●リプレイ本文
何はともあれ、鯛キメラの様子を確かめる事になった。
「ここにはちょっくら問題のある奴も多いからな‥‥」
(なるほど。お爺様ったら、本当は敵に囲まれたカラスさんが心配なんですね‥‥保護を頼むなんて‥‥もおっ!ツンデレなんだからっ)
天野 天魔(
gc4365)がちょうどビーコンと水中用装備を用意しているところだ。丸腰ではない事に、ちょっと安心する浮月ショータ(
gc6542)。そのまま腰をくねくねしてる彼。
そんな状態で、彼らが向かったのは『解凍室』とかかれたお風呂。そこへ、いかにも勇者っぽい青い鎧を身につけたジリオン・L・C(
gc1321)が、ずかずかと入って行く。しかし、反応はない。
「カラスは入浴中だったか! ‥‥最近寒いしな! ‥‥俺も入るぞ!」
「って、ジリオンさんちょっと‥‥!」
ソウマ(
gc0505)の弁なんか聞いちゃしねぇ。そのまま、がらっと扉を開けて、ジャンピング脱衣。
「とぉーう!! 俺様はジリオン! ラヴ! クラフトゥ!! 未来の! 勇者だ!!」
しゅたっとカラスの前に現れる。そして、無駄に白い歯をキラーんと輝かせ、自信たっぷりに親指を立てた。
「釣りスキルは、小銭稼ぎに有効なスキルだと聞いた! ならば勇者たる者、釣りスキルを磨かねばなるまい‥‥!」
きりっとドヤ顔するジリオン、背中に、魚キメラにバッテンがついて、経験値と書いてある。
文字数の都合上割愛するが、決め台詞をばっちり言い切った後、ポーズをキメ、どや顔されて、唖然としているのは、カラスの方である。
「いやー、最近さむいものなー‥‥歴戦の肉体に、染み入りわたるぜ‥‥」
問いただす彼だったが、ジリオンはまったく気にせず、作法通り賭け湯から始めていた。そのままふつーに風呂に入っている彼に、カラスは顔を引きつらせながら、首をかしげる。
「そーじゃなくて。なんだって君はこんな所に‥‥」
「実はな。この歴戦の勇者は、困ったタイを釣り上げると言うミッションに飢えていてだな!」
そう言うと、ジリオンはカラスに、鯛キメラの事について、かくかくしかじか何某と説明する。引きつらせた表情の目が点になった。
「‥‥というわけだ! 手伝え! カラス・バラウ!!」
「と言う事は、君も准将の手先っ!?」
きりっとした表情で、キメ顔しているジリオンに、裸のまま回れ右するカラス。それを、やっぱり裸のまま、彼はキラキラオーラを放って、追いかける。
「望んでエサになってくれたらハッピーだ!」
「ボクはちっともハッピーじゃないっ」
どたどたばしゃばしゃと、洗い場と脱衣所を舞台に、やってはいけない追いかけっこを開始するかと思いきや。
「無理なら、それはしかたないな!」
その後は、体を良く拭いて、装備を確り着込むジリオン。出鼻を挫かれたカラスが、思わず「どこいくねーーん!」とおててを差し出すと、彼はくるっと振り返って、良い笑顔でその手を取った。
「おお。付き合ってくれるか! いざとなったら、コレを魚に噛ませたらいい! そしたら、合図や無線に合わせて俺様が釣りあげてくれよう!」
そして、エサ役のカラスに、自らのシールドを渡す。断固拒否しようとする彼の肩を、ぽむっと叩いたもう1人。
「カラス。物事には、運命と言うものがある」
イレイズ・バークライド(
gc4038)だった。「何を言っているんだよっ」と、ジリオンのシールドもったまま、ぱにくるカラスに、彼は腕を組み、何やら策がある様子で、こう諭してくる。
「まあ要するに‥‥諦めろって事だ。骨は拾ってやるから頑張って生贄になってくれ」
「だが断る!」
勿論、即答する彼。そのまま、マントをバスローブがわりにして出て行こうとする彼の、ずるっと引きずったマントを、イレイズはすかさず引っ張った。
「これは、プロイセンさんからの命令なんですよっ」
「なお悪い!」
びたーんと尻餅をついて、乙女が見てなくてよかったね的な危険部位をさらす中、ソウマが突きつけたのは、准将からかっぱらった命令書。が、カラスは断固拒否。
「えぇい、こうなったら!」
業を煮やしたソウマは、そう言うと、隠密潜行で距離をつめ、豪力発現で無理やり押さえ込む。不意をついた格好となったカラスに、為す術はない。
「僕もこんなことはしたくないんですが‥‥、恨むんなら、こんな依頼をした貴方の上司を恨んで下さいね」
もっとも、ソウマは爽やかな笑顔で、不本意さなんぞ欠片も無かったり。
「おのれ准将ゆるすまじ‥‥」
この一件で、カラスが准将の弁に反対するようになったのは、言うまでもない。
バグアシューターことショルター・ペンウッド(
gc6814)曰く。
「いやー。釣りをするのも、久しぶりですね」
イギリス何部の生まれな彼、おそらく幼少の折は執事教育の一貫として、釣りの素養も叩き込まれたのだろう。確かに、執事に忍耐は必要だ。
「カラス、まずは急いでこれを着けてくれ」
ショルターが竿を握る中、天魔がライフジャケットとビーコンを渡している。拉致同然に引きずられたカラスは、その自慢のボディをウェットスーツに包んだ彼に、天魔はこう告げた。
「いいか? 綱を三回引いたら引き上げてやる。では、作戦開始!!」
準備が終ったと見た彼は、そのまま問答無用で、カラスを海の中に突き落とす。悲鳴を上げてどぼーんっと水柱を上げていた。
「行くぞ! 釣りタイムだ!」
「おう。槍投げなら任せろ!」
ジリオンが力強く竿を振り回し、イレイズがタモ網の要領で、槍を構える。地堂球基(
ga1094)が周囲を確かめていた。
(鯛が水上に上がってくる事はなさそうだな‥‥)
水中にいると報告されているゴーレムは、見つかれば明らかに難敵だろう。注意深くその動きを観察する地堂。
「勇者、フラァッシュ!!」
「うぉ、まぶしいっ!?」
そこへ、ジリオンがぺっかりと光を放った。見慣れないスキルに、ショータが問いかける。
「解説の准将。今のはいったい!?」
「うむ。いわゆるGoodLuckだ! ちょっぴり幸せになるぞ!」
そういえば、ソウマも倍の錬力をかけて、運を引き寄せていた気がする。だが、見た目にはこちらのほうが、ずっと派手だった。
「うおおお!! 新、勇者の必殺技‥‥! 勇者・釣り!!!」
ぶんぶんと振り回される竿。その無駄に体力を消費しそうな振りっぷりに、ショータは天魔と共にモニターを確かめる。
「この場合、引っ掛け釣りのタイプになるんでしょうか」
「ああ。カラス、聞こえるか?」
その先では、カメラを仕込まれた水中装備のカラスがいた。既に諦めちゃったようで、ダイビングの様相を呈しながら、愛用の槍を銛に変えて、岩陰から鯛の姿を追っていた。
「ばっちりですけどね。さて、どれから引っ掛けるんです?」
「誘導する。こっちへ」
天魔はそう言うと、命綱を引く。そちらへ向かえば良いらしい。
「骨は拾ってやるから、頑張って生贄になってくれ。海面には氷が張ってるか?」
「いえ。このあたりは廃熱パイプの影響で、比較的暖かいようです」
カラスが水上に顔を向けると、キラキラと水面が輝いて見えた。モニターの水温を見てみると、しっかりはっきりプラスである。それでも、潜水時間は10分が限度と言ったところだろう。それ以上になったら、氷をぶち抜いてでも助ける必要がある。と、そうイレイズが考えてた刹那だった。
「ヒットしたみたいですよ。引きずり上げてください!!」
ショータがけたたましく鳴り響くビーコンに、警戒の声を上げる。見れば、モニターの中で、追いかけられているカラスが見えた。
「こっちだ! 陸地に上げてしまえば、皆で戦える! 袋小路には気をつけて!」
「カラス、捕まれ!」
地堂が、廊下の扉を開けた。ショータが撒き餌のカラスが陸に上がる時間を稼ぐ為、電波を増幅し、その間に天魔が彼をかばう。水温5度の冷たさに身を振るわせつつ、カラスが暖房の効いた建物内に滑り込むと、その直後に鯛が追ってきていた。
「とりゃああっ!」
イレイズが、スマッシュを応用して、槍を投げつける。ぶすりと刺さったそれを腕に巻きつけ、彼はそれを反対側に思いっきり引っ張っていた。
「よぉし。これで串刺しにしてバーベキューだ!」
反対側に身をよじらせた鯛に、今度はジリオンが剣を突き刺す。楽に倒したいらしい。
「あーあ。せっかくだから、綺麗な身を食べたかったのにー」
ショルターが残念そうに言った。瞬天速で距離をつめ、疾風脚上乗せで、その頭部を狙う。確か、活け締めは最初に棍棒でぶん殴ると聞いた覚えがあった。じたばたと暴れる鯛が、イレイズの巻きつけた縄を引っ張る。ぐいと引き寄せられかけて、イレイズはその場に踏ん張って耐えていた。
「力勝負だな。鯛ごときに負けるつもりはない」
「援護します!」
ばしばしと、ショータが練成強化をかけてくれる。ソウマがミスティックTで援護してくれた。
「おりゃあああああ!」
「フィイィィィィィィッシュ!!」
そんな強化を受けた2人がかりで押さえつけられ、鯛がアワレにも切り身になったのは、それから間もなくの事。
「よぉし、新鮮な食材。ゲットだぜ」
「‥‥後でドラゴンにならないと良いですけど」
ソウマのどっかでみたガッツポーズに、ショルターはぼそり不吉な一言を添えるのだった。
その頃、調査組はと言うと。
「目撃記録があったのは、このあたりか‥‥」
地堂が周囲を見回すのは、廃熱パイプから伸びた排水エリアだ。少し破壊されており、そこから中の様子が見えていた。
「これは‥‥冬眠施設?」
ショータが見れば、カプセルのようなベッドが4つ、円形に並んでおり、中央に制御施設のようなものが見えている。
「電力の供給を見ると、ここは昔バグアの設備だったのかもしれないな。見てみろ」
「この紋章は‥‥」
しかも、その台座には、見覚えのある紋章が刻まれていた。既に、電力は失われており、その施設事態は動いていないようだが、それ以外の施設は元々人類側の研究施設だったらしく、まだ電源が生きている。
「使えるモンは何でも使おうって魂胆が見えやがる。誰だ? こんな事考えやがったのは」
「‥‥いずれにしろ、最悪ですね。配管を修復すれば、何とか出来るかと思ったのですが」
イレイズの見た目では、ここが人間側ではなく、バグア側の人間が使用した施設に見える。ショータが、そのカプセルから伸びるパイプを見てみたが、さすがのサイエンティストも、さっぱりわからない。
「止まれ。ここから先は危険だ。見てみろ」」
と、そこへ地堂が一行を止めた。見れば、破壊されたプールの入り口に、何か高温で溶かしたような跡がある。
「ゴーレムの足跡?」
「ああ。おそらく准将が見つけていた監視だろう。近くにいるかもしれない」
周囲を見回す地堂。しかし、その気配はない。慎重に回りを確認している中、ショータが中の機器を確かめ、こう言った。
「‥‥こちらの機器に、接続した後があります。准将、覚えはありますか?」
『いや、そこはまだ触っていない。飯食った後、バラす予定だったんだが』
どうやら、部屋を見つけてはいたらしい。鍋を食い終わってから、仕事に取りかかる予定だったが、その前にバグアの手におちたと言った所か。
「何か、わからないのか?」
『‥‥痕跡は残っている筈だ。端末に繋げてこっちに送ってくれ』
イレイズが尋ねると、ジジィはデータを転送するように告げる。ショータが手際よくその作業を終えると、ジジィが鍋の出来た事を告げるのだった。
結局、キメラ独特の臭みは、ソウマが持ち込んだ数々の調味料でタレを作り、それで食べようと言う事になったらしい。見ると、無残な姿になったキメラの骨が転がっている。
「ではこれを。僕はまだ未成年ですから飲めませんけどね」
ショルターが差し出したのは鍋にはつきものの日本酒だ。
「それに、准将も息抜きが必要でしょうし、せっかくおいしい鍋ができるんですから。成人に達している方も飲まれたらいいかと思いますよ」
「僕は遠慮するよ」
そのまま鍋を拒否ろうとするカラスの口に、その一升瓶の口がきゅぽっ放り込まれた。「えい」と傾けるショルター。わたわたと抵抗する間もなく、そのままラッパ飲み。
「ふふ。‥‥うるさそうなカラスさんには、こうして酔わせてしまえばいいんですよ」
「おーい、そいつ未成年だぞー‥‥」
ジジィがぼそっと重要な事を口にする。見てみれば、IDカードには17歳と書いてある。
「事故だから、寝かしとけ。お、戻ってきたな」
「鍋か!やはり、冬は鍋がいいな!じーさーーーん!酒だ!」
きゅぴーんっと出来上がってきた鍋に目を輝かせるジリオン。それを見て、イレイズが持ってきた酒を注いでくれる。次いで、准将にも。
「まぁ、以前の礼だ」
「んぁ? 俺ぁ助力要請に従っただけだが」
やはり覚えてはいないらしい。いや、気にしていないだけともとれるが。返杯をしようとするジジィに、イレイズはその手を押し止める。
「いや、俺はいらん。飲めないしな」
「そうか。じゃ、勿体無いからありがたく頂くとしようぜ。そこの勇者サマと」
「おう。勝利の美酒に酔おうぞ‥‥!!」
既に、鍋側に来ていた勇者サマが、外に来ていたゴーレムを完全に頭の外にして、鍋に挑んでいる。
「で、大丈夫そうなのか?」
「うむ。アレを見てみろ」
天魔が疑わしげに言うと、ジジィはずずずっと味見をしながら、ソウマを指し示す。そこでは、料理評論家のように、味について長々とコメントしている彼の姿があった。長いので割愛するが、キメラを食べて腹を下した者とは、違うようだ。
「何しろ、以前にも見ているからな‥‥」
「大丈夫だ。俺も山ほどやってる」
懲りない、ジジィ。その様子に、天魔はウォッカを取り出して、箸をつける。
「やれやれ。まぁ、のた打ち回っていないし、アルコールで消毒すれば大丈夫だよな‥‥」
口にしてみると、多少肉が硬く大味だが、濃いソースとあわせると、ご飯が進む品だ。
「‥‥やばい、凄く美味い。おかわりはあるか?」
「本当ですか? 本当に大丈夫なんですよね?」
大丈夫そうな天魔を観察し、ショータがそう確かめた。なにしろ、初めてのキメラ料理だ。警戒するのも仕方がない。
「おう。普通に鯛シャブだぜ?」
「そうですか。では、いただきまーす」
ジジィの様子が変わらない事を確かめて、ようやく手を付けるショータ。そうして、一行が鍋に手を付けていると、ジジィがぼそりとこう言った。
「‥‥そうそう。あのデータだがな。面白いもんが残ってたぞ」
いつのまに分析したのか、モニターになにやら表のようなものがあった。それによると、甲斐蓮斗はまだ小学生くらいの頃に強化されたらしい。心も、そのあたりで止まっているのかもしれなかった‥‥。