タイトル:全力で女湯を覗け!マスター:水君 蓮

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/17 16:04

●オープニング本文


 日本の比較的穏やかな地域にある温泉宿『華峰庵(ハナミネアン)』。
 現在、この宿はある深刻な問題を抱えていた。
 その問題というのが、華峰庵最大の名物である大型露天風呂。
 季節毎に変化する風景を、温泉に浸りながらのんびりと楽しむ。
 そんな憩いと癒しの場所を乱す不届き者が最近華峰庵では続出していた。
 即ち、覗き魔である。
 しかもその覗き魔は他の覗き魔と違い、ありとあらゆる手段を使って女湯を覗こうとするのである。
 到底そのリターンに見合うとは思えないリスクを背負っている気がするのだが、何にしても覗き魔を野放しにしておく訳にはいかない。
 宿側の極秘調査で犯人は能力者である可能性が高いと判明したが、利用客の半数近くが能力者の華峰庵にとって、能力者立ち入り禁止と発表するのは自身の首を絞めるのと同義であった。
 しかしいつまでも何の対策もなしでは、一般人の客が来なくなる可能性もある。
 宿の経営者は散々頭を悩ませて数少ない毛髪を消費した挙句、意外な結論へと到達した。
「能力者がどうやっても女湯を覗けない完全防衛システムを採用しよう」
 露天風呂は一ヶ月もの大掛かりな工事を終え、新しく生まれ変わった。
 外見上は以前とほぼ変わらず、見えない部分に軍事産業技術を隠して。
 いざ営業を再開しようという時、ふと経営者は考えた。
「本当にこの防衛システムで覗き魔を撃退できるのだろうか?」
 再び経営者は悩み、サラサラと髪の毛が床に落ちていった。
 そして、またしても驚愕の結論へと経営者は辿り着いた。
「ここはやはり能力者の方達に協力して頂こう!」
 かくして奇妙な依頼がULTへと舞い込み、こうして発足に至ったのであった。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
百瀬 香澄(ga4089
20歳・♀・PN
九条・縁(ga8248
22歳・♂・AA
香坂・光(ga8414
14歳・♀・DF
天道・大河(ga9197
22歳・♂・DF
抹竹(gb1405
20歳・♂・AA
美空(gb1906
13歳・♀・HD
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG

●リプレイ本文

 四季の変化を敏感に反映する自然に囲まれた温泉宿『華峰庵(ハナミネアン)』。
 ここを訪れる者は大半が癒しと休息を求めているものなのだが、その日は少し様子が違った。
 全体から見れば若干名。数にして四。
 命を賭してでも女湯を覗こうという無駄に熱意を持った男達が存在した。
 特に九条・縁(ga8248)と天道・大河(ga9197)はその筆頭と言え、より一層の真理の探求を目指していた。
「まずは基本ともいえる柵越え、それから各自散会し女湯を目指す。
 たどり着けさえすれば、転落防止用の柵なんぞ障害にもならないぜ!」
 大河は力強く拳を握り、大演説を行っている。
 現在、縁、大河、抹竹(gb1405)、蒼河 拓人(gb2873)の四名は一つの部屋に集まり、如何にして女湯を覗くかという会議を行っていた。
 その壮絶さはまさに戦場の如く。
 意見という名の弾丸が飛び交い、抹竹と拓人はやや腰が引けていた。
 というのも、彼ら二人は女湯を覗く事が目的とは考えておらず、縁と大河の燃え上がりようは異常と思えていた。
 抹竹は冷静に依頼という見方で、拓人は最新警備システムの攻略に重点を置いていた。
「ロリっ子からお姉さんまで‥‥まさに壁の向こうはパラダイスだな!!」
 作戦会議はいつの間にか脱線し、大河はまだ見ぬ女湯の妄想を語り始めていた。
 今回依頼に参加したのは、彼ら男性だけではない。
 温泉を楽しみ、非常時の撃退要員として、女性も参加しているのである。
 ちなみに女性陣は現在、温泉宿の玄関脇にあるお土産コーナーで和気藹々と買い物をしていた。
「やはりどこにでもあるものなのですね、温泉まんじゅうって」
 鳴神 伊織(ga0421)が唐草模様に包まれた箱を持ち上げ、感心したように小さく漏らした。
 隣に居た香坂・光(ga8414)が同じ箱を持ち上げ、
「折角だから、あたし買っていこうかな」
 と発言するが、購入する気はそれほどないようであった。
 ところが、そこへ美空(gb1906)が現れて、
「ならば美空も買います!」
 なんて言い出したものだから、光は後へ退く事が難しくなり、仕方なく美空と一緒に温泉まんじゅうを購入する事にした。
 それを見ていた伊織は、「口は災いの元」と誰にも聞こえないように小さく呟くのであった。
 ちなみに百瀬 香澄(ga4089)は買い物にやって来た女性客を口説いている真っ最中である。
 旅行という事で気分が高揚しているせいか、女性客は香澄の事を満更でもない様子だった。
 再びカメラが男性側へと戻ると、作戦会議はほとんど終決し、あとは時を待つばかりとなっていた。
「我々は目的を達成する! それが依頼主より託された仕事であり、浪漫の追求だからだ!!」
 縁が一行の気合いを高めるために己の決意を表明する。
 それに触発されたように、大河が立ち上がった。
「さぁ、俺達の『漢』の生き様って奴を見せてやろうぜ!」
 そのまま部屋を飛び出していきそうな勢いだったので、慌てて抹竹と拓人がそれを制する。
 そして発言するなら今しかないと踏むと、それまでほとんど無口だった抹竹が声を上げた。
「わ、私は遠方から双眼鏡で眺めるつもりですので、そろそろ用意を始めます」
 どことなく「このノリには付いていけない」と言っているようでもあったが、誰も気にしている様子はなく、咎める事はなかった。
 抹竹がさっさと部屋を去り、それを見送ってから、
「自分も少し用事があるので失礼します」
 と、拓人も言って、部屋を後にする。
 残ったのは縁と大河だけとなり、彼ら二人は『浪漫』について熱く語り合うのであった。

 部屋を抜け出した抹竹は、双眼鏡を持って男湯に移動していた。
 幸いにも男湯には誰も入っていなかったので、着衣のまま露天風呂に進入し、転落防止用の柵の近くから周辺を眺める。
 彼は他の三人と違い、直接女湯を覗く道を選ばなかった。
 彼が選んだのは、ずばり遠くから女湯を堪能する観察者の道である。
 ついでにカメラも持って行こうとは考えていない所が、彼の任務に対する生真面目さを表しているのかもしれない。
「さてさて、どのあたりがよろしいか‥‥っと?」
 探した始めて五分。中々良さそうな観察ポイントを見つけると、誰かが入ってきて怪しまれる前に、抹竹は男湯を出て行った。
 丁度男湯から出た所で、抹竹は通り過ぎようとした拓人と遭遇した。
 折角なので、抹竹は声を掛けた。
「会議はもう終了しましたか?」
「いや、自分はやりたい事があったから抜け出したんだ。
 多分会議‥‥らしいものはまだ続いてると思うよ」
 拓人の回答を受け、さきほどまでの主に二名による論争を思い出す抹竹。
 そんな抹竹を見て、拓人はクスリと笑みを浮かべると、
「最新の警備システムの攻略‥‥何だかドキドキワクワクだね」
 と、話し始めた。
 それを聞いて抹竹は拓人も自分に近い心情であると察すると、無意識に微笑を浮かべていた。
「お互いに、無事に再会できるといいのですが」
「シチュエーション的には大袈裟だけど、有り得ない訳じゃないのが怖いね」
 拓人はそう返すと、自身の目的を遂行するために抹竹と別れた。
 そのまま拓人はぶらぶらと宛てもなく旅館の中を歩き回り、実際に見聞きして旅館全体の構造を把握していった。
 
 夕暮れ時。
 様々な思考と情熱を含んで、一斉に人々は行動を開始した。
 女性陣は卓球でかいた汗を流すために、男性陣は依頼を遂行するために、温泉へと向かう。
 道中で抹竹は男湯へ向かう三人とは別れ、独自の手段を実行するために旅館から山中に向けて移動を開始した。
 男湯に到着した三人は黙々と衣服を脱ぎ、まるでこれから戦場へ向かうように表情を引き締める。
 その様子を見ていた一般客達はその身から発せられる雰囲気や気迫を感じ取ると、彼らが只者ではないと直感で理解した。
 生まれたままの姿となった三人は各員で用意した道具を持参し、露天風呂へと向かって歩いた。
 半透明のガラスの扉を開けると、まず正面に綺麗な紅葉で染まった山々を見る事が出来た。
 しかし三人はそんなものには一瞬たりとも注目せず、目的のために早速男湯と女湯を区切る柵へと近付いていく。
 事前の報告通り、四メートルもの高さの竹状の柵が設置されている。
 まずは最も安易で楽な作戦として、三人はこの柵を乗り越えようと考えていた。
 縁は滑らないようにゴム手袋を、大河は確実に柵を登るためにサベイジクローを装備した。
 唯一拓人だけは何もせず彼らの様子を見守り続けていたが、二人とも目の前の柵の向こうに広がる世界に思いを馳せ、拓人の事など気にしていなかった。
 一方女湯では、何も知らない無防備な女性達の楽園が展開されていた。
 伊織が心地良さそうに温泉に浸かり、その体のラインを目の当たりにした美空が驚愕の表情に変化する。
「普段は着物で分からなかったですが、伊織さんって結構いい体付きですね‥‥」
 本人を目の前にして何とも親父臭い発言ではあったが、伊織は特に気にしている様子もなく、
「そうですか?」
 とだけ返事をした。
 本人は余り女性としての自覚がある様子ではなかったが、その肉体はまさに女性特有の丸みを帯びたものであった。
 まだまだ未発達な美空にとって、当然それは羨むべき対象となる。
 故に、決してその肉体に触れたいと思う事に他意は存在しなかった。
 ただ純粋に、憧れるものと同一の世界にいるのだという事の照明をしたかった訳である。
 などと言い訳染みた事を脳内で考えながら、美空はゆっくりと伊織に近寄り、その体に触れた。
「あ、あの‥‥?」
 流石の伊織も突然の事態に困惑が隠せない。
 しかし無心に胸を揉み続ける美空を見ると、無理矢理振り払う事が悪いように思えてしまう。
 まともに抵抗も出来ぬまま、伊織は美空の行為に耐えるしかなかった。
 それを見ていた香澄は、
「いいねぇ露天風呂。遠くも近くも絶景だ♪」
 と陽気に述べ、伊織を助けようとは一切しなかった。
 時折甘い声を漏らす伊織を見て、光も助けように助けられずにいる。
 そしてその声は、当然男湯にまで届いているのであった。
 柵を目の前にして、二人の男が拳を握り固める。
 その拳から血が流れ、その瞳からは血涙が溢れていた。
 縁と大河は我慢ならない様子で勢い良く飛び出すと、柵に飛びついた。
 しかし大河がサベイジクローを柵に突き刺そうとした所、爪の先端だけが埋まってそれ以上進まず、彼は爪を沈めたまま地上に落ちてしまった。
「一体どうなって‥‥ん?」
 腰を擦りながら立ち上がると、大河は爪が裂いた柵に『中身』が存在する事を知り、急いで外壁の一部を破壊した。
 なんと竹状の柵には超合金の分厚い板が内部に仕込まれ、穴を開けて覗く行為や登ろうとする行為を阻止する役割を果たしていた。
 それまで様子を見ていた拓人が、
「いけ、アヒル隊長! 君は醜くもなければ飛べない鳥でもないのだ!」
 と言って玩具のアヒルを柵の向こうへ投げようとしたが、丁度柵の上に到達した所で突然としてアヒルは消失してしまった。
 正確には棚の上部に仕込まれた攻撃システムにより、一瞬にして塵と化してしまったのだが。
 それを見ていた縁はすぐさま柵を登る事を放棄し、次の作戦に移る事を仲間に伝えた。
 次に彼らが考えたのは、男湯から急斜面を移動して女湯を覗こうという作戦である。
 そのために一度縁は脱衣所まで戻り、携行していた登山用のロープを持ってきて転落防止用の柵に何度も結んだ。
 後はロープを命綱にして急斜面を伝っていけば、そこには楽園が広がっているはずである。
 我先に降りようとする縁と大河を止め、拓人が先行することを提案した。
 二人が理由を尋ねると、どうやら彼は二人のために背後から援護射撃を行おうと計画していたようである。
「死地‥‥じゃなくて理想郷へと赴く仲間の道を切り開く、これも援護屋さんのお仕事さ!」
 拓人の言葉に感動して大河は彼と抱き合おうとしたが、拓人はこれを丁寧に遠慮し、親指を立てて先に急斜面を下り始めた。
 どこにセンサーがあるのか、斜面に人間が存在する事を感知した警備システムが、早速怒涛とも言える攻撃を開始する。
 巨大な象でさえ一瞬で眠ってしまう強烈な睡眠ガス。
 巨大な象でさえ一瞬で気絶してしまうような強烈なスタンガン。
 巨大な象でさえ一瞬で倒れてしまうようなガトリングゴム銃。
 一体何故執拗に巨大な象を宣伝文句に出すのかは不明であったが、製造会社がそう自負するほどの強力な攻撃システムである事は確かだった。
 拓人はほとんど斜面を滑るような速さで下りながら、同時に自身を狙う攻撃システムを番天印で破壊していく。
 次第に『弾幕』と呼称するのが相応しいほどの一斉砲撃が始まり、流石の拓人も手に負えなくなっていた。
「二人とも、警備システムの対象が自分に向いている内に、‥‥早く!」
 呆然と拓人の防戦を見守っていた縁と大河であったが、彼の一言を受け、慌てて自分達も斜面を降りる準備を始めた。
 いずれ拓人は防ぎきれず、警備システムに敗れてしまうだろう。
 しかし、それまではせめて囮として働こうとしてくれている。
 ならば、仲間として、男として、その思いを無駄にする事は出来ない。
 必死に涙を堪え、二人の男が斜面を降りようとした時、急にそれまで話しかけてこなかった一般客が声を掛けてきた。
 視線を向けてみれば、皆男の表情で微笑を浮かべ、親指を立てている。
 二人は一筋の涙を零しながら敬礼を返し、斜面を勢い良く降り始めるのであった。

 その頃、山中を移動していた抹竹は予想外の事態に見舞われていた。
 地雷や落とし穴などの罠を想定していた彼であったが、実際に現場で待ち伏せしていたのは訓練された軍用犬の群れであった。
 おまけに彼の予想以上の数の罠が現場には仕掛けられ、ただの覗き魔対策には過剰防衛だと脳内で必死に旅館を訴えていた。
 犬に追われながらではろくに警戒も出来ず、次々と攻撃型警備システムが作動する始末。
 自身を狙うものは小銃で破壊していったが、それでも全てではなく、彼は窮地に立たされていた。
「傭兵呼ぶだけあって向こうも相当気合い入れてやがるな‥‥」
 フルマラソンを完走したような大量の汗を流しながら、木陰で犬が通り過ぎて行くのを待つ抹竹は、ポツリと漏らした。
 十匹近くの犬が通過していき、抹竹はホッと安堵の息を漏らす。
 さっさと目的地へ向かって依頼を遂行しようと、木陰から一歩を踏み出した瞬間だった。
 カチリ、という音が彼の右足の下から聞こえてきた。
 よくよく神経を集中してみると、それまでの地面とは明らかに感触が違う。
 恐る恐る彼が視線を落としてみると、彼の右足の下の地面は最近掘り起こしたように少し周囲と違っていた。
 それが地雷なんだな、と彼が認識した時である。
 旅館から少し離れた山中で小さな爆発が起こり、木々の間から僅かに煙が昇っていった。
「ここまでか‥‥」
 衣服が焼け、全身土で汚れているにも関わらず、何故か抹竹の命に別状はなかった。
 ただ、自身の不注意で罠に引っ掛かった事により、彼の精神は完全に折れてしまったようではあるが。

 いよいよ太陽が山の向こうに沈もうという頃、斜面の下では大河が涙を流していた。
 結果から言って、彼らの急斜面移動作戦は失敗に終わった。
 異常に強力な警備システムに阻まれ、おまけに縁と拓人がその犠牲になってしまった。
 ちなみに二名とも死んでいる訳ではなく、縁はスタンガンで気絶し、拓人は睡眠ガスで眠っているだけである。
「後は‥‥頼んだぞ」
 それだけ言い残し、縁は散ってしまった。
 一人残された大河は仲間の死(?)に涙を流すしかなかったが、縁の最後の言葉を思い出すと拓人の銃を拾い、
「九条に拓人! お前等の死は無駄にしないぞーッ!!」
 と雄叫びのように告げ、再び斜面を登り始めた。
 何度も転びそうになりながら必死に登り、登り、登っていく。
 そして再び、仲間を葬った警備システムが彼に牙を剥いた。
 しかし敵を目前にした瞬間、彼の脳裏に赤い褌が浮かび上がると、それが割れるイメージが広がった。
 すると彼は突如として覚醒し、襲い掛かる警備システムを全て破壊して斜面を進み始めたのである。
「見える! 俺にも敵が見えるぞ!」
 最早彼の目には警備システムの動きがスローモーションに見え、現実的にはありえないような動きで次々と障害を排除していく。
 そしてロープの助けもほとんどなしで斜面を登っていくと、最後に弾切れとなった銃を最後の警備システムに投げつけ、一気に斜面を昇り切った。
 眼前に広がるのは秘密の花園。女達の楽園。最後の希望。
 ──ではなく、武器を構え、彼を狙う女達の姿であった。
 目的を達成して歓喜に浸る間もなく、直後に彼は蜂の巣となって斜面を転がり落ちていくのであった。