●リプレイ本文
●初めての任務(と書いておつかい)
「‥‥ん」
集合場所には既に他の面子は揃っていて、ネザー(
ga4003)は眠い目を擦りながら急いだ。
「す、すいません、遅くなってしまって」
彼自身の初めての任務ということで、前日は結局一睡も出来なかったようだ。何度も所持品のチェックを繰り返し、そのまま朝日をぼんやりと眺めていたのはついさっきのこと。
焦るネザーを労うかのように、エルファリア・レーヴェ(
ga1287)が優しく微笑みかける。
「大丈夫ですよ、まだ時間にはなっていませんし。それに、私も初めての任務に少し緊張してますから、お互い様です」
そう言う彼女の表情も、どこか固い様子は否めない。
そんな二人にお気楽な声をかけたのは、少し派手な顔立ちのフェブ・ル・アール(
ga0655)。鉄籠や荷車といった前もって準備された物を高速艇へ詰め込みながら、彼女はへろっと笑った。
「二人とも。そんなに固く考えなくてもだーいじょうぶ。収穫だけなんて楽勝じゃん!」
勿論、芯から気を抜いているワケではない。
あくまでも表面的なお気楽さを演出しているのだ。
どこか解れた雰囲気の中、奉丈・遮那(
ga0352)が割って入る形でネザーに問う。
「この装置も全部運び込みますね」
「あ、はい。ありがとうございます」
鼠避けを狙った簡易的な超音波発信器。退路を確保する意味で提案された機器を、ネザーは大量に準備していた。当然、その分嵩張る代物だ。
はたして、キメラ相手に効果があるのかは不明だが、やらないよりはマシだろう。
仮に講じた手段が無駄に終わろうと、次の作戦への情報として引き継げばいいだけだ。
(「気休め程度だけど、ないよりはいいよね」)
それらの荷物を運び込みながら胸中で呟いた銀野 すばる(
ga0472)の言葉は、おそらくこの場にいる『能力者』の誰もが解っていることだろう。
「これで荷物は全部か?」
高速艇側で運び込みを行っていた白鐘剣一郎(
ga0184)がそう確認するのを、彼女は「うん」と頷いて返事をする。
その言葉を受けて、彼はもう一度確認するように周囲を窺う。この場に集まった同じ仲間達の視線が自分を見てることに気付き、意気込みを強く告げた。
「食糧確保も重要な任務だ、確実に確保していこう」
「任務遂行、頑張りま〜っす!」
場を盛り上げるようなすばるの声が、元気よく響き渡った。
●収穫
「‥‥駄目、かな?」
すばるの問いに、キーラン・ジェラルディ(
ga0477)は小さく肩を竦めるだけだ。
「そうですね。鍵もないし、ガソリンも切れています。何より――タイヤがズタズタですから」
なんとか現地でトラックでも調達出来ないか、と考えた彼女。
だが、現実はそう甘くなかった。そもそも既に生活圏にはないエリア、加えて放置された車に鍵などついているわけもなく。
ズタズタになったタイヤは、間違いなくキメララットの仕業だろうとキーランは考えている。それもあって、周囲への注意を怠る事はしない。
そこへ、別方面に車を探しに行ったネザーが戻ってきた。
落胆した表情から、こちらも成果は芳しくないようだ。
「こちらも駄目ですね。どれもこれも、キメラの影響で廃車寸前のものばかりでした」
「やはり、運搬は荷車で運ぶしかないようですね」
そう告げた遮那の隣には、既に荷車が準備されている。
その上には、鉄製の籠が何個も載っている。
「かぼちゃって結構重いから、収穫は全身運動になりそうだね〜」
がんばるぞー、と声を上げるオアシス・緑・ヤヴァ(
ga0430)は今から楽しみでしょうがないといった態度を全身で表している。
「行くなら今のうちです。今ならまだキメラの姿は見えませんから」
双眼鏡で確認していたエルファリアの言に従って、収穫班は農園へと向かう。フェブの陽気な歌声を乗せて、荷車がゆらゆらと。
彼らを見送る形で残った二人――キーランとエルファリアは、互いに顔を向けて視線を合わせる。
「では俺達も行きますか」
「はい。今回はよろしくお願いしますね、キーランさん」
「こちらこそ」
キーランの手には、アサルトライフル。
エルファリアはアーチェリーボウを手に持ち、そのまま周囲の警戒へと視線を張巡らせた。
人の手が入らない農園は、多くの雑草が生えていたが、その中にあってもその南瓜畑は見事なまでに熟れた実を付けていた。
なるほど。
確かに此れほどのモノなら、どうしても収穫して欲しいという依頼人の気持ちも分かる。
「とはいえ、大した力仕事になるか」
剣一郎は苦笑するとともに、手近に目に付いた南瓜の実をアーミーナイフで切り落とした。片手で抱える程の大きさは、重さもそれなりにあるようだ。
彼の隣では、遮那が南瓜の実を棒で何度か突いていた。
「剣一郎さん、まずパーッと刈り取りませんか? その方が効率がいいでしょうし」
「そうだな。一個一個やっていては、いざという時に――」
「うわぁっ!?」
突然上がった悲鳴。
ハッと振り返れば、オアシスの手にした南瓜が跳ねるようにして飛び出し、彼女へと体当たりしていた。先ず小ぶりのものを、と彼女は選んでいたのだが、どうやらそれがヒットしたらしい。
それも一個や二個じゃない。彼女の周辺に集まる一回り小さな南瓜――否、南瓜型キメラ。
「一撃必殺ぅ―っ!」
とっさのことに対応が遅れたオアシスに代わって、すぐ近くにいたすばるが掛け声とともに拳の一撃を放つ。
さすがに南瓜を模しているだけあって、その皮は固い。
だが、すぐに体勢を立て直したオアシスの追撃もあって、南瓜型キメラ――通称ミニミニ・ジャックはあっさりと砕け散った。
勿論、彼女達を囲んでいるのは一体ではない。
二人に群がろうとする他のキメラが、はたしてどうなったかというと――。
「ふふん、こんなこったろうと思ったよ。科学者ってのはすげぇな」
元々、その辺一帯にある南瓜をスコープから見て怪しんでいたフェブの小銃からの連弾で、幾つかの南瓜は無残にも地面へ落ちていく。
感心するように隣のネザーを見ながら、彼女は決めのポーズを取る。背中に下げた籠がやや場違いな気もするが、気にしちゃあいけない。
「キメラとて所詮は生物ですから。いくら擬態したところで熱量までは誤魔化せませんよ」
得意げに語る彼だったが、内心では散らばるミニミニ・ジャックの破片をなんとか持ち帰れないだろうか、と考えを張り巡らせていた。
そんな戦闘シーンを後目に剣一郎と遮那は、せっせと南瓜刈りに精を出している。
あの程度なら任せても大丈夫だろうと判断したためだ。
「この分ならノルマの方も大丈夫ですね」
周囲を警戒しつつ、拾い集める遮那。
どうやら南瓜型のキメラは、この農園の南瓜に比べて一回り小さいモノらしい。ならば、なるべく大きなものを選び、彼は籠へと入れていった。
「万一に備えて、2、3個は予備に確保しておくか」
しっかりと鉄の籠の蓋を閉め、テキパキと荷車へ乗せていく剣一郎。
他の仲間の分も受けとり、しっかりと固定していく。うっかり落としでもすれば大変だ。
「これで最後か」
オアシスから手渡された籠を受け取って確認すると、彼女は元気よく頷いた。
「うん。そういえば、キメララットの方は見なかったね。かぼちゃならわんさかいたのに」
「ひょっとしてもうこの辺にはいないのかも」
そんな安穏としたすばるの一言は、次の瞬間地鳴りにも似た音によって否定された。
「え?」
「まさか」
「そりゃないにょ‥‥」
彼らは見た。群れをなして押し寄せる畑の上を唸りの波を。
殆ど反射的に剣一郎は叫んだ。
「急げ!!」
それが合図となって、六人は一斉にダッシュした。
「――もうこの辺りにはいないようですね」
「そうですね。おそらくあらかた片付けたのでは‥‥」
「キーランさん?」
言葉を途切れさせたキーランに、エルファリアは不思議そうに振り向く。
そして――彼女もまた、彼が目に留めた方向を見て固まった。青褪める二人だったが、すぐに気を取り直してそれぞれに武器を構える。
「エルファリアさんは真ん中を狙って下さい。俺は右側を」
「わかりました」
駆け寄る音。
荷車の車輪がガラガラと音を立てる様はどこか悲鳴のように聞こえる。それら雑音に気をとられることなく、二人の集中が高まっていく。
「――いきます!」
エルファリアの手元から放たれた矢は、群れを為すキメララットの真ん中に勢いよく命中した。体勢が崩れるキメラ達。それを見越したキーランの銃身が火を噴き、次々と足止めしていく。当然、荷車を護衛している者達の尽力もあり、なんとか追いつかれずに済みそうだ。
その事を視界で確認すると、荷車が通り過ぎてからすぐさま二人ともまた撤退の道を選んだ。
かくして――収穫した南瓜に被害を与えることなく、彼らは無事に高速艇まで帰り着いた。
●南瓜パーティー
色とりどりに飾られた店内は、そこかしこに南瓜のいい匂いを充満させている。
参加者は、思い思いの扮装に身を包み、賑やかに楽しんでいた。そこへ訪れた者の姿に気付くと、主催の少女は「あっ」と声を上げながら喜んで近付いた。
「今宵はお招き頂きありがとう、お嬢さん」
優雅に微笑む剣一郎は、吸血鬼の扮した格好で恭しく頭を垂れた。長身の彼にそうまでされ、少女は思わず顔を赤らめる。
「いえ、こちらこそありがとうございました。皆さんが収穫してくれた南瓜のおかげで、なんとか料理の方も足りそうです」
「あなたの料理の腕は評判みたいですからね。楽しみにして来ましたよ」
犬耳と付け鼻の格好の遮那は、どこか滑稽だ。本人は狼男のつもりらしい。
思わず噴き出しそうになるのを少女は必死で堪える。その横でオアシスがちょんちょんと肩を叩く。
「あのね、なんか面白そうな衣装ってある?」
「え?」
「一応魔女の服装にしてきたつもりなんだけど、他にも何かあったら色々着てみたいなぁと思って」
「勿論、仮想用の衣装でしたら、手を尽くして集めましたから。もしよかったら皆さんも衣装替えしても構いませんよ」
「うわー面白そう!」
蝙蝠に似た翼を背につけ、サキュバスな格好をしたすばるは、見せてもらった衣装に早くも夢中だ。
そんな姿に苦笑を零すキーランはといえば、なんとお手製の魔法使いの格好をしている。
「実家がお祭り好きでしてね。誰が一番の仮想を用意してくるか、とよく競い合ったものです」
――人は見かけによらない。
誰もがそんなことを思った一瞬である。
そして、場違いといえばこの人も‥‥。
「悪い子はいねがー、泣く子はいねがー!!」
フェブのドスを効かせた声に、周りにいた子供達がキャーっと叫びながら蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。
「あ、あれ? ジャパンのハロウィンはこうやるんじゃないの?」
トランプの兵隊の格好で焦る彼女に、隣にいたエルファリアが幾分顔を赤くしつつもその間違いを訂正した。
「そ、それは、別のお祭りですにゃ」
お約束のように、彼女の格好はゴスロリ衣装のネコ耳少女だった。
――――Fin.