●リプレイ本文
カンパネラ学園は意外と広い。必要な情報は准将から、物品地図その他は管理部から調達し、レティシア(
gb8630)の案で、2班に分かれて捜索する事になった。
「ここが地下封鎖部分かぁ。確かに、ちょっと雑然としてるねー」
B班が向ったのは、地下の封鎖部分だ。見回して、そう言う咲坂 八葉(
gb4740)。あちこちに試作品だか、ガラクタだかが山積し、それが遥か彼方まで延々と広がっているような場所だ。
「これでも、掃除してたから、多少は片付いているんじゃないかな?‥‥綺羅もこの前、片付けは手伝ったりしたし」
高村・綺羅(
ga2052)が、その一部を指し示した。見れば、妙に片付いているエリアがそこかしこにあり、既に工事用品が搬入されており、よく見れば工事中のマークもぺったし貼り付けられていた。
「廃棄された植物など集めたりしてると思うから、その辺あたりかな?」
彼女が案内した場所には、引っこ抜かれた雑草が山積みになっている。隠れ場所になりそうな光景に、綺羅は足を踏み入れる。
「ここに天然素材が入ったら、確かに分からないな。おわぁっ」
「みゃーみゃー」
隠れていた猫らしき生き物が驚いて飛び出してきた。いきなりなので思わずそう言ってしまったが、見る限りどこからか紛れ込んだ猫のようだ。
「体力には自信ありますけど‥‥捕まえるのは‥‥。あ、いえ、やらないとダメなのはわかってますよ?」
そんな猫さん達を、おっかなびっくり避けるナンナ・オンスロート(
gb5838)。足元を駆け抜けて行くにゃんこさん達は、そっと触らないと壊れてしまいそうだが、最近それが出来てない。
「人工素材が少ないようにしとけばいいだろ。さて、どこから手をつけるかな」
鳩を傷つけないよう、綺羅の衣装は綿製のもので統一されている。靴だけはどうしようもないので、運動靴なのだが。
「とりあえず布の切れッ端を持ってきたけど‥‥。ああそこのにゃんこ! それはお前の餌じゃないよ〜」
八葉が罠や誘導の為に、家庭科室から調達してきたらしい面の布切れや、お肉のきれっぱしなんかを見せる。が、そこに何故か先ほどの猫ががじがじとアタック開始している。よく見りゃ、尻尾が金属製だ。
「だから、出られちゃ困るんですってば。えい」
試作品と分かれば容赦のないナンナさん。レーザーナイフで真っ二つである。ばじゅっと鉄くずになってしまう。
「相変わらず力押しだなぁ」
「言わないで下さい。最近ずっとそうなんです」
八葉に突っ込まれ、肩を落とすナンナさん。顔を引きつらせながらも、残ったケージに布をかぶせたりしておくのでした。
「しかし、これだけの広さだと、罠仕掛け難いぜ」
とりあえず、コンパクトタイプのテントを張ってみるヴィン。中に餌を放り込んでいる。入り口は紐で開け閉め出来る用になっている。が、鳩がかかるかどうかは、わからなかった。
「罠だけやってみるか? かかるとは思えないけど」
そう言って、材料を出してくる綺羅。絹の糸に天然木の棒、藁の籠に大豆。見事なまでに鳩の罠セットである。「お願いします」とナンナが言ってきたので、籠を棒で支え、根元に糸を取り付ける。
「あっちの方が鳩が来易いと思う」
「さてと鳩ちゃん、ご飯の時間ですよー」
見れば、ヴィンフリート(
gb7398)も同じ様に罠を仕掛けている。こっちは魚の切り身だった。
「後はかかるのを待つだけ、だね」
八葉がそう言って、少し離れた場所まで下がる。双眼鏡を片手に様子を逐一報告しようと覗き込む中、後ろでみゃーと鳴く声。
「ほーらほらほらほら」
振り返れば、綺羅がその辺のにゃんことじゃれている。赤髪の戦闘機械と称される彼女だったが、何故かとても楽しそうに、落ちていた猫じゃらしを振っていた。
「あ、鳩みっけ!」
ばさばさ、がさり。鳩が舞い降りる。見れば、餌の方にちょこちょこと歩いてきていた。
八葉が合図する。しかし、すぐには向わず、紐を握り締めたまま、確実に籠の下まで来るよう、タイミングを計っている。
「こちらでも確認しましたけど‥‥」
一方のナンナも、反対側から鳩を見つけていた。が、彼女は逆に、どんどん籠から後ろに下がって行く。
「ぽっぽー」
「あ、ナンナさんの方にっ」
八葉がじりじりと距離を詰めるが、鳩はどういうわけか、ナンナさんの方にちょこちょこと歩いて行く。
「ここで私が脅かしてしまったら‥‥大事な情報がデリートされて‥‥!」
捕まえたいのは山々だが、今のおててにはレーザーナイフ。そんなモン振りかざしたら、逃げ出すどころの騒ぎじゃすまないのを、わかっているようだ。
「は‥‥早く皆を呼ばないと‥‥」
だから、ナンナ・鳩・八葉の順番で、じりじりとトラップゾーンから離れて行っても、自分でやれと言うツッコミは勘弁していただきたい。
「鳩さん鳩さん、いい子だからちょ〜っと大人しくしてくれない〜?」
八葉がそう言うた、言葉が通じるなら苦労はしていない。当の鳩は、綺羅が転がしていた大豆をくるぽー言いながらつついている。それを見て、ナンナは自分も豆の袋を取り出す。
「こ、これで怖くないですよね? 豆持ってきましたよー」
安心させて、手なずけようと、豆を投げるナンナ。八葉がやっぱり豆を片手に「ほらほら、こっちこっち」とバラまくが、まったく引っかからない。それすらも勢い余って、明後日の方向へ。
「くるっぽー」
ぱたぱたと、追いかけて飛んでく鳩。
「わぁっ。飛んじゃったよー!」
「そりゃあ、相手は飛ぶものだしっ」
綺羅が慌てて覚醒し、瞬天速で追いかける。八葉も迅雷を取り出して追撃する。
「逃げたってムダだよ!こちとらすでに先手打ってるんだから!」
が、一瞬で迫られて驚いたのか、とたんに警戒モードになってしまった。綺羅がおててを伸ばし、八葉が回りこむが、鳩はきしゃあと叫びながら、上空へ。
「ぐはっ! 糞の爆撃食らった」
ヴィンが思いっきり糞の直撃を食らい。あぐあぐぺっぺと呻いている。その間に、鳩は地上へ繋がる排気口の上。
「すぐA班に連絡をっ。そう遠くへはいけない筈だし」
ナンナが出口をふさいでいるので、行き先は本校舎の辺りだと察しが着く。慌てて連絡する八葉だった。
「しかし、天然素材しか嫌だなんて‥‥本当に贅沢な鳩だな。本当に贅沢な鳩だな」
大事な事らしく、2回も繰り返す瀬上 結月(
gb8413)。その頃、地上から捜索を開始していたA班は、管理部の事務所にいた。
「これ、つまらないものですが‥‥皆さんでどうぞ」
購買部で売ってたチョコレート菓子の赤い箱を差し出す結月。それには『改造申請書』と油性ペンで書いてある。一瞥した担当の生徒は「ああ、准将から連絡は着てるよ。そこに一式揃えてある」と、山の様に詰まれた箱を指し示す。持って行った先は、キメラ研究棟だ。
「って、一体何をするつもりだ?」
「このままだとただの箱だ。軽く改造させて貰う。鳩がターゲットの前で暴れられても困るね」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)が覗き込むと、結月は中にえさ箱や隠れられる場所を作り、完全な鳩用ケージにしてしまう。生き物は大切にと言ったところだ。
「よし、これで良いだろう。すまないが、鳩を見つけても近づかないように頼むぜ」
一方、ホアキンは侵入経路をテープで目張りして封鎖していた。B班とは逆に、地上部分から捜索を開始する。一つ一つ確かめて行くホアキンだが、中々お目当ての鳩には行き着かない。逆に、ここでは書けないが、とってもいやんな感じのサンプルを多数見てしまい、げんなりしてしまう。
と、そこへ。
「いっきまぁーす!」
リティシア、研究所で一番デンジャラスと言われている、サンプル保管庫へ特攻する。‥‥AUKVで。しかも、折り悪く、換気口から締め出されちゃった例の鳩がそこに!
「わぁぁぁ。鳩さんこっち来ちゃ駄目ぇー」
追い出す格好となったリティシア、慌ててリンドブルムを停める。が、鳩さんは警戒モードになったまま、リティシアの頭上に。パニくった彼女、思わず持っていた小銃をぶっ放してしまう。
「きしゃぁぁぁ!」
「ふみゃあああ」
おまけに、騒ぎを聞きつけてか、それとも締め出しの影響を食らったのか、青い猫型試作機が、何やら茶色い円盤を片手に、リティシアへと迫る。
「きゃ〜〜ちょっとやめて〜」
「リティ、こっちだ!」
その手を引っ張ったのはホアキンだった。そのまま感知距離外へと引っ張り、部屋の出入り口をパタンと閉める。
「う〜‥‥ひどい目にあいました‥‥ぐすん」
リンド中におきっぱなしである。後で取りに入れるのだが、ちょっとへこんだ表情の彼女。
「これで奴は袋の鼠‥‥いや、鳩だな」
「‥‥あの、鳩さんいませんよ?」
後は、取り押さえるだけ。と思ったホアキンだったが、恐る恐ると言った調子でマルセル・ライスター(
gb4909)に言われ、覗き穴から見てみると、影も形もない。「え」と慌てて中に入れば、テープががじがじとかじられて、穴が開いている。
「この下、演習用の倉庫だから、きっと中に入り込んじゃったんだね」
「感心してる場合じゃないだろぉぉぉ」
人がせっかく苦労して塞いだのに〜。と悔しがるホアキンの横で、のんびりとそう言うマルセル。と、結月が作ったばかりの箱を取り出す。
「落ち着け。そう言う時の為にこいつがあるんだ」
「そうですよ。誰だって一人じゃ寂しいですもの。鳩さん。ちょっとお手伝いしてくださいね」」
内装の巣は、細い竹細工になっていた。既に、普通の鳩が1羽、えさ箱に入った粟玉をつついている。どう見ても捕獲用の罠と言うより、ただの鳥かごだ。
「はいはい、豆はたくさんありますから、喧嘩しないでね」
鳩小屋になってしまったそこで、マルセルはぽわんぽわんと天然発言をしながら、鳩の世話を始めた。頭に花の割いているような気がしたが、楽しそうに鳩の相手をしている。先ほどまで、鳩に驚いてホアキンの後ろに隠れていたとは思えない。
「扱いは任せた方が良さそうだな。で、これどこにセッティングする?」
「排気ダクトが通ってるのは、この下だ。そこにセットするのが正解だろう」
ホアキンにそう答え、結月は地下の演習場の自然の多い場所を、トラップゾーンんに指定するのだった。
カメラは、再びB班に移る。場所は、連絡を受けた演習場だった。
「さすがに、ここは散って探すしかないだろうなー」
広い場所だが、大体の目星は付く。AUKVで暴れることを前提とした場所なので、自然物は限られているだろう。そこを探せば良い話だ。綺羅はその目星をつけた場所を、以前演習で使った人工川エリアだと推測していた。
「こう言う時の為のAUKVですから。まぁ演習だと思えば、ちょうどいいんじゃないかしら」
ナンナがAUKVを起動させる。と、そこへ八葉から通信が入り『罠は人工自然の辺りと、カンパネラの湯に設置しといたよん』と、該当ポイントが地図に示された。後は、複数あるそのエリアを回るだけである。
「これでよし。うーん、少し多すぎたかな」
一方、そうして捜索を続ける間に、A班も演習場へとやってきていた。鳥籠の蓋を開け、棒を引っ掛け、ひもを取り付ける。そして、その周囲に結月は豆をばら撒きまくっていた。おかげで、周囲が豆だらけになってしまう。
「魚の残りは少ないからな。フェイクの鳩に食べ物持っていかれたら、洒落にならん」
生活に苦労してきたせいか、生魚みたいな人間様の食べ物をくれてやるなど、言語道断と言うわけだろう。
『こちらB班。そっちに移動した。場所はだいたい湯の辺りだ』
そこへ、綺羅から連絡が入る。どうやら、近づいているようだ。周囲を見回すと、カンパネラの湯がある辺りで、バイク音にまざって鳩の鳴き声。
「お、どうやら近づいているようだな。んじゃ、誘導しますかね」
ホアキンが、魚でそこから籠の周囲に向うよう、道筋めいた巻き方をしようとする。が、それは結月が止めた。
「まて、魚は勿体無い。こっちを使え」
本音はそこらしい。ホアキンとしてはどっちでも良いので、豆で綺麗に誘導路を作っていた。
「ぽっぽさん、お願いしますね」
一方で、マルセルは生身の鳩をなでている。クルル‥‥と鳴いていると、程なくして、ぱたぱたと羽音が聞こえてきた。見れば、麗のメカ鳩だ。
「怖くないよ〜、おいで〜、よしよし」
リティシア、今度はちゃんと豆で誘き寄せようとする。しかし、鳩は警戒しているのか、中々こない。
(こうなったら‥‥こうするしか!)
ぐっと拳を握り締めた彼女の呼吸が、すうっと整えられた。
「らら〜ら♪ らら〜♪」
お歌で誘き寄せようと言う算段の様である。が、相手は鳩。いくら歌が上手くても、そうそう寄って来るモンではない。
「あ、猫が!」
「駄目です。猫さんはお魚を食べるもので、鳩さんを食べては駄目なのですっ」
しかも、何故かそこに、青い猫型試作機まで。マルセルが慌ててリティシアと鳩をかばうように、猫の前に立ちふさがる。その間に、回れ右した鳩さんは、リティシアの頭を飛び越えて、安全そうな場所‥‥すなわち、箱の中へとダイビング。
「ゆっきー。そぉっと。そぉっと」
合流したB班の八葉が、親しい人につける愛称で、結月にそう言っている。うなづく結月、紐を握り締めたまま、様子を見ていた。
「くる‥‥ぽ?」
しばらく周囲を見回していたメカ鳩だが、同居の鳩が大人しくしているのを見て、自分も粟玉をついばみ始める。大丈夫、と判断した結月は、音の出る紐は止め、指先でそっと扉を閉じるのだった。
鳩を確保した彼らが向ったのは、寺田智之(gz0131)の所だ。ホアキンの依頼で、コードをたくさん取り付けた鳩を検査していた寺田が、驚くべき事を言う。
「これ‥‥G4弾頭の基礎データですね」
が、マルセルにとっては、そんな事には関心ないようで、おずおずと口を開いた。
「あのぅ、寺田先生‥‥。その、データ抜いて金庫機能切ったら、いただいても構いませんか?」
どうやら、気に入ったらしい。寺田先生、しばらく考えていたが、いつもの表情のまま、やおら一枚のIDカードを手渡した。
「普段は研究所預かりですけどね」
その言葉に喜ぶ彼。渡された管理用IDカードには、メカバト担当として、自分の名前がしっかりはっきりと記されていたからである。