●リプレイ本文
「よぉーし、装着完了っ。これでばっちりだね☆」
猫耳カチューシャが、愛紗・ブランネル(
ga1001)の頭にしゅぱっと生えている。
「寺田センセ曰く、猫は高いところかぁ‥‥。あっ、この本面白そうだな‥‥」
見上げたもう1人の1階担当、柿原 錬(
gb1931)の視界に移ったのは、図書館に収蔵されているラノベの数々。2〜3冊手に取る錬に、寺田先生はカウンターの方を指し示した。
「読むなら、後でゆっくり読みなさい。貸し出し方法はわかりますね?」
どうやら、本を読むことに関しては、さほど厳しい事は言わないようだ。もっとも、今はそんな場合ではないので、錬は手に取った本を元の棚へと戻している。
「とりあえず悩んでても仕方ないから、一通り探してみよう」
「えぇとねぇ、これ好みなんだってー」
そこへ、愛紗がチーズ入りかまぼこを差し出す。にゃん太の好物らしい。そんな彼女が見せたのは、小さなマスコットに紐を取り付けたものだ。
「と、とどかにゃい‥‥。錬お兄ちゃん、これ乗っけてくれる?」
もっとも、愛紗の背丈では、椅子に乗っても、棚の一番上まで届かない。
「なるほど。あ、そういえば、猫って日向ぱっこしてたりするから窓際とかにいたりするよね」
何をしたいのか理解した錬は、それにかまぼこをつけ、希望通りの位置へと乗せた。
「にゃん太ー。どこー。おやつだよー」
下の方でそう言いながら、くいっと紐をひっぱって、にゃんこの引っかかりそうな動きに似せてみる愛紗。と、その棚が連なる先で、「みゃああ」と声がした。
「あれっ今猫の鳴き声がしたような‥‥」
「愛紗にも聞こえたよ。あっちだった」
奥の方だ。日差しのある場所ではなかったが、ごうんごうんと機械の鳴る音がかすかに混ざっている所を見ると、空調関係の設備に向かっているのかもしれない。
「応援を呼んだ方が良いかもしれないね」
「じゃあお外の見張りのお兄ちゃん達に言ってから行こう」
連絡は重要だ! と言う事で、2人は見張りの2人組みこと、ヒロミと直人に一言告げてから、後を追いかけるのだった。
一方、地下一階でもセッティングは行われていた。ビニールシートにキウイの実。ただ、地下部分はさほど整理されておらず、閲覧コーナーで必要そうなスペースを確保していたら、結構な時間がたってしまった。
「AU−KVがないとスキルが使えないって言うのは、仕方ないとはいえ、どうしようもない現実だわねえ‥‥」
深いため息をつく岩崎朋(
gb1861)。見上げた壁には、シルエットに赤い斜め線の入った進入禁止マーク。なんでも、AUKVに頼らない戦い方を学ぶとかで、図書室はバイク進入禁止なんだそうだ。
「みゃああ」
「おっと、引き寄せられてきたみたいだ。あとは、こいつを持って」
普段から男の子口調の依神 隼瀬(
gb2747)、自作した特大猫じゃらしをぐるぐると回している。朋ちゃんが「隣から聞こえたよ」と、方向を指し示した。
「よぉし、この特大猫じゃらしで、釣ってやる。くらえ」
ぽーーんと、でかいぽんぽんが、本棚の向こう側へと消えた。
「ふみゃみゃみゃみゃみゃっ」
直後、なんだか複数の盛大な鳴き声が聞こえ、消えた特大猫じゃらしが、ずっしりと重くなる。
「しまった! 釣れすぎた」
朋ちゃんがこっそり本棚の反対側へ様子を見に行くと、中型サイズが何匹か、ぽんぽんにぶら下がっていて、本棚が左右にゆれている。
「重い‥‥。ごめん、誰か呼んできて」
何とか倒れないように踏ん張る隼瀬。しかし、ぎしぎしと揺れる本棚は、今にも倒れてしまいそうだ。中には、『貸し出し禁止』マークの貼り付けられた本が、ずらりと並んでいる。
「だからっ。一匹づつこっちにってばぁ」
何とか猫じゃらしを使って、トラップを張った場所までい誘導したい隼瀬。しかし、束になった中猫さんは、大きな鳴き声を上げながら、猫じゃらしから離れようとしない。
「ネットガン無いんだから、仕方ないよーー! ほらそっち行きなってーーー!」
朋ちゃんが後ろからネットを仕掛けた場所に追いかけようとするんだが、猫はと言うと。
「ふみゃぁぁぁぁ」
邪魔するなとばかりに、その眼光が鋭く輝く。直後、でっかい猫パンチがぽんぽんに閃いた。
「あああ。餌がーーー」
紐から切れて転がったぽんぽんを追いかけて、奥の方へと転がっていってしまう。足音を響かせながら。
「まてっ、うわぁ‥‥」
そこへ、階段の上のほうから、一階対応の錬と愛紗が、ぜぇはぁ言いながら降りてくる。振り返ったその視界を、マタタビ銜えたとら猫が走り抜けていった。
「みゃーーー!」
ずどどどど‥‥っと、埃が盛大に立ち上る。げほげほ言ってしまう4人。その間に距離を取ったにゃんこが、立ち止まる。
「お、大きいっ」
埃が収まっていく暗闇に浮かび上がるその姿は、形こそ猫だが、ちょっとしたキメラくらいはある。にやりと笑みさえ浮かべたように見えたにゃんこは、再び図書室の置くまで歩き出した。
「わぁぁぁ、逃げないでぇぇ!」
慌てて追いかけようとする錬。しかし勢い余って本棚にしこたま頭をぶつけてしまい、涙目になっていた。
「何とかするから、キウイんトコまで追い込め!」
「わかってますけど、痛てってて‥‥」
鼻を押さえながら立ち上がる錬。隼瀬が落ちていた愛紗のマスコットを紐につなげなおして、「こっちだこっちー!」と振りなおしている。
「にゃああああ!」
猫の本能なのか、視界に止まったそれに、猫パンチがぱしりとお見舞いするにゃんこ。
「今だー!」
隼瀬が合図をして、残りの面々が足元のネットを覆いかぶせた。最後の抵抗とばかりに爪を立てられ、引っかかれそうになる錬。じたばたと暴れるが、さすがに4人がかりでは逆らいようもなく、そのままケージへと連衡されてしまうのだった。
そうして1階と地下1階で追いかけっこをしている頃、その下では、静かに潜入する大槻 大慈(
gb2013)と猫瞳(
ga8888)の姿があった。
「一応、一番下の階と言えば貴重本等が保管してある地下二階を指す。でも俺は生徒達のあいだで噂されているアレ、カンパネラ学園七不思議の1つ「図書館の幻の地下三階」を思い出さずに居られない」
奥へと進みながら、そう話す猫瞳。なんでも、ここ学園図書館には、閉鎖された地下3階が存在し、カプロイア伯爵秘蔵のBL本や、本物の魔道書等が納められているらしい。あくまでも噂だが。
「俺の嗅覚はこっちだと告げている‥‥。だが、いいのか?」
「何を」
首をかしげる大慈。まるで秘密の扉をこじ開けるかのように、彼はこう語る。
「地下三階は方向性はともかく何かヤバイ書物の保管場所って事だな。そして、ソレを見た者は記憶を忌まわしい手段で消されるらしい‥‥」
「毒を食らわば皿まで! 面白そうじゃないか!」
即答する彼。張り上げる声が、室内に響く。その大きさに、しーっと人差し指を唇に当てて、内緒のポーズをする猫瞳。
「とにかく、黒猫の罠を探せば良いって話だ」
同タイトルの本を模したレバーを引くと下の階段が現れるらしい‥‥。
「黒猫黒猫‥‥・・いませんかー?」
嘘かホントかわかんないが、黒猫を怪しい雰囲気の象徴として描く文学はある。タイトルになっている場合も多い為、2人はそこから始めていた。
「えぇと、罠はミンって訳すって、こないだ見せてもらった書房の本に書いてあったから‥‥」
猫瞳が、文字を入れ替えた場合を考えて、ネの段まだ探している。しかし、整理されていない本は、それだけでカオスの状況を呈しており、中々目的のものを探せなかった。
その時である。
「みゃああ」
本棚の向こうから鳴き声がした。身軽な2人の事、さほど労せずにして、本棚の向こうへ顔を覗かせる。
「いた!」
一匹の黒猫。大きさ、普通。
「よし、猫じゃらし作戦起動! こっちおいで」
即座に自慢のハリセンを起動させる大慈。猫じゃらしがわりに、ぷらんとぶらさげ、ゆらゆらと振って見せる。
「向こう行っちゃったぞ」
が、その黒猫は、あまり興味がないらしく、すたすたと奥の方へと歩いて行ってしまった。
「もうちょっと引き出せないかなぁ。ほーらほらほら」
それでも、なおもゆらゆらさせる大慈。何とかして自分の方に関心を持たせようとするのだが、黒猫は逆に彼を誘うように、鍵尻尾をゆらゆらさせ‥‥折り重なった本の向こう側へと消えてしまった。
「とにかく追うぞ!」
「おう!」
だがきっと、その先には伝説の地下3階があるはず。そう信じていた二人は、導かれるままに、その先へと進むのだった。
「ここは‥‥」
気がつくと、周囲は打ち捨てられた備品に布カバーがかけられ、まるで神殿のようになっている。周囲には『カプロイア文庫』と書かれた本が散乱しており、その多くには、生徒の目には触れさせたくないような本や、怪しげな民俗学のタイトルが刻まれていた。
「いたぞ!」
そう言って、ハリセンの先を突きつける大慈。布の向こう側に、尻尾が見えている。
「よし、ペットショップで調達してきた、この高級マタタビで」
そう言って、パッケージに『国産』と書かれていた袋をびりっと開ける猫瞳。あたりに薬草系の香が漂う中、にゃぉぉぉぉんっと、ややくぐもった声と共に登場したのは。
「って、うわ! 大きい! アレはどう見たってロボットだなっ」
王冠を頂く猫キングさんである。ずしーんと響くそれは、実態を持っていることを意味してていた。
「あんなでかいロボット、どうやって持ち込んだってんだよ」
納得いかない猫瞳が、何とかマタタビをぶらぶらさせるが、王様猫、バカにするようにそれを尻尾で弾き飛ばすと、にゃあと一声鳴いた。とたん、二人を取り囲むように、周囲から部下猫が現れる。
「立体映像かな?」
「ちょ、これ水漏れしてるぜ!」
それだけの人数がいるとは思えない猫瞳に、大慈がちょんちょんと足元をつついた。ちょうど神殿の床に徐々に水溜りが出来つつあった。
「やばい。早く引き剥がさないと。無線、無線‥‥」
「地下で繋がるわけないだろぉ! そもそも寺田のおっちゃん、ケータイ持込みは反対派だー!」
どうして良いかわからず、そう言って後ずさりした直後だった。
「にゃあああ」
「うわ、そっちに行くなぁぁぁぁ!!」
空気を読めない王様、彼らの思惑なんざあっさり無視して、貴重書のある地下1階への階段を駆け上っていく。
「暴れるな、こら! ヒロミ、そこの檻を開けてくれ! こいつ入れるから!」
その頃、地下1階では、田中 直人(
gb2062)が自作の檻に、捕まえた猫を放り込んでいた。どうやら、寺田に気付かれなかったのは、半数はにゃん太のクローンだったかららしい。
「壊れないと良いけどな」
芹沢ヒロミ(
gb2089)がそう言って、猫を入れていく。と、そこへ階下から響いてくる足音。
「待ってぇぇぇぇ!」
「え、うわぁぁぁぁっ」
質量を伴った残像と言うわけではないが、埃と霧を引きずりながら、王様が部下と猫猫大行進しているところだった。
「そいつがボスだ! 捕まえないと、本が水浸しになる!」
「何ぃ!?」
大慈の台詞に、知り合いだと言うヒロミが顔色を変える。何食わぬ顔して横から寺田が「水浸しにしたら、同じ目にあわせてあげます」とか言ったのも、拍車をかけた。
「それは勘弁だ。殴り合いで俺の勝てると思うなよ!!」
そう叫ぶや否や、王様に飛びかかるヒロミ。その足元が床を蹴り、上から力任せに殴りつける。
「早い!?」
「く。お前は他の奴を呼んで来い!」
にゃんこ特有の体の柔らかさで、それをまるでこんにゃくが揺れるかのように避けた王様を見て、直人が大慈にそう言った。知らされた朋ちゃん、慌てて刀持ってかけつける。
「今日はあいつがいないから、1人で何とかしなくちゃ‥‥」
そう言って、狙いを定める彼女。胸に大事な人を思い浮かべながら。柔道の大会では、そこそこの実績を収めているが、動き回る王様と部下に、どう仕掛けて良いか迷っている。貴重な本を破壊するわけにもいかず、彼女は手を出しあぐねていた。
「ああもうっ。動くから狙いが定まらないっ」
同じ様に隼瀬も、王様を取り囲むものの、手を出しあぐねていた。
「猫さん逃げないでー。愛紗だって、お仕置きはやだもん〜」
さらに、愛紗が素早く逃げ道をふさぐ。残りの3人‥‥猫瞳と大慈、錬も加わり、王様達を囲い込んでいた。
「外にリンドヴルム待機させてある! そっちへ!」
直人が1階の外を指し示した。猫の一撃をレイシールドで防ぎつつ、階段の方を目指す。徐々に移動する王様包囲網。
「ふにゃあああ」
その出口、ちょうどカウンターの辺りで、王様、包囲網を突破しようとジャンプ。その動きは明らかに猫ではなく、キメラの判断力だった。
「させるかよ!」
その後ろには、開け放たれた窓。その下に叩き込めば、リンドヴルムで対応できる。
「この一発で…決める!!」
本棚の上に上がりこんだ王様が、窓へと突っ込んだ。そこに、ヒロミは逆側から出窓を踏み台にして、必殺の拳を繰り出す。
「ヴニャアアアアア!!」
がつっと交錯した腕は、王様を地面へと叩きつけ、ようやく大人しくさせることに成功するのだった。