●リプレイ本文
その谷間には、強烈なアルコールの匂いが漂っていた。入り口には、KVが配置され、傭兵達が守りについていた‥‥筈なのだが。
「な、なんだ? この未知なる香りは‥‥なのである」
バリケード兼砲台として、現地に持ち込まれた美紅・ラング(
gb9880)のスピゴー。防備についている傭兵の中で、未成年は彼女だけである。
「ああ、何と言う運命の采配でありましょうか〜」
もっとも、そのセリフは、思いっきり棒読みだったり。それもそのはず、目の前には生身組として参加していたメディウス・ボレアリス(
ga0564)が、盛大な高笑いを響かせていたのだから。
「クックックッ! カーッカッカッカッ!! 足りん! 足りんぞ! 我を潰したければこの3倍は持って来い!」
バリケードの上で、ふんぞり返っているメディさん。ビデオカメラにワインとハムを持ち込んじゃった彼女は、アルコールブレスにやられたUPC兵から、やんやの喝采を浴びていた。
「これ、どうしましょうか‥‥」
「さぁ。もう少し様子を見ていた方が良いのかもしれないのである」
八尾師 命(
gb9785)にそう答える美紅。宴会とか始めそうな勢いの酔っ払いな皆さんに、正直近寄れないご様子。そこへ、きしゃあと牙を剥き、食いつこうとするキメラ蛇達に、メディは持ち込んだビデオカメラを回している。
「出てきたな。状況は理解している。成すべき事もな」
資料提出用に用意したものだが、メディさんは気の向くまま、興味の向くままに、撮影していたり。
「そう思うんなら、手伝ってください〜」
「折角の良い気分なのだ。興の向くままに戯れても良いだろう」
泣きそうな顔で訴えてくる命に対し、メディさんは、にやりと笑い、向かってくる蛇キメラをエネルギーガンで相手している。だがそんな2人に、蛇キメラがかぱりと口を開き、真っ白い蒸気のようなブレスをお見舞いしてきた。
「う〜‥‥何故か悲しくなってきましたよ〜‥‥」
顔を真っ赤にして、おめめをうるうるさせる命。どうやら彼女は酔っ払うと泣き上戸になるらしい。
「は、早く横になりたいです。ごめんなさい〜」
それでも、自分の作業をはじめる命。なんだか謝り倒しながら、電波増強を行っている。その様子に、やっぱり生来の無表情な美紅が、怪訝そうに首をかしげた。
「いったい何だったのでありますか? 今のは」
彼女もまた、思いっきりブレスをかぶったはずである。だが、通信画面越しの彼女は、変わっているようには見えない。
「ジョ二〜、美紅は軍人をやめるぞー」
どうやら、顔にこそ出ていないが、思いっきり酔っ払っているようだ。そりゃあ持ち込んだスピリットゴーストは、バリケードの代わりだし、動くわけに行かなかったわけで。
「うむ。こうなってしまっては仕方がない。まぁとりあえず飲め」
唯一冷静だったのは、既に最初っから酔っ払っているメディである。相変わらず酒を酌み交わしながら、目の前に広がる惨状を面白がって観察ちゅう。
「ふえ〜ん、どうしましょう〜」
泣きながら、超機械を出してくる命さん。美紅はと言うと、機体冷却機がごんごんと盛大に稼働率を上げている状態。そこへ、ざまぁとばかりに、ワームがキメラを率いてばさりとその翼を羽ばたかせる。
「折角なんで、こいつを試してみるか」
と、メディさん。適当に持って来たハムを口に放り込みながら、その手にした超機械のスイッチを入れる。べりべりと謎の怪電波が走り、ワームの攻性操作を食らわせようとした。
「あれ?」
だが、蛇型と言うからには、完全な機械ではないのだろう。ばさりと羽ばたいた翼は、その操作を受け付けない。どうやら、あのアルコールブレスは、生体パーツから放たれているようだ。
「えぇい、だったらこっちを使うだけだ!」
きしゃああっとキメラに吼えられて、慌てて対象をごく普通のHWへと移すメディさん。さすがに、1人では上手く行かないようだった。
さて、その頃。増援要請を受けた傭兵達は、急ぎ現地へと向かっていた。
「それにしても、狭いなー」
龍深城・我斬(
ga8283)が周囲をカメラアイで見回しながら、そう言った。谷は両側にKVが並んでやっとの幅しかない。距離はまだあるので、ハイジャンプは出来そうだったが、着地地点の保障は出来なかった。
「バリケードの前には出れそうですけど、がーくん、酔っ払って私達を踏み潰さないでね?」
「わかってる。なるべく踏まないように注意しなきゃな。行くぞ」
ベルティア(
ga8183)にそう答え、我斬の機体から、ぶしゅうっとブースターが吹かされる。人が飛び上がるのと同じ様に深く膝が折られ跳ね上がり、直後、キメラの群れの中へと落下する。だが、踏み潰されたキメラから、ぶしゅっと血飛沫の代わりに、アルコールが飛び散った。
「酒臭ぇ‥‥うぇ、気持ち悪‥‥っ!」
ブレスは、その後ろに居た武藤 煉(
gb1042)と諌山美雲(
gb5758)、煌・ディーン(
gc6462)をも巻き込んでいた。酒の飲めない煉は、早速青い顔をしている。
「凄いアルコール臭ですね‥‥」
酔わないと豪語する美雲でさえ、その匂いに顔をしかめていた。その姿に、命が赤い顔で泣き出しながら、かけよってくる。
「ああ〜‥‥味方ですよぉ〜‥‥ヒック」
合流するつもりのようだ。が、酔っ払った状態では、その足元もおぼつかない。
「あーあ、相当酔っ払ってるなぁ。大丈夫か?」
「こんな頼りない人間でぇ‥‥グスッ‥‥ごめんなさいぃ〜‥‥」
バリケードを盾にするだけの判断能力はまだ残っているし、超機械の援護もやってはいるのだが、酔った人特有の危うさで、あまり効果を発揮しているとは言い難い。
「いやいや。こんなときこそ、俺の愛機ゼファーの出番だしな!」
自身のKVを盾にされつつ、そう答えるディーン。狭い谷なので、3機も入ればもう満車である。
「これじゃ動けないな‥‥。汚す心配はないかもしれないが」
酔払い運転は避けたいディーン。新品のKVにつけるシートでもって、汚さないようにカバーはしてきたものの、この狭い地形では、そこまでシェイクされるような動きにはならないかもしれない。いや、出来ないと行ったほうが正しいだろう。
「お酒は弱い方ではないと思うのだけれど、少し不安ね」
そこへ、えぐえぐと泣きじゃくりながら合流してくる命。ベルディアガそんな彼女よしよしと宥め、救急セットで二日酔いの薬を渡していた。
「酒はそれなりに飲めるし、回復させる手段も持っている。大丈夫だ」
練力の消費は激しいが、その分効果はあるはず。そう思い、我斬はファランクスのトリガーを引いた。そこへ、悲鳴と引き換えに、キメラのブレスが吐きかけられる。
「ぐはぁぁぁぁっ。ダメだこれ‥‥」
煉もまた、先手必勝とばかりに、ツインブーストBで突っ込んできた。狭い空間で、ぎぃぃんっとナックルが蛇型ワームに突っ込む。しかし、目の回る状況に、狙いが定まっていない。
「思ったよりカオスになっているわね」
生身で合流したベルディアは、そのままアルコール供給源となっているキメラへと向う。デヴァステイターではらちが開かないと、ヒベルティアがお見舞いされている辺り、彼女も相当酔っているようだ。
「細かい戦略とかしらねーぞ? あと、足もとよけとけよっ!」
同じ様に、がりがりとディーンが遠距離用のレーザーライフルをお見舞いしながら、距離を詰めて行く。どのワームが硬いなんて予想はつかなかったが、何度もきり付ければ、装甲位はげるだろう。
「く、錬力切れか‥‥」
もっとも、そんな無謀な攻撃をして居ると、あっという間に燃料切れ起こして、地上で戦わざるを得なくなるのだが。
「うりょ〜、あれ? ここ、は? 確か町が焼けて、俺りぇはなにもできにゃくれ‥‥こりぇは、ればー、ぼたん、めーたー?」
一方、我斬の記憶はお酒のせいで、傭兵になる前まで戻っている。がちゃがちゃと動かされたKVが、不思議なダンスを踊っていた。
「やべぇ、思いっきり泥酔してるじゃねぇかっ。うあー、気持ちわりぃ‥‥」
顔を引きつらせ、吐き気に耐える煉。元々、エチケット袋は常備しているが、正直使いたくにゃい。その理由は、バリケードにいるスピリットゴーストだ。
「ツインブーストは‥‥フェニックスのオーバーブーストよりも胃にクるな、こりゃ‥‥」
ちらりと、視線をモニターに向ける。現地にいるKVのパイロットリストが表示される一番上に、美紅の顔が映っていた。
「くそっ‥‥今此処で色んなもんぶちまけたら、俺はその代わりに色んなもんを失っちまう気がする‥‥ッ!」
カノジョに無様な姿は晒したくない。て言うか、買ったばっかの新品オウガにぶちまけるのもヤリタクナイ。
「んじゃ、呑めないと言うのなら無理に飲ませはしないが、代わりに別の事で我を愉しませろ」
「えー。何をしろってんだよ。俺、彼女の前じゃ変な事やりたくねぇぞ」
既に酔っ払っていたメディさんが、酒瓶とカメラとマイクを片手に、錬にこう要求してきた。
「芸だ、芸。色事でも笑い事でも何でも構わん」
折りしも、キメラがまたブレスを吐いている。そのせいで、我斬の記憶はさらに後退してしまったようだ。
「何だあの化け物? っつかなんで俺これ動かしてんだ?何か後ろに人がいて不退転みたいな感じになってるしー? 夢か?それなら知らんものを動かせるのも判る、夢って割とご都合主義だしな」
例え夢でもこれ以上人が死ぬのは見たくない。そう思い、我斬は機体のレバーを前に倒した。機体の動かし方は、カラダが覚えているらしく、つついてきた攻撃はひょいっと避けていた。
「まてい、これいりょうはやらせんりょ、化け物ども〜! ば〜〜にゅかん!」
コクピットで叫ぶ声が、何故か昔見たロボットアニメになっているのは、御愛嬌。
「こらぁ〜、ちゃんとしなさ〜い」
「って、おまえもばけものかぁぁぁ」
使わないと決めたはずのデヴァステイターが、ツッコミ気味にお見舞いされる。装甲がちょぴっと剥げたが、彼のKVにとってはかすり傷だろう。おかげで、我斬にとっては生身の面々もキメラと誤認されてしまったようだ。
「あははは♪ うぉー♪」
そりゃあ、楽しそうに槍を振り回しながら、捕まえたキメラをくるくる振り回しているベルディアさんは、どう見ても傭兵さんには見えない。その様子を見て、後ろにいたはずの美雲まで前に出てきた。
「こうなったら、かららの錆にひてさしあげまふお〜」
回らない舌でそう言いつつ、乙女桜を抜き放って、ダッシュで突撃してくる。だが、立ち上るアルコール臭と、我斬が「めっしゃつ榴だ〜ん!」とか言いながら発射したグレネードが、その足元を狂わせていた。
「はれ? らんか、ぐるぐると目がまわっへ‥‥」
おめめの座って居る美雲さん。攻撃を避けられて、ぷうぷうと頬を膨らませて抗議する。
「られの許可をもらっへ、わらひの攻撃を避けへるのよ!」
「避けるのに許可なんて居るのかよ!?」
酔う前に気持ち悪くなっちゃった煉に突っ込まれ、「何か文句ある?」と睨みつけている。その様子に、めそめそと泣き始める命さん。
「グスッ‥‥私のせいでぇ‥‥ヒック‥‥みんな酷い事にぃ〜‥‥」
それでも、練成治療や弱体を使っている彼女。が、中々効果を発揮しない。
「む‥‥、分身するとは、卑劣れふっ!」
しかも、美雲さん。ふらふらするばかりじゃなくて、視界がぼやけてしまっているらしい。おかげで撃った弾は明後日のほうへとそれていた。
「ね、狙いがさらまりまへん‥‥、ふにゃ‥‥あ」
「う〜‥‥お願いですからぁ‥‥援護させてくださいぃ〜‥‥‥」
弱体をかけている命のおかげで、少しかすったくらいでも、アルコール引火を起こすようにはなっているのだが、そのせいで、谷の気温は少しずつ上昇していたのだ。
「‥‥‥‥暑い」
ぼそりと、美雲がそう言って、上着に手をかける。その様子に、メディさんがぐいんとカメラを向けた。
「良いぞー。脱げ脱げ〜! 我も付き合おう〜」
人に脱がしておいて、自分は服を着たままなのは申し訳ないと思ったのか、メディさんも白衣をばさりと脱ぎ捨てる。
「らんだ。ぬいでいいんら。わーい、脱ぐ脱ぐ〜」
「それなら美紅も脱ぐのであります〜」
それを皮切りに、美雲さんは上着をほっぽりだしていた。
「俺1人じゃなんだな。お前も脱げ脱げ〜」
しかも、たちが悪いのか、白衣を脱いだだけのメディさんに、絡んできた。が、彼女はにやりと笑うと、唯一残ったディーンの下着に手をかける。
「良いぜー。って、まだ脱がすもんがあるようだなぁ」
「わぁぁ、下は脱がすなぁぁ!」
絡んだつもりが絡まれたらしい。なんなら挟んでやろうか? と、意味深なお誘いをしつつ、彼女は美紅を指し示す。
「あっちの雛っ娘はちゃんと脱いでるぞー」
見れば、空調をがんがんに上げていた美紅さんも、服から何からをコクピットに放り出している。
「ディキシィを聞かせてやるぜい」
古い軍歌を外部音声機で盛大に流しはじめる美紅さん。
「って、わ! 美紅! 使い方間違ってる!」
人呼んで歌うバリケード状態の彼女を、煉が慌てて止めていた。見れば彼女は、大砲を棍棒の様に振り回している。そして、それを避けたキメラに、今度はロケット砲をほぼゼロ距離でぶっ放していた。
「うるさいでありますよ〜。あー、これじゃたりないであります〜」
もはやキメラもワームもへったくれもない状態で、ついでにKVの装甲まで脱衣して、投擲武器のように投げつける。
「って、コラァ! アンスコまで脱ぐんじゃねぇ!」
その様子に、煉が慌てて通信機をたたっきった。代わりにモニターに浮かんだのは、『しばらくお待ちください』の文字。
「うぇぇぇぇ」
「はーくーなーーー!」
その間に様子を見に来た煉が、思いっきりエチケット袋の代わりにされていた。ぼろくそにされちゃった煉の機体をげしっと踏みつけつつ、我斬が頭のネジがぶちきれた状態で、暴れ続けている。
「ぶっとべ、超絶剛拳〜!!」
「‥‥あ。すっぽ抜けちゃった」
その衝撃ですっ転んだ美雲の乙女桜が、キメラの最後の一匹を、突き倒していた‥‥。
戦闘終了後。
「何で私、肩からタオルを掛けられてるの?」
「あれ? 何でここで寝てたんでしょうか〜?」
目を覚ました命が、首をかしげている。見れば、美雲にも、大きなバスタオルがかけられていた。
「よし、飲み直しだ! つぶれるまで呑むぞ!」
「おし、付き合うぞねーちゃん」
だが、最初から酔っていたメディさんと准将は、顔色1つ変えず、避難の終わった元避難所で、打ち上げと称した飲み会に向っている。
「余り気にしない方が良いですよ‥‥」
その様子に、ベルディアさんはやや呆れながらも、キュアをかけてくれるのだった。