られない人たちも決して少なくはない。豊富に食料を保存してある貯蔵基地を狙い、盗みを働く人間たちも少なからず存在する。
 飢えと乾きは人を鬼にも獣にも変える。だからこそ兵士たちは武装をし、基地に近付く人間たちへの抑止力となっていた。
「後方支援だからって、油断していたな」
 イアン・フェイが呟く。
 襲撃は突然だった。ごく少数での基地襲撃。確かにそれならば、警戒ラインに掛からずにすり抜けられるかも知れない。
 前線が瓦解しない限り、自分たちがキメラと交戦することはない。戦場に身を置いているという自覚はあるが、心のどこかでそんな甘えがあったのだろう。間違いなく安全と呼べる場所など、ないというのに。
 ユンの言うとおり、ただの突撃銃ではキメラに傷一つ負わせられない。対戦車ライフルやロケット砲も基地には用意されているが、使用する余裕もなく基地はキメラに蹂躙された。どんな強力な兵器だろうが、使われなければオモチャよりも役に立たない。
 多数の仲間がキメラの餌食になり、生き残った人間たちは倉庫に逃げ込んでいる。ここに居るのはイアン、ユンも含めてわずかに六人。うち、重傷者が二人。応急処置は施したが、このままでは死は免れないだろう。
 篭城と言えば聞こえは良いが、実情はただのかくれんぼだ。分厚い鉄の扉もキメラの攻撃を防ぐにはひ弱すぎる。
 イアン・フェイは頭を振って、弱気な空想を消し去った。こんなところで死ぬわけにはいかない。任務を満了して、国で待つ恋人のところへ生きて帰るのだ。
「援軍の要請は出しておいた。敵さんが俺たちを発見するのが先か、それとも能力者たちが助けに来るのが先か‥‥ココからは、運試しだな」
「畜生、俺にエミタがありゃあ、あんなヤツら一秒でぶっ飛ばしてやるのに‥‥」
 彼の部下たちが不安げな表情でイアンを見る。
 やるべきことはやった。今はただ、祈るだけだ。

●参加者一覧

夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
真白(gb1648
16歳・♀・SN
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
ラグナ=カルネージ(gb6706
18歳・♂・DG
山下・美千子(gb7775
15歳・♀・AA
クアッド・封(gc0779
28歳・♂・HD

●リプレイ本文

「‥‥行くか。真白、今日はよろしくな」
「はいっ、絶対に兵士さん達を助けましょう!」
 クアッド・封(gc0779)の呼び掛けに、ぐっ、と手を握って真白(gb1648)が答えた。
 静まり返った基地内にキメラの姿はない。所々に銃痕と返り血が飛び散り、時々死体が転がっていた。むせ返るような血の匂い。足音を立てないよう、救助班の二人は慎重に進む。
 静寂を突き刺すように、どこか遠くの方で銃声が響いた。
「どうやら向こうも、始まったようだな」

 ●
「コールサイン『Dame Angel』、現場に直行し兵士を救出。その障害となるキメラ群を排除するわよ」
 アンジェラ・D.S.(gb3967)が的確に指示を出す。彼女たちに与えられた任務は囮だ。別働の二人が生き残りを助け出すまで、キメラの目を引き付け、可能であれば殲滅する。
「さっさとキメラ倒して、早く助けてあげないと」
 山下・美千子(gb7775)が神妙な表情で呟く。
 どこかの前線基地へ届けられる予定だったのだろう。横倒しにされた装甲トラックから、食い荒らされた食料がこぼれていた。
 被害に遭ったのが食料だけならまだ良い。そこには兵士の死体も転がっている。無残な兵士の姿を見て、夜十字・信人(ga8235)が言った。
「油断だな」
「そうね。補給線を狙うのは兵法の常道という訳で。襲われる側には堪ったものではないけどね」
 アンジェラが答える。信人は腰から拳銃、フォルトゥナ・マヨールーを抜き空に向けた。
「この一件で、責任者の目が覚めることを祈るよ‥‥でなければ、犠牲になった兵も浮かばれん」
 上空に向けて一発。高らかに銃声が鳴り響いた。
「ゴングの代わり、と、言ったところかな? ‥‥突入する」
 引き裂かれた鋼鉄の扉を踏み越えて、四人は補給基地に突入した。銃声を聞き付けて集まったのか、犬型キメラ、グレイブドッグが、彼らを出迎えた。
「ヘッ、こいつは丁度良いぜ! 化け物がぞろぞろ居やがる!」
 ラグナ=カルネージ(gb6706)は敵の姿を見て、意気揚々と剣を構えた。
「探すまでもないわね。片っ端から駆逐する」
 グレイブドッグが雄たけびを上げる。一斉に走り出した犬型に向かい、アンジェラが冷静に制圧射撃を仕掛ける。
「動きが鈍ったところを各個撃破しましょう」
 弾丸の連射が犬型の動きを封ずる。撃ち出される弾丸の合間を縫うように、一匹のグレイブドッグが飛び出して来た。
 応戦するように、ラグナがグラファイトソードを構えた。鋭い爪の一撃がアーマーを掠める。
「手癖の悪い犬っころ共だぜ、躾が要るみてーだな!」
 降り抜いた大剣が、グレイブドッグの上半身を切り裂く。キメラは悲鳴を上げ、紅蓮のアーマーに返り血が舞った。
「物事はクールに終わらせたいものだが、今必要なのは、場を飲み込む狂気、か」
 信人が十字架大剣クルシフィクスを引き抜いた。
 狼や虎がどれほどのものか。獅子のように咆哮を上げ、一気に駆け出す。上段からクルシフィクスを振り下ろした。傷を負ったグレイブドッグを一刀両断に切り捨てる。
「各自、練力の消費には注意して」
 小柄な美千子を狙いやすい獲物と判断したのか、数体の犬型が千美子に向かって駆け出した。
 アサルトライフルのリロードを終えたアンジェラが、後方から援護射撃をする。二体のキメラが足を撃ち抜かれ、その場に転倒した。
 銃弾を避けて駆け寄ったキメラに、美千子はゾウキンシールドを突き出した。顔を近付けただけでも臭うゾウキンシールドだ。犬型のキメラなら優れた聴覚が仇になり、臭いに怯むに違いない。きっと。
 美千子の期待もむなしく、キメラは勢いをそのままに、鋭い爪を振り回した。ゾウキンシールドを構えた美千子は一撃を食らい、きゃあと悲鳴を上げながら、硬い床を転がる。
 戦場には死体と血、金属と火薬の燃え上がる悪臭が入り混じる。争いのために生まれたキメラにとって、ゾウキンの臭さは苦でもないのだ。多分。もしくは、キメラにも痩せ我慢という概念があるのだろうか?
 美千子は素早く立ち上がると、追撃の構えを取るグレイブドッグに向けて、お返しとばかりにおでんそーどを突き出した。
「狙うは一撃必殺! くらえ、てりゃー!」
 唸りを上げて牙を向けるグレイブドッグの眉間を、『両断剣』で破壊力を増した必殺のおでんが貫いた。脳を串刺しにされ、キメラが昏倒する。
「さぁー来い! 掛かって来い!」
 敵を引き付けるため、わざと大声を張り上げて、自らの存在をアピールする。犬型は目を血走らせて、ナイフのように鋭い歯を剥き出しにした。
「突出はしないこと。必ず一対多の優位な状況を確保して。次、右手から来る一匹に集中攻撃」
 前衛で果敢に戦う三人に向かい、アンジェラは冷静に指示を飛ばす。
 交戦の音に引き寄せられたのか、それとも仲間の血の匂いを嗅ぎ付けたのか、ウィアードタイガーが姿を現した。不気味な怪物は怒りの咆哮を上げる。
「何あの口裂け人面虎、うぅ気持ち悪。あんまり直視したくないなー」
 不気味な怪物の姿を見て、美千子が気味悪げに呟いた。
「ふん。ようやく気の利いた奴が出てきたな‥‥って、あんな爪とか牙とか喰らったら、痛いじゃないか、凄く」
「ハッ、鋼鉄も食い千切るんだってな? んじゃあ、テメーの大好物を食わせてやるぜ!」
 ラグナが叫び、大剣を構え直した。
「私は犬型を。数を減らすことに専念」
「じゃ、じゃあ私も犬型をー」
 小さい体で派手に暴れる美千子が目立つのか、それとも実はゾウキンの悪臭に辟易しているのか、犬型の多くは美千子を優先的に狙ってくる。おでんそーどを振り回し、美千子が果敢に応戦した。
「とう! くらえー!」
 アンジェラの射撃に阻まれてキメラの動きが止まる。その隙に、美千子がおでんの一撃で敵を串刺しにする。
 信人が剣を横に、水平に構える。素早く跳び回るウィアードタイガーの足を狙い、ソニックブームを放つ。衝撃波がウィアードタイガーを襲い、宙を舞っていた敵が床に落ちた。
「行くぜ、俺の必殺技パート2‥‥!」
 待ち構えていたかのように、ラグナの装着したAU−KVの腕が、稲妻のようにバチバチと閃いた。
「カァネイジ‥‥ブレイドォォォォ!」
 必殺剣の直撃を受けたウィーアードタイガーは吹き飛び、壁面に叩きつけられた。
「退屈凌ぎにはなったってとこか?」
 衝撃で壁が崩れ、砂埃が巻き上がる。だが、ウィアードタイガーはダメージをもろともせず、瓦礫の中から飛び出した。
 素早く駆け出すと、信人に向けて鋭い爪を振り回す。クルシフィクスを盾に、その一撃を受け止める。剣と爪がぶつかり合い、甲高い音を立てた。
「ずいぶん頑丈だな。まあ、良いさ。一度手をつけたら、残すな。と、教育を受けていてね。食事も、キメラも」
 ギリギリとせめぎ合うキメラと信人。パン、と乾いた音が響き、ウィアードタイガーの腕が吹き飛んだ。敵の虚を突くように、アンジェラが『強弾撃』で強化した銃弾を放ったのだ。
「油断大敵ね」
 一瞬の隙に、信人がフォルトゥナ・マヨールーを引き抜く。拳銃は赤い光を纏っている。
 残された弾丸は一発。ラグナのカーネイジブレイドで負った傷跡に向けて、引き金を引く。
 弾丸がウィアードタイガーの頭部を貫いた。

 ●
 戦闘の音が絶え間なく続いている。基地内に進入した敵のほとんどが、囮として大暴れする彼らの下に集っているようだ。
 互いの状況を報告しつつ、クアッドと真白は倉庫を目指す。血の跡が点々と続いている。生き残った人間の進んだ印だろう。この跡を追えば、生き残りの兵士たちと合流出来る。
 血の跡は、鋼鉄の門の前で途切れていた。兵士たちはこの扉にいるのだろう。もちろん、まだ生きていればの話だが。
「そちらの様子はどうですか?」
 真白が無線機を使い、囮班との連絡を取る。 
『大方片付いている。だが、まだ一部生き残りがいる』
 怪我人を連れて歩きながらキメラに遭遇すれば、圧倒的にコチラが不利だ。
「‥‥殲滅を待つ時間はないな」
 クアッドの言葉に真白が頷いた。怪我人がいる以上、余分な時間は掛けられない。
「これから救助対象と合流します。なるべく敵を引き付けてください」
 無線での通信を終えると、固く閉ざされた鋼鉄の門の向こう側へ、真白が呼び掛ける。
「救助に来ました、この扉を開けてください!」 
 彼女の声は戦闘音に紛れた。だが、扉の向こうに誰かがいるなら、声が伝わるだろう。
 何度か呼び掛け、返答を待つ。鋼鉄の扉はゆっくりと開いた。
 緊張した面持ちの兵士が二人、突撃銃を構えている。
「‥‥さて、助けに来たぞ」
「た、助かった!」
 クアッドの顔を見て、まだ少年と呼べるような若い兵士が安堵する。もう一人、鋭い目をした青年は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「しっ! まだ敵さんはいますからね」
 歓喜する少年兵に向かって、真白が忠告する。少年は頬を赤く染めてコクコクと頷いた。
 倉庫の奥から、一人の兵士が姿を見せる。彼は二人に向かって敬礼した。
「救援に感謝する。イアン・フェイ臨時小隊長だ。早速で悪いが、重傷者がいる」
「俺が診る。怪我人は?」
 倉庫の一番奥に、一人の兵士が横たわっていた。グレイブドッグにでも噛み付かれたのだろう。右足から左の上腕に掛けて巻かれた包帯が、真っ赤に染まっている。怪我の具合は酷く、一刻を争う状況だ。生き延びたとしても二度と戦場には立てないだろう。
「お、俺‥‥嫌だ、死にたくない‥‥」
 朦朧とした目で、若い兵士はクアッドを見る。
 脳裏に蘇る過去の光景。助けられなかった人々の顔が、フラッシュバックのように現れては消える。
 クアッドは頭を振り、苦い思い出を振り払った。今、助けを求めている声はどこから聞こえる?
 過去の暗闇ではない。目の前に苦しんでいる人間がいる。最善を尽くす。すべてはそれからだ。
「‥‥ふん、まだ大丈夫だ。死ぬのが怖けりゃ楽にしてやる、が‥‥今は、生きて帰って、好きな女の面を拝めると思え。まだ頑張れるだろ?」
 もう一人、座り込んで木箱に寄り掛かる男が居た。彼は左腕がズタズタに引き裂かれていた。荒い息を吐きながら、抱き締めるように突撃銃を片手で持っている。こちらも放って置けば衰弱死しかねないが、まだ十分に治療は間に合う。
 緊急セットで行える治療には限界がある。物資が足りずに救えなかった命が、今までどれだけあっただろう。それでも、クアッドは元軍医としての最善を尽くした。慣れた手つきで、迅速かつ丁寧に治療を行う。
 真白は敵の襲撃を警戒しつつ、無線機で状況を伝えた。
「生き残った皆さんと合流しましたっ。逃げ道の確保をお願いします!」 
『了解ッ! 大暴れしてやるぜ!』
 ラグナの叫び声が無線機から伝わる。
 敵が潜んでいる以上、囮班が暴れている隙に脱出するのが得策だ。
「皆さん、私の仲間たちが囮になって戦っています。今のうちに脱出しましょう! あっ、兵士の皆さんは一箇所に固まって行動してくださいね。守る時に大変ですからっ」
「了解だ。‥‥ユン、手を貸してくれ」
 小隊長が重傷者を背負う。片腕をなくした男は、ユンと呼ばれた兵士に支えられて立ち上がる。
 生き残った兵士はわずか六人。重傷者の二人を除いても、四人とも肉体的、精神的にも疲労の限界にあるようだった。
 兵士と共に、救助班は部屋を後にする。

「痛い‥‥痛いよ、死んじまう‥‥」
「泣き言を言うな。しっかりしろ。もうすぐ出口だ」
 小隊長の背負った重傷人を励ますように、クアッドが告げる。
 戦闘の音に混じり、唸るような声が聞こえる。囮に引き寄せられなかったのか、それとも血の匂いを嗅ぎ付けたか、グレイブドッグが一体、背後に姿を見せた。
「私が戦います。クアッドさんは、兵士さんたちをっ」
 クアッドは頷くと、怪我人の下に戻る。最も怪我の激しい兵士の顔色が、更に悪くなっている。
 衰弱は一層酷くなっている。このままでは、彼の死は時間の問題だ。
 また、あの時と同じなのだろうか。見捨てなければならないのだろうか。
「‥‥そいつを乗せろ。こいつで外まで運ぶ」
 バイク形態のAU−KVの後部座席を指差す。
「‥‥死なせない。あの頃は出来なかった事が、今は出来るんだからな」
「ここは任せて下さいっ」
 後部座席に重傷の兵士を乗せて、クアッドが走り去る。
 兵士とグレイブドッグの直線上に真白が立ちはだかった。拳銃「ライスナー」を構える。
 グレイブドッグが近寄るよりも早く、真白が拳銃を発砲する。『狙撃眼』で、遠く離れたキメラの体を的確に撃ち抜いていた。
 弱ったキメラは動きを止めるどころか、一層素早く駆け出した。怒りに血走った真っ赤な目、血のこびりついた牙の列。
 真白はゆっくりと拳銃を構え直す。狙うはグレイブドッグの頭部。どれだけ頑丈な肉体をしていようと、頭部への一撃は大ダメージを免れない。
 弾丸が飛び出す。急所を狙った一発の銃弾が、グレイブドッグを貫いた。走る勢いをそのままに、絶命したグレイブドッグは床を転がった。
 ふぅ、と息を吐くと、真白が兵士たちに向き直る。太陽のような笑顔で、兵士たちに語り掛けた。
「さぁっもう大丈夫です! 急ぎましょう皆さん!」
 彼女の快活さに触れ、小隊長の顔に笑みが戻った。
「すまない。キミたちのおかげで、無事に生き延びられそうだ」
 例を告げる小隊長に向かい、真白は笑顔を向けた。
「気にしないで下さい。助けを求める人を助ける為に、私はいますからね!」

 ●
『‥‥俺が運んだ兵士は無事だ。一命は取り留めた』
 クアッドの通信を聞き、真白が安堵の溜息を吐く。生き残った六人を、これで無事に救出できた。任務は完了だ。
 医療班を待つ信人は、懐から煙草を取り出し、紫煙をくゆらせた。
「皆さん、お疲れ様でした!」
 水筒に入れた暖かい紅茶を、真白がみんなに振舞う。
「秋積みのダージリンね」
 手渡されたお茶を一口飲み、アンジェラが呟いた。
「わかるんですか?」
「ええ。秋の茶葉は香りは弱いけど、しっかりした味になるのよ」
「詳しいんですね、紅茶」
 アンジェラは黙って頷くと、紅茶を堪能していた。素顔を見せないラグナはこっそりと隠れて、紅茶を飲み干していた。
「よーし、終わり。あーお腹すいた。何かあったかい物でも食べたいなー」
 紅茶を飲み干して胃を刺激されたのか、美千子がじゅるりと涎を垂らす。彼女の視線の先には、おでんそーど。
 刀身には退治したキメラの血がべったりと付いている。とても噛り付く気にはなれなかった。
「‥‥お腹空いた」
 食事も嗜好品も、生きていられるからこその喜びだ。
 生き残った兵士たちは彼らに感謝の意を伝え、犠牲になった仲間たちに黙祷を捧げた。