●リプレイ本文
●僕らがメイド服に着替えたら
「まあまあまあ、可愛い傭兵さん達♪ 本日はよろしくお願いしますわね」
その日の正午前、ヴィター・ムトウの屋敷を訪れた傭兵達を出迎え、依頼主の女社長は相好を崩した。
「敏腕女社長」というイメージから想像していたよりはかなり若い。ただし女性の外見年齢は化粧や何やらである程度融通が利くので、実際の歳は定かでないが。
「宜しくっ!」
早速元気よく挨拶するのは大槻 大慈(
gb2013)。
「えっと、社長のことは何て呼べばいい? 社長? お姉ちゃん?」
「あら『お姉ちゃん』? ‥‥ホホホ、お上手ねぇ」
若く見られたのがよほど嬉しいのか、ヴィターは声を上げ笑った。
「そうそう。当家のしきたりとして、家事手伝いの方には男女を問わずこれを着て頂く決まりになっておりますの。予めULTから伺った皆さんのサイズに合わせてますので、ぜひお召しになって下さいね?」
とヴィターが配ったのはフリルを多用した可愛らしい「メイド服」。
「しきたり」というより純然たる「個人のシュミ」としか思えないのだが、そこはそれ、これも任務の一環と割り切り傭兵達は渡されたメイド服に着替えるため別室に移った。
「実家と趣味と飲食店‥‥3つの環境でメイドさんのお世話を受ける側なボクだけど、偶にはメイドさんになるのも良いね」
と早速貸与されたメイド服を着込む九条・護(
gb2093)。
「メイドやメードじゃなくてメイドさん。ご主人様と戯れつつも仕事は確実にこなす、最強のサービス業種クラスの方!」
いや本来のメイドは‥‥と思わずツッコミを入れたくなる向きもあろうが、ヴィターの望む「メイドさん像」も案外その辺かもしれない。
「あらあら、これがメイド服ですか、着るのは初めてですね。私なんかに似合いますかね?」
そういう加賀 円(
gb5429)は家事と料理が大の苦手。それでも参加を決めたのは、依頼書の末尾になぜか『ドジっ娘歓迎』と太字で注記が加えられていたからである。
「メイド姿の可愛い男の娘が見られるなんて役得‥‥コホン。勿論依頼主の希望に応えて、楽しい一時を過ごして貰う事です」
ミオ・リトマイネン(
ga4310)はわざわざ事前にリクエストし、スカートの丈は短め、体のラインがバッチリ強調される特製メイド服を借りていた。
『お安いご用ですわ。当家ではこんなこともあろうかと、日頃より全サイズ対応で特注メイド服を取り揃えておりますの。オホホホ!』
とはヴィター社長の弁。そんな金があるなら最初から本物のメイドを雇えよ――などというツッコミはこの際野暮である。
ところでミオの言葉通り、今回の参加傭兵8名中実に5名が男性、しかも依頼主の要望どおり選りすぐりの美少年揃いである。当然、彼らも今日は一日メイド服姿で働く事になる。
「えっ!? メイド服?? 勘弁してくれよ〜っ!」
何かの手違いで衣装の件を知らなかった大慈は泣きそうな顔で訴えた。
だが仲間達から「今回の報酬は普段のキメラ討伐より高め」と説得され、
「♪び〜ん〜ぼぉに〜負けたぁ〜」
と陰気に歌いつつ涙目で着替える。
「‥‥なにかまずったかもな」
ゲオルグ(
gb4165)もまた、渋々といった表情でメイド服着用。もっともわざわざ白と赤のネコ耳メイド服を選択しているあたり、心中では結構ノリノリかもしれないが。
対照的に柿原 錬(
gb1931)は、
「そういえば、初めてじゃないんだよね」
慣れた仕草でメイド服を身につけていた。
彼は以前の依頼でもショタ喫茶で女装の経験があるのだ。
「‥‥なんだか様になって来ちゃったなさっきなんてポーズとかしてるし大丈夫なのかな」
姿見に映った己の姿を見つめ、ため息をもらす。
ルシャ・スフェーン(
gb0406)はメイド服の下にドロワーズを履いた。
「これならスースーしないからいいにゃー」
歩いたり走ったりするとスカートがめくれ、チラ見えで可愛らしいというビジュアル効果も満点。なかなか「通」である。
そのルシャと「最年少ショタっ子コンビ」を組む白虎(
ga9191)に至っては、自らメイド服着用で参加というツワモノぶりを示していた。
(「みんな着替えたみたいだな‥‥流石に女の子だな似合ってるよ」)
改めて女性陣のメイド服姿に感心した錬は、続いて自分と同じく「男の娘」と化した仲間達に視線を移す。
(「ゲオルグさんも綺麗だ‥‥何だか負けられない気がしてきた僕だって僕だって‥‥負けないだから」)
何故か対抗心に火が点くのだった。
●社長さんにご奉仕開始!
さて、着替えを終えた面々は本来の任務であるムトウ家の掃除を手分けして開始した。
社長邸宅だけあり、庭も含めてその広さは相当のもの。8名ばかりの人数ではとても半日で掃除できそうもないが、そこは能力者の身体能力がものをいう。
手始めに、大部混沌としていると思われる屋敷全体の荷物の片付けを開始した。
一般人の業者なら丸一日かかりそうな雑然とした屋内を小一時間ばかりで手早く片付け、ある程度目処が付いた所で、次は各人が手分けして個別の清掃に入る。
ミオの担当は廊下や階段等の共用部分。丁寧に掃除機をかけた後、廊下のワックスがけをやってる所でドレス姿のヴィターが見回りに来た。
(「わざわざお掃除の視察なんて、経営者だけあってマメなんですね‥‥」)
つい悪戯心が湧き、ぐいと前屈みになり下着が見えるか見えないか位の姿勢を取ったりしてみる。
「まあ〜ご苦労様。家の中が見違える様ですわ♪」
などといいつつさりげなく近づくヴィター社長、何気に背後から抱きつきミオの脇腹をコチョコチョくすぐったり。
「ぁ‥‥いけません、ご主人さま‥‥」
と言葉では拒否しつつ、内心満更でもないミオである。
錬、ルシャ、護らはランドリールームへと向かった。女社長が無造作に脱ぎ散らかした衣類を一気に洗濯するためである。
護は洗濯物の種類に応じ、手洗いと洗濯機洗いを使い分けた。生地によって対応洗剤をチェックするなど、普段のボーイッシュな口調や振る舞いによらずマメである。
で、洗濯ついでに社長のブラのサイズまでチェック。
「ん〜ボクとどっちが大きいかな〜? ちなみにボクはGだけど‥‥う”‥‥ちょっと負けてる!」
なおこの時、一部の覚悟不完了な者達の退路を断つため彼らの衣服もついでに洗濯する。いうまでもなく、勝手にメイド服から着替えるのを防ぐためだ。
「お洗濯ーお洗濯ー♪ るんるんるん♪」
仕事中思い出したように覚醒し、尻尾の生えたネコ耳メイドと化したルシャが鼻歌交じりでヴィターのランジェリーを入れた洗濯籠を運ぶ。山盛りの下着のため前方の視界を遮られた所に、待ち伏せていた白虎が突撃してタックル!
そのまま二人して下着の山に埋もれる。
女社長のショーツを頭に被ったルシャは慌てて赤面した。
「あーあしょうがないなぁもう‥‥」
ため息をつきつつ錬が下着を拾い集め、改めて洗濯班はベランダの物干し台へ。
(「洗濯干しって思った以上に疲れるなぁ‥‥お姉ちゃんって大変なんだなぁ」)
そんな事を思いつつ皺を伸ばした衣類を一枚一枚、物干し竿に吊していく。
「良い天気だな風が気持ちいいし」
ふと隣を見ると、やはりせっせと洗濯物を干すルシャのスカートがふわりと翻った。
「なにルシャくん‥‥ってうわぁ‥‥恥ずかしい」
男同士とはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
円とゲオルグは台所担当だったが、多忙な女社長は外食が多いため食器類の洗い物は殆どなかった。そこで夕食の準備をと思ったのだが‥‥。
「ご、ごめんなさい。私、料理は駄目なんです」
「いい機会だからこの際覚えちゃいましょうか」
ゲオルグの指導を受け、持参のアルティメット包丁を取り出しチャレンジする円。
しかし包丁で己の指先を切るわ、粉物は煙幕に変えるわ、お米を研げば米粒ごと流し、洗い物も一緒に流すわ水を顔面に被るわの大惨事を連発するはめになった。
「ご主人様〜お仕置きタイムですぅ〜♪」
なぜこんな時に? というタイミングでヴィターを連れた白虎が登場!
「ウフフ、そうねぇ‥‥どうしましょ?」
「これを使うにゃー!」
すかさず白虎が差し出すは浣‥‥いや巨大注射器。ってこの時のためにわざわざ装備してきたのか?
「加賀さんでしたっけ? こちらにその可愛いお尻をお出しなさい♪」
「は、はい‥‥」
やむなくスカートをまくり上げ、「ご主人様」の方へ形の良い桃尻を向ける円。
――ずむっ。
「あぅん♪」
まあ「注射器」といっても柔らか素材の玩具なので別に痛くはない。痛くはないが、何やらこそばゆくクセになりそうな微妙な感触ではある。
その頃大慈は独りトイレ当番。
もっとも高級ホテル並みに豪華な大理石の化粧室は(普段あまり使われてないためか)ヴィター本人の自室よりよほど清潔に見えたが、それでも大慈は
「♪おっいらっはト〜イレッのそ〜じやさんっ」
と歌いつつ屋敷の各階にあるトイレを磨いて回った。
その他、バスルームの掃除中にうっかりわざとシャワーの栓を全開にしてみんなを水浸しにしようと図った白虎が間違えて自分がずぶ濡れになったり、モップ掛けの最中すっころんでバケツをひっくり返すなどお約束のドジっ娘ぶりをいかんなく発揮した円がその度に巨大注射器のお仕置きを受けたりと色々あったが――。
ともあれ屋敷掃除の方はつつがなく(?)終了し、料理の方もゲオルグが鶏もも肉のグリルやミネストローネ、大慈が得意料理の明太子パスタを作り、何とか夕刻までにディナーの用意を整える事ができた。
先に掃除の済んだ自室で次回プロジェクトの構想を練っていたヴィターをインターホンで呼ぶ。
高級絨毯の敷かれた食堂入り口に8名のメイド達がズラリと並び、女主人が現れるや一斉にお約束の一言。
「お帰りなさい、ご主人さまっ☆」
●社長さんイイじゃないですか減るもんじゃなし
夕食後、白虎は相棒のルシャを始め仲間達、そしてヴィターをお風呂へと誘った。
「ボクらがキレイにしたお風呂でリラックスして欲しいのです♪」
「あら? でもうちのお風呂に男女の別はなくてよ?」
「今日のボクらに男女の境界はありません。皆等しくメイドさんなのです☆」
この一言であっさり決まった。
「個人的にはこれが目当てで‥‥コホン」
嬉しげに咳払いするミオからひきつった笑みを浮かべるゲオルグまで、一同は連れだってバスルームにレッツゴー。
さすがは社長邸宅のバスルーム。プールのごとく広い浴槽の端で黄金のライオン像が口からお湯を吐き出していた。
言い出しっぺの白虎はメイド服を脱ぎ捨てるなり持参したアヒルの玩具多数、通称「アヒル隊」を浴槽に浮かべ遊び始めた。
「12羽のアヒルが3分と持たずにっ!?」
‥‥それは一体どういう遊びだ。
少し遅れてドレスを脱いだヴィターが浴室内に現れると、
「逃がさないにゃー♪」
ライオン像の影に隠れようとしたルシャをタックルで捕獲!
「依頼主様セットメニューです♪ お好きにどうぞ」
「あらまあ。可愛い子は、脱いでもやっぱり可愛いわねえ♪」
「は、恥ずかしいにゃー‥‥」
女社長の好奇の視線に晒されたルシャ、両手でもじもじ大事な所を隠す。
「そっちの子もイイわぁ‥‥ウフッ、目移りしちゃう」
「そんなに見るなよ‥‥照れるって」
続いてヴィターの視線を浴びた大慈は照れくさそうに浴槽に身を沈めた。
浴槽の隅っこ辺りにひっそり座っていたゲオルグもたちまち女社長の毒牙にかかり、体のあちこちを撫でられたりさすられたり引っ張られたり。
「ご主人さま‥‥そこは駄目‥‥ですよ」
嫌がってるのか喜んでるのか?
依頼主の注目が専ら男の子達に注がれているのが何となく面白くない女性陣は、むしろ自ら積極的にヴィターへと迫り始めた。
「背中流しましょうか‥‥?」
と近づき、スタイルもよく肌もきめ細やかな女社長の体を洗い始めたミオの指先が、ついつい色んな所に伸びてしまう。
「ご主人様のお体を洗う以上、色んな所に触れてしまう。これは不可抗力なのです。はい」
護に至ってはもっとアグレッシブに、Gカップボディの肢体を駆使した全身マッサージでご奉仕だ。
「あら、そんなコトまで‥‥もうっ大胆なんだから〜、イマドキの子って♪」
「イイじゃないご主人様☆ 減るもんじゃないし〜」
もはやどっちがご奉仕してるのか、されてるのか区別がつかない。
そのときタイルに滑って「どべっ」とすっ転んだ円は、たちどころに全員から体中にボディシャンプーを塗りたくられてもみくちゃ泡踊りの罰ゲームスタート。
‥‥とまあ、あまり細かく描写すると何やら軍の検閲を受けそうなのでこの辺にしておくが、幸い湯気の煙がバスルームで起きる全てを覆い隠してくれる。
濛々と立ちこめる湯気の中、美貌の女社長と8名の少年少女の影、そしてきゃっきゃうふふというはしゃぎ声が浴室内に反響した。
●踊るメイド御殿
風呂上がりにドライヤーで髪を乾かし冷たいドリンクでさっぱりした後、再びメイド服姿に戻った傭兵達は、就寝時間間近になって全員ヴィターの寝室へ呼び出しを受けた。
「いよいよ来たね。さっきのお風呂よりもっとえっちなお誘いかな?」
「恥ずかしい‥‥でもそれはそれで楽しみだにゃー」
「つ、ついに禁断の一線を越える時が来たのですね‥‥」
全然違った。
『業績向上♪ 株価は上昇♪ 追いつき追い越せメガコーポ〜♪』
寝室とはいえかなりの広さがある室内のオーディオコンポから、ヴィターが経営する会社の社歌が高らかに流れる。
部屋の中央、ヴィター専用の天蓋付きダブルベッドを取り囲み、傭兵達はメイド姿のまま思い思いの振り付けで盆踊りのごとく輪になって踊っていた。
「芸者遊びならぬメイドさん遊び! これ、一度やって見たかったのよ。オホホホ〜!」
ベッドの上でシルクのネグリジュをまとって横たわる女社長が、悠然と水煙管をふかしながら高笑いする。
(「帰ったらお姉ちゃんに何て報告しようかな? っていうか僕らいったい何のために能力者になったんだろ‥‥?」)
己のアイデンティティに関わる深い疑問を覚えつつも、錬は仲間達と共にリズムに身を任せ踊り続けるのであった。
<了>
(代筆:対馬正治)