●リプレイ本文
仏法系の学校と言うと、とかく堅苦しく思われがちだが、そこはAP世界の学校なんで、この学校も、ご多分に漏れず美少年ばっかりの学校だった。何れは全員坊主になる宿命だが、どう見てもそうは見えない子が、雁首をそろえている。
「個人的には、煩悩をどうこうってんなら、弥勒菩薩より観音様と思うんですけどねェ‥‥」
その1人、森里・氷雨(
ga8490)。放課後、カラスと共に、対花男戦の相談をしていたわけだが。
「あれはお袋シリーズじゃないか。だいたい、そんな事、寺田に聞かれたら、まちがいなく補習房送りだね」
カラス、恐ろしそうに身をすくめている。補習房と言うのは、不届き者へのお仕置きコースの事だ。
「マジですか。カラス先輩」
花男祭の案内書には、そんな事ひとっことも書いてなかったのにー! と訴える森里。
「ああ、思い出したくもない」
どうやら去年は生贄になってしまったカラスさん。ここでもあの眼鏡は、びしばしと厳しい事をのたまっているご様子。
「それはともかく。なんでクラブ棟にも、女子いないんでしょうか」
男子校な訳だが、男子だらけだと精神的に大問題なので、平時は交流試合と言う名の合同練習が、頻繁に行われている。が、今日はその紛れ込んでいる女子生徒が、かけらも見当たらなかった。
「それがね。今日の花祭りで、なんか仕組まれちゃったらしくて、全員課外授業らしいよ」
「何ィ!? く、こうなったら、こっちから出向いてやろうじゃないか!」
カラスから、携帯に映った予定表を見せられた森里、陰謀の主は寺田に違いないと思いつつ、何とか鼻をあかしてやろうと、力いっぱい宣言していた。しかも即答。
「それはいいけど、どうやるんだい? あの人には、下手な策略は通用しないよ」
何しろ、仕掛けた去年は、バレて全員補習房送りにされたらしい。
「もちろん、ジジィを巻き込む!」
拳をぐぐっと握り締めて、明後日の方向に誓う。どこまでも他力本願な森里だった。
で、ジジィに作らせた秘密兵器を使った結果、何が起きたかと言うと。
「まぁてぇぇぇ!!」
ピンクのローションを引っ掛けられたおぜうさん方が、森里をそれこそ般若のような形相で、追い掛け回している。
「誰が待つかぁぁ! つかカラス先輩、手伝ってください!」
捕まったが最後、寺田にセクハラ容疑で突き出され、補習房送りなのは、火を見るより明らかだ。なので森里、手直に居た花男候補をとっ捕まえる事にした。
「何で僕が巻き込まれるんだー」
カラスである。
「いやなら寺田に弥勒として差し出しますよ!」
「だが断る」
寺田にセクハラされるのと、女の子に追い掛け回されるのと、どっちとると天秤にかけたカラスは、後者を選んだようだ。なに、自分の美貌さえあれば、怒り狂う女の子をなだめるのは簡単な事だと、そう鷹をくくって。
「ち。こうなったら!」
それでも、女生徒の暴走はとまらない。カラスがまぁまぁとなだめている間、関係者以外立ち入り禁止のポップが張られた扉に手をかける。
「って、そこはまずい! 確かさっき寺田とティグレス先輩が入って行った!」
「気にすんな!」
自分が助かる方が先だ。そう判断したカラス、扉をバターンと開け放つ。そこで見たのは、おててに棒らしきものを持ったエプロン姿の寺田と、顔をこころなしか上気させたエプロン姿のティグレス。
「見ましたね」
「い、いいいええええ」
何をしていたか予想する思考回路さえ放棄した森里、ぶんぶんぶんと首を横に振る。
世にも恐ろしい光景だったと言う。
「落ち着いて返答なさい。見ましたね?」
「は、はひ」
が、寺田にじぃぃっっと上から目線で見下ろされ、まるで鷹に睨まれた子リスさんである。
「それでは仕方がありませんね。ティグレスくん」
「せせせせんぱい!?」
にじり寄ってきたのは、寺田に促されたティグレスだった。しかも、いつの間にかおててに包丁持っている。
「この秘密は、誰にも知られてはいけないのだ。残念だが、覚悟を決めてもらおうか」
「ひぇぇぇぇ」
青ざめた顔して後退した森里の背中に、何やら人のぬくもりが当たる。ちらっと振り返れば、女性陣にボコられたと思しきカラスの姿があった。一部ボタンがはじけ飛んでいて、とってもセクシー。
「カラス先輩。何とかしてください!」
「残念だね。僕は君よりティグレス先輩と寺田先生を取るよ」
ぐいっと腰の辺りを抱え込まれる森里くん。そのまま、押し倒される格好となって、調理実習室の冷たいテーブルの上に固定されてしまった。
「裏切り者ぉ!」
「身の安全といいたまえ」
ふっと眼鏡を直すカラス。
「冗談じゃないぞ。カマ掘られてたまるもんか! 俺は1人だって逃げ延びてやる!」
しかし、そこは一応腕っ節に自信もある森里くんなので、カラスを突き飛ばして、近くのトイレへと逃げ込んでしまった。
「言っている事はかっこいいけど、そのモップはなんだい?」
「えーとえーと、トイレの神様だ!」
無理やりな言い訳である。その事を指摘すると、森里いわく「無理無茶無謀、通れば上策って、ヒノミがゆってた! 愛欲マンセー!」とか言って、お姉ちゃんをどかしてそのまま逃走しようとする。
が。
「では、その愛欲の犠牲になってもらいましょうか」
「おうわぁっ」
墓穴とはこの事を言うのだろう。自らが『衣装スケスケ大作戦☆』と銘打ってばら撒いたローションにひっかかり、盛大にすっ転んでいた。
「チェックメイト。残念でしたね」
「いやこれは釈迦入滅の涅槃姿でぇ」
見苦しくもさらに言い募る森里。しかし、寺田に首根っこを押さえられ、両側にティグレスとカラス。
「言い訳もはなはだしい。これは、補習房送りですね」
「ひぃぃぃ。勘弁してくださ‥‥あ!」
かくして、捕まった宇宙人よろしく、そのまま連行されそうになったのだが、それでも森里は最後まで抵抗を続けていた。
「えと、これ出来たら、次の授業に持って行きたいんですけど‥‥って、何ー!?」
巻き込まれたのは、両親の為と言う崇高な目的で、真面目に花男修行に精を出していたマルセルくんである。
「ちょうど良いところに、稚児候補が! マルセル、後は任した!」
「え、えぇぇぇ!?」
滑りやすいのを言い事に、足払いをかける森里。びたぁんと尻餅をついたマルセルくんの格好は、どういうわけか、なまめかしい半ズボン姿だ。しかも大変けしからない超ショート丈でる。
だが、それに引っかかるような寺田ではなかった。
「責任転嫁はよくありませんね。連れて行きなさい」
「はっ!」
ばたんっと、補習房と書かれた奥の部屋の扉が閉められる。
「ぎゃああああ。もうお婿にいけなぁぁぁあい!」
個室で、何が行われていたのかは、予想の範囲に修めておこう。
その頃、マルセル・ライスター(
gb4909)は募集のポスターを見て、何やら思い悩んでいた。
「授業料免除か‥‥。お稚児さんになれたら、両親の負担を減らせるな‥‥。よし、せっかくだしやってみようっと」
クラスでも5本の指に入るくらいショタいマルセル。もちろん、同じ年頃の男子と比べて、背も低い。というわけで、なんだかよく分からないうちに参加させられていたようだ。頼まれたら断れない性格が災いしてしまったらしい。
「むぁてぇぇぇい」
「あーあ。誰かが暴走してるや。わぁっ」
とは言え、やる事は少し部活が増えた程度なので、マルセルは放課後、指定された教室へと向っていた。だが、森里が追いかけっこをした直後、足元に広がっていたピンクのローションですてーーんと尻餅をついてしまう。
「ええーん。酷いですよ。僕は本来争いはしたくないんです。こんな野蛮な追いかけっこするくらいなら、謹んで辞退しちゃいますよう」
制服をローションまみれにされてしまい、しょぼんと小さく肩を落としているマルセル。めそりと悲しげな雰囲気が流れる中、通称『バグア組』と呼ばれる別カリキュラムの面々が、揉めはじめている。
「あー、レンが泣かしたー」
「僕は何もしてないぞ。だいたい、甘茶引っ掛けたのは向こうで追い掛け回されているアイツだろ」
そう言って、レンが指し示したのは、女生徒に追い掛け回されている森里の姿だ。
「はっ、そうでした。えと、もう苛めません?」
「しないよー」
どうやら、ローションをばら撒いているのは彼らしい。それを知って、ホット胸をなでおろすマルセル。だが、制服は相変わらずとろとろだ。。
「よかったー。でも、こんなに濡れたら、授業に出れませんね」
「そう言うことなら、先にコンテスト用の衣装に着替えたら? 確かもう用意してあるって聞いたし」
レンの薦めに応じて、更衣室へ出向くマルセル。だが、用意された衣装を着て、はたと気付く。
「って、これどんな嫌がらせですか!?」
半ズボン。つるっとしたおみ足が、大変けしからない。むしろ扇情的に周囲へと晒されている。おかげで下にはいたパンツが見えそうで仕方がなかった。
「うう。こんな格好なら、ジャケット持ってくればよかった」
ロングのジャケットは、もう暖かい日々が続くので、部屋において着てしまった。その上、畳み掛けるように「そろそろ審査始まるってー」と呼び出されてしまい、マルセルは仕方なく、調理実習室へと向う。
「はーい。えぇと、房にいる先輩諸氏の世話をひと通り出来るようにしなければならないので‥‥と。ああよかった。料理なら得意ですし」
一応、名目上は精進料理を上手に作れるようにすること‥‥なわけだが、その割には、なんだか怪しい食材が積み上げられている。その向こうに、下ごしらえ中の、見たことのある先輩が居た。
「って、ティグレス先輩も!?」
驚くマルセル。気付いたティグレスが振り返るが、入ってきたのが花男候補な事に、苦笑しながら、こう答えた。
「精進料理、と言うのは存外組み立てが難しいからな。だが他の奴には秘密だぞ?」
「は、はい‥‥」
こくんと頷くマルセル。ティグレスの頬が染まっているのは、きっと秘密の趣味を見られて、恥ずかしいからだろうと、勝手に解釈して。
「それじゃ、始めようか」
「わかりました」
マルセルも、半ズボンの上にエプロンと言う、正面からみたらどーみても裸にしか見えないセクシー衣装でもって、とりあず材料の選定に入る。
「食と言う字は、人を良くすると書きます。精一杯の誠意をもって、美味しくさせていただきましょう」
「ふむ。中々わかっているようだな。まぁ、動物性のものはあまり使えないが、あっさり味だけでは、飽きてしまうだろう」
下ごしらえなんかは、事前に用意したレシピに従っているが、一応独自のアレンジやレシピ開発等も行えと言うことらしい。手際よく調理していくティグレスを見て、感心するマルセル。
「結構器用なんですね。ティグレスさん」
「‥‥いや、そう言うつもりはなかったんだが」
料理の出来る殿方と言うのは、やはりあこがれるものなのだろうか。エプロン姿のままぽーっと頬を染めているマルセル。しかし、そんなやりとりもつかの間、お外が騒がしくなってきた。
「外、うるさいですね」
「どこかの馬鹿が、兵器でも作ったらしいな。後で補習房に呼び出さなければ‥‥」
見れば、森里がまだ追いかけられている。そこへ、違う御仁が入ってきた。
「授業料がかかっているから、仕方がありませんよ」
「あ、先生。えと、ここが美味く味付け出来ないみたいなんですけど」
寺田である。今回の講師と言うか、監督役なのだろう。シェフコートをばっちり着こなしている。ひと通り準備を終えた寺田は、マルセルの試作品を味見。
「ふむ。順番は間違っていないですね?」
「はい」
こくんと頷くマルセル。ティグレスも同じ様に、問題点を上げていた。
「ふふ、君がそんなに料理に興味があるとは、しりませんでしたよ」
「少しばかりこだわりが過ぎただけだ」
ティグレス、ふいっと目をそらす。と、寺田はニヤリと笑って、マルセルにこう言い出した。
「ああ、マルセル君。ここは多分この調味料が足りないんだと思いますよ。準備室行って取って来て下さい」
「はぁい」
マルセル、何の疑いも持たずに、準備室と言う名の倉庫へ向う。食材の保管には、空調が欠かせないため、パタンと扉を閉めた刹那。マルセルはうわぁと声を上げた。
「結構量があるなぁ。ん? なんか悲鳴が聞こえたような気がするけど‥‥」
その扉の向こうで、くぐもった音声が聞こえたような気がするけど、きっと気のせいだろう。そう思い直し、たくさんある素材の中から、言われたものをチョイスする。そうして、戻ってきた所、騒動が起きていた。
「えと、これ出来たら、次の授業に持って行きたいんですけど‥‥って、何ー!?」
いない間に、森里が追いかけっこの挙句、乱入していたらしい。手にしていたチューブとパイプの塊から、ピンク色のローションが発射され、全身ローションまみれのセクシーショットになってしまうマルセル。
「ちょうど良いところに、稚児候補が! マルセルくん、後は任した!」
「え、えぇぇぇ!?」
挙句の果てに、入り口の近くで、森里に足を引っ掛けられ、すっ転んでしまった。えぇん、と涙目になっているマルセルに注がれる、やんらしー視線。気付けば、他の生徒達が濡れたマルセルをガン見していた。いや、ガン見だけではなく、実際に手を伸ばしてくる輩さえいる。
「まったく。マナーが悪いよ、君達」
あやうしショタっ子マルセル! と言った刹那、そのゴリマッチョな先輩諸氏の足元を掬う一本の槍。悲鳴を上げてローションまみれになる光景を、そのまま見守っていたマルセルに、カラスが微笑みながら手を貸している。
「た、助かりました。カラス先輩」
「いえいえ。ちょっとお痛が過ぎただけだから」
その手を取って、立ち上がるマルセル。見れば、森里が一番引っ掛けたかった寺田とティグレスが、まったく気にする様子もなく、本人を捕らえている。
「ああでも、せっかくの制服が‥‥」
「気にしなくて良いよ」
ひらひらと手を振るカラス。しかし、マルセルはローションまみれになっちゃっている彼の制服をぐいっと引っ張る。
「心の乱れは身形から。身だしなみはきちんとしましょうね」
「こ、こら。だめだって。そんな風に剥いちゃ」
そのまま、遠慮なく上着を外しにかかるマルセル。上から順番にボタンを外し、そっと脱がして行くのは、足元のローションで不安定なせいだ。他意はない。少なくとも彼にとっては。
「え? 何のことです?」
「いやその、僕のこの体は、下手に人前に晒すわけにはいかなくてね」
そう言うと、カラスは半分脱がされてお肌の除くその上半身を、慌てて隠す。頬が染まっているのは、恥ずかしいからだろう。
「大丈夫ですよ。とても綺麗ですから」
「いや、そう言うわけじゃなくて。それに、古い生地を使っているから、上手く縫い付けられるか‥‥」
にっこりと笑顔でそう言うマルセル。カラスはまだ言い訳じみたセリフをのたまっているが、マルセルはまったく通用しないようだ。
「すばらしいです。全てのものは、絶えず大いなる輪の中で循環し、還ってくるものです。リサイクルの精神ですね」
「そうじゃないんだけど‥‥。まぁいいか」
どうやら、逆らっても聞く気はなさそうなので、カラスはそのまま上着を明け渡す。槍もった半裸の金髪少年と言う、腐ってなくても乙女には鼻水出そうなポートレートが、調理室に出来上がる中、それに花を添えるように、鳩さんが舞い降りてきた。
「あ、鳩さんが‥‥」
どうやら、マルセルの作ったお料理に惹かれて来た模様。普段から、動物に好かれることの多い彼、窓を開けて、ねだりに来た鳩に餌を上げている。
「ふふ。君はいろんな人に好かれるみたいだね」
「そうでもないですよ。これ乾かすのに、鳩さんいっぱいだと、羽毛が付いちゃいますから」
餌を上げて追い出したと言うところらしい。しかし、まだぽたぽたと水滴の落ちる上着は、乾くのに時間が掛かりそうだ。乾燥機何ぞと言う高級なシロモノは、この学校にはない。
「先輩、そのままじゃ風邪引いちゃいますよ?「
「そうだね。んー、じゃあこうしとこうかな」
くいっとマルセルの腰が引っ張られる。そのまま、人間抱き枕にされるかと思った刹那。
「って、ちょっ‥‥先輩ダメですってば! おさわりはナシでお願いします!!」
意外と武闘派なマルセルに思いっきり突き飛ばされ、目を回すカラスの姿があった。
世の中、必ずしも上手く行くわけではないのである。