●リプレイ本文
●事前調査
「事前の情報が少ないというのは厄介ですわね。どのような事態にも対処出来るように十分に警戒しなくてはなりませんわ」
現場に到着した、クラリッサ・メディスン(
ga0853)は改めて、他の傭兵達にそう告げた。
その言葉に他の傭兵達も縦に首を振る。
「確かにな。夜行性の可能性が高いだろうが、昼の捜索でも気を抜かないようにしないといけないな」
カルマ・シュタット(
ga6302)が油断をしないようにと、皆に語る。
「キメラ如きが形だけでも騎士を模すなど‥‥思い上がりも甚だしい。ガーター騎士団の長たる我が女王陛下と皇太子殿下の御名に懸け、必ずや討ち果たしますわ!」
と、意気込むのはエリザベス・シモンズ(
ga2979)である。
貴族の令嬢である彼女にとって、騎士とはやはり特別な存在であるようだ。
それを模すとは彼女にとって侮辱に近いものなのかもしれない。
そんな彼女とは対称的にゴールドラッシュ(
ga3170)はしたたかに今回のキメラのことを考えていた。
(‥‥賞金稼ぎとしては、今回の敵はちょうどいい相手なのよね、報酬的にも、相手的にも。失敗したら元も子もないわけだから)
言葉に出して言わないまでも、頭の中で算盤をはじきつつ、今回の依頼が現在の自分にピッタリと判断したゆえでの参加だった。
そして、同じように、したたか(?)に考えて参加した傭兵がもう一人。
(今回もキメラの一部をお酒の原料‥‥いえ‥‥研究のために確保しますわ)
と、心の中で呟くシャレム・グラン(
ga6298)だ。
どちらが本音なのかはともかく、キメラの細胞を採取したいと思っているのは確かなようである。
そんな様々な思惑が取り巻く中、トレイシー・バース(
ga1414)は改めて、今回のキメラの写真を観察する。
「黒い鎧の騎士ね‥‥背中が盛り上がってるし、羽根とか持ってるのかしら?」
「その可能性は高いな」
返答したのは月影・透夜(
ga1806)だ。
「‥‥こいつ人型じゃなく人型に見える昆虫キメラじゃないか? そう考えると、背中の盛り上がりは羽、長い胴はもう一対の手がありそうだな」
月影は写真のキメラの脚の関節など、細かい点も確認しようとするが、さすがに夜間に撮られたもののため、そこまではっきりとは見ることが出来なかった。
そんな、会話を聞きながら、ヴァルター・ネヴァン(
ga2634)が、ふと呟く。
「その昔、人に擬態して捕食するゴキブリベースのモンスター映画がありましたなあ。昆虫ベースとすると、蜂蜜にお酒や酢を入れて一煮立ちさせたものを木の幹に塗っておいたり白いシーツを広げてつるして光を当てておくと集まってきたりするんやろうか」
木の幹に塗ってある蜂蜜を美味しそうに舐める騎士型キメラ。
そんな、非常にシュールな情景を思い浮かべ、傭兵達の間で笑いが漏れる。 緊張感漂う現場に、ほんの少し和んだ空気が流れた。
事前調査は、夕方近くまで行われた。
岩や、樹木、地面の隆起等、キメラが擬態などを行って、隠れそうな場所を重点的に探っていく。
そして、キメラが夜中に隠れて襲うのに最適な場所などは、貸し出されたマップをもとに、一つずつシャレムがチェックを入れていった。
さらには、
「蛍光テープです、これを貼っておけば戦闘中でも位置の把握と危険な場所が分かりやすくなると思います」
と、言うエリザベスの提案に皆が同意し、足場が危険な岩場などに目印代わりに貼り付ける。
「ここなら、まだ他の場所より戦いやすいかもしれないな」
月影が目を向けた先には他の場所よりほんの少し開けた岩場が有る。
確かに、障害物だらけの狭いところで戦うよりはましだろう。
目印代わりの蛍光テープを用い、この場所にキメラを誘い込めれば、戦うのは楽になると判断した傭兵達は、キメラをこの場所に誘い込むことで意見を一致させる。
日が暮れ始めたころに、ようやく周囲の探索は終了していた。
そして、闇が本格的に丘陵地帯を包み始める。
ここからが本番だと語るように。
●暗黒の闇を纏う漆黒の鎧
広範囲の捜索範囲の中で出来る限り、キメラを見つける確率を上げるために、傭兵達はA班とB班の二つの班に分れる事にしていた。
A班はゴールドラッシュ、エリザベス、ヴァルター、シャレムが担当し西側から、B班はトレイシー、月影、クラリッサ、カルマの四人が東側から、お互いに捜索範囲を両端から挟み込むようにして合流する作戦だ。
そして、先に見つけた班がUPCから借り出した、無線にて、キメラ発見の連絡を行う。
二つの班に分れた傭兵達は、改めて闇夜の丘陵地帯の捜索を始めた。
「さすがに夜は暗いですね」
月影が借り出した懐中電灯を用い、自らの前方を照らし出しながら、A班に所属するシャレムは呟く。
A班において暗視スコープを持ち合わせているのは、エリザベスだけであり、他のメンバーは目視による視認に頼らねばならない。
しかも、ただでさえキメラが黒い外見をしているのだ、闇にまぎれて人を襲うには絶好の環境である。
「ゴキブリ型のキメラじゃなければいいんだけどね‥‥」
そして、ゴールドラッシュがほんの少しの希望をこめて、呟く。
これでキメラがゴキブリ型だったら、いろんな意味で本当に救いが無い。
エリザベスは、暗視スコープで周囲をくまなく監視しながら、仲間達と共に進んでいく。
ちょうど、その時だった。
『‥‥キメラ発見!! 直ちに誘導を開始しま‥‥キャァ!!』
B班のクラリッサの悲鳴を交じらせた声が静寂な夜を打ち消すように、無線より響きわたる。
その言葉を聞いて、A班のメンバーは互いに顔を見合わせる。
「思ったより早い、おでましで‥‥」
ヴァルターの言葉に、メンバーは緊張をみなぎらせた。
「急ぎましょう、誘導地点はこちらの方が近いはずです。先に誘導地点に到達して、待ち構えましょう」
エリザベスの言葉にメンバーは頷くと、誘導地点に向かって、駆け始めた。
ほんの少しだけ時間をさかのぼる。
森の東側の端に到達したB班のメンバーは、今度は西側に向かいゆっくりと移動を開始していた。
「とはいえ、本当に暗いわね」
懐中電灯で明かりをともさなければ、先も見えない環境にトレイシーは愚痴をこぼす。
A班と同じようにこちらでも暗視スコープを持っているのは月影、ただ一人だったため他のメンバーはそれぞれ懐中電灯を使い、暗闇を照らすことで視界を確保していた。
「今のところ反応は無いな、他の小動物と思われるような反応はあるが」
と、周囲を確認しながら月影は言う。
「頭上にも注意した方がいい。相手は飛べる可能性があるのだろう?」
上空も確認するよう、月影にカルマが告げる。
月影はその言葉に頷きで返すと、上空を暗視スコープで確認しようとする。
瞬間、強烈な羽音と共に上空から月影に向かい何かが落ちてきた。
とっさに、地面を転がり込むように回避行動を月影がとる。
地面と、その何かの激突音が闇の静寂を打ち破った。
何かはゆっくりと、立ち上がり周囲を確認するように首を横に振る。
その何かの姿を一瞬で確認したクラリッサが、すぐさま無線機をつかみ、A班に向かい声を上げた。
「‥‥キメラ発見!!直ちに誘導を開始しま‥‥キャァ!!」
無線で応対しようとするクラリッサを、キメラは無防備と判断したのか一番最初の攻撃目標とし、羽根を使い、飛び立つように接近、右腕を大きく振りかぶり、槍による一撃を与えようとする。
だが、その前に覚醒したカルマが立ちはだかり、キメラの槍撃をミルキアの柄の部分で受け止めることに成功した。
予想外の人物に受け止められたことに、驚いたのかキメラの動きが、瞬間、止まる。
そこをカルマは見逃さなかった。
「いくら硬い装甲でも隙間を狙えば、もろいはずだ」
そう言うと、急所突きで的確に、鎧の隙間を槍で突く。
そして、それに続くように獅子のような姿に覚醒したトレイシーがバトルアクスで豪破斬撃を今度は鎧の上から叩き込む。
「騎士モドキの化けの皮、剥がしてみようか」
とどめとばかりに、月影の急所突きが先ほどの月影と同じように隙間を狙うように炸裂する。
「――?!」
キメラの声にならない絶叫が、丘陵地帯に響く。
しかし、さすがにコレだけでは、まだ倒せたわけではないようだ。
「誘導地点に急げ!! 八人で一気に叩くんだ!!」
カルマの声に、B班のメンバーは頷き、誘導地点に向かいいっせいに走り始める。
キメラは本能からなのか、敵を逃がさないようにと、羽根を広げ、追う。
だが、先ほどの攻撃がさすがに効いたのか、動きは最初に現れた時と比べて遅い。
傭兵達は蛍光テープをたどりながら走り、逃げる。そしてそのあとを飛びながら追いかけるキメラ。
「これなら、誘導地点に逃げ切れるわ!!」
トレイシーが後ろのキメラを時たま振り向き、確認しながらそう叫ぶ。
そして、先ほどまで木々と、その闇に囲まれていた視界が一瞬開ける。
その視界の先には、A班のメンバーが立っていた。
「キメラはどこですか?!」
エリザベスの言葉に、クラリッサがすかさず後ろを指差す。
すると木々の間から、キメラが飛び出した。
「あれが、獲物ね!!」
ゴールドラッシュはそう言うと、紅蓮衝撃を発動させ、キメラに近づく。
相手は、紅蓮衝動を発動させているゴールドラッシュに危機感を覚えたのか、相手より先に槍による突きを繰り出す。
だが、ゴールドラッシュのレイシールドがそれを受け止める。
そして、伸びきった槍めがけて、すかさずイアリスの一撃がキメラの槍を叩き折ろうとするかのように炸裂。
キメラは槍を引くが間に合わない。
鈍い金属同士のような激突音。
そしてキメラは目を、見張る。
自らの右腕が、剣により真っ二つに折られたのだ。
「残念ね‥‥」
そんなキメラの様子を底光りする瞳で見つめるのは、クラリッサだった。
手に所持するのは超機械γ。
ゴールドラッシュが攻撃を放つ少し前に練成弱体でキメラ自体の防御力を落としていたのだ。防御力が低下した状態で強烈な一撃を喰らえば、さすがに防御力に自信があるキメラでも簡単には耐え切れないだろう。
そしてこれ幸いと、傭兵達は攻撃の手を休めないで立て続けに攻撃を開始する。
「聖ジョージの加護のあらんことを!」
そう、言いながら、エリザベスがエネルギーガンで急所を狙っていく。
「ふふ‥‥わが身を持ってしるといいですわ‥‥私の恨みを!!」
どこか、とばっちり感漂う恨みをキメラに向かって、シャレムが電磁波の攻撃と共に放つ。
飛び道具による二人の攻撃でキメラの鎧にひびが入る。
そこを、ヴァルターは見逃さない。
バトルアクスでそのひびごと鎧を叩き割る、斬撃というよりは打撃を放つ。
重い陶器が割れるような音が、キメラから放たれる。そして鎧が砕けた事により、キメラの肉体の内部が露出した。
月影が逃さないとばかりに相手の内部に近づき、トドメの一撃を見舞おうとする。
しかし、そこでキメラは最後の手段を放つ。
胴の部分の脇から、音がすると思うとそこから更なる手が左右、二本生えてきた。
そして、その四本の腕で、月影を迎え撃とうとするが
「その腕も読んでいる。今度はお前が貫かれろ!」
被害者が残した最後のメッセージから腕があることを予測していた月影はキメラの攻撃の回避に成功する。
そして、近距離から放たれる槍の突きに耐えるだけの力を持っていなかったキメラは胴体を貫かれると、そのままゆっくりと地面に倒れふした。
その姿は誇り高き騎士には程遠く、ただ、一体の怪物なだけであった。
こうして、漆黒の鎧をもつキメラを巡る物語は終焉を迎えた。
傭兵達は犠牲になった人々に、哀悼の意と写真を撮ってくれた事の感謝の言葉を送りながら、この地をあとにした。