●リプレイ本文
王様は怒っていた。
「おにょれ! カエルキメラめ!」
密林の入り口で、身の丈ほどもある杖を持ち、立派な王冠とマントを羽織った王様こと澄野・絣(
gb3855)は、髪を結い上げた状態で、ぷんぷと頬を膨らませていた。
「我が眷属を模すだけでも腹立たしいのに、羽なぞ付けよって、余に対する侮辱としか思えん!」
いつもと違い、完全に男口調になった絣ちゃんが、だんっと杖‥‥否、これは王杓だろう‥‥を鳴らして、はるか密林の奥を指し示す。
「行け! わが同胞達よ! わが眷属の名誉の為に、やつらを確実に排除するのだ!!」
きらきらと周囲に王様オーラが振りまかれる。そこだけ別世界になっていたが、他の傭兵達は、特に気にする風情もなく、作戦を練り始めた。話し合いの結果、皆で一緒に進む事は、既に周知してある。その為、川の側の密林を、注意して進む。耳をそばだて、四方を警戒しつつ、はぐれないように進んでいく。何しろ、密林や川のどこから敵が襲ってくるか分からない。鳴いたりもするらしいので、音にも耳をそばだて、川や空、森の中にも留意していた。
‥‥と。
「その辺に隠れてないですか?」
樹上を見上げるヨダカ(
gc2990)。空を飛ぶとの事だから、きっと不意打ちも得意だろう。そう判断した刹那、
がさりと目の前で音がした。
「あら、寺田先生の言っていた、増援の生徒さんですね?」
それは、川沿いに進んできた聖那だった。と、絣がふんぞり返って大げさに頷く。
「うむ。余の眷属を名乗る不届き者を成敗しにきたのじゃ。聖那殿、不届き者はどこじゃ」
「私も探し中なんですけど、カエルの殻は見つけましたわ」
聖那が指し示した先の川辺。そこには、報告にあった通りの、キメラの卵があった。一般的なカエルの卵同様のゼラチン質。ぶよんぶよんしたその卵は、見るからにキショイ。
「寺田先生、俺、頑張ってるよ!」
依神 隼瀬(
gb2747)、遠くカンパネラから指示を飛ばしてきた眼鏡の恐怖に、打ち震えている最中だ。だが聖那は、そんな事全く気にせず、皆を案内してくれた。そんな中、顔色1つ変えないエレクトロリンカーが1人。
「‥‥案外、触り心地も悪くないですよ‥‥。お一つ、如何ですか‥‥?」
無表情なまま、さっくりとその卵を手に取り、差し出すセシリア・ディールス(
ga0475)。お団子差し出すのと同じ状況に、隼瀬は「一般的な知識しかないんだけどなぁ。それとは違うみたいだ」と言いながら、貰った回収ケースへと入れる。そんな光景に、逆に豊富な怒りパワーを噴出させているのも1人。
「むぐぐぐ。なんと言う侮辱じゃ」
王様である。半分おたまじゃくしになったそれを、出来れば踏み潰したい衝動にかられているが、大事なサンプルだから持ち帰れと言われているので、何とか我慢している。と、見つかったポイントを、地図に書き記していた木場・純平(
ga3277)がこう言った。
「基地の方面と一致しているな。やはり、そっちを目指しているか‥‥。急いだ方が良さそうだ」
「はぐれない‥‥ようにしましょう‥‥
セシリアが、無線機のスイッチを入れる。シグナルミラーと呼笛はすぐに取り出せる位置に移動させた。そうして、準備を整えていると、王様が水辺にぐっきり記されたでかい水かきの後に気付く。
「むむっ。こんな所に、不届き者の足跡が!」
元々、参加者の中で一番高かった直感力が、カエルぱうわぁで増大しているらしい。AUKVを装着した隼瀬が、呼笛を咥えつつ、その足跡が示した先へと先行する。ぼつぼつと続く足跡は、やはり大型の水かきがついており、基地の方向へ向っているようだ。
「こっちだ。この先の開けた場所に向ってる」
木場が持っていた地図に印を付けたのは、川沿いの作業小屋だ。皆で追いかけて行くと、おもむろに赤い霧(
gb5521)が歩みを止める。
「おしゃべりは此処までにしよう‥‥お客様だ」
ゲコゲコと、盛大に響くかえるの声。ヨダカが見上げると、その樹上に見えた、大きな蛙のシルエットが視界を覆う。
「見つけたのですよ〜!」
すかさず呼笛を吹き鳴らす彼女。隼瀬も蛙を見つけた。そのサイズは、遠くから見ても、自動車ほどにでかい。隼瀬のAUKVと同じ位はあった。
「気付いていないかな。こっちにおびき寄せる手段が必要だと思う」
頭にシグナルミラーをくっつけた夢守 ルキア(
gb9436)がそう言い出した。見れば、木々に粘液がこびりついているが、こちらを注意する気配はない。その独特な姿に、木場が怪訝そうに「何をする気だ?」と尋ねてくると、ルキアは川のある方を指し示した。
「囮。こいつで目印つけるよ?」
川を見失うと、基地まで戻り難い。逃げられても困る。ルキアはGooDLuckで己の幸運を祈りつつ、ペイント弾を装備し、蛙に狙いを定めた。
「ふむ。あの猿がついた奴かな」
一匹だけ、先頭にいる。茶色い蛙。その背中には、かなり人に近くなった猿の顔が浮かんでいた。それが、一族を率いているようだ。
「わかった。何とかするよ」
何しろ、ルキアには秘めた盛大な野望がある。
「GAAAAAA!!!」
覚醒した赤い霧が吼える。世史元 兄(
gc0520)の体躯が光に包まれる。それを合図に、傭兵達はそれぞれの得物を手に、後へと続くのだった。
「上のが来たですよっ」
ヨダカが、樹上の蛙が動いた事を告げる。きしゃーっと、盛大な雄叫びを上げる蛙に、少し後ろへ下がったヨダカと入れ替わるように、ルキアが前に出た。
「こっちだ。ショタっ子の肉は柔らかいよっ!」
目立つ姿で走り回るルキアに、その中の数匹が鳴きながら追いかけてきた。べしべしとペイント弾がお見舞いされ、その間に世史元が覚醒する。蛍のような光が周囲に散った。
「くぁぁっ!」
「おのれぇ。偽物の分際で! 王の怒りを食らうのじゃ!」
ルキアを追いかける蛙に、絣が怒りの先手必勝王杓アタックを食らわせる。実際は、左手にしたライトピラーで、その足を狙っていた。握り締めた柄から、超圧縮のレーザーが射出され、蛙の足を根元から切り飛ばす。が、蛙は痛いとも思っていないのか、今度は羽で空へと浮き上がった。
「こいつなら、捕まえられるかな‥‥」
木場が己のパワーを増大させ、両手に仕込んだクラッチャーで、蛙を捕まえようとする。特注で作らせた超機械は、指先が自由に動くため、蛙のぶよぶよした体や、ぎょろりと剥いた眼も攻撃できると思ったから。
「くぇっ!」
が、ぶん殴った感触は、ビーズクッションを殴った時のようだ。どうやら、衝撃は吸収してしまうらしく、掴もうとした舌先は、つるりと滑ってしまった。
「流石に、ぬるぬるして捕まえ難いな。当たるのは当たるが、こいつの方が良さそうだ」
そう言うと、木場はクラッチャーから装着式超機械へと持ち替えた。蛙が突っ込んできたところを、連剣舞で応対する。ペネトレイターとなった今、普通ならもたついてしまう行動も、蛙が来る前にこなせた。疲労感はあるが、ばちりと火花が散り、蛙の舌先が焦げる。先ほどの蛙とは違って、頭は回るのか、その蛙は距離を取って下がった。
「無礼者!!」
別の蛙が、王様に舌攻撃を食らわせている。だが、所詮は偽蛙。かえるの王様に蛙の偽モノが適うわけないので、その舌ミサイルは、王杓に弾かれて、明後日の方向へと着弾していた。
「終わったら、聖那君にハグって貰うんだからっ」
ルキアがそう言う。かえるの王様は可愛いが、かえるの王子は呼んでない。それに、王様と木場の動きを見る限り、やはり斬撃より刺突の方が良さそうだ。
「面より点の攻撃の方がいいかも、力が集中するから」
弾力があるその表皮を切り裂くには、鋭い刃が必要のようだ。そう思い、ルキアは超機械で足を狙う。しかし蛙は、翼でばたついて浮き上がってしまった。射程が合わないと判断したルキア、バラキエルを撃ち放つ。しかし、いかに幸運と言えど、それだけでは当たらない。運良く2発程命中したが、ダメージが蓄積されている様子はなかった。
「温存していた方が良さそうだね」
見えないところから、蛙の声がしなくなるまで撃とうと思っていたが、視認する限り、練力を使い果たすのは、止めておいた方が良さそうだ。代わりに電波増幅をかけ、仲間の強化へと変える。だが、そんなルキアをうっとおしいと思ったのか、蛙の一匹が彼女の細い体をなぎ払った。
「ぐぁっ」
「大丈夫っ?」
ちょうど、ヨダカの足元へ転がるはめになったルキア。駆け寄られ、抱き起こされると、口の中に血の味が広がった。
「問題ない。こっちは、これがある‥‥っ」
拡張させた練成治癒で、自身の怪我を癒すルキア。そこへ、再び蛙が舌先を伸ばしてくる。くけぇぇっと怪鳥じみた鳴き声を上げ、ルキアが絡め取られてしまった。
「こっちが‥‥チャンスだっ」
が、彼女はそう言うと、自身の超機械を、その口の中へと突っ込み、構わずスイッチを入れていた。ばじゅっと肉の焦げる音がして、蛙の舌が取れる。解放されたルキアには見向きもせず、距離を取る蛙。
「怪我はありません?」
「はい、大丈夫ですっ」
聖那にそう言われ、即答するルキア。と、その距離を取った蛙に、ルキア達を庇うように、前へと出た隼瀬が追いすがる。
「待て、逃げるな単位!」
どうやら彼には、蛙が単位にしか見えていないらしい。
「とりあえず蛙でも何でも、飛べなくすればいいんだよねっ」
隼瀬は、薙刀「昇龍」の刃を一閃させる。が、蛙は意外と素早い動きでそれを避けると、樹上から隼瀬に牙を剥いた。
「着地の瞬間をねらえばっ。くうう、当たらないかなっ」
薙刀を振り回すものの、高さを稼がれると当たらない。何とか弓に持ち替えたいが、その隙は与えてもらえないようだ。
「もう少し良く狙わないと、外されてしまいますわよ」
「んなこと言っても、元々のジャンプ力が凄いから、あんまり当たらないんだよっ」
聖那の応援を受けつつ、薙刀を振り回す。ジャンプ力は余りないのだが、その分するりと交わされる事が多い。
「よし、物理攻撃が効かない訳じゃなさそうだっ」
ようやく、その一撃が足を捕らえた。ざくりと入った一撃に、薙刀の刃が粘液でぬらつく。しかし、物理攻撃しか聞かないと言うわけではなさそうだ。かと言って、スパークマシンだけで倒せるとは思えないのだが。
「あーやっぱり、報告通りだね刃が通らないって」
それでも、世史元はそう言って、自らが持つ壱式に、ズブロフを吹きかけた。そして、何を思ったか自分の服に押し当てる。じゃきりとどこかで金属音がして、その瞬間、壱式がかすかな炎に包まれていた。
「じゃーよ? コレはどうだ? はっはっは♪ どうよ? 体を焼かれながら斬られる感覚は♪♪」
その炎込みの刃を振り回す世史元。聖那が「まぁ。まるで炎の妖刀使いですわね」と言ってくれたが、考えてみれば炎にSES効果はないので、蛙には効いていない。炎が当たる度、淡く光FFが見えた。
うっとおしいなと思ったのか、蛙が舌先をミサイルのように飛ばしてきた。そのミサイルのような舌が、世史元を捕らえる。だが、彼は何事もなかったかのように、その舌をを捕まえようとした。
「あー、馬鹿にするなよ、蛙が。怪我なんて、覚醒すれば直ぐに治るんよ。ソレよりも捕まえたぞコラ、そのご自慢の舌斬ってやるからな!」
が、捕まっているのは世史元自身だ。蛙の動きは以外と早く、体中に打撲の傷が出来上がる。
「くっくっはっはっは♪ 残念だったな!お前らが餌と思っていたのに餌に殺されるなんたな♪おら♪愉快に痛快に死んで逝けよ雑魚が!!」
が、ハイなので聞いちゃいないようだ。逆に、持っていた超機械『シャドウオーブ』に手を伸ばすが、そこで蛙にかみつかれてしまう。
「超機械は、こう使うの‥‥」
そこへ、やや後方からセシリアが静かにそう言って、持っていた超機械『ブラックホール』をお見舞いする。それは、飛び上がろうとした蛙の翼に命中し、地面の上に落としていた。そう、世史元ごと。
再び飛び跳ねようとする蛙。と、セシリアは無言でその空いたどてっぱらに、電波増強した一撃を炸裂させる。無表情なまま、何も言わずに戦う彼女、自分のほうへと向ってくる蛙の口元を見て、脇へと避ける。
「それ、離して‥‥」
かぱっと口をあけたそこに、彼女のブラックボールが炸裂した。根元にダメージを受けた蛙は、放り投げるように、世史元を離す。
「回復してあげる‥‥」
セシリアが練成治療を施すと、いくらか楽になったようだ。しかしそこへ、蛙が再び突撃してくる。
「料理は動けなくしてからが本番なのですよ! ぬめりよ取れろ〜なのです」
そこへ、ヨダカが牡丹灯篭を発動させた。練成弱体の一撃を食らって、ぬめりが焦げる。足を攻撃された蛙が、雄叫びながら、ヨダカへと舌を伸ばしてきた。
「ばっちい舌でヨダカに触るなですよ〜!!」
かえるのお腹の中なんぞ勘弁だ。根元の方を焼いて、脱出を試みる。
「ごめんなさい、ちょっとビリっとくるですよ〜」
まだ相対しているルキアがいるが、気にせず、そのまま電撃を発動させていた。その為か、ルキアを離す蛙。そんな二人の代わりに、すいっと前に出る赤い霧。そこへ、残りの蛙が前に出てきた。見れば、カオナシ蛙を伴った猿面蛙だ。
「くえぇぇっ!」
「おいおい、デカイ図体してその程度か‥‥」
そう言いながら、何とか避けようとする赤い霧。小さな傷でも、深く負えば出血多量で、戦闘できなくなる恐れもある。それは避けたかったが、それを避けようとすると、どうしても致命傷となる傷以外も、避けねばならなくなる。己の身の堅さには自身があったが、避けられてしまう回数も多い。猛攻、と言うわけには行かなかった。
「カエルを殺したら雨が降ると言われるが‥‥明日は大雨だなッ!」
それでも、舌を伸ばした蛙に、流し切りを食らわせる。すぱーんっと綺麗に切り飛ばされる蛙の側面へと進む彼。
「成敗!!」
王様が王杓を振り下ろした。そこへ、赤い霧は両断剣を振り下ろしたのだった。
さて、傭兵達にはその後にも仕事がある。
「こうして、桃太郎は卵を拾いましたっと」
ルキアが、転がっていたキメラのサンプルを袋に入れた。持って帰らないわけにはいかないので、袋から体液が漏れないように何重にも封をする。その彼女が、聖那に聞いた所、コロンビア方面に進んだBFの対応は、傭兵達にミッションとして与えられる事になったようだ。
「ところで、これって食えるのか?」
「ムリだろ。どう見てもゲテモノの黒焼きだ」
赤い霧が残りの死体をつついてみるが、超機械で焦がされたそれは、どうみてもゲテモノの黒焼きにしか見えず、たとえ食えるとしても遠慮したいシロモノと化していたのだった。