タイトル:【極北】エビタイマスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/13 23:48

●オープニング本文


 旧北極基地は、昨年冬の【BV】作戦の際に、参番艦の突撃によって破壊された。しかし、UPC潜水艦隊も、その際に戦力の多くを失い、北極海の掃討を行う事が出来ぬまま、1年。司令部を失いつつも、稼動し続けた生産設備のために、北極の海は再びバグアの勢力が増しつつある。幸か不幸か、自動施設であろう工場の位置は敵の密度から容易に推測が可能であり、極地の海、あるいは氷に閉ざされた島の設備への攻撃命令が下された。

 あったかいものが食べたい。
 それは体の冷えた人間、誰しもが考える欲求である。
 科学的にどうのこうのとか言う無粋な事は置いといて、そう思っている面々がいた。
「寒い」
 キャスター・プロイセン。通称ジジィである。一応階級准将な筈だが、工場と思しき一端が見つかった為、グリーンランドへ出張していた。
「当たり前じゃないですか。ここは極寒の地ですよ。お外はマイナス20度なんですよ?」
 偵察担当だったらしいカラスの案内で来たそこは、既に廃棄された場所なのかもしれない。人用の施設なのか、内部は20度と示されており、仕様用途のわからない機器が放置されている。ジジィの役目は、その用途不明の機器を調査する事だ。
「こんな寒いと、年寄りはトイレが近くてのう‥‥」
「都合の良い時だけ、老人にならないでください。昨日だって一升瓶二本開けて、今日普通に起きてきたじゃないですか」
 搬入物を持ってきたカラスがツッコミを入れている。げほげほと老人っぽい咳をしているジジィだが、周囲はとても快適で、老人被害が起きるような場所じゃない。
「そうだったっけ。最近物忘れが酷くてなぁ」
 わざとらしく視線を誤魔化すジジィ。確かに血色もつやつやで、元気そうである。搬入ケースを開くと、対冷凍ビーム用バリアと銘打たれたAUKV用の盾装備やら、UPCに投稿されたAUKVやKVの変換用ジェネレーター等がそこかしこに転がっており、モニター3つ使って埋め尽くされた傭兵達からの投稿データと相まって、どこを見ても死にそうなご老体には見えなかった。
「誤魔化しても、あったかくなんかなりません。て言うか、なったら困ります」
「ちぇー。しかし、帰っても軍の支給食じゃ、脳みそのパワーにもならん。どうにか出来ないかなー」
 老人ごっこを辞めて、プリントアウトされた設計案をチェックするジジィ。その腹がぐぐぅとなった。同じく、カラスの腹も盛大に音を立てている。食料として運びこまれたのは、軍用の保存食だ。当然、味は保障していない。
「この辺の特産とはいえ、飽きましたねぇ」
「海老じゃあ、鍋にならねぇよなぁ‥‥」
 食料が芳しくないのは、どこも同じだ。グリーンランドでは、大戦の前からエビがよく獲れる為、それを加工しての軍用食なのだが、ジジィとカラスの舌には合わないようで。
「よし、こうしよう」
 ぽんっと手を打ったジジィが、引っ張り出してきたのは、どこから調達してきたのか、謎の釣竿である。その先には、ぺこぺこと光るビーコンになっており、AUKVの上からも付けられる仕様になっていた。
「ましゃか‥‥」
 にやーりと笑ったジジィが、カラスへとにじり寄る。ぺとっとそのビーコン付けられたカラスの襟首を、ジジィがはっしと掴んだ。
「キメラの餌は人間様だろ。覚悟決めて、餌になりやがれっ」
「冗談じゃないですよ。餌になるのは海老だけで充分ですっ」
 さすがに前線に出る方と出ない方じゃ、素早さが違うと言うもの。素手攻撃を避けて、ダッシュで逃げるカラス。
「ふふん。地球防衛組のハカセを舐めんなよ。こう言う時に備えて、捕獲用具は揃えてあんだ」
 だが、ジジィは慌てず騒がず謎の超機械スイッチを入れた。それには、先程カラスにつけておいたガイドビーコンと同じ点滅が、ぴこぴこ瞬いている。しかも、横には小さな映像モニターまで完備していた。
「まったく。油断も隙もないなー」
 ぶつくさ言いながら、廊下を歩くカラス。気温はその先にもずっと平穏に保たれており、その先には、いくつかの小部屋が見えていた。
「どうもここは、保管用の施設と言った所か‥‥。まだ稼動してるし‥‥」
 その一画には、温浴施設のマークが描かれていた。廃熱を利用したそこは、まるでかけながしの温泉のように、洗い場と脱衣所、湯船が存在していた。
「調べてみるか。寒かったし」
 そう言う割には、ニヤリと笑顔で上着に手をかけた。鏡に映る自分に決めポーズをしつつ、湯殿と思しき扉をくぐって行く。当然の用に入浴準備を整えちゃうカラスに、倫理シールを貼りながら、ジジィは鍋の材料になりそうなキメラを物色開始。
「うっし、これだな」
 ちょうど、海側に流す廃熱パイプの外側に、キメラが多数現れて危険なので、何とかしてくれと言う依頼が乗っている。映像データを再生すると、そこにはたくさんの魚型キメラが映っていた。
「美味そうだなー。タイしゃぶあたりが適当か。ん‥‥?」
 にやにやと豪華食材としてキメラを見ていたジジィの表情が少し厳しくなる。養殖の水槽がごとき光景の向こうに、見覚えのあるシルエットが浮かんでいたから。
「ハーモニウムの解凍施設か? いや、稼動していると言う事は、未だ目的があって使用中‥‥。ち、風呂場のカラス以外の戦力もってくりゃよかったか‥‥」
 確かに、チューレ・バグア軍も戦力糾合の動きを見せており、事態が競争の低を示している事を、聖那から聞いていた。
 しかも、魚キメラと謎のゴーレムがいるのは、まったく偶然にも、カラスが入浴なうなお風呂の真下だ。

『寒いから、鍋食うぞ! 餌のカラスを捕まえて、美味しい鍋用キメラを確保してこいっ!』

 当初と趣旨が変わっているのは、気にするな。

●参加者一覧

地堂球基(ga1094
25歳・♂・ER
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
イレイズ・バークライド(gc4038
24歳・♂・GD
天野 天魔(gc4365
23歳・♂・ER
浮月ショータ(gc6542
20歳・♂・ST
ショルター・ペンウッド(gc6814
15歳・♂・GP

●リプレイ本文

 何はともあれ、鯛キメラの様子を確かめる事になった。
「ここにはちょっくら問題のある奴も多いからな‥‥」
(なるほど。お爺様ったら、本当は敵に囲まれたカラスさんが心配なんですね‥‥保護を頼むなんて‥‥もおっ!ツンデレなんだからっ)
 天野 天魔(gc4365)がちょうどビーコンと水中用装備を用意しているところだ。丸腰ではない事に、ちょっと安心する浮月ショータ(gc6542)。そのまま腰をくねくねしてる彼。
 そんな状態で、彼らが向かったのは『解凍室』とかかれたお風呂。そこへ、いかにも勇者っぽい青い鎧を身につけたジリオン・L・C(gc1321)が、ずかずかと入って行く。しかし、反応はない。
「カラスは入浴中だったか! ‥‥最近寒いしな! ‥‥俺も入るぞ!」
「って、ジリオンさんちょっと‥‥!」
 ソウマ(gc0505)の弁なんか聞いちゃしねぇ。そのまま、がらっと扉を開けて、ジャンピング脱衣。
「とぉーう!! 俺様はジリオン! ラヴ! クラフトゥ!! 未来の! 勇者だ!!」
 しゅたっとカラスの前に現れる。そして、無駄に白い歯をキラーんと輝かせ、自信たっぷりに親指を立てた。
「釣りスキルは、小銭稼ぎに有効なスキルだと聞いた! ならば勇者たる者、釣りスキルを磨かねばなるまい‥‥!」
 きりっとドヤ顔するジリオン、背中に、魚キメラにバッテンがついて、経験値と書いてある。
 文字数の都合上割愛するが、決め台詞をばっちり言い切った後、ポーズをキメ、どや顔されて、唖然としているのは、カラスの方である。
「いやー、最近さむいものなー‥‥歴戦の肉体に、染み入りわたるぜ‥‥」
 問いただす彼だったが、ジリオンはまったく気にせず、作法通り賭け湯から始めていた。そのままふつーに風呂に入っている彼に、カラスは顔を引きつらせながら、首をかしげる。
「そーじゃなくて。なんだって君はこんな所に‥‥」
「実はな。この歴戦の勇者は、困ったタイを釣り上げると言うミッションに飢えていてだな!」
 そう言うと、ジリオンはカラスに、鯛キメラの事について、かくかくしかじか何某と説明する。引きつらせた表情の目が点になった。
「‥‥というわけだ! 手伝え! カラス・バラウ!!」
「と言う事は、君も准将の手先っ!?」
 きりっとした表情で、キメ顔しているジリオンに、裸のまま回れ右するカラス。それを、やっぱり裸のまま、彼はキラキラオーラを放って、追いかける。
「望んでエサになってくれたらハッピーだ!」
「ボクはちっともハッピーじゃないっ」
 どたどたばしゃばしゃと、洗い場と脱衣所を舞台に、やってはいけない追いかけっこを開始するかと思いきや。
「無理なら、それはしかたないな!」
 その後は、体を良く拭いて、装備を確り着込むジリオン。出鼻を挫かれたカラスが、思わず「どこいくねーーん!」とおててを差し出すと、彼はくるっと振り返って、良い笑顔でその手を取った。
「おお。付き合ってくれるか! いざとなったら、コレを魚に噛ませたらいい! そしたら、合図や無線に合わせて俺様が釣りあげてくれよう!」
 そして、エサ役のカラスに、自らのシールドを渡す。断固拒否しようとする彼の肩を、ぽむっと叩いたもう1人。
「カラス。物事には、運命と言うものがある」
 イレイズ・バークライド(gc4038)だった。「何を言っているんだよっ」と、ジリオンのシールドもったまま、ぱにくるカラスに、彼は腕を組み、何やら策がある様子で、こう諭してくる。
「まあ要するに‥‥諦めろって事だ。骨は拾ってやるから頑張って生贄になってくれ」
「だが断る!」
 勿論、即答する彼。そのまま、マントをバスローブがわりにして出て行こうとする彼の、ずるっと引きずったマントを、イレイズはすかさず引っ張った。
「これは、プロイセンさんからの命令なんですよっ」
「なお悪い!」
 びたーんと尻餅をついて、乙女が見てなくてよかったね的な危険部位をさらす中、ソウマが突きつけたのは、准将からかっぱらった命令書。が、カラスは断固拒否。
「えぇい、こうなったら!」
 業を煮やしたソウマは、そう言うと、隠密潜行で距離をつめ、豪力発現で無理やり押さえ込む。不意をついた格好となったカラスに、為す術はない。
「僕もこんなことはしたくないんですが‥‥、恨むんなら、こんな依頼をした貴方の上司を恨んで下さいね」
 もっとも、ソウマは爽やかな笑顔で、不本意さなんぞ欠片も無かったり。
「おのれ准将ゆるすまじ‥‥」
 この一件で、カラスが准将の弁に反対するようになったのは、言うまでもない。

 バグアシューターことショルター・ペンウッド(gc6814)曰く。
「いやー。釣りをするのも、久しぶりですね」
 イギリス何部の生まれな彼、おそらく幼少の折は執事教育の一貫として、釣りの素養も叩き込まれたのだろう。確かに、執事に忍耐は必要だ。
「カラス、まずは急いでこれを着けてくれ」
 ショルターが竿を握る中、天魔がライフジャケットとビーコンを渡している。拉致同然に引きずられたカラスは、その自慢のボディをウェットスーツに包んだ彼に、天魔はこう告げた。
「いいか? 綱を三回引いたら引き上げてやる。では、作戦開始!!」
 準備が終ったと見た彼は、そのまま問答無用で、カラスを海の中に突き落とす。悲鳴を上げてどぼーんっと水柱を上げていた。
「行くぞ! 釣りタイムだ!」
「おう。槍投げなら任せろ!」
 ジリオンが力強く竿を振り回し、イレイズがタモ網の要領で、槍を構える。地堂球基(ga1094)が周囲を確かめていた。
(鯛が水上に上がってくる事はなさそうだな‥‥)
 水中にいると報告されているゴーレムは、見つかれば明らかに難敵だろう。注意深くその動きを観察する地堂。
「勇者、フラァッシュ!!」
「うぉ、まぶしいっ!?」
 そこへ、ジリオンがぺっかりと光を放った。見慣れないスキルに、ショータが問いかける。
「解説の准将。今のはいったい!?」
「うむ。いわゆるGoodLuckだ! ちょっぴり幸せになるぞ!」
 そういえば、ソウマも倍の錬力をかけて、運を引き寄せていた気がする。だが、見た目にはこちらのほうが、ずっと派手だった。
「うおおお!! 新、勇者の必殺技‥‥! 勇者・釣り!!!」
 ぶんぶんと振り回される竿。その無駄に体力を消費しそうな振りっぷりに、ショータは天魔と共にモニターを確かめる。
「この場合、引っ掛け釣りのタイプになるんでしょうか」
「ああ。カラス、聞こえるか?」
 その先では、カメラを仕込まれた水中装備のカラスがいた。既に諦めちゃったようで、ダイビングの様相を呈しながら、愛用の槍を銛に変えて、岩陰から鯛の姿を追っていた。
「ばっちりですけどね。さて、どれから引っ掛けるんです?」
「誘導する。こっちへ」
 天魔はそう言うと、命綱を引く。そちらへ向かえば良いらしい。
「骨は拾ってやるから、頑張って生贄になってくれ。海面には氷が張ってるか?」
「いえ。このあたりは廃熱パイプの影響で、比較的暖かいようです」
 カラスが水上に顔を向けると、キラキラと水面が輝いて見えた。モニターの水温を見てみると、しっかりはっきりプラスである。それでも、潜水時間は10分が限度と言ったところだろう。それ以上になったら、氷をぶち抜いてでも助ける必要がある。と、そうイレイズが考えてた刹那だった。
「ヒットしたみたいですよ。引きずり上げてください!!」
 ショータがけたたましく鳴り響くビーコンに、警戒の声を上げる。見れば、モニターの中で、追いかけられているカラスが見えた。
「こっちだ! 陸地に上げてしまえば、皆で戦える! 袋小路には気をつけて!」
「カラス、捕まれ!」
 地堂が、廊下の扉を開けた。ショータが撒き餌のカラスが陸に上がる時間を稼ぐ為、電波を増幅し、その間に天魔が彼をかばう。水温5度の冷たさに身を振るわせつつ、カラスが暖房の効いた建物内に滑り込むと、その直後に鯛が追ってきていた。
「とりゃああっ!」
 イレイズが、スマッシュを応用して、槍を投げつける。ぶすりと刺さったそれを腕に巻きつけ、彼はそれを反対側に思いっきり引っ張っていた。
「よぉし。これで串刺しにしてバーベキューだ!」
 反対側に身をよじらせた鯛に、今度はジリオンが剣を突き刺す。楽に倒したいらしい。
「あーあ。せっかくだから、綺麗な身を食べたかったのにー」
 ショルターが残念そうに言った。瞬天速で距離をつめ、疾風脚上乗せで、その頭部を狙う。確か、活け締めは最初に棍棒でぶん殴ると聞いた覚えがあった。じたばたと暴れる鯛が、イレイズの巻きつけた縄を引っ張る。ぐいと引き寄せられかけて、イレイズはその場に踏ん張って耐えていた。
「力勝負だな。鯛ごときに負けるつもりはない」
「援護します!」
 ばしばしと、ショータが練成強化をかけてくれる。ソウマがミスティックTで援護してくれた。
「おりゃあああああ!」
「フィイィィィィィィッシュ!!」
 そんな強化を受けた2人がかりで押さえつけられ、鯛がアワレにも切り身になったのは、それから間もなくの事。
「よぉし、新鮮な食材。ゲットだぜ」
「‥‥後でドラゴンにならないと良いですけど」
 ソウマのどっかでみたガッツポーズに、ショルターはぼそり不吉な一言を添えるのだった。

 その頃、調査組はと言うと。
「目撃記録があったのは、このあたりか‥‥」
 地堂が周囲を見回すのは、廃熱パイプから伸びた排水エリアだ。少し破壊されており、そこから中の様子が見えていた。
「これは‥‥冬眠施設?」
 ショータが見れば、カプセルのようなベッドが4つ、円形に並んでおり、中央に制御施設のようなものが見えている。
「電力の供給を見ると、ここは昔バグアの設備だったのかもしれないな。見てみろ」
「この紋章は‥‥」
 しかも、その台座には、見覚えのある紋章が刻まれていた。既に、電力は失われており、その施設事態は動いていないようだが、それ以外の施設は元々人類側の研究施設だったらしく、まだ電源が生きている。
「使えるモンは何でも使おうって魂胆が見えやがる。誰だ? こんな事考えやがったのは」
「‥‥いずれにしろ、最悪ですね。配管を修復すれば、何とか出来るかと思ったのですが」
 イレイズの見た目では、ここが人間側ではなく、バグア側の人間が使用した施設に見える。ショータが、そのカプセルから伸びるパイプを見てみたが、さすがのサイエンティストも、さっぱりわからない。
「止まれ。ここから先は危険だ。見てみろ」」
 と、そこへ地堂が一行を止めた。見れば、破壊されたプールの入り口に、何か高温で溶かしたような跡がある。
「ゴーレムの足跡?」
「ああ。おそらく准将が見つけていた監視だろう。近くにいるかもしれない」
 周囲を見回す地堂。しかし、その気配はない。慎重に回りを確認している中、ショータが中の機器を確かめ、こう言った。
「‥‥こちらの機器に、接続した後があります。准将、覚えはありますか?」
『いや、そこはまだ触っていない。飯食った後、バラす予定だったんだが』
 どうやら、部屋を見つけてはいたらしい。鍋を食い終わってから、仕事に取りかかる予定だったが、その前にバグアの手におちたと言った所か。
「何か、わからないのか?」
『‥‥痕跡は残っている筈だ。端末に繋げてこっちに送ってくれ』
 イレイズが尋ねると、ジジィはデータを転送するように告げる。ショータが手際よくその作業を終えると、ジジィが鍋の出来た事を告げるのだった。

 結局、キメラ独特の臭みは、ソウマが持ち込んだ数々の調味料でタレを作り、それで食べようと言う事になったらしい。見ると、無残な姿になったキメラの骨が転がっている。
「ではこれを。僕はまだ未成年ですから飲めませんけどね」
 ショルターが差し出したのは鍋にはつきものの日本酒だ。
「それに、准将も息抜きが必要でしょうし、せっかくおいしい鍋ができるんですから。成人に達している方も飲まれたらいいかと思いますよ」
「僕は遠慮するよ」
 そのまま鍋を拒否ろうとするカラスの口に、その一升瓶の口がきゅぽっ放り込まれた。「えい」と傾けるショルター。わたわたと抵抗する間もなく、そのままラッパ飲み。
「ふふ。‥‥うるさそうなカラスさんには、こうして酔わせてしまえばいいんですよ」
「おーい、そいつ未成年だぞー‥‥」
 ジジィがぼそっと重要な事を口にする。見てみれば、IDカードには17歳と書いてある。
「事故だから、寝かしとけ。お、戻ってきたな」
「鍋か!やはり、冬は鍋がいいな!じーさーーーん!酒だ!」
 きゅぴーんっと出来上がってきた鍋に目を輝かせるジリオン。それを見て、イレイズが持ってきた酒を注いでくれる。次いで、准将にも。
「まぁ、以前の礼だ」
「んぁ? 俺ぁ助力要請に従っただけだが」
 やはり覚えてはいないらしい。いや、気にしていないだけともとれるが。返杯をしようとするジジィに、イレイズはその手を押し止める。
「いや、俺はいらん。飲めないしな」
「そうか。じゃ、勿体無いからありがたく頂くとしようぜ。そこの勇者サマと」
「おう。勝利の美酒に酔おうぞ‥‥!!」
 既に、鍋側に来ていた勇者サマが、外に来ていたゴーレムを完全に頭の外にして、鍋に挑んでいる。
「で、大丈夫そうなのか?」
「うむ。アレを見てみろ」
 天魔が疑わしげに言うと、ジジィはずずずっと味見をしながら、ソウマを指し示す。そこでは、料理評論家のように、味について長々とコメントしている彼の姿があった。長いので割愛するが、キメラを食べて腹を下した者とは、違うようだ。
「何しろ、以前にも見ているからな‥‥」
「大丈夫だ。俺も山ほどやってる」
 懲りない、ジジィ。その様子に、天魔はウォッカを取り出して、箸をつける。
「やれやれ。まぁ、のた打ち回っていないし、アルコールで消毒すれば大丈夫だよな‥‥」
 口にしてみると、多少肉が硬く大味だが、濃いソースとあわせると、ご飯が進む品だ。
「‥‥やばい、凄く美味い。おかわりはあるか?」
「本当ですか? 本当に大丈夫なんですよね?」
 大丈夫そうな天魔を観察し、ショータがそう確かめた。なにしろ、初めてのキメラ料理だ。警戒するのも仕方がない。
「おう。普通に鯛シャブだぜ?」
「そうですか。では、いただきまーす」
 ジジィの様子が変わらない事を確かめて、ようやく手を付けるショータ。そうして、一行が鍋に手を付けていると、ジジィがぼそりとこう言った。
「‥‥そうそう。あのデータだがな。面白いもんが残ってたぞ」
 いつのまに分析したのか、モニターになにやら表のようなものがあった。それによると、甲斐蓮斗はまだ小学生くらいの頃に強化されたらしい。心も、そのあたりで止まっているのかもしれなかった‥‥。