●リプレイ本文
その日、傭兵達は、2人づつのペアに分かれることになった。強敵だと思われる相手には、4人で挑むと言うのが、その算段だ。持ち込んだ物資の屋台が小さくなっていく中、急ぎガリーニンへと向かう。
『すみませんねー。迎えに来て貰っちゃって』
森里・氷雨(
ga8490)の呼びかけに答える担当者。が、セリフの割には、申し訳なさなんぞ欠片も見えない。直後、すれ違うガリーニンを確認すると、守原有希(
ga8582)は翔幻へのリンクを開始する。
「良い子だ。んじゃ、エスコートしますかね」
翔幻の幻霧発生装置が、ぶしゅうっっとガリーニンの周囲に展開する。追随していたHWが速度を上げた。
「森里さん、煙幕を!」
作戦はこうだ。チョコの被害を荷物の熱だけに抑える為攻勢を仕掛け、敵の頭を抑える。
「了解。さっさと終わらせて、闇フォンデュっと」
その為、森里はそう言うと、煙幕弾を発射する。すいっと避けるHW達。周囲の視界が黒く染まるが、それよりもそのスピードが問題だった。
「スピード強化型か‥‥。あんまり構ってらんねーんだよなー」
このままでは追いつかれてしまう。そう思った矢先、森里がガリーニンに通信を入れた。冷やす為の手段を確かめるためである。
『そんな事したら、他の荷物と外のパッケージがだめになります』
彼が提示したのは、脱酸素と消火設備を使うことだが、両方ともその弁ではNGだった。酸素がないと駄目なものも詰まれていたりするかららしい。
「換気ハッチか、空調を使うのは出来ないん?」
燃えているわけではないので、上空の冷たい空気で冷やすと言うのはありだろう。だが、換気ダクトが都合よくチョコにあたるとは限らない。それに、開いたハッチに煙が紛れ込む可能性はある。
「せめてハッチを半開きにして、風で冷やしてください!」
それでも、森里はそう念を押す。到着まで融けなければ、なんとなかる‥‥と。直後、ガリーニンの後方ハッチがゆっくりと半開きになった。
「これでよし。ガリーニンはOKですっ」
あとは、追いすがってくるHWをバラせば良いだけである。煙幕と幻霧の中を航行していくガリーニンを確かめた守原は、ロックオンキャンセラーを発動させる。その間に、森里がラージフレアを2発ほどばら撒いていた。その間に、守原が発射した8式弾頭が、螺旋の軌跡を描き、HWへと迫る。が、ただ発射するだけには、相手もなれて来てしまったようだ。強い衝撃が走り、被弾した事を知るも、守原は口元に笑みを浮かべていた。
「読みどおりですね。一気にたたみかけっぞ!」
そう言うと、守原は高初速砲を発射させる。
「森里さん。スタビライザーを! って、森里さん?」
「ブースターでも駄目かよっ」
反転させると、森里がもう一機に追いかけられている最中だ。回避の低さを狙われたらしい。いくつか被弾の後を確かめた彼は、反対側から回り込むように、MSI製のバルカンを発射する。
「すんませんね。お返しはこれで!」
挟撃するような形になった森里機がぐぃんと反転し、機体の錬力が、スタビライザーに注ぎ込まれる。直後、メイン武装のレーザー砲が火を噴いた。
「これでチョコレートが無事なら良いんですけどね」
気がつけば、損傷率が著しい。そう思った守原と森里は、ガリーニンに寄り添うように、ラスホプへと帰還して行った。
煙幕と幻影の霧に守られながら、距離を稼いだガリーニンを出迎えたのは、天宮(
gb4665)と三島玲奈(
ga3848)だった。
「さてと‥‥参りましょうか」
そう言うと、天宮はガリーニンの周囲で、煙幕銃を使う。幻霧が重ねがけされ、周囲の視界がぼやけていく。
「玲奈、お兄ちゃんの為に頑張るもん」
そんな中、玲奈のコクピットには、どこから調達していたのか、カラスの写真がぺたぺたと貼り付けられている。そんな彼女に、天宮は高アドバイス。
「こっちは後方支援機だからね。危なくなったら言うんだよ?」
「はーい。えぇと、あっちに2匹は、B4が頑張ってるから、それでいいですよね」
ガリーニンの周囲をじぐざぐと飛行するようルートを変える彼女。軌跡を描く中を突き抜けるようにガリーニンが追い越していく。そこへ、後方から3機。1機はすでにダメージを受けているようだ。
「輸送機の安全は、確保されたようですね」
「ぐるぐる回ってる必要なくなっちゃったかな」
確か、森里と守原が1機落としたと言っていた。相変わらず完成の法則を無視した動きで、くるりと反転したHWに、天宮がスナイパーライフルを向ける。
「アレを片付けたら、考えましょう。お願いしますよ」
「はーい。まてぇぇ!」
ガリーニンの上空を交差するようにすり抜け、向かってきたHWに降下する玲奈。その勢いを利用して、超伝導アクチュエータを起動させる。
「こんのぉぉぉぉ!」
高分子レーザー砲の根元にエネルギーが集約され、命中率に補正がかかる。後ろから、天宮も短距離用AAMを使う。この距離なら、充分射程内だ。
「当たれ!」
がすがすと発射される音。だが、弾はかすっただけだった。
「くっ。まだ駄目かな?」
「いえ。あと少しです。皆さん頑張ってください」
玲奈がその機体との距離を詰めようとする。あまりガリーニンから離れる事は出来ないが、なんとか1機だけでも落としたい。そう考えて、輸送機の周りをぐるぐると飛び回る彼女に、後ろの方から天宮の励ましがぶっとんでくる。
「受は永遠の証なんだから!」
そう言うと、玲奈はHWに向けてレーザーガトリングを乱射する。光の軌跡を上げるそれは、既に傷ついたHWを下の海へ叩き込んでいた。
「敵機の撃墜を確認」
「やったぁ! お兄ちゃん、仇はとったからね‥‥!」
天宮の報告に、玲奈ちゃんはおめめを潤ませながら、お手手を組んでいる。キャノピーから見える彼女の空には、まだ死んでないカラスが、にこやかに笑顔で白い歯をきらめかせている事だろう。
さて、残りは2機。彼らは、先の2機が落とされたのを知ると、作戦を変えたらしい。距離を取る彼らに、ミカエル・ヴァティス(
ga5305)がこう呟く。
「皆元気ねー。こっちも早く終わらせないと♪」
何しろ、この後には、中止派とのチョコレート争奪戦が待っているのだ。融ける融けないは別にしろ、お祭り騒ぎは楽しみたい。
「そう言うのも経験だからねぇ‥‥」
一方の遠石 一千風(
ga3970)は、今特定の相手が居る訳ではないけれど、嬉しいも悲しいも経験してそれも有りだと思うので容認している模様。それよりも、度を越した騒ぎになる方が心配なようだった。
そこへ、HWが再び姿を見せる。
「敵のヘルメットワームは改造体みたいね〜。赤い角‥‥赤‥‥三倍早いのかしら」
赤角ついたら、何かが3倍だか3割だかに増幅するのは、傭兵達の中でも都市伝説として定着している。
「チョコレートも3割増しだといいんだけど。そっちの状況はどう?」
「原因は横の積荷だって。中身は研究所の委託物だから、変な機械でも積んでるんでしょ。とりあえず冷やしてもらってるわ」
そのミカエルの問いに、そう答える一千風。とにかく熱を下げればいいわけで、乗組員用の冷蔵庫に会った保冷剤を利用してもらえる事になったらしい。
「OK。じゃあとりあえずチョコは大丈夫そうね。護衛はB4に任せて、こっちも畳み掛けましょうか」
そう言うと、ミカエルはスナイパーライフルを相手へと向けた。携行している武器は、全て長距離型の為、スピードを緩めて後方へ陣取る彼女。それに呼応するように、一千風がレーザーを浴びせかける。
「積荷の被害は、最小限に抑えないとねっ」
さっさと落としたい彼女、ガリーニンへ近づけさせないよう、積極的に前面へと出ていた。ミカガミは、そんな彼女の思いに答えるように動いてくれる。おかげで、あまり痛手を受けずに済んでいるようだ。
「温度は大丈夫なのよね?」
「たぶんね。空冷なのがちょっと気になるけど」
と、後方からミカエルがそう言いだした。すでに、ハッチは半開きなのを確認済みだ。と、彼女は少し距離が開いているのを確かめると、ラージフレアを起動させる。
「下手に長引かせるよりマシよ。じゃ、MAP兵器使うから、しっかりひきつけといて頂戴」
「OK」
一匹に狙いを定め、レーザーを集中させる。避けようとした所を利用して、位置をガリーニンから調整する一千風。
「速攻モード、いっくわよーん」
その間に、ミカエルはスタビライザーを起動させた。選ぶ武器はラージフレア。遠距離タイプの彼女、巻き込みさえ気をつければ、有効な武器になる。
「3・2・1‥‥0!」
炎が上がり、注ぎ込んだ錬力がHWを爆砕したのは、その直後だった。
残るは、1機。
「失敗したら、単位も貰えませんよ。准将の話じゃ、報告書には他の先生にも届くって言いますし‥‥」
チョコレートのあるなしの他、ドラグーンのジェームス・ハーグマン(
gb2077)には『単位』と言う明確な目標があった。何しろ、報告書は、カンパネラの生徒なら誰でも閲覧出来る。当然教師陣にもだ。
「手土産に殻でも持って行けば、用は足りるだろ。来たぜ!」
「目標機と合流、これより、護衛行動に入ります」
ガリーニンからはだいぶ離れてしまっている。が、それは相手も同じ事。それを見つけた煉条トヲイ(
ga0236)に、ジェームスが事務的に報告してくる。肩にドラゴンの幻影が止まっているのを見ると、覚醒しているのは間違いないだろう。だが、それと報告は別だ。
「エネミータリホー、11時方向、多数接近」
問題は、その報告だった。追いかけていたHWを援護するかのように、複数のワームが群がって来ている。様々な種類のあるそれには、どいつもこいつも赤い角。
「何か特殊能力がありそうだが――速攻でツブす!!」
それを確かめたトヲイは、射程圏内に入った事を知ると、8式螺旋弾頭ミサイルを前段発射する。
「了解、ファフニル、エンゲイジ!」
それにあわせるようにして、ジェームスが幻霧発生装置を起動させる。ファフニルは彼のTACネームだ。それでも、相手はやはり能力値が強化されているらしく、いくつかを撃ちもらし、ジェームスに被弾ダメージを残す。
「回り込めっ!」
「シーカーオープン、ロックオン、ファフニル、FOX2!」
それでも、ジェームスは副兵装に仕込んだ突撃仕様ガトリング砲を発射した。避けられてしまうが、それでも彼は構わず乱射し続ける。その間に、トヲイがアクチュエータを使っていた。
「切り裂けっ!」
加速した翼の刃が、1匹に盛大なダメージを与えている。その間に、HWは次々と離脱して行ったのだった。
かくして、脅威は去った。
「飛行場確認、目標機着陸まで、上空警戒します」
ジェームスは、下のあちこちで待ち構えているであろう反対派勢力が、まかり間違ってロケットランチャーとか撃って来ないように、ぐるぐると旋回し始める。
「滑走路に人があふれる、なんてことにはなりませんよね?」
「どうかな。積荷を引き渡すまでは責任を持つつもりだが」
やっぱり中立派のトヲイも、徐々に高度を下げてくる。なんだか突き刺さるような視線が、背後からぐっさりと襲ってくるが、気のせいにして、検品に回った。中を見てみると、外側にあった義理や製菓用のものには、被害も多かったが、中の本命用チョコは無事なようだ。
「食物資源は大切に☆ 駄目になった奴は、チョコフォンデュにしましょう」
「まぁ、捨てるには勿体無いしなー」
森里がそう言うのに、納得するトヲイ。駄目になった分は、中止派の方々にもご馳走すると言う方向で固まったようだ。
「変な風に溶けると、水気とかとんで、固まり辛かよ。生クリームとかラム酒とか混ぜて、これにつけて食べた方がうまかけん」
守原が、中止派にそう説明しながら、大きな鍋に駄目になったチョコを、割っては放り込んでいく。程なくして、着替え終わったミカエルと玲奈が登場する。
「汚れてもいい服装で来ました。カラスおにいちゃんを、愛の力に目覚めさせるんですっ」
作業の為に。と玲奈は言い張るが、どこをどうみてもいわゆるブルマで体操服にバトルモップの戦闘装備である。もっとも、カラスの姿は見えなかったので、慌てて探しに行ったのだが。
「だいたい、バレンタインに女性がチョコを男性に贈るっていう日本式に馴染みは薄いのよねぇ。でもほら、楽しそうだし? 行って来るわねー」
ミカエルはセーラー服に巨大ハリセンと言うスタイルだ。彼女は、玲奈を追うように、ハリセンをひらひらと振りながら、校舎へと消えていく。
「激辛スナックは、意外とチョコにあうんだぜ。確か唐辛子マークのチョコあった気がするし」
守原にそう言って、激辛系スナックと焼き芋を、フォンデュの中に突っ込むトヲイ。念入りにチョコをつけようとしている彼に、森里が「えぇい、野郎は二度漬け禁止だっ」なんぞと言っている。
「やれやれ。あれ? これは‥‥」
果物の用意をしていた守原が、バレンタイン用の包装を施された小さな箱に気付く。数は6個。どうやら、今回の参加者へのプレゼントらしい。
それが、デスソース入りのロシアンチョコレートと気付くのは、既に食べちゃった後なのだった。