タイトル:【2輪】沖縄ツーリングマスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/23 09:45

●オープニング本文


 事の起こりは、一本の連絡だった。
「おう、クルメタルの。ああ、例の件で承認が下りた? おま、そう言うのは早く言えよっ」
 戦闘データの比較検討と報告書を書かないとで、てんやわんやの准将が、かかってきた電話のモニターで怒鳴っている。しかし、その割には顔がとてもにやついているので、ミクは話が終わると共に、茶を差し出しながら尋ねた。
「どうしたお? 何か凄く嬉しそうだぉ」
「よろこべっ! ミク、お前もバイクに乗れる日が来たぞっ!」
 きょとんとしているミクに、ジジィはわくわくと少年に戻った表情でこう説明する。前々から要望のあった、ドラグーンじゃない奴でも乗れるバイクが、ロールアウトすると。
「へー。いつだぉ?」
「明日か明後日」
 ずいぶんと急な話である。しかし、ジジィは全く気にせず、深紅のライジャケを羽織っていた。
「っちゅうわけで、俺はクルメタルまでお迎えに行ってくる! 後は任した!」
「ああっ。まってー!」
 孫が止める間もなく、ジジィはさっさとクルメタルの工場に向けて出発してしまった。
「別にミクは自転車でも良かったんだけどなぁ。おじいちゃんが楽しそうだから、いっか」
 よくできた孫のミク、そう言うと、にっこり笑顔で関係各位に連絡を取るのだった。

 さて、その夜の事である。
「ツーリング、ツーリングっと」
 ジジィの手元には、クルメタルの工場近辺にある、グルメガイドブックが鎮座している。どうやら、慣らし運転を兼ねようと言う計画で行動するようである。しかし、わくわく気分のせいか、中々ルートが決まらない。しかし、ジジィはその地図をぱたんとタンクバックに放り込むと、どさりと横になった。
「ま、明日の朝にはクルメタルに到着か。それまでに鋭気を養っておくとするか」
 どうやら、地図を持たないツーリングをやろうと言う魂胆らしい。と、その時、ジジィの端末が鳴り響いた。相手はクルメタル社だ。
「何ぃ? 手違いで沖縄の工場跡に送ったぁ? 仕方ねェな、傭兵集めとけ。ちょっくら偵察ツーにしてくらぁ」
 いかに通常仕様のバイクとは言え、一応新品である。いきなり海っぺりは酷すぎる。慌てて傭兵達を呼び集めるジジィだった。

『ジジィのお供をして、クルメタルにバイクを受け取りに行って、沖縄で偵察ツーをしてきてください。まずは地図を作ること、なので。敵の状況は明確にしなくても構いませんが、出来るだけたくさん写真をお願いします』

 連絡を受けたミクが、小型のデジカメを用意して、大急ぎで告知をしたのは、間もなくの事である。なお、敵の状況はこの時点では全くわかっていないのだった。

●参加者一覧

空間 明衣(ga0220
27歳・♀・AA
ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA
風見斗真(gb0908
20歳・♂・AA
嵐 一人(gb1968
18歳・♂・HD
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
ストレガ(gb4457
20歳・♀・DF
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
久我 源三郎(gc0557
75歳・♂・HG

●リプレイ本文

 傭兵達が船で乗りつけた沖縄の港。そこは、中身がキメラの跳びまわる島とは言え、空と海だけは青く澄み切っていた。
「ふっふっふ‥‥! 沖縄来たねぇ。青い空に白い雲! そしてバイク! 最高じゃないか!」
 その空を写すゴーグルを、きらんと輝かせる風見トウマ(gb0908)。工場は、搬入の都合で海岸沿いにあるようだった。
「さて、ちょいと暴れさせて貰うか」
 ブレイズ・S・イーグル(ga7498)のバイクには、悪路走破用のタイヤが、既に取り付けられている。その上、その名が示す通りのペイントが施してった。
「前は悪路走破していたけど、しばらくやってないし‥‥」
 過去、放浪していた経験のある空間 明衣(ga0220)。ラスホプに来てからは、その機会もなかったので、少し心配だったらしい。サスペンションの調整を事前に行っている。
「運転しやすいほうが良いと思うが、若干締めとく。戻らんでフレーム痛めたら大問題だしな」
 そう答えるジジィことキャスター准将。一応専門家らしいので、明衣は彼に任せる事にした。
「備えあれば憂いなし…。まぁ、あまり危険なところに近寄ることもないだろうがね」
 その光景に、久我 源三郎(gc0557)が安全の為、見晴らしの良い海岸沿いのルートを進言してきたので、一行はそのまま舗装路を行く事になった。
「んと、ペースを合わせるのは、千鳥走行って奴だな」
 そう答え、だいたい中盤から後ろ程を走る事にするトウマ。周囲の警戒と、急な襲撃に備える為には、やはりツーリングの走行形式の方が良いだろうと判断したようだ。
「危なそうな場所があったら、先に行って、確かめてくるさ」
 後ろを走っている嵐 一人(gb1968)がそう答える。ツーリングには、前後に経験豊富な奴を配置するのが常なので、バイクテクに自信のある彼がついたようだ。
「引退してからはこういうことをすることは無いかと思ったが‥‥人生どう転ぶかわからぬものだな」
 トウマと一人に挟まれる用にして、源三郎。それと同じ状況は、前のほうでも起きていた。
「もーっ、すぐに飛ばそーとするんだからっ」
 スピードメーターがぐんぐん上がっているのは、国内ライセンスを持っている月城 紗夜(gb6417)だ。すぐ後ろにナビゲート気味についた橘川 海(gb4179)が、ぷりぷりと頬を膨らましている。何もしなくても、天性の直感と幸運で、荒れた路面もなんのそのだが、流石に早過ぎるのは勘弁して欲しいそうだ。
「ゆっくりになるのは承知の上さ。けどこういうのは精度が勝負だしね。確実にやらないと」
 トウマがフォローする様に、そう言ってきた。流れる風と景色は気分が良いが、かと言ってメットが飛ばされるほど早いと、その景色を楽しむ事も出来なくなってしまう。
「写真撮影だってやんなきゃいけないんだから」
 彼の前には、渡されたデジカメを落ちないように固定した明衣の姿がある。そう言って、撮影した場所を、地図にマーキングしている彼女。色々楽しむと言うのは、ジジィとしても悪い気はしないらしく、「ったりぃなぁ」とか何とか言いながらも、スピードを緩めてくれた。
「‥‥陣地構築をすることは無いだろうが‥‥まぁ、適当に書くとしようか」
 同じ様に写真撮影を行っているのは、源三郎も同じだ。こちらは、大きな陥没や岩の転がる場所を中心に、カメラに収めているようだ。元軍人な経歴を持つ源三郎氏。見晴らしの良い場所で、東西南北全てを記録し、陣を張るなら‥‥と仮定した状態で、地図に書き込んでいた。
「パシャっとね♪ うむ、我ながらいい画が撮れてる」
 もっとも、トウマのように、青い海と自信のバイクのツーショットを撮っている輩もいるわけで。撮れた写真を確かめてみると、まるでツーリング雑誌の表紙にも見えた。
「やはりバイクはいいな」
 先頭の紗夜、ニーグリップしていた太ももをマッサージしながら、その先に続く道を確かめる。動機もそれぞれだが、彼女にとっては心地よい疲労感だ。新しいバイクに乗れないのは非常に悔しいが、任務故に仕方があるまい。
「方向は、あっているようだな」
 赤のボールペンで、新入ルートを記録する彼女。写真を撮るのは苦手だが、学生なので筆記能力は普段から練習しているようなものである。なので、トウマの写真のファイルナンバーを添付していた。
「この先が工場になるみたいですけど、大きな道路は潰されていますね。さすがに主要道路をそのままにしておくほど、敵も馬鹿じゃないと言うことでしょうか」
 やっぱり同じ様に古い地図にデータを書き加え、写真を添付していたストレガ(gb4457)がそう答える。敵の勢力は間違いなく存在しているようなので、ツーリングはその殲滅後にした方がいいかもしれない。
「ここちゃんとなってるか確認しておこうぜ」
 もっとも、トウマはその大通りから一本森の中へ入ったルートを選択している。でこぼこのダートコースは、スピードを良しとする紗夜には合わなさそうだが。
「いけるかな」
「森の方とかも見なきゃいけないが、場所が場所だから慎重に行こうぜ」
 危険を感じているのは、トウマ自身も同じだろう。スピードが落ちるのを覚悟の上で、安全策を取っている。地図は、精度の高い方が良い。
 そんなわけで一行は、警戒しながらのんびりバイクを走らせるのだった。

 森の中を慎重に進んだ先は、搬入用の小さな港になっていた。途中、小型キメラが何体か居たが、普段カンパネラに跳梁跋扈している試作品と同じレベルなので、一行はさほど労することなく、工場にたどり着いていた。
「偵察はここも‥‥かしら」
 明衣が周囲を見回してそう言った。潜伏しやすい場所は数あるが、専用の桟橋が長く伸びている。おそらく、輸送した船は、違和感を抱いたまま、輸送を完了してしまったのだろう。クレーンには動かした形跡がある。おそらく、桟橋の付け根に置かれた真新しいコンテナが、誤送されたバイクコンテナだろう。その証拠に、表面にはクルメタルの社印が大きくプリントされている。
「でも、施設本体は、もっとずっと奥まで続いていますね」
 そのコンテナの後ろ側に、タイヤの跡が続いているのを、ストレガが発見した。海が回りこんだ瞬間、大声を上げる。
「お師様ー。ここ、開いてますよ!?」
 指し示した先には、中身が見えるほど開いた大きな亀裂。
「キメラが引っ掛けたな。慌てて逃げてったのが判らぁ」
 そう断定するジジィ。切り口が巨大で鋭利な爪で引っかかれたようになっているのをみると、何が起きたかは明白だった。血は飛び散っていないから、作業員は上手く逃げおおせたのだろうか。
「もしかしたら、残ってるかも‥‥。見てきた方がいいんじゃないですか?」
「だなぁ。もし追いかけられて孤立してる奴がいたら大変だしな」
 海の申し出に、頷く一人。と、明衣が無線を取り出し、チーム分けを始める。
「私達は外で待機しているわね。何かあったら呼んでちょうだい」
 それによると、偵察班は海と一人の他、ブレイズが同行する事になった。
「大物は確認されてないって言っても単独行動は危険だからな」
 一人が気をつけるように促す。ブレイズが殿を務める中、敷地の蝶番の錆具合と路面を監察する海。その視界には、蝶番はかなり傷んでいるようだったが、路面そのものは比較的頻繁に通っているように見受けられた。
「ここの他に、バグアによる有人の施設があるのかも知れませんっ」
 そう判断する海。出来るだけ小さな声で報告してきたはずなのだが、やはり相手はキメラ。バイク特有の匂いに惹かれて来たのかもしれない。
「さて、さっさと終わらせるか‥‥」
 がさがさ、ごそごそ。下草を揺らす音は、よく見かけるビートル型キメラが、その虫にそっくりな足で踏みつける音だろう。考えてみれば、ここは沖縄。高温多湿の気候は、虫や爬虫類が巨大化するので有名だ。
「やるのか?」
「ああ。野放しにしておく必要は無い。あいつらなら、何とか片付くだろう」
 こくんと頷いた一人、迷わずAUKVを人型に変形させる。それに伴い、ブレイズもまた、目の前のキメラの頭に、自前のソニックブームをたたきつけた。向ってきたビートルキメラを、機械刀を閃かせて叩き切る一人。距離を詰めようと追いかけてきたビートルキメラを表に引きずり出すべく、海がパイドロスに跨っていた。
「この子の能力、見せてあげるっ!」
 そのまま、荒れた路面へと走り出す海。追いかけてきたビートル型がスピードを上げる中、彼女はブーストを加速させる。くねくねと曲がるオフロード面は、ともするとバランスを崩しそうになるが、彼女はこう言い切った。
「バイクでは負けませんっ!」
 その無謀な走行をついて行くブレイズ。一見すると適当に走っているように見えるが、コケそうな時には足をついてバランスを取っていた。路面が悪い上、新品をいきなりぶっ壊すのはアレなので、やりたかったウイリーは封印中である。
「流石クルメタル製、無茶な扱いにもちゃんと耐えるんだな」
 それでも、普通のバイクなら小傷とパンクの嵐になりそうな路面でも、クルメタルのバイクはきちんと走ってくれた。その事を評価するブレイズ。
「ツーリングがあるからよほどのことが無い限りはスキルは温存しとかないとな」
「そんな風に言ってられないですよう」
 海が悲鳴を上げる。バイク型で追いつけば、ちょうど海が追いつかれているところだった。
「AUKVならいけるだろ」
「はっ。そうだった!」
 自身がバイクに乗っている自覚はあったが、ここに来るまで、人型になる事をうっかり忘れていた海。一人に言われて、ロングバレルをサプレッサーに取替えた瑠璃瓶を構える。結構素早いと判断し、そのバイザーに、竜の瞳が宿っていた。
「今ですブレイズさん!」
 ばしばしばしっと打ち込まれる弾丸。援護を受けたブレイズは、一人がその盾で足止めしている間にバイクから降りたらしい。その手にしたコンユンクシオに、己のスキルをこめる。
「いくぞ! ヴォルカニック‥‥ランチャーッ!」
 低い姿勢から斜め上に飛び上がり、コンユンクシオをスマッシュの要領で切り上げる。紅蓮の衝撃がその刃を包み、ざくりと手ごたえがあった。高く飛び上がった勢いで、ブレイズはそのまま踵落としを食らわせる。
「なんかあったみたいね。行くわよ」
 キメラの断末魔は、外で待機している明衣にも聞こえた。源三郎が「やれやれ、偵察とは、無理をする事はないと言うのに」とぼやいて、バイクから降りている。ストレガも同じく覚醒していたが、やる気はあるようで。 
「バイクは傷つけないで下さいね。いかに、殲滅した方が早いと言っても、預かりものですから!」
「まぁ、無理をすることはないけどな」
 ため息をつく源三郎。遠いなら、やり過ごすことも考えたが、既に戦闘状態に入っているのをみると、それは後味のよろしくない判断だ。
「仕方ないからやっちまうか! 悪いけど、ぶち抜く!」
 なにかあったら駆けつける。そう約束していたトウマは、その言葉どおり、駆けつけていた。そして、ちょうど囲まれていた3人から引き離すように、こう宣言する。
「喰らえ! 一刀両断・刹那の太刀だ!」
 力強く加えられた一撃は、一流の戦士が持つ豪破の斬撃。急所を貫くように意識したそれは、片方の脚に切りつけられていた。
「大人しくくたばれ」
 その間に、竜の翼で一気に距離を詰めた紗夜は、同じ脚の部分を機動力を奪うべく攻撃している。ビートルキメラに靭帯があったかどうかは定かではないが、切断してしまえば用は足りる。そこに、明衣がソニックブームを叩き込んだ。砂煙が立つほど地面が乾いているわけではないが、間合いを詰めるタイミングは同じだ。
「紅で‥‥切る!!」
 既にふらふらのビートルに、紅疾風と名付けられた流し切りが命中し、2匹目のキメラが動かなくなった。
「ふむ、他はいないようだな。では、新品ご対面と行くか」
 ビートルからは血が出ていない。まるでよくできたオモチャのようだと思ったが、血を浴びるよりはマシだと思い、紗夜は警戒を怠らぬまま、皆のところへと戻るのだった。

 結局、工場には取り残された人はいなかったようだ。バイクも損傷そのものは少ないらしい。潮風を浴びたせいで、水洗いと掃除をしなきゃいけないかもしれないが、それはジジィの仕事だ。
「おーし、なんとか終了! お疲れさんだぜ皆の衆」
 ぱしーんとおててをハイタッチして、そう宣言するトウマくん。ノリの良いジジィ、イェーイとばかりに答えていると、ブレイズがぷかぁと紫煙を燻らせていた。
「‥‥ふぅ、至福の時だな」
 やはり、晴れた海沿いのまっすぐな道を走りぬける‥‥のは心地良い。風と空が、自身を包み込んでくれている気がする。昔見た世界で、自身の周囲に空気のバリアが張られる感覚は、バイクでなければ味わえない。
「早くこいつらで思う存分走れる世の中にしたいもんだよな」
「いつか、この青い空と綺麗な海を取り戻したいですねっ」
 バイクのシートを撫でつつ、一人がそう言うと、海もうんうんと頷いてくれていた。と、そこへトウマが出来上がった地図を見せて、こう提案してくる。
「せっかくだ、もっかいバイクのらね?仕事終了記念にさ」
「これの提出が先だと思うんだけど」
 明衣が、まとめた写真データと撮影場所を記した古地図の束を見せる。結構な枚数に上るそれは、一度本部に持って帰って、他の傭兵達が見やすいように、表示を変更しなおす必要があるだろう。
「まぁいいではないか。追記補足もいるのだろう? 沖縄料理を堪能するのも、悪くはあるまい」
 が、源三郎は首を横に振った。余裕があるわけでもないが、ないわけでもない。それに、戦闘をして消費した錬力を、食べ物に寄って補うのも、悪くはないかもしれない。
「そうだな。新しいバイクに乗りたいし。でも、素早さが欲しいな、マフラーに穴開けていいか? 後はトルク変えるとか」
 新品のバイクの側に、紗夜が張り付いて、なでなでしていた。エンジンを温めてからスピードを上げるのは、レースでも公道でも変わらないが、それでも彼女は『物足りない』模様。
「穴開けたら色々あかんくなるから、後はトルク変えるか、さもなきゃフレームから弄りなおさないとなぁ。風防は付けて置かないと、運転する時キツイぞ」
「わかってる。やっぱり国際ライセンス欲しいよな」
 ジジィの回答に、うーんと唸る紗夜。バイクは浪漫だ。取れる機会があるなら、それを逃したくない。
「決まりだな。行くぜお前ら!」
 トウマがそう言うと、一行は沖縄料理をたらふく食べられる店へと、再び走り出すのだった。