タイトル:命を救うためにマスター:水君 蓮

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/04 00:45

●オープニング本文


 気温の低さが目立つ昨今、とある地域でウィルス性の風邪が大発生した。
 老若男女問わずほとんどの住民が病院へ押し掛けるも、最新医療技術を持たないその地方の病院では対応する事が出来ず、困窮を極めるばかりだった。
 その病院からの報せを受けた都会の病院は即座にウィルスに対抗するワクチンの作成に取り掛かり、過去のデータや閃きから、僅か三日でその完成に成功した。
 しかし、問題はそこからだった。
 都会の病院から地方の病院までは直線に結んでもかなりの距離があり、さらにその直線状の移動ルートには、競合地域指定された場所が多く含まれていた。
 安全で確実な輸送を考えれば遠回りをする事も出来るが、その場合は到着に二日は経過してしまう。
 既に最初の発症者が出て四日以上経っている。症状が長引けば、耐性の低い幼い子供や老人達の命が危ない。
 病院は会議の末、その運送をUPC軍に依頼する事を決定した。
 UPC軍は依頼を承諾し、直に輸送人員の募集を始めるのであった。

●参加者一覧

御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
蓮角(ga9810
21歳・♂・AA
雪代 蛍(gb3625
15歳・♀・ER
メビウス イグゼクス(gb3858
20歳・♂・GD
ドニー・レイド(gb4089
22歳・♂・JG
ゲオルグ(gb4165
20歳・♂・DG

●リプレイ本文

 ●進行開始
 今回の作戦参加者達の思いは一つ。
 即ち、無事にワクチンを街に送り届ける事。
 そのためならば負傷も厭わず、仲間の盾となる事も不服と覚えない。
 熱い思いを共有し、参加者達の絆はより一層強固なものとなったように思えた。
 今、彼らは問題とされている街の入り口に立ち、戦前の状態を多く残す街の様子を眺めている。
 気掛かりなのは、ここまで彼らを運んできたジープと案内役が彼らを下すなり即座に帰還をした事。
 しかし気にした所で本人に尋ねる事も出来ないため、一行は目の前の目的地に集中する事にした。
 車の駆動音を察知されて奇襲される事を警戒していたが、幸いにも周辺には何の気配も感じられなかった。
「それじゃあ予定通り、俺とドニーさんが先行して進んで行きますね」
 蓮角(ga9810)の言葉に応じて、ドニー・レイド(gb4089)が力強く頷く。
「随時無線で状況を報告するので、無線機は常にオンにしておいて下さい」
 ドニーの提案に他の者達は無言で首肯し、言われた通り無線機を起動させた状態にしておいた。
 ドニーと蓮角が並んだ状態で街への潜入を開始し、他の者達はそれを見守る。
 一行が移動ルートとして選んだ大通りは計六車線もあるためかなり道幅が広く、中央を歩けば両脇の建物からは晒し者だが、急襲に備えられる距離を確保出来ている。
 そこを左右や上空を警戒しながら、二名が慎重に歩いていた。
「敵の総数も種類も不明ってのは少し怖いですが‥‥やるしかありませんね」
 緊張した雰囲気の中、蓮角は精一杯の笑顔を浮かべてドニーに語りかけた。
 ドニーは同じように笑顔で応じ、再び警戒態勢に戻る。
 数十メートルほど進んだ所で安全が確保出来たと確信すると、ドニーは無線機を取り出した。
「こちらドニー。異常無し。そのまま前進されたし」
 連絡を受けた後続の六名は了解の言葉を告げると、ゆっくりと街の中へ足を進めた。

 ●時の停止した街
「それにしても‥‥何故こんなに原型を留めているんだ‥‥この街は」
 進軍を開始して三十分近くが経過した頃、メビウス イグゼクス(gb3858)はついに心中の疑問を口にした。
 幸いにも一行は一度もキメラと遭遇する事はなかったが、そのために周囲の景色がより一層印象強く感じられた。
 世界規模まで発展した戦争に多くの街や大地が破壊された現在、彼らの居る街は異常とも言えるほどの健在振りである。
 今にも子供達が住宅から飛び出し、スーツを着た男女がビルを出入りしそうな気さえする。
 しかし情報によればこの街は数多の不気味なキメラによって占領され、誰も近寄ろうとすらしないらしい。
 戦前の施設という稀少な建築物を目の前にして、誰もがその情報を否定したい気持ちだった。
「まるで意図的に残されたようで、不気味だな」
 御山・アキラ(ga0532)の台詞は、無意味に全員の不安を煽った。
 本人も発言後にその事に気付き、慌てて短い謝罪をする。
 だが彼女の意見は最もで、ここまでの維持状態を保っている事に何か作為的なものを感じざるを得なかった。
 ワクチンの入ったケースを持つクラリッサ・メディスン(ga0853)、風代 律子(ga7966)、雪代 蛍(gb3625)の三名が改めて周囲に視線を向ける。
 彼女達を囲むように陣を組んでいたアキラ、メビウス、ゲオルグ(gb4165)の三人も同じように視線を泳がせた。
『正面、左右共に異常なし。そのまま進んで下さい』
 そこへ突然蓮角の声が響いたもので、六名は例外なく体を震わせた。

 ●遭遇
 競合地域指定されたという情報が嘘なように、結局一行は中間地点に到着するまで一体もキメラと出会わなかった。
 緊張した面持ちで街への潜入を開始した一行も、今ではリラックスした表情で警戒を行っている。
 しかしそれは油断と言えば油断であるが、奇襲には即座に対応できる程度の力の抜き方であった。
 長距離移動に疲労を覚え、十分間の休憩を終えた後、再び一行は歩を進めていく。
 そうして移動を再開して五分も経たない頃、先行していた蓮角から緊迫した声が聞こえてきた。
『停止して下さい。“何か”居ます』
 連絡を受けた運搬者とその警護者が武器を構えて臨戦態勢を整えていた頃、蓮角とドニーは交差点の一角に身を寄せ、横道の様子を窺っていた。
 二人が注目しているのは、道の脇にある大型飲食店舗。
 その正面に置かれたゴミバケツの前に、人間が座っていた。
 謎の人物はゴミバケツを倒して中に上半身を埋め、食料はないか探しているように思える。
 二人はその様子を見てどうするか相談し、もっと人間に接近して観察し、場合によっては接触を図る事を決めた。
 他の者達には無線機でそれを知らせ、武器を構えて警戒しながら二人は謎の人物に近付いていく。
 距離を詰めてみると、その人物が意味不明な言葉を発しながらゴミバケツを漁っている事が判明した。
 知らない言葉という訳ではなく、それは意味を為さない喘ぎ声のようなものだった。
 もしそれが生存者ならば、UPC軍は全生存者の安全地点への避難を完了させてなかったという大事である。
 ドニーは武器を下さず、慎重に声を掛けた。
「あの、大丈夫ですか?」
 第一声をどうするか悩んだ末の発言にしては気の利かないものだったが、人間が漁る手を止めた所を見ると二人に気付いたようだ。
「我々はUPC軍に所属する傭兵です。他に生存者はいますか?」
 第二声は満点だった。ゆっくりとゴミバケツから人物が這い出てくる。
 もしこれで生存者が多数確認できた場合は、UPC軍本部に連絡して避難活動を行ってもらう必要がある。
 二名がそう考えていた時だった。
「ぐぐぐ‥‥げぇ、ガァーーーーッ!!」
 ゴミバケツから姿を現した人間は突然奇声を発し、声を掛けたドニーに襲い掛かって来たのだ。
 完全に油断していたドニーは為す術もなく押し倒され、慌てて防御のために両腕を持ち上げる。
 それは、人間の形こそしているものの、純粋な人間ではなかった。
 髪はボサボサに乱れて伸び放題となっており、目元が完全に髪の毛で覆われていたが、口が大きく開き、周りが血で濡れていた。
 両腕両足の関節が本来ではありえない方向に折れ曲がっているが、骨折している訳ではなく、そういう形に発達した事が読み取れた。
 近い形と雰囲気から敢えて名付けるならば、それは『犬人』だった。
 犬人が頭を持ち上げ、ドニーの喉元を喰い破ろうと牙を見せる。
 ドニーはまともに抵抗する事が出来ず、後は殺されるのを待つばかりとなった。
 絶体絶命のピンチを救ったのは、仲間の蓮角だった。
 蓮角の蛍火が犬人の胴を薙ぎ、多量の返り血をドニーに浴びせる。
 その一撃は彼に仲間を救った救世主としての名誉を与え、同時に仲間を危機へと追い遣った悪魔としての恥辱を与えた。
「げぉ、げ‥‥おぉ、ぐ。グギィーーーーーーーーーーー!!」
 犬人の断末魔の叫びは街全体に響き渡り、それまで眠っていた街中のキメラを覚醒させ、戦闘本能を活性化させた。

 ●鬼の棲む街
 作戦開始から数時間が経過した頃、一行は全力疾走を余儀なくされていた。
 犬人が死に際に発した叫び声に反応して無数のキメラが集結し、一行を襲い始めたからである。
 最初は応戦していた一行であったが、次第に対応出来る数でなくなり、逃亡という選択肢を選んだ。
 不幸中の幸いか、進行先からは敵が現れなかったため、一行は目的地に向けて一心不乱に走り出した。
 先行班が前方を、護衛班が後方を。間に運搬班を挟んで、急拵えの陣形で移動を行った。
 後ろから迫り来るキメラは三種類。
 最初に戦闘を行った犬のような容姿を持つ犬人型キメラ。
 建造物の間や街灯間を自由に跳び回る猿人型キメラ。
 髪の毛を羽のように動かして飛行する鴉人型キメラ。
 いずれも人間に近い容姿を持ちながら、懸け離れた身体能力と肉体構造を持つキメラばかりである。
 特に犬人型キメラは移動速度が速く、護衛班と何度も衝突していた。
 しかし犬人の戦闘能力の低さが幸いし、今の所護衛班に負傷者は一人も出ていない。
 終わりのないように思えた鬼ごっこもゴールが近付き、追跡していた沢山のキメラも諦めたのか半数以下にまで減っていた。
 このまま行けば全員無事に到着出来る。
 疲労困憊の状態ではあったが、間もなくそれから解放されると思えば、最後の力を振り絞る事が出来た。
 肺が焼けるように熱く、吸う空気は凍てつくように冷たく、それでも酸素を求めてひたすら呼吸を続ける。
 残り五百メートルとなろうかという時、全てのキメラが突如として追跡を止め、逆方向に走行し始めた。
 突然の出来事に一行の足は止まり、荒い呼吸音だけが辺りに満ちる。
 しかしそれも束の間、地響きのような重低音が聞こえてきたかと思うと、今まで感じた事のない大きな気配を一行は感じた。
 急いで振り返ってみれば、進行先にある最後の交差点から、体長六メートルはあろうかという巨人が姿を現していた。
 額からは三本の角を生やし、全身が僅かに赤く変色している。
 彼らは知る由もなかったが、それこそがこの街で最大最強のキメラ、鬼人型キメラだった。
 唖然とする一行を視認したのか、鬼人が威嚇をするように荒げた声を発する。
 一行は考えた。
 今は戦闘を避けるために逃げるべきか。それとも鬼人を倒して残り僅かな距離を駆け抜けるか。
 答えはすぐに出た。
 何故ならば小型キメラ達は安全圏まで避難しているものの、決して一行の追跡を諦めた訳ではないと知ったからである。
 改めて武器を構え、陣形を整え、目の前の敵に集中する。
「手間はかけられん、迅速に押し通るとしよう」
「退く訳にはいきませんわね。
 このワクチンを心待ちにしている多くの人達が居るのですから‥‥通らせて頂きますわよ」
「大勢の人の命がかかった今回の任務、失敗する訳には行かないわ」
「てめえごときに手こずってる暇はねぇんだよ!」
「早く届けないといけないよね‥‥」
「退く訳には、いかない!」
「‥‥やるしかありません、ね」
「ワクチンに指一本触れさせてたまるかよっ!」
 同時に、全員が交戦の合図を下す。
 そして同時に、鬼人に向けて走り出すのであった。

 ●スクウモノタチ
「到着予定時刻を二時間も過ぎていますが、如何しますか?」
 街を抜けた先、数台のジープに囲まれたUPC軍服を着た青年が眼前に立つ人物に尋ねた。
 問われた老軍人は横目で青年の顔を見た後、再び視線を前方の街へと戻す。
「我々は待つだけだ」
 青年に背を向けたまま、老軍人は告げた。
「しかし、こうも遅刻している様子では、もしかすると作戦失敗の──」
「少尉。我々の任務は何だ?」
 青年の言葉を遮り、今度は老軍人が質問を投げ掛けた。
 少し不服そうな表情を浮かべた後、落ち着いた口調で青年は語る。
「ワクチン運搬を担当した傭兵達を街へ送り届けるため、ここで待機する事です」
 青年の答えを肯定するように、老軍人は頷いた。
「そうだ。我々の任務は待つ事だ。
 かように危険な地に赴き傭兵にに手を差し伸べる訳でもなく、ワクチンを病人に注射する訳でもない。
 ならば、このような任務など容易いものではないか?」
 老軍人に諭されて、青年は反論する言葉もなかった。
「彼らは来る。我々はそう信じて待つのみだ」
 丁度、老軍人がそう発言した時だった。
 双眼鏡で街の出口を観察していた軍人が、「あっ!」と声を上げた。
 そしてすぐに老軍人の元へと移動し、報告を行う。
「彼らが出て来ました! ワクチンも傭兵達も、全員無事な様子です!」
 それを聞いた老軍人は密かに笑みを浮かべ、待機していた他の軍人達に大声で命令を下した。
「至急傭兵達を回収。全員乗車次第手当てを行い、目標地点まで全速力で走行せよ!」
「サー、イエッサー!!」

 その後、無事に届けられたワクチンによって風邪に悩まされていた人々は全員回復へと向かった。
 ワクチン運搬を行った傭兵達には老軍人と病院の責任者から、代表されて感謝の言葉を告げられるのであった。