タイトル:五十壮年冒険記マスター:鋼野 タケシ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/03 17:24

●オープニング本文


 ULTへ届けられた緊急の依頼。
 中国西部に広がる崑崙山脈。その麓にある小さな村が、キメラの軍勢に蹂躙されているというのだ。
 キメラ討伐の依頼を受けた貴方たちは、被害の拡大を抑えるため、すぐに現場へ向かった。 
 舗装されていない荒れ果てた道を駆ける。助けを求める人々のため、凶悪なキメラを討伐するため。それぞれの思いを胸に秘め、傭兵たちはキメラの待つ戦場へと突き進んだ。
「うむ、諸君! 良くぞ来てくれた!」
 そこで貴方たちを待ち構えていたのは、一人の壮年の紳士だった。
 体力的にも衰えの見え始める年頃だろうが、しっかりと鍛え上げられた肉体は無駄な贅肉もなく、しなやかなや筋肉で覆われている。良く手入れされた口ひげを撫で付けながら、紳士は満足げに頷いた。
「諸君らに会えて光栄に思うよ。ああ、私のことはミスター・ネモと呼んでくれたまえ」
 村の通りでは子供たちが駆け回り、川辺では母親たちが洗濯をしている。
 どこを見回しても、キメラは影も形もない。当然、軍勢に蹂躙された痕跡などまったくない。聞こえて来るのは子供たちのはしゃぐ声と、母親たちの楽しそうな会話の声。
「諸君、ジュール・ヴェルヌは好きかな? 私は大好きだ。うむ、彼の書く冒険小説は実にエキサイティングでファンタスティックだからな。そうだろう?」
 困惑する貴方たちを無視して、ミスター・ネモの話は続く。
「すでに察しの良い諸君ならお気付きだろう。依頼を出したのは私だ。モチロン、キメラの話はウソだ」
 悪びれもせずに言い、老人は口ひげを捻った。
「何だねその顔は? 呆れているようにも見えるから気をつけたまえ。ところで、何故ウソを吐いたか知りたいかね? うむ、そうだろう。だって、ウソでも吐かなけりゃ傭兵が力を貸してくれないんだもの」 
 ミスター・ネモの話はこうだ。
 数々の神話や伝説の残る崑崙山。その名を冠する山脈のどこかに、地底に通じる洞窟があり、その中には地底人の残した金銀財宝が眠っているのだという。彼はその宝を一目見るために、この山に登ることを決意した。
 ところが、彼には登山の経験もなければ、危険から身を守るような力もない。そこで、貴方たち傭兵の力を借りたいのだという。
「私はこう見えても作家を営んでいてね。世界的なヒットをいくつも飛ばしている。『ジョニー・デッカーと魔法のふんどし』は読んだことがあるだろう? 何、知らない? まったく、どこの出身だね? まぁ良い。そんなことより宝だよ。コレを見たまえ諸君。これは私がとある筋から入手した地図でね」
 ミスター・ネモは古びた羊皮紙を開いた。そこには地図(に見えなくもない落書き)が描かれていた。
 呆れかえる一行を無視して、ミスター・ネモは身振り、手振りを交えて熱弁を振るう。
「この地図が指し示すポイントには目星が付いている。私は確信しているのだ! 崑崙山脈に宝は眠っている! 近隣住民の誰もが、口を揃えて『宝など聞いたこともない』と答えた。人はウソを吐く時、必要以上に事実を否定したがるものだ。そう、まさにニンジャの実在を否定する日本人のように。すなわち、彼らはこの山に宝が眠っていることを知っている。それも私の確信を強める要素となった。冒険小説家として一皮向けるために、私は自らの手でこの冒険を成功させたいのだ!」
 貴方たちの思いをよそに、ミスター・ネモの話は続く。時には頭を振り乱し、時には目に涙を浮かべ、彼は自らの夢とその半生を語り始めた。
 通り過ぎる村人の誰も、彼の奇行を気に留める者はいない。
 ミスター・ネモは長々と話を続けたあと、貴方たちに向けて言った。
「諸君、協力してくれるのだろう?」

●参加者一覧

雨霧 零(ga4508
24歳・♀・SN
優(ga8480
23歳・♀・DF
ロジーナ=シュルツ(gb3044
14歳・♀・DG
黒瀬 レオ(gb9668
20歳・♂・AA
リュティア・アマリリス(gc0778
22歳・♀・FC
吹雪 蒼牙(gc0781
18歳・♂・FC

●リプレイ本文

●『ネモ隊長率いるノーチラス隊による崑崙山脈冒険記録:一日目』
 天気は快晴。風は微風。とうとう本物の冒険が始まる。私ことネモ隊長率いるノーチラス隊は、まずは冒険の準備をすることに決めた。供えあれば憂いなし。私は隊員たちに山での注意を説く。彼らは私に尊敬の眼差しを向けた。必要な知識の共有、食料と道具の確保。準備が終わればすぐに出発だ‥‥

「うぇ‥‥キメラどこぉ? いないよそんなの。変なのぉ‥‥宝探し‥‥? へんなひとがいるよぉ、レオ」
「こらっ、変な人って言っちゃだめ! 指差すのもだめ!」
 まるで不審な人物でも見るように、ロジーナ=シュルツ(gb3044)はジイッとネモを見つめている。黒瀬 レオ(gb9668)の背後に隠れて、その背中に引っ付いていた。
「はっはっは。不思議な子だ」
 気にした様子もなく、ネモは笑う。
「ところで‥‥嘘まで吐いて僕らを呼び出して、これで宝物がなかったら海底数万マイルに沈みたいって言う事で良いんですよね?」
 レオが満面の笑みで恐ろしいことを口走る。ミスター・ネモは言葉の意味に気付いていないのか、素知らぬ顔で、パイプを吹かしている。
「うむ! 良い考えだ。海底にも夢はあるな。浪漫だよ浪漫。それこそが人を突き動かす原動力なのだ! バグアだのなんだのと、宇宙人がハバを利かせているからといって、浪漫を忘れてはいけない」
「おぉ、冒険こそ浪漫、宝物こそ夢だねっ! 謎の霊峰! 秘密の洞窟に地底人の残した財宝は実在した! なんて感じの探検隊だね!」
 ノリノリで同意を示すのは雨霧 零(ga4508)だ。 雫はネモと同等、あるいはそれ以上に楽しそうな表情を浮かべている。
「探検隊の名前はノーチラス隊なんてどうだい? 勿論隊長はネモ君、キミだ!」
「素晴らしい考えだ! 雫君、キミとは話が合いそうだよ。うむ、我々をノーチラス隊と呼称しよう!」
 我らノーチラス探検隊! ともう一度口に出し、ネモは満足げに頷いた。
「キメラ退治の依頼は傭兵を呼ぶための方便だったんですね。正式に依頼として来ているので、護衛任務だと気持ちを切り替えて望むことに致しましょう」
「キメラの情報が嘘で本当に良かったです‥‥」
 リュティア・アマリリス(gc0778)の言葉に、優(ga8480)が同意を示して頷いた。
「ただ、嘘を吐いたことで多くの人が迷惑を被ったはずです」
 すでに本部へと連絡し、事情は説明してある。注意や処罰については一週間だけ待ってもらうようお願いをしていた。だが、依頼が終わったあとは、本部からの厳重注意を受けてもらわなければならない。
「ところでキミたちに山に登る上での心得を教えてあげよう」
 もったいぶって六人を集めたミスター・ネモは、全員の顔を見回してからこう言った。
「クマと遭遇したら、しんだふり。以上」
 それで満足と言わんばかりに、ネモは一人でうむうむと唸っている。
 見かねた吹雪 蒼牙(gc0781)が、サバイバルの知識を仲間たちに教示した。
「備え有れば憂いなし、ってよく言うからね。吹雪先生のサバイバル講座の時間ですよ」
「うむ。良い言葉だ」
 未経験者が多い中、蒼牙の持つサバイバルの知識は非常に役に立つ。『山で注意すること』『危険な行為』の二つを中心に講義は続く。
 熱心にメモを取るミスター・ネモ。だか良く見れば、でかでかと『備え有れば憂いなし』という言葉だけが書かれていた。
「質問有るかな? 有る人は挙手でお願いします」
 優が手を挙げて、山中での注意事項を確認する。雫は食べられる野草について確認をしていた。
 吹雪先生のサバイバル講座が終了した後は、登山のための作戦会議になった。
 ミスター・ネモは大きなリュックサックを七人分用意していた。中身は万年筆と原稿用紙。固形燃料にマッチ、アーミーナイフが一本。食料の一つも入っていない。これで一週間のサバイバルに耐えるのは無理があるだろう。
 結局六人は、麓の村で準備を進めることになった。食事係を務めるリュティアは食材や保存食を集める。村人たちは安価で調味料や食料を譲ってくれた。もちろん、代金は依頼主であるミスター・ネモが払っている。傭兵たちが用意した道具を今回の探索で消費した場合、ネモがすべて補充することも約束した。何としても、今回の探検を成功に導きたいらしい。
 すべての準備を終えて、いよいよノーチラス隊は冒険に出発した。
 蒼牙あらため、コードネーム:ストームが六人に先行し、安全を確保する。
 空気は澄み渡り、空には輝く太陽。眼下には壮大な大自然がどこまでも広がっていた。興奮気味のミスター・ネモはずんずんと進み続ける。危険がないよう、ロジーナとレオが露払いを務めた。
 順調に山道を進み、中腹にある開けた場所に到着する。日が沈む前に、その地点にテントを張った。彼らは村人の厚意で、ダッチオーブンの代理になる鋳鉄製の深鍋やテントなどの道具を借り受けていた。
「はい、今日はカレーですよ」
 早速、食事係のリュティナがその敏腕を振るう。全員が彼女の作った食事に舌鼓を打つ。
 夜は交代で見張りを立て、それぞれが休息につく。熟睡し切ったネモの分まで、レオが見張りに付いた。彼はロジーナの分まで見張りを買って出た。
 こうして、ノーチラス探検隊の初日は順調に終了した。

●『ネモ隊長率いるノーチラス隊による崑崙山脈冒険記録:三日目』
 探索行も今日で三日目を迎える。隊員たちとの絆を深めるには十分な時間だ。共に苦難を分かち合った者たちには、それだけ深い絆が生まれるというものだ。六人の隊員全員が、私を隊長として信頼しているのがわかる。我々は目的達成のために、一枚岩のように硬い結束に守られていた‥‥

 代わり映えのしない景色が三日ほど続いている。キメラ退治のエキスパートとはいえ、流石に隊員たちにも疲労の色が見え始めた。
「もう疲れたもん。帰りたい、帰ろ? ねぇねぇ」
 レオの服の裾を引っ張りながら、ロジーナが不満の声を上げる。
「もうちょっとで終わりだから我慢しよ? 終わったらレモンケーキ買ってあげるから」
 不満を零すロジーナを背負い、再びレオは歩き出す。
「‥‥レオ、ボクの親友になってもいいよ?」
「はいはい、わかったから。ちょっとしたらまた歩くんだよ?」
 ロジーナはレオに背負われながら、山道を進んだ。ふと、風の音に混じり、何かの転がる音が聞こえる。
『こちらストーム。昨晩の雨で地盤が緩んでるようだ。先に進む時は注意して』
 ストームからの通信が入る。先頭の二人は警戒を怠らずに進んだ。レオの背中に乗りながら、ロジーナも周囲を注視する。山道は滑りやすく、もし足を踏み外しでもすれば、ひとたまりも無いだろう。
 慎重に進む彼らの耳に、微かな地鳴りが聞こえる。
「あ。ごろごろが来るよ。ごろごろ」
 頭上の山道から、大岩が転がって来る。ロジーナはレオの背中から飛び降りると、機械剣βを構えた。
「下がって! みんな後ろへ!」
 ネモを庇うように優が立つ。レオは凍瀧を構え、ロジーナと共に大岩を迎え撃った。転がる岩を両断し、崖下へと落す。奈落の底へ落下する岩の破片。
「ばいばい。もうこっちに来ても大丈夫だよぉ」
「うむ、流石は百戦錬磨のノーチラス隊員!」
 隊員たちの活躍に、ミスター・ネモも大満足だった。
 地図によれば、すでに目的地は半分の距離もない。
「次はあっちに進んでみよう」
 分かれ道。何を根拠に判断したのか、ミスター・ネモは適当に道を選んで歩き出す。全員で立てた移動計画を忘れているとしか思えなかった。
「待ってください、ネモさん」
 優がネモの行動を制止する。彼女は地図を広げると、現在地と思われる場所を指差した。
「昨日までの移動距離から、ここが現在地だと思われます。目標地点に近付くにはこちらを進むべきだと思いますが、どうでしょうか?」
「うむ‥‥たしかに。素晴らしい着眼点だ。実は私もそう思っていたのだよ。それじゃ、そちらに進もうか」
 あくまでも提案という形で、優がネモを上手に誘導する。危険予知能力がないのか、ずんずんと突き進むネモを六人が上手くフォローする。水と食料も、優が言わなければネモが勝手に使い切っていたことだろう。
『‥‥野生の熊が付近に巣を作っているよ。こちらに危害を加えるつもりはなさそうだけど、なるべく近付かないで』
「うむ。ちょっと見てみたいかも」
「ネモさん、今日のうちに進んでおかないと目的地にたどり着けないかも知れません」
「そうであった。我々は目的に向かって突き進むのみ!」
 傭兵たちが彼を助けているおかげで、何とか全員無事に探検を続けることが出来た。その日は山沿いの道にキャンプを張る。準備しておいた食材は今日で尽きてしまった。残りはいくつかの保存食と、現地調達で賄うしかない。それでもリュティアは心配そうな顔を見せない。
「料理はアイディアと工夫次第、腕の見せ所です♪」
 手元にある食材を上手く使い、リュティアは次々と料理をこなしていく。食事は体力だけでなく、人の気力も回復させる。軍隊でも糧食の重要性は認識されている。今回の探検に彼女が同行していたのは僥倖と言えるだろう。
「ねぇへんなひと。なんでこんなことするのぉ?」
 食事を終え、尋ねたのはロジーナだ。彼女は疑問に思っていたことを、率直にネモにぶつけた。
「地図がニセモノだったらどうするのぉ? ニセモノかも知れないのに、なんでこんなに自信たっぷりなのぉ?」
「よくぞ聞いてくれたロジーナ君。地図が本物かどうかは関係ないのだよ。大切なのはそこに浪漫があるということだ。それに、この地図は高かった。どこも戦争状態にあるこのご時世、誰がニセモノの地図をこしらえてまで人を騙そうとするかね? つまりコレは本物なのだ。安心したまえ」
 ネモは自分の言葉に関心したように、うむうむと頷いている。根拠のかけらもないのに自信満々らしい。ロジーナは、困ったようにレオにすがりつく。
「レオー、やっぱりへんなひとだよお」
 徹夜の見張りによる疲れも見せず、レオは苦笑いを浮かべていた。
「‥‥単なる浪漫でこんな危険なとこに来る、のかな?」
 レオの呟きはネモの耳には届いていないようだった。

●『ネモ隊長率いるノーチラス隊による崑崙山脈冒険記録:六日目』
 我々は宝の待つ洞窟を発見した。正直に言えば、望みは薄かったのだ。我々ノーチラス隊に許された期間は七日間しかなかった。
 だが我々はついにやりとげた! 宝を目の前にした時、私はそう思った。その時は、こんな結末は予期できなかった‥‥

『こちらストーム!』
 ストームの声が無線機から聞こえて来る。雑音が混じり、上手く声が聞き取れない
「‥‥どうしたストーム? 状況を報告しろ」
 雫が無線機を手に、楽しげにストームの無線を受ける。
『洞窟を発見した! 多分、地図にあるポイントだと思う!』
 ストームの報告を受け、ノーチラス隊に衝撃が走る。彼の発見した洞窟は、地底人が財宝を隠したという洞窟なのだろうか?
「とうとうこの時が! 諸君、急ごうではないか!」
 逸る気持ちを抑えられず、ミスター・ネモが早足で進む。
 連絡のあったポイントまでたどり着くと、まるで人工的に隠されたような洞窟があった。
「隊長‥‥あの洞窟はまさか!」
「うむ、間違いない!」
 暗い淵を覗かせている洞窟は、まるで地の底まで続いているようにも思えた。
「隊長、ここは自分が!」
 雫が先頭に立ち、洞窟の奥深くまで突き進んでいく。ランタンに火を灯し、ノーチラス隊は洞窟の奥に進んで行った。
 コウモリが彼らの頭上を飛び交う。どこか遠くから水の音が聞こえた。不気味に広がる暗い洞穴を、探検隊は進む。
 彼らの目に、その光景は飛び込んできた。いったい誰が予想しただろうか? 洞窟の奥底、天井に大穴が開いている開けた場所に、大きな木箱が積まれている。中身はわからないが、どう見ても自然の産物ではない。天井の穴から光が差し込み、まるで本物の宝のように見えた。
「‥‥あの地図は本物だったのですね‥‥凄く驚きました」
「ついに! ついに私の冒険が成功した!」
 ミスター・ネモは感涙にむせび泣いている。
「びっくり。よかったね、へんなひと」
 ネモが涙を拭き、宝の箱に向かって一歩を踏み出した。だがその時、突然足元の地面が揺れ始め、天井からパラパラと砂が落ちて来たのだ。
「地震!?」
 地響きは段々と大きくなっている。徐々に洞窟の壁が崩れ始めた。天井が崩れ、次々と岩が落下してくる。
「い、いかん!」
 ネモは慌てて宝の下へ走り出した。だが、崩れ始めた洞窟が木箱を押しつぶしてしまう。危うくネモが落石の下敷きになる直前、リュティアが彼を押し止める。
「失礼致します」
 軽々とネモの体を持ち上げると、『迅雷』で一気に駆け抜ける。
「な、なにをするのだ! ああ、私の浪漫が!」
「あそこ。がらがらするよ」
「宝より命の方が大事でしょ!」
「引きましょう、こちらへ」
『退路は確保してる! すぐに戻って!』
 轟音を立てながら、洞窟は崩落を始めた。無事脱出を果たした探検隊の後ろで、入り口は落石により埋まってしまう。謎の木箱もろとも、地中奥深くに没してしまった。
 ネモはがっくりと肩を落し、その場にヒザを付いた。あの箱は何だったのだろうか? もはや確認する術はない。
「あの、どうか気を落とされずに。次のチャンスがきっとありますから」
「宝物が無くても、そこには夢があったじゃないか!」
 夕日が彼らを照らしている。ネモ一人だけが、涙を流し続けていた。
 
●『ネモ隊長率いるノーチラス隊による崑崙山脈冒険記録:あとがき』
 こうして今回の探検は幕を降ろした。だが地球のいたるところ、まだ浪漫は眠っている。
 そう、浪漫を求める心がある限り、ノーチラス隊の冒険は終わらないのだ‥‥

 結局、地底人の宝とやらの真偽はわからずじまいだった。だが、六人の活躍で彼らは怪我一つなく麓へ帰ることが出来た。
 ミスター・ネモは山を降りると、六人の前から忽然と姿を消していた。嘘の依頼を出したことで怒られるのを恐れて逃げ出したのだろうか? 一言だけ、隊長からの書き置きが残されていた。
『諸君たちから受けた恩は忘れない。この経験を本として出版した後、私はすぐに次の冒険を探すつもりだ。浪漫が私を呼んでいる! ノーチラス隊の冒険は終わらない! また会おう、諸君。ネモ隊長より友情を込めて』
 とにかく、懲りていないことは確かなようだ。
 それからしばらくして、手作りの潜水艇を作っている男の噂が、六人の耳に入ったとか、入らないとか。
「浪漫だよ浪漫。それこそが人を突き動かす原動力なのだ!」