●リプレイ本文
●シミュレーターはシミュレーターなんです
ずらりと並んだ八機のシミュレーターを前に、能力者たちの反応は様々だった。
「なんか‥‥凄いですね‥‥」
「シミュレーター上とは言え、不具合が起きた状態での戦闘は良い経験になるかも‥‥」
夕凪 春花(
ga3152)やミオ・リトマイネン(
ga4310)のように、シミュレーターとしての性能にある種の感嘆を見せている者がもっとも多い。
その一方で、
「にしてもこれまた随分エキゾチックな外見のシュミレータだなぁ!」
興味深げにぺたぺたと触るジュエル・ヴァレンタイン(
ga1634)のような者もいれば。
「‥‥しかしこれまた本気なのかふざけてんのか判断に困るシミュレーターだなこりゃ。ま、個人的には面白いとは思うが」
風羽・シン(
ga8190)のように半分呆れたように溜息をつく者もいた。
ともあれ、シミュレーターは実際に動かしてなんぼのものである。
「リスクなしで貴重な経験ができる‥‥最高じゃないか!
この経験が今後のクスリになるよう、頑張ろう!」
リラース(
ga5999)はそう言って、真っ先にシミュレーターに乗り込む。他の者もそれに続き――。
全員が準備完了したことが確認されると、『超絶技巧練習機〜鬼帝〜』は稼働した。
●緊急事態との戦い
八機のKVの眼下に広がるのは整然とした市街地。
人気が感じられないということはこの場合、即ちいくらでも暴れられるということだ。それは、初心者向けのシミュレーターとしてはもってこいのシチュエーションともいえる。人気を気にして思うように動けないという状況に陥るより、どこまで動いても問題はないかということを把握していたほうがずっと動きやすくなるのだから。
「まったくの無改造のS―01とレーザー砲、ガトリング、ミサイル。これで相手になるのかしら」
緑川 めぐみ(
ga8223)は待機しながら、そんなことを考えた。
だが結局のところ、相手になるならないの問題ではなく、相手になるように自らが力を出さなければならないのだ。
それは実践にしろシミュレーションにしろ、同じ話である。
『その時』を待ち構えていた能力者たちは、やがてそれぞれの機体のレーダーによって迫る敵の存在に気づいた。
敵の機影は、今のところひとつだけ。思い描いた作戦を決行するには非常に都合がいい。
――ヘルメットワームの姿が、徐々に大きくなる。その最中にも淡紅色の光線が敵機体から放たれてくるものの、待機しているKVがそれをかわすのは比較的容易な話で。
十分に近づいたと判断したところで、
「いくぜぇっ!」
ジュエルの機体から、電流にも似た形状の光線が放たれる!
人類側の兵装でもかなりの命中率を誇る兵器は、ジュエルの腕もあり確実にHWを捉えた。装甲の周りに放電現象を起こしている敵に、鉄 迅(
ga6843)の機体を除く全てのKVが接近していく。
敵の姿が大きくなっていく中、春花の機体が放ったG放電装置の光線も命中し、ジュエルの攻撃の余波はまったく同じ形で継続されることになった。
「先ずは一体‥‥仕留めるっ!」
鷹崎 空音(
ga7068)は叫びながら翼の紋章を浮かべた手を動かし、小型のホーミングミサイルを発射する。
機体の練力をも消費した一射は二度の放電の余韻を残して動けずにいたHWに炸裂した。続けざまにめぐみやシンの機体が発したホーミングミサイルが立て続けに命中し。
更に、HWにとっては想定外の方向からレーザーが飛んできた。一機だけ地上に降り立ち変形していた迅の機体によるものである。
立て続けに射撃を受け、HWは戦闘態勢を再度整えざるを得ない状況になる。その間隙を突き一気に撃墜を試みた能力者たちだったが――そうはうまくはいかせてもらえないようだった。
一機を落とすのに接近し、それだけ各機の間隔も狭くなっていた。突如現れた淡紅色の光はその隙間を縫うように通過したものの、二、三の機体が軽く損傷を起こす。
現れるとされていた残り二機のHWが、ここにきて出現したのだ。
三機――ミオ、リラース、めぐみの機体がそれを受けて最初のHWから距離を取った。空を舞っている残りの四機は引き続き攻撃に向かい、離脱した三機と地上の迅機は新たに出現した敵のけん制に向かう。
幸い、最初のHWはそれから長い時間もたなかった。数こそ減ったものの射撃を受け続けたHWは、反撃は出来ても逃げることはできずについに爆散する。
撃墜を見とめ、攻撃を行っていた四機は即座に態勢を切り換える。残った二機に照準を合わせるためだ。
しかし――この時になり、シミュレーターが本当の性能を発揮しだした。
突如、コックピット内で異常を告げるエマージェンシーコールが発せられた。それも示し合わせたように、数機同時にである。
「動力部に異常発生――!? やば、確かに思うように動かせないっ」
「こっちは兵装ですね‥‥」
「マジかよ!?」
ジュエルを始めとし、次々と飛び込む異常報告にシンは驚愕する。ジュエルの機体は明らかに動きが不安定になっているし、ミオや空音の攻撃は撃てども効果的なダメージを与えられない。
異変の重なり方は予期せぬものだったが、ともかく機体に異常を起こしている者をそのまま戦わせておくわけにはいかない。
ジュエル機と入れ替わるようにリラース機がHWの攻撃の矢面に立ち、また再度変形し地上から戻ってきた迅機が空音機と入れ替わった。
その間にも攻撃を行う部隊はいくらか被弾したものの、何とか陣形を崩さずに戦闘を再開させることに成功する。
しかし崩さなかったのはあくまで陣形で、敵機との距離までは保てていなかった。交代劇を繰り広げている間に敵二機はだいぶ接近している。これではプロトン砲にしてもフェザー砲にしても、避ける動作の時間がない。
同じことはこちらの攻撃にも言えるのだが、悪いことに二機のHWはKVを囲い込むように位置していた。元から支援・牽制に回っていためぐみ機、それと異常を起こしている三機も他の四機に囲い守られる形になっているのが唯一の幸いか。
だがシミュレーターとは言え、同士討ちを狙えるほど頭の悪い敵ではない。一刻も早くどちらかを落とさなければ、こちらが思うように射抜かれるだけだ。
「――ちっ!」
袋叩きを避けるためには敵のコンビネーションを分断しなければならない。シンはバルカンを、自身がもっとも接近している片方のHWに向け発射する。
散弾は全てが綺麗にHWに命中したが、それだけ距離が狭まっているということであり。
HWの砲口から光が生まれる瞬間をシンは目にする。
まずい――実戦さながらの光景に思わず戦慄した、その時。
小型ホーミングミサイルがシンの背後から現れ、虚を突かれる形になったHWはなすすべもなく被弾する。
「ヤバい時こそ、お互いを補っていけばなんとでもなるってもんさ」
攻撃の主は後ろに下がっていたジュエルだった。動きこそ鈍いままであるものの、命中精度自体は衰えていないのだ。
HWの攻撃は未遂に終わり、シンはその隙に距離を取る。――包囲網を突破する。
同じことはその直後にもう一方のHWの側でも起こっていた。こちらはリラースが包囲を突破、包囲の中に残ったKVはフェザー砲を被弾しかけるが、
「そうはさせないっ!」
ディフェンダーを構えた迅が、とっさに春花機の前に立ち防御する。最初の異常報告から更に続いて、春花機の防御性能が落ちたことを告げられていたのだ。
包囲を突破したシン機が先に敵の背後に回ったのを見て、リラース機もそちらのHWの方へと向かう。その様子を見て攻撃に主眼を置いていた者たちが、一斉にそちらに照準を向けた。
囲い込んだつもりがいつの間にか逆に逃げ場を失うHW。
「チャンス‥‥墜ちろっ!」
空音は言い放ち、引き金を引く。スナイパーライフルRから放たれた銃弾はフォースフィールドを簡単に破り、HWをも貫通――そして、最期を告げる爆発を生みだした。
一機撃墜するまでに、もう一機のHWからプロトン砲やフェザー砲が何度も降り注いだものの――。
動力に異常を起こしているジュエル以外は致命的な一撃を受けるには至らず、ジュエル機も迅機の援護により事なきを得ている。
――こうして二機をたたき落とすにいたった後、残った一機が如何様な運命をたどったかは言うまでもない。
●超絶技巧、それはいざという時の心構えができること
シミュレーターから出てきた八人の能力者は、それぞれに疲れきった表情を浮かべていた。
「今回はシミュレーターだからいいものの、これが実戦で起きたらと思うと‥‥ぞっとするぜ」
もし実戦で今回のように動力不良を起こしたら、とジュエルは思う。間違いなく仲間にいらない負担をかけてしまう。
「本気で操縦技術向上が目的なら、いっそ墜落は決定事項で、考える暇も無いくらい次々に障害が起こって、最終的にどれだけ長い時間飛んでいられるかって設定組んだらどうだ?」
一方、シンは居合わせた開発研究員にそんな改良提案をしていた。実際に作ることができるかどうかは分からないが、やれるだけやってみるというのが研究員の返答だった。その傍らではリラースが、別の研究員から今回の結果データについて尋ねている。今回起こったものも含め、他の異常に遭遇した時にも対処できるようリストを作ることにしたらしい。
「これで少しは自信もっていいのかしら?」
それらのやりとりを見ながら、めぐみは呟いた。
まったく改造を施していないKVながら落とされずにいられたのは仲間たちの力だけではなく、終始自らの役目に徹したおかげといってもいいだろう。
「良い経験が出来ました。‥‥戦場でこうならない様に頑張ってくれる整備班の人に感謝しないとね‥‥」
「うう‥‥整備兵の皆さん‥‥いつも万全な整備ありがとうございます‥‥」
ミオと春花の言葉は、その場にいた誰もが深く深く共感するものだったという。
(代筆:津山 佑弥)