タイトル:恋人はスパイ‥‥?マスター:水君 蓮

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/30 20:37

●オープニング本文


「う〜ん、いい天気♪」
 ゆっくりと街を歩きながら、エミー・スタンロード(gz0182)は上機嫌な声を漏らした。
 久々の休日が一人きりというのは寂しいが、仕方ない。
 ドローム社の開発部に勤める兄は今日も仕事で、友人のロック・エイプリル(gz0108)は休みのはずなのに部屋を訪ねても留守でどこかに出かけている様子だった。
(「何の挨拶もなしに外出されたのは少し寂しかったけど、ロックはロックなりの事情があったんでしょ」)
 エミーは自分にそう言い聞かせると、買い物をするために街を訪れたのだった。
 流行の服や可愛らしいアクセサリーを見て回り、時折カフェで休んで甘い物を食べる。
 孤独感なんてすっかり忘れて、エミーは休日を満喫していた。
 ところが、エミーが何気なく訪れた映画館で事件が発生してしまった。
 話題の恋愛映画を見逃すまいと放映時間ギリギリで映画館に入り、適当な席に腰掛けて落ち着いた時である。
 エミーの座る列の二つ前の列の端に、見覚えのある男の影が見えたのだ。
 最初は視界の隅にあり、映画の予告に夢中で気付かなかったエミーだったが、その男の影が揺れて隣の席の影に近付いた時、初めてエミーはそこに人が座っている事実に気付いた。
 しかし放映室は暗く、少し離れている事もあり、エミーはそれが知人だとは思いもしなかった。
 二つ目の予告が終わり、三つ目のアニメ映画の予告が始まった瞬間だった。
 巨大なスクリーンに反射した光のおかげで、はっきりとエミーはその男の横顔を見る事が出来た。
「‥‥‥‥‥‥え?」
 その時のエミーは鳩が豆弾丸を喰らいながら狐につねられたような表情だった。
 なんと二つ前の席に座っていたのは、友人のロックだったのである。
 しかも、その隣には今まで見たこともないような美女が座り、楽しそうに何かを話している。
 エミーは映画が始まった事など気にならないようで、呆然とその二人の様子を見守り続けた。

「あの女の人はスパイに違いありません」
 後日、某食堂にて、エミーは事の顛末を一部大袈裟に表現しつつも友人の女性オペレーターに話し、そう判断を下した。
 勿論女性オペレーターは彼女の判断をスルーし、ロックの恋人疑惑に関心を持つ。
「そっかぁ。ロックさんにもいよいよ彼女が出来ちゃったかぁ‥‥」
「違います。あの女の人はスパイです。ロックを騙しているんです」
「残念だね、エミー」
「何が残念なのかは分かりませんが、早急にスパイは処分しなくてはなりません」
 どうやらエミーは現実が見えていないというか、多大なショックによって変な妄想にとりつかれているようである。
 友人の女性は溜め息を吐いた後、不意に思いついた事を口にした。
「だったら、スパイかどうか確かめてみる?」
「‥‥え?」
 エミーはポカンと口を開けて、訳が分からないという様子である。
 女性はエミーのために分かりやすく説明する事にした。
「だから、そんなに気になるんだったらスパイかどうか調査してもらったら、ってこと。
 幸いにもここには大抵の仕事は請け負ってくれる人間が沢山いる訳だし」
 女性は、エミーがそんな事するはずないと思っていた。
 口ではスパイだスパイだと言っていても、心底疑っている訳ではない。
 きっと現実が受け入れられなくて、そう口走らずにはいられずにいるに違いないのだ。
 女性はそう思い、今夜仕事が終わった後にエミーをどこの呑み屋に連れて行くか考え始めた。
 だが、エミーの思考のおかしさはどうやら女性の思考を上回ったらしい。
「‥‥そうですね。その手がありました。忘れてました」
「え?」
 今度は女性がポカンと口を開ける番だった。
 エミーはその後、あっという間に昼食を平らげると、仕事場の自分のデスクに戻って依頼状を作成し始めた。
 内容はずばり、『女性スパイの実態調査』。
 エミーはそれを何の躊躇もなく作成すると、早急に人員募集を開始した。

●参加者一覧

ウォンサマー淳平(ga4736
23歳・♂・BM
ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA
クライブ=ハーグマン(ga8022
56歳・♂・EL
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
ジェイ・ガーランド(ga9899
24歳・♂・JG
榊 菫(gb4318
24歳・♀・FC
ファブニール(gb4785
25歳・♂・GD

●リプレイ本文

 ●愛しい人との待ち合わせ <カフェ「リーフ」 AM10:23>
「ターゲット確認っと。ホント美人だなぁ」
 ウォンサマー淳平(ga4736)は何気ない振りをして目標を観察し、まずそう感想を述べた。
 席まで訪ねてきたウェイトレスにコーヒーを注文し、再び淳平は目標に視線を向ける。
 観察対象は二名。
 一名はロック・エイプリル(gz0108)という本部勤務のオペレーターで、やる気のなさそうな雰囲気が特徴。
 もう一名はスパイ疑惑の掛けられている女性で、名前はアーネ。詳細情報は不明。
 今回の依頼は女性の素性調査と二名の監視が目的、とされてはいるが──。
(「どう考えても、これってデートだよなぁ‥‥」)
 運ばれてきたコーヒーを一口飲み、淳平は内心複雑な思いで二人を見守っていた。
 ロックとアーネはサンドイッチをつつきながら、楽しそうに談話している。
 ロックの知人が見れば、彼はこんなに表情が豊かだったのかと驚きを覚える事であろう。
 相変わらずのボサボサした髪型だったが、いつもの覇気のない表情はなく、実に活き活きとしている。
 淳平は視線をロックから外し、アーネの方へ向けた。
 事前に外見的特徴は聞いていたが、本人を前にしてみると先ほど自分が無意識に「美人」だと賛美したのが良く理解出来る。
 いつの間にか思わず見惚れていた自分に気付き、淳平は慌てて視線を逸らせた。
 あまりジロジロと見ていては怪しまれる、と内心で自分を誤魔化しながら、コーヒーを最後まで飲み干す。
 ついでに通りかかったウェイトレスに声を掛け、コーヒーのおかわりを注文しておいた。
 やっと平常心に落ち着いたのを確認すると、淳平は再び視線を二人に向けた。
 ロックとアーネは既に出発の準備を行っており、淳平はここでの任務が終了する事を予見した。
 間もなく二人は席を立ち、そのまま横に並んでカフェを後にする。
 淳平は敢えて追わずに二人の姿が見えなくなるまで見送ると、携帯電話を取り出して短縮ダイヤルで依頼主であるエミー・スタンロード(gz0182)に連絡した。
『淳平さんですね。報告をお待ちしておりました』
 事務的なその口調は無感情で、冷たく、どこか威圧感を含んでおり、修羅場を体験してきた淳平でさえ気圧されそうになった。
 しかしすぐに持ち直し、簡単にまとめた報告を依頼主に告げる。
 依頼主は無言で報告を聞いた後、
『了解しました。引き続き御願いします』
 とだけ言い渡し、さっさと通話を終了してしまった。
 淳平は苦虫を噛み潰したような表情で携帯電話で見つめた後、通話中に運ばれてきたコーヒーを飲んで気分を落ち着けようとした。
 コーヒーは微妙な温度に下がっており、生憎と彼の願いは叶えられなかった。

 ●愛の込められた贈り物 <繁華街 AM11:52>
「まさかコレを使う時が来るとはな‥‥」
 ブレイズ・S・イーグル(ga7498)は巨大なダンボール箱に身を潜めながら、側面に開けられた穴から外の様子を窺っていた。
 繁華街の道の隅とはいえ、その巨大なダンボール箱は明らかに人々の目を引きそうである。
 しかし何故か注目する人達は皆「何だ、ダンボール箱か‥‥」と言い残すと、何事もなかったように通過していった。
 これも一重にダンボール効果だと彼は語るが、その真偽は定かではない。
「こちらイーグル‥‥繁華街に潜入した。大佐‥‥もといエミー、聞こえるか?」
 ダンボール内で器用に携帯電話を使用すると、ブレイズはエミーにコールした。
「良好よ。スネ‥‥もといブレイズさん。任務は順調でしょうか?」
「問題ない。俺には最高の相棒が付いている」
「‥‥そのダンボールですか?」
「ダンボールは潜入任務に欠かせない重要アイテムだ。かの伝説の傭兵もそう言っていた‥‥」
「そ、そうですか。それでは経過報告も宜しくお願いします」
 最後のエミーの声は引いている雰囲気がしたが、ブレイズは特に気にしない事にした。
 一方、ブレイズとは別に、榊 菫(gb4318)も繁華街での尾行と対象の観察を担当していたが、敢えてブレイズとは離れた所で行動していた。
 一緒に居る所を見られるのが恥ずかしいとか、そういう理由ではないと後に本人は否定する。
 しかし別行動の甲斐あってか、彼女は特に目立つ事無く、ロックとアーネの傍まで近付く事に成功した。
 二人は洒落た小道具店に立ち寄っており、菫も同じ店内で商品を見る素振りをしながら観察を行っていた。
 どうやらロックはアーネに何かをプレゼントしようとしているらしい。
(「これはもしかするともしかして『アレ』なのでしょうか‥‥?」)
 密かに乙女心を揺らしながら、菫はもっとよく見ようと場所を移動しようとした。
 しかし道中で店員に捉まり、商品を勧められたりして四苦八苦している間に、ロックの買い物は終了してしまった様子である。
 心の奥で嘆きながら、やっと店員から解放してもらった菫は店を出て、依頼主と仲間に状況を説明する。
 エミーとの通話の際に何か破壊される音を聞いたような気がしたが、菫は深く考えない事にした。
 買い物を終えた二名は店を出て、時折表から店内を覗きながらも中には入らず、ゆっくりと繁華街を後にした。
 菫は二人がいなくなったのを確認すると、ゆっくりと巨大なダンボール箱に近付く。
 接近者の正体を知ったブレイズは徐にダンボールを持ち上げると、その姿を現した。
 その際に通行人達が驚きの表情を浮かべ、頭の上に『!』を浮かべていたのは言うまでもない。

 ●愛は水のようなもの <水族館 PM2:22>
「はじめまして! 初の依頼参加ですが頑張りたいと思います。よろしくお願いします!」
「うん。まぁ、気軽にやりましょう。リラックスです」
 まだ幼い芹架・セロリ(ga8801)にファブニール(gb4785)が深々と頭を下げる光景はなんと異質だった事だろう。
 通行人からは何事かと注目を浴びて、セロリは恥ずかしさからとりあえず頭を上げてもらおうとする。
 普段は自ら目立とうと行動する割りに、どうやら他人に目立たされるのは慣れていないようである。
 そうこうしている間にロック達が来訪し、二人はそれを追って水族館へと入っていく。
 さながら受付の人には仲の良い兄妹に思われたのではないだろうか。
 薄暗い館内は幻想的な空間を充分に演出しており、巨大な水槽を泳ぐ数々の魚達を目の当たりにしていると、自分が今海中にいるような気分になる。
「うーん、照明が薄暗くて雰囲気出てるなあ‥‥。っと、館内に見とれてる場合じゃなかった。尾行開始!」
 思わず雰囲気に飲まれそうになった自分を一喝し、気合いを入れて任務に取り組むファブニール。
 それに対してセロリは謎の効果音を口遊むと、何故かナレーションを始めた。
 ちなみに脳内には『水族館で捕まえて』というタイトルが浮かんでいるらしい。
「やる気なしオペレーターロックが〜、スパイ願望をかけられている美女‥‥サマンサと‥‥出会った〜」
 ここで初めて出た『サマンサ』という単語は、どうやらアーネの事を表しているらしい。
 続けて彼女は、ロックとアーネの会話のアフレコを始めてしまう。
『見てロック‥クリオネ。‥‥綺麗ねぇ』
『あんたの方が綺麗だよ』
「やっべ! 口説き始めちゃったよ!! ‥しかし此処でロックのターン!
 『ちょっ‥‥別に口説いてねぇーし、むしろ口説かれてる方だしー!』と、回りの方々に弁解をはじめ‥‥」
 暴走を冷ますように冷たい洗礼が一撃、彼女の顔面へ。
 どうやら彼女よりも幼い子が持っていたアイスクリームを、彼女の顔に叩きつけてしまったようである。
 ここでどうしてこんな寒い時期にアイスなんか、と疑問を覚えてはいけない。
 アイスは寒い時期がおいしいのである。事実、売り上げも上がっている。
 結局アイスをぶつけた子にはどこかに行かれ、セロリは寂しく一人で顔を洗ってくるしかなかった。
 ちなみにファブニールが最後まで尾行と観察をして報告も行ったため、彼女の仕事が何一つなくなっていた。

 ●愛の囁きを食して <レストラン PM5:41>
 二名を尾行して入店したジェイ・ガーランド(ga9899)と紅 アリカ(ga8708)は多少の驚きを覚えた。
 二人が入ったレストランは一般的に『高級』と称される種類の店で、落ち着いた雰囲気が店内に溢れていた。
 ロックの事だからもう少し一般的な場所だろうと思っていた二人は、内心で彼の評価を改めた。
 ジェイは軽く店内を見渡してロック達の姿を発見すると、その近くの席に座れないか案内役と交渉を開始する。
 案内役は面白そうな空気を嗅ぎ取ったのか、微笑を浮かべて了承すると、すぐに席へ案内した。
 案内されたのはロックとアーネの座る窓際の席から机一つ離れた席で、最適とは言い難いが観察には適した位置だった。
 ロックに見つからないように背中を向けると同時に、ロック側からアリカの姿を隠す形で席に座るジェイ。
 彼等はロックと知人であり、特にジェイは目撃される可能性がかなり高かった。
 そのため、観察をアリカに任せ、報告をジェイが担当する事を事前に話し合っていた。
 ちなみに二人は恋人同士で、依頼ついでに先ほどまでデートを楽しんでいた。
 その後はしばらく雑談しながらロック達を観察するが、相変わらず楽しそうに話をしているのみで特に怪しい動きはない。
 このままでは埒が明かないと踏んだアリカは、思い切って何気なく振舞いながら接触する作戦を実行した。
「あら? もしかしてエイプリルさんではないですか?」
 そう声を掛けたアリカを見てロックは驚きの表情を浮かべ、アーネは妖しい笑みを浮かべる。
「‥‥よう。こんな所で会うなんて奇遇だな」
 さっきまでの豊かな表情はどこへやら、一変していつものやる気のない表情へと早変わりである。
 アリカはひとまずロックを無視して、対面して座るアーネに視線を向けた。
「‥初めまして。エイプリルさんの友人の、紅 アリカといいます‥‥。‥貴女は、彼とはどういう関係で?」
 丁寧に挨拶しながらも、品定めするような目付きでアーネの正体を探ろうとするアリカ。
 同じ女性でも見惚れそうになるほど、アーネは美しい顔と体型をしていた。
「初めまして。アーネ・クロイスよ。彼とは‥‥今後発展を望む関係かしら」
 そう言って微笑を浮かべる彼女に、慌てるロック。
 手短に会話した後、アリカは席に戻ってジェイに報告をした。
 トイレに向かう振りをするために立ち上がったジェイとロックの目が合い、どちらともなく会釈をする。
 そのままジェイはトイレではなく店の外へ出て、携帯電話による連絡を行った。
「‥‥と言う訳で、状況に関しては、こんな所で御座います。店を出たら、また電話致しますね」
 エミーに電話した際にかなり背後が騒がしい様子だったが、ジェイは潔くそれを無視する事にした。
 席に戻り、報告し終えた事を教えて肩を竦めるジェイ。
「‥やれやれ。こんな依頼じゃなければ、普通にデートになったんだろうけどなぁ」
 残念そうに呟いた彼の手に自分の手を上から重ね、アリカが口を開いた。
「‥まだ少し時間もあるし、これから楽しめばいいと思うわ‥‥」
 二人は見つめ合って笑い、それを目撃した案内役は専属契約した演奏者達によりムードのある曲を要求するのであった。

 ●愛の真偽 <公園 PM8:02>
 続々と集結してくる同業者達を見つけ、クライブ=ハーグマン(ga8022)が案内するように手招いた。
 彼は昼間の内に公園に潜入し、散歩する素振りをしながら観察や潜伏に適した場所をいくつか見つけ出していた。
「現状、人が多いのはあそことあそこ。ただ、夜景の見える高台や海沿い辺りが最有力候補。といったところか‥‥」
 クライブは仲間達に作業結果を報告し、後はロック達がやってくるのを待つばかりとなった。
 五分ほど経過した頃、公園の入り口に二人の姿が現れた。
「目標確認。‥‥高台に向かうようだ。観察を続ける」
 クライブとしては単独で任務を行いたいのだが、どうしても仲間達は付いて来る気らしい。
 仕方なくクライブは同行を許可し、あまり目立たないように言っておいた。
 とは言え、既に八人もの人間が固まって行動しているのである。怪しさは抜群だった。
 高台にあるベンチ後方の茂みに一行は身を潜め、柵に凭れながら夜景を見つめる二人を見守った。
「さて、こういった覗きは趣味じゃないが、仕事だからな。悪く思うな」
 クライブは冷静に任務を務め、監視を続行している。
「仲良いですね? 気のせいじゃないでしょうか? いきなり恋人できて、信じられないと言うのも、わかりますけど‥‥」
 言葉を漏らしながら同意を求めるように隣人を見て、菫は固まった。
 彼女の隣には至近距離で淳平が隠れており、男性恐怖症の彼女は赤面して動けなくなる事しか出来なかった。
 そんな事を知らない淳平は定期報告をしようと携帯電話を取り出し、エミーに連絡を入れる。
「あれは完璧スパイ‥‥って無いよ。彼女じゃね。やっぱ。‥‥あれ? 途中で切った!?」
 通話は途中で遮断され、誤解を解こうと慌てて淳平は電話を掛け直そうとする。
 しかしそこへ、砂煙を上げながら猛スピードで何者かが現れた。
 今回の依頼発足人、エミー・スタンロードその人である。
 肩で息をしながらも般若の形相を浮かべるエミーに、ロックは恐怖心を覚え、アーネは「あらあらまあまあ」と呑気な声を漏らした。
 誰もが修羅場の予感を感じ、最終手段として飛び出す事も辞さない覚悟をする。
 エミーはしばらく無言で息を整えた後、最後に大きく息を吸ってアーネを指差した。
「ロック! その人は一体貴方の何なの!?」
 一行は内心で「なんて定型分のような台詞なんだ」と呆れていた。
 ロックはとりあえず落ち着くようにエミーに言うが、それは火に油を注ぐ結果となり、益々彼女の機嫌が悪くなっていく。
 ロックは胆を据えると、とうとう真実を語った。
「親戚の姉さんだよ。戦争以来音信普通だったんだが、偶然ここで働いている事を知ってな」
「‥‥‥‥え?」
 『幽霊の 正体見たり 枯れ尾花』とはよく言ったものである。
 真実が分かってしまえば今までの苦労は水の泡となり、一行はバナナの皮に滑るようにその場に転げるしかなかった。
 その拍子に藪から飛び出し、隠密作戦が暴かれてしまうのもお約束と言えるだろう。
 今度はロックが怒りの形相となり、エミーが逃げる番だった。
 一人残されたアーネに謝罪する能力者達。
 アーネはそれを笑顔で許すと、追いかけっこをするロックとエミーを見て誰にも聞こえないような声で呟いた。
「私じゃダメなのかしら‥‥」