タイトル:地下迷宮からの脱出マスター:水君 蓮

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/14 01:39

●オープニング本文


 十二月某日の夜明け頃。
 競合地域にある大型デパートで、能力者の一行が任務を遂行していた。
 依頼内容は、デパート内のキメラの殲滅。
 最近になって多数のキメラがデパートに集結するようになり、一斉襲撃を警戒した地方軍の地区担当者がUPC軍へ依頼を出したのが事の始まりだった。
 夜襲を狙って能力者達は深夜に最大武装でデパートに乗り込み、キメラの群れを倒していった。
 最初は突然の襲撃に驚くばかりだったキメラ達も、半数が減る頃には状況を理解し、能力者達に襲い掛かり始めた。
 苦戦を強いられつつも見事な作戦とコンビネーションで能力者達は苦境を乗り越えていき、ついに最後の一匹にしてボス格となる巨大蜘蛛キメラを追い詰めた。
 能力者達は残った体力と練力を惜しみなく費やし、蜘蛛キメラに止めの一撃を与える事に成功する。
 蜘蛛キメラは断末魔の悲鳴を上げ、その場に崩れて脚をピクピクと痙攣させ始めた。
 後は帰還して任務完了報告をするだけだと能力者達が一安心していると、絶命したはずの蜘蛛キメラが突如として立ち上がり、最後の悪足掻きと言わんばかりに滅茶苦茶に暴れ始めたのであった。
 狙いの定まらない攻撃など冷静に対処すれば問題なかったのだが、能力者達はそうもいかなかった。
 それまでの戦闘で散々破壊されてきたデパートが蜘蛛キメラの暴走に耐え切れず、ついに倒壊してしまったからである。
 足場が崩れ、為す術もなく落ちていく能力者達。
 しかもデパートはただ崩壊しただけではなく、何故か同時に周辺の地盤も崩れ、地下深くへと埋没してしまったのである。
 デパートと一緒に地下へと埋もれていく能力者達。
 原因は様々あれど、一行は例外なく気を失ってしまった。

 能力者達が意識を取り戻した時、そこは見たこともない洞窟の中だった。
 どうやらデパートの地下に謎の巨大洞窟があったせいで、デパート諸共地下へと落下してしまったらしい。
 土が柔らかかった事などが幸いし、重傷者は一人もいなかったようだ。
 しかしいつまでも洞窟内に留まる訳にはいかないので、救助を要請しようと能力者の一人が無線機を取り出す。
 当然と言うべきか無線機の電波は地上まで届く事は無く、無線機からは無情な機械音だけが響いていた。
 ならば自力で地上まで上がるしかないかと一行が決意を固めていると、洞窟から伸びる数本の穴道の内の一本から奇妙な足音が聞こえ始めた。
 虫の足音を連想させるカサカサという音は次第に大きくなっていき、各々の武器を構えて能力者達はその正体を見定めようと待ち構えた。
 そう間を置かずに穴道の奥から姿を現したのは、穴とほぼ同じ大きさの体をした凶悪な体躯と面相の蜘蛛キメラであった。
 能力者達は慌てて武器による攻撃を仕掛けるが、巨大蜘蛛キメラの装甲は堅く、体力も練力も消耗した一行では満足な損傷を与える事も出来ず、生き延びる事を優先して他の穴道へ逃走するしか手段がなかった。
 無論、ほぼ無傷とはいえ、攻撃的な性格の蜘蛛キメラが能力者達をみすみす逃す訳もなく、まるで獣のような大きな咆哮を上げ、地下洞窟中の仲間に敵の襲来を知らせるのであった。
 そして同時に、自身も敵の息の根を止めるべく、能力者達が逃げていった穴道へと進入を開始した。

●参加者一覧

戌亥 ユキ(ga3014
17歳・♀・JG
ファルティス(ga3559
30歳・♂・ER
優(ga8480
23歳・♀・DF
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
キリル・シューキン(gb2765
20歳・♂・JG
黒羽・ベルナール(gb2862
15歳・♂・DG
美環 響(gb2863
16歳・♂・ST
水無月 霧香(gb3438
19歳・♀・FT

●リプレイ本文

 突然の落下。巨大蜘蛛との遭遇。逃走を行ってから約十分後。
 疲労を全身で感じながら、能力者達は通路より少し広い空間で一息付いていた。
 『一難去ってまた一難』とは正にこの状況を的確に表現しており、最早彼らにはそれが皮肉にすら聞こえていた。
「お尻痛いし、蜘蛛だらけだし、んもー嫌ぁっ!」
 真っ先に不満と文句を漏らしたのは、戌亥 ユキ(ga3014)だった。
 傭兵として数々の修羅場を潜ってきた彼女だが、その素性はどこにでもいる平凡な女性と変わらない。
 このような状況で文句を言うなという方が無理難題だった。
「‥‥まさか崩れるとはな。安普請か?
 何はともあれ報酬上乗せだ。事前に提示された金額では釣り合わん」
 キリル・シューキン(gb2765)も彼女に続くように恨めしそうに言葉を漏らした。
 同じような心情の人間を見つけてユキは僅かに安堵し、周囲の人間はキリルの台詞に苦笑を浮かべた。
 そんな中、貸与された無線機の調子を何度も確認していた水無月 霧香(gb3438)が口を開く。
「無線も通じんようやし、自力で出口探すしかないみたいやな‥‥」
 彼女の意見を受けて何人かが自身の無線機を確認してみたが、結果は皆同じだった。
「い、痛ぅ‥‥」
 不意にリュドレイク(ga8720)が声を上げ、何事かと一行の視線が彼に集中する。
 どうやら彼はキメラ殲滅作戦の時に負傷を負っただけでなく、落下時の打ち所がかなり悪かったらしい。
 立っている事も精一杯であることが、表情から容易に読み取れた。
「兎に角、いつまでもここにいる訳にはいかないな」
 後方を注意しながら、ファルロス(ga3559)が移動再開を提案した。
 このまま長居していれば、またあの巨大な蜘蛛キメラと遭遇してしまうかもしれない。
 そしてその時、今回と同じように全員無事に逃走出来るとは限りらない。
 リュドレイクの事を気に掛けつつ、一行は今の自分の状態や装備の確認を行った。
 残った弾は少なく、連続使用によって武器の状態は良好とは言い難い。
 しかし、現状で出来る限りを尽くさなくては、全員無事生還は夢のまた夢となるだろう。
 その覚悟と決意を固めつつ、一行は手短に移動時の陣形や敵との遭遇時の対処方法などを話し合った。
 さきほどの大蜘蛛だけが敵とは考え難いため、一行は様々な状況を想定した。
 その結果、重傷のリュドレイクを守るように中心に置いた、三列の陣形が適切だと判断が下された。
「やれやれ。蜘蛛キメラを倒したと思ったら地下迷宮へご招待ですか。
 なかなか思い通りに行きませんね。長い一日になりそうです」
 優雅に肩を竦めながら、美環 響(gb2863)が最前列の中央へと移動する。
 その右に霧香が。その左には優(ga8480)が並んだ。
 優は進行方向先から微かに風が吹いている事を事前に調べており、彼女が脱出への道案内役を任されていた。
 その三人の後ろに、ユキ、リュドレイク、黒羽・ベルナール(gb2862)の三名が列を作る。
 ユキはリュドレイクの腕を自分の肩に回し、黒羽は彼を元気付けるように、
「絶対、全員無事に帰るよ!」
 という気合いの入った一声を上げた。
 一番後ろの列にはキリルとファルロスが配置され、後方からの奇襲に備えている。
 全員の配置が完了し、特に問題がない事を確認すると、最前列の三人はゆっくりと脱出に向けて歩き始めた。

 分岐路に差し掛かった際には全員一時停止して優が風の流れを調べ、着実に脱出への道を歩んでいた。
 地下八階ほどまで落下していた一行は一時間と経たずして五階付近にまで辿り着き、その足取りは快調かに思えた。
 しかし、七度目の分岐路に到着した時、一行は今までに聞いた事のないような物音を察知した。
「何の音だ?」
 ファルロスが訝しげに後方へ視線を送るが、音源は彼の背後側──つまり、一行の進行先からであった。
 霧香、響、優が武器を構え、慎重にその正体を見極めようと進路の先を見守り続ける。
 次第に大きくなる物音に一行の緊張感も高まり、いよいよ音が目前まで迫った時、その正体がゆっくりと姿を現した。
 体長が一メートル近くもある巨体の蜘蛛だった。
 それでも最初に遭遇した蜘蛛よりは格段に小さく、その印象が強かった一行にとって、その蜘蛛は『小型』と認識されてしまった。
 小型の蜘蛛が五匹ほど、前方から速度を緩める事無く接近してくる。
 そのまま一行が脇に避けていれば素通りしてくれれば嬉しいのだが、いくつも存在する眼球には本能的に理解できる殺気で満ちていた。
 どうやら大蜘蛛の子供、といった所らしい。
 それが敵であると一行が認識した瞬間、響は小銃による攻撃を既に行っていた。
 響が抜き出ていた先頭の一匹に銃弾を数発浴びせると、小型の蜘蛛はあっけなく断末魔の悲鳴という名の奇声を上げて絶命した。
 それを見た霧香と優は自ら蜘蛛に駆け寄り、刀と小太刀による攻撃を仕掛ける。
 切れ味が多少落ちている様子だったが、蜘蛛を殲滅する事には成功した。
 彼らに襲い掛かったのは、『矢蜘蛛(ヤグモ)』と呼ばれている最も戦闘力の低いキメラだった。
 攻撃手段も基本的に突進や飛びつきしか持たないため、単体としては非常に弱い相手ではある。
 ただし、彼らにはそれを補うある特徴が存在した。
 それが何なのか、能力者達は視覚と聴覚にて思い知る事となる。
 再び響き始めた物音は後方からで、それは先ほど聞いたヤグモの足音ととても良く似ていた。
 しかし、後方から響く足音の数は前回の比ではなく、まるで小さな地震が近寄って来ているようである。
 困惑する一行が目にしたのは、後方から迫り来る無数のヤグモの群れであった。
 ──彼らの最大の特徴は、その生産の安易さ故の『数』。
 個体として能力の低い彼らが得た強さは、群体としての力だった。
 いくら能力者達と言えど、その数を現存戦力で殲滅させるのは至難の業だ。
 誰かが号令を掛ける必要もなく、一目散に一行は走り始めた。
 ファルロスとキリルが走りながら時折後ろへ向けて銃撃を行い、ユキと黒羽がリュドレイクを肩に担ぎ、霧香と響と優が前方の敵を薙ぎ払う。
 こうして、一行は三十分近くただひたすら走り続けた。

 地下の迷宮へ迷い込んで早三時間。
 一行は直感を頼りに迷宮の中を夢中で駆けていたが、気が付くと既に地下三階位の場所まで登って来ていた。
 とはいえ、その道中は決して気の休まるものではなく、中には敵の攻撃を受けて負傷した者さえ存在していた。
 特に地下四階で遭遇した火炎の息を吐く『緋蜘蛛(ヒグモ)』は強敵で、奴の炎に何度も進行が妨害された。
 妨害と言えば粘着性の高い糸を吐く『網蜘蛛(アミグモ)』も登場し、一行を苦しめた。
 結果、元々少なかった一行の銃器の弾丸は真に少数となり、刀剣類は目に見えて疲労し、汚れていた。
 しかし無線機の電波が時折微妙に地上の電波を拾うようになると、一行は自分達が地上に近付いている事を理解し、素直に喜んだ。
 その後は数多の敵と遭遇する事もなく、一歩一歩確実に地上へ向けて移動をする事に成功した。
 そしてついに、一行は地上まであと僅かという所まで到着する。
 最後の道の分かれた広間に進入し、優が風の吹く先を探そうとした時だった。
 突然全ての通路から大小様々な蜘蛛が這い出て、一行を囲んでしまったのである。
 現れたのはヤグモが六匹、アミグモ三匹にヒグモ二匹という特殊な組み合わせだった。
 恐らく、それが蜘蛛達の最後の妨害を賭けた戦力だったのだろう。
 中心にリュドレイクを下すと、ユキや黒羽も武器を構えて能力者達は円陣を組んだ。
 両者はしばし睨み合ったまま時だけが流れていったが、それを一行を追い続けていた巨大な『鎚蜘蛛(ツチグモ)』が制した。
 定期的に奇声を上げ、まもなく一行の元へ辿り着く事を予告しながら、ツチグモがゆっくりと迫ってくる。
 それを知り、のんびりと睨み合いを続けられるほど能力者達に余裕はない。
 一か八かの博打気分で、一行は一斉に先制攻撃を仕掛けた。
 アミグモの糸を刀で受け、もう片方の手に握られた氷雨を眼球に振り下ろす霧香。
 霧香の援護にとアミグモの胴体にアーミーナイフを投擲しながら、目の前のヤグモにアサルトライフルを乱射する響。
 ヤグモを二匹仕留める事に成功したが、三匹目に腕を噛み付かれた黒羽。
 黒羽の腕に噛み付いたヤグモに小銃を撃つキリル。
 ヒグモの火炎息の熱に苦しみつつも、月詠を頭部に突き立てた優。
 超機械剣で最後のヤグモに止めを刺したが、直後のアミグモの糸で身動きの取れなくなったファルロス。
 ファルロスを捕らえたアミグモに最後の弾丸を放ち、自身に迫る最後のアミグモに壱式で急所を突いたユキ。
 そして、最後のヒグモは、重傷で満足に動く事も叶わないリュドレイクの目前まで接近していた。
 相手が動けない事を知り、わざわざ恐怖心を煽るためにリュドレイクに歩み寄ったヒグモ。
 それが彼の敗因であった。
 リュドレイクは隠し持っていた鬼蛍を取り出すと、ヒグモの眼球を横に薙いだ。
 いくつかが潰れ、中から水とは違う液体が溢れてヒグモに悲鳴を上げさせる。
 ヒグモが怯んだ隙にリュドレイクは武器をサブマシンガンに持ち替えると、体を倒して弾が尽きる事も厭わずに引き金を絞り続けた。
 ほぼ零距離で発射された弾丸はほぼ全てヒグモに命中し、その半分ほどの時点で既に息絶えていた。
 敵を殲滅出来た事に安堵する暇もなく、奇声と共に一行が通ってきた通路からツチグモの足が一本、出現した。
 慌てて一行はリュドレイクを起こし上げると、全員で協力して地上への通路を走った。

 地下迷宮の探索を始めてから五時間。
 時には絶望的な思いをする事もあったが、ついに能力者達は地上へと脱出する事が出来た。
 最後に穴を塞いでいた瓦礫を全員で協力して排除すると、そこは埋没したデパートのすぐ傍だった。
 一行を探していた救助隊員が偶然近くにおり、間もなく全員救助ヘリに収容され、その場を後にした。
 最後までツチグモが地上まで追いかけてこないか心配していたが、結局ツチグモは地上にその姿を現す事はなかった。
 救助ヘリの中でユキが、
「早くふかふかのベットで眠りたいよ」
 と漏らし、それに対して響が、
「まずはお風呂に入ってからですね」
 と、満面の笑顔で補足した。
 一方キリルは黒羽が救助隊員に腕の治療を行われているのを視界の隅に捉えながら、ぼんやりと眼下の地下迷宮への入り口を見ていた。
(「しかし一体あの洞窟は‥‥? 
 ‥・・考えても仕方ないか。ああ、朝日が綺麗だ‥‥」)
 しかし、すぐに地下迷宮への興味は薄れ、昇った朝日に今自分が生きている喜びを感じ始めた。