●リプレイ本文
今回、参加した傭兵達は、皆自分の水中機を持ち合わせていた。その為、ゴッドホープから海に入り、そこから水中経由で現場海域へ向っていた。
「上手く撃退できればいいんだけど」
KVを動かす為には、覚醒する必要がある。その為、澄野・絣(
gb3855)の口数は少ない。
「こっちも初陣だしな。新たなる俺の手足として存分に活躍してくれると良いんだがな」
コクピットの中で、パシッと拳を打ち鳴らす威龍(
ga3859)。ある依頼をきっかけに、リヴァイアサンへと乗り換えたが、果たして機体が己に馴染んでくれるか。
「うー……初めての水中戦だし、緊張するなぁ。でも、とにかく、諦めて帰って貰わないと困るよね」
依神 隼瀬(
gb2747)も、水中機を扱うのは初めてなようで、苦笑しながら、コクピットの中でこきこきと体を動かしている。
「私は今回こそ酷い目に合わないように‥‥。私に出来る事を‥‥」
絣が短くそう言った。何しろ、過去2回の水中依頼では、片腕がもげたり、装甲がボロボロになったりと、整備員泣かせな状況になっている。今度こそは、そう言った状況のないようにしたい。
「だって絣さん、ここ最近、水中戦になると、怪我ばかりして帰ってくるんだもん。アルバトロス、お願いねっ」
親友の橘川 海(
gb4179)が、そう言って心配しているのも、わかる気がする。そんな彼女達の様子を玩味していた佐渡川 歩(
gb4026)、眼鏡の表面がきらんと輝く。
「ふむ‥‥」
光の加減で、その下の表情を伺う事は出来ないが、モニターに映る姿は、何やら熟慮しているようだ。
ところが。
「あー、まぁたえっちな事かんがえてるでしょーっ」
「‥‥こほん、作戦を確認しましょう」
ツッコミを入れた海の一言に、否定はしない佐渡川。何か考えているように見えて、そうじゃないってのは、間違いないようだ。
「准将通じて廻ってきたのは、近海でのワーム16体相手の水中戦ね」
ゴールドラッシュ(
ga3170)から回ってきた地図で、状況を確認していた百地・悠季(
ga8270)がそう言っている。
「敵さん、いったいここで何してたんだろうねっ?」
「とっとと全滅させて、沈んだ財宝サルベージと洒落込むわよ」
今回はそれに加えて、何かお宝が沈んでいるんじゃないかと皮算用しているゴールド姉さん。
「何か索敵してる様だけど、どうせあたし達に都合が悪い事に決まってるから、それを妨害しない手は無いわね」
「そう言う事です。では、交戦したら、連絡を下さいね」
百地にそう答えたイーリス・立花(
gb6709)は、陽動班にそう頼んでいる。
「氷点下近い水面下戦闘か‥‥まあ、3人で行くならどこまでもよね」
「いくよ、華王」
微笑を浮かべる百地。モニタを小突いて願をかけるイーリス。それぞれの手法で、思いを繋げる傭兵達だった。
ごぽり、とKVの周囲に気泡が浮かぶ。リヴァイアサンに搭乗した4人は、該当する海域へとその機体を進めていた。水面近くに浮かぶ彼らの眼下に、ちらちらと青い姿が見え隠れする。
「いたね」
それだけのマンタワームが入れば、自然、バグアの妨害ノイズもはなはだしくなるもので、モニターは使っても無駄だろう。防水処置の施された風防越しに、目を凝らすゴールドラッシュ。
「やっぱり、何か探してやがるな」
同じく威龍も目を凝らせば、そこに数匹のマンタの姿があった。 リヴァイアサンの巨大が、水面で身をくねらせるように動く。敵をひきつける為に、まるで鯨が跳ねるように、ばしゃりと盛大な水音を立てている。KVで動きまわるには狭い入り江だ。横に並ぶと、圧迫感が生まれた。
「敵を引きつけるんですよね。皆が上手くやってくれると良いけど‥‥」
下のマンタは、こちらの事などお構いないだ。その様子に、絣が不安そうに強襲班の様子を探る。
「確かにこれじゃ、上手く頭上を取れるかわからないな」
隼瀬も、会場付近を回遊しているが、頭上が取れても、そこから上手く攻撃できるかが分からなかった。しかし、そんな2人とは対照的に、根性的には前衛の威龍が、潜行形態を取った。
「さて、敵の目を引き付ける為に精々派手に暴れてやろうじゃないか」
刹那、対潜ミサイルが、ばしゅばしゅと発射される。命中精度の高いミサイルだが、海底のマンタまでは距離がある為、当たったようには見えなかった。
「考えてばかりいても仕方ないしね、まずはぶつかってみましょ」
それでも、ゴールドラッシュはそう言って、気付いたワームに向って行く。敵の狙いが分からないため、まずはそれを確認しようと言う腹のようだ。
「空中戦の応用でいければ良いけど‥‥」
隼瀬がそう言って、まずは小手調べと言わんばかりに、水中用アサルトライフルをお見舞いする。空中戦と違うのは、潜行に水圧と言う名の抵抗感があること以外は、撃った弾の軌跡さえ同じだ。
「こっちよ」
同じく序盤はホーミングミサイルを撃ち込み、こちらの存在をアピールしている絣。上から爆撃されたような格好となったマンタのうち、4匹がこちらへ泳いできた。
「1対1に持ち込んだ方が良いっ」
威龍のガウスガンが、ばしゅっとエアをばら撒いた。分断するように打ち込み、気泡が盛大に上がるわずかな隙を使って、人型へと変形する。しかし、そこへ今度はマンタワームからの尻尾の一撃が降り注いだ。
「こんのぉっ。食らえ、レーザークロー!」
その一撃を、アクティヴアーマーを盾のように使い、岩場へ激突しつつも、なんとか耐えた威龍、お返しとばかりに、高分子レーザークローで、そのボディを貫いていた。
「空戦と違って、人型変形でも、コントロール不能にならないのはいいよなー」
その間、隼瀬はそう言いながら、やはり人型へと変形する。ベヒモスの槍斧が取り出され、水の流れを断ち切るような動きを見せる。足場となる岩は小さく頼りないが、それでも空中ではその動きすら出来ないのが、大きな違いだ。
「やらせないわよ!」
絣も、同じ様にベヒモスを振り回し、マンタワームと近接戦にもつれ込んでいる。ガトリングガンがばしゅばしゅと音を立て、周囲に泡と弾を撒き散らした。
「さて、何人向ってくるかな‥‥」
そのすぐ前にいたゴールドラッシュが、ガウスガンをばら撒いた。ばしゅばしゅと高速で撃ち出されるものの、狙いは定めていない。1匹が生贄になったが、攻撃を積極的に仕掛けてくる風情ではないようだ。
「ふむ、どうやらあたし達には構いたくないって所かしら」
「だったら、無理やりにでも向かせるまでだ!」
威龍がそう答えて、人型に変形すると、海底へ下りて行く。しかし、そこまで近づいても、マンタは相変わらず何かを探す方を優先しているようだ。
「こっちへ目を向けさせないと」
それまで、予算の都合であまり強化できなかったが故に、回避へ専念せざるを得なかった隼瀬、それでもエキドナのスイッチに手をかけた。練力残量は気になるが、使いどころはここしかない。
「‥‥発射!」
ばしゅばしゅばしゅっと魚雷が発射される。それは、螺旋の軌跡を描きながら、マンタ達に命中する。さすがにこちらを向いたマンタ、まっすぐ隼瀬に距離を詰めた。
「やらせないわよ!」
だがそこへ、アクティヴアーマーを纏い、エンヴィー・クロックを発動して、絣が間へ割り込む。どかっと強い衝撃が走り、装甲がやはりボロボロになった。また海に心配されるなぁと思ったが、それを口に出す前に、ゴールドラッシュがスクリュードライバーをマンタに食らわせる。
「ほらミサイル代も勿体無いから、さっさと沈みなさいって!」
システム・インヴィディアで強化したその一撃で、マンタが落ちる。そこへ、刺激を受けたのか、カレイの形をしたメガロワームが浮上してくる。
「もっと、もっとこっちに‥‥!」
そのカレイに、隼瀬がベヒモスを片手に突っ込んで行った。とは言え、相手は結構な巨体。1体1で相手にするには、やはり装甲がボロボロになってしまう。
「潜行形態に変えろ! 突破するぞ!」
しかし、今度は威龍のエンヴィー・クロックが発動していた。機動力の上がったその一撃で、カレイが身を翻す。その間に、残ったミサイルをありったけぶち込む威龍。開いたそこから、浮上する二機。無謀すぎるかもしれないが、攻撃的防御と言う奴だ。
「HWがこない?」
しかし、ゴールドラッシュは気付いた。いるはずのHWがかけらも姿を見せていない事に。
「裏を書かれたのかもしれないな。追撃した方が良いだろう」
威龍がそう判断し、潜行する事を告げる。強襲の声が聞こえるまでは、耐えなければ。
「2人とも、どうか無事で‥‥」
その強襲班にいる親友の事を、祈り願う絣だった。
その頃、絣の心配する親友2人は、強襲班として、潜行形態のまま現場海域へと進んでいた。海底の起伏を利用し、こっそりと進む彼らの目に、何やら捜索をしているらしきマンタとHWの姿が見える。
「陽動班は海面近くにいるようね。海、目立たないように」
パッシブソナーに映る味方が、攻撃を解したのを音声から悟る百地。と、数体のマンタが浮上していった。おかげで、その周囲には、HWとカレイしか残っていない。
「はーい。隼瀬先輩、絣さんのことよろしくねっ」
海面を見上げ、リヴァイアサンの姿を確かめる海。どの機がそうなのかは、ここからではわからない。だが、その中に確実にいる。
「イーリスさん、佐渡川君も、よろしくっ」
なら、せめてその友人達の思いに答えようと思う海、そう言って、無線機を受信状態に切り替える。
「昔の海戦は、気付かれたら負けだったそうですから」
イーリスがコクピットの中でそう答えている。そんなわけで、4人はリヴァイアサン組が上から陽動を行う中、アルバトロス三機とビーストソウルは海底を気付かれないように近付き、陽動に釣られた敵に側面から奇襲をかけるという策に乗っていた。
「上は‥‥交戦中のようですね」
反応を見ていた佐渡川がそう呟く。陽動は半分成功と言うところだろう。有人機がいるかどうかは分からないが、護衛と思しきマンタが、リヴァイアサンに引っ張られるようにして浮上し、少し離れた岩場で格闘戦に持ち込んでいる。
「絣さん、どうか無事で‥‥」
本当は駆けつけたい海。だが、そんな彼女を、百地は押し留めるように言い聞かせていた。
「大丈夫、きっとね」
皆がついているから。
「敵機、至近にて確認」
気になる海を、現実へと引き戻したのは、イーリスの警戒した音声だった。すでに、陽動班からの連絡を受け取っている。ここなら、一息で近づけそうだ。
「陽動に引っかからないのは、有人機なのかもしれません。第一目標はそいつにしましょう」
「了解。行きます!」
通信をオンにした海が、そう言って突っ込んで行った。続いてイーリスも、インベイジョンBを使い、変形して水中用HWにホールディングミサイルをぶち込む。見えたのは、彼らが手元に持っていたKVの部品だ。
「なるほど、あれが目的かしら‥‥」
見れば、戦いの残骸がいくつも散らばっている。部品回収がミッションの重要な位置をしめるのは、人類とて変わらない。
「気をつけて。カレイ、1匹しか浮上していない」
海が周囲を警戒しながらそう言った。刹那、ぶわさっと海底の砂が舞い上がる。視界が閉ざされる中、海は落ち着いて言い放った。
「下から、きます! 多対少だし、焦らず即立て直して迎撃しましょっ?」
「了解」
その言葉を受けて、佐渡川が一気に変形させる。手ごたえは、今まで使っていた機体よりも滑らかだ。
「テンタクルスと比べて機動性が上がっていますし、変形もスムーズで使いやすくなっていますね・・・」
でも、テンタクルス使ってた身としてちょっと寂しい。
「近接戦闘は任せたわ。こっちは遠距離からやりこむわよ」
「は、はいっ」
それでも、佐渡川はイーリスの指示に従い、魚雷を撃ち込み、ガウスガンをお見舞いする。彼が打ち込んだすぐ後に続くように、ガウスガンとホールディングミサイルを、HWへお見舞いするイーリス。駆けつけたHWに、百地が指示を飛ばしてきた。
「気をつけて。海、はさみうちよ!」
「わかったっ。調教師っぽいHWを叩けば、カレイがばたつくかもしれないしねっ」
後方支援機のイーリスは、囲まれた時用に、レーザークローを取り付けてはいたが、使わないに越した事はない。その為の、前衛役なのだから。
「蝶が鰈に負けるわけにはいかないっ!」
人型へと変形し、強化したレーザークローの爪を振り下ろす。狙うは調教師らしい動きのHW。相手の目的がわかっても、撤退させなければ意味がない。迷彩のない下の方から、影をめがけてざっくりと刺す。
「上手く行くと良いけどね」
刹那、百地が岩場の影からエキドナを放った。HWを撹乱すると、その間に割り込もうとしたカレイの懐に飛び込み、即座に変形する。
「貫け!」
スクリュードライバーが唸った。その後ろへと貫く形となった百地の機体。ぐりんと振り返れば、HWが海めがけて砲を発射した所だ。そんな事はさせないと、後ろからガウスガンを発射する百地。それは、海が放ったガウスガンとクロスし、HWを屠る。
「逃げてく?」
「いや、もしかしたら部品回収や上陸が目的じゃないのかもしれない。見て、あれを」
強襲が成功した形となったHWは、メガロを引き連れて、浮上して行った。イーリスが指し示した先には、マンタと交戦中の陽動班。どうやら敵は、マンタと合流して海域を離脱するつもりのようだ。
「助けに、いかなきゃ‥‥!」
海が、人型から再び戦闘機形態となって浮上する。と、その後から、同じ様に浮上する百地。
「手伝うわ。絣を、氷点下の海に放り出すわけに行かないでしょ」
「うんっ」
嬉しそうに答える海。佐渡川もイーリスも追いかけてくる。こうして、傭兵達は、なんとか水中部隊を追い払う事に成功するのだった。なお、証拠品は分別が進まなかったので、専門家にお任せする事になったそうである。ジジィが仕事増えたと嘆いていたが、気にしないで置こう。