●オープニング本文
前回のリプレイを見る アメリカ上空に突如として姿を現した浮遊島。
その正体は、輸送艦ビッグフィッシュを改造して作られた特殊艦ヘミスフィアだった。
艦内に大量のキメラを搭乗させたヘミスフィアが、目的地であるUPC北中央軍の本拠地オタワに到着すれば、戦闘は激化して当然人類側の被害は甚大なものとなる。
それを未然に防ぐため、ULTは早急にヘミスフィア撃墜指令を下した。
だが外周を強固なフォースフィールドで守られたヘミスフィアに、生半可な攻撃は通用しない。
ULTは一時的にフォースフィールドが解除されるキメラ出撃口を狙い、そこから傭兵達を侵入させて内部から破壊を行うという大胆な作戦を立てた。
危険を伴う任務のため、当初は参加者が現れないのではないかと危惧されたが、生憎と予想は裏切られた。
まさに命知らずな傭兵達の活躍により、見事最初の難関である内部侵入に成功したのである。
司令室は軽い宴状態になりかけたが、総括官の喝により本来の緊張感を取り戻した。
まだ任務は始まったばかりなのである。
ヘミスフィア内部で突入部隊がKVから降りると、すぐに破壊工作部隊が侵入を開始した。
結果として突入部隊のKVは中央に寄せられ、破壊工作部隊のKVが両側の出入り口を塞ぐ形となる。
破壊工作部隊は周囲に敵影がないようか気を配りながら、突入部隊に歩み寄った。
「事前に説明があったと思うが、僕達がエネルギー機関の破壊を担当する部隊だ。
本当は面倒臭いんだが、上からの指示なんで一応ここでもう一度これからの作戦内容を説明する」
部隊の指導者らしき若い男は武器をしまうと、代わりにヘミスフィアの見取り図を取り出した。
突入部隊は図面に視線を集め、破壊工作部隊が周囲警戒を担当する。
「これから君達には、この半球体の平面部分に向かって欲しい。
立ち塞がるキメラを駆逐しつつ、ヘミスフィア内部を上階に向けて移動すれば良いはずだ。
目的地は平面部分に建つサーカステント。
そこでヘミスフィアを運転していると予想される、アルマノイド一座を討って欲しい。
そっちの仕事が完了次第、エネルギー機関に設置した爆弾を起動する。
全員が脱出を完了した頃に爆発し、この鋼鉄島は文字通り鉄屑となる訳だ」
若い男が図面を片付けると、まるで見計らったようにキメラが現れ、奇声を上げた。
破壊工作部隊の隊員達が一斉に射撃を行い、直ちにキメラは蜂の巣となる。
若い男が武器を構えた時には、既にキメラは絶命していた。
「僕達はこれからエネルギー機関を探し出す。
なるべく派手に行動してキメラの注意をこちらに向けさせるつもりだ。
溢れた分くらいは、そっちで何とか処理してくれ」
終始嫌味な口調だったが、最後に男は口の端から歯を見せてくれた。
「健闘を祈ってるぜ」
それだけ言い残すと、破壊工作部隊は通路の先に姿を消した。
突入部隊も準備を整え、自らに課せられた使命を果たすために動き出す。
目指すは上階。アルマノイド一座の待つサーカステントだ。
●リプレイ本文
●PM2:11 ヘミスフィア・キメラ出撃口付近通路
曲がり角の前で進軍を一旦停止させると、キョーコ・クルック(
ga4770)はシグナルミラーによる安全確認を試みた。
鏡だけを陰から出し、慎重に、しかし大胆に動かして素早く確認を終える。
「よし、敵はいないから一気に行くよ」
手に入れた情報は即座に仲間へ伝え、定位置に戻って全員で曲がり角を進む。
傭兵達は前面に戦力を集中させた四列の陣形で常に行動を行っていた。
その列の先頭、左端を担当しているのがキョーコ。
キョーコの隣、最前列中央を担当しているまひる(
ga9244)は、円状の特異な構造をした武器を持ち、自身を中央の空間に納めていた。
リープ・スライサーと呼ばれるそれを斜めに構え、まるで肩に掛けるようにして持ち運んでいる。
最前列右端を受け持つ抹竹(
gb1405)は、前方からの敵の奇襲を警戒しながら、最後尾の芹架・セロリ(
ga8801)のことを気にかけていた。
キメラ出撃口内部に現れたキメラは、誰しもがサーカス団員を連想するであろう容姿の怪物だった。
恐らく、連れ去ったサーカス団員を素体として生み出されたキメラなのだろう。
アルマノイド・サーカスと最も馴染みの深いセロリにとって、恐らくその事実は辛く厳しいものに違いない。
それが、彼の心に僅かなりとも隙を生み出させていた。
そして彼の予想通り、最後列中央で後方を見張るセロリは、面識のある人間のキメラ化にかなり動揺していた。
外面には出すまいと努力しているようだが、やはり表情に僅かな曇りが窺える。
そんな彼女を気遣ってか、後列中央──セロリの前方の位置──にいた蒼河 拓人(
gb2873)が声を掛けた。
「もう助けられないのは分かってる。だから、開放することで救うんだ」
キメラを倒すことでそれが本当に開放となるのか。
それは拓人にも分からないことだったが、そんな迷いは微塵も感じさせない口調だった。
セロリも彼の心遣いに気付いてか、一変して力強い微笑を浮かべた。
「ボクは戦えます‥‥大丈夫」
言葉にすることで覚悟が決まったのか、彼女の表情から翳りが消えた。
実際には混乱が治まった訳ではないのだが、自身に使命を課すことでそれを曖昧にすることには成功していた。
最前列三名の後方、前列左端の位置を歩く夜十字・信人(
ga8235)は、両手に持った大口径ガトリング砲を一度浮かして握り直した。
超人的な身体能力を持つとはいえ、ガトリング砲は元々はKV用に開発された兵器である。
長時間持てば当然腕は痺れ、その重量故に行動にも妨げが生じる。
同じく前列の右端、リンドヴルムで全身を覆っているのはソーニャ(
gb5824)。
彼女は前方のみならず、ありとあらゆる方向に注意を払いながら進軍を行っていた。
本人曰く、「ボクのセンサーは全周フルカバーなんだから」という理由らしい。
そして前列中央、仲間達に囲まれるように行動しているのは、音影 一葉(
ga9077)である。
彼女はエネルギーガンを装備してはいるが、その役目は射撃ではなく全体への指示と戦闘支援だった。
サイエンティストの能力と立場を活かした、適材適所と称賛するに相応しい陣形である。
角を二つ曲がり、他の者達が既に気付いていることなど全く気にせず、一葉は傍にあった案内板を読み上げた。
「『二百メートル先の階段を上』、だそうです」
●PM2:44 ヘミスフィア・中層通路
一度も敵に遭遇することなく、階段を三階分登った通路での事である。
突然周囲が騒がしさに包まれ、傭兵達は慌てて身構えた。
第一声を上げたのは、セロリだった。
「階段から敵が来ました! 数は‥‥八です!」
報せを受けてすぐに傭兵達は後ろを振り向き、その真偽を確認した。
セロリの報告は正しく、先ほどまで自分達が登っていた階段から八体のキメラが現れ、こちらに向かってくる。
「夜十字さん!」
一葉が声を掛けるのが早いか否か、信人がガトリング砲を後方に向け、引き金を引いた。
砲身が回転を始め、信人の注意に従って仲間達が射線から退く。
「急がば回れだ。まずはこいつを浴びせてからだ」
彼が呟いた直後、腹の底に響く絶え間ない発砲音が通路中に溢れ、一瞬にして五十発もの弾丸が発射された。
コンクリートすら容易に破壊する大口径の弾はキメラと通路に穴を開け、先頭を走っていた四体のキメラを一瞬にして沈黙させた。
だが後続のキメラが倒れた仲間の屍を踏み、構わず接近を続ける。
ならばもう一度銃弾をくれてやろうと信人が引き金を絞ろうとした時、前方を警戒していた抹竹が声を上げた。
「前からも来ます!」
言われて、最前列に身を置くキョーコとまひるが視線を転じた。
ガトリング砲の音に誘われたかのように、緩い曲線を描く通路の先から五体ものキメラが迫って来ていた。
そして傭兵達が武器を構えるより先に、三体のキメラが手に持っていた大きなリングを投げる。
一見何の変哲もない曲芸等で使用される単なる輪っかに見えるが、本能がそれは危険なものだと告げた。
先手こそ譲ったものの、黙ってやられるほど傭兵達は愚かではない。
まひるは身を捻ってリープ・スライサーを飛ばし、キョーコはクルメタルP−38で迎撃を試した。
リープ・スライサーはリングを弾き返すことには成功したが、予備動作が不足だったため、持ち主には返らずその場に落ちた。
キョーコの撃った鉛弾は三発目でやっとリングに命中し、彼女の眼前で弾けて地面に転がった。
松竹は十字刀でリングを叩き返し、キメラはそれを手を伸ばして掴み取る。
迎撃には全員成功したが、その隙に距離を詰められ、キメラと傭兵達の間は一瞬で埋まるものとなっていた。
「今日のミッドフィールダーはボクだよ
はい、そこのキミ、動かないで。そしてそこのキミは逝きなさい!!」
続いて、前列のソーニャが前方の敵に向かってサブマシンガンを乱射する。
信人の代わりに前列に動いたセロリも、フォルトゥナ・マヨールーによる攻撃を仕掛けた。
キメラは攻撃を回避しようとはせず、ただ奇妙な笑い声を上げるだけで弾丸を体中に受け止める。
結局一体もその笑い声を止めることはなく、傭兵達に向かって一斉に足を踏み出した。
同時に最前列の三名も踏み出し、お互いに距離を縮める。
両手にリングを持ったキメラが直接攻撃を仕掛けようとしたが、キョーコのツインブレイドの刃が先にキメラの腹部を貫いた。
即座にキョーコはキメラの体を蹴り飛ばし、剣身をキメラの体から引き抜く。
目前まで敵が迫ると、まひるは最悪な死神と呼ばれるショットガンをキメラの顔面目掛けて発射した。
キメラの頭部はまるで豆腐を砕いたように簡単に四散し、まひるに覆い被さるように倒れてくる。
まひるはそれを体を横に一回転させて回避し、キメラの下敷きになる事態は免れた。
だが背後で待ち構えていた玩具のような剣を持つキメラに攻撃され、慌ててショットガンの銃身で受け止める。
ショットガンの銃身下部にはチェーンソーが設置されており、その刃とキメラのソードが擦れて火花を散らしたが、どちらも譲ることはなかった。
最終的にはキメラの力が勝り、まひるは弾き飛ばされただけではなく両手に切創を負わされた。
隣で同じくソード持ちと戦闘していた抹竹は、眼前の敵に目を奪われ、脇から迫る別の一体に気付けなかった。
ソードを十字刀に絡めて払い、隙だらけとなったキメラの胴に酒涙雨を袈裟に斬る抹竹。
その一撃はキメラにとって致命傷となり、彼にとっても致命的となった。
キメラの陰に潜んでいたもう一体が突然姿を現すと、持っていたリングを彼の体に通してしまったのである。
慌てて外す暇もなく、リングはまるで最初からそうであったかのように抹竹の体にピッタリと密着し、彼の体を拘束した。
直後、キョーコが彼を助けようと向かうが、まひるを弾き飛ばしたキメラに阻まれ、止むを得ずその相手を務める破目になった。
一方、後方の敵を相手にする信人と拓人も苦戦していた。
最初は八体だけだったキメラが、続々と階段から溢れ出して来るのである。
信人のガトリング砲だけでは対処出来ず、拓人のエネルギーガンを弾幕に加えても接近を許してしまう。
その際には拓人が番天印で倒していたが、それでもキメラ達の勢いは徐々に彼らを追い込んでいた。
事態を重く見た一葉は、練成治療を仲間に施しながら、高速で思考を働かせた。
現在の位置。敵の数。仲間の状態。
冷静に現状を分析しながら、打開策を探す。
その末に、一葉は拓人が所持していた閃光手榴弾のことを思い出した。
急いで拓人に確認し、それを使用して現状打開を試みる作戦を説明する。
傭兵達は彼女の提案に賛成し、拓人は一瞬の隙を作り出すと、閃光手榴弾のピンを抜いてその場に落とした。
刹那、激しい光が通路を満たし、キメラ達は一層可笑しそうな声を強くした。
●PM4:01 ヘミスフィア・平面部
その後、傭兵達はとにかく進むことだけを考えて通路を走り続けた。
相変わらず前からも後ろからも半端ない数の敵に襲われたが、構わず進み続けた。
おかげでほとんどの者が練力は尽き、生命力を大きく削られている。
だが平面部が近付くに連れて段々と敵の数が減り始め、最終的には追跡してくる敵は一体も存在しなかった。
それを幸運と考える者もいたが、中には不運なのではないかと考える者もいた。
何故ならばキメラ達は平面部に到着することを恐れ、自ら足を止めた存在もいたからである。
それはまるでこの平面部に決して敵わない強敵が存在していることを告げているようで、数人の傭兵達が嫌な予感を覚えていた。
だがとりあえず、平面部に辿り着くという目的は達成出来た。
今はその事を喜ぼうと、傭兵達は大きく息を吐いた。
次回(7月上旬予定)に続く