タイトル:センス・ゼロマスター:水君 蓮

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/10 05:13

●オープニング本文


「後退だ! 総員後退しろ!」
 隊長の怒号と違わない命令に、隊員達は弾かれたように駆け出す。
 隊員達が我先に逃げていく中、隊長はその様子を尻目に、目の前の敵と対峙していた。
 風貌は狼のようだが、その巨体と背中に生えている黒く長い体毛は記憶のそれと似ても似つかない。
 しかし一番近い存在を上げるならばやはり狼で、便宜上その生物を狼と呼称することにする。
 狼は瑠璃色の瞳で静かに隊長を見定め、隊長は悔しさと憎らしさで苦々しい表情を浮かべる。
 しかし退き時を見極めるのも隊長の任務であり、隊長は部下が全員避難したことを確認すると、狼に背を向けて走り出した。
 狼はいつでもその無防備な背中に飛び掛って命を奪う事が出来たが、そうはしなかった。
 興味を失ったように走り去る隊長に背中を向けて、深い霧の奥へと姿を消して行った。

 ●一時間前
 昼夜を問わず深い霧で包まれていることで知られている山間の森で、狼型キメラを発見したとの情報が寄せられてUPC軍の調査部隊が赴いていた。
 現場は噂通りの霧に満ちた鬱蒼とした森で、数十メートル先も遠望不可能である。
 おまけに森の中には微弱ながら電磁波が発生しており、その影響で機械類の調子が狂うため、調査部隊は仕方なく肉眼での捜索を行っていた。
 捜索は困難を極め、キメラの発見は不可能に近いと推測されていたが、探索開始から数十分が経過した頃、拍子抜けするほど簡単に目的を達成する事が出来た。
 むしろ驚愕すべき事実は、その際に狼の方から姿を現した事である。
 狼は静かに隊員達の前に歩み出ると、この場から退けと言わんばかりに全員を睨み付けた。
 一瞬はその威圧感に退却を考えた隊員達だったが、その後ろに控える隊長が怒号と違わない大声で攻撃命令を下したので、慌てて隊員達は武器を構えた。
 直後、狼の背中の毛がざわついたかと思うと、連続して風を切るが響き渡った。
 隊長は狼が攻撃をする前に発砲するように命じるが、隊員達は誰一人言う事を聞かない。
 何事かと視線を向けてみれば、隊員達は困惑した様子で全員地面に伏していた。
 隊長も隊員も何が起こっているのか理解できない中、静かに狼が佇んでいた。

 ●帰還後
「これが、そのキメラの毛針ですか」
 サンプルとして渡された体毛を眺めながら、研究者は嬉しそうな声を上げる。
 実際に研究者の顔は笑みを浮かべており、サンプルを渡した調査部隊の隊長の不機嫌そうな表情とは対照的であった。
 あれから無事に全員帰還を達成した隊長は、隊員の衣服から発見されたサンプルを、基地で待機していた研究者に渡した。隊長もこの研究者の詳しい素性は知らないが、UPC軍がキメラを研究している施設から各基地へ派遣されているという。
「ヤツはたった数十本の毛で我が部隊を壊滅寸前まで追い込んだんだぞ!」
 基地中に響き渡りかねない隊長の怒声に、研究者は堪らないと耳を押さえる。
 怒り爆発という言葉がこれ以上なく似合いそうなシュチエーションである。
 研究者は耳鳴りが治まるのを待ってから、渋々といった表情で口を開いた。
「詳しい検証はこれから行いますが、恐らく感覚麻痺性の毒が内部に仕込まれているのでしょう。
 貴方の言葉が真実ならば、効果は即効。しかし、10分ほどで毒は消えてしまう。
 最も、10分もあれば動けない獲物を仕留めるのには充分でしょうけどね」
 軽口を叩いた研究者に、隊長の有無を言わさぬ鋭い視線が突き刺さる。
 しかし、睨まれた位で臆すようでは半人前の研究者である。
 研究者は落ち着いた表情でその剣幕を受け止めると、さらに言葉を紡ぎ出した。
「そんな状況の中、貴方達調査部隊が一人も怪我を負うことなく帰還することが出来たのは、さしずめそのキメラの情けという所でしょうかね。
 もしくは、最初から相手にするつもりはなかった、とか」
 瞬間、隊長が勢い良く机を叩いて、椅子に腰掛けていた研究者の胸倉を掴んで無理矢理立ち上がらせた。
 隊長のピクピクと痙攣する額の血管が、研究者の眼前にある。
「それは、我が部隊では到底ヤツの相手にはならない、と言っているのか?」
 表情の割りに落ち着いた声が一層不気味だったが、その状況でなお冷静な研究者の方が不気味であった。
「事実、貴方達はエミタを装備した傭兵ではなく、事前調査を行う普通の軍人でしょう。
 貴方達の装備では到底キメラに負傷させることなどは不可能です。
 彼らは一般的な攻撃を無効化する素晴らしいバリアに守られていますからね」
 途中で隊長は何度研究者の顔面に拳を沈めたかった事だろう。
 その証拠として胸倉を掴んでいない方の手は後ろに持ち上げられ、いつでも射出できるようになっている。
 震える拳骨を無感情で見つめながら、研究者は言葉を続けた。
「貴方達は充分に任務を真っ当しました。
 最近は調査部隊が現場で命を落とす事が多く、私達も心を痛めていたのです。
 貴方の部隊が無事に帰還できたことを、心から喜んでいますよ」
 隊長は相変わらず研究者を睨みつけていたが、その目に先ほどまでの殺意はない。
 ゆっくりと構えた拳を下ろし、研究者を椅子へ放るように拘束から解いた。
「ご安心下さい。
 私達が必ずや、貴方の持ち帰ったこのサンプルから有益な情報を発見して見せますよ」
 椅子に腰掛け直して衣服の乱れを整えながら、研究者は微笑を浮かべてそう告げた。
 隊長は溜め息を深々とついた後、抑揚のない声で訊いた。
「お前達が嬉しいのは、我々の命の無事より、サンプルが手に入った事だろう?」
「勿論ですとも」
 研究者の即答に、隊長はもう一度長く息を漏らした。

●参加者一覧

ファファル(ga0729
21歳・♀・SN
比留間・トナリノ(ga1355
17歳・♀・SN
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
虎牙 こうき(ga8763
20歳・♂・HA
武藤 煉(gb1042
23歳・♂・AA
カララク(gb1394
26歳・♂・JG
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
美空(gb1906
13歳・♀・HD

●リプレイ本文

 闇に覆われた空が明るくなり、輝いていた月が役目を終えてその身を白く染める。
 山の向こうからは眩い輝きを持つ太陽がゆっくりと現れ始め、世界に夜明けの到来を知らせていた。
 一同は森の前に辿り着くと、改めて準備と作戦会議を行っていた。
「霧か‥‥中々骨が折れそうだな」
 森の様子を眺め、ファファル(ga0729)は煙草を吸いながら表情を曇らせた。
 集合前に地元の人間に話を聞いて回ったが、誰も森の中の地形を知らないという。
 それもそのはず。目の前の森は『悪魔の巣』などと地元では呼ばれていて、誰も近寄ろうとしないのだ。
「鉄壁の防御をもってしびれ毛針を攻略するのであります」
 胸を張ってそう提言するのは、AU−KVに全身を包まれた美空(gb1906)だった。
 確かに、硬い装甲に覆われた彼女に対しては毛針は通用しないかもしれない。
 しかし、可能性は0ではない。
「一筋縄でいかない相手だ。皆、気をつけてくれ」
 美空の油断を指摘する意味で、カララク(gb1394)が注意を促した。
 敢えて彼女を名指ししないのは、彼の優しさか。それとも単なる偶然か。
「シビレ針か‥‥喰らったら危ないな‥‥」
 虎牙 こうき(ga8763)が報告書にあった敵の主要攻撃手段を思い出し、自分の警戒心を高めるために敢えて言葉にした。
 毛針に仕込まれた感覚神経を麻痺させる毒は中和されるのも早いが効果を発揮するのも早いと聞く。
 唯の一発でも体のどこかに当たれば即全身が動かなくなるだろう。
「しかし、自分の体が自分で動かねぇなんて‥‥出来れば体験したくねぇなぁ‥‥」
 武藤 煉(gb1042)が嫌な想像をした様子で呟く。
「ところで、キメラが好戦的じゃないってのはどういうことなんだ?」
 ヒューイ・焔(ga8434)の言葉はこの作戦に参加した多くの者が抱えている疑問だった。
 本来人間を襲う生物兵器であるキメラが戦闘を望まないというのは、その存在に矛盾が発生しかねない。
 その真意を確かめる意味で本作戦に参加した人間も存在する。
「エミタを持たない一般人に対して好戦的でなかったからといって、我々にもそうとは限りません。警戒は密にしましょう」
 シャーリィ・アッシュ(gb1884)の主張は最もで、全員の警戒心が密かに高まる。
 相手が能力者で自らを滅ぼしに来た存在と知れば、温厚なキメラと言えど攻撃を行ってくる可能性が高い。
「貴様、そのマントは何だ?」
 ファファルが比留間・トナリノ(ga1355)の体を覆う白いマントに興味を覚え、質問をした。
「標的が視覚だけに頼っているとは思えませんが‥‥。
 まあ何もないよりマシだと思われます、うっうー!」
 どうやら擬装効果を期待しての装備らしい。
 霧の深い森の中でそのマントは高いカモフラージュ性を発揮できるだろう。
「さぁ、狼狩りに出発するのであります」
 美空が待ち切れないとばかりに作戦開始を提案する。
 一同は最後に深呼吸すると、各々の決意を固めて森へ向けて足を進め始めた。
「カララク、煉兄! 今回はよろしくっす!」
 こうきが仲の良いカララクと煉に挨拶をし、2人はそれに微笑みで応える。
 それぞれの思惑を他所に、霧の中の探索が始まった。

「マタ来タノカ、人間‥‥」
 森の中を調査し始めて1時間。
 予想以上に濃い霧に苦しめられながら一同が森の中を彷徨っていると、突然何者かの声が聞こえてきた。
 一同はお互いの顔を見合わせるが、誰も喋っていないと首を横に振る。
 では一体誰が、と一同が霧の向こうを凝視していると、『それ』は霧を纏いながらゆっくりと現れた。
 本来の獣の平均サイズを凌駕する大きな体の狼。
 そして独特の長毛を背中に携えたその獣は、一同が捜し求めていたミストファングであった。
「こいつ、喋った!?」
 焔が驚いた声を上げ、ミストファングはそれを鼻で笑う。
 予想外の事態に一同は驚きを隠せないが、ミストファングは決してその隙を衝こうとしなかった。
 静かに一同の前に立ち、その動向を見守っている。
「お前は‥‥何がしたい‥‥。命を奪うために作られた存在でありながら、それをするわけでもない‥‥」
 少なからず会話が出来る相手であると知り、シャーリィが辛抱出来ずにその真意を尋ねた。
 相手がただの獣だったならばその疑問は解消されることなく終わったであろう。
 しかし、幸か不幸か標的であるミストファングは会話が出来る能力を所持していた。
 故に、答えを求めてしまったのかもしれない。
 ミストファングはすぐには答えようとせず、目を閉じてしばらく黙っていたが、ゆっくりと口を開いた。
「我ガ望ムモノ、『平穏』」
「キメラが、『平穏』を望む‥‥?」
 想定外の回答に、カララクは眉が近寄るのを禁じ得なかった。
 他の皆も同じように戸惑った様子でミストファングを見つめている。
 目を閉じているのにその光景が見えるのか、ミストファングは再び鼻で笑った。
「オカシイカ」
「どうして、『平穏』を望むのでありますか?」
 何となく申し訳ない気持ちになりつつ、美空が訊いた。
 ミストファングは静かに空を見上げるが、濃霧に覆われて何も見えない。
 しかし、ミストファングを空を見たい訳ではなかった。
「我ハ、コノ森ニ侵入シタ人間ヲ殺スタメニ生ミ出サレタ。
 シカシ、誰モ近寄ラナイコノ森ニ永ク棲ンデイル内ニ、次第ニ我ハ人間ナドドウデモヨクナッタ。
 他ノ動物ト同ジヨウニ森ノ中デ生活ヲシテイル事ガ幸セダッタ」
 ミストファングの懐かしむような瞳が一転し、急に殺意に満ちたものへと変化する。
「ダガ、我ノ『平穏』ヲ人間ガ奪ッタ!
 人間イナケレバ、我ハ静カニコノ森デ生キテイタ!」
 ミストファングの背中の毛が逆立ち、一同は即座に戦闘態勢を整える。
 しかし、その間に立ち塞がるようにこうきが突然前に出た。
「待ってくれ! 話し合う事が出来るなら戦う意味はないだろう!」
 低く唸り、今にも飛び掛ってきそうなミストファングを目の前にし、こうきは無意識に固唾を呑んだ。
 後ろでその様子を見守る一同は、こうきが襲われそうになったらいつでも援護できるように構えている。
 ミストファングは次第に唸り声を静めると、再び口を開いた。
「モウ、遅イ。我ハ主ラを『敵』ト認識シタ。
 『敵』ハ殲滅スルヨウ、命令サレテイル。命令ハ、絶対ダ」
 言い終わるか否かのタイミングで、ミストファンゴが踵を返して霧の中へと姿を眩ませる。
 一同は集結して全方位を警戒するために円陣を組んだ。
 森の中を狼が高速で移動する音が聞こえるが、どこに存在しているのか全く見当がつかない。
「準備ハ良イカ」
 右から聞こえてくるのか左から聞こえてくるのか、まるで森全体から響いてくるような錯覚を覚える。
 だが、敵にわざわざ冷静になる機会を与えられて、慌てふためくような無礼な一同ではない。
 心を静かにし、その襲撃に備えた。
「──参ルッ!」
 瞬間、霧が揺らめいたかと思うと、ミストファングが一同に向かって駆け出した。
 その正面に対峙するのは、こうきと煉。
「響け! 弱化の音色、弱りのノクターン!」
 こうきは『練成弱体』を発動し、煉は『両断剣』を発動させてベガを構えた。
 ミストファングは凄まじい速度で煉の前まで距離を詰め、煉がタイミングを見計らってベガを振り下ろす。
 しかし、ミストファングをスピードを殺す事無く右に移動して攻撃を回避すると、煉の脇腹を鋭い爪で裂いた。
「‥‥っ!」
 煉が痛みに声を漏らし、ミストファングはそのまま走りきって再び霧の中へ消えようとする。
「逃がすか‥‥」
 呟いてカララクがクルメタルを構え、同時に『影撃ち』を発動させる。
 隣にいたファファルはスナイパーライフルを捨てると、小銃「フリージア」を取り出して『鋭覚狙撃』による射撃を行った。
 2人の弾丸は霧の中に吸い込まれ、間髪置いて霧の向こうから獣の悲痛な声が聞こえる。
「ヤリヨルワ‥‥」
 ミストファングは一同の実力に驚いていたが、一同は内心で焦っていた。
 前衛と後衛に分かれて攻撃を行う作戦を折角立てていたのに、逆に敵に奇襲される形となってしまったからだ。
 元々、濃い霧の中で地図もなく土地勘もない一同が先手を取るというのは無理があった。
「少々眠ッテモラウゾ」
 風を切る音が聞こえたかと思うと、カララクとファファルが地面に倒れていた。
 驚いて視線を向けてみれば、いつの間にかその肩に毛針が差し込まれていた。
「すまない‥‥」
 ファファルが詫びの言葉を発して必死に体を動かそうとしるようだが、感覚を麻痺される毒は一切の動作を許さない。
 情けなく地面に伏し、ただ全員の無事と己の安全を願うしかなかった。
 次に霧の中からミストファングが姿を現したのは、比留間と焔の正面であった。
 焔は持って来た爆竹を点火させ、その隣で比留間がサブマシンガンの引き金を引いた。
 ばら撒かれる弾丸は一発一発の威力は低いが、何発も喰らえば相当なダメージとなる。
 ミストファングは左右に蛇行するように不規則に動いて弾丸の雨を回避するが、焔の爆竹には対処出来なかった。
 鼻先で破裂した爆竹に驚き、その一瞬の虚を突いて比留間がサブマシンガンを撃つ。
 ミストファングは急速旋回して霧の中に消えたが、それまでに何発か弾を浴びる結果となった。
 しかし去り際に毛針を発射され、比留間を庇った焔が倒れる痛手を負わされた、
「お前がキメラである以上、私はお前を切らねばならない。
 お前がその姿のままの誇りを持つのならば‥‥全力で抗え」
 シャーリィの言葉に誘導されるように、今度はミストファングが彼女と美空の間に姿を現す。
 最初の頃とは見違えるほど血に濡れた惨たらしい姿だが、その瞳に宿る殺意は全く変化していない。
 シャーリィは黙って『竜の爪』を発動させてバスターソードを構え、ミストファングの動きを冷静に見守り続けた。
 刹那、シャーリィがバスターソードを袈裟に振り、ミストファングが爪を伸ばして彼女の脇を通り過ぎる。
 一瞬の硬直の後、煉と同じように脇腹を裂かれてシャーリィは地面に膝を着いた。
 しかし、同時にミストファングの額にも斜めの裂傷が起こり、血が流れ始める。
「やぁー!」
 間の抜けた声で美空が盾を構えて突進してくる。
 ミストファングを迎撃しようと毛針を乱射したが、その針はAU−KVの装甲を貫くには至らず、美空の『竜の翼』を活用した盾の攻撃を喰らう破目となった。
 跳ね飛ばされたミストファングはうまく着地が出来ずに地面を数回転び、攻撃が有効であると判断した美空が更に突進攻撃を行う。
 ミストファングは倒れたまま美空の動きを見極めると、一発だけ毛針を発射した。
「お前の見せ札は美空には通用しないのでありま‥‥あれ?」
 突進しているはずだった美空は気が付けば地面に倒れ、勢いが殺せずに無様に土の上を転がる。
 感覚がなくなって全身を制御できないために無理に体を捻り、おまけに最後は派手に木の幹にぶつかって止まった。
 ミストファングの攻撃は美空のAU−KVの隙間を狙った見事な狙撃だった。
 如何に『竜の鱗』を発動させて防御力を高めた美空も、毒に対して耐性が生まれる訳ではない。
 最も、その事に気付くのは木にぶつかった際に気絶してしまった美空が目を覚ました後の話だろうが。
 ミストファングは傷付いた体を起こそうとするが、その動きは大分覚束無い。
「響き渡れ! 強化の音色、進撃マーチ!」
 こうきが『練成強化』を行い、比留間が全ての特殊能力を発動させてサブマシンガンを発射した。
 僅かに回避が間に合わなかったミストファングの体を、サブマシンガンの銃弾に撃ち抜かれる。
「クッ‥‥」
 ミストファングは体を横に倒し、もう動ける体力がないことをアピールした。
 2人は警戒しながらミストファングに近寄り、その傍らに屈み込んだ。
「コレデ我ハ、任務カラ解放サレル。モウ人間ヲ襲ウ事モナイ」
 徐々に生気を失っていくミストファングの瞳に、遠い過去の光景が浮かぶ。
 ある日森に迷い込んだ少年と過ごした穏やかな日々。
 その両親に発見され、少年と両親を殺害した日。
 その日を境に森へと侵入してくるようになった多くの人間達。
 ミストファングは最後に、自嘲するように鼻で笑って絶命した。