タイトル:襲撃−探し断つ者達マスター:日乃ヒカリ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/31 18:11

●オープニング本文


 周りはなだらかな丘がある荒野、その只中に一つの建造物。
 大陸の中にある駐屯基地の一つである。
 傭兵達は移動手段である高速艇を使うには海や大きな川まで出なくてはならず、大陸奥地で依頼を遂行する傭兵達は陸路での移動を余儀なくされる。
 そこはそんな傭兵達がラスト・ホープへ帰還途中等に休憩として立ち寄る場所でもある。
 その中継点であるこの基地に傭兵がいた。
 そう、そこにいたのは偶然であった。
 そして、それがその基地にとっては幸いだったといえる。
 この基地は現在、キメラの襲撃を受けていたのだ。
 傭兵達は休憩を中断して依頼で疲れた体に鞭打って基地防衛に就く。
 そして報せを受けた本部はこの襲撃してキメラが連携をとっていることから、敵に指揮官が存在することに気づくのだった。

 少佐の階級をもった男が傭兵たちに依頼内容の説明を行っていた。
「君達傭兵には、援護部隊とは別にある任務についてもらう。今回、駐屯基地を襲撃している敵キメラには指揮官となるキメラが存在することが予想された」
 男は傭兵たちに資料を配る。その資料にはキメラの詳細と軍が予測したキメラ指揮官がいるであろう地点を記した地図が書かれていた。
「現在、この基地で使える偵察機を向かわせたところ、キメラの指揮官がこの地点にいると観測できた。だが、敵が常にそこで留まっているとも限らない。軍は敵の移動速度を計算に入れ、地図にその範囲を記している。君達がこれから出発して最速で辿り着いた時間で計算している。なお、君達は南東からこの地点に向かうことになる。場所は荒野だ、見晴らしが良い分見つけやすいとは思うが、敵が移動している方角によっては発見に時間がかかるかもしれない。どのような索敵を行えばいいか君達で判断して欲しい」
 男はそこで一旦話を止め、水で喉を潤す。
「君達が迅速にこれを発見、排除すれば敵部隊は混乱に陥るだろう。君達の働き次第で他の基地部隊、援護部隊を助けることになる」
「それと軍から車両が二台まで貸し出される。後部が荷台になっているあれだ。あと、キメラは指揮官を守るように護衛が四体いる。硬度の高い甲殻に覆われているタイプのようだから、注意すべきはそこだろう」
 そこまで言うと男は健闘を祈ると言って敬礼をした。

 傭兵たちは車に乗り込み本部から出発することになる。
 果たして、この傭兵部隊の働きによって他部隊の戦いがどのように変化するのか。

●参加者一覧

間 空海(ga0178
17歳・♀・SN
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
鷹司 小雛(ga1008
18歳・♀・AA
獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166
15歳・♀・ST
白鴉(ga1240
16歳・♂・FT
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG

●リプレイ本文

 太陽が真上に昇る時刻。
 傭兵達は用意された車に乗り込む前に、軍から今回の依頼の詳細について確認を行っていた。
「襲撃されている基地はこの指揮官がいる位置からどちらの方向になるのかねェー?」
 そう尋ねたのは獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)である。
「北西になる」
「‥‥はう!? そうか‥南東からだったよ‥」
「それで、私達A班はどっちに進みます?」
 鷹司 小雛(ga1008)が首を傾げながら聞く。
「じゃあ、私達は北を選びましょうか」
「それでは、私達は西に」
 獄門、鷹司を含むA班のファルル・キーリア(ga4815)がそう提案し、それに対しB班の運転手になる間 空海(ga0178)がメンバーに向かって頷く。
 B班は残る鳴神 伊織(ga0421)、白鴉(ga1240)を合わせる三名である。
 そして、ファルルがあることを口にする。
「あとは、指揮官の名前の候補だけど‥志木勘太郎‥」
「獄門は、見つからないと困んだーを推すねェー」
「指揮官だけに志木勘太郎、見付からないと困んだー‥ですね」
「‥‥この状況でそういう事が言えるとは‥‥凄いですね」
「よ、よっし! コマンダーをすぐに見つけてやるぞ!」
「で、では。皆様、行きましょうか」
 そう言って車に乗り込み始める傭兵達を、軍人は額に汗を浮かべながら見送っていた。

「うっはー。さっむぅ〜」
「‥‥荷台って吹きさらしなんですね」
 出発したB班の一行は基地から北西の方角に進んでいた。
 アクセルをほぼベタ踏み状態で走らせているため、荷台の上に乗ってる白鴉と鳴神の両名は冬の凍てつく寒さを直に身を晒していた。
 荷台に幕が張られていないのは捜索活動に邪魔なためである。
 二人はマフラーを巻きなおしながら手に白い息を吹きかけていた。
 前方を走るA班の車上にも同じように身を震わせている二人が見えていた。
「もうすぐ捜索範囲に入ります」
 運転席に着いている空海が窓を開けて荷台の二人に向かって言った。
「了解〜。うぉっ! 暖房の暖かい空気が!」
 ここからは地図で確認した捜索範囲へと入る。A班の車が進行方向を変えるのに合わせて空海はやや左へと方向を修正する。A班の荷台に乗った二人が手を振ったのが見えた。
 捜索開始。冬の冷たい風が強くなってきていた。

 A班が北に進路をとって進んで既にかなりの時間が経過していた。
「見つからないですわね」
「そうだねェー」
 双眼鏡を覗き込んでいた鷹司の呟きに獄門が頷いた。
 そろそろ見つかっても良い頃だが、敵の姿は未だに捉えられていない。
「もしかしたら、既にB班が見つけているのかもしれないねェー」
「ですが、合図は来てませんし。もしかしたら、敵は‥‥」
「獄門、鷹司。進路を西にとるわよ。敵は北西ラインを移動しているかもしれないわ」
 車内で距離計を眺めていたファルルが窓を開けて言った。
「やっぱり、そう思うねェー。時間も大分経っているし、急ごうかねェー」
「ファルル様、お願いしますわ」
「オッケー。しっかり掴まってて!」
 車が進路を西に変えて加速する。
 排気される白い煙と砂埃が尾を引いて荒野に流れていった。
 風は北西へと吹いていた。

 一方、B班も同じく敵発見には至っていなかった。
 そこで進路を北に変えて進んでいるところであった。
「随分と時間も経っている、基地の方が心配ですね」
「あぁ。読みが甘かったかな。こんなに時間が掛かるなんて‥」
 鳴神と白鴉が苦虫を潰したように顔を歪める。
 運転席の空海も表情が険しい。
「もう少し情報があれば‥‥!」
 偵察機などの航空戦力はそのほとんどを次の大規模作戦に向けて配置を移動していたために情報収集がままならない状況である。敵はこの時期を選んで行動を起こしたのかどうかは不明だが、やっかいな時期であったのは間違いなかった。
 そして、空海が大きな岩を避けてハンドルを動かしたその時、鳴神が丘の上に立つ黒い影を発見する。
「前方! あれは‥‥志木勘太郎です!」
「照明弾、撃ちます!」
 鳴神の叫びを聞いて白鴉が照明銃を打ち上げる。これでA班は気づくだろう。
 空海が窓を全開にして叫ぶ。
「A班が来るまで牽制しましょう! 鳴神さん、白鴉さん、お願いします!」
「了か‥‥な、なんだぁ!?」
「空海さん、避けて!」
 急激な制動を受けてタイヤが砂を噛む音が辺りに響いた。

「照明弾確認、近い‥‥! 進路西北西です!」
「やっと発見したみたいだねェー」
「あの丘を越えたところね! 戦闘準備を!」
 そして車が丘を越えた所で、
「あ、あれは!? B班の車が!」
「これは、かなりやばいんじゃないかなー」
 B班の車は敵のなんらかの攻撃を受けて横倒しになっていた。
 車の側面は大きな鉄球でもぶつけたかのようにへこんでいる。
 倒れた車の近くでは鳴神と白鴉が防戦一方の戦いを繰り広げていた。
 そこに空海の姿が無い。鷹司が双眼鏡で探すと、彼女の姿が車の中にあることに気づく。遠目からははっきりと分からないが、気絶をしているようだ。おそらく、車が攻撃された際に気を失ったのか。
「ファルル様、車を突っ込ませて下さい!」
 鷹司がA班の方を示す。ファルルがアクセルを踏み込む。
「あ。敵が一匹こっちに飛んでくるよー」
「えぇ?!」
 気づけば、側面から一体のキメラがタックルする様に飛んできていた。それは至って単純な攻撃方法である体当たりだ。しかし、硬い甲殻に身を包んだそのキメラの体当たりは当たればただでは済まないだろう。
「くっ!」
 この攻撃をファルルは見事なドリフト走行で回避する。
「ほぉ〜。確かに、あれに当たれば車は横倒しになるだろうねェー」
 車の急な動きに付いて行けず、荷台の上をを転がりながら獄門が敵の攻撃に目を輝かせる。
「感心してる場合じゃないですわよ! 行きますわ!」
 鷹司がクリスティーナ(グレートソード)を構えて急ブレーキを掛けた車の荷台から飛び降りる。
 空中で一回転しながら着地点を調整しつつ、そのままの勢いで白鴉に迫っていたキメラに一撃を叩き付けた。
 重さが乗った一撃がキメラの甲殻に阻まれる。罅を入れながらもへこませるだけに止まる。キメラが距離を開けるように飛び退る。
「鷹司さん!」
 白鴉が助けに入った鷹司を見る。今の一撃で鷹司は自身の腕が痺れているのに気づいた。
「こいつら異様に硬いです。甲殻に阻まれて‥」
「そーいう時は獄門の出番だよー!」
 白鴉の言葉を耳にして、急ブレーキの反動で荷台を転げまわっていた獄門が立ち上がる。手に持った超機械を介してサイエンティストの能力が発揮される。
 傭兵達が手にする武器が淡い光に包まれていく。
「よし、これで一気に畳み掛けるわよ!」
 車から飛び出しながらファルルが超機械を使ってキメラに攻撃を加える。
 その攻撃を受けながらも、二体のキメラが突っ込んで来る。
 一体が鳴神に向けて体当たりを仕掛ける。
 ゆらり、と鳴神が動く。月詠を地面に突き立て待ち構える。
 敵がぶつかる瞬間、鳴神が飛ぶ。刀を基点にふわりと浮かびながら、交錯の一瞬にキメラの甲殻の隙間に赤いオーラを放つアーミーナイフを突き立てた。
「貴方が運ぶ死は、私には届かなかったみたいですね‥」
 崩れ落ちるキメラを尻目に冷酷な言葉を投げかける。
 そして、もう一方のキメラの体当たりを白鴉が正面から受け止めていた。
 隆起した筋肉が強烈な体当たりの衝撃を受けきる。
「ふん! い、いいい痛くないぞぉ‥‥!」
「白鴉様、避けてくださいまし!」
 鷹司の声に合わせて白鴉が横に飛ぶ。真正面から、動きを止めた敵の腹を目掛けてクリスティーナを突き出す。甲殻が薄い内側から内臓を吐き出しながらそのキメラも地面に倒れ付す。
「残るは、コマンダーと護衛が二匹!」
 白鴉がそう言って振り返った時、敵指揮官が不利な状況を察知して逃走を始めていた。
 それを見てファルルがフォルトゥナ・マヨールーを撃ち込む。しかし、護衛キメラが盾になってこれを遮る。逃げられるてしまうか、そう思ったとき、
「狙いなさい、『ナスノヨイチ』」
 風を裂き、一本の矢が敵指揮官の頭部へと突き進む。
 鏃が頭部に突き刺さると同時に仕込まれた火薬がその内部で爆散する。
 甲殻や眼球が弾け飛ぶのを横目に、ファルルが後ろを振り返る。
 気を失っていた空海が倒れた車の上から弓を構えていた。
 彼女の横には獄門が超機械を持って立っているのを見ると、さっきまで彼女の治療を行っていたのだと分かった。
「仕上げに入りましょう」
 軽くウィンクする空海に頷きかけてファルルが銃を構え直す。
 鳴神達も残る主を失った護衛キメラに向かって駆け出した。
 指揮官を失ったキメラは単純なその動きで呆気なく殲滅される。
 風は止み、太陽は西の空に隠れようとしていた。

 敵を殲滅後、壊れた車から燃料を無事な車へと移している間、獄門は倒した指揮官を調査していた。
「ふむ、ふむ? ほお〜。はっはぁー」
「なぁ、なんか分かったの?」
 キメラの屍骸を弄っている獄門の横で白鴉が尋ねかける。
「うむ。どうやら、このキメラ。伝達手段にフェロモンを使っていたようだねェー」
「フェロモンっていうと‥‥鷹司さんから出ているアレ?」
 当の鷹司は少し離れた場所で痺れた手を揉み解していた。
「む。まぁ、間違ってはいないが‥そういうものだねェー」
「でもよ、そんなんで指揮ってとれるもん?」
「まぁ、行動の種類はキメラ単体が持っているものとしてだね、どの行動を取らせるかを促すようなものだと思うよー。あとは、単体が持つ行動の種類の多さによって幾万通りもの行動パターンが生まれる事になるだろうねェ。本能とかそういう部分も加わると複雑な行動を取れるはずだよー。だから、フェロモン‥といってもそれ自体を発展拡大した機能だと思うけど、それで十分指揮は取れるはずだねェー」
「へぇーそういうものかぁ」
「おーい。そろそろ出発するよー」
 準備を終え、運転席に座ったファルルが他の者達に声を掛ける。
 その声に合わせて傭兵達は立ち上がった。
「さて、戦いが始まるわけだねェー」
「は? 戦いって、もう終わったんじゃ‥‥」
「いいえ、本当の戦いはここからです」
「え‥鳴神さん?」
「気づいていない白鴉様は棄権ということですわね」
「ふふ‥‥狙った獲物は逃がしませんよ」
「え、え? なんで皆して覚醒してんの‥」

『さーいしょーはグーー! じゃーんけーん‥‥』

 助手席争奪戦。
 帰り道、寒い荷台から逃げるために傭兵達の戦いが始まるのだった。
 その頃、基地の方は果たして‥‥。