●リプレイ本文
まずは情報収集となった。
「電話はこれでいいな。リンクも正常なようだ」
UNKNOWN(
ga4276)こと不明が、終夜・無月(
ga3084)とユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)の電話番号をメモリーに入れ、無月の持つ端末『月読』にリンクさせている。オンラインと表示されたそれを確かめると、無月は学園の内部へと足を向けた。
「先にちょっと調べて見たい事があるので、その間の事はお願いします」
「分かってるさ。フォローはするよ」
まだ少し辛そうだ。ので、ユーリがその後に続く。
「そうだな。こっちは知り合いに挨拶してこよう。囮くらいにはなるだろう」
一方、不明が向ったのは、学食の厨房方面だ。
「お願いします。では、行って来ますね」
それぞれの状況は、端末によって伝えられる事になる。これがバグアの支配地だったら、そんな端末なんぞデータベースにしかならないのだが、ラスホプ内では正常に稼動しているようだ。
「まずは、学園量の把握だけど‥‥。なんだかものすごくカオスになっていますね・・・・」
無月が頭を抱えるようにして、映し出された光景を見ている。職員室から図書館の間にある部屋や通路の把握をしたかったのだが、入り組んでいて、見えない場所も多く、まるで迷路のようだった。
「カンパネラは、建て増しとかが酷くて、気を抜くとすぐに小屋が増えるらしいよ。じーさまがそのたびに呼び出されると嘆いてた」
「寺田もその関係で呼び出されたと良いんですが。どうも違うようですね」
ユーリの弁に、無月はそのルート上の目撃情報を重ね合わせる。しかし、寺田はまるでその全てを把握しているかのように、よどみなく図書館へと向っていた。
「他に可能性はあるかな」
「色恋沙汰と言うわけではなさそうですけど‥‥これは微妙ですね。チョコは多分、同僚に配るモンだろうと言ってましたよ。ただ、住んでる場所は知らないそうです」
無月が聞き出したところによると、目撃した女子生徒の話では、確かにチョコを買ってはいたが、大きな箱菓子だったので、どこかへの手土産と言ったところさしい。決して悪い顔立ちではないので、チョコを渡した生徒は何人書いたが、本人が職員室に持ち帰った形跡はなく、家族がいると言う話は聞いていないらしい。
「カンパネラはそれで大丈夫なんだろうか‥‥」
「まぁ、ああいうのもいますからね」
まぁもっとも、職員寮の部屋すら分からない状態にも関わらず、教師不足のせいか、咎められる事はないそうだ。心配するユーリに、無月はリンク先の不明の様子を見せる。
「バニーに興味がないとは、実はこいつが寺田と‥‥」
食堂の面々に挨拶を済ませ、雑談しつつ寺田の浮いた話を聞いていたが、あまり芳しくない。その様子に不明が、疑念を口にするが、准将の方がお断りモードのようだ。
「ないない。だってこの間、ここでお茶飲みながら、バニーを誰に着せたら可愛いかで盛り上がってたし」
「ふむ。どうやら本当に命令系統の誤差だけか‥‥」
食堂の話に、そう納得する不明。おそらく着替えをもって当人を呼び出したら、面白い事になりそうだ。と。
「それにしても、そんなに寺田先生の事聞いて、どうするんです?」
「いや、ちょっと依頼をね。だから、内緒にしておいてくれないですかね」
しかし、それだけ寺田の動向を調査したら、聞かれるのも当然で。無月は、女生徒の一人に、内緒の印のように、人差し指を立てている。苦笑しつつ「あー、まぁ‥‥出来る限りはやっておきますよ」と答えてはくれたが、あまり期待は出来ないようだ。
「公的資料だと、住所は職員寮と書いてありますから、明日はそちらですね」
そう告げる無月。聞き込みは、目立たないよう素早く終了させるのが良いらしい。
翌日、5限目の終わりごろ。
「‥‥では、今日の授業はここまでです」
「聞いてはいたが、ひどいスパルタだな」
何しろ昼ご飯は終わって最初の授業である。若い学生に睡魔が訪れるのも無理はない話で。それを見越した寺田は、もうそれは口にするのもはばかられるよーなお仕置きを常備中。おかげで、授業終了時には、ほっとしたため息が、不明達の待つ教室の外まで聞こえていた。
「公式資料では、一度職員室に戻ってから、帰るそうです」
「わかった。では尾行はそこから、だな」
無月が他の教員の行動パターンから割り出した予定を告げる。答えた不明が、教室を出る寺田を追いかけるよう指示、隠密潜行を発動し、光に気をつけながら、秘密機能満載の眼鏡越しに、ある程度の距離を取って観察している。
「‥‥こちらユーリ、ターゲットは鐘を飛び立った。どうぞ」
『了解。そのまま距離を保ってくれ』
その1つ前、ちょうど中間の位置に、ユーリの姿があった。既に、胸元には銀青色の牡丹に似た花紋が浮かび上がり、覚醒しているらしい。その証拠に、グッドラックと探査の目を使っていた。
「‥‥さすがに、気づかれてはいない‥‥か?」
『気をつけて、立ち止まったよ』
口調が若干乱暴になる。しかし、不明はいっこう気にせず、そう忠告してくる。ハンズフリーの携帯で頷いたユーリは、下手に物陰に隠れては不自然かと、そのままやり過ごすように通り過ぎた。
「‥‥おや、奇遇ですね」
問題は、場所が校内なので、行きかう通行人は生徒だけ。しかも間の悪い事に、その時に限って人がいないと言う状況だ。
「そ、そうだな」
寺田がにこりともせずに挨拶してくるのをやり過ごすユーリ。そのまま通り過ぎ、最初の廊下で見えないであろう位置まで離れた。
(不自然じゃなかったかな)
少し間を起き、そっと後ろの様子を見ると、ちょうど寺田が通り過ぎた所だ。念の為、それまでのデータを無月の端末に送る。いわゆるバックアップと言う奴だが、一通り作業を終えると、再びちょうど良い距離になった。
「っと、このままじゃバレるな。変えておこう」
さすがに再び尾行を始めると、疑われるだろう。そう考えたユーリは、あらかじめ用意していた帽子を被り、上着を脱いで、再び尾行を開始したのだが。
「どこへ、行くんです?」
廊下からもとの廊下へ戻った瞬間、寺田と鉢合わせた。そう言えば、顔見知りだったっけ? と、思いはしたが、幾度か報告書に出ているので、覚えられてしまった可能性もある。ので、彼は出来るだけ平静を装いながら、兼ねて用意していた言い訳を口にする。
「ちょっと見学です。学校ってまともに通った事がなかったので」
傭兵にはよくある家庭の事情なので、寺田も疑いは持たなかったようだ。
「なら、案内しましょうか?」
「いえ、それよりも授業が分からないので、補習を‥‥」
そう申し出るユーリ。時刻は夕暮れ時なので、寺田も「急な話ですから。明日にしましょう」と言い出した。「は、はい」と申し訳なさそうにその場を離れるユーリを見て、無月は交代の時を悟る。
「ユーリはもう無理でしょうね。じゃ、次は図書館ですか‥‥」
職員室へ一度戻り、授業の教材を置いた寺田は、自分が管理している場所へと向う。月読の望遠能力で追いかければ、ちょうどユーリに補習の日時を告げているところだ。
「良い囮だと思えば良いだろう。補習と言えば図書館でもやれる話だ」
「わかった。頼むよ。次はこれを使うから」
ユーリも、今度はバックアップに回るつもりらしい。わざわざそう言って取り出したのは、野鳥撮影等に使われる、高ズーム高感度高連続撮影の、いわゆる『プロ仕様』のカメラだった。
「学校を出て行きますよ。ラスホプ本島の方です」
端末を常時起動させながら歩いている無月。行き交う生徒達や、他の関係者。学食にご飯を食べに来た一般の避難民まで、様々な人々が流れては消えて行く。気付かれ難いよう、ある程度の距離を取り、建物の陰を渡り歩きながら、寺田の映像をライブで送り続けていると。
「ふむ。左に30度傾けたまえ」
タイピンごしに不明がそう言い出した。時計になら添えた、約8時50分との方角。教室のどこからでも見える時計から、その方向を割り出した無月は、言われたとおりの方角へと向った。
「これくらいですか?」
「ああ、そこにおばちゃんが言っていたドーナツがあるのが目印だ」
見れば、どこかのお菓子研究部が、手作りドーナツを売っていた。とは言え、人数も少ない為、2つ入った袋が少し、と言った程度である。しかし、ただ同然で甘いものが食えるとあって、結構な人が並んでいた。その部活から、寺田が生徒からドーナツを受け取っている。形式どおりの返答をした彼、そのまま住宅街へと進む。
「何を聞きだしているのやら‥‥。まぁいいでしょう。これで入力は完了、と」
道々、何か聞き倒しているようなので、ユーリは、その光景を持っていたカメラへと収める。野生動物も捕らえられるそれは、要領もばっちりだ。
「どうやら、どこかの避難所に向うようですね」
「ユーリ、先回りだ。少し距離を取ってくれ。データは月読に頼む」
寺田が向っているのは、傭兵やその関係者等が住む避難民達の仮住居だ。『了解』と答えたユーリのカメラがシャッターを奏でる中、無月はその行動パターンをまとめ始める。
「えぇと、商店街でお土産らしきものを買って、おばちゃんと立ち話‥‥。なんだか誰かさんとキャラがかぶるなぁ」
『何か言ったかね?』
不明が即答したのは言うまでもない。
しかし、寺田は結局仮住居の一画にある受付に行くと、すぐまた違う場所へと向ってしまった。手元に、許可証らしきカードが揺れている。
「たぶん、どこかの避難所にいる関係者と、コンタクトを取っているようですね。プライベートな事なのでしょうが‥‥」
無月がその様子を見て、面会だと気付いた。しかし、簡素な作りの仮住居では、仲で何が行われているのか、今ひとつわかりづらい。そこで、不明がかねてより考えていた妙案を示す。
「ならば、プロジェクトTSを発動するしかなさそうだな」
「てぃーえっくす?」
ユーリが怪訝そうに聞き返すと、彼は「寺田スキャンダルだ」と正式名称を答えた。
「ああ、なるほど。まぁ双眼鏡もメモリー残量もまだ大丈夫ですから、証拠は押さえられるかな」
「上出来だ。では終夜、衣装は任せた」
納得したユーリが、カメラとメモリの状態を報告してくる。と、不明はタイピンマイクごしに、無月へと指示を飛ばした。
「‥‥わかりました。着替えてきます」
彼が、適当なトイレへ駆け込んだのは、その直後の事である。
数時間後。ラスホプの避難所で、道端にうずくまる少女の姿があった。しかも、ふらふらとよろけるようにして、寺田の前へと現れる。
「‥‥どうしました?」
「急な差し込みが‥‥。医務室はどこですか?」
相変わらず、笑っているともなんとも言えない表情で答えた寺田に、無月はうつむきながら尋ねた。重傷なのは変わらないので、寺田も放っておくわけには行かないのか、案内しようとする。そこで、不明がユーリに合図した。
「‥‥よし、今だ」
ぱしゃぱしゃぱしゃっとシャッター音が鳴る。それが一通り終わった刹那、寺田は物憂げにため息をつき、無月を片手にこう言った。
「連れて行くのは構いませんけど、こそこそしてないで、出てきて手伝ったらどうです?」
じっと投げかけられた視線。それは、ユーリのカメラの中で、ちょうど良い位置に収まっている。どうやら、バレているようだ。
「何故わかった」
「‥‥本能、とでも言っておきましょうか?」
不明が闇から抜け出るようなその姿を見せると、寺田はそう答えた。そりゃあ、あれだけ色々やらかしている間柄だと、気配にも敏感になるモンだ。
「そうか。いや別になにをしたわけではないが、飲みに行こうと思ってな。バイクを燃やしにきたんだが、トラップにはねられてしまって」
兼ねて用意した言い訳をご披露する不明さん。しかし、寺田は厳しいままだ。
「‥‥それは聞き捨てなりませんね。不法侵入者には厳しいお仕置きが必要でしょう」
「食堂を手伝いにきたついでだ。不法、じゃないぞ。それに、手引きをしたのはカラスだ」
しかも、責任はカラスに押し付けようと言う腹らしい。そんな不明の魂胆など見透かした様子で、寺田はぼそりと「‥‥器物損壊に、准将が嘆いておられましたけどね」とやり返している。
「これは、任せて逃走した方が良い、かな」
「でしょうね。折檻を受けるのは、あの人に任せておきましょう」
ユーリと無月、寺田のお怒りを受けるのは不明だけで充分と、その間に回れ右するのだった。