●リプレイ本文
「この辺、確かめておいた方が良いよな」
夏目 リョウ(
gb2267)が、周辺海域の状況を確かめている。しかし、北の海は雪のように降り注ぐプランクトンで、視界が悪く、それを越えるような特徴あるものは確かめられなかった。
「そうですね。准将、海域情報が何かあると良いのですが?」
天小路桜子(
gb1928)が准将にデータを要求すると、学術調査した際の海底図が流れてきた。水を抜いた表示は、ちょっとした峡谷の様だ。
「まさか、キメラ獣全部が突撃兵器!? それで重要施設を狙ったり、海底火山を噴火させて‥‥」
「んな事まで出来るたぁ思っていないが‥‥」
リョウに突っ込みを入れてくる准将。それほど大規模な地殻変動は観測されていない‥‥と。
「聖那君、大丈夫かな」
一ヶ瀬 蒼子(
gc4104)が、心配そうに言って、聖那機に併走するべく、速度を遅らせた。SPとして身辺警護に付く時とは、勝手が違う。彼女もまた、大規模の水中戦で、経験不足を痛感した1人だが、その事を教訓に、ビーストソウル改を滑らせる。
「そろそろ、目標海域ですわ」
と、その聖那が存在を主張するように、知らせてきた。
「この蒼き海を、バグア星人の好きにさせるわけにはいかない‥‥新たな力でその平和を守るのも、特殊風紀委員の使命だからな」
「ルナフィリア・天剣、フィンスタニス出るぞ」
ルナフィリア・天剣(
ga8313)の合図で、KV達は出撃していく。
深淵なる北の海の峡谷へと。
出没する海域は、結構な潮流を持っていた。その為、藍紗は操船を准将に任せ、KVの配置場所を確かめると、洋上で待機する事にした。
「まずは、キメラの群れを見つけないと‥‥」
「こちらも、攻撃開始の合図があるまでは、仕掛けないようにします」
御剣 薙(
gc2904)と桜子は、薙と共に目を光らせる。と、程なくして、モニターの向こうに、銀色の一団が見えてきた。桜子が、ブースターを吹かさないようにして、慎重に回り込む。わずかな気泡が流れ、アルバトロスがその体躯を泳がせる。
「動き方と進路に、何かが見えてこないかな?」
リョウも、愛機『蒼炎』をゆっくりと動かし、銀色の群れを追いかける。
「落ち着いて。制海権を得る以外に目的があれば、必ず何かの法則性を持った動きをしているはず。逃げるなら、予想出来るわ」
薙もまた、そのアジに近付いて行った。モニターに映るのは、銀色と言うよりはメタリックな質感を持つキメラだ。もう少し大型になれば、生体ワーム‥‥マンタの亜種とも言えるだろう。その初期配置を、しっかりとマーキングする桜子。
「‥‥攻撃、来ます!」
そこへ、自身を警戒する動きに気付いたのか、アジが群れごと回れ右。刹那、かぱりといっせいに口が開き、陸上のそれと同じ様に、衝撃の塊が向ってくる。
「撃ってきたようやで!」
「藍紗さん、キメラ獣を囲い込んで!」
反対側にいた荒神 桜花(
gb6569)とリョウがスピードを速める。連絡を受けた藍紗・T・ディートリヒ(
ga6141)が、水の上から、援護をお見舞いする。
「耐久度は、結構あるようじゃな」
衝撃波の1発1発はたいした事はない。生身なら、それなりに苦労しただろうが、今はKVと言う鎧がある。されど、敵をそれを見越し、数で当たらせているようだ。そして、藍紗がガトリングを食らわすと、今度は当たりづらいよう小さくなって避けてしまう。群れを1つの生き物として認識した方が良さそうだ。
「敵襲! 新手、来ました!」
YU・RI・NE(
gb8890)が警戒を発している。見れば、プレシオサウルスがこちらに向ってくる所だ。
「藍紗さんは、は上からお願いします」
桜子が、A班をプレシオサウルスに、B班をロウニンアジへとわける。YURINEが藍紗へ、こう言ってきた。
「優先目標を撃破した頃、助っ人に回ってください」
「了解じゃ」
まずは、敵をそれぞれの班に分断する所からだろうか。そう判断し、藍紗は水中用ガトリングガンを撃ち続けた。
アジの動きは、集団の生き物に即していた。だが、規模と勢いがだいぶ違う。KVの攻撃をあざ笑うようにスピードを上げ、次第に沖へと進む。その先には、グリーンランドの人々の糧となるエリアがあった。
「該当海域に、一般船舶が! 逃げて!」
蒼子がその先にいた船に、避難を呼びかけている。と、漁をしていた人々が即座にスピードを上げて港へ戻って行った。
「ソナーブイを放出して。攻撃されない位置まで下がって!」
そう言うと、攻撃されない程度の距離を取りつつ、反応を見るルナフィリア。
「中心部に、何かいると思うんだけど‥‥はずれかな」
場所を守護していると予想していたYURINEだったが、ぐるぐるとうごめくロウニンアジは、コアを抱えているようには見えない。だが、それでも、目的を持って動いているのだろう。徐々に、移動していく。
「OK。やっぱり、何か目的があるようね。オロチのカメラでGTを激写よ」
オロチのモニターの中で、望遠にしたロウニンアジがアップになる。メタリックな質感を持つその動きは、やはり南北ではなく東西に絞られているようだ。追撃すると、ちょうど東側へ‥‥カンパネラの旧校舎へ向う方向だ。
「あれ? そういえば、聖那はっ?」
蒼子が、副業の癖で、同行している聖那を気にかけている。学園のVIPだ。極力護衛出来る様に‥‥と、キープ出来る位置へ移動したのだが。
「あそこにいるようだな」
その機体は、GTの群れを、つつくように攻撃している。本物のアルバトロスがそうするように、水面近くから、水中用の槍をお見舞いしていた。
「まったく。無茶な事されたらこまるのに」
やはり、戦闘中の姿は見られたくないのか、通信は完全にオフにしている。見える所にはいてくれるので、戦力の把握はやりやすい。機体の装甲も、それほど傷ついてはいない。身を守る術は心得ていそうだと判断した蒼子は、上を気にしつつ、正面のアジへと向き直った。
「余り刺激したくはないけど、反応は見てみたいね」
YURINEが距離を取りながら、ずっと移動している。それは、ルナフィリアも同じだ。ソナーブイと自分の索敵情報は、他のKVにも随時流している。そのフォローがある事を信じて、M−042と小型魚雷を浴びせかけていた。が、あくまでも弾幕にしかなっていない。
「ソードフィンは使わないで」
YURINEがそう言って、山津の弾幕を形成する。そのミサイルに粉砕されるロウニンアジ。しかし、直撃を免れた固体は、一斉に魚雷や山津の小片へとかじり付く。牙は、ピラニアを模したものの様に鋭い。
「なるべくたくさんの方向からやらないと。噛みついてくるかなっ」
大型ガトリング砲が、アジの群れを捕らえた。ミサイルで牽制しつつ、敵の反応を見てみる。不発のミサイルが、がりがりと食われた。足場の船に近づこうとする小集団もいる。
「流石に本職の漁師さんみたいにはいかないかなっ」
近づいたアジを剣で斬り降ろす蒼子。群れを追い込もうと言う策だったが、やはり牽制と注意だけでは、上手く行かないようだ。
「援護する。こっちへ!」
ルナフィリアがレーザーと魚雷をぶっ放す。物理非物理はさほど差はないようだ。しかし、その直後、プレシオ班の方で、盛大な水柱が上がり、衝撃がKVのコクピットを揺らす。見れば、ロウニンアジ達は幾つかの小集団に分裂しながら、プレシオサウルスと合流しようとしていた。
「連動して来た? やはり、どこかに向っているみたいね。まさか‥‥監視船!?」
『違うようじゃ。こちらにはプレシオしか見えぬ』
監視船上にいる藍紗から、アジの群れは確認できないようだ。
「引き裂いてやるっ」
ならば、合流されるまえにやるだけだと、ルナフィリアはソニックネイル「バンシー」を煌かせる。
「向って来た! 相手は、こっちよっ!」
YURINEがセドナを首長竜に向けて牽制を放つ。その刹那、ルナフィリアはアサルトフォーミュラをおのれのボディへ注入する。
「AF・Aモード起動。敵機補足‥‥発射!」
ばしゅばしゅばしゅうっと四方八方にアジを狙うネイル。さすがに、近距離兵器に狙われては、ひとたまりもない。鰯の手開きのように、3枚に下ろされてしまうアジ達。
だが、その中から現れたのは、追尾型の小型ワームだ。特有の妨害に、各自KVのノイズが大きくなる。攻撃力は持っていないが、非常に早く、一直線に陸地へと向っていた。
「データ収集と囮と言うわけか。目的地は、ゴッドホープか!?」
「まずい。早く知らせないと!」
ルナフィリアが止めようとするが、そのスピードはミサイルと言って差し支えない。YURINEは慌てて水上の藍紗に連絡するのだった。
その頃、プレシオ班は。
「まったく。プレシオサウルスとは、敵も趣味やねぇ」
どう言う意図を持ってなのか、さっぱり分からないが、通常ならまず思いつかないであろうワームに、舌を巻く桜花。が、テンタクルスの操縦は、まだ大丈夫そうだ。
「まずはあれを狙わないとな」
「リョウくん?」
プレシオサウルスが、アジと付かず離れずの距離を保っている。その間に入り込むように、リヴァイアサンのボディが音もなく滑り込んだ。
「北の海にアジとプレシオサウルスは校則違反だ‥‥行くぞ『蒼炎』大武装変だっ! 新たな力、見せてやるぜ」
ぼしゅうっと、ブースターが気泡を立てる。
「援護します。魚雷、いきますよ!」
潮流に逆らうよう、力強く踏み出す蒼炎に、桜子が少し離れたい地から、小型魚雷を発射する。しかし、火花が散らない分、当たったかどうかの感触がつかみ難い。
「水中戦は意外と地味やねんな」
そう言うと、桜花が多連装魚雷『エキドナ』をダブルで発射する。都合48の魚雷第一陣が、容赦なくプレシアのボディに叩き込まれた。だが、流石に全て命中とは行かず、半分ほどが海面に幾つもの水柱を発生させる。それは、アジと戦っていた面々にも移り、直後アジ達がこちらへ向ってきた事を告げた。
「流石に全部とは言わないらしいな。人型で受け止める」
薙のビーストソウル改が人型になった。あわせるように桜子も魚雷の2陣目を放った。そこへ、残り48発のエキドナがお見舞いされる。盛大に視界を埋め尽くすそれに乗じて、薙は水中用ガウスガンで牽制しながら、距離を詰める。プレシオの首がもたげられ、かぱりと口が開いた。刹那、きゅぃんっと口の中に仕込まれた、見覚えのある嫌な光が、モニターを白く染める。損傷を受けて、外装がびしびしと水圧に揺れたが、何とか耐えた。
「よし、剛装アクチュエータ起動」
その勢いに乗り、薙が静かに自分の機体能力を起動させた。うぃぃぃんっとパワーが注ぎ込まれ、レーザークローが一段と輝く。その一撃が音もなく水中を切り裂き、プレシオサウルスのボディへと命中していた。だが、残った一匹と手負いは、このまま戦っているよりはと、アジの方へと方向を変える。
「こちらアジ班。外装の脱ぎ捨てにより、生きたミサイルに鳴っている模様!」
そこへ、YURINEがそう報告してきた。どうやら、短期決戦とは行かない模様。
「包囲はだいぶ狭まってる。藍紗、上から回り込んで。B班はそのまま追い立てて下さい」
「レーダー情報を送ります。増援に注意してください」
水上の藍紗へ、目標の状況をリンクさせる桜子。それを受け取った藍紗は、足場となる船から出発しながら、ぼそりと呟いた。
「追い込み、じゃな」
漁的な意味で、である。
追いついた桜子が、アジ班の応援に入る為、エキドナを発射したのが皮切りだった。次いで、ホールディングミサイルが、薙のテンタクルス改から発射される。レーザクローはもう少し追撃し泣ければ無理そうだが、練力に自身がない。その進行方向は、学園の旧校舎がある方向だ。
「敵の目的は‥‥監視と囮? いや、学園の施設かしら‥‥。あれは‥‥糸を引いているのがいるのかもしれません‥‥」
ならば、その報告が届く前に、撃破するまで。薙が、ら剛装アクチュエータBを起動して追撃を試みた刹那である。
「こちらにも見えた。出来るだけ近くに集まるのじゃ」
藍紗が上から攻撃してきた。前後左右上から攻撃を受け、アジ達がグルグルと渦を巻く。行き場をなくして暴走しないよう、YURINEが撮影システムを使いながら、掃討にかかるよう告げた。
「ふむ‥‥。そういえば、今年はまだ秋刀魚を食べていなかったな‥‥。今夜は塩焼きにしようか」
「‥‥残念、育ちすぎ。食べられないわ」
藍紗にYURINEさんがそう答えていた。アジを狙うカツオのように、ぐるぐると回りこむと、うっと惜しいと思ったのか、首長竜の口内砲がかぱりとひらいた。
「邪魔じゃ、そこの首長竜!」
発射までにはまだ間がある。エアステップを使い、水上を滑るように水音を蹴立てる藍紗。その隙間から、ぶしゅうっと攻撃の弾が飛んで行く。プレシオが首を曲げ、対プレシオの視界からそれた。その刹那、リョウが懐か、ベヒモスの一撃を叩き込む。
「輝け蒼き燐光、カンパリオンスーパーファイナルクラッシュ!」
「藍紗、爆雷投下!」
YURINEが双方安全な地域にいるのを確認しつつ、合図を送る。藍紗の機体から、投下されたそれは、ぶしゅうっと水面すれすれを飛び、辺りを炎の華に染め上げる。
「プレシオ、撃破したでー。1匹は、深く潜られてしもうたが」
と、水中用ガウスガンでトドメを刺してきた桜花が、妙な報告をしてきた。
「間違えてフレア弾持ってきちゃった‥‥」
藍紗の装備スロット画面には、しっかりはっきり『爆雷が装備されていません』と映っているのだった。
アジの群れの殆どを撃破し、プレシオも2匹は海の藻屑にした後、皆でデータの検証へと入る事になった。
「さて、敵の意図する所はなんだったんやろか」
「偵察、いや囮‥‥。いずれにしろ、狙いが学園施設である事は、間違いないようです」
桜花にそう答えるYURINE。アジも、プレシオも、攻撃を仕掛けた後は、一直線にグリーンランド方面を目指していた。出発地点は旧校舎だと予想される。それに、薙がはたと気付く。
「もしかしたら、移送してくる捕虜を狙ったのかもしれません」
何でも、捕らえたハーモニウムの処分をめぐり揉めに揉めていると聞いた。聖那に確かめれば、すぐにわかる事だ。
「捕虜‥‥ハーモニウム、ですか。でも、やつらは所詮ワーム。ハーモニウムが目的ではないと思うのですわ」
その聖那は、普段の天然ぶりからはちょっと予想が出来なかった厳しい一言を言ってくる。
「そこまでを期待しているわけじゃないけど、気をつけておいたほうが良いかと」
ルナフィリアも、慎重に扱う事を告げる。「考えておきましょう」と答える聖那の裏に、どこか底知れない『怖さ』を感じながら。