タイトル:仮想世界で大乱闘マスター:水君 蓮

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/11 16:58

●オープニング本文


 新型の仮想現実システムが完成したと聞き、ロック・エイプリル(gz0108)は早速、ラスト・ホープ内にあるドローム社を訪れた。
 何度か通って途中経過を見ていた彼にとって、その報せは少なからず胸を躍らせていた。
 研究室に到着したロックを迎えてくれたのは、彼と同世代に見える白衣の男だった。
 男は嬉しそうに表情を緩め、ロックは微笑を浮かべながら片手を挙げてそれに応えた。
「先週の経過報告を聞いた時には、完成はまだしばらく先だと思ってた」
 開口一番のロックの皮肉を聞いても、男の表情は変わらない。
 二人は挨拶を交わし、男に先導されるように研究室の奥へ歩き始めた。
「今夜は祝杯だな、レオン」
 レオンと呼ばれた男は、ロックの提案に賛同するように笑った。
 彼の名前はレオン・スタンロード。
 仮想現実システム開発に携わったチームのチーフを担当している。
 年齢はロックより二つ年上だが、それでもその若さでチーフに就任している事は彼の有能さを示していた。
 二人はある宴会で出会い、それ以来何となく馬が合って、年齢の違いも気にせず話をする関係になった。
 レオンが辿り着いた扉のロックを解除し、ロックは遠慮なく先に入室する。
 部屋の中には、三メートルほどの巨大な機械が隣接して円陣を組んでいた。
 レオンと同じように白衣を着た研究者らしき人物が忙しそうに機械の点検や話し合いをしている。
 ロックは以前にその機械を見た事があったが、完成したと思うとまるで別物のように目に映った。
 小さく意味不明な感心の言葉を漏らし、ロックは機械を眺め続けた。
 その肩を叩かれて振り返ると、レオンがクリップで纏められた書類の束を渡して来た。
 表紙には『仮想戦闘体験機資料』と書かれており、ロックは一度レオンに視線を送った後、内容の読破に取り掛かった。
 前半は機械の特性や性能の詳細が書き込まれ、後半は操作説明や表示に関する情報が記されていた。
「実際の機体の情報まで扱えるってのはすごいな」
 読みながら呟いたロックの言葉を聞き、再びレオンは嬉しそうな顔を浮かべる。
 その後は淡々と紙面に視線を滑らせていくロックだったが、その手が最後の項目で停止した。
「稼動テストには、実際に傭兵を参加させるのか」
 ロックがレオンに顔を向けると、彼は真剣な表情で頷いた。
 この仮想世界を開発した目的は新人傭兵のKV操縦練習のためである。
 動かして万が一の事故が発生しても、仮想世界ならばなんら問題にならない。
 経費としても今回の開発は魅力的であり、特にドローム社の支持を得る事に成功した。
 その稼動テストを一般人ではなく実戦経験のある傭兵が行うのは、当然と言えるだろう。
 ロックは納得し、残りの資料を軽く読み終えるとレオンに返却した。
「どうせお前の事だ。その人選を俺に任せるんだろ?」
 ロックの予想通り、レオンは少し申し訳ない顔をして頷いた。
「めんどくさいな‥‥」
 ロックは髪を掻きながら不服の声を漏らすが、既に頭の中では依頼状の文面作成を開始していた。
 今までの付き合いからレオンはその事を知っており、ニコニコと笑顔を浮かべて彼を見ている。
「やるだけやってやるから、今夜は奢りで頼む」
 ロックが言うと、レオンはしばらく悩むような仕草をした後、了承する旨を告げた。
「交渉成立だな」
 ロックが右手を差し出し、レオンがそれを握って軽く上下に振る。
 無論、ロックはレオンに全額負担させるつもりなど毛頭なく、その夜は久し振りに盛り上がるつもりだった。
 どの店にするかレオンと話をしながら退室する際、ロックは最後に横目で機械に視線を送った。
 まるでカタツムリの殻のようなそれを見つめた後、何事もないように再び会話を再開した。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
雑賀 幸輔(ga6073
27歳・♂・JG
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
レイアーティ(ga7618
26歳・♂・EL
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN

●リプレイ本文

 研究室の並ぶフロアの一角に、他の部屋とは明らかに異質な雰囲気を漂わせる部屋があった。
 基本的には静かなのに、時折急激に騒がしくなり、そしてゆっくりと元の静けさへ戻っていく。
 そこがお目当ての会議室だと理解すると、ロック・エイプリル(gz0108)は迷い無く扉を開けた。
 途端、まるで留められていた水が溢れ出すように、部屋の中からどよめきと興奮の声が放出された。
 一瞬の硬直の後、ロックはゆっくりと部屋に入り、来訪者の正体を確かめようともしない研究員達の背中を見守った。
 彼らの正面にはいくつもの液晶画面が設置され、それぞれ異なる景色を映し出している。
 それが仮想世界の様子をリアルタイムで処理して映像出力しているのだと、ロックは容易に想像出来た。
 唯一訝しげな視線を向けてきたドローム社の重役らしき人物に一応頭を下げ、ロックは設置された簡易椅子には座らずに壁に凭れ掛かった。
 その隣に、足音もなくレオン・スタンロードがやって来る。
「随分と演出面に力を入れたんだな?」
 ロックの言葉に、レオンは照れ笑いを浮かべて頭を掻く。
 こういう子供っぽい所が偉大な発明を生み出すのかもしれないな、とロックは内心で呟いた。
 勿論それを表情には一切出さず、黙って液晶画面に映し出される情報を眺め続ける。
「まずは一機撃沈、だな」
 ロックの予告通り、次の瞬間には決定打を打ち込まれた機体が大破し、研究員達は興奮の声を上げた。
 ロックは視線を液晶画面から隣の部屋──仮想戦闘体験機ヴァファエムの設置されている実験室に向ける。
 八機の内一機が稼動音を徐々に沈め始めたかと思うと、固定ボルトを自ら放出し、ゆっくりと操縦者を解放した。
 それが誰であれ、彼の言う台詞は決まっている。
 「お疲れ様」の一言である。

「さて、俺と『忠勝』とでどれだけやれるか、一勝負といこうか!」
 標的を目の前にして、榊兵衛(ga0388)は自身のやる気を示すように声を発した。
 鎧を着た武者のように見える兵衛の雷電の正面には、毅然とミカガミが佇んでいる。
 堂々としたその姿は相手の余裕を窺わせるように見えたが、実際はそうでもなかったらしい。
「射線さえ何とかすれば、こいつでも十分やれる。というか‥‥なんでミカガミより高機動な雷電がいるわけ!?」
 リチャード・ガーランド(ga1631)は幾重にも改造の施された兵衛の雷電を見て、驚きを隠せなかった。
 細かい部分にも手の届いたその改造機体は本来の雷電とは懸け離れた性能を誇り、リチャードの乗るミカガミが数値的に劣ってさえいる。
 無論、大事なのは機体の性能ではなく、乗り手の操縦性に他ならない。
 リチャードは決意を固めると、一番最初の標的を目の前に雷電に定めた。
 その様子を見ていた兵衛は相手がやる気であると察知し、臨戦態勢に移行する。
 僅かな時の静止の後、先に動き出したのは兵衛だった。
 素早く隣の建物の影に飛び込み、行方を眩ませる。
 リチャードは追跡しようとして慌てて踏み止まり、奇襲に備えた。
 迎撃は相手の動きを読めば容易であり、待ち構えている方に有利が発生する場合が多い。
 画面端に表示された地図に視線を向けて周囲の詳細図を表示させ、予想される敵の出現ポイントを割り出す。
 リチャードは数秒の思考の末、左側面からの奇襲の確率が高いと判断し、そちらに機体の正面を向けた。
 リチャードの考えが間違えではないと証明してくれたのは、他ならぬ兵衛だった。
 読み通り左側面の路地の向こうから兵衛の雷電が姿を現し、リチャードは構えていたマシンガンを発射させた。
 兵衛は動きが予測された事に驚いたが、そのまま路地から見えなくなるように移動しながら、ヘビーガトリング砲をミカガミに向けて撃った。
 二機の弾丸は互いの機体に損傷を与える事には成功したが、その破損具合は僅かなものだった。
 ただ、姿を消す前に雷電が放った強化型ホールディングミサイルは別だった。
 一直線に飛来してくるミサイルにリチャードは回避か防御を余儀なくされる。
 しかし今更回避した所で避けられる距離ではなく、防御した所で多大な損傷は免れられないだろう。
 リチャードが出した結論は、回避でも防御でもなかった。
 向かってくるミサイルをマシンガンで迎撃しようという、突拍子もない案だった。
 だが、リチャードはそれが成功すると信じ、夢中でマシンガンの引き金を引いた。
 ばら撒かれる無数の弾丸の雨をものともせず、ミサイルはミカガミとの距離を詰めていく。
 その様子を見ていた研究員達がもうどうしようもないと諦めムードに包まれた瞬間、リチャードは微笑みは浮かべた。
 刹那、放たれた弾丸の一発がミサイルに命中し、空中にて爆発を起こして周囲を煙と炎で包み込んだ。
 炎で機体の表面は少し焦げたが、防御するより被害は少ないと言えた。
 我ながら素晴らしい思い付きだとリチャードが安心し、自画自賛を行う中、その背後にゆっくりと雷電が歩み寄り、ロンゴミニアトを振り翳した。

 兵衛とリチャードの戦闘が行われているビル街の隣。
 レジャー施設が多く建造された遊楽街では、クリア・サーレク(ga4864)と雑賀 幸輔(ga6073)が睨み合っていた。
 実際には彼らの乗る雷電とディスタンが対峙していただけだが、彼らにはそこに座る相手の姿がまるで見えているような感じだった。
 しかし、戦闘が始まる気配は一切なかった。
 クリアは隣のビル街へ移動する事を考え、幸輔は戦闘を避けたいと思っていたからである。
 しばらくの膠着状態の後、幸輔は思い切って賭けに出た。
『よう、聞こえるか?』
 目の前の敵からの通信に、クリアは素直に驚いた。
「‥‥何でしょうか?」
 意を決して、クリアは通信に答えた。
 それが敵の罠かも知れないと注意しつつ、相手の返答を待つ。
 だが幸輔の申し出は、クリアの予想を遥かに超えたものだった。
『お互いに思う所もあるようだし、ここは停戦としないか?』
 言って、幸輔はディスタンの戦闘体勢を解き、銃口を空へ向ける。
 クリアは相手の真意を読めずに苦悩したが、もし幸輔の言葉が真実ならば自分にとって悪い提案ではないと考え、こう返答した。
「いいでしょう」

 全体図を四つに分けて南西に当たる部分が、繁華街である。
 ここはビル街ほど高い建物が乱立されていないが、隠れるスペースは充分にある区画だった。
 そこには今、ヴァシュカ(ga7064)とレイアーティ(ga7618)が存在していた。
 しかもヴァシュカのアンジェリカはレイアーティのディアブロを捕捉していたが、彼は彼女の姿を全く見つけられずにいた。
 と言うのも、曲がり角の向こうにレイアーティの姿を見つけたヴァシュカが慌てて隠れただけの事なのだが。
 ヴァシュカは自身が息を止める事が何の意味もないと思いつつも、息を殺してレイアーティの様子を窺い続けた。
 レイアーティは周囲を警戒しながら移動しているが、同時に誰かを探しているようでもあった。
 それが誰なのか、ヴァシュカは何となく想像を付けながら、ディアブロが向かう方向とは逆の方向へアンジェリカを移動させ始めた。
 彼女が向かう先は繁華街の隅の隅。
 一歩間違えれば袋小路となりそうなその場所は、一歩間違わなければ来襲する敵を限定出来る理想的な潜伏地点だった。
「‥‥さってと、取り合えず‥‥逃げますかねっ♪」
 完全にディアブロの姿が見えなくなったのを確認すると、ヴァシュカは周囲の探索を行いつつ目的地に向けて足を進めて行った。

 レイアーティの探し人、御崎緋音(ga8646)は彼を探しに行く所ではなかった。
 彼との事前の話し合いではビル街の一番高い建物の下で待ち合わせる予定だった。
 しかし彼女が居るのは最も遠い対角区域の住宅街。
 おまけに正面からは最上 憐 (gb0002)のナイチンゲールが不気味に彼女に歩み寄ってきていた。
 緋音は先ほどから高分子レーザー砲を彼女に向けて発砲しているが、憐は怯む事なく冷静にそれを回避し、どんどんと距離を詰めてくる。
 このままではレイアーティと合流前に倒されると考え、緋音は苦肉の策を用いる事にした。
 ゆっくりと近付く憐に向けて、緋音は最大出力で加速を行った。
 例え突進を見切られて回避されても、緋音はそのまま合流地点に向かうつもりだった。
 しかし、憐は動じずに向かってくる緋音の雷電を見据え、動こうとしなかった。
 このままでは激突すると緋音が身構えるのとほぼ同時に、やっと憐のナイチンゲールが動作を再開した。
 緋音は左右に跳んで回避してくれると考えていたが、憐の行動はもっと奇抜なものだった。
 迫ってくる緋音に正面を向けたまま、憐は後方にブーストによる移動を行ったのである。
 一定の距離を保ったまま移動を行う向かい合った二機のナイトフォーゲル。
 その行動の意図を、緋音は憐が真ツインブレイドを構えた事で知った。
 移動を最優先に考えた緋音の思考を読み取り、憐は逃がさず、避けさせず、致命的な一撃を与えるため、敢えて並走したのである。
 そして憐の考え通り、真ツインブレイドの刃は緋音の雷電の装甲を捉えた。

 実験が開始して早二時間。
 脱落者は徐々にその数を増し、今は五名にまで増えていた。
 脱落したのは、兵衛、リチャード、クリア、レイアーティ、緋音。
 リチャードは兵衛に倒されそうになり、せめて一矢報いようと機体に内蔵された雪村を発動させて同士討ちを狙った。
 しかしリチャードの攻撃は僅かに狙いを外し、兵衛の雷電に致命傷を与える事には失敗した。
 結果、リチャードは最初の脱落者となり、兵衛の雷電は中規模の損傷を被った。
 その後、まるで導かれるようにクリア、レイアーティがビル街へと集結し、人が集まったのを見届けると、幸輔が行動を開始した。
 ビル街の外周から照明銃を放ち、当時ビル街に潜伏していた兵衛、クリア、レイアーティの視線を一つに集め、遭遇させてしまったのである。
 照明銃の意味に混乱したまま三機は戦闘を行い、全員がかなり被害を受けた所に颯爽と憐が登場。
 ほとんど動けなかった機体とはいえ、一機ずつ確実に破壊していくと、流石の憐のナイチンゲールも無事ではなかった。
 中規模の損傷を受け、憐はそれを恨めしく思いつつも、次の獲物を探して移動を続けた。
 残っているのは憐、幸輔、ヴァシュカの三人。
 特に幸輔とヴァシュカの機体は戦闘を行っておらず、機体は全くの無傷だった。
 これは憐が不利かと思われたが、事態は予想外の展開を迎えようとしていた。

 ビル街の様子を繁華街から見守っていた幸輔のディスタンが、突然被弾した。
 憐の観察に意識を向けていた幸輔は驚き、慌てて敵の位置を把握しようと旋回する。
 振り返ったディスタンの右肩に、銃弾がめり込んだ。
 幸輔はすぐに身近な建物の後ろに隠れ、敵がいると思われる方向を影から睨んだ。
 彼を狙撃したのは、繁華街の隅で待機していたヴァシュカだった。
 幸輔の意識が繁華街に向いている事を見定め、アンジェリカのスナイパーライフルで攻撃したのである。
 しかしそれは同時に、憐の耳にも届いていた。
 潜伏状態で幸輔を仕留め切れなかったのは、ヴァシュカの不運と言えるだろう。
 おかげで残りの全員に存在を察知され、同時に全員容易に動けない状況を生み出してしまった。
 ビル街の南南西に憐。繁華街の中央西寄りに幸輔。繁華街の南西隅にヴァシュカ。
 三人は同じように敵の位置を把握しようとして、同じ位悩んで、そして同時に結論に至り、一斉に行動を開始した。
 乱戦と呼ぶに相応しい激闘の始まりだった。
 近接武器を主要兵器として扱う憐と幸輔と、遠距離武器を好むヴァシュカ。
 最初はヴァシュカの攻撃が三人の中で最も有効であったが、それも二人に距離を縮められるまでだった。
 白兵戦の間合いとなれば互いの一撃の重さを理解しあい、気軽に踏み込むことも儘ならない。
 ひたすらに牽制と計略が続き、三機は見る見る消耗していった。
 そして覚悟を決めると、三機は繁華街中央に同時に飛び出した。
 牽制のために武器は既に残弾がなく、あるのは白兵戦用の武器のみ。
 最後に仲良くほぼ同時に威勢の良い声を上げると、三機は衝突し合うように中央に向けて一斉に走り始めた。

「お疲れ様」
 その日、ロックは最後のお馴染みの台詞を告げた。
 彼の正面には憐、幸輔、ヴァシュカが横に並び、彼の隣には兵衛、リチャード、クリア、レイアーティ、緋音が整列している。
「それと、おめでとう──」
 言いながら、ロックは優勝者に向けて手を伸ばした。
「憐。あんたが優勝だ」
 言葉を受けて、憐はロックの手を握る。
「‥‥ん。良い勉強に。なった。また。やるなら。来る」
「それじゃあ次はリベンジマッチ、か?」
 ロックがニヤリとして一行の顔を見渡すと、全員かなりやる気の表情だった。
 元気だな、と呆れたように言いつつも、ロックも満更そうではない。
「とりあえず、依頼はこれで終了だ。
 ‥‥折角だ。どこか呑みにでも行くか?」
 ロックの提案を拒む者など存在せず、その日は深夜までラスト・ホープの酒屋を飲み歩いたのであった。