●リプレイ本文
●戦闘領域
「レーダーに感あり! 待て‥‥11時の方向だ」
機体のモニターを操作していた沢村 五郎(
ga1749)が僚機に無線を繋げる。
依頼を受けてすぐにUKを飛び立った10名の傭兵達はミルウォーキーより迫るキメラの群れを、人が住まなくなった廃墟の立ち並ぶ場所にて発見する。
「敵戦力はゴーレム2機、キメラ陸空混成部隊。我々は部隊をゴーレム対応班、飛行型キメラ対応班、陸戦型キメラ対応班に分ける。連携を保てば何とか成るはずだ」
緑川 安則(
ga0157)が部隊に確認の意味を込めて無線を送る。各機が了解の意を返して目標に向けて加速を始める。
「まだあのエースとやらは来てないな。各機、キメラ掃討を開始する」
「了解」
ナイトフォーゲルH−114に乗り込んだファルロス(
ga3559)が策敵レーダーに注意しながら機体を降下させる。その先を行く麓みゆり(
ga2049)がR−01を変形して地面を削るように着地。土煙を後方に巻き上げながらキメラ群に向かってガトリングを放つ。ファルロス機が無事に変形を終えるまで牽制を開始した。
「キメラ相手にジャミングも何もないか‥‥新米、無茶はするなよ」
そう言って、着地し終えたファルロスはライトディフェンダーを構えて麓の牽制を抜けてきたキメラを薙ぎ払う。新米と呼ばれた増田 大五郎(
ga6752)はその後方から遅れて着地。その後すぐに機体を前に出しながらガトリングを放ちつつ麓の隣に立つ。
両機のガトリング掃射によって次々とキメラが血飛沫を上げて四散する。生身で戦えば苦労するキメラもKVの前では呆気ないものだ。迫るキメラは徐々にその数を減らしていく。
彼らが地上で戦っている間、上空では同じように残りのKVが連携しながらキメラを撃ち落していた。
ホーミングミサイルを放つS−01に乗るは間 空海(
ga0178)。
「滋藤、FOX−3、FOX−3!」
ミサイル発射と同時に仲間に報せを送り、自機を敵の射線から逸らせる。一瞬後にその空間を電撃が走り抜けた。放ったミサイルは逃げるキメラを追跡する。一体のキメラがこれを避けきるが、その後ろに追いついた戌亥 ユキ(
ga3014)が高分子レーザーを1連射して撃ち落した。
「私だって、やる時はやるんだよ!」
「ナイスキル!」
空戦を援護していた緋沼 京夜(
ga6138)がその動きを見て褒める。
と、その時だった――――
「レーダーにゴーレムと思われる機影を確認!」
●エースと傭兵
報せを受けたゴーレム対応班が降下を開始する。視線を送れば、遠目にゴーレムの姿が確認できた。
「聞いた話だと、パーソナルカラー持ちらしいけどよ。てことは、乗ってるのは人間か? だとしたら、気に入らねぇ!」
「何が乗っていようと、関係ない。シカゴには仲間がいるんでな、ここは絶対に通さねえっ!」
エミール・ゲイジ(
ga0181)と緋沼が己を鼓舞するように叫ぶ。
三機のKVが地面を揺らしながら着地する。
「ペアのエース機か‥‥通常のゴーレムと比べ、どれ程高性能なのかは判らないが。ここで食い止めてみせる!」
機体をゴーレムに向けて加速させながら、煉条トヲイ(
ga0236)がビームコーティングアクスを抜き放つ。
三機のKVが自らの武器を構えて迫るゴーレムを睨み付けた。
『KVを確認。キメラが交戦中のようだ。3‥‥いや、四機、こちらに向かってきている』
『‥‥同じ人間、それでも戦わなくてはいけない。私達は‥‥』
『迷いは捨てろ。そうしなければ、我々が守るべき者を失う事になる。‥‥行くぞ!』
『‥‥了解』
慣性制御能力を使い、急加速するゴーレムに沢村機が戦闘機形態のままロケットランチャーを挨拶代わりに放つ。
しかし、これを回避する白と黒のゴーレム。両機は回避運動を取りつつ散開行動に移った。
エミールと緋沼が黒いゴーレムに向かい、煉条が白いゴーレムに向けて追撃を開始する。
「沢村、降りて来い! 白い奴を抑えるぞ!」
「おう。今行く!」
煉条が白いゴーレムに向けて高分子レーザーを短連射させて牽制する。ゴーレムは避けきれない弾を腕を前にして防御する。見れば、ほとんど効いている気配がない。レーザーが弾かれているのだ。そして、ゴーレムは意外な行動に出る。辺りの建造物などを手当たり次第に攻撃する。瓦礫から舞い上がる煙で辺りが見えなくなってしまった。
「煙で‥‥煙幕の代わりか!?」
二機のゴーレムは動きを止めない。そのまま加速を続け、四機のKVを無視してキメラの方へと奔る。
それに気づき四機のKV達が追撃を掛けるが‥‥。
その頃、空戦キメラと戦っていた三機は全てのキメラを撃ち落し終える。ゴーレム対応班が先に援護をしていたこともあり、思ったよりも早く掃討を完了する。一方、陸上の方を見やると残る三機が未だキメラとの戦闘を続けている。
その陸の戦場に黒い影が迫っていた。
「ゴーレムが陸戦型キメラの方に向かっているぞ!」
緑川が気づき、ファルロスに向けて警告する。
「麓、増田! 後退しろ!」
危険を感じ、ファルロスが叫ぶ。麓は素早く機体を反転させて後退を開始する。しかし、増田はキメラとの戦闘で前に突出していたために後退が遅れる。その隙を、黒いゴーレムは見逃さなかった。
ゴーレムから凶弾が放たれる。
「増田、避けろ!」
「!?」
KVの装甲が弾け飛び、メインカメラ、腕部、脚部、主翼と次々に粉砕され、そして機関部へと命中する。
敵の弾丸の中、煙を上げるKVから増田が飛び降りる。一瞬後。
――――――ッドン!!!!
爆炎と共に衝撃波が辺りに巻き起こる。近くにいた麓の機体がその衝撃に体を揺らす。
「HQ! こちら傭兵部隊。一機やられた。後送を頼む!」
ファルロスが緊急無線を開いて本部へ報せる。
●戦いの理由
現れたゴーレムによって、一機のKVが大破する。その一瞬の出来事に歴戦の傭兵達は唖然とする。
「これが、エース‥‥なのか」
額を流れる汗を拭おうとして、自らがヘルメットを被っていた事を思い出す。
これが戦慄。これこそが恐怖。そのことを実感した時、傭兵達は己が心に問いかける。
自らがこの戦場に立つ理由を。心に縫い付けた覚悟を。
「‥‥こうなったらやるしかないよね。だって、戦場に出る時は‥‥私は私なりの、覚悟は決めてるんだから!」
「そうだ。これ以上誰かの笑顔を奪われるわけにはいかない!」
傭兵達の魂に炎が灯る。焦がす心は恐怖を押し上げ目前の敵に向けて放たれる。
エースと傭兵達の戦いが始まった。
『やはり、これで退いてはくれないか』
『‥‥わざと、逃げるだけの時間を与えましたね‥‥』
『だが、それもここまでだ。相手が覚悟を決めたならば、こちらもそれ相応に掛かるしかない』
『‥わかりました。KV来ます』
『我々も負けられない理由がある。掛かって来い、傭兵!』
エミールが撃った高分子レーザーはやはりゴーレムに致命傷を与えることなく、敵は機体を振り回す。
そこに緋沼がハンマーボールを投げつける。ゴーレムはこれは当たると危険だと判断したのか、大きく回避運動を取った。
「ちぃ! あたらねぇ。どんだけ速いんだ!」
「それに、非実態系武器はほとんど効かねぇ‥‥うぉ!?」
エミールの目前にゴーレムが急接近する。
振り下ろされんとするゴーレムの剣。その瞬間、横から仲間の援護が放たれる。致命傷は与えられなかったが、ゴーレムは一旦間合いを開ける。
「助かった、間!」
エミールは援護射撃をくれた空海に礼を言う。その間にも、空海を含む、キメラ班は援護をしつつ、残るキメラの掃討を続けていた。
キメラの数は徐々にその数を減らしていくが、それを邪魔するように黒のゴーレムが猛威を振るう。
一方、白のゴーレムは沢村と煉条を相手に優勢に立ち回っていた。二機のKVは何らかの故障を訴え、コックピットではアラーム音が鳴り響いていた。
「くそっ!」
「煉条! 右から来るぞ!」
だが、相手優位の中、沢村が敵の動きを次第に読み始める。
煉条が機体を右に向けると、ゴーレムがそちらから迫っていた。
『!?』
ゴーレムの動きが一瞬遅れる。この瞬間を逃さずに煉条と沢村が一気に攻撃を仕掛ける。
沢村がガトリングで相手の動きを止め、煉条は今まで使用していなかった雪村を抜き放つ。
反応が遅れたゴーレムの左腕を雪村が切り落した。
「よっしゃ! 窮鼠猫を噛む!」
「いや、能ある鷹は、の方だ」
沢村と煉条が歓声をあげつつも、気は抜かない。そのまま追い討ちをかける。
迫る二機のKV。しかし―――
「危ない!」
突如飛び込んできた緑川の機体が沢村機の横で盾を構える。
その瞬間、沢村の横から敵の弾丸が襲い掛かった。
緑川の咄嗟のカバーでこれを防ぎきる。
弾丸は止むことなく辺り構わず降り注ぐ。濛々と立ち込める煙。
「敵が逃げるぞ!」
弾丸の雨が止んだ時、ファルロスの声が無線に入る。
気づけば、ゴーレム達の影が消えていた。
「撤退? くそっ‥‥あと少しだった!」
悔しがる傭兵達。辺りを見回せば、キメラたちの群れは全て掃討し終わっていた。
ゴーレムを逃がしはしたが、シカゴへの援軍は何とか阻止する事はできたようだった。
『どうして撤退を?』
『損傷を受けて言う台詞じゃないな』
『これは、相手に観測者がいたから‥‥』
『動きを読まれたか‥‥撤退はこれ以上の戦闘が無意味だからだ』
『‥‥キメラがやられたんですね』
『そうだ。‥‥む。増装タンクを切り替えろ。ミルウォーキーから任務が来た。急ぐぞ』
『了解』
●戦場の後に
ゴーレムとの戦闘の後、本部から到着した部隊の救助を受けてホームに戻る事となる。
その時になって、彼らは気づく。KVの燃料はもはや尽きており、あれ以上戦闘継続は不可能だったのだということに。
そして、機体を大破した増田大五郎は本部から呼び出しを受ける。
以下、呼び出しでの内容である。
―――まずは、無事の帰還おめでとう。
初のKV搭乗で敵エースを相手に命があっただけでも奇跡だろう。
‥‥だが、今回の依頼。
敵部隊にエースがいることは予め知らされていたようだな。
それを知った上で、君が今回の依頼に赴いたわけになるが‥‥。
知っていたかね? KVはこちらから傭兵達に『貸し出し』ているのだと。
ある程度の損傷に掛かる修理費などは全てこちらが出している。
しかし、今回。君のこの無謀な参加に修理費を全額、こちら側が負うことには不満が残るという結果になった。
そのため、君には今回のKV大破における責任を負ってもらう事にした。
滅多にないことなんだがね。まぁ、これでも軽い方ではあるんだ。
罰則は資金没収だ。なに、本来の額に比べれば安いものだ。
今後、君が活躍すれば十分元は取れるだろう。今後、無理をせずに頑張りたまえ。