●リプレイ本文
現地には、軽トラックを借りて向かった。寺田に貰った地図にしたがうと、程なくして、小さな漁港の表記がある。人の気配はまったくなく、放置されているようだった。そこに、見覚えのある船が止まっている。脱出に使う船だ。魔神・瑛(
ga8407)とユーリヴェルトライゼン(
ga8751)、ハミル・ジャウザール(
gb4773)が様子を見に行く事になった。周囲は熊谷真帆(
ga3826)が弓で警戒中だ。
「俺は元整備工だからな。機械やカラクリにはちいと詳しいぜ」
妙な仕掛けやトラップがあれば、すぐに分かる。そう魔神は自負しているようだ。と、ユーリ・はその彼に判断を任せ、自分も船の状態をチェックする事にした。
「なら、船のチェックをお願いする。反対側を見てくるから」
手早く行わなければならないので、作業は分担だ。極力見つからないよう、ひっそりと移動していくと、船の向こう側で牙を向き威嚇するキメラと、その手前で大きなペンチを持っている作業服姿の若い衆が2人いる。
「排除しないと作業出来ないぞ」
「わかってるさ。とにかくキメラだけはやっておかないと」
爆発物がないかどうか、船を調べたくても、キメラが邪魔だ。素早く近付き、その甲殻を切りつける。瞬く間に見張りを倒し終えた傭兵達に、作業員達は驚いて固まっている。が、ざりっと足音を立てて近付くと、堰を切ったように崩れ落ちた。
「大丈夫か? 安心しろ。UPCの傭兵だ」
ユーリがそう言って手を差し出す。と、もう一人を立ち上がらせていた魔神も、相手がまっとうな人間と見て、こう尋ねていた。
「何があったんだ? できれば話を聞かせて欲しい」
ほっとした表情で顔を見合わせる2人。その2人の話では、バグア達は地下迷宮の奥に用があるらしく、作業船のパーツを流用しようとしていたらしい。
「他の人質が、どこにいるかわかるか?」
魔神が残りの面々の捜索場所を特定しようとしている。彼らが確保されていたのは、倉庫の1つで、そこから地下へ通路が延びていたそうだ。何人もの仲間が、火薬を運ぶ作業に従事させられているとの事。
「上出来だ。これは脱出の手段に使うので、手伝ってくれるか?」
持ち込んだ工具の他、その場にあった工具を使い、バグア製品の撤去を開始するユーリ。救助された御仁達も、直す方なら問題ないので、積極的に手伝ってくれている。
「さっさとすませよう。現場監督が来る前にな」
見張りが倒されていた事で、いぶかしんだ管理のバグアがくる可能性もある。その前に修理と除去を済ませなければならない。作業を続ける魔神に、ユーリは、船の周囲の警戒を怠らない。
「エンジンは手をつけてないし、キールも大丈夫そうだな。これなら、何とかなりそうだ」
安全が確認されたのは、それから程なくしての事だ。エンジンをかけるのはまだ先だが、動かせる自信はあった。
「行きますか」
「ああ。俺はティグレスを探しに行く。後は任せた」
ハミルにそう答えるユーリ。救出班は二手に分かれる作戦だ。人質を助けに行く他の傭兵達とは分かれ、ユーリはKVを隠しに行っているはずの嘉雅土(
gb2174)と合流しに向うのだった。
人質救出班は、トラックを隠し、街中へこっそりと近付いていた。計画はすでに頭に入っている。麻宮 光(
ga9696)がKVを待機させている頃、向ったのは倉庫が並ぶ一角だ。
「地下ルートは、こっちですね」
ハミルが聞きだした人質の居場所を伝える。人数はさほど多くないが、やはりそこには数多くの蜂キメラが飛び交っているようだ。
「気をつけてください。この先に居ます」
まだ気付かれては居ない。そう指摘する真帆。見上げた空には、見覚えのある機体と、白い敵。
「HWやタロスもいる‥‥。この先で間違いないかな」
強化されている戦力は、重要なものが隠されている証だろう。そう判断した真帆は、さっさと通り抜けようとする。しかし、その進路上には、蜂型キメラの姿があった。船に居たキメラより明らかに格上と判断したハミルは、自身の練力を注ぎ込む。
「働き蜂か‥‥。見つかる前に速攻撃破だ」
迅雷の力が発動する。あっという間に一匹が食われた。続く真帆が持ってきたマシンを見て、魔神が止めに入る。
「スパークマシンは控えておけ。物音がするとまずい」
慌てていないのは、持ち合わせた職人気質の表れだろうか。不満そうに口を尖らす真帆。その間に、蜂型キメラが様子を見に寄ってきていた。
「流石に出てきちゃいましたね‥‥」
死骸を引っ張り込んだハミルが悔しそうに武器を握り締める。
「そんなの想定済でしょうよ」
真帆が長弓へと持ち替えた刹那、その蜂達の動きが変わる。まるで波が割れるかのように、姿を見せたのは、報告書にあった制服の御仁達だ。
「あなたが頭目ね!」
こいつを倒せば、人質の救助は楽になる。そう思い、矢の切っ先をそいつに合わせる。班長と思われるのは、まだ真帆とそう変わらないか、少ししたくらいの年頃の少年だった。取り巻きと思しき周囲には、同じ年頃の少年少女。クスクスと含み笑いしている。
「ごちゃごちゃ言ってないで、人質を解放しなさぁいっ! 風紀委員の名において、悪い子は成敗ですっ!」
スパークマシンが発動する。ばりばりと稲光が少年達に進んだ。だがそれは直前ではじかれ、彼らは顔色ひとつ変えない。逆に、真帆を捕らえようと向ってくる。
「出来るかなっ」
「やって見せます!」
他の2人がいる方向とは反対側に走り出す真帆。弓に持ち替える為、建物の影に隠れる。迂回して、体制を整える間、残された魔神とハミルは、倉庫へと向っていた。
「やれやれ、速やかにと言うわけにはいかないようだな」
「仕方がないですよ。こっちだと思います」
真帆が囮の役目を果たしている間に、静かに潜入する彼ら。立ちふさがる見張り蜂は、魔神が締め上げ、ハミルがとどめをさしていた。
「これでどうですっ!」
数分後、めきょりと盛り上がる乙女の筋肉。豪破斬を食らわせようとする真帆に、班長の少年が、何やら合図をしていた。
「きゃあああっ」
後ろから、キメラが群がっている。ざくりと血の花が咲いた。力押しの結果、と言ったところか。だがその刹那、魔神が援護に訪れる。
「熊谷っ。こっちだ!」
船へと誘導するつもりだろう。キメラの相手はここまでだ。銃を乱射し、攻撃を集中させて、突破口を開く真帆。彼女が船にたどり着いたのは、それから程なくしての事だった。
その頃、ティグレス救出班のユーリは、KVを隠し終わった嘉雅土と共に、ティグレスが囚われているであろう別な倉庫へ向っていた。
「少し確認してみるか‥‥」
探査の目をフル稼働させたユーリには、車の代わりと言わんばかりに走り回る蜂キメラが数多く映っていた。倉庫はいくつもあるが、よりキメラが多いほうに、重要なものがあるだろうと、ユーリが、見張りの立っているあたりを覗き込む。数多くのキメラ達の他、入り口にはHWの姿もあった。おまけに、HWを指揮しているのはタロスだ。しかも、ユーリの見ている中、ハーモニウムの制服を着た少年達が倉庫へ入って行った。
時間を見れば、既に人質救出班が倉庫に向った頃だろう。しかし、表面にそれらしきものはない。ユーリは足元に目を落とす。
「地下通路かもしれない。もう少し情報が必要だ」
「わかった。奥の手を使おう」
頷いた嘉雅土の手にはペイント弾。どうやら目潰しに使うつもりのようだ。
「合図したら仕掛けるぞ」
何をやるかわかったユーリは、地下通路の入り口と思しき倉庫で、見張り作業を行っていた一人に目をつけた。作業服姿の、いかにも元・不良生徒と言った体裁。おそらく洗脳されているであろう御仁に、2人は何も言わずに背中へ忍び寄る。
「少し寝ててくれっ」
ペイント弾がべしゃりとその顔面を被った。直後、ユーリの拳がぶっ飛んで行く。声も上げずに崩れ落ちる見張り。その上着からもぞりと這い出したキメラを、嘉雅土のイアリスが切り潰す。ややあって、目を回した見張りが息を吹き返すと、嘉雅土が首元を掴み、人によっては畏怖を感じさせる赤い瞳でもって、その御仁を睨みつける。
「ハーモニウムの方が多いのは、どこの通路だ?」
人質のいる場所や、ティグレスの捕獲されている場所。そして装備等。洗脳の解けた御仁は、最初口をつぐんでいたが、ややあってティグレスらしき少年が、連れて行かれた事を吐露する。
「じゃ、もう少し眠っててくれよ」
その後、再び昏倒させるユーリ。すぐ側の建物へ放り込み、その場所へと向う。ジャミングが酷いのは、重要なモノが隠されている証だろう。出来るだけ抜き足差し足忍び足で、物陰に隠れながら、嘉雅土とユーリは『作業場』と張り紙のされた先へと急いだ。
「向かう方向はこっちであっているようだが‥‥。人はいないな」
ただ、倉庫の中はがらんとしていた。作業は地下で行われているのか、上には蜂キメラしか居ない。倉庫の機能はそのまま使われているようで、ベルトコンベアが不気味に稼動している。その先に、目指す目的地があった。なぜならそこに、ティグレスのものと思しきAUKVがあったから。
「強引に向うしかなさそうだ」
「仕方ありませんね。すでに船はありますし」
隠れている場所から、その階段までには、キメラがいる。仕方なく、そのキメラに武器を向ける2人。少してこずったが、何とか倒す事が出来た。かんかんと金属製の階段を下りた先。そこにいたのは。
「あーあ、もう来ちゃったよ。お楽しみはこれからなのに」
ハーモニウムの制服を着た見覚えのある顔。
「ゾディアックだと‥‥」
ユーリの背中に戦慄が走る。何をされたのか、両腕を固定され、血まみれになっているティグレスの前に、甲斐蓮斗がいた。
「まぁいいや。データは取ったから。でも、返して上げるとは言えないなぁ」
「それはこっちもだっ」
刹那、嘉雅土の手から閃光手榴弾が飛ぶ。竜の翼で距離を詰めた彼は、続く咆哮の力を使い、拘束していたものを吹き飛ばした。
が、その直後。彼らの周囲で紅蓮の炎が吹きあがる。
「ばっかじゃない? 閃光弾つったって火薬の塊だよ。引火するに決まってるじゃん」
顔色を変えないレン。その炎で傷つくのは、人間達だけだと知っている顔だった。
「だが、ティグは返して貰うぞっ」
しかし爆炎の中、嘉雅土はティグレスに駆け寄っていた。AUKVのパワーで鎖をたたっ切り、肩を貸す.
「戦力を期待してたんだが、戦えそうか?」
「銃ぐらいは撃てる」
減らず口は健在だ。生きている事を確かめ、手持ちのナイフと銃を渡す嘉雅土
「今のうちに逃げるぞ。外のタロスを海にぶち込んでやらないとな」
頷いた嘉雅土は、ユーリを背に乗せ、指定された道を引き返すのだった。
その頃、麻宮は他の面々とは離れ、両方の侵入した地点の間にある水産加工場に、自身の阿修羅を隠していた。
「さて‥‥うまく隠れられる場所があればいいんだがな‥‥」
良い場所を見つけ、阿修羅を人型のまま座らせる。周囲には破壊された倉庫もあり、瓦礫の山は良い隠れ蓑になってくれた。
「こちらハミル。人質、ティグとも確保。対応お願いします」
待機しているとしばらくして、ハミルから連絡があった。何とか助け出す事には成功したらしい。早速行動を開始する麻宮。
「もう少しだ。一気に突っ切るぞ」
「待ちなよー。あーあ、そんなに急いじゃって」
ダッシュで港に向うユーリ達の後ろには、ハーモニウムの制服を着た少年が、生体バイクに跨り、追い掛け回している。楽しそうにそう話す少年達の後ろには、無数の蜂キメラ。
「もう交戦しているようだな。ならば、陽動に動いた方が良さそうだ」
ドンパチやらかしているのは、ティグ救出反ばかりではない。人質救出班の方がより大変だった。
「港まで走れ。ユーリさん、処理は頼むっ」
嘉雅土がそう言う中、ユーリがパイドロスの上から、弓を撃っていた。当たらないが、牽制にはなりそうだ。その牽制で退けたキメラに、真帆が新たな矢をぶち込んでいる。どうやら、そこを切り崩せば脱出できそうだった。
「さて、おおっぴらに行くとしようか」
疾風脚を使う麻宮。持っていた月詠を抜き、ハーモニウム達の前に立ちふさがる。ききっとバイクを止めた先にいた少年は、バカにしたようにこう言った。
「やだなぁ、雑魚にいきり立っちゃって。そんなに相手したいの?」
「お前らの方が雑魚だろ」
刹那、左手に持ったラグエルが放たれる。瞬天速で瓦礫の陰に潜み、そのまま牽制弾を放って相手の出方を待っていた所。
「さぁどうかな。でも僕、陽動に引っかかるほど、バカじゃないんだよね」
少年達、そのままティグレス達の方向へ向ってしまう。どうやら、見抜かれているようだ。しかし、やる事は同じなので、そのまま攻撃を続ける麻宮。
「今のうちに‥‥」
嘉雅土が隠しておいたKVの元に走りこむ。幻霧と煙幕さえあれば。だがその刹那、相手も大型を取り出してきた。
「逃がさないよ」
レンの声がした。どうやら、タロスを持ち出してきたようだ。しかも、KVを相手にするとわかっていた口ぶりだ。
「早く! 出発準備整いました!」
「ここは押さえておく。走れっ」
真帆が矢を放つ。ティグレスも怪我を押して銃を使い、寄ってきた蜂キメラにナイフで止めを刺している。性格上、真っ先に突っ込んで行っているようだが、死ぬつもりはなさそうだ。
「よし、行こうか相棒。俺達の仕事の時間だ」
その間に、麻宮は自身の阿修羅に舞い戻り、起動させる。そう言って、遠距離から攻撃を仕掛け、距離を詰めてくる機体に、レンの声はこう言った。
『仕事ねぇ。息詰まっちゃうよ? そんなの』
「だったらなんだ。ここを退かせる。それが俺の仕事だ」
そのまま盾になる彼、足元ではいまだ交戦中なそこへ、支援の弾丸が降り注ぐ。自分の行動で退路をふさがぬよう気をつけながらだが、駆け抜けた他の面々には、その心配はなさそうだ。
「皆、今のうち逃げろっ」
そこへ、ようやくKVが間に合った嘉雅土が煙幕を放った。黒い霧に包まれるのを隠れ蓑に、
傭兵達は何とか船へとたどり着き、脱出するのだった。
「やれやれだぜ。無茶はするもんじゃないだろ」
その船を操作する魔神が愚痴ったのも、ある意味仕方のない強行軍だろう。強制的に休まされているティグはそれを聞いて、顔を向けないまま、こう言った。
「‥‥ありがとう」
礼儀くらいは、心得ているらしい。