●リプレイ本文
まずは、依神 隼瀬(
gb2747)の案で、親密度を上げようと言う事になった。仲良くなっておけば、いざという時にも少しは多目に見てもらえるかな〜、と言うのが、その理由だ。
「まさか、この期に及んで女装させられるとは思わなかった‥‥」
いちぶのすきもないカンペキな女装とやらを施された都築俊哉(
gb1948)、がっくりと肩を落として、ちょうちん涙をゆらゆらさせている。
「おどおどするからバレるのであって、そういうものだと思わせれば誰も気にしね‥‥ないんだよ」
が、同じよーに女装したシルバーラッシュ(
gb1998)。筋骨隆々な身長178cmは、かなり目立つが、堂々と歩いていた。
「うう、こうなったらやけだ‥‥物静かな女の子って言うのを演じてやろうじゃないか‥‥」
ため息をつきながら、姿勢を直すトシ。と、その背中を、後ろにいた岩崎朋(
gb1861)がぱしーんと軽くはたく。
「そうそう。これも二世タレントの宿命だよっ! わかなちゃんと隼瀬が今頃食堂行ってるはずだから、あたし達もGOよっ」
その手には、お直し用の化粧道具がしっかりとポーチに入っている。
「わぁい、今日はカレーなんだねっ」
その食堂には、周囲に立ち込める香ばしいにおいに、目を輝かせる水理 和奏(
ga1500)。他にもいくつかセットはあったが、彼女の心を捉えたのは、お勧めのカレーだった。もっとも、食糧事情のせいか、具はあまり多くなかったが。
「いたいた。ここ、開いてるよね?」
そこへ、トシとラッ子を連れた朋が乱入してくる。前もって言われていた事なので、エレナ・クルック(
ga4247)は席を空けてくれた。
「だいぶ賑やかになってきだし、続きは研究室にしませんか?」」
かなり騒々しくなってきた食堂を見回した隼瀬、そう言ってみる。気付けば、一行は昼時の喧騒に巻き込まれていた。食堂横のAUKV用駐輪場は、既に幾台ものバイクで埋め尽くされている。
「何だか面白そう。ついて行って良い?」
ここぞとばかりについてきたがる和奏ちゃん。そんな彼女達に、リーフ先生は快くOKを出してくれるのだった。
研究室へと戻ったリーフは、さっそく仕事を再開していた。
「うわ〜、難しそう〜」
和奏にはちんぷんかんぷんだ。
「風速、もう少し上げてみましょうか」
もっとも、助手として潜り込んだらしい国谷 真彼(
ga2331)は、リーフの作業を楽しそうに手伝っていた。素人にはさっぱりわからないが、目的を忘れて調整作業を手伝っているあたり、研究所の所員と言ったところだろう。それは、エレナも同じだった。彼女もまた、リーフの研究を手伝っていた。
「諦めてはいけない。俺‥‥じゃない、私にも何か出来る事があるはず! 雑用でも何でも言いつけてく‥‥ださい」
ついてきたラッ子さん、やっぱり画面見てなーんもわからない口だが、ここを逃しては、リーフさんとお近づきになれないとでも思ったのか、笑顔でぎこちない敬語を使っている。
「ありがとう。ではこれを」
言い渡されたお仕事は‥‥ごみ捨て。しかも、研究用廃棄物として分類しなければならないモノなのに、ずいぶんとごっちゃになっていた。
「まぁまぁ、私が変わるから」
しょんぼりと肩を落としてその分類を開始するラッ子さん。扉を開けたところで、通りすがりの振りをして入り込んだ斑鳩・眩(
ga1433)が、ひょいとゴミ袋を引き受けてくれる。確かに、捨てて良いものと焼却処理しなければならないモノの差は、ぱっと見ただけではわからない。
「すみません‥‥。そだ! 代わりに学園でも案内しますよ」
「地図、貰いましたから」
代わりに、もっとお近づきになろうと、学校からも指示されてるからと言いはるラッ子さん。だが、リーフは胸ポケットに収めた案内書をちらつかせている。
「そんなっ。私の案内が受けられないとでも言うのですかっ」
さめざめと嗚咽するラッ子さんだが、リーフさんは至極冷静な顔。どうやら、泣き落としは効かないようだ。下手に動くよりは、このまま雑用でも何でも手伝った方が得策。そう考えたラッ子は、彼女の研究プランが自分達のプランと合うように、尽力するよう専念するのだった。
研究は思いの他、暗礁に乗り上げているようだった。
「少し休憩しましょうよ。はい、どうぞ」
そこへ、真彼が甘い匂いを漂わせるクッキーを持ってくる。
「材料は購買で売ってましたから、調理器具だけ借りて作ったんです」
隼瀬がそう言った。見れば、研究室の戸棚に入っていた1リットル用のビーカーに、クッキー生地の残骸がこびりついており、実験用電子レンジの蓋が開いていた。期せずしてティータイムになったリーフの研究室だが、彼女の眼鏡は湯気を立てるクッキーでも紅茶でもコーヒーでも、まぁぁぁったく曇らない。
「相当強烈な曇り止め加工ね‥‥」
「眼鏡はずさなきゃ、俺の出番ないぞ‥‥」
朋、残念そうにひそひそ。雲ってはずす瞬間がなければ、トシもそれを奪いに行く事は出来ない。
「何か?」
「「いいえ、別に!」」
リーフに怪訝そうに言われ、揃って首を横に振る2人。と、真波が場の空気を変えるように、功尋ねた。
「そういえば、リーフ君は眼鏡に対するこだわりって、あったりしますか?」
さりげなーく尋ねた彼に、リーフさんは素直にこう応じてくれる。
「日本のあるメーカーの品を主に使っていますね。確か、本社は福井県にあるとか言ってましたが」
そう言った彼女が、がそごそと書類の束から引き抜いてきたのは、ある眼鏡メーカーのパンフレットだ。内容を見ようと、目を細める真彼。表紙に上品そうなイメージの眼鏡と、Mのロゴが記されている。裏を返すと、住所は福井県のようだ。
「この間の作戦で壊してしまってね。まぁ元々、文字を見る時にしかつかわないから。リーフ君は外すときってないのかい?」
「ないです」
即答する彼女。中々、ガードは固いようだった。
その頃、女子寮では。
「さぁて、地図を広げようじゃないか」
白衣とアフロかつらを装備したUNKNOWN(
ga4276)が、授業中を狙って、裏口へと潜り込んでいた。シャワールームや仮眠室、ロッカーの有無は、既にデータを仕入れている。その手書き地図に、彼は防犯カメラとそのモニタや警備係の出入りする管理室を丁寧に書き記していた。無論、他の生徒には見つからないように‥‥である。
「次は‥‥ゲートのセキュリティを越えなければな」
部屋の周囲に人がないのを確認すると、あんのうんは非常口と書かれた階段の踊り場から侵入する。忍び込んだのは昼過ぎ、皆が5幻か地下演習場でなにやら実験を繰り返している頃だ。
「さすがに厳しいな。思ったより時間がかかったか‥‥」
女性職員の安全を守ると言う名目でか、リーフの宿泊しているゲスト寮は、思いの他防犯カメラの種類をそろえていた。その為、リーフがいると予想される階に入り込んだ時には、そろそろ夕飯の時間になりつつあった。
「狙撃があると困るな。生徒が寝静まるまで、待つとするか‥‥」
幸い、今潜り込んでいる場所は、防犯カメラの沈黙した空き部屋だ。時間を過ごすには、さほど問題はない。と言うことで、体を休めながら、外の様子を時折伺っていると、しばらくして聞き覚えのある声が聞こえていた。
「ってーことで、この通り許可証は持ってる。リーフさんの部屋はどこだい?」
覗き窓から覗くと、斑鳩がセキュリティの女生徒を捕まえてもめている。
「堅い事言うなよ。同じ出張組同士、仲良くしたいだけなんだからさぁ」
その手には、寺田に手を回させてゲットした『出張許可書』が握り締められていた。その隙に、さっさと部屋から脱出するあんのうん。しかし、斑鳩はまだもめている。
「しょうがないなー。あんまり手荒な真似はしたくなかったんだけどっ。えいっ」
とうとう、強硬手段に討って出たようだ。何とかその場を突破しようと、セキュリティ要員に当身を食らわせる。がさごそと必要ないとこまで触って出てきたのは、ゲストの部屋割り表だ。
「よし、これでいけるな。ふふふ」
明らかに邪悪そうな笑みを浮かべる彼女。明らかに危険な賭け行為に出るようだ。その証拠に、防犯用のマスターキーまで調達し、セキュリティを風邪引かないよう白衣かけて保護すると、早速リーフの部屋まで向かっていた。
「だから。それだけはやめようって‥‥」
朋に引っ張られるようにして、寮内へ入るトシ。セキュリティのお姉さんがじろりと一瞥したが、見かけが綺麗な女の子なので、バレなかったようだ。
「良いじゃない。せっかく仲良くなったんだしさ」
冗談じゃない。真夜中に忍び込むなんて度胸は自分にはない。そう言い聞かせるトシだったが、朋は聞く耳を持たない。
「えぇと、リーフ先生の部屋は‥‥」
きょろきょろと見回す朋に、天井からあんのんさん自作の案内図が降ってきた。ご丁寧に写真まで添えられたそれに、彼女は首をかしげる。
「‥‥約束だけは守ろう、生徒達。その結果は知らんが」
声だけで、そう告げるあんのうん。助力してくれるその声と地図に、朋は小さな声で『さんきう』と呟く。
それに従って、リーフの部屋までたどり着くと、そこにはすでに斑鳩がいた。
「や、女性の独り身はなにかと寂しいでしょうに‥‥」
何ぞと言いながら、無理やり入り込んでいく彼女。そのまま、抱き寄せるように彼女を傍らに座らせ、ほっぺを摺り寄せる。まずは杯とばかりに、リーフにコップを持たせると、だばだばとお酒を注ぎ込む。
「酔っ払ってらっしゃるようですね。お水でも飲まれますか?」
「やぁねぇ。酔っ払ってはいないですよ。ちょっと人恋しいだけで」
ごーろごろと喉を鳴らすその姿は、仕事とは思えない親密ぶりだ。もっとも、仕事なのをバラすわけにはいかないので、ひたすら杯をあおる斑鳩さん。そのほんのり上気して乱れた姿は、風呂上りの色気をよしとする男子連中には、鼻の下の伸びそうな絵図だった。
「なかなかに良い写真が撮れそうだな‥‥」
無論、そんな美味しい画面を逃すあんのうんではない。なまめかしい姿を、次々に写真へ納めている。良い写真が撮れそうだ。
「いいじゃないの。ちょっと位〜」
「駄目です。お酒を飲むなら、節度を守りましょうね」
説教されながらも、絡み続ける斑鳩さん。と、そこへ遅れてたどり着いた朋とトシ子ちゃんが乱入してくる。
「こんばんはー。リーフさーん、ちょっとおっじゃましまーす」
返事も聞かず、あがりこむ2人。
「困りましたねぇ。あー、そうだ。そこの方。この方達、連れ帰ってもらえません?」
と、彼女は窓の外にいたエレナをちょいちょいと手招きする。
「え? ここには私しかいませんよ?」
「構いませんよ。保護していただければ」
あさっての方向を向いたまま、そう答える彼女に、リーフさんは平然とそう言うと、酔っ払いと乱入生徒を押し付けてしまう。
「あっちはエレナに任せておいた方がよかろう。さて、ついでにあの男の寝姿でも撮っておくか」
その様子を見たあんのん、潮時とばかりに隠密潜行で、今度は寺田の部屋へと向かうのだった。
もっとも、その後、寮で彼の姿を見た参加者は、誰もいない。
強引に入り込んだのでは、埒が明かない。そう確信した生徒達は、合法的にリーフの部屋へあがりこむ手段を用いる事にした。
それは、土曜日の夜に、パジャマパーティを行うと言う計画である。
「面白そう! ボクも行っていいよね!」
発案者の隼瀬の案に、目を輝かせる和奏。リーフさんの隣で寝れたらいいなっと、無邪気に目を輝かせている。が、ひとつだけ問題があった。
「国谷さんもどうですか?」
エレナちゃんに誘われて、首を横に振る真彼。そう、女子寮が男子禁制な事である。
「これがあれば、入れないことはないと思いますよ」
その手には、あんのんが提出してきた報告書がある。
「未婚の女性の部屋に入るわけにはいかないでしょう?」
しかし、さすがに彼、冗談めかして言いながらも、丁重に辞退してくる。で、相談の結果、他にも男子がいるとのことで、唯一大手振って出入りできる1階ロビー横の来客用談話室を使うことになった。たまに寝オチしている生徒がいる為、朝まで過ごしても問題ないようだ。よく見れば、ソファーと一緒にひざ掛けまで用意してある。
「明日は予定決まってるんですか〜? 予定がないなら朝まで飲みましょ〜」
すっかり研究室に入り浸っていたエレナは、そう言って強引にリーフを誘い込んでいた。もっとも、彼女が持ち込んできたのは、購買部で買ってきたジュースなのだが。一応「、未成年なのを考慮しているらしい。
「飲むのは構わないですけど、ここでそれを使うのはよろしくないですよ」
「はっはっは。バレてるっ」
虚実空間を使おうとしたエレナ、その前にリーフさんにさっくり言われて、乾いた笑を浮かべている。使用には覚醒しなきゃいけないので、寝るまで待とうと思う彼女。
「そういえば‥‥。伊達眼鏡はSES付いたのあるのに、何でサングラスは無いんだろう? 作ってくれませんか〜?」
「そうすると、普通のサングラスを、他のお仕事に持ち込めなくなりますよ?」
それは困るかもしれない‥‥と、口ごもる隼瀬。
「とりあえず、使えそうなものを見繕いに、買い物にいきませんか? 作業を手伝った報酬に、というのはダメかな?」
「買い物にお付き合いするのは構いませんが、忙しいので、手短にお願いしますね」
ちゃっかり週末デートに誘おうとする真彼に、リーフはそう答えた。どうやら、一緒に行くのは構わないが、中々ガードが固そうだ。
こうして、研究や学業とはあまり関係ない話で盛り上がっている彼女をみて、真彼はぽつりと呟く。
「うーん、寺田先生には悪いんですが、やっぱりよろしくない気がしてきましたよ」
「そうだねぇ」
隼瀬も同感のようだ。デジカメは持ってきたが、学校でのハプニングや、小学校での思い出話をしているうち、リーフの寝姿を取るのは、なんだか卑怯な気がしてきたらしい。かと言って、課題を完了しないわけにはいかない。と、エレナはぽふんと手を叩いて、こう言った。
「そだ、急いでお家に帰って、ポチの小屋に表札を付けて、寝ているポチの写真を撮って提出するです〜」
「よし、僕とリーフさんは同じ青髪だし、リーフさんの素顔を見た事のある人はいない‥‥。だから多少違っても、きっと分からないと思うっ」
和奏も代替え案を思いついたようだ。善は急げとばかりに、和奏のセッティングが進む中、エレナは自宅に戻って、愛犬の写真を撮りに行く。
後日、提出された写真を見て、寺田先生は点数を半分に減点するのだった。